特許第6692512号(P6692512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6692512熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シート
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  • 特許6692512-熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シート 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6692512
(24)【登録日】2020年4月16日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20200427BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200427BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20200427BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20200427BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   C09K5/14 E
   C08L101/00
   C08K3/28
   C08K3/22
   C08L83/04
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-500922(P2020-500922)
(86)(22)【出願日】2019年10月10日
(86)【国際出願番号】JP2019040034
【審査請求日】2020年1月15日
(31)【優先権主張番号】特願2018-240911(P2018-240911)
(32)【優先日】2018年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237422
【氏名又は名称】富士高分子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】鈴村 克之
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/074247(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/203924(WO,A1)
【文献】 特開2016−172824(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/125664(WO,A1)
【文献】 特開2015−168791(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/094613(WO,A1)
【文献】 特開2010−168558(JP,A)
【文献】 特開2002−322372(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00−5/20、
C08K3/00−13/08、
C08L1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物であって、
マトリックス樹脂成分100質量部に対し、前記熱伝導性粒子は、
(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウム900質量部以上と、
(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウム400質量部以上と、
(c)平均粒子径6μm以下のアルミナ0質量部を超え400質量部以下を含み、
前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は12W/m・K以上であり、ASKER C硬度は20〜75であることを特徴とする熱伝導性組成物。
【請求項2】
前記のマトリックス樹脂成分は、付加硬化型シリコーンポリマー、過酸化物硬化型シリコーンポリマー、縮合型シリコーンポリマー、シリコーンゴム、シリコーンゲル、シリコーンパテ、シリコーングリース、シリコーンオイル、アクリルゴム、フッ素ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂から選ばれる少なくとも一つの熱硬化性樹脂である請求項1に記載の熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記マトリックス樹脂成分100質量部に対し、さらにシランカップリング剤を0.1〜10質量部添加する請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項4】
前記(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウムは、凝集球形状である請求項1〜3のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項5】
前記熱伝導性粒子合計量に対し、前記アルミナ(c)の添加割合は、0を超え19質量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項6】
