特許第6692565号(P6692565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニチユ三菱フォークリフト株式会社の特許一覧

特許6692565FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム
<>
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000002
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000003
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000004
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000005
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000006
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000007
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000008
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000009
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000010
  • 特許6692565-FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6692565
(24)【登録日】2020年4月17日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】FT図生成装置、トラブルシューティング用フロー図生成装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 16/90 20190101AFI20200427BHJP
   G06Q 10/00 20120101ALI20200427BHJP
   G06N 3/04 20060101ALI20200427BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20200427BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20200427BHJP
【FI】
   G06F16/90 100
   G06Q10/00 300
   G06N3/04 154
   G06F17/50 604D
   G06F17/50 606D
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-60514(P2019-60514)
(22)【出願日】2019年3月27日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232807
【氏名又は名称】三菱ロジスネクスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 誠
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】中島 潤
(72)【発明者】
【氏名】高橋 真司
【審査官】 後藤 彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−301134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 16/90
G06F 30/10
G06F 30/27
G06N 3/04
G06Q 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に関する複数のトラブル事例から前記作業機械に関するFT図を生成するFT図生成装置であって、
前記複数のトラブル事例から事象を抽出する事象抽出部と、
前記トラブル事例が入力されると前記トラブル事例ごとの前記事象同士の第1因果関係を抽出するように第1教師データを用いて機械学習された学習済み第1ニューラルネットワークを有し、前記第1因果関係を抽出する第1因果関係抽出部と、
抽出された前記第1因果関係に対応する前記事象をトップダウン的に連結して事象群を生成する連結部と、
複数の前記事象群間における同様の前記事象同士を統合することにより前記複数の事象群をツリー状に形成する統合部と
前記複数のトラブル事例を単語ごとに分割する形態素解析部と、
単語ごとに分割された前記複数のトラブル事例を学習用データとしてニューラルネットワークを用いて教師なし学習され、単語が入力されると、当該入力された単語の意味に対応する分散表現ベクトルを出力する学習済み第2ニューラルネットワークと、
単語ごとに分割された前記トラブル事例を、前記学習済み第2ニューラルネットワークによって分散表現ベクトル化する単語ベクトル化部と、
