特許第6692337号(P6692337)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692337
(24)【登録日】2020年4月16日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】発酵組成物の製造方法および発酵組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20200427BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALN20200427BHJP
   A61P 31/04 20060101ALN20200427BHJP
   A61P 39/06 20060101ALN20200427BHJP
   A61P 17/18 20060101ALN20200427BHJP
   A61P 9/00 20060101ALN20200427BHJP
   A61K 35/74 20150101ALN20200427BHJP
   A61K 35/744 20150101ALN20200427BHJP
   A61K 47/12 20060101ALN20200427BHJP
【FI】
   A23L33/10
   !A61K36/9068
   !A61P31/04
   !A61P39/06
   !A61P17/18
   !A61P9/00
   !A61K35/74 A
   !A61K35/744
   !A61K47/12
【請求項の数】4
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-193517(P2017-193517)
(22)【出願日】2017年10月3日
(65)【公開番号】特開2018-57377(P2018-57377A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2017年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-196517(P2016-196517)
(32)【優先日】2016年10月4日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591210622
【氏名又は名称】ヤヱガキ醗酵技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今城 小百合
(72)【発明者】
【氏名】石原 伸治
(72)【発明者】
【氏名】常 勇進
【審査官】 野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−068764(JP,A)
【文献】 特開2001−238593(JP,A)
【文献】 特開2002−065199(JP,A)
【文献】 特開2005−058132(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/093104(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/126476(WO,A1)
【文献】 特開2017−099372(JP,A)
【文献】 特開2017−141199(JP,A)
【文献】 特開2017−145235(JP,A)
【文献】 特開2017−141201(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00−35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガ科植物原料をアミラーゼおよびセルラーゼにより40〜100℃で処理し、前記処理物をグルコノバクター属微生物である酢酸菌で発酵さ(ただし、エタノールを0.5重量%以上含む条件での発酵を除く)た後、50〜130℃で加熱する工程、または、
ショウガ科植物原料をグルコースの存在下でグルコノバクター属微生物である酢酸菌で発酵させ(ただし、エタノールを0.5重量%以上含む条件での発酵を除く)、前記発酵物に第2のショウガ科植物原料を添加し、85〜121℃で加熱する工程を含む、
発酵組成物の製造方法。
【請求項2】
グルコノバクター属微生物がグルコノバクター・エスピーである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
さらに、酵素処理工程を有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
酵素処理が、セルラーゼ、アミラーゼまたはリパーゼによる処理である、請求項3に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵組成物の製造方法および発酵組成物に関し、特に辛みが低減したショウガ発酵組成物の製造方法およびショウガ発酵組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ショウガには、ジンゲロール、ショウガオール等の成分が含まれており、殺菌作用、抗酸化作用、血行促進等の様々な効能があることが知られている。このショウガについては様々な研究が行われており、たとえばショウガ原料を菌類で発酵させた発酵液と混合した後、加熱熟成処理することで、ショウガ原料中のジンゲロールをショウガオールに変換するショウガオールの富化方法が知られている(特許文献1)。しかしながら、ショウガオールはジンゲロールよりも辛みが強いため、ショウガオールを富化させる方法で得られたショウガではショウガ原料よりも辛みが強くなってしまう。
【0003】
近年、前述したように様々な効能があるショウガをサプリメントとしても摂取したいとの要望があるが、従来のショウガでは辛みが強すぎてサプリメントとして適用し難いのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−032248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、辛みが低減したショウガ発酵組成物の製造方法およびショウガ発酵組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、辛みが低減したショウガ発酵組成物の製造方法について、種々検討したところ、それ自体殺菌作用を有するショウガであっても酢酸菌または乳酸菌であれば発酵させることができ、得られたショウガ発酵組成物において、辛みの低減作用の大きい成分が増大することで、ショウガの辛みが低減することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ショウガ科植物原料を酢酸菌または乳酸菌で発酵させる工程を有する、発酵組成物の製造方法に関する。
