特許第6692570号(P6692570)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6692570光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692570
(24)【登録日】2020年4月17日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/16 20060101AFI20200427BHJP
   C03C 3/17 20060101ALI20200427BHJP
   C03C 3/19 20060101ALI20200427BHJP
   C03C 3/21 20060101ALI20200427BHJP
   C03C 3/066 20060101ALI20200427BHJP
   C03C 3/062 20060101ALI20200427BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   C03C3/16
   C03C3/17
   C03C3/19
   C03C3/21
   C03C3/066
   C03C3/062
   G02B1/00
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-125685(P2015-125685)
(22)【出願日】2015年6月23日
(65)【公開番号】特開2016-74581(P2016-74581A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2018年2月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-206700(P2014-206700)
(32)【優先日】2014年10月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(72)【発明者】
【氏名】傅 杰
【審査官】 大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−047095(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/074211(WO,A1)
【文献】 特開2008−044837(JP,A)
【文献】 特開2011−195358(JP,A)
【文献】 特開2011−121831(JP,A)
【文献】 特開平09−188540(JP,A)
【文献】 特開平06−345481(JP,A)
【文献】 特開2005−206433(JP,A)
【文献】 特開2012−224501(JP,A)
【文献】 特開2005−154253(JP,A)
【文献】 特開2011−219278(JP,A)
【文献】 特開2005−247659(JP,A)
【文献】 特開2004−002153(JP,A)
【文献】 特開2005−154248(JP,A)
【文献】 特開2011−001259(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/031385(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00−14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、P成分を15.0%以上40.0%以下、Nb成分を5.0%以上35.0%以下、ZnO成分を11.5%以上30.0%以下、NaO成分を0.5%以上25.0%以下、LiO成分を0%以上8.0%未満含有し、モル比TiO/ZnOが0超2.0以下、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が425nm以下であり、ガラス転移点が650℃以下であり、平均線膨張係数(α)が90×10−7−1以下である、1.80以上の屈折率(n)を有する光学ガラス。
【請求項2】
モル%で、
TiO成分 0超40.0%
成分 0〜15.0%
O成分 0〜25.0%
MgO成分 0〜25.0%
CaO成分 0〜25.0%
SrO成分 0〜25.0%
BaO成分 0〜25.0%
Bi成分 0〜10.0%
WO成分 0〜10.0%
成分 0〜10.0%
La成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜10.0%
Yb成分 0〜10.0%
SiO成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
Al成分 0〜10.0%
TeO成分 0〜15.0%
ZrO成分 0〜10.0%
Ta成分 0〜10.0%
Ga成分 0〜10.0%
SnO成分 0〜10.0%
Sb成分 0〜3.0%
である請求項1記載の光学ガラス。
【請求項3】
モル%で、
O成分の含有量の和が30.0%以下、
MO成分の含有量の和が30.0%以下、
Ln成分の含有量の和が15.0%以下
である請求項1又は2記載の光学ガラス(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上であり、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上であり、Lnは、Y、La、Gd及びYbからなる群より選択される1種以上である)。
【請求項4】
モル和(ZnO+RO)が10.0%以上50.0%以下である請求項1から3のいずれか記載の光学ガラス(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。
【請求項5】