前記抽出された事象を、当該事象に含まれている単語ごとの分散表現ベクトルに基づいて、前記事象ごとの分散表現ベクトルに変換する文章ベクトル化部と、
前記文章ベクトル化部によって分散表現ベクトル化された前記事象同士のコサイン類似度に基づいて、前記事象同士の類似度を算出する類似度算出部と、を備え、
前記統合部は、所定以上の類似度が算出された前記事象同士を統合する
ことを特徴とするFT図生成装置。
【請求項2】
前記入力された単語の意味に対応する分散表現ベクトルは、前記入力された単語がN−gram分割されて抽出されたサブワードの分散表現ベクトルの和または平均である
ことを特徴とする請求項に記載のFT図生成装置。
【請求項3】
前記事象抽出部は、前記トラブル事例が入力されると、当該トラブル事例に含まれている前記事象を抽出するように第2教師データを用いて機械学習された学習済み第3ニューラルネットワークを有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のFT図生成装置。
【請求項4】
作業機械に関するトラブルシューティング用フロー図生成装置であって、
前記作業機械に関する複数のトラブル事例から前記作業機械に関するFT図を生成するFT図生成装置を備え、
前記FT図生成装置は、
前記複数のトラブル事例から事象を抽出する事象抽出部と、
前記トラブル事例が入力されると前記トラブル事例ごとの前記事象同士の第1因果関係を抽出するように第1教師データを用いて機械学習された学習済み第1ニューラルネットワークを有し、前記第1因果関係を抽出する第1因果関係抽出部と、
抽出された前記第1因果関係に対応する前記事象をトップダウン的に連結して事象群を生成する連結部と、
複数の前記事象群間における同様の前記事象同士を統合することにより前記複数の事象群をツリー状に形成する統合部と、を有し、
前記フロー図生成装置は、さらに、
前記複数のトラブル事例に含まれている前記事象に対して行われた処置を抽出する処置抽出部と、
前記トラブル事例が入力されると前記トラブル事例ごとの前記処置と当該処置に対応する前記事象との第2因果関係を抽出するように第3教師データを用いて機械学習された学習済み第4ニューラルネットワークを有し、前記第2因果関係を抽出する第2因果関係抽出部と、を備え、
前記連結部は、さらに、前記第2因果関係に基づいて、前記事象群中の前記事象に前記処置をトップダウン的に連結し、
前記統合部は、さらに、複数の前記事象群間における同様の前記処置を統合する
ことを特徴とするフロー図生成装置。
【請求項5】
前記処置抽出部は、前記トラブル事例が入力されると、当該トラブル事例に含まれている前記処置を抽出するように第4教師データを用いて機械学習された学習済み第5ニューラルネットワークを有する
ことを特徴とする請求項に記載のフロー図生成装置。
【請求項6】
コンピュータを請求項1〜のいずれか1項に記載の生成装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
作業機械のトラブル事例に基づいて、FT図を生成するFT図生成装置およびそれを備えたトラブルシューティング用フロー図生成装置ならびにコンピュータをFT図生成装置もしくはトラブルシューティング用フロー図生成装置またはその両方として機能させるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
作業機械等に生じた事故や故障を解析する手法としてFTA(Fault Tree Analysis)が知られている。FTAは、故障木解析とも言われている。FTAは、トップ事象に関連する事象をトップダウン的にツリー構造に表現するFT図を用いる。トップ事象には、例えば、作業機械に生じた事故や故障が相当する。FT図では、トップ事象に関連する事象のうち1番下位の事象が基本事象とされ、トップ事象でも基本事象でもない事象が中間事象とされる。FT図では、1つの事象に対して直接的に関連する事象が複数存在する場合、すわなち、1次事象、2次事象…n次事象が並列的に複数存在する場合がある。
【0003】
FT図を作成するための資料としては、作業機械のサービスマンが作成した資料が使用されている。作業機械に事故や故障が生じた場合、サービスマンは、作業機械になんらかの処置を行うことにより解決する。サービスマンは、通常、このようなトラブル事例を報告書などによって記録しており、その記録(以下、「トラブル事例」という)が蓄積されていく。
【0004】
ところで、これら複数のトラブル事例をもとにFT図を作成することは、時間を要するし面倒である。したがって、例えば、特許文献1および特許文献2に開示のプログラムのように、FT図作成を支援するプログラムが開発されてきた。
【0005】
特許文献1に開示のプログラムでは、技術分野別に用語群が予め記憶されており、FT図作成者は、用語群のリストから該当する事象をトップダウン的に次々と選択していくことによりFT図を作成することができる。
【0006】
ただし、これら特許文献1および特許文献2に開示のプログラムでは、予め作業者によって、FT図作成のための用語群のデータがトラブル事例から作成されていなければならない。すなわち、作業者は、表計算ソフト等を用いて手作業により、トラブル事例からトップ事象、中間事象および基本事象ならびにそれらの因果関係を抽出するとともに予めデータ化しておかなければならない。これらの作業は、非常に手間であり、時間を要するので問題であった。
