(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置について好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
本発明の一実施形態に係るバーハンドル車両用ブレーキ制御装置10は、
図1に示すように、バーハンドル車両12に搭載され、ブレーキシステム14(車輪ブレーキ)の動作を制御する。以下、説明の便宜のためにバーハンドル車両用ブレーキ制御装置10を単に制御装置10ともいう。また、バーハンドル車両12(車両12)としては、自動二輪車や自動三輪車等があげられ、以下の説明では自動二輪車を例に述べていく。
【0016】
制御装置10は、必要に応じて液圧制御(ABS制御:ブレーキ液圧の減圧、増圧又は保持)を行う。この液圧制御には、車輪18にかかるブレーキ液圧を保持して前輪と後輪の制動力を適宜制御することにより、車輪18のスリップを抑制する保持制御(ABS制御)が含まれる。
【0017】
特に、本実施形態に係る制御装置10は、車両12の旋回中に運転者によりブレーキ操作がなされた場合に、保持制御を早期に実施可能とすることで、旋回状態における車両12の安定性向上を図る。以下では、この制御装置10の理解の容易化のため、まず車両12及びブレーキシステム14について説明する。
【0018】
車両12は、車体16、車輪18(前輪18F、後輪18R)を備える。車体16には、後輪18Rを駆動させるエンジン等の走行駆動装置(不図示)が設けられると共に、運転者が車両12の進行方向を操作するバーハンドル20が設けられる。車両12は、運転者により、バーハンドル20が操作され、また車体16自体が傾斜されることで、所望の方向に旋回する。
【0019】
ブレーキシステム14は、制御装置10の制御下に、前輪18F及び後輪18Rを適宜制動する。このブレーキシステム14は、制御装置10、前輪ブレーキ22F、後輪ブレーキ22R、ブレーキレバー24、ブレーキペダル26、第1マスタシリンダ28及び第2マスタシリンダ30を含む。そして、前輪ブレーキ22Fと第1マスタシリンダ28の間、及び後輪ブレーキ22Rと第2マスタシリンダ30の間には、ブレーキ液の配管32と制御装置10とで構成されるブレーキ液圧の液圧系統34が設けられている。
【0020】
前輪ブレーキ22Fは、前輪18Fに取り付けられて前輪18Fと共に回転する前輪ディスク36Fと、前輪ディスク36Fを挟むパッド(不図示)をブレーキ液圧によって進退させる前輪キャリパ38Fとを備える。同様に、後輪ブレーキ22Rは、後輪18Rに取り付けられて後輪18Rと共に回転する後輪ディスク36Rと、後輪ディスク36Rを挟むパッド(不図示)をブレーキ液圧によって進退させる後輪キャリパ38Rとを備える。
【0021】
ブレーキレバー24は、バーハンドル20の一方(
図1中では右方)に設けられ、同じくバーハンドル20に取り付けられた第1マスタシリンダ28に接続されている。第1マスタシリンダ28は、運転者によるブレーキレバー24の操作力に応じたブレーキ液圧を液圧系統34にかける。
【0022】
ブレーキペダル26は、車体16の所定位置に設けられ、車体16に取り付けられた第2マスタシリンダ30に接続されている。第2マスタシリンダ30は、運転者によるブレーキペダル26の踏み込み操作力に応じたブレーキ液圧を液圧系統34にかける。
【0023】
液圧系統34の配管32は、第1マスタシリンダ28と制御装置10の間を接続する第1配管32F1と、制御装置10と前輪ブレーキ22Fの間を接続する前輪ブレーキ配管32F2と、第2マスタシリンダ30と制御装置10の間を接続する第2配管32R1と、制御装置10と後輪ブレーキ22Rの間を接続する後輪ブレーキ配管32R2とを含む。
【0024】
制御装置10は、液圧ユニット42と、液圧ユニット42を制御するECU(Electronic Control Unit)44とを備える。液圧ユニット42の内部には、ブレーキ液の流路と各種部品とによって、液圧系統34を構成する液圧回路40が設けられている。液圧ユニット42の入力ポート及び出力ポートには、第1配管32F1、前輪ブレーキ配管32F2、第2配管32R1、後輪ブレーキ配管32R2が接続されている。
【0025】
図2に示すように、液圧回路40は、第1配管32F1と前輪ブレーキ配管32F2とを連通する前輪ブレーキ用流路41Fと、第2配管32R1と後輪ブレーキ配管32R2とを連通する後輪ブレーキ用流路41Rとを備えている。前輪ブレーキ用流路41Fと後輪ブレーキ用流路41Rは、基本的に同一に形成されており、以下の説明では、前輪ブレーキ用流路41Fの構成を代表的に述べていく。
