【実施例1】
【0010】
以下、本発明の実施例1を
図1、
図2、
図4、
図5、
図7、
図8を用いて説明する。
【0011】
図1に本実施例におけるインバータ式流体圧縮装置の全体構成を示す。
図1のインバータ式流体圧縮装置(圧縮装置7)は、主に空気等の流体を圧縮する圧縮機本体1と、圧縮機本体1を駆動するモータ2と、モータ2の回転周波数を制御するインバータ3と、圧縮機本体1により圧縮された空気を貯留するタンク5によって構成される。また、モータ2の回転周波数を制御する指令をインバータ3に送る機能を持つ制御回路4を有している。制御回路4は、モータ2の運転・停止と回転周波数を制御することにより、圧縮機本体1を制御する。タンク5には内部の流体の圧力を検出する圧力センサ6が取り付けられている。圧力センサ6から得られたタンク5内の流体の圧力の情報は制御回路4に伝達される。本実施例による圧縮装置7は上述の通りの構成を有するものである。
【0012】
次に、本実施例における圧縮装置7の制御処理について
図1、
図2を参照しつつ説明する。
図2は本実施例の制御処理を示したフローチャートである。本制御処理はあらかじめ決められたサンプリング周期(例えば200ms)毎に行うものである。
【0013】
ステップ1では、現在のタンク5内の圧力P(t)を一定のサンプリング周期Tsで測定する。
【0014】
次にステップ2では現在圧縮機本体1が停止中であるか否かを判断する。もし、「Yes」と判別された場合はステップ3へ移行する。「No」と判別された場合はステップ12へ移行する。
【0015】
ステップ3では現在の圧力P(t)、1秒前の圧力P(t-1)を用いて数式1でタンク内の圧力変化ΔPを計算する。
(数式1)
ΔP=[P(t)- P(t-1)]
圧力変化ΔPを計算後ステップ4へ移行し、単位時間当たりの圧力変化率Kを計算する。圧力変化率Kは数式2で計算する。
(数式2)
K=ΔP/Ts
ステップ5では、ステップ4で計算した圧力変化率Kがマイナスの値か否か、すなわち圧力が減少しているか否かを判別する。「No」と判別された場合はステップ21へ移行しリターンする。「Yes」と判別された場合はステップ6へと移行する。
【0016】
次のステップ6では、サンプリング周期Tsあたりの使用空気量Quを計算する。使用空気量Quは、差圧ΔP、タンク容積V、時間Tを用いて数式3で計算を行う。ここで、T=1秒とする。
(数式3)
Qu=(592*|ΔP|*V/T)
ステップ7では、ステップ6で計算した使用空気量Quに応じて圧縮機本体1の必要な回転周波数Fnを計算する。回転周波数Fnは換算係数Nを用いて数式4で計算を行う。ここで、Nは定数である。つまり、使用空気量Quが多いほど必要回転周波数Fnは大きい値となる。これにより、通常運転時において、使用空気量が多い場合であってもタンク5内の圧力が低下せず、安定した圧力の空気を供給することが可能となる。なお、回転周波数Fnには所定の下限値が設定されており、使用空気量Quが少なく、数式4で計算した値が所定の下限値よりも少なくなる場合には、Fn=所定の下限値とする。
(数式4)
Fn=N*Qu
次のステップ8では、圧力が復帰圧力まで下降する下降予測時間Tdを計算する。下降予測時間Tdは復帰圧力Pmin、現在の圧力P(t)、圧力変化率Kを用いて数式5で計算を行う。つまり、下降予測時間Tdは復帰圧力Pminと現在の圧力P(t)との圧力差を圧力変化率Kで割った時間である。
(数式5)
Td=(Pmin-P(t))/K
ステップ9では、ステップ8で計算した下降予測時間Tdがあらかじめ決められたTdの閾値(例えば2秒)より小さいか否かを判別する。「No」と判定された場合は、ステップ21へ移行しリターンする。「Yes」と判定された場合はステップ10へと移行する。
【0017】
ステップ10では、圧縮機本体1を起動し、圧縮機本体1の運転状態を起動中と設定する。
【0018】