前記(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウムと(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウムの添加割合は、(a)/(b)=1.65〜2.60である請求項1〜5のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項7】
前記熱伝導性粒子はマトリックス樹脂成分100質量部に対し、さらに(d)平均粒子径5μmを超え50μm未満の窒化アルミニウムを350〜500質量部含む請求項1〜6のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項8】
前記熱伝導性組成物の絶縁破壊電圧(JIS K6249)は、11〜16kV/mmである請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
前記熱伝導性組成物の体積抵抗率(JIS K6249)は、1010〜1014Ω・cmである請求項1〜7のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の熱伝導性組成物はシートに成形されていることを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項11】
前記熱伝導性シートの厚みは0.2〜10mmの範囲である請求項10に記載の熱伝導性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適な熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のCPU等の半導体の性能向上はめざましくそれに伴い発熱量も膨大になっている。そのため発熱するような電子部品には放熱体が取り付けられ、半導体と放熱部との密着性を改善する為に熱伝導性シリコーンシートが使われている。機器の小型化、高性能化、高集積化に伴い熱伝導性シリコーンシートには柔らかさ、高熱伝導性が求められている。従来、熱伝導性シリコーンゲルシートとして特許文献1〜4等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再表2018−016566号公報
【特許文献2】特許第5931129号公報
【特許文献3】WO2018/074247号明細書
【特許文献4】特開2017−210518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の熱伝導性シリコーンシートは、発熱部及び/又は放熱部の凹凸に追従しにくく、かつ熱伝導率が低いという問題があり、改善が必要であった。
本発明は前記従来の問題を解決するため、電子部品等へ実装するのに好適な硬度と、高熱伝導性を備えた熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の熱伝導性組成物は、マトリックス樹脂である熱硬化性樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物であって、マトリックス樹脂成分100質量部に対し、前記熱伝導性粒子は、
(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウム900質量部以上と、
(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウム400質量部以上と、
(c)平均粒子径6μm以下のアルミナ0質量部を超え400質量部以下を含み、
前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は12W/m・K以上であり、ASKER C硬度は20〜75であることを特徴とする。
【0006】
本発明の熱伝導性シートは、前記の熱伝導性組成物がシートに成形されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、前記組成とすることにより、熱伝導率が12W/m・K以上、ASKER C硬度が20〜75であり、電子部品等へ実装するのに好適な硬度であり、高熱伝導性を備えた熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供できる。とくに、微小粒径のアルミナを少量加えることで、より窒化アルミニウムを高充填化でき、連続成形が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1A−Bは本発明の一実施例における試料の熱伝導率の測定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、マトリックス樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物である。マトリックス樹脂は、シリコーンゴム、シリコーンゲル、アクリルゴム、フッ素ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の熱硬化性樹脂が好ましい。この中でもシリコーンが好ましく、エラストマー、ゲル、パテ、及びグリース、オイルから選ばれ、硬化システムは過酸化物、付加、縮合等いかなる方法を用いてもよい。シリコーンは耐熱性が高いことから好ましい。また、周辺への腐食性がないこと、系外に放出される副生成物が少ないこと、深部まで確実に硬化することなどの理由により付加反応型であることが好ましい。
【0010】
マトリックス樹脂成分100質量部に対し、熱伝導性粒子は、
(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウム900質量部以上と、