モル和(TiO+Nb)が50.0%以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項6】
モル比(ZnO+RO)/(TiO+Nb)が0.30以上である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。
【請求項7】
モル和(SiO+Al)が10.0%以下である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項8】
モル比B/(SiO+Al)が0.50以上であり、又はモル和(SiO+Al)が0である請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項9】
35以下のアッベ数(ν)を有する請求項1からのいずれか記載の光学ガラス。
【請求項10】
請求項1からのいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【請求項11】
請求項1からいずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【請求項12】
請求項11記載のプリフォームを精密プレスしてなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、レンズプリフォーム及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器をはじめ、各種光学機器に用いられるレンズ等の光学素子に対する高精度化、軽量、及び小型化の要求は、ますます強まっている。
【0003】
光学素子を作製する光学ガラスの中でも特に、光学素子の軽量化及び小型化を図ることが可能な、高い屈折率(n)を有しながらも、より低いアッベ数(ν)を有するガラスの需要が非常に高まっている。高い屈折率と低いアッベ数を有するガラスとしては、例えば屈折率(n)が1.70以上であり、35以下のアッベ数を有する光学ガラスとして、特許文献1〜5に開示されているようなガラスが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−206433号公報
【特許文献2】特開2011−121831号公報
【特許文献3】特開2011−195358号公報
【特許文献4】特開2012−036091号公報
【特許文献5】特開平06−345481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜5に開示されたガラスは、アッベ数は低いものの、安定性が高いとは言い難く、失透等が発生するおそれがあった。また、特許文献1〜5に開示されたガラスは、ガラス転移点が高く、プレス成形に好適なガラスとはいえなかった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、高い屈折率(n)と低いアッベ数(ν)を有し、ガラス転移点が低くプレス成形に好適であり、且つ耐失透性の高い光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意試験研究を重ねた結果、P成分、Nb成分、ZnO成分及びNaO成分を併用したガラスにおいて、ガラス転移点の低い安定なガラスを得ることが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
(1) モル%で、P成分を15.0%以上50.0%以下、Nb成分を5.0%以上50.0%以下、ZnO成分を0.5%以上30.0%以下及びNaO成分を0.5%以上30.0%以下含有し、1.80以上の屈折率(n)を有する光学ガラス。
【0010】
(2) モル%で、
TiO成分 0〜40.0%
成分 0〜15.0%
LiO成分 0〜30.0%
O成分 0〜25.0%
MgO成分 0〜25.0%
CaO成分 0〜25.0%
SrO成分 0〜25.0%
BaO成分 0〜25.0%
Bi成分 0〜10.0%
WO成分 0〜10.0%
成分 0〜10.0%
La成分 0〜10.0%
Gd成分 0〜10.0%
Yb成分 0〜10.0%
SiO成分 0〜10.0%
GeO成分 0〜10.0%
Al成分 0〜10.0%
TeO成分 0〜15.0%
ZrO成分 0〜10.0%
Ta成分 0〜10.0%
Ga成分 0〜10.0%
SnO成分 0〜10.0%
Sb成分 0〜3.0%
である(1)記載の光学ガラス。
【0011】
(3) モル%で、
O成分の含有量の和が30.0%以下、
MO成分の含有量の和が30.0%以下、
Ln成分の含有量の和が15.0%以下
である(1)又は(2)記載の光学ガラス(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上であり、MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上であり、Lnは、Y、La、Gd及びYbからなる群より選択される1種以上である)。
【0012】
(4) モル和(ZnO+RO)が10.0%以上50.0%以下である(1)から(3)のいずれか記載の光学ガラス(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。
【0013】
(5) モル比TiO/ZnOが2.0以下である(1)から(4)のいずれか記載の光学ガラス。
【0014】
(6) モル和(TiO+Nb)が50.0%以下である(1)から(5)のいずれか記載の光学ガラス。
【0015】
(7) モル比(ZnO+RO)/(TiO+Nb)が0.30以上である(1)から(6)のいずれか記載の光学ガラス(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。
【0016】
(8) モル和(SiO+Al)が10.0%以下である(1)から(7)のいずれか記載の光学ガラス。