【0026】
前輪ブレーキ用流路41Fの適宜の箇所には、入口弁46F(後輪ブレーキ用流路41Rでは入口弁46R)、出口弁48F(後輪ブレーキ用流路41Rでは出口弁48R)、チェック弁50、リザーバ52、吸入弁54、ポンプ56、吐出弁58及びオリフィス60等が設けられている。また、前輪ブレーキ用流路41Fは、5つの液路61、62、63、64、65を有する。
【0027】
液路61は、ブレーキ液圧を入口弁46Fに導くため、第1マスタシリンダ28側の第1配管32F1が接続される入力ポートから入口弁46Fの一端までを連通している。
【0028】
液路62は、入口弁46Fの他端から前輪キャリパ38F側の前輪ブレーキ配管32F2が接続される出口ポートまでを連通している。
【0029】
液路63は、液路61からリザーバ52までを連通している。液路63には、出口弁48Fが設けられている。
【0030】
液路64は、リザーバ52からポンプ56の吸入側に連通している。液路65は、ポンプ56の吐出側から液路61に連通している。液路65には、オリフィス60が設けられている。
【0031】
入口弁46Fは、常開型の電磁弁であり、第1マスタシリンダ28と前輪キャリパ38Fとの間(液路61と液路62との間)に設けられる。入口弁46Fは、ABS制御(液圧制御)が開始されていない通常時に開いていることで、第1マスタシリンダ28から前輪キャリパ38Fへのブレーキ液圧の伝達を許容する。その一方で、入口弁46Fは、ABS制御において前輪18Fがスリップしそうになったときに閉じられることで、ブレーキレバー24から第1マスタシリンダ28を介して前輪ブレーキ22Fに加わるブレーキ液圧を遮断する。
【0032】
出口弁48Fは、常閉型の電磁弁であり、前輪キャリパ38Fとリザーバ52との間(液路63)に設けられる。出口弁48Fは、ABS制御の非作動状態で閉じられているが、ABS制御において前輪18Fがスリップしそうになったときに開弁されることで、前輪ブレーキ22Fにかかるブレーキ液圧をリザーバ52に逃がす。
【0033】
チェック弁50は、前輪キャリパ38Fから第1マスタシリンダ28側へのブレーキ液の流入のみを許容する弁であり、入口弁46Fに並列に接続されている。これにより、第1マスタシリンダ28からの液圧の入力が解除された場合に、入口弁46Fを閉じていても、前輪キャリパ38F側から第1マスタシリンダ28へのブレーキ液の流れを許容する。
【0034】
リザーバ52は、出口弁48Fが開弁されることによって流動するブレーキ液を貯溜する。ポンプ56は、吸入弁54及び吐出弁58を備え、液圧ユニット42内に設けられたモータMによって動作し、リザーバ52に貯溜されているブレーキ液を吸入し、そのブレーキ液を第1マスタシリンダ28側へ戻す(吐出する)機能を有している。またオリフィス60は、吐出弁58を介して第1マスタシリンダ28側へ吐出されるブレーキ液の脈動を吸収する。
【0035】
そして
図1及び
図2に示すように、車両12は、前輪18Fの速度(前輪車輪速FV)を検出する前輪車輪速センサ66F、及び後輪18Rの速度(後輪車輪速RV)を検出する後輪車輪速センサ66Rを備える。以下、前輪車輪速センサ66F及び後輪車輪速センサ66Rをまとめて車輪速センサ66ともいう。車輪速センサ66は、通信線69を介して制御装置10に通信可能に接続されている。なお、
図1及び
図2中では、ブレーキ液の流路を太い実線で描き、センサ等の信号を送信する通信線69を細い実線で描いている。
【0036】
さらに、車両12は、車両12の傾斜状態であるバンク角θを検出するバンク角センサ68を備える。本実施形態において、バンク角センサ68は、車両12に取り付けられた加速度センサ68a及び角速度センサ68bを組み合わせたセンサ群として構成されている。なお、バンク角センサ68は、この構成に限らず公知のものを適用してよく、例えば、周知の傾斜角センサを適用することができる。
【0037】
加速度センサ68aは、3軸以上の加速度を検出可能なセンサが適用されるとよく、本実施形態では、少なくとも車体16の正面視で左右方向(幅方向)にかかる加速度を検出する機能を有する。また角速度センサ68bは、車体16の角速度としてロール角速度及びヨー角速度を検出するジャイロセンサが適用されている。加速度センサ68a及び角速度センサ68bは、通信線69を介して制御装置10に通信可能に接続されている。
【0038】
