特許第6692232号(P6692232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692232
(24)【登録日】2020年4月16日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】3HBの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/42 20060101AFI20200427BHJP
【FI】
   C12P7/42
【請求項の数】8
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-129985(P2016-129985)
(22)【出願日】2016年6月30日
(65)【公開番号】特開2018-73(P2018-73A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2018年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−158190(JP,A)
【文献】 特開平03−183499(JP,A)
【文献】 特開昭64−074999(JP,A)
【文献】 特開2009−201506(JP,A)
【文献】 特開2008−043327(JP,A)
【文献】 特開平08−154689(JP,A)
【文献】 特開2002−346303(JP,A)
【文献】 特開2013−081403(JP,A)
【文献】 特表2003−518366(JP,A)
【文献】 特開2010−126512(JP,A)
【文献】 第5版 実験化学講座1 −基礎編I 実験・情報の基礎−,丸善株式会社,2003年 9月25日,162−167頁
【文献】 J. Biotechnol., 2007, Vol. 132, pp. 264-272
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3ヒドロキシ酪酸(3HB)生産菌から3HBを発酵生成した発酵液を得る発酵工程と、
前記発酵工程にて得られた発酵液から、水分を留去する予備濃縮工程と、
有機溶媒により、前記発酵液から3HBを含有する3HB含有溶液を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程により抽出された3HB含有溶液から、前記有機溶媒を留去して3HB濃縮液を得る濃縮工程と、
前記濃縮工程で得られた3HB濃縮液に、酢酸エチル、ジエチルエーテル及びt−ブチルメチルエーテルから選ばれる少なくとも一種を主成分とする晶析溶媒を加え、3HBの溶解した晶析溶媒から3HB結晶を析出させる晶析工程と
を行う3HBの製造方法。
【請求項2】
前記3HB生産菌が、3HB生産性のハロモナス菌である請求項1に記載の3HBの製造方法。
【請求項3】
前記発酵工程が、前記ハロモナス菌を好気発酵する好気発酵工程と、好気発酵工程によりポリヒドロキシ酪酸(PHB)を蓄積した前記ハロモナス菌を嫌気発酵する嫌気発酵工程とを含む請求項2に記載の3HBの製造方法。
【請求項4】
前記発酵工程で得られた発酵液をろ過するろ過工程を行った後に前記抽出工程を行う請求項1〜3のいずれか一項に記載の3HBの製造方法。
【請求項5】
前記発酵工程で得られた発酵液のpHを1〜6の酸性に調整するpH調整工程を行った後に、前記抽出工程を行う請求項1〜4のいずれか一項に記載の3HBの製造方法。
【請求項6】
前記3HB含有溶液または前記3HB濃縮液を活性炭に接触させる活性炭処理工程を行う請求項1〜5のいずれか一項に記載の3HBの製造方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が1−ブタノール、1−ペンタノール、酢酸エチル、イソアミルアルコール、及びメチルエチルケトンから選ばれる少なくとも一種を主成分とするものである請求項1〜6のいずれか一項に記載の3HBの製造方法。
【請求項8】
