特許第6692256号(P6692256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692256
(24)【登録日】2020年4月16日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】多孔質セラミックス構造体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/10 20060101AFI20200427BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20200427BHJP
   B01J 23/83 20060101ALI20200427BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20200427BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20200427BHJP
   C04B 41/85 20060101ALI20200427BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20200427BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   B01J35/10ZAB
   B01J35/04 301P
   B01J23/83 A
   B01J32/00
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   B01D53/94 241
   C04B41/85 D
   C04B41/85 H
   F01N3/10 Z
   F01N3/28 301P
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-165007(P2016-165007)
(22)【出願日】2016年8月25日
(65)【公開番号】特開2018-30105(P2018-30105A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−092164(JP,A)
【文献】 特開2007−253144(JP,A)
【文献】 特開2003−190793(JP,A)
【文献】 特表2013−505197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
C04B 41/85
F01N 3/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス材料で形成され、構造体内部に気孔を有する多孔質セラミックス構造体であって、
前記多孔質セラミックス構造体は、
二酸化セリウムを有し、
前記二酸化セリウムの少なくとも一部は、前記構造体内部に取り込まれ、かつ、前記気孔の気孔表面に少なくとも一部が露出しており、露出した前記二酸化セリウムの少なくとも一部は、表面及び/または内部に鉄酸化物を備え
前記セラミックス材料は、
コージェライト、または珪素−炭化珪素のいずれか一方を主成分とする多孔質セラミックス構造体。
【請求項2】
前記鉄酸化物は、
前記二酸化セリウムに固溶している請求項1に記載の多孔質セラミックス構造体。
【請求項3】
前記二酸化セリウムの平均粒子径は、
0.1μm〜1.0μmの範囲である請求項1または2に記載の多孔質セラミックス構造体。
【請求項4】
前記セラミックス材料に占める前記二酸化セリウムの比率は、
0.1質量%〜5.0質量%の範囲である請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質セラミックス構造体。
【請求項5】
前記セラミックス材料に占める前記鉄酸化物の比率は、
0.02質量%〜0.6質量%の範囲である請求項1〜4のいずれか一項に記載の多孔質セラミックス構造体。
【請求項6】
前記二酸化セリウムは、
前記鉄酸化物とともに、マンガン、ストロンチウム、及びアルミニウムの少なくともいずれか一つの金属酸化物を更に備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の多孔質セラミックス構造体。
【請求項7】
前記多孔質セラミックス構造体は、
