(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
表面側から、第一基材、第一緩衝材、第二基材および第二緩衝材の順に積層され、対向する一対の木口面には雄実および雌実がそれぞれ形成されてなる床材において、雄実および雌実は第二基材の厚さ範囲内に形成され、雌実の下実が上実より長く突出した実形状を有し、上実先端面より突出する下実の突出長が4.0〜8.0mmであり、第二基材は0.6〜1.2N/mm2の剥離強度を有するMDFであり、雄実と雌実を嵌合させた状態において、床材同士の継ぎ目付近の雄実側の床材のみに荷重がかかったとき、床材同士の継ぎ目付近の雌実側の床材のみに荷重がかかったとき、および床材同士の継ぎ目を跨いで雄実側と雌実側の両方の床材に荷重がかかったときのいずれの場合も、継ぎ目部における雄実側と雌実側の床材表面の沈み込み量が略同一となることを特徴とする床材。
【背景技術】
【0002】
床材が敷設された室内で高齢者や障害者などが転倒したときに床材からの衝撃で怪我をする事故が頻発しており、骨折などの重傷を負うケースも多い。このため、転倒の際に床材からの衝撃を小さくするような機能すなわち衝撃吸収性能を持った床材の開発が望まれた。日本建築学会床工事WGの報告によれば、JIS
A 6519の測定方法により測定した最大加速度の値(G値)が100G以下であれば、人間が転倒して頭などを床にぶつけた際であっても怪我を負いにくいものとされている。
【0003】
このような背景から、本出願人は、下記特許文献1〜4において、特定の積層構成を前提として各層の厚さや全体厚に対する割合、アスカーC硬度などを限定することにより、衝撃吸収性能に優れた床材が得られることを開示した。これらの床材は、JIS A 6519に規定される測定方法により測定した最大加速度の値が100Gを十分に下回るものであり、実際に高齢者施設などにおいて使用した場合にも優れた衝撃吸収効果を発揮し、また、車椅子の走行によっても床材の表面や床材木口の実が破損しないことが確認された。
【0004】
これらの従来技術による床材1は、
図1(a)に示すように、表面側から第一基材2/第一緩衝材3/第二基材4/第二緩衝材5の積層構成を有する。本発明の床材も同様にこの積層構成を採用するので、詳しくは本発明の説明において後述するが、第一基材2および第二基材4は、たとえばMDF、HDFなどの木質繊維板、合板、無垢材、積層板、集成材などの木質材からなり、第一緩衝材3には、たとえばエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂発泡体や、合成ゴム、天然ゴムなどのゴム発泡体であって独立気泡タイプのものが用いられ、第二緩衝材5は、たとえばポリウレタン(PU)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂発泡体や、合成ゴム、天然ゴムなどのゴム発泡体からなり、独立気泡発泡体および連続気泡発泡体のいずれであっても良い。
【0005】
床材1の四周において対向する一対の木口面には雄実6および雌実7が形成され、
図1(b)に示すように、隣接して施工される一方の床材1aの雄実6と他方の床材1bの雌実7とを嵌合させて床面が形成される。雄実6および雌実7はいわゆる本実加工によって形成され、雌実7の上実7aと下実7bは実質的に同一の突出長を有する。同図において、第二緩衝材5の厚さ(荷重を受けないときの元々の厚さ)が符号T1で示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような床材であっても、場合によって、重量の大きい配膳車が床材同士の継ぎ目部分を通過したときに、実が破損し、これによって該継ぎ目部分に段差が生ずることで美観が損ねられたり、該段差に歩行者が躓いて転倒する事故を招くことがあった。特に、第二緩衝材5としてアスカーC硬度が30度以下のような軟質の緩衝材を用いた場合に、実の破損が生じやすいものであった。