次のステップ11では、ステップ7で求めた必要な回転周波数Fnと、下降予測時間Tdを用いて数式6に示す目標回転周波数Frefを求め、目標回転周波数Frefで圧縮機本体1を起動する。目標回転周波数Frefは必要回転周波数Fnよりも少ない値である。このため、圧縮機本体1の起動時に急激な回転数変化を抑え、騒音の発生を抑制することができる。
【0019】
このとき、下降予測時間Tdを例えば、サンプリング周期Tsと同じ値である0.2(閾値が2秒の場合の1/10)で割った値でFnを割ることで、必要な回転周波数Fnに到達するまでの回転周波数変化を緩やかにすることが可能である。つまり、必要回転周波数Fnが大きいほど目標回転周波数Frefも大きい値となり、下降予測時間Tdが短いほど目標回転周波数Frefは大きい値となる。また、下記ステップ13〜17で示す通り、目標回転周波数Frefは起動後必要回転周波数Fnに近づくように起動時の値から変化する。なお、目標回転周波数FrefにはFnと同様に所定の下限値が設定されており、数式6で計算した値が所定の下限値よりも少なくなる場合には、Fref=所定の下限値とする。この場合、FrefはFnと同一の値となる。
(数式6)
Fref=Fn/(Td/0.2)
目標回転周波数Frefで起動後、ステップ21へ移行しリターンする。
【0020】
ステップ2で「No」と判定した場合は、ステップ12に移り、圧縮機本体1が起動中か否かを判定する。「No」と判定した場合はステップ19に移行する。「Yes」と判定した場合は、ステップ13へ移る。起動中における目標回転周波数Frefの変化について以下ステップ13〜17で説明する。
【0021】
ステップ13では、現在の圧力P(t)、1秒前の圧力P(t-1)を用いて数式1でタンク内の圧力変化ΔPを計算する。
【0022】
圧力変化ΔPを計算後ステップ14へ移行し、圧力変化率Kを計算する。圧力変化率Kは数式2で計算する。
【0023】
次のステップ15では、圧力が復帰圧力まで下降する下降予測時間Tdを計算する。下降予測時間Tdは復帰圧力Pmin、現在の圧力P(t)、圧力変化率Kを用いて数式5で計算を行う。
【0024】
ステップ16では、ステップ15で求めた下降予測時間Tdと、現在の圧縮機回転周波数Fcと、必要な回転周波数Fnを用いて数式7に示す目標回転周波数Frefを求め、圧縮機本体1の回転周波数を圧縮機回転周波数Fcから目標回転周波数Frefに変更する。このとき、ステップ11と同様に下降予測時間Tdを例えば、サンプリング周期Tsと同じ値である0.2(閾値が2秒の場合の1/10)で割った値で(Fn-Fc)を割ることで、必要な回転周波数Fnに到達するまでの回転周波数変化を緩やかにすることが可能である。つまり、下降予測時間Tdが長い場合、回転周波数変化は緩やかになり、騒音を抑制することが可能となる。一方、下降予測時間Tdが短い場合、速やかに回転周波数を増加させることにより、安定した圧力の空気を供給することが可能になる。
(数式7)
Fref=Fc+((Fn-Fc)/(Td/0.2))
次のステップ17では、現在の圧縮機回転周波数Fcが、必要な回転周波数Fn以上であるかどうかを判定する。「No」と判定した場合は、ステップ21へ移りリターンする。「Yes」と判定した場合は、ステップ18へ移行する。
【0025】
ステップ18では、圧縮機本体1の運転状態を通常運転中と設定し、ステップ21へ移行しリターンする。
【0026】
ステップ12で「No」と判定した場合は、ステップ19へ移り、圧縮機本体1が通常運転中か否かを判定する。「No」と判定した場合はステップ21へ移りリターンする。「Yes」と判定した場合はステップ20へ移る。
【0027】
ステップ20では圧力一定制御、つまり、数式4から使用空気量Quに応じて回転周波数Fnを変更する制御を行い、ステップ21へ移りリターンする。
【0028】
上記の制御によれば、インバータ式圧縮機でON-OFF運転を行う時に、復帰圧力まで到達する前に圧縮機を起動し0.2秒(サンプリング周期Ts)ごとに回転周波数を少しずつ増加させることができる。そのため、タンク内の圧力が復帰圧力以下となることがなく、安定した圧力の空気を供給することができ、急激な回転速度の変化による騒音を低減することができる。