ブレーキシステム14(制御装置10)のECU44は、図示しないプロセッサ、メモリ及び入出力インターフェースを備えるコンピュータ(マイクロコントローラを含む)として構成されている。ECU44は、メモリに記憶されたプログラムをプロセッサが演算処理することで、液圧ユニット42の動作を制御する本実施形態の制御手段として構成されている。特に、ECU44は、走行路のカーブ等における車両12の旋回状態で、制動力により車輪18がスリップしそうと判断された場合に、ブレーキ液圧を適宜調整させてスリップを抑制する液圧制御を行う。
【0039】
図3に示すように、運転者は、車両12を左方向又は右方向に旋回する際に、車体16の姿勢を左側又は右側に傾ける。これにより車両12には、バンク角θに応じて左右方向の力がかかる。そして、車両12が旋回している最中に、運転者の制動操作がなされると、車両12が減速して減速度を生じ、左右方向の力に合成するかたちで前後方向の力がかかることになる。
【0040】
ECU44は、旋回中に運転者によりブレーキ操作がなされて車輪18がスリップしそうな場合に、ブレーキ液圧を調整して車輪18のスリップを抑制するように構成されている。
【0041】
このため、ECU44の内部には、
図4に示すように、車輪速取得手段70、車輪減速度算出手段72、バンク角取得手段74、旋回状態判別手段76、閾値設定手段78、判定手段80及び弁制御手段82が設けられる。
【0042】
車輪速取得手段70は、車輪速センサ66(前輪車輪速センサ66F、後輪車輪速センサ66R)から検出値を受信する。そして、受信した検出値を前輪車輪速FV及び後輪車輪速RVの情報としてメモリに一時的に記憶し、また前輪車輪速FV、後輪車輪速RVを車輪減速度算出手段72に出力する。
【0043】
車輪減速度算出手段72は、車輪18の減速度を算出する減速度取得手段であり、車輪18の車輪速を微分する(所定の時間間隔の変化率を算出する)ことで減速度を得ることができる。本実施形態では、前輪車輪速FVから前輪18Fに実際にかかる前輪減速度FAを算出すると共に、後輪車輪速RVから後輪18Rに実際にかかる後輪減速度RAを算出する。なお、減速度取得手段は、他の方法(加速度センサの検出等)に基づき減速度を得てもよい。
【0044】
バンク角取得手段74は、加速度センサ68aの検出値Sa及び角速度センサ68bの検出値Sbを受信すると、これらの検出値Sa、Sbから車体16の傾斜姿勢であるバンク角θを算出する。この場合、バンク角取得手段74は、検出値Saに含まれる車両12の左右方向にかかる加速度と、検出値Sbに含まれるロール角速度及びヨー角速度の各成分とを組み合わせてバンク角θを算出する。そして、バンク角取得手段74は、算出したバンク角θをメモリに一時的に記憶すると共に、このバンク角θを旋回状態判別手段76及び閾値設定手段78に出力する。
【0045】
旋回状態判別手段76は、受け取ったバンク角θに基づき、車両12の旋回状態又は直進状態等を判別する。旋回状態判別手段76は、バンク角θに対応した角度閾値(不図示)を有し、バンク角θが所定の角度閾値以上となり且つその状態が所定時間継続した場合に、車両12の旋回状態を判別する。その一方で、バンク角θが所定の角度閾値未満、又はバンク角θの所定の角度閾値以上の状態が直ちに解消された場合には、車両12の直進状態を判別する。
【0046】
閾値設定手段78は、旋回中に、ブレーキシステム14の保持制御(ABS制御)を実施するか否かを判定するための保持制御用閾値Thを設定する。すなわち、保持制御は、後記の判定手段80にて前輪減速度FA又は後輪減速度RAと保持制御用閾値Thとを比較判定することで実施される。このため、保持制御用閾値Thは、減速度(マイナスの加速度)に対応した値で設定される。
【0047】
閾値設定手段78の内部には、バンク角・補正量マップ84を記憶した記憶手段78a(メモリの記憶領域)が設けられている。バンク角・補正量マップ84は、
図5に示すように横軸をバンク角θとし、縦軸を補正量としたグラフで表すことができる。
図5中の補正線84aは、バンク角θが0°からバンク角閾値αまでの範囲において補正量が0であり、バンク角閾値α以上になると、バンク角θが大きくなるほど補正量が線形的に増加するように設定される。なお、バンク角θと補正量の対応関数は、任意に設計することが可能であり、例えば、実験等によってバンク角θと補正量が非線形に(多項式関数で)対応付けされてもよい。
【0048】