前記晶析工程において、3HBの溶解した晶析溶媒に3HBの種結晶を加えて攪拌しながら冷却を行う請求項1〜7のいずれか一項に記載の3HBの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3ヒドロキシ酪酸(3HB)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3ヒドロキシ酪酸やその塩(以下3HBと称する、また、3HBと称する場合、特にその単量体を指すものとする)は、もともと人の体内に存在する物質であるため生体親和性が高く、糖質に代わる画期的なエネルギー源として期待されている。また、3HBは単なるエネルギー源という役割だけでなく、様々な遺伝子の発現やタンパク質の活性に影響するシグナル伝達物質としての作用があることがわかってきた。3HBは、例えば、遺伝子発現調節作用によって、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害することによって認知機能や、長期持続記憶を改善することが知られ、アルツハイマーの予防に有効性が確認されている。例えば、ココナツオイルに多く含まれる中鎖脂肪酸の摂取および体内での代謝により生成される3HBが、脳や体内において糖質をうまく利用できないアルツハイマー病、糖尿病の患者の症状を改善させる効果を持つことが知られている。また、3HBは体内において糖質よりも速やかにエネルギーに変換されること、細胞への脂肪や糖の吸収を抑制する効果を有することから、アスリート向けのエネルギー物質、ダイエット・健康食品分野への応用が期待できる。
【0003】
また、これらの用途のほか、3HBは生分解性樹脂の原料として用いられることが知られており、工業的用途においても利用価値が高まりつつある物質である。
【0004】
このような3HBは、各種微生物にポリ3ヒドロキシ酪酸(以下PHBと称する)を生産させたのち、得られたPHBを酵素等により分解することにより得ることができる(特許文献1)。また、このような微生物としてハロモナス菌が、好気条件でPHBを蓄積し、嫌気条件に移行することでPHBを分解して生成した3HBを培養液中に分泌産生することが見出されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005−521718号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yutaka Tokiwa et al. J Biotechnol. (2007) 132, 264-72.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生物発酵由来の3HBや、PHBは、培養液中から純品として回収することが難しく、種々の不純物を含む形態で回収されるのが実情である。このように回収された3HBを応用利用する際には、さらに精製して純度を高める必要がある。しかし、実際には、純度の低い3HB(たとえば現在流通している生物発酵由来の3HBは純度70%程度である)がそのまま用いられており、純度の高い3HBは、いまだ安定供給されていない。
【0008】
このような純度の高い3HBを安定供給するために、生物発酵由来で3HBを含有する培養液を用いた効率的な3HBの製造方法が求められている。
【0009】
そこで、本発明は上記実状に鑑み、生物発酵由来で3HBを含有する培養液から効率よく純度の高い3HBを精製回収することができる3HBの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明の3HBの製造方法の特徴構成は、
3ヒドロキシ酪酸(3HB)生産菌から3HBを発酵生成した発酵液を得る発酵工程と、
前記発酵工程にて得られた発酵液から、水分を留去する予備濃縮工程と、
有機溶媒により、前記発酵液から3HBを含有する3HB含有溶液を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程により抽出された3HB含有溶液から、前記有機溶媒を留去して3HB濃縮液を得る濃縮工程と、
前記濃縮工程で得られた3HB濃縮液に、酢酸エチル、ジエチルエーテル及びt−ブチルメチルエーテルから選ばれる少なくとも一種を主成分とする晶析溶媒を加え、3HBの溶解した晶析溶媒から3HB結晶を析出させる晶析工程と、
を行う点にある。
【0011】
上記発酵工程により得た3HBは、光学純度がきわめて高い(100%に近い)ものであると考えられる。これを有機溶媒で抽出する抽出工程を行うと、発酵液から光学純度の高い3HB含有溶液を得ることができる。
【0012】
ここで、発酵液から3HBを分離回収させるために、水分を留去する予備濃縮工程を経て有機溶媒による抽出を行う抽出工程を行うと、少量の有機溶媒で効率よく3HBを有機溶媒の層に移行させることができる。その有機溶媒を留去して濃縮工程により濃縮すると、3HBを高濃度に含有する3HB濃縮液が得られ、この3HB濃縮液を用いて晶析工程を行うことできわめて効率よく3HBを結晶化することができ、純度の高い3HBを得ることができる。
