【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0042】
以下、実施例、比較例および参考例で使用した原料、製造工程で使用した微生物、酵素、前培養液、および得られた組成物についてFD収量(凍結乾燥収量)および成分含有量の測定方法をまとめて説明する。
【0043】
(原料)
ショウガ粉末:株式会社坂田信夫商店製「黄金生姜」
(微生物)
【0044】
グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans): 独立行政法人製品評価技術基盤機構製、「Gluconobacter oxydans NBRC 3292」
【0045】
ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus): 独立行政法人製品評価技術基盤機構製、「Lactobacillus acidophilus NBRC 13951」
(酵素)
セルラーゼ1:協和化成株式会社製、「アクレモセルラーゼ KM」
セルラーゼ2:新日本化学工業株式会社製、「スミチーム X」
アミラーゼ1:ノボザイムズジャパン株式会社製、「BAN240L」
アミラーゼ2:新日本化学工業株式会社製、「スミチーム S」
リパーゼ1:天野エンザイム株式会社製、「リパーゼ AS」
【0046】
(前培養液)
グルコノバクター・オキシダンスの前培養液:30℃にて、好気条件で1日間培養したものを前培養液とした。
ラクトバチルス・アシドフィルスの前培養液:30℃にて、1日間静置培養したものを前培養液とした。
【0047】
(成分含有量の測定方法)
グルコース :グルコースオキシダーゼ法
グルコン酸 :F−kit「D−グルコン酸/D−グルコノδラクトン」法
乳酸 :HPLC法
酢酸 :HPLC法
直糖 :ソモギー法
全糖 :ソモギー法
ジンゲロール :HPLC法
ショウガオール :HPLC法
水溶性食物繊維 :Prosky変法
不溶性食物繊維 :Prosky変法
【0048】
(FD収量)
各処理液を全量凍結乾燥して得られた乾燥物重量として示した。
【0049】
[1]酵素処理条件の検討
参考例1
水90mlにショウガ粉末10gとCaCl
2 0.5gを加えたショウガ懸濁液に、アミラーゼ1を100μl添加し、70℃で17時間酵素処理を行い、続いて65℃で6時間酵素処理(第2段目の酵素処理)を行い、さらにアミラーゼ2を0.2g添加し、55℃で24時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間の条件で酵素を失活させ、その後凍結乾燥して酵素処理物1を得た。
【0050】
参考例2
参考例1の第2段目の酵素処理の代わりに、セルラーゼ1を0.01g添加し、65℃で6時間酵素処理を行ったこと以外は参考例1と同様に行い、酵素処理物2を得た。
【0051】
参考例3
水90mlにショウガ粉末10gとCaCl
2 0.5gを加えたショウガ懸濁液に、セルラーゼ1およびセルラーゼ2をそれぞれ0.02gおよび0.01g添加し、55℃で4時間酵素処理を行い、続いてアミラーゼ1を200μl添加し、70℃で8.5時間酵素処理を行い、さらにアミラーゼ2を0.4g添加し、55℃で16時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間の条件で酵素を失活させ、その後凍結乾燥して酵素処理物3を得た。
【0052】
比較例1
原料のショウガ粉末を使用した。
【0053】
参考例1〜3で得られた酵素処理物1〜3および比較例1のショウガ粉末について、FD収量およびグルコース、直糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維の含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より、参考例1〜3で得られた酵素処理物1〜3のいずれについても、比較例1のショウガ粉末に比べてグルコースの含有量が大きく増大した。これらの結果から、ショウガ粉末をアミラーゼやセルラーゼで処理することで、ショウガ由来のでんぷん質やセルロースが分解され、グルコースが生成していることが確認された。このグルコースは、後述する実施例1で示されるように、ショウガ粉末の発酵工程において炭素源として利用することができる。
【0056】
[2]グルコン酸のショウガ辛み成分への影響
参考例4
水60mlにショウガ粉末5gを加えたショウガ懸濁液を85℃で28時間加熱し、この加熱処理液にグルコン酸を添加して、乾燥物中のグルコン酸濃度が5重量%程度になるようにした。そして、グルコン酸を含む加熱処理液を121℃で40分間殺菌し、その後凍結乾燥してグルコン酸を含む加熱処理物を得た。
【0057】
参考例5
グルコン酸を添加しないこと以外は参考例4と同様に行い、グルコン酸を含まない加熱処理物を得た。
【0058】
参考例4〜5で得られた加熱処理物について、FD収量およびグルコン酸、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定した。その結果を原料であるショウガ粉末(比較例1)の結果とともに表2に示す。
【0059】