【0007】
ところで、作業機械に生じた事故や故障に対して、未熟なサービスマンは、通常どのような処置をすればよいか容易に判断できない。また、このような未熟なサービスマンに対して、熟練のサービスマンが指導をすることは、時間および労力を要する。そこで、上記FT図を発展させて、作業機械に生じた事象に対して行うべき処置を参照可能なトラブルシューティング用フロー図が作成されることが好ましい。しかしながら、このようなトラブルシューティング用フロー図を作成することは、非常に手間であり、時間を要するので問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−195433号公報
【特許文献2】特開2013−073384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、トラブル事例から直接的にFT図を生成することができるFT図生成装置およびトラブルシューティング用フロー図生成装置ならびにプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係るFT図生成装置は、
作業機械に関する複数のトラブル事例から前記作業機械に関するFT図を生成するFT図生成装置であって、
前記複数のトラブル事例から事象を抽出する事象抽出部と、
前記トラブル事例が入力されると前記トラブル事例ごとの前記事象同士の第1因果関係を抽出するように第1教師データを用いて機械学習された学習済み第1ニューラルネットワークを有し、前記第1因果関係を抽出する第1因果関係抽出部と、
抽出された前記第1因果関係に対応する前記事象をトップダウン的に連結して事象群を生成する連結部と、
複数の前記事象群間における同様の前記事象同士を統合することにより前記複数の事象群をツリー状に形成する統合部と
前記複数のトラブル事例を単語ごとに分割する形態素解析部と、
単語ごとに分割された前記複数のトラブル事例を学習用データとしてニューラルネットワークを用いて教師なし学習され、単語が入力されると、当該入力された単語の意味に対応する分散表現ベクトルを出力する学習済み第2ニューラルネットワークと、
単語ごとに分割された前記トラブル事例を、前記学習済み第2ニューラルネットワークによって分散表現ベクトル化する単語ベクトル化部と、
前記抽出された事象を、当該事象に含まれている単語ごとの分散表現ベクトルに基づいて、前記事象ごとの分散表現ベクトルに変換する文章ベクトル化部と、
前記文章ベクトル化部によって分散表現ベクトル化された前記事象同士のコサイン類似度に基づいて、前記事象同士の類似度を算出する類似度算出部と、を備え、
前記統合部は、所定以上の類似度が算出された前記事象同士を統合することを特徴とする。
【0012】
上記FT図生成装置は、好ましくは、
前記入力された単語の意味に対応する分散表現ベクトルが、前記入力された単語がN−gram分割されて抽出されたサブワードの分散表現ベクトルの和または平均である。
【0013】
上記FT図生成装置は、例えば、
前記事象抽出部が、前記トラブル事例が入力されると、当該トラブル事例に含まれている前記事象を抽出するように第2教師データを用いて機械学習された学習済み第3ニューラルネットワークを有する。
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係るトラブルシューティング用フロー図生成装置は、
作業機械に関するトラブルシューティング用フロー図生成装置であって、
前記作業機械に関する複数のトラブル事例から前記作業機械に関するFT図を生成するFT図生成装置を備え、
前記FT図生成装置は、
前記複数のトラブル事例から事象を抽出する事象抽出部と、
前記トラブル事例が入力されると前記トラブル事例ごとの前記事象同士の第1因果関係を抽出するように第1教師データを用いて機械学習された学習済み第1ニューラルネットワークを有し、前記第1因果関係を抽出する第1因果関係抽出部と、
抽出された前記第1因果関係に対応する前記事象をトップダウン的に連結して事象群を生成する連結部と、
複数の前記事象群間における同様の前記事象同士を統合することにより前記複数の事象群をツリー状に形成する統合部と、を有し、
前記フロー図生成装置は、さらに、
前記複数のトラブル事例に含まれている前記事象に対して行われた処置を抽出する処置抽出部と、
前記トラブル事例が入力されると前記トラブル事例ごとの前記処置と当該処置に対応する前記事象との第2因果関係を抽出するように第3教師データを用いて機械学習された学習済み第4ニューラルネットワークを有し、前記第2因果関係を抽出する第2因果関係抽出部と、を備え、
前記連結部が、さらに、前記第2因果関係に基づいて、前記事象群中の前記事象に前記処置をトップダウン的に連結し、
前記統合部が、さらに、複数の前記事象群間における同様の前記処置を統合することを特徴とする。
【0015】
上記フロー図生成装置は、例えば、
前記処置抽出部が、前記トラブル事例が入力されると、当該トラブル事例に含まれている前記処置を抽出するように第4教師データを用いて機械学習された学習済み第5ニューラルネットワークを有する。