【0029】
また、
図4、
図5を参照しながら、使用空気量が多い場合の本実施例の効果について説明する。
【0030】
ここで、従来技術において、復帰圧力までの予測時間を計算しない場合、使用空気量が多いと、復帰圧力になっときに圧縮機を起動させるため、起動時からしばらくの間タンク内の圧力が復帰圧力未満に低下し、安定した圧力で空気を提供できない可能性がある。
【0031】
また、従来技術において、特許文献1のように、復帰圧力までの予測時間を計算していたとしても、インバータ制御を実施しておらず、圧縮機の起動時に急激に回転周波数を増加させるため、急激に回転周波数が変化し、騒音を抑制することができない。
【0032】
また、仮に従来技術においてインバータ制御を実施したとしても、本実施例とは異なり、回転周波数を少しずつ増加させる制御は行っていない。そのため、使用空気量が多い場合には、圧力を上昇させるために瞬時に回転速度を増加させ、圧力が復帰圧力以上に上昇してしまう。また、その後瞬時に回転速度を減少させるため、急激に回転周波数が変化し、騒音を抑制することができない。
【0033】
具体的に説明すると、従来技術において復帰圧力までの予測時間を計算しない場合、
図4に示すとおり圧力が復帰圧力Ponに達してから起動を開始するため、圧力が復帰圧力以下となってしまう。また、通常運転の回転数にて運転を開始するため、回転周波数が急激に増加する。本実施例によれば、
図5に示すとおり、復帰圧力までの予測時間を計算し、復帰圧力まで低下する前にあらかじめ圧縮機を起動することで復帰圧力を下回らないようにして安定した圧力の空気を供給することができる。
【0034】
次に、
図7、
図8を参照しながら、使用空気量が少ない場合の本実施例の効果について説明する。
【0035】
従来技術において復帰圧力までの予測時間を計算しない場合、
図7に示すとおり圧力が復帰圧力Ponに達してから起動し、急激に回転周波数が増加する。仮にインバータ制御を行っていたとしても、使用空気量が少ない場合、急激に圧力が増加するため、圧力を復帰圧力に戻すために回転周波数を急激に減少させる。このことから、タンク内の圧力が急激に上昇するとともに、回転周波数が急激に変化するため騒音を抑制することができない。本実施例によれば、
図8に示すとおり復帰圧力までの予測時間を計算し、復帰圧力まで低下する前にあらかじめ圧縮機を起動することで復帰圧力を下回らないようにして安定した圧力の空気を供給することができる。また、本実施例では、回転周波数を少しずつ増加させる制御を行っており、回転速度の急激な変化がないため騒音を抑制することができる。
【実施例2】
【0036】
図1、
図3、
図4、
図6、
図7、
図9、
図10を用いて本発明の実施例2を説明する。
【0037】
図1は、本実施例におけるインバータ式圧縮機の全体構成であり、実施例1と同様の構成のため説明を省略する。
【0038】
次に、本実施例の制御処理について
図1、
図3を参照しつつ説明する。
図3は本実施例における制御処理を示したフローチャートである。実施例1と同一のフローについてはその説明を省略する。実施例1と同様に本制御処理はあらかじめ決められたサンプリング周期(例えば200ms)毎に行うものである。
【0039】
本実施例では実施例1に対してステップ8の処理が異なる。
【0040】
本実施例において、ステップ8では、
図10を参照して下降予測時間Tdの閾値(起動タイミング)を決定する。下降予測時間Tdの閾値は、必要な回転周波数Fnを用いて数式8で計算する。ここで、f(Fn)は、Fnに対して単調増加する関数である。つまり、Tdの閾値は、必要な回転周波数Fnに対して単調増加し、使用空気量に対しても単調増加する。