そして、閾値設定手段78は、バンク角θが0°の場合、すなわち車両12が直進状態の場合における保持制御用閾値Thの初期閾値Th0を記憶手段78aに記憶している。この初期閾値Th0は、車両12の直進状態で減速度が生じた場合に保持制御を開始するための所定値である。閾値設定手段78は、旋回時に、バンク角θを引数として補正量を設定すると、この補正量を初期閾値Th0に加えることで、低減速度側に移動させた補正後の閾値(補正後閾値Th1)を算出する。補正後閾値Th1は、初期閾値Th0よりも減速度が低いため、旋回中にブレーキ操作で減速度が大きくなった場合に、保持制御を早期に開始させることができる。
【0049】
つまり、閾値設定手段78は、保持制御用閾値Thとして、バンク角θがバンク角閾値αよりも小さい場合に初期閾値Th0を出力し、バンク角θがバンク角閾値α以上の場合にバンク角θに従って補正した補正後閾値Th1を出力する。
【0050】
判定手段80は、前輪18Fの実際の減速度(前輪減速度FA)と、受け取った保持制御用閾値Th(初期閾値Th0、補正後閾値Th1)とを比較して、保持制御用閾値Thに対し前輪減速度FAがどのような状態であるかを判定する。具体的には、前輪減速度FAが保持制御用閾値Thよりも大きい減速度(保持制御用閾値Thよりも小さい加速度)になると保持制御の開始を判定する。
【0051】
一方、弁制御手段82は、判定手段80による判定結果を受けて、液圧ユニット42の入口弁46F及び出口弁48Fの開閉動作を行う。この場合、弁制御手段82は、入口弁46F及び出口弁48Fに対するパルス出力によってこれらの弁の開閉を個別に切り替える。
【0052】
例えば、弁制御手段82は、判定手段80により保持制御の開始が判定された場合に、常開型の入口弁46Fを閉弁することで、前輪キャリパ38Fにかかるブレーキ液圧(キャリパ圧)を保持する。また、保持制御では、ある程度の時間経過後にブレーキ液圧を一時的に増圧してもよい。この際、弁制御手段82は、入口弁46Fを開弁することで、前輪キャリパ38Fへのブレーキ液圧の伝達を再び許容する。
【0053】
保持制御を実施しても、車輪18にスリップが生じそうな場合には、常閉型の出口弁48Fを開弁することで、ブレーキ液をリザーバ52に逃がして減圧する。さらに、判定手段80において保持制御用閾値Thよりも前輪減速度FAが小さい状態を判定した場合には、出口弁48Fを閉弁する一方で入口弁46Fを開弁してキャリパ圧を増圧する。またさらに、弁制御手段82は、保持制御用閾値Thよりも前輪減速度FAが再び大きくなった場合に、保持制御を再実施する。
【0054】
ECU44は、後輪18Rに対しても、上記と同様の機能部として、閾値設定手段78、判定手段80及び弁制御手段82を有している(なお、車輪速取得手段70、車輪減速度算出手段72、バンク角取得手段74、旋回状態判別手段76は共有である)。つまり、ECU44は、バンク角θに基づき後輪18R用の保持制御用閾値Thを設定して、この保持制御用閾値Thと後輪減速度RAとを比較して、後輪18Rの保持制御の実施を判定する。よって、車両12の旋回時に、ECU44は、前輪18Fと後輪18Rを個別に制御することで、車両12全体の制動力を最適化することができる。
【0055】
本実施形態に係る制御装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、以下、その動作及び効果について説明する。なお、以下の動作説明も、これまでと同様に、前輪18Fに対する制御について代表的に述べていく。
【0056】
運転者は、車両12の走行中に走行路のカーブ等において、車体16を傾斜させることで旋回する。従って、旋回中は、車体16のバンク角θが変動する。そして車両12の走行中に、
図4に示すように、ECU44(制御装置10)のバンク角取得手段74は、加速度センサ68a、角速度センサ68bから検出値Sa、Sbを受信して、バンク角θを定常的に算出している。また旋回状態判別手段76は、バンク角θの検出結果に基づいて車両12の旋回状態又は直進状態を判別している。そして、旋回状態判別手段76が旋回状態を判別すると、閾値設定手段78が保持制御用閾値Thを設定する。
【0057】
この場合、閾値設定手段78は、記憶手段78aに記憶されているバンク角・補正量マップ84を読み出す。さらに読み出したバンク角・補正量マップ84を参照してバンク角θから補正量を抽出する(
図5も参照)。補正量の抽出後、閾値設定手段78は、初期閾値Th0に補正量を加えて補正後閾値Th1を算出して、判定手段80に出力する。また保持制御用閾値Thは、旋回中に変化する車体16のバンク角θに応じて逐次更新される。
