(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
本実施形態では、ボケ味の劣化が抑えられた(言い換えると、ボケ味の美しさが向上した)結像光学系を得るため、結像光学系に含まれるレンズ(より正確には、光学有効面)のボケ味への影響が適正に評価される。
【0022】
なお、本実施形態では、ボケ味への影響を評価する対象としてモールドレンズを挙げるが、別の実施形態では、研磨など、他の製法で加工されたレンズをボケ味への影響を評価する対象としてもよい。また、レンズ以外の光学部品、例えば光学系に含まれるカバーガラス等の光学部品もレンズと同様に光学性能へ寄与するため、ボケ味への影響を評価する対象となり得る。レンズやカバーガラス等の、ボケ味への影響の評価対象となり得る各種光学部品を総称して「光学素子」と言う。
【0023】
一般に、モールドレンズ用の金型は、旋盤を用いて時間をかけて作製される。しかし、旋盤による切削加工中に例えば空調機がオンして室温が急激に変わると、その影響でバイトの動きが一時的にブレることがある。バイトの動きがブレると、金型が設計値通りに切削されないため、例えばそのブレに応じた切削痕やうねり等の形状誤差が金型に残存する。
【0024】
この種の形状誤差を持つ金型を用いてモールドレンズを製造すると、形状誤差がレンズ面に転写される。形状誤差が転写されたモールドレンズに光を通すと、そのボケの中に輪線状の明暗縞(輪線)が現れる。
【0025】
より詳細には、モールドレンズを通過した光のボケ内には、複数本(例えば5〜6本)の輪線状の模様が現れる。このように内部に輪線のような模様を含むボケを輪線ボケと呼ぶ。
【0026】
この種の輪線ボケには、虹のような色味が無い。また、ボケの周囲には、フレアや回折次数光等の不要光が現れない。色味が無い点や周囲に不要光が現れない点を鑑みると、ボケ味が劣化する主たる要因は、回折現象ではなく、波長依存性が低く且つ一方向に光を曲げる現象、すなわち屈折現象によるものと考えられる。
【0027】
モールドレンズによるボケ味の劣化が屈折現象によるものとした場合、横収差図を用いてボケ味への影響を評価する方法を検討することが1つの有効なアプローチを考えられる。
【0028】
横収差図は、光線が通過するレンズ上の位置(主光線を基準とした相対高さ)を横軸に取り、該位置を通過した光線が到達する像面上の位置を縦軸に取って示すグラフである。横収差図のグラフは、ピントのずれ量に応じて傾く性質を持つ。
【0029】
また、レンズ面の形状誤差に対してレンズ面の前後における屈折率差(典型的には、空気とレンズ材の屈折率の差)を乗算すると、波面収差の変化分が得られる。次いで、波面収差を微分してレンズのF値を乗算すると、横収差図の変化分が求まる。すなわち、横収差図は、形状誤差に応じたグラフ形状を持つ。
【0030】
なお、本実施形態では、設計値に対するレンズ面の偏差を形状誤差と定義する。また、厳密には、レンズ面に対する光の入射角度θも考慮して波面収差を計算する必要がある。しかし、ここで想定される、一眼レフカメラ等の光学機器に搭載されるレンズは、光をなだらかに曲げる収差補正が施されたレンズである。そのため、波面収差を計算するうえで、入射角度θをゼロ(コサインθ=1)と考えても(すなわち、光の入射角度を考慮しなくても)実質的に差し支えない。
【0031】
以下、収差の無い理想的な結像光学系において、そのうちの一つのレンズの一つの面(光学有効面)でのみ形状誤差が発生したモデルを考える。
図1(a)に、形状誤差を含むレンズによって収差が発生し、尚且つ撮影者の意図等によりデフォーカスが与えられたときの横収差図を示す。
【0032】
図1(a)のグラフは、ピントのずれ量に応じた傾き(右肩下がり)を持つと共にレンズの形状誤差に応じた形状を持つ。横収差図において、グラフの傾きが小さい箇所ほど像面上で光線が密となり、グラフで傾きが大きい箇所ほど像面上で光線が疎となる。これは、グラフの局所的な傾きがボケの局所的な明るさを表すことを意味する。従って、グラフを微分することにより、ボケ内の明暗分布(言い換えると、ボケの中の局所的な明るさの分布)が求まる。
【0033】