ハニカム構造体である請求項1〜6のいずれか一項に記載の多孔質セラミックス構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス構造体に関する。更に詳しくは、自動車排ガス浄化用触媒担体などの種々の用途に使用可能な多孔質セラミックス構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質セラミックス構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体、ディーゼル微粒子除去フィルタ、或いは燃焼装置用蓄熱体等の広範な用途に使用されている。特に、一方の端面から他方の端面まで延びる流体の流路となる複数のセルが区画形成された隔壁を有するハニカム形状の多孔質セラミックス構造体(以下、「ハニカム構造体」と称す。)が多く用いられている。このハニカム構造体は、複数のセラミックス原料を調製し、坏土化した成形原料を、押出成形機を用いて押出成形する押出成形工程と、押出成形後のハニカム成形体を乾燥させた後、所定の焼成条件で焼成する焼成工程とを経て製造されている。
【0003】
多孔質セラミックス構造体を構成するセラミック材料としては、例えば、炭化珪素、珪素−炭化珪素系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びアルミニウムチタネートなどが用いられる。
【0004】
ハニカム構造体の隔壁表面等の比表面積が小さいと、十分な量の触媒を担持することができず、そのままでは高い触媒活性を発揮できないことがあった。そこで、比表面積を大きくするために、ハニカム構造体をγ−アルミナでコート処理することが行われている。これにより、比表面積を大きくすることができ、高い触媒活性を発揮するための十分な量の触媒を、ハニカム構造体は担持することが可能となる(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
一方、近年において、ディーゼルエンジン等から排出される排気ガスに対する種々の規制が厳格に強化されている。そのため、自動車排ガス浄化用触媒担体として使用されるハニカム構造体等の多孔質セラミックス構造体の高性能化が求められている。例えば、ハニカム構造体の隔壁を薄壁化することで、ハニカム構造体全体の熱容量を下げ、触媒の触媒活性を発揮する温度まで速やかに昇温するようにしたり、或いは、隔壁を高気孔率構造にしたりすることが行われている。ハニカム構造体の気孔率が低下すると、圧力損失が増大し、エンジンの燃費性能を低下させる等の問題がある(特許文献2参照)。
【0006】
上述のように、γ−アルミナによるハニカム構造体のコート処理は、多孔質性の隔壁を塞ぎ、気孔率を低下させるおそれがあった。そのため、γ−アルミナによるコート処理を必要とすることなく、十分な量の触媒を担持する方法が検討されている。例えば、コージェライトのハニカム構造体を酸処理し、600℃〜1000℃で熱処理した後に触媒成分を担持させるものが知られている(特許文献3参照)。これにより、比表面積を増加させることができ、γ−アルミナによるコート処理(所謂「ウォッシュコート」)の工程を不要にすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4046925号公報
【特許文献2】国際公開第2013/047908号
【特許文献3】特公平5−40338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した通り、γ−アルミナをコート処理する方法は、ハニカム構造体(多孔質セラミックス構造体)の気孔を塞ぎ、気孔率を低下させることとなる。そのため、圧力損失が大きくなる問題を有している。
【0009】
一方、特許文献3に示すような、多孔質セラミックス構造体に対して酸処理及び熱処理を行うものは、γ−アルミナによるコート処理が不要な為、多孔質セラミックス構造体の軽量化、及び耐熱衝撃性の向上を図ることができる。しかしながら、結晶格子自体を破壊する可能性があり、多孔質セラミックス構造体の強度が低下するおそれがあった。そのため、γ−アルミナによるコート処理を行う必要がなく、かつ強度低下を招来することなく、高い触媒活性を維持するために十分な量の触媒を担持可能な多孔質セラミックス構造体の開発が望まれている。上記課題は、コージェライトのセラミックス材料を用いた多孔質セラミックス構造体に限らず、炭化珪素や珪素−炭化珪素系複合材料等をセラミックス材料を用いた場合であっても同様である。