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係るプログラムは、
コンピュータを上記いずれかの生成装置として機能させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るFT図生成装置は、トラブル事例から直接的にFT図を生成することができる。また、本発明に係るFT図生成装置を備えたフロー図生成装置は、トラブル事例から直接的にトラブルシューティング用フロー図を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明のFT図生成装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
図2】報告書の一例を示す図である。
図3図1のFT図生成装置の機能ブロック図である。
図4】AおよびBは生成された事象群の一例を示し、Cは事象が統合されツリー形状にされた事象群の一例を示す。
図5図1のFT図生成装置の処理動作を示すフロー図である。
図6図1のFT図生成装置によって生成されたFT図の一例である。
図7】本発明のフロー図生成装置の一実施形態の概略構成を示すブロック図である。
図8図7のフロー図生成装置の機能ブロック図である。
図9図7のフロー図生成装置の処理動作を示すフロー図である。
図10図7のフロー図生成装置によって生成されたフロー図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
<FT図生成装置>
以下、図を参照しつつ、本発明のFT図生成装置A1の一実施形態について説明する。なお、本実施形態における作業機械は、フォークリフトであるが、単なる一例であってこれに限定されない。
【0020】
図1は、本実施形態の概略を示す全体図である。コンピュータCは、FT図生成プログラムP1によって、報告書300に記載されている複数のトラブル事例300b(図2参照)が入力されるとFT図を生成するFT図生成装置として機能するように構成されている。
【0021】
コンピュータCは、入力部C1と、制御部C2と、メモリC3と、記憶部C4と、出力部C5と、を備える。記憶部C4は、ハードディスクなどからなり、OSとFT図生成プログラムP1を記憶している。入力部C1は、キーボード、スキャナなどからなり、複数の報告書300に記載されたトラブル事例300bをコンピュータCに入力する。制御部C2は、FT図生成プログラムP1を動作させる。出力部C5は、モニタ、プリンタなどからなり、入力されたトラブル事例300bの内容、FT図生成装置の動作結果などを出力する。
【0022】
図2は、報告書300の一例を示す。報告書300には、日付、件名、顧客名、担当者名、機種/型式および不具合内容といった項目とともにその内容が記載されている。不具合内容欄には、フォークリフトに生じた各事象とともに、担当者によって行われた処置が記録されている。本明細書におけるトラブル事例300bとは、不具合内容欄に記載されている文章をいう。なお、トラブル事例300bは、各担当者によって各事象が箇条書きで書かれていたり、各事例が接続詞や句読点で連結されていたりする。
【0023】
図2の報告書300に記載されたトラブル事例300bにおける各事象および処置は、次のとおりである。
・トップ事象:エンジンが掛からなかった。
・中間事象1(1次事象):吸気系に異常があった。
・中間事象2(2次事象):吸気ホースが潰れていた。
・基本事象:エアクリーナが目詰まりしていた。
・処置:エアクリーナ清掃/フィルタ交換をした。
【0024】
図3は、FT図生成装置A1のブロック図である。FT図生成装置A1は、形態素解析部1と、単語ベクトル化部2と、事象抽出部3と、第1因果関係抽出部4と、連結部5と、文章ベクトル化部6と、類似度算出部7と、統合部8と、を備える。
【0025】
形態素解析部1は、トラブル事例300bが入力されると、形態素解析する。これにより、トラブル事例300bは、単語ごとにスペースを置いて分割され、分かち書き処理される。例えば、「エンジンが掛からなかった」という文章は、「エンジン」、「が」、「掛から」、「なかっ」、「た」と分割される。形態素解析するためのツールとして、例えば、「Mecab」を使用してもよい。また、予め作成されたフォークリフト用のコーパスを形態素解析ツールとして使用してもよい。これにより、トラブル事例300b中の各名詞が適切に抽出されるので好ましい。
【0026】
単語ベクトル化部2は、学習済み第2ニューラルネットワーク(以下、単に「第2NN」という)20を有する。第2NN20は、単語ごとに分割された複数のトラブル事例300bを学習用データとしてニューラルネットワークを用いて事前に教師なし学習されており、単語ごとに分割された複数のトラブル事例300bが入力されると、複数のトラブル事例300bに含まれている各単語同士の関連性に基づいて、この各単語の意味に対応する分散表現ベクトルを出力する。第2NN20は、同一の事象に出現する可能性(共起性)が高い単語、または同一の事象において近い位置に出現する可能性が高い単語といった関連性の高い単語がそれぞれ入力された場合に、類似する分散表現ベクトルが出力されるように事前学習されている。