また、参考例4〜5で得られた加熱処理物および比較例1のショウガ粉末それぞれのジンゲロールとショウガオールの含有量をもとに、両成分の合計量に対するショウガオールの含有割合を算出した。
【0060】
【表2】
【0061】
参考例5および4のショウガオールの含有割合はそれぞれ51.9%および52.4%となった。これらの結果から、ショウガ粉末の加熱後にグルコン酸が存在する条件でも、ショウガ粉末中のジンゲロールの含有量とショウガオールの含有量にほとんど影響を与えないことが分かった。
【0062】
[3]フラスコ培養によるショウガ発酵組成物の作製
実施例1
水50mlにショウガ粉末10gを加えたショウガ懸濁液に、セルラーゼ1、セルラーゼ2、CaCl
2をそれぞれ0.02g、0.01g、0.5g添加し、55℃で4時間酵素処理を行い、続いてアミラーゼ1を200μl添加し、70℃で9時間酵素処理を行い、さらにアミラーゼ2を0.4g添加し、55℃で19時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間殺菌した後、室温まで冷却し、酵素処理液を得た。次いで、酵素処理液に、グルコノバクター・オキシダンス NBRC3292(独立行政法人製品評価技術基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、24時間、140rpmで培養した。培養後、121℃で20分間殺菌し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0063】
実施例2
アミラーゼ2の酵素処理時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0064】
実施例3
実施例1で使用した酵素処理液の代わりに、水100mlにショウガ粉末0.5g、炭素源としてグルコース4gを加えた懸濁液を121℃で20分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液を使用したこと以外は実施例1と同様に培養および殺菌を行った。なお、培養終了時に、グルコースとグルコン酸の濃度を測定した。殺菌後、培養液にショウガ粉末33.8gと水300mlを添加および混合し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0065】
比較例1
原料のショウガ粉末を使用した。
【0066】
実施例1〜3で得られた発酵組成物について、FD収量およびグルコース、グルコン酸、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表3に示す。
【0067】
実施例1〜3で得られた発酵組成物および比較例1のショウガ粉末を訓練されたパネリスト5名が食し、辛みを下記評価基準により評価した。結果はそれぞれ評定平均値として求め、下記基準により評価した。その結果を表3に示す。
(辛みの評価基準)
1:辛みをほとんど感じない
2:辛みを少し感じる
3:辛みを感じる
4:辛みを少し強く感じる
5:比較例1のショウガ粉末と同程度に辛みが強い
(評定平均値の評価基準)
1:平均値1.5未満
2:平均値1.5以上2.5未満
3:平均値2.5以上3.5未満
4:平均値3.5以上4.5未満
5:平均値4.5以上
【0068】
【表3】
【0069】
表3より、実施例1で得られた発酵組成物では、比較例1のショウガ粉末に比べてグルコースの含有量およびグルコン酸の含有量がそれぞれ約2.5倍および約350倍増大し、また、ジンゲロールの含有量が約1/2に低減し、ショウガオールの含有量が約4倍増大した。また、実施例1で得られた発酵組成物は比較例1のショウガ粉末に比べて辛みを低減する傾向が見られた。
【0070】
実施例1ではグルコノバクター・オキシダンス NBRC3292(独立行政法人製品評価技術基盤機構製)によるグルコン酸発酵により、ショウガ原料からショウガ発酵組成物を得られるかどうか検討した。炭素源としては、ショウガ粉末を酵素処理することで、ショウガ由来のでんぷん質やセルロースが分解されて生成したグルコースを利用した。前述したように、実施例1で得られた組成物ではショウガ粉末に比べてグルコン酸の含有量が大きく増大したことから、グルコン酸発酵により、酵素処理で生成したグルコースがグルコン酸に変換されたものと推測される。
【0071】
前述した成分のうち、辛みを強める成分はショウガオールとジンゲロールであり、辛みを低減させる成分はグルコン酸とグルコースである。実施例1で得られた発酵組成物では、比較例1のショウガ粉末に比べてグルコン酸とグルコースの含有量が増大したため、全体として辛みが低減したものと推測される。
【0072】
実施例2で得られた発酵組成物では、実施例1に比べてグルコン酸の含有量が増大した。これは、実施例2では、実施例1に比べてアミラーゼの反応時間を長くした分、グルコン酸発酵の基質となるグルコース生成量が増加したことによるものと推測される。
【0073】
実施例3では炭素源としてグルコースを添加しており、この点で、炭素源として酵素処理によりショウガ由来のグルコースを利用した実施例1および2と異なる。実施例3において、培養終了時のグルコン酸濃度は40.6g/L、残存グルコース濃度は0.9g/Lであり、添加したグルコースがグルコン酸発酵でほぼ全てグルコン酸に変換されたものと推測される。実施例3では培養後にショウガ粉末を後添加することで、発酵組成物の粉末化が容易になった。