【0008】
酢酸菌はグルコノバクター属微生物であることが好ましい。
【0009】
グルコノバクター属微生物はグルコノバクター・エスピーであることが好ましい。
【0010】
乳酸菌はラクトバチルス属微生物であることが好ましい。
【0011】
ラクトバチルス属微生物はラクトバチルス・エスピーであることが好ましい。
【0012】
さらに、酵素処理工程を有することが好ましい。
【0013】
酵素処理が、セルラーゼ、アミラーゼまたはリパーゼによる処理であることが好ましい。
【0014】
発酵工程の後に、第2のショウガ科植物原料を添加する工程を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明は、グルコン酸または乳酸を含むショウガ発酵組成物に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ショウガ科植物原料を酢酸菌または乳酸菌で発酵させる工程を有するため、従来に比べて辛みが大きく低減したショウガ発酵組成物を製造することができる。その結果、サプリメントとしても適用可能なショウガ発酵組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例7〜11、比較例1における電子味覚システムによる主成分分析結果を示すグラフである。
図2】実施例2、12〜14、比較例1における電子味覚システムによる主成分分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(1)発酵組成物の製造方法
本発明の発酵組成物の製造方法は、ショウガ科植物原料を酢酸菌または乳酸菌で発酵させる工程を有することを特徴とする。ショウガ科植物原料を酢酸菌または乳酸菌で発酵させる工程は、ショウガ科植物原料に酢酸菌または乳酸菌を作用させて、ショウガ科植物原料を発酵させる工程である。
【0019】
ショウガ科植物原料としては、たとえば、黄金生姜、三州生姜、黄生姜、金時生姜、谷中生姜などが挙げられる。ショウガ科植物原料の形態は、特に限定されず、根茎をそのまま用いる他、スライス、粉砕物、搾汁、抽出物などとして用いることができる。粉砕物としては、たとえば、粉末、顆粒などが挙げられる。搾汁や抽出物は液状であってもよいが、ペースト状や粉末であってもよい。抽出物は、適当な溶媒を用いて得ることができ、溶媒としては、たとえば、水、エタノール、含水エタノールなどが挙げられる。これらの中では、粉末、特に乾燥粉末が好ましい。
【0020】
酢酸菌としては、特に限定されず、たとえば、グルコノバクター(Gluconobacter)属、アセトバクタ−(Acetobacter)属、グルコンアセトバクター属(Gluconacetobacter)、アサイア(Asaia)属、アシドモナス(Acidomonas)属、アシディフィラム(Acidiphilium)属などに属する微生物が挙げられるが、グルコノバクター属が好ましい。
【0021】
グルコノバクター属に属する酢酸菌としては、たとえば、グルコノバクター・エスピー(Gluconobacter sp.)、グルコノバクター・フラテウリ(Gluconobacter frateurii)、グルコノバクター・セリナス(Gluconobacter cerinus)、グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans)、グルコノバクター・アルビダス(Gluconobacter albidus)などが挙げられる。これらの中では、グルコノバクター・エスピーが好ましい。
【0022】
乳酸菌としては、特に限定されず、たとえば、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、リューコノストック(Leuconostoc)属、オエノコッカス(Oenococcus)属、ワイセラ(Weissella)属、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ストレプトコッカス属(Streptococcus)などに属するものが挙げられる。これらの中では、ラクトバチルス属が好ましい。
【0023】
ラクトバチルス属に属する乳酸菌としては、たとえば、ラクトバチルス・エスピー(Lactobacillus sp.)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidphilus)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブチネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・カルバタス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス・デルブリュッキイ(Lactobacillus delburuekii)、ラクトバチルス・フェルメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス・ヒルガルディ(Lactobacillus hilgardii)、ラクトバチルス・ケフィア(Lactobacillus kefir)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバチルス・サケ(Lactobacillus sake)などが挙げられる。これらの中では、ラクトバチルス・エスピーが好ましい。
【0024】
ペディオコッカス属に属する乳酸菌としては、たとえば、ペディオコッカス・エスピー(Pediococcus sp.)、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・セレビジア(Pediococcus cerevisiae)、ペディオコッカス・ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス・デキストリニクス(Pediococcus dextrinicus)、ペディオコッカス・ハロフィラス(Pediococcus halophilus)、ペディオコッカス・イノピナタス(Pediococcus inopinatus)、ペディオコッカス・パーブラス(Pediococcus parvulus)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス・ウリナエッキー(Pediococcus urinaeequi)などが挙げられる。