これは、類似する文脈で出現する単語は、意味的にも類似しているという分布仮説(Harrs, 1954, Rubenstein & Goodenough,1965)に基づく。単語ベクトル化部2として、例えば、ニューラルネットワーク技術に基づく「Word2Vec」、「Glove」、「Fasttext」などの言語モデルが使用されてもよい。分散表現およびWord2Vecについては「MIKOLOV, Tomas, et al. Distributed representations of words and phrases and their compositionality. In: Advances in neural information processing systems. 2013. p. 3111-3119.」などを参照することができる。Gloveについては「PENNINGTON, Jeffrey; SOCHER, Richard; MANNING, Christopher D. Glove: Global Vectors for Word Representation. In: EMNLP. 2014. p. 1532-1543.」などを参照することができる。Fasttextについては「JOULIN, Armand, et al. Bag of tricks for efficient text classification. arXiv preprint arXiv:1607.01759, 2016.」などを参照することができる。
【0027】
学習済み第2NN20は、各単語の分散表現ベクトルを出力する方法として、各単語に含まれるサブワードを考慮して分散表現ベクトルを生成することが好ましい。具体的には、単語ベクトル化部2は、入力された単語をN−gram分割してサブワードを抽出し、入力された単語の意味に対応する分散表現ベクトルを、サブワードの分散表現ベクトルの和または平均とすることが好ましい。サブワードは、例えば、単語「吸気ホース」の場合、「吸」、「吸気」、「気ホ」、「ホー」、「ース」、「ス」が該当する。これにより、第2NN20は、例えば、「吸気ホース」、「吸ホース」および「ホース」には、類似する分散表現ベクトルを出力するので、入力されるトラブル事例300bの表記上のゆれおよび未知語にも対応することができる。サブワードを考慮して分散表現ベクトルを生成するツールとして、例えば、「Fasttext」を用いてもよい。
【0028】
事象抽出部3は、トラブル事例300bから事象を抽出する。事象抽出部3は、例えば、トラブル事例300bが入力されると、当該トラブル事例300bに含まれている事象を抽出するように教師データを用いて機械学習された学習済み第3ニューラルネットワーク(以下、単に「第3NN」という)30を有してもよい。この場合、教師データは、入力データが複数のトラブル事例300bであり、正解データがトラブル事例300bごとに含まれている事象である。この教師データが、本発明の「第2教師データ」に相当する。また、この場合、機械学習に使用される教師データは、単語ベクトル化部2によって予め分散表現ベクトル化されていることが好ましい。教師データに含まれている単語が、分散表現ベクトル化されていることにより、文脈情報を有するので機械学習において特徴を学習しやすいからである。第3NN30は、ディープラーニングを利用し、かつ、畳み込みニューラルネットワークもしくは再帰型ニューラルネットワークまたはその両方を利用したものであってもよい。また、第3NN30は、複数のニューラルネットワークから構成されアンサンブル学習されたものであってもよい。
【0029】
第1因果関係抽出部4は、トラブル事例300bごとの事象同士の因果関係(以下、単に「第1因果関係」という)を抽出する。第1因果関係抽出部4は、トラブル事例300bが入力されると、第1因果関係を抽出するように教師データを用いて機械学習された学習済み第1ニューラルネットワーク(以下、単に「第1NN」という)40を有する。教師データは、入力データが各トラブル事例300bであり、正解データがトラブル事例300bごとに含まれている事象同士の因果関係である。この教師データが、本発明の「第1教師データ」に相当する。なお、第1因果関係には、第1因果関係を有する事象同士のいずれが上位事象または下位事象であるかといった従属関係も含まれている。また、使用される教師データは、単語ベクトル化部2によって予め分散表現ベクトル化されている方が、機械学習の精度、効率の観点から好ましい。第1NN40は、ディープラーニングを利用し、かつ、畳み込みニューラルネットワークもしくは再帰型ニューラルネットワークまたはその両方を利用したものであってもよい。また、第1NN40は、複数のニューラルネットワークから構成されアンサンブル学習されたものであってもよい。
【0030】
連結部5は、事象抽出部3によって抽出された第1因果関係に対応する事象同士をトップダウン的に連結して事象群Eを生成する。
【0031】
図4Aに示すように、連結部5は、例えば、図2の報告書300に係るトラブル事例300bの場合、各事象を連結線によって連結して事象群Eaを生成する。
【0032】