【0008】
この現象について詳しく検証したところ、次のような事実を確認した。これについて、
図2〜
図4を参照して説明する。
【0009】
まず、配膳車の車輪8が床材1a,1b同士の継ぎ目付近において雄実6側の床材1aのみに載ったときに生ずる現象について、
図2を参照して説明する。この場合、配膳車の荷重を受けて、雄実6側の床材1aの第二緩衝材5が大きく沈み込もうとするが、配膳車の荷重を直接受けない雌実7側の床材1bの第二緩衝材5には大きな沈み込みは生じない。このため、雄実6側の床材1aにおいて第二緩衝材5の大きな沈み込みに伴って下方に移動しようとする雄実6の下面に接する雌下実7bが荷重に耐えることができず、その付け根部分に水平方向の亀裂9aが入る。このとき、雌実7側の床材1bにおいて亀裂9aが入った雌下実7bは第二緩衝材5を圧縮させてそこにめり込んだ状態になるが、亀裂9aが入った一部を除けば、雌実側の床材1bの第二緩衝材5は元々の厚さT1を維持するので、雌実7側の床材1bの床面にはほとんど沈み込みが生じない。しかしながら、雄実6側の床材1aにおいては、第二緩衝材5を大きく圧縮させた状態で雄実6が下方に移動しているので、第二緩衝材5の厚さがT2(T2<<T1)に圧縮され、雄実6側の床材1aの床面がその差分(T1−T2)だけ沈み込むことになる。
【0010】
一旦亀裂9aが発生すると、配膳車の車輪8が通過した後も、雄実6側の床材1aは沈み込んだままになり、雌実7側の床材1bとの間に段差S1が生じ、歩行時の躓きの原因となる。配膳車の車輪8が通過して荷重がなくなると、第二緩衝材5はその弾性で元の厚さaに向けて徐々に厚さを増していくが、これによって仮に段差Sが一旦解消したとしても、このとき、雄実6は、亀裂9aが入った雌下実7bから離れた(浮いた)状態になっているため、荷重(歩行などによる比較的小さな荷重であっても)がこの部分に作用すると沈み込んでしまい、段差S1が生じる。この場合は、歩行者は直前まで段差S1を発見できないので、沈み込んだままの状態になっているよりもむしろ危険性が大きいとも言える。
【0011】
次に、配膳車の車輪8が床材1a,1b同士の継ぎ目付近において雌実7側の床材1bのみに載ったときに生ずる現象について、
図3を参照して説明する。この場合、配膳車の荷重を受けて、雌実7側の床材1bの第二緩衝材5が大きく沈み込もうとするが、配膳車の荷重を直接受けない雄実6側の床材1aの第二緩衝材5には大きな沈み込みは生じない。このため、雌実7側の床材1bにおいて、沈み込みの小さい雄実6との嵌合部より下方にある部分(雌下実7bおよび第二緩衝材5)は配膳車の荷重を受けて大きく沈み込もうとするのに対し、雄実6との嵌合部より上方にある部分(雌上実7a、第一緩衝材3および第一基材2)は雄実6によって沈み込みを規制されるため、雌上実7aの付け根部分に水平方向の亀裂9bが入る。亀裂9bが入ることにより、雌実7側の床材1bが捲れ上がり、雄実6側の床材1aとの間に段差S2が生じ、歩行の際の躓きの原因となる。
【0012】
次に、配膳車の車輪8が床材1a,1b同士の継ぎ目部分で雄実6側の床材1aと雌実7側の床材1bに跨って載ったときに生ずる現象について、
図4を参照して説明する。この場合、該継ぎ目部分において床材1a,1bの第二緩衝材5が共に大きく沈み込むことになるので、
図2および
図3の場合のように雌実7の付け根に亀裂9a,9bが生ずることはないが、配膳車の車輪8が床材1a,1b同士の継ぎ目部分を通過するときに、それ以前およびそれ以降と比べて特に大きな沈み込みが生ずるので、操作者に大きな違和感を与えてしまう。