【0010】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、触媒活性を維持するために十分な量の触媒を担持可能な多孔質セラミックス構造体の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、上記課題を解決した多孔質セラミックス構造体が提供される。
【0012】
[1] セラミックス材料で形成され、構造体内部に気孔を有する多孔質セラミックス構造体であって、前記多孔質セラミックス構造体は、二酸化セリウムを有し、前記二酸化セリウムの少なくとも一部は、前記構造体内部に取り込まれ、かつ、前記気孔の気孔表面に少なくとも一部が露出しており、露出した前記二酸化セリウムの少なくとも一部は、表面及び/または内部に鉄酸化物を備え、前記セラミックス材料は、コージェライト、または珪素−炭化珪素のいずれか一方を主成分とする多孔質セラミックス構造体。
【0013】
[2] 前記鉄酸化物は、前記二酸化セリウムに固溶している前記[1]に記載の多孔質セラミックス構造体。
【0014】
[3] 前記二酸化セリウムの平均粒子径は、0.1μm〜1.0μmの範囲である前記[1]または[2]に記載の多孔質セラミックス構造体。
【0015】
[4] 前記セラミックス材料に占める前記二酸化セリウムの比率は、0.1質量%〜5.0質量%の範囲である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の多孔質セラミックス構造体。
【0016】
[5] 前記セラミックス材料に占める前記鉄酸化物の比率は、0.02質量%〜0.6質量%の範囲である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の多孔質セラミックス構造体。
【0017】
[6] 前記二酸化セリウムは、前記鉄酸化物とともに、マンガン、ストロンチウム、及びアルミニウムの少なくともいずれか一つの金属酸化物を更に備える前記[1]〜[5]のいずれかに記載の多孔質セラミックス構造体。
【0019】
] 前記多孔質セラミックス構造体は、ハニカム構造体である前記[1]〜[]のいずれかに記載の多孔質セラミックス構造体。
【発明の効果】
【0020】
本発明の多孔質セラミックス構造体によれば、鉄酸化物を表面等に備える二酸化セリウムの少なくとも一部が気孔表面に露出することにより、触媒活性を維持するための十分な量の触媒を、コート処理を行う必要がなく、高い触媒性能を発揮することができる。加えて、貴金属系触媒を使用することがなく、触媒にかかるコストを大幅に削減することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ハニカム構造体の構成の一例を示す斜視図である。
図2A】酸化物含有二酸化セリウム(酸化物固溶二酸化セリウム)の構成を模式的に示す説明図である。
図2B】酸化物含有二酸化セリウム(酸化物付着二酸化セリウム)の構成を模式的に示す説明図である。
図3】気孔表面に露出した酸化物含有二酸化セリウムを模式的に示す拡大模式断面図である。
図4】多孔質セラミックス構造体の断面の一例を示す電子顕微鏡画像である。
図5図4の電子顕微鏡画像におけるセリウム元素の分布を示す分布図である。
図6図4の電子顕微鏡画像における鉄元素の分布を示す分布図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ本発明の多孔質セラミックス構造体の実施の形態について詳述する。なお、本発明の多孔質セラミックス構造体は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、種々の設計の変更、修正、及び改良等を加え得るものである。
【0023】
本発明の一実施形態の多孔質セラミックス構造体は、図1〜3に示すように、一方の端面2aから他方の端面2bまで延びる流体の流路として形成される複数のセル3を区画形成する格子状の隔壁4を有するハニカム形状の略円柱状を呈する多孔質セラミックスハニカム構造体(以下、単に「ハニカム構造体1」と称す。)である。
【0024】