【0013】
このようにして、3HBを析出させる晶析工程を行うと、発酵液から抽出しただけの3HB含有溶液から3HBを再結晶させて、より純度の高い3HBを得ることができる。具体的には、濃縮工程の後、晶析工程を行うことで、3HBの再結晶操作を行い、純度の高い3HBを得ることができる。
ここで、本発明者らは、鋭意研究の結果、晶析溶媒としては、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルから選ばれる少なくとも一種を主成分とするものを用いると、発酵液の全量をそのまま出発原料として利用したとしてもきわめて効率よく3HBを結晶化することができることを実験的に見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、晶析溶媒として、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテルのいずれかを用いた場合には、特に3HBの溶解度曲線(溶解度の温度依存性)の勾配が大きく(温度による溶解度の差が大きく)、容易に3HBを再結晶により晶析させられるとともに、不純物を取り除くことができることが明らかとなった。これにより純度の高い3HBを効率よく製造することができるようになった。
【0015】
また、前記3HB生産菌が、3HB生産性のハロモナス菌であることが好ましく、この場合、前記発酵工程が、前記ハロモナス菌を好気発酵する好気発酵工程と、好気発酵工程によりポリヒドロキシ酪酸(PHB)を蓄積した前記ハロモナス菌を嫌気発酵する嫌気発酵工程とを含むことができる。
【0016】
すなわち、3HB生産菌として、3HB生産性のハロモナス菌を用いると、生産性高く3HBを生産することができる。また、ハロモナス菌は、好気発酵する好気発酵工程と、嫌気発酵する嫌気発酵工程とを行うことで、好気発酵工程により体内に蓄積したポリヒドロキシ酪酸(PHB)を体外(発酵液中)に排出させることができる。したがって、ハロモナス菌を用いることで、比較的容易に3HBを反応容易な形態に移行させることができ、さらに、効率よく3HBを製造することができるようになった。
【0017】
また、前記発酵工程で得られた発酵液をろ過するろ過工程を行った後に前記抽出工程を行ってもよい。
【0018】
発酵工程で得られた発酵液には、3HB以外に、3HBを生産した菌体も含まれている。このような菌体は、抽出工程を行った場合に3HB含有溶液中に移行しないので、夾雑物として存在することにより純度を低下させる原因になることが考えられる。また、抽出溶媒を無駄に増量して用いることにもなる。そこで、あらかじめ限外ろ過を行ったものとしておけば、菌体や、タンパク質等の大分子量の夾雑物を含まない状態で再結晶を行えるから、より再結晶の純度を向上することができるものと考えられる。
【0019】
また、前記発酵工程で得られた発酵液のpHを1〜6の酸性に調整するpH調整工程を行った後に、前記抽出工程を行うこともできる。
【0020】
前記発酵液に含まれる3HBは酸性であるため、中性に近い発酵液中では一部が塩として溶解している。このような形態の3HBは、3HB含有溶液中に移行しにくく、3HBの抽出効率を低下させる懸念がある。そこで、発酵液のpHをpH1〜6に調整するpH調整工程を行えば、3HBを遊離酸として発酵液中に存在させることができ、抽出された3HB含有溶液中に3HBが移行しやすくなるため、3HBの回収効率の向上に寄与するものと考えられる。
【0021】
また、前記3HB含有溶液または前記3HB濃縮液を活性炭に接触させる活性炭処理工程を行うこともできる。
【0022】
上記ろ過工程をおこなえば、比較的分子量の大きな夾雑成分を除去することができるが、比較的分子量の小さな3HBに対する着色成分については除去することができない。このような着色成分は、3HBの実際の純度に対しては大きな影響がないものの、精製度の高い3HBが、白色結晶であるのに対して、褐色〜淡褐色に着色した結晶が得られるため、3HBの製品としては見た目に劣る。そこで、このような着色成分を活性炭により除去しておけば、晶析工程で得られる3HBが白色結晶として得られ、高品質な3HBとして提供することができるようになる。
【0023】
