【実施例】
【0040】
実施例1〜5、及び比較例1〜3のハニカム構造体を構成するセラミックス材料(無機原料、及びその他原料を含む)、及びその配合比率等を下記表1に示す。ここで、実施例1〜5及び比較例1〜3は、セラミックス成分(基材成分)が珪素/炭化珪素(Si/SiC)系複合材料で構成されるハニカム構造体である。
【0041】
ここで、実施例1〜5のハニカム構造体は、鉄酸化物を備える二酸化セリウム(酸化物含有二酸化セリウム)が隔壁の内部(構造体内部)に分布して存在し、セラミックス材料に占める二酸化セリウムの比率が、0.1質量%〜5.0質量%の範囲の条件を満たし、かつ、セラミックス材料に占める鉄酸化物の比率が、0.02質量%〜0.6質量%の範囲の条件を満たすものである。なお、ハニカム構造体は、セラミックス成分、酸化物含有二酸化セリウム以外に、その他助剤成分として酸化アルミニウム(Al
2O
3)及び酸化ストロンチウム(SrO)を所定の質量%含んでいる。
【0042】
一方、比較例1は、酸化物含有二酸化セリウムを有しない、基材及びその他助剤成分のみのハニカム構造体であり、比較例2は通常の二酸化セリウムのみが気孔表面に分布しているハニカム構造体である。更に、比較例3は、鉄酸化物を備えたスラリー状の酸化物含有二酸化セリウムを予め
用意し、ハニカム構造体にディップすることで隔壁表面に酸化物含有二酸化セリウムが形成されたものである。以下、実施例1〜5及び比較例1〜3のハニカム構造体の作製の詳細を下記に示す。
【0043】
1. ハニカム構造体の作製
(1)坏土の調製
表1に示すハニカム構造体の骨材、酸化物含有二酸化セリウム(二酸化セリウム+鉄酸化物)を秤量し、ニーダーを用いて15分間乾式混合した後、水を投入し、ニーダーを用いて更に30分間混練して坏土を得た。このとき、二酸化セリウムの添加量及び添加有無、二酸化セリウムに対する鉄酸化物の比率等を変化させ、
下記表1の実施例1〜5及び比較例1〜3に沿った坏土をそれぞれ形成する。なお、酸化物含有二酸化セリウムは、既に説明した含浸法等を用い、二酸化セリウムに鉄酸化物を含浸し、更に焼成処理をすることで鉄酸化物の一部が二酸化セリウムに固溶または付着したものが予め準備されている。なお、坏土の調製は、上記の通り、酸化物含有二酸化セリウムを予め準備するものに限定されず、例えば、ハニカム構造体の骨材に、二酸化セリウム、鉄酸化物(または、硝酸鉄溶液)を混合したものを坏土としてもよい。
【0044】
(2)ハニカム成形体の成形
実施例及び比較例毎にそれぞれ調製された複数種の坏土を、真空土練機を使用して柱状に成形した後、押出成形機に導入してハニカム状のハニカム成形体を押出成形する。なお、ハニカム成形体は、ハニカム径が30mm、隔壁厚さが12mil(約0.3mm)、セル密度が300cpsi(cell per square inches:46.5セル/cm
2)、外周壁厚さが約0.6mmであり、内部に流体の流路となる複数のセルを区画形成する格子状の隔壁を備えたものである。
【0045】
(3)ハニカム成形体の乾燥及び焼成
作製されたハニカム成形体をマイクロ波乾燥によって約70%の水分を蒸散させた後、熱風乾燥(80℃×12時間)する。その後、450℃を維持する脱
脂炉に投入し、ハニカム成形体に残留する有機物成分を除去する脱脂を行い、その後、焼成温度を1450℃に設定し、アルゴン雰囲
気下で焼成処理(本焼成)を行う。その後、
焼成温度を1250℃に設定し、大気圧下で酸化処理を行う。これにより、構造体内部に二酸化セリウム及び鉄酸化物を有する酸化物含有二酸化セリウムを含んだハニカム構造体が形成される。
【0046】
2. 試料の分析
上記によって得られたハニカム構造体の試料(実施例1〜5、比較例1〜3)に対し、基材成分の比率、二酸化セリウム及び鉄酸化物の比率、二酸化セリウムの粒子径、二酸化セリウム粒子の比表面積、鉄酸化物粒子の比表面積、各粒子の結晶相を測定した。以下に、分析及び算出の具体的な方法を示す。
【0047】
2.1 基材成分、二酸化セリウム、及び鉄酸化物の各成分の比率(質量%)
各成分の質量%は、それぞれICP発光分光分析法(Inductivity Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy)に基づき分析を行うことで算出した。
【0048】
2.2 比表面積及び平均粒子径