更に具体的に説明すると、ハニカム構造体1は、セラミックス材料で隔壁4が形成され、当該隔壁4の内部には複数の気孔5が存在している(例えば、図3参照)。更に、このハニカム構造体1の構造体内部には、二酸化セリウム6(CeO)が取り込まれ、この二酸化セリウム6の中の少なくとも一部が、隔壁4の気孔5の気孔表面5aに露出して形成されている。更に、この露出した二酸化セリウム6の表面及び/または内部には、二酸化セリウム6に対して固溶または付着した状態の鉄酸化物7を備えている。以下、固溶または付着した状態の鉄酸化物7を備える二酸化セリウム6を“酸化物含有二酸化セリウム8”と称す。
【0025】
ここで、ハニカム構造体1(隔壁4)を構成するセラミックス材料とは、周知の材料が想定され、例えば、炭化珪素、珪素−炭化珪素(Si/SiC)系複合材料、コージェライト、ムライト、アルミナ、スピネル、炭化珪素−コージェライト系複合材料、リチウムアルミニウムシリケート、及びアルミニウムチタネートなどを主成分として含むものが挙げられる。なお、本発明の多孔質セラミックス構造体は、上記のハニカム構造体1に限定されるものではなく、種々の形状であってもよい。更に、ハニカム形状を有する場合であっても、略円柱状に限定されるものではなく、角柱状等を呈するものであっても構わない。
【0026】
本実施形態のハニカム構造体1を構成するセラミックス材料中に含有する二酸化セリウム6の平均粒子径は、0.1μm〜1.0μmの範囲である。更に、セラミックス材料における二酸化セリウム6の含有率は、0.1質量%〜5.0質量%の範囲であり、より好ましくは、0.3質量%〜1.0質量%の範囲である。二酸化セリウム6の比率が0.1質量%より高い場合、気孔表面5aに露出する二酸化セリウム6の粒子が多くなり、触媒活性を得るための十分な量となる。
【0027】
一方、二酸化セリウム6の比率が5.0質量%より低いと、気孔表面5aに露出する二酸化セリウム6の量が適切となる。そのため、気孔5の一部が露出した二酸化セリウム6によって塞がれる可能性が低くなり、隔壁4の気孔率を高く維持し、圧力損失等の不具合を生じさせることがない。そのため、二酸化セリウム6の比率を上記の規定範囲内にすることが特に好適である。
【0028】
更に、セラミックス材料中に占める鉄酸化物7の比率は、0.02質量%〜0.6質量%の範囲である。鉄酸化物7の比率が0.02質量%より高いと酸化物含有二酸化セリウム8による触媒性能の効果を十分に発揮することができる。一方、0.6質量%より低いと、圧力損失の増大を抑えることができる。そのため、鉄酸化物7の比率を、上記の規定範囲内にすることが特に好適である。また、鉄酸化物7の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、図2に模式的に示されるように、上記二酸化セリウム6の平均粒子径に対し、鉄酸化物7の平均粒子径は必然的に小さなものとなる。
【0029】
二酸化セリウム6の表面及び/または内部に、鉄酸化物7を備えさせる方法は、例えば、含浸法等を用いることができる。具体的に説明すると、予め平均粒子径を所定範囲に調えた二酸化セリウム6の粉末(粒子)に、鉄成分を含有する金属酸化物の硝酸塩溶液を加えて撹拌混合する。これにより、金属酸化物の硝酸塩溶液中に二酸化セリウム6が含浸した状態となり、当該含浸状態を所定時間継続する。これにより、二酸化セリウム6の粒子表面に鉄成分等を含んだ硝酸塩溶液が付着する。
【0030】
その後、硝酸塩溶液から二酸化セリウム6を取り出し、表面に金属酸化物の一部が付着した状態の二酸化セリウム6を大気中等で焼成する。その結果、表面及び/または内部に鉄酸化物7を備える酸化物含有二酸化セリウム8が形成される。このとき、二酸化セリウム6に対する鉄酸化物7の含有量(または含有率)は、硝酸塩溶液の濃度、及び各成分の比率等を調整することで適宜変化させることができる。
【0031】
ここで、酸化物含有二酸化セリウム8は、大気中等で行われる焼成処理の焼成温度を変えることで、二酸化セリウム6に対する鉄酸化物7の状態異なる二つに変化させることができる。すなわち、鉄酸化物7が二酸化セリウム6の表面及び/または内部に固溶した状態で存在しているか、或いは、二酸化セリウム6の表面に付着した状態(非固溶の状態)で存在しているかをそれぞれ選択し、変化させることができる。ここで、二酸化セリウム6に対する鉄酸化物7の固溶または付着の状態により、酸化物含有二酸化セリウム8の触媒性能の発現メカニズムに違いがあることが知られている。