【0017】
(9) モル比B/(SiO+Al)が0.50以上であり、又はモル和(SiO+Al)が0である(1)から(8)のいずれか記載の光学ガラス。
【0018】
(10) 35以下のアッベ数(ν)を有し、分光透過率が70%を示す波長(λ70)が440nm以下であり、ガラス転移点が650℃以下である(1)から(9)のいずれか記載の光学ガラス。
【0019】
(11) (1)から(10)のいずれか記載の光学ガラスからなる光学素子。
【0020】
(12) (1)から(10)いずれか記載の光学ガラスからなる研磨加工用及び/又は精密プレス成形用のプリフォーム。
【0021】
(13) (12)記載のプリフォームを精密プレスしてなる光学素子。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高い屈折率(n)と低いアッベ数(ν)を有し、ガラス転移点が低くプレス成形に好適であり、且つ耐失透性の高い光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【0023】
また、本発明によれば、このように高い屈折率(n)と低いアッベ数(ν)を有しながらも、高い可視光透過率を有する光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子をも提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の光学ガラスは、モル%で、P成分を15.0%以上45.0%以下、Nb成分を5.0%以上50.0%以下、ZnO成分を0.5%以上30.0%以下及びNaO成分を0.5%以上30.0%以下含有し、1.80以上の屈折率(n)を有する。
成分、Nb成分、ZnO成分及びNaO成分を併用したガラスにおいて、各成分の含有量を調整することで、ガラス転移点の低い安定なガラスを得ることが可能になる。また、このようなガラスにおいて、各成分の含有量を調整することで、可視光についての透過率を高めることも可能になる。
このため、高い屈折率(n)と低いアッベ数(ν)を有し、ガラス転移点が低くプレス成形に好適であり、耐失透性が高く、且つ高い可視光透過率を有する光学ガラスと、これを用いたレンズプリフォーム及び光学素子を提供できる。
【0025】
特に本発明は、従来少量しか含有されておらず、文献においても「含有量が多すぎると耐失透性が低下する」等の憶測に基づいた記載しかなされてこなかったZnO成分を含有させ、且つ、NaO成分を含有させたガラスにおいて、屈折率が高く、ガラス転移点が低くプレス成形に好適であり、また、高い可視光透過率をもたらすことが可能であり、安定なガラスが得られることを、新たに見出したものである。
【0026】
以下、本発明の光学ガラスの実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0027】
[ガラス成分]
本発明の光学ガラスを構成する各成分の組成範囲を以下に述べる。本明細書中で特に断りがない場合、各成分の含有量は、全て酸化物換算組成のガラス全物質量に対するモル%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」とは、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総モル数を100モル%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0028】
<必須成分、任意成分について>
成分は、ガラス形成成分であり、且つガラス原料の溶解温度を下げる必須成分である。特に、P成分の含有量を15.0%以上にすることで、ガラスの安定性及び可視域における透過率を高めることができる。従って、P成分の含有量は、好ましくは15.0%、より好ましくは19.0%、さらに好ましくは21.0%、さらに好ましくは23.0%、さらに好ましくは24.0%を下限とする。
他方で、P成分の含有量を50.0%以下にすることで、高屈折率を得ることができる。従って、P成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは35.0%、さらに好ましくは32.0%、さらに好ましくは30.0%を上限とする。
成分は、原料としてAl(PO、Ca(PO、Ba(PO、BPO、HPO等を用いることができる。
【0029】
Nb成分は、ガラスの耐失透性、化学的耐久性及び屈折率を高めてアッベ数を低くする必須成分である。特に、Nb成分を5.0%以上含有することで、高屈折率を得ることができ、且つ所望の低いアッベ数を得ることができる。また、Nb成分を20.0%以上含有することで、より低い熱膨張係数を得易くでき、精密プレス等の温度変化を伴った加工工程におけるガラスの割れを防ぐ効果がある。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは5.0%以上、より好ましくは7.0%超、さらに好ましくは10.0%超、さらに好ましくは15.0%超とする。
他方で、Nb成分の含有量を50.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めることができる。従って、Nb成分の含有量は、好ましくは50.0%、より好ましくは40.0%、さらに好ましくは35.0%、さらに好ましくは32.0%、さらに好ましくは30.0%、さらに好ましくは26.0%、さらに好ましくは23.0%を上限とする。
Nb成分は、原料としてNb等を用いることができる。
【0030】