【0013】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、重量の大きい配膳車が床材同士の継ぎ目部分を通過したときであっても、雌実の破損を防止して該継ぎ目部分に段差が生じることを防止し、該段差による美観の低下や、歩行者が躓いて転倒する事故を未然に防止すると共に、配膳車の操作を違和感なくスムーズにすることができるような新規の手法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するため、本発明者らが様々な実験を重ねた結果、出願人が先に提案した特許文献1ないし4に記載される積層構成を有する床材において、雌実の下実を上実より長く突出させた実形状を採用することにより、重量の大きい配膳車が床材同士の継ぎ目部分を通過したときであっても、雌実の下実や上実の付け根部分に亀裂が生ずることを防止することができることを知見し、この知見に基いてさらに試験考察を行なった結果、本発明を完成するに至ったものである。
【0015】
すなわち、請求項1に係る本発明は、表面側から、第一基材、第一緩衝材、第二基材および第二緩衝材の順に積層され、対向する一対の木口面には雄実および雌実がそれぞれ形成されてなる床材において、雄実および雌実は第二基材の厚さ範囲内に形成され、雌実の下実が上実より長く突出した実形状を有し、上実先端面より突出する下実の突出長が4.0〜8.0mmであり、第二基材は0.6〜1.2N/mm
2の剥離強度を有するMDFであり、雄実と雌実を嵌合させ
た状態において、
床材同士の継ぎ目付近の雄実側
の床材のみに荷重がかかったとき、
床材同士の継ぎ目付近の雌実側
の床材のみに荷重がかかったとき、および
床材同士の継ぎ目を跨いで雄実側と雌実側の両方
の床材に荷重がかかったときのいずれの場合も、
継ぎ目部における雄実側と雌実側
の床材表面の沈み込み量が略同一となることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表面側から第一基材/第一緩衝材/第二基材/第二緩衝材の積層構成を有する床材において、その対向する一対の木口面に形成される雄実および雌実の実形状として、雌実の下実を上実より長く突出させた実形状が採用されているので、重量の大きい配膳車が床材同士の継ぎ目部分を通過したときであっても、雌実の下実または上実の付け根部分に亀裂が発生して該継ぎ目部分に段差が生じることを防止することができる。したがって、該段差に歩行者が躓いて転倒することを未然に防止することができ、特に高齢者施設などにおいて需要の大きい衝撃吸収フロアとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図5を参照して、本発明による床材の構成について説明する。本発明による床材10は、
図5(a)に示すように、表面側から第一基材2/第一緩衝材3/第二基材4/第二緩衝材5の順に積層されてなる積層構成を有する。この積層構成は、特許文献1ないし4に記載の従来技術による床材1の積層構成(
図1(a))と同じであり、各層は同一の符号で示されている。床材10の四周において対向する一対の木口面には雄実6および雌実7が形成され、
図5(b)に示すように、隣接して施工される一方の床材10aの雄実6と他方の床材10bの雌実7とを嵌合させて床面が形成される。
【0021】
第一基材2は、たとえばMDF、HDFなどの木質繊維板、合板、無垢材、積層板、集成材などの木質材からなり、その表面には任意に化粧紙、突板、オレフィンシートなどの合成樹脂シートなどによる化粧シートが貼着される。また、第一基材2の表面、あるいは該表面に貼着された化粧シートの表面に任意塗装を施すことができる。塗装は、防滑性能を有する防滑性塗料を用いて行うことが好ましい。
【0022】
第一基材2の厚みは0.5〜1.5mmであることが好ましい。この厚みが0.5mm未満では表面強度が弱く、衝撃を受けた際に破損したり凹みが発生しやすくなる。1.5mmより厚くなると、裏面に積層される第一緩衝材3の衝撃吸収性能が損なわれる。