【0025】
リューコノストック属に属する乳酸菌としては、たとえば、リューコノストック・エスピー(Leuconostoc sp.)、リューコノストック・メセンテロイエデス(Leuconostoc mesenteroides)、リューコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis)などが挙げられる。
【0026】
オエノコッカス属に属する乳酸菌としては、オエノコッカス・オエニ(Oenococcus oeni)が挙げられる。
【0027】
ワイセラ属に属する乳酸菌としては、ワイセラ・パラメセンテロイデス(Weissela paramesenteroides)が挙げられる。
【0028】
ショウガ科植物原料に酢酸菌または乳酸菌を作用させる方法としては、特に限定されず、ショウガ科植物原料に酢酸菌、乳酸菌またはその培養液を噴霧する方法、ショウガ科植物原料を酢酸菌または乳酸菌の培養液に浸漬または添加する方法、ショウガ科植物原料を溶媒で溶解または分散したショウガ溶解液または分散液に、酢酸菌、乳酸菌またはその培養液を浸漬または添加する方法等が挙げられる。
【0029】
酢酸菌を使用する場合の発酵条件は特に限定されないが、温度は、好ましくは20〜45℃、より好ましくは25〜37℃である。時間は、好ましくは5〜120時間、より好ましくは10〜72時間である。乳酸菌を使用する場合の発酵条件は特に限定されないが、温度は、好ましくは15〜40℃、より好ましくは28〜32℃である。時間は、好ましくは10〜72時間、より好ましくは16〜48時間である。
【0030】
酢酸菌を使用した発酵工程で得られたショウガ発酵組成物は、従来のショウガ原料に比べてグルコン酸およびショウガオールの含有量が増大している点に大きな特徴がある。また、該ショウガ発酵組成物は、従来のショウガ原料に比べて辛みが大きく低減している。グルコン酸の含有量は特に限定されないが、乾燥した発酵組成物において、好ましくは1〜40g/100g、より好ましくは5〜25g/100gである。該ショウガ発酵組成物には、植物細胞壁の構成糖である、グルコースを含む糖類が含まれていてもよい。ここで、植物細胞壁の構成糖としては、たとえば、グルコース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、フコース、ラムノース、ウロン酸(たとえば、ガラクツロン酸、グルクロン酸)などが挙げられる。グルコースを含む糖類としては、グルコース単独でもよく、グルコースおよび前述した植物細胞壁の構成糖のうち、グルコース以外の構成糖を1種以上含むものであってもよい。グルコースを含む糖類が含まれる場合、その含有量は特に限定されないが、乾燥した発酵組成物において、好ましくは0.5〜80g/100g、より好ましくは5〜60g/100gである。グルコン酸とグルコースはいずれも辛みを和らげる成分であり、両者の含有量が増大すると、従来のショウガ原料に比べて辛みが大きく低減するものと推測される。
【0031】
乳酸菌にはホモ乳酸発酵を行うものとヘテロ乳酸発酵を行うものがあるが、前者による発酵工程で得られたショウガ発酵組成物は、従来のショウガ原料に比べて乳酸およびショウガオールの含有量が増大している点に大きな特徴があり、また、後者による発酵工程で得られたショウガ発酵組成物は、従来のショウガ原料に比べて乳酸、酢酸およびショウガオールの含有量が増大している点に大きな特徴がある。また、該ショウガ発酵組成物は、従来のショウガ原料に比べて辛みが大きく低減している。乳酸の含有量は特に限定されないが、乾燥した発酵組成物において、好ましくは1〜30g/100g、より好ましくは3〜20g/100gである。酢酸の含有量は特に限定されないが、乾燥した発酵組成物において、好ましくは0.04〜20g/100g、より好ましくは0.04〜15g/100gである。該ショウガ発酵組成物には、前述したグルコースを含む糖類が含まれていてもよい。グルコースを含む糖類が含まれる場合、その含有量は特に限定されないが、乾燥した発酵組成物において、好ましくは0.5〜80g/100g、より好ましくは5〜60g/100gである。
【0032】
本発明の発酵組成物の製造方法は、さらに、酵素処理工程を有することが好ましい。この酵素処理工程は、発酵工程の前で行ってもよいし、発酵工程の後で行ってもよい。発酵工程の前で酵素処理工程を行うと、たとえば、発酵前のショウガ科植物原料中の各成分量を調整することができ、また、発酵工程の後で酵素処理工程を行うと、たとえば、発酵組成物中の各成分量を調整することができる。
【0033】
酵素処理工程で使用する酵素は特に限定されないが、たとえば、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、ヘミセルラーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼなどが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。セルラーゼまたはアミラーゼで酵素処理すると、それぞれショウガ由来のセルロースまたはでんぷん質が分解されてグルコースを含む糖類が生成し、それぞれの処理条件に応じてグルコースを含む糖類の含有量を調整することができる。たとえば発酵工程において酢酸菌としてグルコノバクター属に属する酢酸菌を使用する場合、該酵素処理を発酵工程の前で行えば、生成したグルコースをグルコン酸発酵の炭素源として利用することができ、また、該酵素処理を発酵工程の後で行えば、生成したグルコースを含む糖類を発酵組成物の辛みを低減するために利用することができる。また、セルラーゼまたはアミラーゼに、リパーゼを併用すると、ショウガ由来のオリゴ糖やデキストリンが生成し、処理条件に応じてオリゴ糖やデキストリンの含有量を調整することができる。オリゴ糖やデキストリンは辛みを低減する作用を有するので、該酵素処理を行うことで、発酵組成物の辛みを低減させることができる。