(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウム400質量部以上と、
(c)平均粒子径6μm以下のアルミナ0質量部を超え400質量部以下を含み、
前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は12W/m・k以上であり、ASKER C硬度は20〜75である。これにより、電子部品等へ実装するのに好適な硬度及び高熱伝導性が得られる。
【0011】
マトリックス樹脂成分100質量部に対し、さらにシランカップリング剤を0.1〜10質量部添加するのが好ましい。シランカップリング剤は、熱伝導性粒子の表面に被覆され(表面処理)、マトリックス樹脂に充填されやすくなるとともに、熱伝導性粒子へ硬化触媒が吸着されるのを防ぎ、硬化阻害を防止する効果がある。これは保存安定性に有用である。
【0012】
前記(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウムは、凝集球形状であるのが好ましい。球状になるほどコンパウンド内で流動しやすくなり、より充填性を向上できる。
【0013】
前記熱伝導性粒子合計量に対し、前記アルミナ(c)の添加割合は、0を超え19質量%以下が好ましく、さらに好ましくは5〜19質量%である。微小粒径のアルミナを少量加えることで、より窒化アルミニウムを高充填化でき、連続成形が可能となる。
【0014】
前記(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウムと(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウムの添加割合は、(a)/(b)=1.65〜2.60であるのが好ましい。前記の割合であれば、より窒化アルミニウムを高充填化でき、電子部品等へ実装するのに好適な硬度と高熱伝導性を備えた熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供できる。
【0015】
前記熱伝導性粒子はマトリックス樹脂成分100質量部に対し、さらに(d)平均粒子径5μmを超え50μm未満の窒化アルミニウムを350〜500質量部含ませてもよい。これにより、電子部品等へ実装するのに好適な硬度と高熱伝導性を備えた熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供できる。
【0016】
前記熱伝導性組成物の絶縁破壊電圧(JIS K6249)は、11〜16kV/mmであるのが好ましい。これにより、電気的絶縁性の高い熱伝導性シートとすることができる。
【0017】
前記熱伝導性組成物の体積抵抗率(JIS K6249)は、1010〜1014Ω・cmであるのが好ましい。これにより、電気的絶縁性の高い熱伝導性シートとすることができる。
【0018】
前記の熱伝導性組成物はシートに成形されているのが好ましい。シート成形されていると電子部品等へ実装するのに好適である。前記熱伝導性シートの厚みは0.2〜10mmの範囲が好ましい。
【0019】
未硬化組成物は下記組成のコンパウンドが好ましい。
A マトリックス樹脂成分
マトリックス樹脂成分は、下記(A1)(A2)を含む。(A1)+(A2)で100質量%とする。
(A1)1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有する直鎖状オルガノポリシロキサン
(A2)架橋成分:1分子中に少なくとも2個のケイ素原子に結合した水素原子を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンが、前記A成分中のケイ素原子結合アルケニル基1モルに対して、1モル未満の量
前記(A1)(A2)成分以外に反応基を持たないオルガノポリシロキサンを含んでもよい。
B 熱伝導性粒子
熱伝導性粒子は下記を含む。
(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウムを、マトリックス樹脂100質量部に対して900質量部以上含む。好ましくは900〜1300質量部であり、さらに好ましくは900〜1100質量部である。
(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウムを、マトリックス樹脂100質量部に対して400質量部以上含む。好ましくは400〜800質量部であり、さらに好ましくは400〜600質量部である。
(c)平均粒子径6μm以下のアルミナを、マトリックス樹脂100質量部に対して0質量部を超え400質量部以下含む。好ましくは50質量部を超え400質量部以下であり、さらに好ましくは100〜300質量部である。
C 白金系金属触媒:マトリックス樹脂成分に対して質量単位で0.01〜1000ppmの量
D その他添加剤:硬化遅延剤、着色剤等;任意量、シランカップリング剤
【0020】
以下、各成分について説明する。
(1)ベースポリマー成分(A1成分)
ベースポリマー成分は、一分子中にケイ素原子に結合したアルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンであり、アルケニル基を2個以上含有するオルガノポリシロキサンは本発明のシリコーンゴム組成物における主剤(ベースポリマー成分)である。このオルガノポリシロキサンは、アルケニル基として、ビニル基、アリル基等の炭素原子数2〜8、特に2〜6の、ケイ素原子に結合したアルケニル基を一分子中に2個有する。粘度は25℃で10〜1000000mPa・s、特に100〜100000mPa・sであることが作業性、硬化性などから望ましい。