ハニカム構造体の比表面積は、周知のBET法により測定を行った。更に、二酸化セリウムの平均粒子径は、レーザー回折法によって算出したメジアン径とした。なお、平均粒子径は、上記レーザー回折法以外にも、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察された視野像内の二酸化セリウム6の個々の粒子について、視野像内のサイズ及び拡大倍率に基づいて粒子径を算出し、その平均値を平均粒子径として算出したものであってもよい。なお、酸化物含有二酸化セリウムを有するハニカム構造体の場合(実施例1〜5)の比表面積は、当該酸化物含有二酸化セリウムを有しないハニカム構造体(比較例1)の比表面積
より高くなっている(表1参照)。すなわち、酸化物含有二酸化セリウムが存在が、ハニカム構造体の比表面積を増大させる要因となっている。
【0049】
2.3 粒子の結晶相
各粒子の結晶相は、作成された試料に対し、X線回折装置(回転対陰極型X線回折装置:理学電機製、RINT)を用いて測定した。ここで、X線回折測定の条件は、CuKα源、50kV、300mA、2θ=10〜60°とし、得られたX線回折データを市販のX線データ解析ソフトを用いて解析した。
【0050】
上記2によって得られた測定結果をまとめたものを下記表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
3. NO吸着量の算出
NO吸着量は、NOガスを用いた昇温脱離法に基づいて算出した。ここで、NO吸着量の算出のための装置として、AutoChemII(Micromeritis社製)を用いた。更に吸着に用いるガスとして、200p
pmNO、10%O
2、Heの混合ガスを使用した。昇温炉内の反応管内に上記測定試料を載置し、ガス吸着時の温度が250℃となるように設定し、上記ガスを反応管内に導入した。吸着時間は30分とした。吸着完了後、反応管内にHeガスを導入し、昇温速度を10℃/minに設定した条件で、250〜600℃まで昇温を行った。昇温時における脱ガス成分を質量分析計によって計測し、NO脱離量を算出した。係るNO脱離量をNO吸着量とした。
【0053】
4. NO
2変換率の算出
上記1によって作成されたハニカム触媒体を、それぞれ直径25.4mm×長さ50.8mmの試験片に加工し、加工した外周をコート処理した。得られた試験片を測定試料として、自動車排ガス分析装置(SIGU1000:HORIBA社製)を用いて評価を行った。このとき、昇温炉内の反応管内に上記測定試料を載置し、測定試料が250℃になるまで暖めた。そして、200ppmNO(一酸化窒素)、10%O
2(酸素)、及びN
2(窒素)の混合ガスを反応ガスとして、反応管内に導入した。このとき、測定試料から排出された排出ガス(出口ガス)を排ガス測定装置(MEXA−6000FT:HORIBA社製)を用いて分析し、それぞれの排出濃度(NO濃度、NO
2濃度)を測定した。更に、排出濃度の測定結果に基づいて、NO
2変換率を求めた。ここで、NO
2変換率は、(1−(NO濃度/(NO濃度+NO
2濃度)))により算出される。
【0054】
5. NO
2変換率の評価
算出されたNO2変換率の値が1.0%以上のものを“A”、0.5%以上、1.0%未満のものを“B”、0.1%以上、0.5%未満のものを“C”、及び、0.1%未満のものを“D”として評価した。ここで、NO
2変換率の値がD評価の0.1%未満の場合、上記自動車ガス分析装置による測定誤差を考慮し、ほとんどNO
2変換がされていないものと判断される。実用上は、少なくともC評価以上が必要とされる。
【0055】
NO吸着量、及びNO
2変換率の評価の結果をまとめたものを下記表2に示す。
【表2】
【0056】
6. 評価結果の考察
上記表1及び表2に示されるように、二酸化セリウムの平均粒子径が小さくなるにつれて、NO吸着量やNO
2変換率の評価が良好になることが示され、その平均粒子径は二酸化セリウムの含有量に依存することが確認された。特に、実施例2のハニカム構造体が良好な結果を示している。これに対し、比較例1のように酸化物含有二酸化セリウムを有しないハニカム構造体の場合には、NO吸着量の値が0であり、NO
2変換率もD評価であることが確認された。また、比較例2のように鉄酸化物を含有しない二酸化セリウムのみを備えるハニカム構造体でもほとんど効果が認められなかった。加えて、最も高い効果の得られた実施例2と二酸化セリウムの比率が同じ比較例4でも、ディッピングにより担持された場合はNO吸着量及びNO
2変換率の評価が低くなることが示された。