尚、前記有機溶媒としては、1−ブタノール、1−ペンタノール、酢酸エチル、イソアミルアルコール、及びメチルエチルケトンから選ばれる少なくとも一種を主成分とするものを用いることができる。
【0024】
有機溶媒としては、溶解度曲線の勾配に関わらず、3HBに対する溶解度が高いものを用いることができ、このような有機溶媒としては、1−ブタノール、1−ペンタノール、酢酸エチル、イソアミルアルコール、あるいはメチルエチルケトンから選ばれる少なくとも一種を主成分とするものが、3HBに対する溶解度が高いので好ましい。
【0025】
また、前記晶析工程において、3HBの溶解した晶析溶媒に3HBの種結晶を加えて攪拌しながら冷却を行うことができる。
【0026】
撹拌しながら冷却により晶析させると、温度斑のない均一な溶液から晶析を開始させられるので、晶析開始温度範囲のきわめて狭い結晶を取り出すことができ、3HBの純度を挙げるのに寄与する。また、種結晶を用いると、過冷却状態の3HB溶液から適切な晶析開始温度にて晶析を開始させられるので、より品質の安定した3HBを提供するのに寄与する。
【発明の効果】
【0027】
したがって、生物発酵由来で3HBを含有する培養液から効率よく純度の高い3HBを精製回収することができるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の実施形態にかかる3HBの製造方法を説明する。尚、以下に好適な実施形態を記すが、これら実施形態はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0029】
本発明の実施形態にかかる3HBの製造方法は、
3ヒドロキシ酪酸(3HB)生産菌から3HBを発酵生成した発酵液を得る発酵工程と、
前記発酵工程にて得られた発酵液から、水分を留去する予備濃縮工程と、
有機溶媒により、前記発酵液から3HBを含有する3HB含有溶液を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程により抽出された3HB含有溶液から、前記有機溶媒を留去して3HB濃縮液を得る濃縮工程と、
前記濃縮工程で得られた3HB濃縮液に、酢酸エチル、ジエチルエーテル及びt−ブチルメチルエーテルから選ばれる少なくとも一種を主成分とする晶析溶媒を加え、3HBの溶解した晶析溶媒から3HB結晶を析出させる晶析工程と
を行うものである。
ここで、3HB生産菌として、3HB生産性のハロモナス菌を用い、発酵工程として、前記ハロモナス菌を好気発酵する好気発酵工程と、好気発酵工程によりポリヒドロキシ酪酸(PHB)を蓄積した前記ハロモナス菌を嫌気発酵する嫌気発酵工程とを行う。
また、抽出工程に先んじて、発酵工程で得られた発酵液を限外濾過するろ過工程を行うとともに、発酵液のpHを1〜6の酸性に調整するpH調整工程を行う。
また3HB濃縮液を活性炭に接触させる活性炭処理工程を行う。
尚、有機溶媒としては、1−ブタノール、1−ペンタノール、酢酸エチル、イソアミルアルコール、及びメチルエチルケトンから選ばれる少なくとも一種を主成分とするものが用いられ、晶析工程において、3HBの溶解した晶析溶媒に3HBの種結晶を加えて攪拌しながら冷却を行うことができる。尚、晶析工程に用いる溶媒は抽出工程に用いる溶媒と同一であってもよい。
【0030】
〔発酵工程〕
発酵工程は、3HB生産菌から3HBを発酵生成した発酵液を得るものである。具体的には、糖質を含む培養液を収容した発酵容器に3HB生産性のハロモナス菌を添加して、まず撹拌通気しつつ好気発酵工程を行う。これにより、ハロモナス菌により糖質を資化させ、PHBを生産させることができ、ハロモナス菌体内にPHBを蓄積する。次に、糖類がほぼ完全に消費されたころに、発酵容器内への通気を停止して嫌気発酵工程を行う。これにより、ハロモナス菌は体内に蓄積したPHBを分解消費して発酵液中に3HBを放出する。その結果、3HB及び菌体を含有する発酵液が得られる。
【0031】
〔ろ過工程〕
ろ過工程では、得られた発酵液中の菌体成分や、高分子量のたんぱく質等の夾雑物を濾過して除去する。具体的には、得られた発酵液は限外ろ過膜(UF膜)によりろ過する。すると簡便に菌体やタンパク質等の大分子量の夾雑物を除去することができ、主に3HBを含有する発酵液とすることができる。ここで得られた発酵液は、3HBを4.1質量%含有する発酵液が得られた。尚、本実施形態において3HBの濃度はクロマトグラフ法により決定している(以下も同じ)。
【0032】
〔pH調整工程〕