【0034】
酵素処理条件は、特に限定されないが、温度は、好ましくは30〜100℃、より好ましくは40〜85℃である。時間は、好ましくは10〜120時間、より好ましくは20〜96時間である。
【0035】
本発明の発酵組成物の製造方法は、発酵工程の後に、第2のショウガ科植物原料を添加する工程を有することが好ましい。この発酵工程後に後添加するショウガ科植物原料は主として賦形剤の役割を有するものである。たとえば酢酸菌としてグルコノバクター属に属する酢酸菌を使用してグルコン酸発酵させた場合、前述したように従来のショウガ原料に比べてグルコン酸の含有量が増大した発酵組成物が得られるが、この発酵組成物にショウガ科植物原料を後添加することで、発酵組成物を容易に粉末化することができる。ここで、発酵組成物を容易に粉末化できるとは、発酵組成物中の固形分重量から、たとえば凍結乾燥などの乾燥工程によって、発酵組成物の粉末として回収される収率が増大することを意味する。このように、発酵組成物を容易に粉末化することができるため、粉末形態の発酵組成物の生産コストを抑えることもできる。第2のショウガ科植物原料としては、発酵工程で使用できるものとして記載したショウガ科植物原料と同じものであってもよい。酢酸菌を用いて発酵工程を行う場合、第2のショウガ科植物原料の添加量は、特に限定されないが、好ましくは発酵組成物0.25〜25重量部に対してショウガ科植物原料1重量部であり、より好ましくは発酵組成物1.5〜10重量部に対してショウガ科植物原料1重量部である。乳酸菌を用いて発酵工程を行う場合、第2のショウガ科植物原料の添加量は、特に限定されないが、好ましくは発酵組成物0.6〜202重量部に対してショウガ科植物原料1重量部であり、より好ましくは発酵組成物1.9〜85重量部に対してショウガ科植物原料1重量部である。
【0036】
本発明の発酵組成物の製造方法は、前述した工程以外に必要に応じて、たとえば、加熱工程、殺菌工程、乾燥工程、篩工程を有することが好ましい。これらのうち、たとえば、加熱工程を行うと、ショウガ科植物原料または発酵組成物において、ジンゲロールをショウガオールに容易に変換することができ、機能性成分の含有量を容易に調整することができる。加熱時の温度は、特に限定されないが、好ましくは30〜130℃、より好ましくは50〜100℃である。時間は、好ましくは0.5〜48時間、より好ましくは5〜45時間である。
【0037】
(2)ショウガ発酵組成物
本発明のショウガ発酵組成物は、前述した発酵工程直後の発酵組成物だけでなく、発酵工程後に、前述した1つ以上の工程を経て製造された発酵組成物も含む概念である。酢酸菌による発酵工程を経て得られた発酵組成物中には、たとえば、グルコース、グルコン酸、直糖、全糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、ジンゲロール、ショウガオールなどが含まれている。ホモ乳酸発酵を行う乳酸菌による発酵工程を経て得られた発酵組成物中には、前述のグルコン酸の代わりに乳酸が含まれており、また、ヘテロ乳酸発酵を行う乳酸菌による発酵工程を経て得られた発酵組成物中には、前述のグルコン酸の代わりに乳酸および酢酸が含まれている。これらのうち、グルコースは辛みを和らげる成分である。グルコン酸は、穏やかで、さわやかな酸味を有しており、食品の味・臭いを改善する機能を有することが知られている。乳酸はやわらかいコク味と穏やかな酸味を有している。酢酸は強い刺激臭のある酸味を有している。直糖は直接還元糖の略であって、組成物中に存在する還元性を有する糖を意味する。全糖は組成物中に存在する全ての糖類を意味し、酸加水分解によって生じる還元糖を測定する。水溶性食物繊維は水溶性の食物繊維であって、炭水化物(糖質)の消化・吸収を緩やかにし、血糖値の急上昇を防ぐ効果、コレステロールなどの余分な脂質を吸着し排出するなど、体への吸収を抑制する作用が知られている。不溶性食物繊維は水に溶けない食物繊維であって、便通促進効果やデトックス効果が知られている。ジンゲロールおよびショウガオールはともにショウガ原料中に含まれており、辛み成分であるとともに、殺菌作用、抗酸化作用、血行促進作用等の種々の効能があることが知られている。グルコン酸、乳酸、酢酸は、前述したように、発酵工程で含有量が増大する成分である。ジンゲロールは、前述したように、主として加熱することで、ショウガオールに容易に変換することができる。本発明では、発酵工程以外に、前述した種々の工程を組合せることにより、発酵組成物中の各成分量を適宜調整することができる。
【0038】
本発明のショウガ発酵組成物は、従来のショウガ原料に比べて、ジンゲロールの含有量が低減し、ショウガオールの含有量が増大していることが好ましい。ジンゲロールの含有量は特に限定されないが、乾燥した発酵組成物において、好ましくは0.1〜3.0g/100g、より好ましくは0.2〜1.5g/100gである。ショウガオールの含有量は特に限定されないが、乾燥した発酵組成物において、好ましくは0.1〜3.0g/100g、より好ましくは0.2〜2.0g/100gである。ショウガ発酵組成物中のグルコン酸、乳酸、酢酸、グルコースを含む糖類の含有量は、発酵組成物の製造方法に関連して前述した通りである。
【0039】
本発明の発酵組成物は、ショウガ由来成分を含むので、殺菌作用、抗酸化作用、血行促進作用、食欲増進作用、体温上昇作用、抗炎症作用、エネルギー代謝を活性化する作用、メタボリックシンドローム予防作用等の様々な効果を有し、食品の風味を改善する効果も有する。また、本発明の発酵組成物は、グルコン酸を含むので、腸内でビフィズス菌を増やして便秘を改善する作用を有し、大腸粘膜の主要なエネルギー源といわれる短鎖脂肪酸を増大させる。また、本発明の発酵組成物は、乳酸発酵により生成した乳酸や酢酸を含むので、食品に酸味を付与して、味を調製する機能を有する。
【0040】
本発明の発酵組成物は、食品、飲料、医薬品、医薬部外品、化粧品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などに適用可能である。これらの中でもサプリメントが好ましい。サプリメントの形態としては、固形剤や液状剤などに適用可能であるが、スティック状等の固形剤が好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0042】