まとめると、レンズ面の形状誤差分布に所定の係数を乗算して二階微分すると、形状誤差による、ボケ内の明暗分布が求まる。なお、ボケ内の明暗分布は、光学系(単一レンズ構成も含む)内の個々の光学有効面の形状誤差によって生じる分布である。従って、1つの光学有効面の形状誤差によるボケ内の明暗分布は、光学系全体によるボケ内の明暗分布に対して寄与する成分(ボケに寄与する明暗分布の寄与成分)と言い換えることができる。
【0034】
また、横収差図において、グラフの局所的な傾きは局所的なピントずれを表す。局所的なピントずれは、形状誤差の一次導関数の局所傾斜、すなわち形状誤差の局所曲率で表わされる。形状誤差の局所曲率は、形状誤差を二次成分で畳み込むことによって求まる。このことから、レンズ面の形状誤差分布を二次成分で畳み込むことによっても、ボケ内の明暗分布(言い換えると、ボケに寄与する明暗分布の寄与成分)が求まることが判る。
【0035】
最も単純には、“範囲内での総和がゼロになるように定数項を調整した二次関数(二次関数成分)”を畳み込むのが簡単な方法であるが、モデリングのしやすさ等を考慮して以下のように二次成分に似た関数(一種の二次関数成分)を用いてもよい。ここで、その具体的一例を示す。二次成分に似た関数は、次式により示される関数W
M[k]の集合として定義されるものであり、中心(k=0)ほど二次関数に近付き、周辺(k=−u又はu)ほど一次関数(直線)に近付く。
【0036】
W
M[k]=k
2×N[k]+A (−u≦k≦u)
W
M[k]=0 (k<−u又はu<k)
但し、
N[k]は、0≦N[−u]で且つ−u≦k≦0の範囲にあるときに単調増加となる偶関数であり、Aは、Σ
kW
M[k]=0とするための定数項であり、W
M[k]の二次導関数について、−W
M”[0]≦W
M”[−u]であり、W
M”[0]≧0である。
【0037】
図1(b)に、
図1(a)のレンズの形状誤差分布を二階微分したときに又は二次関数成分で畳み込んだときに得られるボケのシミュレーション画像を示す。
図1(a)及び
図1(b)から、ボケに現れる輪線を横収差図から導くことができ、また、形状誤差に応じたグラフの傾きの変化が大きいほどボケに輪線が強く現れることが判る。
【0038】
以上のことから、レンズの形状誤差によりボケ内に発生する明暗分布の程度が、形状誤差の局所曲率等により推測できるとの結論に至った。上述のモデルでは、便宜上、一つの光学有効面のみが形状誤差を持つものとして説明したが、現実には光学系内の複数又は全ての光学有効面が形状誤差を持つ。この場合、各光学有効面のスケールを光束径や屈折率に応じて規格化した上で、例えば局所曲率を足し合わせ、足し合わされた局所曲率を基に、ボケ内に発生する明暗分布の程度を推測してもよい。
【0039】
上記に加えて、人の主観を考慮してより効果的にボケの美しさを評価する方法を説明する。
図2は、20サンプルのボケのシミュレーション画像を並べて示す図である。
図3は、
図2に示される各サンプルのボケ味を主観評価した結果を示すグラフである。
図3の縦軸は、サンプル内で最も明るい箇所と最も暗い箇所との比(各シミュレーション画像の明暗比)を示す。
図3の横軸には、複数の被検者が各サンプルのボケ味を主観的に評価して順位付けした結果に従い、各サンプルが並べられている。
図3中、左側のサンプルほど順位が高く(すなわち、ボケ味が美しいと評価され)、右側のサンプルほど順位が低い(すなわち、ボケ味が汚いと評価された。)。なお、説明の便宜上、各サンプルに符号1st〜20thを付す。
【0040】
ボケ内の明暗比が大きいほど輪線状の明暗縞である輪線がくっきりと現れて、ボケが汚く見えるものと考えられる。しかし、
図3に示される結果を見ると、例えばサンプル13thやサンプル16thは明暗比が小さいにも拘わらず、ボケが比較的汚いと評価されている。
【0041】
図4(a)、
図4(b)のそれぞれに、サンプル6th、16thのボケのシミュレーション画像を拡大して示す。
図3に示されるように、サンプル6thとサンプル16thはボケ内の明暗比が略同じである。しかし、
図4(a)と
図4(b)とを比較すると、ボケ味については、サンプル6thの方が明らかに美しく見える。
【0042】
以上のことから、ボケ味の(主観的な)美しさとボケ内の明暗比との相関は高くなく、単純に明暗比からボケ味の美しさを適正に評価することができないことが判る。本発明者は、上記の相関が高くない原因を調査し、これには、人の視覚受容野が関連しているとの結論に至った。
【0043】