【0023】
第一緩衝材3には、たとえばエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂発泡体や、合成ゴム、天然ゴムなどのゴム発泡体であって独立気泡タイプのものを用いる。この床材1の製造工程において第一基材が第一基材および第二基材と加圧接着される際に、接着剤が第一緩衝材3の内部に浸透した状態で圧縮されてしまうと、第一緩衝材の厚みや硬度が大きく変化して床材全体としての厚さや硬度の精度が損なわれると共に、第一緩衝材による衝撃吸収性能が大幅に低下してしまうが、第一緩衝材3として独立気泡発泡体を用いることにより、第一緩衝材の厚みや硬度が実質的に維持され、床材の精度や第一緩衝材による所期の衝撃吸収性能を損なうことがない。
【0024】
第一緩衝材3の厚みは0.5〜2.5mmであることが好ましい。この厚みが0.5mm未満では衝撃吸収性能が不十分となり、床の硬さ試験において100G以下の値を得ることが困難になる。2.5mmより厚くなると、第一基材2が衝撃を受けた際に第一基材2が深く撓むことになり、第一基材2が割れやすくなる。
【0025】
第一緩衝材3として用いられる独立気泡発泡体の発泡倍率は5〜30倍程度であることが好ましい。発泡倍率が30倍を越えると柔らかくなりすぎてしまい、荷重を受けたときの沈み込みが大きくなって歩行時に不快感を与える。また、人が転倒した場合に第一基材2から受ける衝撃を十分に緩衝することができず、転倒した人の頭などがその下層の第二基材4に強く打ち付けられる危険性がある。一方、発泡倍率が5倍を下回ると硬すぎるものとなって衝撃吸収性能が低下する。これらの要因から、第一緩衝材3の発泡倍率は5〜30倍であることが好ましく、より好ましくは8〜15倍である。
【0026】
第一緩衝材3として用いられる独立気泡発泡体はアスカーC硬度が20〜70度であることが好ましい。アスカーC硬度が20度未満であると、荷重を受けたときの沈み込みが大きくなって歩行時に不快感を与える。また、人が転倒した場合に第一基材2から受ける衝撃を十分に緩衝することができず、転倒した人の頭などがその下層の第二基材4に強く打ち付けられる危険性がある。一方、アスカーC硬度が70度より大きくなると緩衝材として硬すぎるものとなって衝撃吸収作用を十分に発揮することができない。これらの要因から、第一緩衝材3のアスカーC硬度範囲は20〜70度であることが好ましく、より好ましくは35〜60度である。
【0027】
第二基材4は
MDFからなる。MDFは全方向に大きな曲げ強度を発揮し、雄実6と雌実7(上実7a,下実7b)の破損を防止する効果に優れているので、これらの実が形成される第二基材4をMDFで形成することが好ましく、特に、後述するように、0.6〜1.2N/mm
2の剥離強度を有するMDFが
用いられる。
【0028】
第二基材4には、施工時に隣接する床材と嵌合する実(雄実、雌実)が四周木口面に形成されることから厚みを大きく取る必要があり、たとえば5.0〜10.0mmの厚みとする。厚みが5.0mm未満ではこの厚み範囲に実を形成することが困難となる。10.0mmより厚くなると、床材全体の厚みが大きくなりすぎてしまい、衝撃吸収性能を必要としない部屋との床施工高さに段差が生じやすくなる。
【0029】
第二緩衝材5は、たとえばポリウレタン(PU)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレン(PE)、塩化ビニル(PVC)などの合成樹脂発泡体や、合成ゴム、天然ゴムなどのゴム発泡体からなり、独立気泡発泡体および連続気泡発泡体のいずれであっても良い。また、第二緩衝材5の裏面には防水または防湿シートが貼着されることが好ましい。
【0030】