【0021】
具体的には、下記一般式(化1)で表される1分子中に2個以上かつ分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンを使用する。側鎖はアルキル基で封鎖された直鎖状オルガノポリシロキサンである。25℃における粘度は10〜1000000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0022】
【化1】
【0023】
式中、R1は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R2はアルケニル基であり、kは0又は正の整数である。ここで、R1の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換の一価炭化水素基としては、例えば、炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、並びに、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基、シアノエチル基等が挙げられる。R2のアルケニル基としては、例えば炭素原子数2〜6、特に2〜3のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、好ましくはビニル基である。一般式(1)において、kは、一般的には0≦k≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦k≦2000、より好ましくは10≦k≦1200を満足する整数である。
【0024】
A1成分のオルガノポリシロキサンとしては一分子中に例えばビニル基、アリル基等の炭素原子数2〜8、特に2〜6のケイ素原子に結合したアルケニル基を3個以上、通常、3〜30個、好ましくは、3〜20個程度有するオルガノポリシロキサンを併用しても良い。分子構造は直鎖状、環状、分岐状、三次元網状のいずれの分子構造のものであってもよい。好ましくは、主鎖がジオルガノシロキサン単位の繰り返しからなり、分子鎖両末端がトリオルガノシロキシ基で封鎖された、25℃での粘度が10〜1000000mPa・s、特に100〜100000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンである。
【0025】
アルケニル基は分子のいずれかの部分に結合していればよい。例えば、分子鎖末端、あるいは分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合しているものを含んでも良い。なかでも下記一般式(化2)で表される分子鎖両末端のケイ素原子上にそれぞれ1〜3個のアルケニル基を有し(但し、この分子鎖末端のケイ素原子に結合したアルケニル基が、両末端合計で3個未満である場合には、分子鎖非末端(分子鎖途中)のケイ素原子に結合したアルケニル基を、(例えばジオルガノシロキサン単位中の置換基として)、少なくとも1個有する直鎖状オルガノポリシロキサンであって、上記でも述べた通り25℃における粘度が10〜1,000,000mPa・sのものが作業性、硬化性などから望ましい。なお、この直鎖状オルガノポリシロキサンは少量の分岐状構造(三官能性シロキサン単位)を分子鎖中に含有するものであってもよい。
【0026】
【化2】
【0027】
式中、R3は互いに同一又は異種の非置換又は置換一価炭化水素基であって、少なくとも1個がアルケニル基である。R4は互いに同一又は異種の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基であり、R5はアルケニル基であり、l,mは0又は正の整数である。ここで、R3の一価炭化水素基としては、炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、オクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。
【0028】
また、R4の一価炭化水素基としても、炭素原子数1〜10、特に1〜6のものが好ましく、上記R1の具体例と同様のものが例示できるが、但しアルケニル基は含まない。R5のアルケニル基としては、例えば炭素数2〜6、特に炭素数2〜3のものが好ましく、具体的には前記式(化1)のR2と同じものが例示され、好ましくはビニル基である。l,mは、一般的には0<l+m≦10000を満足する0又は正の整数であり、好ましくは5≦l+m≦2000、より好ましくは10≦l+m≦1200で、かつ0<l/(l+m)≦0.2、好ましくは、0.0011≦l/(l+m)≦0.1を満足する整数である。
【0029】
(2)架橋成分(A2成分)
本発明のA2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは架橋剤として作用するものであり、この成分中のSiH基とA成分中のアルケニル基とが付加反応(ヒドロシリル化)することにより硬化物を形成するものである。かかるオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子(即ち、SiH基)を2個以上有するものであればいずれのものでもよく、このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、環状、分岐状、三次元網状構造のいずれであってもよいが、一分子中のケイ素原子の数(即ち、重合度)は2〜1000、特に2〜300程度のものを使用することができる。
【0030】