ZnO成分は、ガラスの耐失透性を高める必須成分である。特に、ZnO成分を0.5%以上含有することで、ガラスの原料の溶融性及び耐失透性を高められ、ガラス転移点を下げられ、ガラスの可視光についての透過率を高められ、比重を低減でき、且つ屈折率を高められる。また、ZnO成分は熱膨張係数を低くする成分であるため、精密プレス等の温度変化を伴った加工工程におけるガラスの割れを防ぐ効果がある。従って、ZnO成分の含有量は、好ましくは0.5%以上、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは3.0%以上、さらに好ましくは4.0%以上、さらに好ましくは5.0%超、さらに好ましくは7.0%超、さらに好ましくは9.0%超、さらに好ましくは11.5%以上としてもよい。
他方で、ZnO成分の含有量の上限は、好ましくは30.0%、より好ましくは28.0%、さらに好ましくは26.0%、さらに好ましくは23.0%、さらに好ましくは21.0%を上限とする。
ZnO成分は、原料としてZnO、Zn(PO、ZnSO、ZnF等を用いることができる。
【0031】
本発明では、Nb成分の含有量を低減させ、且つZnO成分の含有量を低減させることで、高い屈折率を維持しつつ、ガラスの安定性や可視光透過率を高めることができる。そのため、Nb成分の含有量を50.0%以下にし、且つZnO成分の含有量を40.0%以下にすることがより好ましい。さらに好ましくは、Nb成分の含有量を30.0%未満にし、且つZnO成分の含有量を24.0%以下にする。
【0032】
NaO成分は、0.5%以上含有することで、ガラス原料の溶解温度及びガラス転移点を下げられ、且つ耐失透性を高められる必須成分である。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%超、さらに好ましくは3.0%超、さらに好ましくは4.0%超、さらに好ましくは5.0%超とする。
他方で、NaO成分の含有量を30.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。従って、NaO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは21.0%、さらに好ましくは18.0%を上限とする。
NaO成分は、原料としてNaCO、NaHPO、NaNO、NaF、NaSiF等を用いることができる。
【0033】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの溶融性、耐失透性及び屈折率を高められ、アッベ数を低くでき、且つ化学的耐久性を高められる任意成分である。また、TiO成分は熱膨張係数を低くする成分であるため、精密プレス等の温度変化を伴った加工工程におけるガラスの割れを防ぐ効果がある。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは2.0%、さらに好ましくは5.0%を下限としてもよい。
他方で、TiO成分の含有量を40.0%以下にすることで、可視光についての透過率の低下を抑えられ、耐失透性の低下を抑えられる。従って、TiO成分の含有量は、好ましくは40.0%、より好ましくは35.0%、さらに好ましくは32.0%、さらに好ましくは29.0%、さらに好ましくは21.0%を上限とする。
TiO成分は、原料としてTiO等を用いることができる。
【0034】
成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の溶融性を高め、安定なガラスの形成を促すことで耐失透性を高められる成分であり、ガラス中の任意成分である。従って、B成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.8%、さらに好ましくは1.0%、さらに好ましくは1.5%、さらに好ましくは2.0%を下限とし、さらに好ましくは3.0%超、さらに好ましくは3.6%以上としてもよい。
他方で、B成分の含有量を15.0%以下にすることで、耐失透性の低下を抑えられ、且つ可視光についての透過率を高められる。従って、B成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは8.0%未満、さらに好ましくは7.0%未満とする。
成分は、原料としてHBO、Na、Na・10HO、BPO等を用いることができる。
【0035】
LiO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の溶解温度及びガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、LiO成分の含有量を30.0%以下にすることで、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられ、且つ耐失透性を高められる。従って、LiO成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%を上限とし、さらに好ましくは15.0%未満、さらに好ましくは12.0%未満、さらに好ましくは9.0%未満、さらに好ましくは8.0%未満とする。
LiO成分は、原料としてLiCO、LiPO、LiNO、LiF等を用いることができる。
【0036】
O成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の溶解温度を下げられる成分であるとともに、上述のLiO成分やNaO成分よりも耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、KO成分の含有量を25.0%以下にすることで、より多くのNaO成分やLiO成分の含有が可能になるため、ガラス転移点を低くできる。また、可視光についての透過率を高められ、耐失透性を高められ、且つ、屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。従って、KO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは7.0%を上限とする。