図5(a)に、視覚受容野のイメージを示す。視覚受容野は、視覚系のニューロンの神経応答に変化を生じるような刺激が提示される空間の領域のことであり、
図5(a)に示されるように、明るさを刺激として感じる領域と、暗さを刺激として感じる領域とが交互に並ぶものである。
【0044】
図5(b)に、明暗画像パターンAと明暗分布パターンA’を示す。明暗分布パターンA’は、明暗画像パターンA内のa−a線上の分布パターンを示すものである。明暗分布パターンA’は、中心に位置する山の両側に谷が並ぶ形状を含むウェーブレット状のパターンであり、
図5(b)の例では、Cohen-Daubechies-Feauveau Wavelet(以下、「CDFウェーブレット」と記す。)と一致する。なお、ここでいうCDFウェーブレットは、「Communications on Pure and Applied Mathematics Vol. XLV」、1920年発行、p485〜p560、著者 A. Cohen, I. Daubechies, and J.C. Feauveauの論文で紹介されているウェーブレット関数であり、特に、
を指す。
【0045】
「数理科学」、株式会社サイエンス社、2008年9月号 No.543のp78〜p83(『視覚の科学と数学』第2回〜ウェーブレット・フィルタは脳内に存在するか?〜 新井仁之 著)には、視覚受容野が特性のウェーブレット状のパターンに強く反応することが記載されている。この記載から、
図5(a)に示される視覚受容野の領域配列に近似するウェーブレット状のパターンを含む明暗画像パターンAを視たときに、人は、刺激を強く受けるものと考えられる。
【0046】
図5(c)に、ボケの画像シミュレーションBとボケ内の明暗分布B’を示す。ボケ内の明暗分布B’は、ボケの画像シミュレーションB内のb−b線上の分布を示すものである。
【0047】
ボケの画像シミュレーションB(言い換えると、ボケ内の明暗分布B’)内に大きな量(PV値の高い)の明暗画像パターンA(言い換えると、明暗分布パターンA’)が含まれているほど、観測者がより強い刺激を受けてボケ味の劣化として感じるものと考えられる。そのため、ボケ内の明暗分布B’内に含まれる明暗分布パターンA’の量を計算することにより、ボケ味の美しさを定量的に評価することができる。具体的には、ボケ内の明暗分布B’のデータをCDFウェーブレット(すなわち、明暗分布パターンA’を表す係数群)で畳み込むと、ボケ内の明暗分布B’内に含まれる明暗分布パターンA’の量、すなわち、ボケ味の美しさを定量的に示す指標が求まる。以下、説明の便宜上、この指標を「ボケ味指標」と記す。なお、上記においては、ボケ内の明暗分布B’のデータをCDFウェーブレットで畳み込んでいるが、ボケ内の明暗分布B’のデータに対してCDFウェーブレットを用いたウェーブレット変換を行ってもよい。
【0048】
上記の方法では、ボケ味指標を計算するにあたり、レンズの形状誤差からボケのシミュレーション画像又はボケ内の明暗分布を一旦再現しなければならない。そのため、ボケ味指標の計算プログラムを実行するコンピュータの処理負荷が大きい。コンピュータの処理負荷を抑える方法として、レンズの形状誤差からボケ味指標を直接計算するものが考えられる。
図6(a)〜
図6(c)に、レンズの形状誤差からボケ味指標を直接計算する方法を説明するための概念図を示す。
【0049】
上述したように、レンズ面の形状誤差分布を二次成分で畳み込むことによっても、ボケ内の明暗分布が求まる。そのため、
図6(a)に概念的に示されるように、レンズ面の形状誤差分布を二次成分で畳み込んだ結果(すなわち、ボケ内の明暗分布を示す値)をCDFウェーブレットで畳みこむことにより、ボケ味指標が求まる。
【0050】
畳み込みは、計算順序を変更しても成立する(結合法則)。そこで、
図6(b)に概念的に示されるように、二次成分をCDFウェーブレットで畳み込んだ結果で、レンズ面の形状誤差分布を畳み込むことによっても、ボケ味指標が求まる。
【0051】
以下、説明の便宜上、二次成分をCDFウェーブレットで畳み込んだ結果を「特定ウェーブレット状パターン」と記す。「特定ウェーブレット状パターン」の多くは、狭義のウェーブレット関数の定義からは外れている。しかし、CDFウェーブレットを畳み込む際の二次成分を適切に選択することにより、特定ウェーブレット状パターンをウェーブレットとして取り扱うこともできる。その場合、ボケ味指標は、