【0032】
更に具体的に説明すると、二酸化セリウム6に鉄酸化物7が固溶した酸化物含有二酸化セリウム8である、「酸化物固溶二酸化セリウム粒子8a」(図2A参照。)の場合、二酸化セリウム6自体に触媒活性機能がある。そのため、鉄酸化物7を固溶する二酸化セリウム6自体の平均粒子径を小さなものとすることにより、二酸化セリウム6の比表面積を増大させることができ、より高い触媒性能を発揮することができる。
【0033】
これに対し、二酸化セリウム6に鉄酸化物7(主に、Fe)が付着した酸化物含有二酸化セリウム8である、「酸化物付着二酸化セリウム粒子8b」(図2B参照。)の場合、鉄酸化物7自体に触媒活性機能があり、二酸化セリウム6自体に触媒活性機能はなく、触媒補助作用として酸素分子を引きつける機能を有することが知られている。そのため、二酸化セリウム6に付着する鉄酸化物7自体の平均粒子径を小さなものとすることにより、鉄酸化物7の比表面積を増大させることができ、より高い触媒性能を発揮させることができる。
【0034】
本実施形態のハニカム構造体1は、隔壁4の構造体内部に形成された複数の気孔5の表面に、少なくとも一部の二酸化セリウム6が露出するように形成され、かつ露出した当該二酸化セリウムの表面及び/または内部に、固溶または付着した状態で鉄酸化物7が存在している。これにより、従来のγ−アルミナによるコート処理(ウォッシュコート)によって比表面積を増大させる必要がなく、排ガスと触媒としての酸化物含有二酸化セリウム8との接触面積を増加させることができ、上記鉄酸化物7による触媒性能及び二酸化セリウム6自体の一酸化窒素の吸着性能を十分に発揮することができる。その結果、圧力損失の増大等の微粒子除去フィルタとしての性能を損なうことがない。
【0035】
更に、本実施形態のハニカム構造体1は、二酸化セリウム6の粒子に、上述の鉄酸化物7とともに、マンガン(Mn)、ストロンチウム(Sr)、及びアルミニウム(Al)の少なくともいずれか一つの金属酸化物(図示しない)を更に備えるものであっても構わない。
【0036】
本実施形態のハニカム構造体1によれば、当該ハニカム構造体1(隔壁4)を構成する構造体内部(セラミックス材料中)に所定の比率で二酸化セリウム6が取り込まれた状態で存在するとともに、当該二酸化セリウム6が隔壁4の構造体内部の気孔表面5aに露出し、かつ、鉄酸化物7が固溶または付着している(図4図6参照)。
【0037】
これにより、ハニカム構造体1をNO浄化処理等のための触媒体として使用した場合、鉄酸化物7による高い触媒活性を発揮させることができ、NOの浄化率(変換率)の向上を図ることができる。また、二酸化セリウム6に対する鉄酸化物7の状態(固溶または付着)を変化させることにより、触媒性能の発現メカニズムを異ならせることができる。更に、鉄以外のマンガン等の金属酸化物を備えることにより、より高い触媒活性を発揮させることができる。
【0038】
本発明の多孔質セラミックス構造体は、上記ハニカム構造体1に限定されるものではなく、その他の形態または態様で使用するものであってもよい。すなわち、ハニカム構造体1のように一酸化窒素の酸化処理を促進し、排ガスに含まれるNOガスの浄化処理を行う以外に、例えば、排ガスの浄化処理によって捕集されたスス燃焼を促進するもの、或いは、窒素酸化物を吸蔵するものとして使用することが可能である。
【0039】
以下、本発明の多孔質セラミックス構造体(ハニカム構造体)について、下記の実施例に基づいて説明するが、本発明の多孔質セラミックス構造体は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
実施例1〜5、及び比較例1〜3のハニカム構造体を構成するセラミックス材料(無機原料、及びその他原料を含む)、及びその配合比率等を下記表1に示す。ここで、実施例1〜5及び比較例1〜3は、セラミックス成分(基材成分)が珪素/炭化珪素(Si/SiC)系複合材料で構成されるハニカム構造体である。
【0041】
ここで、実施例1〜5のハニカム構造体は、鉄酸化物を備える二酸化セリウム(酸化物含有二酸化セリウム)が隔壁の内部(構造体内部)に分布して存在し、セラミックス材料に占める二酸化セリウムの比率が、0.1質量%〜5.0質量%の範囲の条件を満たし、かつ、セラミックス材料に占める鉄酸化物の比率が、0.02質量%〜0.6質量%の範囲の条件を満たすものである。なお、ハニカム構造体は、セラミックス成分、酸化物含有二酸化セリウム以外に、その他助剤成分として酸化アルミニウム(Al)及び酸化ストロンチウム(SrO)を所定の質量%含んでいる。