O成分は、原料としてKCO、KHPO、KNO、KF、KHF、KSiF等を用いることができる。
【0037】
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の溶融性及び耐失透性を高められる任意成分である。特にMgO成分は、ガラスの熱膨張係数を小さくでき、且つ、他のアルカリ土類成分、特にBaO成分に比べて比重を低減できる成分である。
他方で、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の各々の含有量を25.0%以下にすることで、耐失透性の低下及びガラス転移点の上昇を抑えられ、且つガラスの熱的安定性も高められる。
従って、MgO成分、CaO成分及びSrO成分の各々の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満とする。
MgO成分、CaO成分及びSrO成分は、原料としてMgO、MgCO、Mg(PO、MgF、CaCO、Ca(PO、CaF、SrCO、Sr(NO、SrF等を用いることができる。
【0038】
BaO成分は、0%超含有する場合に、ZnO成分と併用することで屈折率及び可視光についての透過率をより一層高められる任意成分である。
他方で、BaO成分の含有量を25.0%以下にすることで、ガラス転移点をより低くでき、且つ、耐失透性を高められる。また、比重の上昇を抑えられる。従って、BaO成分の含有量は、好ましくは25.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは17.0%を上限とし、さらに好ましくは14.0%未満、さらに好ましくは10.0%以下、さらに好ましくは7.0%以下とする。
BaO成分は、原料としてBaCO、Ba(PO、BaSO、Ba(NO、BaF等を用いることができる。
【0039】
Bi成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率とガラス原料の溶融性を高められ、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、Bi成分の含有量を10.0%以下にすることで、耐失透性の低下を抑えられ、且つ可視光についての透過率の低下を抑えることができる。また、Bi成分の還元によってポットが侵される問題を抑えられる。従って、Bi成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0040】
WO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び耐失透性を高められ、アッベ数を低くでき、且つガラス原料の溶融性を高められる任意成分である。また、WO成分は熱膨張係数を低くする成分であるため、精密プレス等の温度変化を伴った加工工程におけるガラスの割れを防ぐ効果がある。
他方で、WO成分の含有量を10.0%以下にすることで、耐失透性を高め、且つ可視光についての透過率の低下を抑えられる。従って、WO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
WO成分は、原料としてWO等を用いることができる。
【0041】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性、屈折率及び透過率を高められる任意成分である。
他方で、Y成分の含有量を10.0%以下にすることで、耐失透性の低下や、ガラス転移点の上昇を抑えることができる。従って、Y成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
成分は、原料としてY、YF等を用いることができる。
【0042】
La成分、Gd成分及びYb成分は、各々0%超含有する場合に、ガラスの耐失透性、屈折率及び透過率を高められる任意成分である。
他方で、La成分、Gd成分及びYb成分の含有量を各々10.0%以下にすることで、ガラス転移点の上昇を抑えられ、且つ耐失透性の低下を抑えられる。従って、La成分、Gd成分及びYb成分の各々の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
La成分、Gd成分及びYb成分は、原料としてLa、La(NO・XHO(Xは任意の整数)、Gd、GdF、Yb等を用いることができる。
【0043】
SiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの可視光についての透過率を高めて着色を低減できるとともに、安定なガラス形成を促すことでガラスの耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、SiO成分の含有量を10.0%以下にすることで、SiO成分による耐失透性の低下が抑えられるため、安定性の高いガラスを得易くすることができる。従って、SiO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは2.0%以下とする。
SiO成分は、原料としてSiO、KSiF、NaSiF等を用いることができる。
【0044】
GeO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び耐失透性を高められる任意成分である。
他方で、GeO成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの材料コストを低減できる。従って、GeO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