【0074】
[4]実施例3に記載の方法の後で行う加熱処理および酵素処理の効果
実施例4
水100mlにショウガ粉末0.5g、炭素源としてグルコース4gを加えた懸濁液の代わりに、水100mlにショウガ粉末1g、炭素源としてグルコース4gを加えた懸濁液を使用したこと、および、ショウガ粉末の後添加と凍結乾燥の間に85℃で6時間加熱したこと以外は実施例3と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0075】
実施例5
ショウガ粉末の後添加と加熱工程の間にセルラーゼ1およびセルラーゼ2をそれぞれ8.3mgおよび4.4mg添加し、40℃で50時間セルラーゼ処理を行った後に121℃で20分間加熱し、酵素を失活させたこと以外は実施例4と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0076】
実施例6
セルラーゼ処理において、リパーゼ1を17mg、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween80)を4ml添加したこと以外は実施例5と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0077】
実施例7
セルラーゼ処理の後の85℃で6時間加熱を行わなかったこと以外は実施例5と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0078】
実施例4〜7で得られた発酵組成物について、FD収量およびグルコース、グルコン酸、直糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
表4より、実施例4〜7で得られた発酵組成物はいずれも比較例1のショウガ粉末に比べて辛みが低減しており、辛み低減効果は大きい方から、実施例5および6、実施例4および7であった。実施例4と5の比較から、実施例5で行ったセルラーゼ処理が辛み低減に寄与していることが分かる。また、実施例5と7の比較から、実施例5で行った加熱工程が辛み低減に寄与していることが分かる。
【0081】
[5]ジャー培養によるショウガ発酵組成物の作製
実施例8
水3Lにショウガ粉末30gとグルコース120gを加えた懸濁液を105℃で30分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液に、グルコノバクター・オキシダンス NBRC 3292(独立行政法人製品評価基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、48時間、350rpm、0.4vvmで培養した。培養後、121℃で20分間殺菌した。殺菌後、培養液3,010gに対してショウガ粉末833gと水8,470mlを添加および混合し、ショウガ粉末を後添加した混合物にセルラーゼ1およびセルラーゼ2をそれぞれ2.07gおよび1.10g添加し、40℃で96時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間加熱し、酵素を失活させ、続いて85℃で24時間加熱し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0082】
実施例9
セルラーゼ処理において、リパーゼ1を0.43g、Tween80を6.4ml添加したこと以外は実施例8と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0083】
実施例10
セルラーゼ処理および酵素失活処理を行わず、また、凍結乾燥前に85℃で24時間加熱する代わりに85℃で35時間加熱したこと以外は実施例8と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0084】
実施例11
セルラーゼ処理において、セルラーゼ1およびセルラーゼ2を使用してそれぞれを3.2gおよび1.7g添加し、また、凍結乾燥前に85℃で24時間加熱する代わりに85℃で35時間加熱したこと以外は実施例9と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0085】
実施例8〜11で得られた発酵組成物について、FD収量およびグルコース、グルコン酸、直糖、全糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表5に示す。
【0086】
また、実施例8〜11で得られた発酵組成物および比較例1のショウガ粉末それぞれの直糖(水に溶けた還元糖量)と全糖(水に溶ける糖類と水に溶けない糖類の全てを酸分解して得られた還元糖量)をもとに、還元糖の溶解率を下記式に基づいて算出した。その結果を表5に示す。一般に、直糖にはグルコースを含む単糖類、二糖類、オリゴ糖など辛み低減にプラスに作用する還元糖が含まれるため、還元糖の溶解率が増大するにつれて辛み低減効果は増大する。
還元糖の溶解率(%)=(直糖/全糖)×100
【0087】
【表5】
【0088】