【0042】
一方、比較例1は、酸化物含有二酸化セリウムを有しない、基材及びその他助剤成分のみのハニカム構造体であり、比較例2は通常の二酸化セリウムのみが気孔表面に分布しているハニカム構造体である。更に、比較例3は、鉄酸化物を備えたスラリー状の酸化物含有二酸化セリウムを予め用意し、ハニカム構造体にディップすることで隔壁表面に酸化物含有二酸化セリウムが形成されたものである。以下、実施例1〜5及び比較例1〜3のハニカム構造体の作製の詳細を下記に示す。
【0043】
1. ハニカム構造体の作製
(1)坏土の調製
表1に示すハニカム構造体の骨材、酸化物含有二酸化セリウム(二酸化セリウム+鉄酸化物)を秤量し、ニーダーを用いて15分間乾式混合した後、水を投入し、ニーダーを用いて更に30分間混練して坏土を得た。このとき、二酸化セリウムの添加量及び添加有無、二酸化セリウムに対する鉄酸化物の比率等を変化させ、記表1の実施例1〜5及び比較例1〜3に沿った坏土をそれぞれ形成する。なお、酸化物含有二酸化セリウムは、既に説明した含浸法等を用い、二酸化セリウムに鉄酸化物を含浸し、更に焼成処理をすることで鉄酸化物の一部が二酸化セリウムに固溶または付着したものが予め準備されている。なお、坏土の調製は、上記の通り、酸化物含有二酸化セリウムを予め準備するものに限定されず、例えば、ハニカム構造体の骨材に、二酸化セリウム、鉄酸化物(または、硝酸鉄溶液)を混合したものを坏土としてもよい。
【0044】
(2)ハニカム成形体の成形
実施例及び比較例毎にそれぞれ調製された複数種の坏土を、真空土練機を使用して柱状に成形した後、押出成形機に導入してハニカム状のハニカム成形体を押出成形する。なお、ハニカム成形体は、ハニカム径が30mm、隔壁厚さが12mil(約0.3mm)、セル密度が300cpsi(cell per square inches:46.5セル/cm)、外周壁厚さが約0.6mmであり、内部に流体の流路となる複数のセルを区画形成する格子状の隔壁を備えたものである。
【0045】
(3)ハニカム成形体の乾燥及び焼成
作製されたハニカム成形体をマイクロ波乾燥によって約70%の水分を蒸散させた後、熱風乾燥(80℃×12時間)する。その後、450℃を維持する脱炉に投入し、ハニカム成形体に残留する有機物成分を除去する脱脂を行い、その後、焼成温度を1450℃に設定し、アルゴン雰囲気下で焼成処理(本焼成)を行う。その後、焼成温度を1250℃に設定し、大気圧下で酸化処理を行う。これにより、構造体内部に二酸化セリウム及び鉄酸化物を有する酸化物含有二酸化セリウムを含んだハニカム構造体が形成される。
【0046】
2. 試料の分析
上記によって得られたハニカム構造体の試料(実施例1〜5、比較例1〜3)に対し、基材成分の比率、二酸化セリウム及び鉄酸化物の比率、二酸化セリウムの粒子径、二酸化セリウム粒子の比表面積、鉄酸化物粒子の比表面積、各粒子の結晶相を測定した。以下に、分析及び算出の具体的な方法を示す。
【0047】
2.1 基材成分、二酸化セリウム、及び鉄酸化物の各成分の比率(質量%)
各成分の質量%は、それぞれICP発光分光分析法(Inductivity Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)に基づき分析を行うことで算出した。
【0048】
2.2 比表面積及び平均粒子径
ハニカム構造体の比表面積は、周知のBET法により測定を行った。更に、二酸化セリウムの平均粒子径は、レーザー回折法によって算出したメジアン径とした。なお、平均粒子径は、上記レーザー回折法以外にも、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された視野像内の二酸化セリウム6の個々の粒子について、視野像内のサイズ及び拡大倍率に基づいて粒子径を算出し、その平均値を平均粒子径として算出したものであってもよい。なお、酸化物含有二酸化セリウムを有するハニカム構造体の場合(実施例1〜5)の比表面積は、当該酸化物含有二酸化セリウムを有しないハニカム構造体(比較例1)の比表面積より高くなっている(表1参照)。すなわち、酸化物含有二酸化セリウムが存在が、ハニカム構造体の比表面積を増大させる要因となっている。