GeO成分は、原料としてGeO等を用いることができる。
【0045】
Al成分は、0%超含有する場合に、ガラスの溶融性、耐失透性及び化学的耐久性を高められ、ガラス溶融時の粘度を高められる任意成分である。
特に、Al成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラス原料の溶融性を高められ、耐失透性を高められる。従って、Al成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Al成分は、原料としてAl、Al(OH)、AlF等を用いることができる。
【0046】
TeO成分は、0%超含有する場合に、ガラス原料の溶融性を高められ、ガラスの屈折率を高められ、アッベ数を低くでき、且つガラス転移点を下げられる任意成分である。
他方で、TeO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められ、且つ、TeO成分の還元によってポットが侵される問題を抑えられる。従って、TeO成分の含有量は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
TeO成分は、原料としてTeO等を用いることができる。
【0047】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及び耐失透性を高められ、且つ、可視光についての透過率を高められる任意成分である。また、ZrO成分は熱膨張係数を低くする成分であるため、精密プレス等の温度変化を伴った加工工程におけるガラスの割れを防ぐ効果がある。
他方で、ZrO成分の含有量を10.0%以下にすることで、耐失透性の低下を抑えられる。従って、ZrO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
ZrO成分は、原料としてZrO、ZrF等を用いることができる。
【0048】
Ta成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。
他方で、Ta成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Ta成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Ta成分は、原料としてTa等を用いることができる。
【0049】
Ga成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高められる任意成分である。
他方で、Ga成分の含有量を10.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつ、ガラスの摩耗度を大きくして研磨加工し易くできる。従って、Ga成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満とする。
Ga成分は、原料としてGa、GaFを用いることができる。
【0050】
SnO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの脱泡を促進できると同時に、Nb成分やTiO成分等の還元を抑えることで、ガラスの可視光についての透過率を高められる任意成分である。
他方で、SnO成分の含有量が10.0%を越えると、ガラスが失透し易くなり、可視光における透過率も低下し易くなり、さらにSnO成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が起こり易くなる。従って、SnO成分の含有量は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。特に、SnO成分と溶解設備の合金化を低減させる観点では、SnO成分を含有しなくてもよい。
SnO成分は、原料としてSnO、SnO、SnF、SnFを用いることができる。
【0051】
Sb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの脱泡を促進できると同時に、Nb成分やTiO成分等の還元を抑えることで、可視光についてのガラスの透過率を高められる任意成分である。
他方で、Sb成分の含有量が3.0%を越えると、可視光における透過率も低下し易くなり、且つ、Sb成分と溶解設備(特にPt等の貴金属)との合金化が起こり易くなる。また、本発明の光学ガラスは、Sb成分の含有量を低減させた場合であっても、高屈折率成分によるガラスへの着色を、ガラスへのアニールを行わなくとも低減できる。そのため、所望の屈折率を有しながらも、可視光についてのガラスの透過率が高く、且つガラス表面に形成される凹凸や曇りの少ないガラスを得ることができる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは3.0%、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは0.5%、さらに好ましくは0.1%、さらに好ましくは0.05%、さらに好ましくは0.03%、さらに好ましくは0.01%を上限とする。
Sb成分は、原料としてSb、Sb、NaSb・5HO等を用いることができる。
【0052】
なお、ガラスを清澄し脱泡する成分は、上記のSb成分に限定されるものではなく、F成分やS成分を清澄剤(脱泡剤)として用いてもよく、また、ガラス製造の分野における公知の清澄剤、脱泡剤或いはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0053】