以下、実施例、比較例および参考例で使用した原料、製造工程で使用した微生物、酵素、前培養液、および得られた組成物についてFD収量(凍結乾燥収量)および成分含有量の測定方法をまとめて説明する。
【0043】
(原料)
ショウガ粉末:株式会社坂田信夫商店製「黄金生姜」
(微生物)
【0044】
グルコノバクター・オキシダンス(Gluconobacter oxydans): 独立行政法人製品評価技術基盤機構製、「Gluconobacter oxydans NBRC 3292」
【0045】
ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus): 独立行政法人製品評価技術基盤機構製、「Lactobacillus acidophilus NBRC 13951」
(酵素)
セルラーゼ1:協和化成株式会社製、「アクレモセルラーゼ KM」
セルラーゼ2:新日本化学工業株式会社製、「スミチーム X」
アミラーゼ1:ノボザイムズジャパン株式会社製、「BAN240L」
アミラーゼ2:新日本化学工業株式会社製、「スミチーム S」
リパーゼ1:天野エンザイム株式会社製、「リパーゼ AS」
【0046】
(前培養液)
グルコノバクター・オキシダンスの前培養液:30℃にて、好気条件で1日間培養したものを前培養液とした。
ラクトバチルス・アシドフィルスの前培養液:30℃にて、1日間静置培養したものを前培養液とした。
【0047】
(成分含有量の測定方法)
グルコース :グルコースオキシダーゼ法
グルコン酸 :F−kit「D−グルコン酸/D−グルコノδラクトン」法
乳酸 :HPLC法
酢酸 :HPLC法
直糖 :ソモギー法
全糖 :ソモギー法
ジンゲロール :HPLC法
ショウガオール :HPLC法
水溶性食物繊維 :Prosky変法
不溶性食物繊維 :Prosky変法
【0048】
(FD収量)
各処理液を全量凍結乾燥して得られた乾燥物重量として示した。
【0049】
[1]酵素処理条件の検討
参考例1
水90mlにショウガ粉末10gとCaCl0.5gを加えたショウガ懸濁液に、アミラーゼ1を100μl添加し、70℃で17時間酵素処理を行い、続いて65℃で6時間酵素処理(第2段目の酵素処理)を行い、さらにアミラーゼ2を0.2g添加し、55℃で24時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間の条件で酵素を失活させ、その後凍結乾燥して酵素処理物1を得た。
【0050】
参考例2
参考例1の第2段目の酵素処理の代わりに、セルラーゼ1を0.01g添加し、65℃で6時間酵素処理を行ったこと以外は参考例1と同様に行い、酵素処理物2を得た。
【0051】
参考例3
水90mlにショウガ粉末10gとCaCl0.5gを加えたショウガ懸濁液に、セルラーゼ1およびセルラーゼ2をそれぞれ0.02gおよび0.01g添加し、55℃で4時間酵素処理を行い、続いてアミラーゼ1を200μl添加し、70℃で8.5時間酵素処理を行い、さらにアミラーゼ2を0.4g添加し、55℃で16時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間の条件で酵素を失活させ、その後凍結乾燥して酵素処理物3を得た。
【0052】
比較例1
原料のショウガ粉末を使用した。
【0053】
参考例1〜3で得られた酵素処理物1〜3および比較例1のショウガ粉末について、FD収量およびグルコース、直糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維の含有量を測定した。その結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より、参考例1〜3で得られた酵素処理物1〜3のいずれについても、比較例1のショウガ粉末に比べてグルコースの含有量が大きく増大した。これらの結果から、ショウガ粉末をアミラーゼやセルラーゼで処理することで、ショウガ由来のでんぷん質やセルロースが分解され、グルコースが生成していることが確認された。このグルコースは、後述する実施例1で示されるように、ショウガ粉末の発酵工程において炭素源として利用することができる。
【0056】
[2]グルコン酸のショウガ辛み成分への影響
参考例4
水60mlにショウガ粉末5gを加えたショウガ懸濁液を85℃で28時間加熱し、この加熱処理液にグルコン酸を添加して、乾燥物中のグルコン酸濃度が5重量%程度になるようにした。そして、グルコン酸を含む加熱処理液を121℃で40分間殺菌し、その後凍結乾燥してグルコン酸を含む加熱処理物を得た。
【0057】
参考例5
グルコン酸を添加しないこと以外は参考例4と同様に行い、グルコン酸を含まない加熱処理物を得た。
【0058】
参考例4〜5で得られた加熱処理物について、FD収量およびグルコン酸、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定した。その結果を原料であるショウガ粉末(比較例1)の結果とともに表2に示す。
【0059】
また、参考例4〜5で得られた加熱処理物および比較例1のショウガ粉末それぞれのジンゲロールとショウガオールの含有量をもとに、両成分の合計量に対するショウガオールの含有割合を算出した。
【0060】
【表2】
【0061】
参考例5および4のショウガオールの含有割合はそれぞれ51.9%および52.4%となった。これらの結果から、ショウガ粉末の加熱後にグルコン酸が存在する条件でも、ショウガ粉末中のジンゲロールの含有量とショウガオールの含有量にほとんど影響を与えないことが分かった。
【0062】
[3]フラスコ培養によるショウガ発酵組成物の作製
実施例1
水50mlにショウガ粉末10gを加えたショウガ懸濁液に、セルラーゼ1、セルラーゼ2、CaClをそれぞれ0.02g、0.01g、0.5g添加し、55℃で4時間酵素処理を行い、続いてアミラーゼ1を200μl添加し、70℃で9時間酵素処理を行い、さらにアミラーゼ2を0.4g添加し、55℃で19時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間殺菌した後、室温まで冷却し、酵素処理液を得た。次いで、酵素処理液に、グルコノバクター・オキシダンス NBRC3292(独立行政法人製品評価技術基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、24時間、140rpmで培養した。培養後、121℃で20分間殺菌し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0063】