文章ベクトル化部6は、類似度算出部7が事象ごとの類似度を算出することができるように、事象抽出部3が抽出した事象を、当該事象に含まれている単語ごとの分散表現ベクトルに基づいて、事象ごとの分散表現ベクトルに変換する。文章ベクトル化部6は、事象を分散表現ベクトル化する手法として、事象に含まれている単語の分散表現ベクトルの平均を事象自体の特徴ベクトルとしてもよい。または、文章ベクトル化部6は、より精度よく事象を分散表現ベクトル化する手法として、SCDV(Sparse Composite Document Vectors)を用いた特徴ベクトル平均を用いてもよい。SCDVについては、「Dheeraj Mekala et al.: SCDV : Sparse Composite Document Vectors using soft clustering over distributional representations, Proc of EMNLP, 2017」を参照することができる。
【0033】
類似度算出部7は、文章ベクトル化部6によって分散表現ベクトル化された事象同士のコサイン類似度に基づいて、事象同士の類似度を算出する。コサイン類似度とは、ベクトル空間モデルにおいて、文書同士を比較する際に用いられる類似度計算手法である。コサイン類似度がベクトル同士の成す角度の近さを表現するので、事象同士は、コサイン類似度が1に近ければより類似しており、0に近ければより類似していないことになる。
【0034】
統合部8は、複数の事象群E間における同様の事象を統合することにより事象群Eをツリー状に形成する。統合部8は、例えば、図4AおよびBに示すように、連結部5によって事象群EaおよびEbが生成されている場合、事象群EaおよびEbに含まれている「エンジンが掛からない」という同様の事象を統合することにより、図4Cに示すように、事象群Eaおよび事象群Ebをツリー状の事象群Ecに形成する。
【0035】
統合部8は、ある事象同士の類似度が所定以上の類似度であった場合、この事象同士を同様の事象であると判断して統合する。
【0036】
次に、図5のフロー図を参照して、FT図生成装置A1の処理動作について説明する。
【0037】
まず、形態素解析部1が、複数のトラブル事例300bを形態素解析し、単語ごとに分割する(S500)。
【0038】
次いで、単語ベクトル化部2が、トラブル事例300bに含まれている単語を分散表現ベクトル化する(S501)。
【0039】
次いで、事象抽出部3が、単語ごとに分散表現ベクトル化されたトラブル事例300bから事象を抽出する(S502)。
【0040】
次いで、第1因果関係抽出部4が単語ごとに分散表現ベクトル化されたトラブル事例300bから第1因果関係を抽出する(S503)。
【0041】
次いで、連結部5が第1因果関係に基づいて、抽出された事象同士を連結し、事象群Eを生成する(S504)。
【0042】
次いで、文章ベクトル化部6が、抽出された事象を、その含まれている単語ごとの分散表現ベクトルに基づいて、事象ごとの分散表現ベクトルに変換する(S505)。
【0043】
次いで、類似度算出部7が、事象ごとの分散表現ベクトル同士のコサイン類似度に基づいて、事象同士の類似度を算出する(S506)。
【0044】
次いで、統合部8が、所定以上の類似度が算出された事象同士を同様の事象と判定し、この事象同士を統合して、関連する事象群Eをツリー状に形成する(S507)。
【0045】
図6は、FT図生成装置A1によって生成されたFT図400の一例を示す。以上のように、FT図生成装置A1は、複数のトラブル事例から直接的にFT図400を生成することができる。
【0046】
<第2実施形態>
<トラブルシューティング用フロー図生成装置>
次に、本発明に係るFT図生成装置A1を備えたトラブルシューティング用フロー図生成装置(以下、単に「フロー図生成装置」という)A2の一実施形態について、図7図10を参照して説明する。なお、コンピュータCおよびフロー図生成装置A2が備えているFT図生成装置A1の各構成については、既に説明したものであるので詳細な説明を省略する。
【0047】
図7に示すように、本実施形態に係るコンピュータCは、フロー図生成プログラムP2によって、トラブル事例300bが入力されるとトラブルシューティング用フロー図を生成するトラブルシューティング用フロー図生成装置として機能するように構成されている。
【0048】
図8に示すように、フロー図生成装置A2は、FT図生成装置A1と、処置抽出部9と、第2因果関係抽出部10と、を備える。
【0049】
まず、第1実施形態と同様の手法で、形態素解析部1が、複数のトラブル事例300bを形態素解析して単語ごとに分割し(S800)、単語ベクトル化部2が、それら単語をそれぞれ分散表現ベクトル化する(S801)。次いで、第1実施形態と同様の手法で、単語ごとに分散表現ベクトル化されたトラブル事例300bから、事象抽出部3が事象を抽出し(S802)、第1因果関係抽出部4が第1因果関係を抽出する(S803)。
【0050】