図6(c)に概念的に示されるように、レンズ面の形状誤差分布を特定ウェーブレット状パターンで畳み込むことによっても求まる。
【0052】
なお、ボケ味は、光学系(単一レンズ構成も含む)内の全ての光学有効面(すなわち、光学系全体)で決まる。1つの光学有効面によるボケ味は、光学系全体によるボケ味に対して影響を与えるものと言える。従って、ボケ味指標は、ボケ味への影響を定量的に示す指標と言い換えることができる。
【0053】
なお、明暗分布パターンA’の最適なスケール(幅)は、用いられる光学系のF値や、画素ピッチ、現像後のサイズなどに応じて異なる。そのため、特定ウェーブレット状パターンの最適なスケールはレンズ毎に異なる。そこで、本実施形態では、スケールの異なる複数の特定ウェーブレット状パターンを用いた。なお、スケールの異なる特定ウェーブレット状パターンの算出には、CDFウェーブレットのスケーリング関数を用いてもよいし、アップサンプリングして中間値を補完するような簡易的な方法を用いてもよい。また、形状誤差データのサンプリングピッチを変えることにより、スケールの異なる特定ウェーブレット状パターンを算出してもよい。また、特定ウェーブレット状パターンが、ウェーブレットとしての特性を保持しているのであれば、ウェーブレット変換による多重解像度解析を行ってもよい。
【0054】
別の実施形態では、ボケ味指標を求めるに際し、二次成分に代えて、二階微分を用いてもよい。すなわち、レンズ面の形状誤差分布を二階微分した結果をCDFウェーブレットで畳みこむことにより、ボケ味指標を求めてもよい。
【0055】
図2に示される20サンプルのボケの画像シミュレーションに対して特定ウェーブレット状パターンを用いた畳み込み演算を行った結果を
図7(a)に示す。
図7(a)中、縦軸は、各サンプルにおいて抽出された最も大きい特定ウェーブレット状パターンの量(単位:μm)を示す。特定ウェーブレット状パターンの量は、当該パターンのPV値である(
図7(b)参照)。
図7(a)の例では、各サンプルにおいて抽出された特定ウェーブレット状パターンの中で最も大きいPV値をボケ味指標とする。また、
図7(a)の横軸には、
図3と同じ順序(すなわち、主観評価による順序)で各サンプルが並べられている。
図7(a)の例では、各サンプルにおいて、レンズ面を通過する光束の平均直径の10%の幅w(
図7(b)参照)を持つ特定ウェーブレット状パターンが最も多く抽出された。
【0056】
図7(a)から、ボケ味の(主観的な)美しさとボケ味指標との相関が高いことが判る。従って、レンズ面の形状誤差分布に対して特定ウェーブレット状パターンを用いた畳み込み演算を行うことにより、ボケ味の美しさが定量的な評価値として求められることが判る。定量的な評価値が求まることにより、ボケ味の美しさが適正に評価できるようになる。
【0057】
図7(a)に例示される評価結果から、例えば、特定ウェーブレット状パターンのPV値が0.025μm以下のレンズを公差内(ボケ味が美しい)と判定し、PV値が0.025μmを上回るレンズを公差外(ボケ味が汚い)と判定する、といった製造管理が可能となる。
【0058】
図8に、ボケ味指標を求める処理のフローチャートを示す。
【0059】
図8に示されるように、情報処理端末にインストールされた光学設計ソフトウェア上の仮想的な光学素子モデルに対し、形状を調整する調整値がオペレータによる入力操作に従って又はソフトウェア上で自動的に与えられる(S11)。次いで、調整値による形状調整後の光学素子モデルの形状誤差分布が解析される(S12)。そして、解析された形状誤差分布に対して特定ウェーブレット状パターンを用いた畳み込み演算が行われる(S13)。これにより、光学素子モデルに含まれる特定ウェーブレット状パターンのPV値、すなわちボケ味指標が求まる。
【0060】
図8のフローチャートを実行してボケ味指標を求めることにより、どの程度の形状誤差がレンズ面に発生するとボケ味が汚くなるかをレンズ製造前にシミュレートすることができる。
【0061】
なお、ボケ味指標は、光学設計ソフトウェアによるシミュレーションでなく実測値から求められてもよい。具体的には、三次元測定器等を用いてレンズ面の形状誤差分布を測定し、測定された形状誤差分布に対して特定ウェーブレット状パターンを用いた畳み込み演算を行ってもよい。これにより、実物のレンズに含まれる特定ウェーブレット状パターンのPV値、すなわちボケ味指標が求まる。