第二緩衝材5の厚み(荷重を受けないときの元々の厚さ)は、3.0〜5.0mmであることが好ましい。この厚みが3.0mm未満では衝撃吸収性能が不十分となり、床の硬さ試験において100G以下の値を得ることが困難になる。5.0mmより厚くなると、床材全体の厚みが大きくなりすぎてしまい、衝撃吸収性能を必要としない部屋との床施工高さに段差が生じやすくなる。また、柔らかすぎて歩行時の沈み込みが大きくなり、不快感を与える。
【0031】
第二緩衝材5として用いられる発泡体の発泡倍率は5〜30倍程度であることが好ましい。発泡倍率が30倍を越えると柔らかくなりすぎてしまい、荷重を受けたときの沈み込みが大きくなって歩行時に不快感を与える。また、第二緩衝材5は実が形成される第二基材4の裏面に貼着されるので、第二基材4が沈み込むと隣接する床材と嵌合している実が破損する危険性がある。一方、発泡倍率が5倍を下回ると硬すぎるものとなって衝撃吸収性能が低下してしまう。これらの要因から、第二緩衝材5の発泡倍率は5〜30倍であることが好ましく、より好ましくは15〜25倍である。
【0032】
第二緩衝材5にはアスカーC硬度が1〜30度のものを用いることが好ましい。アスカーC硬度1度未満の第二緩衝材5を用いると、柔らかすぎて歩行時の沈み込みが大きくなり、不快感を与えるので、現実的ではない。一方、アスカーC硬度が30度より大きくなると、緩衝材として硬すぎるものとなって衝撃吸収作用を十分に発揮することができない。これらの要因から、第一緩衝材3のアスカーC硬度範囲は1〜30度であることが好ましく、より好ましくは3〜25度である。
【0033】
本発明による床材10は、従来技術による床材1と同じ積層構成を有するが、第二基材4に形成される実形状が異なっている。すなわち、従来技術による床材1では、雌実7の上実7aと下実7bが同一突出長に形成されている(したがって、雄実6としてみれば、その上辺6aと下辺6bもこれら突出長と同一長さを有するように形成されている)のに対し、本発明による床材10では、雌実7の下実7bが上実7aより大きく突出した(したがって、雄実6としてみれば、その上辺6aより下辺6bが後退した)実形状を有する。一例として、上実7aの突出長L1(=雄実6の上辺6aの長さ)が4.0mmであるのに対し、下実7bの突出長L2(=雄実6の下辺6bの長さ)が8.5mmに形成され、上実7aより4.5mm(=L2−L1)突出した実形状が採用される。
【0034】
このような実形状を採用した本発明の床材10a,10b同士の継ぎ目近くにおいて雄実6側の床材10a上に配膳車の車輪8が載ったときの状態が
図6(a)に示されている。荷重を受けて雄実6側の床材10aの第二緩衝材5が大きく沈み込んで元々の厚さT1より小さい厚さT3に圧縮されるが、大きい突出長L2を有する雌実7の下実7bによって荷重が分散されるため、その沈み込み量は従来技術による床材1の場合の沈み込み量に比べて小さくなる(T3<T2)。したがって、この沈み込みに伴う雌実6への応力も小さくなり、雌実7側の床材10bの第二緩衝材5もほぼ同寸法だけ圧縮されて厚さT3となるので、従来技術について
図2を参照して説明したような亀裂9aは生じない。すなわち、両床材10a,10bの沈み込み量が略同一になるので、両者の継ぎ目部分に段差が生ずることがなく、歩行者の躓きの原因が解消される。
【0035】
図6(a)の状態から、配膳車が通過して床材継ぎ目部分への荷重がなくなると、雄実6側の床材10aの第二緩衝材5も、雌実7側の床材10bの第二緩衝材5も、元の厚さT1に復元して
図6(b)の状態となる。両床材の継ぎ目部分に段差は存在しないので、歩行者が躓くことはない。
【0036】
床材10a,10b同士の継ぎ目近くにおいて雌実7側の床材10b上に配膳車の車輪8が載ったとき(図示せず)は、荷重を受けて雌実7側の床材10bの第二緩衝材5が沈み込もうとするが、大きい突出長L2を有する雌実7の下実7bによって荷重が分散されるため、その沈み込み量は従来技術による床材1の場合の沈み込み量に比べて小さくなる。したがって、従来技術について