【0049】
2.3 粒子の結晶相
各粒子の結晶相は、作成された試料に対し、X線回折装置(回転対陰極型X線回折装置:理学電機製、RINT)を用いて測定した。ここで、X線回折測定の条件は、CuKα源、50kV、300mA、2θ=10〜60°とし、得られたX線回折データを市販のX線データ解析ソフトを用いて解析した。
【0050】
上記2によって得られた測定結果をまとめたものを下記表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
3. NO吸着量の算出
NO吸着量は、NOガスを用いた昇温脱離法に基づいて算出した。ここで、NO吸着量の算出のための装置として、AutoChemII(Micromeritis社製)を用いた。更に吸着に用いるガスとして、200pmNO、10%O、Heの混合ガスを使用した。昇温炉内の反応管内に上記測定試料を載置し、ガス吸着時の温度が250℃となるように設定し、上記ガスを反応管内に導入した。吸着時間は30分とした。吸着完了後、反応管内にHeガスを導入し、昇温速度を10℃/minに設定した条件で、250〜600℃まで昇温を行った。昇温時における脱ガス成分を質量分析計によって計測し、NO脱離量を算出した。係るNO脱離量をNO吸着量とした。
【0053】
4. NO変換率の算出
上記1によって作成されたハニカム触媒体を、それぞれ直径25.4mm×長さ50.8mmの試験片に加工し、加工した外周をコート処理した。得られた試験片を測定試料として、自動車排ガス分析装置(SIGU1000:HORIBA社製)を用いて評価を行った。このとき、昇温炉内の反応管内に上記測定試料を載置し、測定試料が250℃になるまで暖めた。そして、200ppmNO(一酸化窒素)、10%O(酸素)、及びN(窒素)の混合ガスを反応ガスとして、反応管内に導入した。このとき、測定試料から排出された排出ガス(出口ガス)を排ガス測定装置(MEXA−6000FT:HORIBA社製)を用いて分析し、それぞれの排出濃度(NO濃度、NO濃度)を測定した。更に、排出濃度の測定結果に基づいて、NO変換率を求めた。ここで、NO変換率は、(1−(NO濃度/(NO濃度+NO濃度)))により算出される。
【0054】
5. NO変換率の評価
算出されたNO2変換率の値が1.0%以上のものを“A”、0.5%以上、1.0%未満のものを“B”、0.1%以上、0.5%未満のものを“C”、及び、0.1%未満のものを“D”として評価した。ここで、NO変換率の値がD評価の0.1%未満の場合、上記自動車ガス分析装置による測定誤差を考慮し、ほとんどNO変換がされていないものと判断される。実用上は、少なくともC評価以上が必要とされる。
【0055】
NO吸着量、及びNO変換率の評価の結果をまとめたものを下記表2に示す。
【表2】
【0056】
6. 評価結果の考察
上記表1及び表2に示されるように、二酸化セリウムの平均粒子径が小さくなるにつれて、NO吸着量やNO変換率の評価が良好になることが示され、その平均粒子径は二酸化セリウムの含有量に依存することが確認された。特に、実施例2のハニカム構造体が良好な結果を示している。これに対し、比較例1のように酸化物含有二酸化セリウムを有しないハニカム構造体の場合には、NO吸着量の値が0であり、NO変換率もD評価であることが確認された。また、比較例2のように鉄酸化物を含有しない二酸化セリウムのみを備えるハニカム構造体でもほとんど効果が認められなかった。加えて、最も高い効果の得られた実施例2と二酸化セリウムの比率が同じ比較例4でも、ディッピングにより担持された場合はNO吸着量及びNO変換率の評価が低くなることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の多孔質セラミックス構造体は、自動車排ガス浄化用触媒担体等の触媒担体として好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1:ハニカム構造体(多孔質セラミックス構造体)、2a:一方の端面、2b:他方の端面、3:セル、4:隔壁、5:気孔、5a:気孔表面、6:二酸化セリウム、7:鉄酸化物、8:酸化物含有二酸化セリウム、8a:酸化物固溶二酸化セリウム粒子、8b:酸化物付着二酸化セリウム粒子。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6