実施例8および実施例9はそれぞれ実施例5および実施例6で実施したフラスコ培養をジャー培養にスケールアップしたものである。表5より、グルコース、グルコン酸などの含有量も表4のフラスコ培養の結果と同様であり、FD収量も問題なかった。実施例8〜9で得られた発酵組成物はいずれも比較例1のショウガ粉末に比べて辛みが低減しており、また、実施例8に比べて実施例9の方が、辛み低減効果が大きかった。これらの辛み低減効果は、実施例8に比べて実施例9の方が、還元糖の溶解率が増大していることからも理解できる。これらの結果から、実施例8では、ショウガ粉末を後添加した後にセルラーゼ処理を行うことで、辛み低減に寄与しているものと推測される。また、実施例9では、セルラーゼ処理の際にリパーゼ処理を組合せることで、辛み低減に寄与しているものと推測される。
【0089】
実施例10は酵素処理を行っていないため、実施例4で実施したフラスコ培養をジャー培養にスケールアップしたものに対応する。実施例4と同様に、実施例10では比較例1に比べて辛みが低減しているが、酵素処理を行っていないため、実施例8〜9に比べて辛み低減効果が小さくなっていると考えられる。また、実施例11は実施例9と同じ工程を行っているが、実施例9に比べて辛み低減効果が大きくなっている。これは、実施例11では、実施例9に比べてセルラーゼの添加量を増やし、加熱時間を長くしたためである。
【0090】
[6]味覚センサーによる評価試験
実施例7〜11で得られた発酵組成物および比較例1で用いたショウガ粉末について、それぞれの3%水溶液を被験液として、電子味覚システム(Astree、Alpha M.O.S社)の7種類のセンサーの応答値を測定した(n=3)。そして、得られたセンサー応答値、グルコン酸含量、グルコース含量、ジンゲロール含量、ショウガオール含量、辛み評価結果を用いて主成分分析を行った。結果を
図1に示す。
【0091】
図1から、実施例7〜11と比較例1とは距離が大きく離れており、大きく2つに区分けできることが分かる。
図1では、第一主成分(横軸)が発酵による影響を示す指標を表しており、第二主成分(縦軸)が糖による影響を示す指標を表している。括弧内の数値は各主成分軸の寄与率を示している。第一主成分軸では右方向、第二主成分では上方向が、ショウガの辛みが低減する方向を示している。
図1から、比較例1に比べて実施例7〜11では、グルコン酸発酵を行うことで、ショウガの辛みが低減するものと理解できる。また、実施例7〜11の中でも辛みが異なるが、発酵組成物中の糖類による影響があることが示唆された。
【0092】
[7]発酵組成物中の単糖類および二糖類の定量分析
前述した主成分分析で、発酵組成物中の糖類による影響があることが示唆されたが、糖類としては、まずグルコースが考えられる。たとえば実施例9の発酵組成物におけるグルコースの含有量は、比較例1と比べて大きく増大する一方、不溶性食物繊維の含有量は、比較例1と比べて大きく減少している。これは、発酵工程後のセルラーゼ処理で不溶性食物繊維が分解され、グルコースが生成することを意味している。ここで、不溶性食物繊維はグルコース以外の構成糖も含むため、グルコース以外の糖類も生成している可能性がある。そこで、実施例9の発酵組成物について、HPLC法を用いて単糖類(フルクトース、グルコース、アラビノース、キシロース、マンノース、ガラクトース、ガラクツロン酸)、二糖類(スクロース、マルトース、セロビオース)の定量分析を行った。結果を表6に示す。
【0093】
【表6】
【0094】
表6の結果から、グルコース以外にも、多種類の単糖類や二糖類が検出された。これらの中ではグルコースの含有量が最も大きいが、グルコース以外の糖類が存在することによっても、ショウガの辛み低減に寄与していると推測される。
【0095】
[8]発酵工程とショウガ粉末の後添加が辛みの低減効果に及ぼす影響
実施例12
水100mlにショウガ粉末1gとグルコース4gを加えた懸濁液を121℃で20分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液に、グルコノバクター・オキシダンス NBRC3292(独立行政法人製品評価技術基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、24時間、140rpmで培養した。培養後、121℃で20分間殺菌した。殺菌後、培養液100mlに対してショウガ粉末29gを添加および混合し、該ショウガ粉末を後添加した混合物に、セルラーゼ1、2、水をそれぞれ79mg、46mg、240ml添加し、40℃で96時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間加熱し、酵素を失活させ、続いて85℃で24時間加熱し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0096】
実施例13
ショウガ粉末の添加量を18gとし、酵素処理におけるセルラーゼ1および2の添加量をそれぞれ53mgおよび32mgとし、水の添加量を130mlとしたこと以外は、実施例12と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0097】
実施例14
ショウガ粉末の添加量を13gとし、酵素処理におけるセルラーゼ1および2の添加量をそれぞれ42mgおよび25mgとし、水の添加量を80mlとしたこと以外は、実施例12と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0098】