次いで、処置抽出部9は、単語ごとに分散表現ベクトル化されたトラブル事例300bから処置を抽出する(S804)。処置抽出部9は、例えば、トラブル事例300bが入力されると、当該トラブル事例300bに含まれている処置を抽出するように教師データを用いて機械学習された学習済み第5ニューラルネットワーク(以下、単に「第5NN」という)90を有してもよい。この場合、教師データは、入力データが複数のトラブル事例300bであり、正解データがトラブル事例300bごとに含まれている処置である。この教師データが、本発明の「第4教師データ」に相当する。また、この場合、機械学習に使用される教師データは、単語ベクトル化部2によって予め分散表現ベクトル化されていることが好ましい。第5NN90は、ディープラーニングを利用し、かつ、畳み込みニューラルネットワークもしくは再帰型ニューラルネットワークまたはその両方を利用したものであってもよい。また、第5NN90は、複数のニューラルネットワークから構成されアンサンブル学習されたものであってもよい。
【0051】
次いで、第2因果関係抽出部10は、単語ごとに分散表現ベクトル化されたトラブル事例300bから、トラブル事例300bごとの処置と当該処置に対応する事象との因果関係(以下、「第2因果関係」という)を抽出する(S805)。第2因果関係抽出部10は、トラブル事例300bが入力されると、第2因果関係を抽出するように教師データを用いて機械学習された学習済み第4ニューラルネットワーク(以下、単に「第4NN」という)100を有する。教師データは、入力データが各トラブル事例300bであり、正解データがトラブル事例300bごとに含まれている処置と当該処置に対応する事象との因果関係である。この教師データが、本発明の「第3教師データ」に相当する。また、使用される教師データは、単語ベクトル化部2によって予め分散表現ベクトル化されている方が、機械学習の精度、効率の観点から好ましい。第4NN100は、ディープラーニングを利用し、かつ、畳み込みニューラルネットワークもしくは再帰型ニューラルネットワークまたはその両方を利用したものであってもよい。また、第4NN100は、複数のニューラルネットワークから構成されアンサンブル学習されたものであってもよい。
【0052】
次いで、連結部5は、第1因果関係に基づいて、抽出された事象同士を連結するとともに(S806)、第2因果関係に基づいて、事象群E中の事象に処置をトップダウン的に連結し(S807)、処置が連結された事象群Eを生成する。
【0053】
次いで、文章ベクトル化部6が、抽出された事象および処置を、その含まれている単語ごとの分散表現ベクトルに基づいて、事象ごとまたは処置ごとの分散表現ベクトルに変換する(S808)。
【0054】
次いで、類似度算出部7は、事象ごとの分散表現ベクトル同士のコサイン類似度に基づいて、事象同士の類似度を算出するとともに、処置ごとの分散表現ベクトル同士のコサイン類似度に基づいて、処置同士の類似度を算出する(S809)。
【0055】
統合部8は、所定以上の類似度が算出された事象同士および処置同士を同様の事象または同様の処置と判定し、同様の事象同士および処置同士を統合して、関連する事象群Eをツリー状に形成する(S810)。
【0056】
図10は、フロー図生成装置A2により生成されたトラブルシューティング用フロー図500の一例を示す。以上のように、フロー図生成装置A2は、トラブル事例300bから直接的にトラブルシューティング用フロー図500を生成することができる。
【0057】
以上、本発明に係るFT図生成装置A1およびフロー図生成装置A2の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0058】
FT図生成装置A1およびフロー図生成装置A2は、それぞれ生成したFT図、フロー図を編集する編集部を備えていてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 形態素解析部
2 単語ベクトル化部
20 学習済み第2ニューラルネットワーク
3 事象抽出部
30 学習済み第3ニューラルネットワーク
4 第1因果関係抽出部
40 学習済み第1ニューラルネットワーク
5 連結部
6 文章ベクトル化部
7 類似度算出部
8 統合部
9 処置抽出部
90 学習済み第5ニューラルネットワーク
10 第2因果関係抽出部
100 学習済み第4ニューラルネットワーク
300 報告書
300b トラブル事例
400 FT図
500 トラブルシューティング用フロー図
C コンピュータ
A1 FT図生成装置
A2 トラブルシューティング用フロー図生成装置
【要約】
【課題】トラブル事例から直接的にFT図を生成するFT図生成装置およびプログラムを提供する。
【解決手段】FT図生成装置A1は、作業機械に関する複数のトラブル事例300bから作業機械に関するFT図を生成する。FT図生成装置A1は、複数のトラブル事例300bから事象を抽出する事象抽出部3と、トラブル事例300bごとの事象同士の第1因果関係を抽出する第1因果関係抽出部4と、抽出された第1因果関係に対応する事象をトップダウン的に連結して事象群を生成する連結部5と、複数の事象群間における同様の事象同士を統合することにより事象群をツリー状に形成する統合部8と、を備える。第1因果関係抽出部4は、トラブル事例300bが入力されると、トラブル事例300bごとの事象同士の第1因果関係を抽出するように教師データを用いて機械学習された学習済み第1ニューラルネットワーク(第1NN)40を有する。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10