実施例2
アミラーゼ2の酵素処理時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0064】
実施例3
実施例1で使用した酵素処理液の代わりに、水100mlにショウガ粉末0.5g、炭素源としてグルコース4gを加えた懸濁液を121℃で20分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液を使用したこと以外は実施例1と同様に培養および殺菌を行った。なお、培養終了時に、グルコースとグルコン酸の濃度を測定した。殺菌後、培養液にショウガ粉末33.8gと水300mlを添加および混合し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0065】
比較例1
原料のショウガ粉末を使用した。
【0066】
実施例1〜3で得られた発酵組成物について、FD収量およびグルコース、グルコン酸、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表3に示す。
【0067】
実施例1〜3で得られた発酵組成物および比較例1のショウガ粉末を訓練されたパネリスト5名が食し、辛みを下記評価基準により評価した。結果はそれぞれ評定平均値として求め、下記基準により評価した。その結果を表3に示す。
(辛みの評価基準)
1:辛みをほとんど感じない
2:辛みを少し感じる
3:辛みを感じる
4:辛みを少し強く感じる
5:比較例1のショウガ粉末と同程度に辛みが強い
(評定平均値の評価基準)
1:平均値1.5未満
2:平均値1.5以上2.5未満
3:平均値2.5以上3.5未満
4:平均値3.5以上4.5未満
5:平均値4.5以上
【0068】
【表3】
【0069】
表3より、実施例1で得られた発酵組成物では、比較例1のショウガ粉末に比べてグルコースの含有量およびグルコン酸の含有量がそれぞれ約2.5倍および約350倍増大し、また、ジンゲロールの含有量が約1/2に低減し、ショウガオールの含有量が約4倍増大した。また、実施例1で得られた発酵組成物は比較例1のショウガ粉末に比べて辛みを低減する傾向が見られた。
【0070】
実施例1ではグルコノバクター・オキシダンス NBRC3292(独立行政法人製品評価技術基盤機構製)によるグルコン酸発酵により、ショウガ原料からショウガ発酵組成物を得られるかどうか検討した。炭素源としては、ショウガ粉末を酵素処理することで、ショウガ由来のでんぷん質やセルロースが分解されて生成したグルコースを利用した。前述したように、実施例1で得られた組成物ではショウガ粉末に比べてグルコン酸の含有量が大きく増大したことから、グルコン酸発酵により、酵素処理で生成したグルコースがグルコン酸に変換されたものと推測される。
【0071】
前述した成分のうち、辛みを強める成分はショウガオールとジンゲロールであり、辛みを低減させる成分はグルコン酸とグルコースである。実施例1で得られた発酵組成物では、比較例1のショウガ粉末に比べてグルコン酸とグルコースの含有量が増大したため、全体として辛みが低減したものと推測される。
【0072】
実施例2で得られた発酵組成物では、実施例1に比べてグルコン酸の含有量が増大した。これは、実施例2では、実施例1に比べてアミラーゼの反応時間を長くした分、グルコン酸発酵の基質となるグルコース生成量が増加したことによるものと推測される。
【0073】
実施例3では炭素源としてグルコースを添加しており、この点で、炭素源として酵素処理によりショウガ由来のグルコースを利用した実施例1および2と異なる。実施例3において、培養終了時のグルコン酸濃度は40.6g/L、残存グルコース濃度は0.9g/Lであり、添加したグルコースがグルコン酸発酵でほぼ全てグルコン酸に変換されたものと推測される。実施例3では培養後にショウガ粉末を後添加することで、発酵組成物の粉末化が容易になった。
【0074】
[4]実施例3に記載の方法の後で行う加熱処理および酵素処理の効果
実施例4
水100mlにショウガ粉末0.5g、炭素源としてグルコース4gを加えた懸濁液の代わりに、水100mlにショウガ粉末1g、炭素源としてグルコース4gを加えた懸濁液を使用したこと、および、ショウガ粉末の後添加と凍結乾燥の間に85℃で6時間加熱したこと以外は実施例3と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0075】
実施例5
ショウガ粉末の後添加と加熱工程の間にセルラーゼ1およびセルラーゼ2をそれぞれ8.3mgおよび4.4mg添加し、40℃で50時間セルラーゼ処理を行った後に121℃で20分間加熱し、酵素を失活させたこと以外は実施例4と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0076】
実施例6
セルラーゼ処理において、リパーゼ1を17mg、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(Tween80)を4ml添加したこと以外は実施例5と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0077】
実施例7
セルラーゼ処理の後の85℃で6時間加熱を行わなかったこと以外は実施例5と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0078】
実施例4〜7で得られた発酵組成物について、FD収量およびグルコース、グルコン酸、直糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表4に示す。
【0079】
【表4】
【0080】
表4より、実施例4〜7で得られた発酵組成物はいずれも比較例1のショウガ粉末に比べて辛みが低減しており、辛み低減効果は大きい方から、実施例5および6、実施例4および7であった。実施例4と5の比較から、実施例5で行ったセルラーゼ処理が辛み低減に寄与していることが分かる。また、実施例5と7の比較から、実施例5で行った加熱工程が辛み低減に寄与していることが分かる。
【0081】
[5]ジャー培養によるショウガ発酵組成物の作製
実施例8