実施例12〜14で得られた発酵組成物について、グルコース、グルコン酸、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、実施例2の発酵組成物、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表7に示す。また、実施例2、12〜14で得られた発酵組成物、および比較例1で用いたショウガ粉末について、実施例7〜11と同様の方法で主成分分析を行った。結果を
図2に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
実施例12〜14では、後添加するショウガの添加量を変化させて、異なるグルコン酸濃度を有する発酵組成物を作製した。実施例12〜14のうち、実施例14のショウガ添加量が最も少ないため、実施例14の発酵組成物がグルコン酸発酵の影響を最も受けたものである。実施例14は比較例1に比べて辛みが低減しており、これはグルコン酸発酵の影響によるものと考えられる。また、実施例2および14ではショウガ粉末の後添加の有無で相違するものの、グルコン酸等の含有量は同程度となっており、辛みも同程度であることから、ショウガ粉末の後添加の有無は辛みの低減効果に大きな影響を与えないものと理解できる。
【0101】
図2から、実施例2、12〜14と比較例1とは距離が大きく離れており、大きく2つに区分けできることが分かる。
図2では、第一主成分(横軸)が発酵による影響を示す指標を表しており、右方向が、ショウガの辛みが低減する方向を示している。
図2から、比較例1に比べて実施例2、12〜14では、グルコン酸発酵を行うことで、ショウガの辛みが低減するものと理解できる。なお、実施例2と14ではショウガ粉末の後添加の有無で相違するものの、
図2では互いに近傍に位置しているため、ショウガの後添加の有無は辛みの低減効果に大きな影響を与えないものと理解できる。
【0102】
[9]乳酸菌による発酵工程を用いたショウガ発酵組成物の作製
実施例15
水400mlにショウガ粉末12gとグルコース8gを加えた懸濁液を121℃で20分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液に、ラクトバチルス・アシドフィルス NBRC 13951(独立行政法人製品評価基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、48時間で静置培養した。培養後、121℃で20分間殺菌した。殺菌後、培養液100mlに対してショウガ粉末68gを添加および混合し、該ショウガ粉末を後添加した混合物に、セルラーゼ1、セルラーゼ2、リパーゼ1、Tween80、水をそれぞれ170mg、100mg、32mg、450μl、500ml添加し、40℃で96時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間加熱し、酵素を失活させ、続いて85℃で35時間加熱し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0103】
実施例16
ショウガ粉末の添加量を20gとし、酵素処理におけるセルラーゼ1、セルラーゼ2、リパーゼ1、Tween80、水の添加量をそれぞれ55mg、32mg、10mg、145μl、100mlとしたこと以外は、実施例15と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0104】
実施例17
ショウガ粉末の後添加において、培養液200mlに対してショウガ粉末14.5gを添加したこと、および、酵素処理において、セルラーゼ1、セルラーゼ2、リパーゼ1、Tween80の添加量をそれぞれ50mg、29mg、9mg、150μlとし、水を添加しなかったこと以外は実施例15と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0105】
実施例15〜17で得られた発酵組成物について、乳酸、酢酸、グルコース、直糖、全糖、還元糖の溶解率、ジンゲロール、ショウガオール、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維の含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表8に示す。
【0106】
【表8】
【0107】
実施例15〜17では、後添加するショウガの添加量を変化させて、異なる乳酸濃度を有する発酵組成物を作製した。実施例15〜17のうち、実施例17のショウガ添加量が最も少ないため、実施例17の発酵組成物が乳酸発酵の影響を最も受けたものである。
表8より、実施例15〜17で得られた発酵組成物は、比較例1のショウガ粉末に比べて
辛みが低減していた。これは不溶性食物繊維が分解されて生成するグルコース、直糖の含有量が高いことによるものと推測される。
【0108】
実施例17の発酵組成物では実施例15に比べて辛みの低減効果が大きくなっている。これは、実施例17の乳酸濃度が実施例15に比べて5倍以上高いことによるものと推測される。