水素原子が結合するケイ素原子の位置は特に制約はなく、分子鎖の末端でも分子鎖非末端(分子鎖途中)でもよい。また、水素原子以外のケイ素原子に結合した有機基としては、前記一般式(化1)のR1と同様の脂肪族不飽和結合を有さない非置換又は置換一価炭化水素基が挙げられる。
【0031】
A2成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては下記構造のものが例示できる。
【化3】
【0032】
上記の式中、R6は互いに同一又は異種のアルキル基、フェニル基、エポキシ基、アクリロイル基、メタアクリロイル基、アルコキシ基、水素原子であり、少なくとも2つは水素原子である。Lは0〜1,000の整数、特には0〜300の整数であり、Mは1〜200の整数である。
【0033】
(3)触媒成分(C成分)
C成分の触媒成分はヒドロシリル化反応に用いられる触媒を用いることができる。例えば白金黒、塩化第2白金、塩化白金酸、塩化白金酸と一価アルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン類やビニルシロキサンとの錯体、白金ビスアセトアセテート等の白金系触媒、パラジウム系触媒、ロジウム系触媒などの白金族金属触媒が挙げられる。
【0034】
(4)熱伝導性粒子(B成分)
B成分の熱伝導性粒子は合計量で、マトリックス成分であるA成分100質量部に対して1,900〜2,500質量部添加するのが好ましい。これにより熱伝導率を高く保つことができる。熱伝導性粒子の具体例は次のとおりである。
(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウムは凝集球状が好ましい。これにより熱伝導率を高く保つことができる。前記凝集球状の窒化アルミニウムの好ましい平均粒子径は50〜100μmであり、さらに好ましくは60〜90μmである。
(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウムは破砕(不定形)が好ましい。これにより熱伝導率を高く保つことができる。前記破砕(不定形)の窒化アルミニウムの好ましい平均粒子径は0.1〜5μmであり、さらに好ましくは0.5〜3μmである。
(c)平均粒子径6μm以下のアルミナは破砕(不定形)が好ましい。これにより熱伝導率を高く保つことができる。前記破砕(不定形)のアルミナの好ましい平均粒子径は0.01〜6μmであり、さらに好ましくは0.1〜3μmである。
(d)平均粒子径5μmを超え50μm以下の窒化アルミニウムは破砕(不定形)が好ましい。これにより熱伝導率を高く保つことができる。前記破砕(不定形)の窒化アルミニウムの好ましい平均粒子径は10〜45μmであり、さらに好ましくは10〜35μmである。
【0035】
本発明では、熱伝導性粒子は平均粒子径が異なる3種類以上の無機粒子を併用する。このようにすると大きな粒子の間に小さな粒子径の熱伝導性無機粒子が埋まり、最密充填に近い状態で充填でき、熱伝導性が高くなる。
【0036】
熱伝導性粒子はシランカップリング剤で表面処理するのが好ましい。シランカップリング剤は、R(CH3aSi(OR’)3-a(Rは炭素数1〜20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1〜4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるシラン化合物、もしくはその部分加水分解物がある。R(CH3aSi(OR’)3-a(Rは炭素数1〜20の非置換または置換有機基、R’は炭素数1〜4のアルキル基、aは0もしくは1)で示されるアルコキシシラン化合物(以下単に「シラン」という。)は、一例としてメチルトリメトキシラン,エチルトリメトキシラン,プロピルトリメトキシラン,ブチルトリメトキシラン,ペンチルトリメトキシラン,ヘキシルトリメトキシラン,ヘキシルトリエトキシシラン,オクチルトリメトキシシラン,オクチルトリエトキシラン,デシルトリメトキシシラン,デシルトリエトキシシラン,ドデシルトリメトキシシラン,ドデシルトリエトキシシラン,ヘキサデシルトリメトキシシラン,ヘキサデシルトリエトキシシシラン,オクタデシルトリメトキシシラン,オクタデシルトリエトキシシシラン等のシラン化合物がある。前記シラン化合物は、一種又は二種以上混合して使用することができる。表面処理剤として、アルコキシシランと片末端シラノールシロキサンを併用してもよい。ここでいう表面処理とは共有結合のほか吸着なども含む。シランカップリング剤は予め熱伝導性粒子と混合して前処理しておいてもよいし、マトリックス樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を混合する際に添加してもよい(インテグラルブレンド法)。
【0037】
(5)その他添加剤
本発明の組成物には、必要に応じて前記以外の成分を配合することができる。例えばベンガラ、酸化チタン、酸化セリウムなどの耐熱向上剤、難燃助剤、硬化遅延剤などを添加してもよい。着色、調色の目的で有機或いは無機顔料を添加しても良い。前記のシランカップリング剤を添加してもよい。
【実施例】
【0038】
以下実施例を用いて説明する。本発明は実施例に限定されるものではない。各種パラメーターについては下記記載の方法で測定した。
【0039】
<熱伝導率>
熱伝導性シリコーンゴムシートの熱伝導率は、ホットディスク(ISO/CD 22007-2準拠)により測定した。この熱伝導率測定装置1は図1Aに示すように、ポリイミドフィルム製センサ2を2個の試料3a,3bで挟み、センサ2に定電力をかけ、一定発熱させてセンサ2の温度上昇値から熱特性を解析する。センサ2は先端4が直径7mmであり、図1Bに示すように、電極の2重スパイラル構造となっており、下部に印加電流用電極5と抵抗値用電極(温度測定用電極)6が配置されている。熱伝導率は以下の式(数1)で算出する。