水3Lにショウガ粉末30gとグルコース120gを加えた懸濁液を105℃で30分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液に、グルコノバクター・オキシダンス NBRC 3292(独立行政法人製品評価基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、48時間、350rpm、0.4vvmで培養した。培養後、121℃で20分間殺菌した。殺菌後、培養液3,010gに対してショウガ粉末833gと水8,470mlを添加および混合し、ショウガ粉末を後添加した混合物にセルラーゼ1およびセルラーゼ2をそれぞれ2.07gおよび1.10g添加し、40℃で96時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間加熱し、酵素を失活させ、続いて85℃で24時間加熱し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0082】
実施例9
セルラーゼ処理において、リパーゼ1を0.43g、Tween80を6.4ml添加したこと以外は実施例8と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0083】
実施例10
セルラーゼ処理および酵素失活処理を行わず、また、凍結乾燥前に85℃で24時間加熱する代わりに85℃で35時間加熱したこと以外は実施例8と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0084】
実施例11
セルラーゼ処理において、セルラーゼ1およびセルラーゼ2を使用してそれぞれを3.2gおよび1.7g添加し、また、凍結乾燥前に85℃で24時間加熱する代わりに85℃で35時間加熱したこと以外は実施例9と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0085】
実施例8〜11で得られた発酵組成物について、FD収量およびグルコース、グルコン酸、直糖、全糖、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表5に示す。
【0086】
また、実施例8〜11で得られた発酵組成物および比較例1のショウガ粉末それぞれの直糖(水に溶けた還元糖量)と全糖(水に溶ける糖類と水に溶けない糖類の全てを酸分解して得られた還元糖量)をもとに、還元糖の溶解率を下記式に基づいて算出した。その結果を表5に示す。一般に、直糖にはグルコースを含む単糖類、二糖類、オリゴ糖など辛み低減にプラスに作用する還元糖が含まれるため、還元糖の溶解率が増大するにつれて辛み低減効果は増大する。
還元糖の溶解率(%)=(直糖/全糖)×100
【0087】
【表5】
【0088】
実施例8および実施例9はそれぞれ実施例5および実施例6で実施したフラスコ培養をジャー培養にスケールアップしたものである。表5より、グルコース、グルコン酸などの含有量も表4のフラスコ培養の結果と同様であり、FD収量も問題なかった。実施例8〜9で得られた発酵組成物はいずれも比較例1のショウガ粉末に比べて辛みが低減しており、また、実施例8に比べて実施例9の方が、辛み低減効果が大きかった。これらの辛み低減効果は、実施例8に比べて実施例9の方が、還元糖の溶解率が増大していることからも理解できる。これらの結果から、実施例8では、ショウガ粉末を後添加した後にセルラーゼ処理を行うことで、辛み低減に寄与しているものと推測される。また、実施例9では、セルラーゼ処理の際にリパーゼ処理を組合せることで、辛み低減に寄与しているものと推測される。
【0089】
実施例10は酵素処理を行っていないため、実施例4で実施したフラスコ培養をジャー培養にスケールアップしたものに対応する。実施例4と同様に、実施例10では比較例1に比べて辛みが低減しているが、酵素処理を行っていないため、実施例8〜9に比べて辛み低減効果が小さくなっていると考えられる。また、実施例11は実施例9と同じ工程を行っているが、実施例9に比べて辛み低減効果が大きくなっている。これは、実施例11では、実施例9に比べてセルラーゼの添加量を増やし、加熱時間を長くしたためである。
【0090】
[6]味覚センサーによる評価試験
実施例7〜11で得られた発酵組成物および比較例1で用いたショウガ粉末について、それぞれの3%水溶液を被験液として、電子味覚システム(Astree、Alpha M.O.S社)の7種類のセンサーの応答値を測定した(n=3)。そして、得られたセンサー応答値、グルコン酸含量、グルコース含量、ジンゲロール含量、ショウガオール含量、辛み評価結果を用いて主成分分析を行った。結果を図1に示す。
【0091】
図1から、実施例7〜11と比較例1とは距離が大きく離れており、大きく2つに区分けできることが分かる。図1では、第一主成分(横軸)が発酵による影響を示す指標を表しており、第二主成分(縦軸)が糖による影響を示す指標を表している。括弧内の数値は各主成分軸の寄与率を示している。第一主成分軸では右方向、第二主成分では上方向が、ショウガの辛みが低減する方向を示している。図1から、比較例1に比べて実施例7〜11では、グルコン酸発酵を行うことで、ショウガの辛みが低減するものと理解できる。また、実施例7〜11の中でも辛みが異なるが、発酵組成物中の糖類による影響があることが示唆された。
【0092】
[7]発酵組成物中の単糖類および二糖類の定量分析
前述した主成分分析で、発酵組成物中の糖類による影響があることが示唆されたが、糖類としては、まずグルコースが考えられる。たとえば実施例9の発酵組成物におけるグルコースの含有量は、比較例1と比べて大きく増大する一方、不溶性食物繊維の含有量は、比較例1と比べて大きく減少している。これは、発酵工程後のセルラーゼ処理で不溶性食物繊維が分解され、グルコースが生成することを意味している。ここで、不溶性食物繊維はグルコース以外の構成糖も含むため、グルコース以外の糖類も生成している可能性がある。そこで、実施例9の発酵組成物について、HPLC法を用いて単糖類(フルクトース、グルコース、アラビノース、キシロース、マンノース、ガラクトース、ガラクツロン酸)、二糖類(スクロース、マルトース、セロビオース)の定量分析を行った。結果を表6に示す。
【0093】
【表6】
【0094】
表6の結果から、グルコース以外にも、多種類の単糖類や二糖類が検出された。これらの中ではグルコースの含有量が最も大きいが、グルコース以外の糖類が存在することによっても、ショウガの辛み低減に寄与していると推測される。
【0095】
[8]発酵工程とショウガ粉末の後添加が辛みの低減効果に及ぼす影響