図3を参照して説明したような亀裂9bが生じることがなく、両者の継ぎ目部分に生ずる段差が生ずることがなく、歩行者の躓きの原因が解消される。
【0037】
また、床材10a,10b同士の継ぎ目部分で両床材に跨って配膳車の車輪8が載ったとき(図示せず)も、第二緩衝材5の沈み込み量が小さくなるので、配膳車の走行を違和感なくスムーズにすることができる。
【0038】
次に、上述の作用効果を最大限に発揮させるための条件を確認するために行なった試験およびその結果について説明する。本発明は、既述したように、重量の大きい配膳車が床材同士の継ぎ目部分を通過したときであっても、雌実の破損を防止して該継ぎ目部分に段差が生じることを防止し、該段差に歩行者が躓いて転倒する事故を未然に防止することを目的とするが、配膳車の車輪が床材同士の継ぎ目を走行する場合に床材に作用する荷重を考えると、(1)雄実側の床材のみに車輪が載る場合と、(2)両方の床材に跨った状態で車輪が載る場合と、(3)雌実側の床材のみに車輪が載る場合と、の3通りがある。したがって、これらの各場合において、従来技術による床材(雌実7の上実7aと下実7bが同一突出長に形成される実形状を有する床材)と、本発明による床材(雌実7の下実7bが上実7aより突出した実形状を有する床材)の両方について変位量(沈み込み量)を測定する試験を行なった。
【0039】
表1は上記試験における荷重載荷位置を示す。すなわち、(1)の場合は載荷ピンの右側面を床材同士の継ぎ目に略一致させた載荷位置、(2)の場合は載荷ピンの中心を床材同士の継ぎ目に略一致させた載荷位置、(3)の場合は載荷ピンの左側面を雄実6の先端面に略一致させた載荷位置に、直径25mmの円柱状載荷ピンを配置した。載荷ピンによる荷重を0.4N/mm
2、1.20N/mm
2および2.0N/mm
2の3通りに変え、各場合における床材1,10の変位量(沈み込み量)を測定した。
【0041】
なお、0.4N/mm
2(4kg/cm
2)の荷重は、日本人男性の平均体重に近い体重70kgの人が片足でつま先立ちしたときに床材にかかる荷重に相当し、1.2N/mm
2(12kg/cm
2)の荷重は、日本人男性の平均体重に近い体重70kgの人が重量20kgの車椅子(前輪2個、後輪2個)に乗ったときに1個の車輪から床材にかかる荷重に相当し、2.0N/mm
2(20kg/cm
2)の荷重は、重量300kgの配膳車(車輪6個)の1個の車輪から床材にかかる荷重に相当する。
【0042】
この試験に使用した床材1,10は、いずれも、第一基材2がMDF(1.0mm厚、密度0.85g/cm
2)、第一緩衝材3が10倍発泡EVAフォーム(エチレン酢酸ビニル共重合体フォーム、1.2mm厚、アスカーC硬度20度)、第二基材4がMDF(6.8mm厚、密度0.84g/cm
2、剥離強度0.8N/mm
2)、第二緩衝材5が20倍発泡ウレタンフォーム(4.0mm厚、アスカーC硬度6度)の積層構成を有するものとした。
【0043】
実形状については、雌実7の上実7aの突出長L1を4.0mmとしながら、雌実7の下実7bの上実7a先端からの突出長(L2−L1)を0〜10mmの範囲内で1mm刻みで変化させて、該突出長と沈み込み量の関係を確認した。突出長0mmは上実7aと下実7bの突出長が同一である従来技術による床材1である。
【0044】
この試験結果が表2に示され、またグラフとして
図7に示されている。いずれの場合も、従来技術による床材1に比べると、本発明による床材10の方が変位量が小さい。特に、
図7(b)から明らかなように、荷重が床材同士の継ぎ目部分において両方の床材に跨った状態で車輪が載った場合(2)には顕著な相違が見られ、荷重が大きくなるほど変位量の差も拡大する傾向にあることが分かる。前述したように、本発明による床材10は従来技術による床材1と同じ積層構成を有し且つ各層の材質や厚みも同じであるから、この効果の相違はもっぱら実形状の相違に起因するものであり、本発明の効果が実証された。