【数1】
【0040】
<硬さ>
熱伝導性シリコーンゴムシートの硬さは、ASKER Cに従い測定した。
【0041】
(実施例1〜4)
1.材料成分
(1)ポリオルガノシロキサン(A成分)
ポリオルガノシロキサンを含む2液室温硬化シリコーンポリマー(シリコーン成分)を使用した。一方の液(A1液)には、ベースポリマー成分と白金族系金属触媒が含まれており、他方の液(A2液)には、ベースポリマー成分と架橋剤成分であるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが含まれる。
(2)熱伝導性粒子(B成分)
表1に記載の5種類の熱伝導性粒子を使用した。アルミナ粒子はシランカップリング剤(オクチルトリエトキシシラン)を1質量%の割合で添加し、均一になるまで撹拌し、撹拌したアルミナ粒子をトレ―等に均一に拡げ100℃で2時間乾燥させることにより表面処理した。これにより、Pt触媒の触媒能である硬化反応が損なわれることを防いだ。なお、平均粒子径は、レーザー回折光散乱法による粒度分布測定において、体積基準による累積粒度分布のD50(メジアン径)である。この測定器としては、例えば堀場製作所社製のレーザー回折/散乱式粒子分布測定装置LA−950S2がある。表中の長さを表す数値は各粒子の平均粒子径である。また表中のAlNは窒化アルミニウムの略語である。
(3)白金族系金属触媒(C成分)
追加の白金族系金属触媒として、白金−ビニルジシロキサン錯体を使用した。尚、上記の通り2液室温硬化シリコーンポリマー(シリコーン成分)には白金族系金属触媒が含まれている。各実施例のシリコーン組成物の調製に際し、ポリオルガノシロキサンが十分に一次硬化するように、追加の白金族系金属触媒を、シリコーン成分100質量部(100g)に対して1質量部(1g)添加した。各実施例のシリコーン組成物において、ポリオルガノシロキサンと白金族系金属触媒の合計に対する白金族系金属触媒の量は、いずれも、金属原子質量換算で0.01〜1000ppmの範囲の値とした。
【0042】
2.コンパウンド
各材料について前記表1に示す量を計量し、それらを混錬装置に入れてコンパウンドとした。
尚、表1において、各材料の量を、シリコーン成分(2液室温硬化シリコーンポリマー)を100質量部(100g)とした場合の量(質量部)で記載しているが、いずれのコンパウンドにおいても、ポリオルガノシロキサン100質量部(100g)に対する、熱伝導性粒子、その他の成分の添加量は、各々、既述の本発明における好ましい量を満たしている。
【0043】
3.シート成形加工
離型処理をしたポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムで前記コンパウンドを挟み込み、等速ロールにて厚み2.0mmのシート状に成形し、100℃、15分加熱硬化し、熱伝導性シリコーンゴムシートを成形した。以上の条件と結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
(比較例1〜
熱伝導性粒子の添加量を表2に示す以外は実施例1と同様に実施した。条件と結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
以上の実施例のとおり、シリコーンゴム100質量部に対し、熱伝導性粒子は、
(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウム900質量部以上
(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウム400質量部以上
(c)平均粒子径6μm以下のアルミナ0質量部を超え400質量部以下
の条件を満たすことにより、熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は12W/m・K以上であり、ASKER C硬度は20〜75であることが確認できた。
これに対して比較例1は、AlNのみの配合のため熱伝導性粒子を高充填できず、結果的に熱伝導率が高くならなかった。比較例2は小粒径AlNが少ないため熱伝導率が高くならなかった。比較例3は小粒径アルミナの量が増えると、熱伝導性粒子充填量は向上するものの小粒径アルミナ自体が熱伝導の妨げとなるため熱伝導率は高くならなかった。比較例4の熱伝導率は測定できなかった。比較例5は大粒径AlNが少ないため、熱伝導率は高くならなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の熱伝導性組成物及び熱伝導性シートは、電気・電子部品等の発熱部と放熱体の間に介在させるのに好適である。
【符号の説明】
【0049】
1 熱伝導率測定装置
2 センサ
3a,3b 試料
4 センサの先端
5 印加電流用電極
6 抵抗値用電極(温度測定用電極)
【要約】
マトリックス樹脂と硬化触媒と熱伝導性粒子を含む熱伝導性組成物であって、マトリックス樹脂成分100質量部に対し、前記熱伝導性粒子は、(a)平均粒子径50μm以上の窒化アルミニウム900質量部以上と、(b)平均粒子径5μm以下の窒化アルミニウム400質量部以上と、(c)平均粒子径6μm以下のアルミナ0質量部を超え400質量部以下を含み、前記熱伝導性組成物の硬化物の熱伝導率は12W/m・K以上であり、ASKER C硬度は20〜75である。これにより、電気・電子部品等へ実装するのに好適な硬度と、高熱伝導性を備えた熱伝導組成物及びこれを用いた熱伝導性シートを提供する。
図1