実施例12
水100mlにショウガ粉末1gとグルコース4gを加えた懸濁液を121℃で20分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液に、グルコノバクター・オキシダンス NBRC3292(独立行政法人製品評価技術基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、24時間、140rpmで培養した。培養後、121℃で20分間殺菌した。殺菌後、培養液100mlに対してショウガ粉末29gを添加および混合し、該ショウガ粉末を後添加した混合物に、セルラーゼ1、2、水をそれぞれ79mg、46mg、240ml添加し、40℃で96時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間加熱し、酵素を失活させ、続いて85℃で24時間加熱し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0096】
実施例13
ショウガ粉末の添加量を18gとし、酵素処理におけるセルラーゼ1および2の添加量をそれぞれ53mgおよび32mgとし、水の添加量を130mlとしたこと以外は、実施例12と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0097】
実施例14
ショウガ粉末の添加量を13gとし、酵素処理におけるセルラーゼ1および2の添加量をそれぞれ42mgおよび25mgとし、水の添加量を80mlとしたこと以外は、実施例12と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0098】
実施例12〜14で得られた発酵組成物について、グルコース、グルコン酸、ジンゲロール、ショウガオールの含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、実施例2の発酵組成物、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表7に示す。また、実施例2、12〜14で得られた発酵組成物、および比較例1で用いたショウガ粉末について、実施例7〜11と同様の方法で主成分分析を行った。結果を図2に示す。
【0099】
【表7】
【0100】
実施例12〜14では、後添加するショウガの添加量を変化させて、異なるグルコン酸濃度を有する発酵組成物を作製した。実施例12〜14のうち、実施例14のショウガ添加量が最も少ないため、実施例14の発酵組成物がグルコン酸発酵の影響を最も受けたものである。実施例14は比較例1に比べて辛みが低減しており、これはグルコン酸発酵の影響によるものと考えられる。また、実施例2および14ではショウガ粉末の後添加の有無で相違するものの、グルコン酸等の含有量は同程度となっており、辛みも同程度であることから、ショウガ粉末の後添加の有無は辛みの低減効果に大きな影響を与えないものと理解できる。
【0101】
図2から、実施例2、12〜14と比較例1とは距離が大きく離れており、大きく2つに区分けできることが分かる。図2では、第一主成分(横軸)が発酵による影響を示す指標を表しており、右方向が、ショウガの辛みが低減する方向を示している。図2から、比較例1に比べて実施例2、12〜14では、グルコン酸発酵を行うことで、ショウガの辛みが低減するものと理解できる。なお、実施例2と14ではショウガ粉末の後添加の有無で相違するものの、図2では互いに近傍に位置しているため、ショウガの後添加の有無は辛みの低減効果に大きな影響を与えないものと理解できる。
【0102】
[9]乳酸菌による発酵工程を用いたショウガ発酵組成物の作製
実施例15
水400mlにショウガ粉末12gとグルコース8gを加えた懸濁液を121℃で20分間殺菌し、その後室温まで冷却したグルコース含有ショウガ懸濁液に、ラクトバチルス・アシドフィルス NBRC 13951(独立行政法人製品評価基盤機構製)の前培養液が2重量%になるように植菌し、30℃、48時間で静置培養した。培養後、121℃で20分間殺菌した。殺菌後、培養液100mlに対してショウガ粉末68gを添加および混合し、該ショウガ粉末を後添加した混合物に、セルラーゼ1、セルラーゼ2、リパーゼ1、Tween80、水をそれぞれ170mg、100mg、32mg、450μl、500ml添加し、40℃で96時間酵素処理を行った。酵素処理後、121℃で20分間加熱し、酵素を失活させ、続いて85℃で35時間加熱し、その後凍結乾燥してショウガ発酵組成物を得た。
【0103】
実施例16
ショウガ粉末の添加量を20gとし、酵素処理におけるセルラーゼ1、セルラーゼ2、リパーゼ1、Tween80、水の添加量をそれぞれ55mg、32mg、10mg、145μl、100mlとしたこと以外は、実施例15と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0104】
実施例17
ショウガ粉末の後添加において、培養液200mlに対してショウガ粉末14.5gを添加したこと、および、酵素処理において、セルラーゼ1、セルラーゼ2、リパーゼ1、Tween80の添加量をそれぞれ50mg、29mg、9mg、150μlとし、水を添加しなかったこと以外は実施例15と同様に行い、ショウガ発酵組成物を得た。
【0105】
実施例15〜17で得られた発酵組成物について、乳酸、酢酸、グルコース、直糖、全糖、還元糖の溶解率、ジンゲロール、ショウガオール、水溶性食物繊維、不溶性食物繊維の含有量を測定し、また、実施例1〜3と同様の評価基準で辛みを評価した。その結果を、比較例1のショウガ粉末の結果とともに、表8に示す。
【0106】
【表8】
【0107】
実施例15〜17では、後添加するショウガの添加量を変化させて、異なる乳酸濃度を有する発酵組成物を作製した。実施例15〜17のうち、実施例17のショウガ添加量が最も少ないため、実施例17の発酵組成物が乳酸発酵の影響を最も受けたものである。
表8より、実施例15〜17で得られた発酵組成物は、比較例1のショウガ粉末に比べて
辛みが低減していた。これは不溶性食物繊維が分解されて生成するグルコース、直糖の含有量が高いことによるものと推測される。
【0108】
実施例17の発酵組成物では実施例15に比べて辛みの低減効果が大きくなっている。これは、実施例17の乳酸濃度が実施例15に比べて5倍以上高いことによるものと推測される。
図1
図2