pH調整工程は、発酵液のpHをpH1〜6に調整して、発酵液中の3HBを遊離酸の形態として、3HB含有溶液中に移行させやすくするものである。具体的には、pH調整工程では、ろ過工程で得られた64.3kgの発酵液に96質量%の硫酸1.4kgを加えてpH=3.0に調整した。
ここで、pH調整工程には種々の酸を用いることができるが、後の精製工程に悪影響の生じにくい無機酸を用いることが好ましい。また、pHは1〜6の酸性領域にまで調整すればよいが、好ましくは、3HBがほぼ遊離酸として存在するpH3程度になるまで酸を添加し、pHを調整することが、3HBの収率の面からは好ましい。
【0033】
〔予備濃縮工程〕
予備濃縮工程は、発酵液中の溶媒としての水を留去して発酵液を濃縮する工程である。具体的には、pH調整後の発酵液65.7kgからエバポレーターにて水を留去する濃縮を行った。これにより、3−ヒドロキシ酪酸を20.8質量%含有する3HB含有溶液を12.4kg得た。
【0034】
〔活性炭処理工程〕
活性炭処理工程は、3HB含有溶液に対して、ここで粉末状あるいはグラニュール状の活性炭を接触させて着色物質をはじめとした不純物の除去するものである。ここで活性炭処理工程は、得られる3HBを脱色して品質を向上させるうえで行うことが好ましく、収量の減少や、工数の増加を避ける意味では省略することができる。
【0035】
〔抽出工程〕
次に得られた3HB含有溶液のうち2kgを用いて、同重量の各種有機溶媒1−ブタノール、1−ペンタノール、酢酸エチル、イソアミルアルコール、あるいはメチルエチルケトンにより抽出する抽出工程を3回繰り返し行い3HB含有溶液を得た。それぞれの有機溶媒にて、3回の抽出工程を繰り返したところ、回収された3HBの収率は表1のようになった。尚、有機溶媒としては、他に汎用のものを用いることができるが、3HBに対する溶解度が高いことから、1−ブタノール、1−ペンタノール、酢酸エチル、イソアミルアルコール、あるいはメチルエチルケトンを用いることが好ましい。
【0036】
【表1】
【0037】
〔濃縮工程〕
濃縮工程では、得られた3HB含有液からエバポレーターにより有機溶媒を留去する。この濃縮工程では、3HBを75質量%含有する3HB濃縮液が得られた。濃縮工程は、3HB濃縮液の3HB濃度が50%以上90%以下程度になるまで行うことが好ましい。さらに好ましくは、濃縮下限として60%以上、あるいは70%以上、濃縮上限として85%以下が挙げられ、特に、70%以上85%以下程度になるまで濃縮するのが好ましい。
【0038】
〔活性炭処理工程〕
ここで粉末状あるいはグラニュール状の活性炭を用いた濃縮液からの着色物質をはじめとした不純物の除去する活性炭処理工程を実施してもよい。なお、活性炭処理工程は、3HB含有溶液あるいは3HB濃縮液のいずれかに対して行うことが好ましいが、省略することも、両方に対して行うこともできる。
【0039】
〔晶析工程〕
続いて3HBを75質量%含有する濃縮液200g(有機溶媒として1−ブタノールを用いて抽出工程を行ったもの)に対して、晶析溶媒として酢酸エチルを60g添加し、40℃で3HBの均一な溶液を得た。この3HBの溶液を晶析装置にて撹拌混合しながら20〜30℃の3HBの飽和濃度にまで冷却した。飽和濃度に達した時点で種結晶として、あらかじめ精製により結晶として得てある3HBを添加した。さらに攪拌しながら一定速度で冷却を行い3HBの析出を行った。析出した3HBを吸引ろ過、減圧乾燥することにより白色結晶85gを単離した。晶析工程に関する収率は57%であった。
【0040】
また、酢酸エチルをジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、アセトン及びメチルエチルケトンに変更して同様に3HBを75質量%含有する濃縮液200gに対して晶析工程を行ったところ、表2のようになった。
【0041】
【表2】
【0042】
尚、晶析溶媒としては、温度に依存した溶解度勾配が大きいエステル系あるいはエーテル系の物質を用いることができ、酢酸エチル、ジエチルエーテル、およびt−ブチルメチルエーテルから選ばれる晶析溶媒は、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等の種々公知の取り扱い容易な溶媒と比較して、溶解度勾配が大きく、晶析溶媒としてきわめて優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の3HBの製造方法によれば、高効率で純度の高い3HBを製造することができる。