【0046】
また、
図7から明らかなように、荷重がいずれの場合であっても、突出長(L2−L1)を0から徐々に大きくしていくと、4.0mmになったときに沈み込み量が顕著に減少する効果が得られるが、さらに突出長を延長させても沈み込み量はほぼ横ばいであって、沈み込み量を減少させる効果が大きく向上することはなかった。この結果から、上実7aの先端からの下実7bの突出長は4.0mm以上とすることが好ましいことが確認された。また、この突出長が8.0mmを越えると、既設床材1aの雄実6の下方に下実7bを挿入して床材1bを施工しようとする際に下実7bの先端が引っ掛かって折れやすくなり、取扱に注意が必要となって施工性が低下する。また、輸送の際にも下実7bの破損が生じやすくなる。このため、下実7bの突出長の上限は8.0mmとすることが好ましい。すなわち、上実7a先端からの下実7bの突出長(L2−L1)の範囲は4.0〜8.0mmとすることが好ましい。
【0047】
さらに、配膳車の車輪1個(載荷荷重50kg,直径100mm,幅32mm)を床材同士の継ぎ目を中心にして左右150mmずつ全幅300mmの範囲内を繰り返し走行させ、往復回数1〜1000回までは100回ごとに、2000〜10000回までは1000回ごとに中断して、目視で実の破損の有無を確認した。試験体は、上記と同様に、雌実7の下実7bの上実7a先端からの突出長(L2−L1)を0〜10mmの範囲内で1mm刻みで変化させると共に、第二基材4を構成するMDFについて剥離強度を0.40〜0.80N/mm
2の範囲では0.1N/mm
2ずつ、0.80〜1.40N/mm
2の範囲では0.20N/mm
2ずつ変化させて、該突出長および第二基材4の剥離強度が実破壊に及ぼす相関関係を検証する試験を行なった。
【0048】
この試験結果が表3に示されている。雌実7の下実7bの上実7a先端からの突出長(L2−L1)が3mm以下であると、第二基材4のMDFの剥離強度を1.00N/mm
2以上にしないと10000回の往復走行による繰り返し荷重に耐えることができずに下実7bが破損するが、該突出長を4.0mm以上にした試験体にあっては、第二基材4のMDFの剥離強度を0.60N/mm
2以上にすれば10000回往復走行による繰り返し荷重にも耐えて下実7bが破壊しないことが確認された。この結果から、上実7aの先端からの下実7bの突出長を4.0mm以上とすると共に、第二基材4を0.60N/mm
2以上の剥離強度を有するMDFで構成することが、下実破壊を防止する上でより好ましい実施形態となることが確認された。第二基材4のMDFの剥離強度は大きいほど下実7bの破損を防止する効果に優れているが、一般に市販されているMDFの剥離強度は最大で1.20N/mm
2程度であり、下実7bの上実7a先端からの突出長(L2−L1)を4.0mm以上とすれば下実7bの破損を十分に防止することができることがこの試験結果から実証されている。したがって、該突出長を4.0mm以上とすることを前提とした場合の、第二基材4を形成するMDFの剥離強度の好適な範囲は、0.60〜1.20N/mm
2である。
【0050】
なお、これらの試験では、本発明による床材10において雌実7の下実7bが上実7aの先端より突出する突出長(L2−L1)に着目したが、床材表面に作用する荷重を効果的に分散し、これによって第二緩衝材5の沈み込みを小さくし、亀裂9a,9bの発生を防止する上では、下実7bの突出長L2自体もある程度以上であることが好ましい。この点を確認するために、下実7bの突出長L2を様々に変えて同様に試験を行なったところ、下実7bの突出長L2を少なくとも8.0mmとすることにより、上記効果が得られることが確認された。