【0058】
一方、ECU44の車輪速取得手段70は、前輪車輪速センサ66F及び後輪車輪速センサ66Rから前輪車輪速FV及び後輪車輪速RVを受信している。この受信に伴い、車輪減速度算出手段72は、前輪車輪速FVから前輪減速度FAを算出して、この前輪減速度FAを判定手段80に出力する。判定手段80は、前輪減速度FAと、保持制御用閾値Th(初期閾値Th0、補正後閾値Th1)とを比較して、保持制御を実施するか否かを判定する。
【0059】
時点t1において運転者がブレーキレバー24の引き操作を行い第1マスタシリンダ28にてブレーキ液圧(マスタシリンダ圧)が発生し、前輪キャリパ38Fに液圧が作用し、前輪ディスク36Fを制動させる。そのため、車体16が減速を開始し、車輪減速度算出手段72が前輪車輪速FVから算出する前輪減速度FAも大きくなる。
【0060】
この際、判定手段80は、車輪減速度算出手段72の前輪減速度FAを監視、つまり保持制御用閾値Thとの比較を行っている。時点t2において、前輪減速度FAが保持制御用閾値Thに達する(
図6中で保持制御用閾値Th以上になる)ことを判定すると、弁制御手段82に保持制御の開始を指示する。なお、判定手段80は、前輪減速度FAが保持制御用閾値Th以上となってから時間計測を行い、所定時間閾値以上継続したことに基づき、保持制御の実施を指示してもよい。
【0061】
弁制御手段82は、判定手段80からの保持制御の指示に基づき、保持制御として、常開していることでマスタシリンダ圧の液圧を前輪キャリパ38Fに伝達していた入口弁46Fを閉弁する。これにより、時点t2以降は、マスタシリンダ圧が上昇する一方で、キャリパ圧が維持されて、相互の液圧が非連動となる。
【0062】
本実施形態では、バンク角θに応じて保持制御用閾値Thを低減速度側に変化させている。このため、車両12の旋回中に前輪18Fが減速した際に、保持制御を早期に開始することができる。その結果、前輪18Fのスリップを抑制することが可能となる。
【0063】
また、ECU44は、保持制御の実施中、前輪減速度FAが保持制御用閾値Th(補正後閾値Th1)に近づく時点t3において入口弁46Fを一時的に開弁する。これにより、前輪キャリパ38Fのキャリパ圧が緩やかに上昇して前輪18Fに制動力をかけることができる。以降は、例えば、前輪減速度FAが保持制御用閾値Thを下回る(低減速度側になる)まで同様の処理を実施し、前輪減速度FAが保持制御用閾値Thよりも下回る(低減速度側になる)と、保持制御を終了する。この際、弁制御手段82は、入口弁46Fを開弁することで、前輪キャリパ38Fへのブレーキ液の流動を許容する。またさらに、前輪減速度FAが保持制御用閾値Th以下となれば、再び保持制御を行う。
【0064】
なお、後輪ブレーキ22Rの制御も、前輪ブレーキ22Fの制御とは別に行われ、上記と同様の処理がなされる。
【0065】
以上のように、本実施形態に係る制御装置10は、旋回中の車両12の傾斜状態であるバンク角θが大きくなると、保持制御用閾値Thを低減速度側に補正することで、保持制御を適切なタイミングで実施することができる。すなわち、保持制御用閾値Thが低減速度側に変化すると、前輪減速度FA及び後輪減速度RAが小さな段階で、保持制御を開始することが可能となる。これにより、車両12の旋回中にブレーキ操作がなされた場合に、車輪18の制動力が早期に抑制(適切に配分)される。従って、旋回時における車両12の安定性をより向上させることができる。
【0066】
この場合、制御装置10は、バンク角θがバンク角閾値α以上になった段階で初期閾値Th0の補正を開始することで、車線変更等の微小な動作におけるバンク角θを許容することができる。そして、バンク角θが大きくなるほど補正量を大きくすることで、バンク角θが大きい時にはより早期に保持制御を開始することが可能となる。
【0067】
また、バンク角取得手段74は、車両12の左右方向の加速度、ロール角速度、ヨー角速度に基づきバンク角θを算出することで、高精度なバンク角θを得ることができる。よって、保持制御をより適切なタイミングで実施することができる。さらに車両12の減速度として前輪車輪速FVから前輪減速度FA(又は後輪車輪速RVから後輪減速度RA)を算出することで、高精度な減速度を得て、保持制御をより一層適切なタイミングで実施することができる。
【0068】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、発明の要旨に沿って種々の改変が可能である。