図10に示すとおり、使用空気量(必要回転周波数Fn)に応じTdの閾値(起動タイミング)を変化させることで、使用空気量が多い時は必要回転周波数Fnが増加するため、下降予測時間Tdの閾値が増加し、緩やかに起動する。一方、使用空気量が少ない時はFnが減少するため、下降予測時間Tdの閾値が減少し、起動を遅らせ、復帰圧力付近で圧縮機本体1を運転するようにする。また、数式6、7によって決定される回転周波数FrefはTd閾値が大きいほど小さくなるため、使用空気量が多くなり、必要回転周波数Fnが多くなっても少ない回転周波数Frefで起動させることができる。
(数式8)
Td閾値=f(Fn)
ステップ8以外の処理は実施例1と同様のため説明を省略する。
【0041】
本実施例の効果について説明する。本実施例では使用空気量により起動タイミングを可変とすることで、使用空気量が多い場合でもタンク5内の圧力が復帰圧力以下とならずに、実施例1と比較してさらに安定した圧力の空気の供給が可能となる。さらに圧縮機の急激な回転周波数の変化を抑えることができる。
【0042】
ここから、
図10を参照しながら圧縮機の起動タイミングについて説明する。本実施例によれば、使用空気量が多い場合は、回転速度の急激な変化を抑えるためにTd閾値を増加させることで起動タイミングを早め、少ない回転周波数でゆっくり徐々に起動することができる。使用空気量が少ない時は、起動タイミングが早いと復帰圧力よりも高い圧力で一定かそれ以上の圧力となってしまうため、Td閾値を減少させて起動タイミングを遅くすることで復帰圧力付近での運転を可能とし、電力の低減を図ることができる。
【0043】
上記の圧縮機の起動タイミングの変化を踏まえ、使用空気量に対する本発明の効果について説明する。
【0044】
まず、
図4、
図6を参照しながら、使用空気量が多い場合の本実施例の効果について説明する。従来技術では、
図4に示すとおり復帰圧力までの予測時間を計算しない場合、圧力が復帰圧力Ponに達してから起動を開始するため、圧力が復帰圧力以下となってしまう。本実施例によれば、実施例1と同様に、
図6に示すとおり、復帰圧力までの予測時間を計算し、復帰圧力まで低下する前にあらかじめ圧縮機を起動することで復帰圧力を下回らないようにして安定した圧力の空気を供給することができる。また、実施例1と比較して、Td閾値を増加させて起動タイミングを早くし、圧縮機を起動することで、復帰圧力を下回らずにかつ回転速度をゆっくりと上昇させることが可能となり、実施例1に対してさらに騒音を抑制することができる。
【0045】
次に、
図7、
図9を参照しながら、使用空気量が少ない場合の本実施例の効果について説明する。従来技術において、復帰圧力までの予測時間を計算しない場合、
図7に示すとおり圧力が復帰圧力Ponに達してから起動し、急激に回転周波数が増加する。仮にインバータ制御を行っていたとしても、使用空気量が少ない場合、急激に圧力が増加するため、圧力を復帰圧力に戻すために回転周波数を急激に減少させる。このことから、タンク内の圧力が急激に上昇するとともに、回転周波数が急激に変化するため騒音を抑制することができない。本実施例によれば、実施例1と同様に、
図9に示すとおり、復帰圧力までの予測時間を計算し、復帰圧力まで低下する前にあらかじめ圧縮機を起動することで復帰圧力を下回らないようにして安定した圧力の空気を供給することができる。また、本実施例では、回転周波数を少しずつ増加させる制御を行っており、回転速度の急激な変化がないため騒音を抑制することができる。また、実施例1と比較して、Td閾値を減少させて圧縮機の起動時のタイミングを遅らせることで、回転速度の急激な変化を防止し騒音を抑制するとともに、起動時のタンク内の圧力が低い状態で起動するため、実施例1よりも圧縮機の起動にかかる電力を低減させることが可能である。
【0046】
これまで説明してきた実施例は、何れも本発明を実施するに当たっての具体化の一例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されない。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。