【0062】
図9を用いて、下記条件のレンズについて数値実施例を説明する。なお、本実施例は、便宜上、レンズの第一面のみを考慮して(言い換えると、第二面は形状誤差が無いものとして)説明する。
【0063】
有効径 :29mm
光束径 :28.39mm
屈折率(d線):1.5311
像側F値 :2
ピントずれ量 :0.74mm
【0064】
図9(a)は、本実施例に係るレンズの形状誤差分布を示す。
図9(a)に示される形状誤差分布に所定の係数を乗算して微分することにより、
図9(b)に示される横収差図が求まる。更に、
図9(b)に示される横収差図を微分することにより、
図9(c)に示されるボケのシミュレーション画像又はボケ内の明暗分布が求まる。また、
図9(a)に示される形状誤差分布を二次成分で畳み込むことにより、
図9(c)に示されるボケのシミュレーション画像又はボケ内の明暗分布や、
図9(d)に示される局所曲率分布が求まる。
図9(c)に示されるボケ(明暗分布)や、
図9(d)に示される局所曲率分布をCDFウェーブレットで畳みこむことにより、
図9(e)に示されるボケ味指標が求まる。
図9(e)に示されるボケ味指標は、
図9(a)に示される形状誤差分布を特定ウェーブレット状パターンで畳み込むことによっても求まる。
【0065】
以上が本発明の例示的な実施形態の説明である。本発明の実施形態は、上記に説明したものに限定されず、本発明の技術的思想の範囲において様々な変形が可能である。例えば明細書中に例示的に明示される実施形態等又は自明な実施形態等を適宜組み合わせた内容も本願の実施形態に含まれる。
【0066】
モールドレンズにおいては、金型の転写面に残存する形状誤差がレンズ面に転写される。そのため、レンズ面の形状誤差は、金型の形状誤差(設計値に対する転写面の偏差)に置き換えることができる。
【0067】
図10に、レンズ面、金型の転写面のそれぞれを対象として
図8のフローチャートを実行し、ボケ味指標を求めた結果を示す。
図10中、縦軸は、レンズ面の形状誤差から求められた特定ウェーブレット状パターンのPV値(単位:μm)を示し、横軸は、金型の転写面の形状誤差から求められた特定ウェーブレット状パターンのPV値(単位:μm)を示す。
図10の例では、各レンズ面、各金型の転写面において抽出された特定ウェーブレット状パターンの中で最も大きいPV値のみを示す。
【0068】
図10から、両者のPV値(すなわちボケ味指標)は相関が高いことが判る。そのため、金型の転写面を対象としてボケ味指標を求めることにより、どの程度の形状誤差が金型の転写面に発生するとボケ味が汚くなるかを金型作製前にシミュレートすることができる。
【0069】
図10中、PV値が0.025μmを上回る3つの例では、何れも同じバイト・セッティングで金型が作製されている。
図11(a)に、
図10の符合Lのレンズを通過した光のボケのシミュレーション画像を示し、
図11(b)に、符号Lのレンズの金型と異なるバイト・セッティングで加工された金型を用いて成形されたレンズを通過した光のボケのシミュレーション画像を示す。
図11の例では、バイト・セッティングを変えて金型を加工することにより、ボケ味が改善されていることが判る。
【0070】
また、上記の実施形態においては、結像光学系に含まれる一つの光学素子の一つの光学有効面での形状誤差がボケ味へ与える影響を評価するボケ味指標が求められているが、別の実施形態では、複数の光学有効面又は複数の光学素子の形状誤差の、光学的な寄与を考慮した合算値から、ボケ味指標が求められてもよい。
【0071】
例えば、光学系内の光学有効面毎に三次元計測を行い、光線高さをマッチングさせて合算したデータを作成し、作成されたデータに対して畳み込み演算を行ってもよい。また、干渉計を用いて光学系の透過波面を測定することによって得た測定データに対して畳み込み演算を行ってもよい。
【0072】
また、上記の実施形態は、後ボケに現れる明るい輪線を正の刺激として定義した内容となっているが、前ボケや暗い輪線を評価するものも本発明の範疇である。この場合、上記の実施形態に係るウェーブレット状のパターンの正負を反転させたもの(すなわち、中心に位置する谷の両側に山が並ぶ形状を含むウェーブレット状のパターン)を用いてボケ味指標が求められる。