O成分(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)の合計含有量(モル和)は、30.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。また、ガラスの耐失透性も高められる。従って、RO成分のモル和(例えば、LiO成分、NaO成分及びKO成分の合計含有量)は、好ましくは30.0%、より好ましくは27.0%、さらに好ましくは24.0%を上限とし、さらに好ましくは21.0%未満とする。
他方で、この合計量は0%超にしてもよい。これにより、ガラス転移点(Tg)を下げられ、且つ可視域の光についての透過率を高められる。従って、RO成分のモル和は、好ましくは0%超、より好ましくは0.1%超、さらに好ましくは1.0%超、さらに好ましくは3.0%超、さらに好ましくは5.0%超、さらに好ましくは7.0%超、さらに好ましくは11.0%超としてもよい。
【0054】
MO成分(MはMg、Ca、Sr及びBaからなる群より選択される1種以上である)の含有量の和は、30.0%以下である。これにより、ガラス転移点の上昇や、過剰な含有による耐失透性の低下を抑えられる。従って、MO成分のモル和(例えば、MgO成分、CaO成分、SrO成分及びBaO成分の合計含有量)は、好ましくは30.0%、より好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは14.0%未満、さらに好ましくは8.0%未満、さらに好ましくは6.0%未満とする。
【0055】
Ln成分(Lnは、Y、La、Gd及びYbからなる群より選択される1種以上である)の含有量の和(モル和)は、15.0%以下が好ましい。これにより、ガラスの耐失透性の低下や、ガラス転移点の上昇を抑えられる。従って、Ln成分のモル和(例えば、Y成分、La成分、Gd成分及びYb成分の合計含有量)は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%未満、さらに好ましくは5.0%未満、さらに好ましくは3.0%未満、さらに好ましくは1.0%未満とする。
【0056】
ZnO成分及びRO成分の合計含有量(モル和)は、10.0%以上が好ましい(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。これにより、ガラス転移点(Tg)を下げられ、且つ可視域の光についての透過率を高められる。従って、モル和(ZnO+RO)は、好ましくは10.0%、より好ましくは13.0%、さらに好ましくは16.0%、さらに好ましくは20.0%、さらに好ましくは23.0%、さらに好ましくは25.0%を下限とする。
他方で、この合計量を50.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。また、ガラスの耐失透性も高められる。従って、モル和(ZnO+RO)は、好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、さらに好ましくは40.0%、さらに好ましくは38.0%を上限とする。
【0057】
ZnO成分及びNaO成分の合計含有量(モル和)は、5.0%以上が好ましい。これにより、ガラス転移点(Tg)を下げられ、且つ可視域の光についての透過率を高められる。従って、モル和(ZnO+NaO)は、好ましくは5.0%、より好ましくは8.0%、さらに好ましくは12.0%、さらに好ましくは15.0%、さらに好ましくは19.0%、さらに好ましくは23.0%を下限とする。
他方で、この合計量を48.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下やアッベ数の上昇を抑えられる。また、ガラスの耐失透性も高められる。従って、モル和(ZnO+NaO)は、好ましくは48.0%、より好ましくは45.0%、さらに好ましくは43.0%、さらに好ましくは40.0%を上限とする。
【0058】
ZnO成分の含有量に対するTiOの合計含有量の比率(モル比)は、2.00以下が好ましい。これにより、ガラス転移点がより低くなるため、プレス成形に好適な光学ガラスを得ることができる。また、Sb成分の添加やガラスへの熱処理を行わなくても、可視光についての透過率を高めることが可能になり、且つ、ガラスの屈折率及び安定性が高められる。従って、モル比TiO/ZnOは、好ましくは2.00、より好ましくは1.50、さらに好ましくは1.20、さらに好ましくは1.00を上限としてもよい。
他方で、モル比TiO/ZnOは、より屈折率を高める観点から、好ましくは0超、より好ましくは0.2超、さらに好ましくは0.3超、さらに好ましくは0.5以上としてもよい。
【0059】
TiO成分及びNb成分の含有量の和(モル和)は、50.0%以下が好ましい。これにより、ガラス転移点をより低くでき、且つ耐失透性を高められる。従って、モル和(TiO+Nb)は、好ましくは50.0%、より好ましくは45.0%、さらに好ましくは41.0%を上限としてもよい。
他方で、この合計量を5.0%以上にすることで、ガラスの屈折率を高められ、アッベ数を小さくできる。また、ガラスの耐失透性も高められる。従って、モル和(TiO+Nb)は、好ましくは5.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは25.0%、さらに好ましくは26.5%、さらに好ましくは27.5%、さらに好ましくは28.5%、さらに好ましくは30.0%を下限としてもよい。
【0060】
ZnO成分及びRO成分の合計量に対する、TiO成分及びNb成分の合計量の比率(モル比)は、0.30以上が好ましい(RはLi、Na及びKからなる群より選択される1種以上である)。これにより、ガラス転移点がより低くなるため、プレス成形に好適な光学ガラスを得られる。従って、モル比(ZnO+RO)/(TiO+Nb)は、好ましくは0.30、より好ましくは0.45、さらに好ましくは0.55、さらに好ましくは0.65を下限とする。
他方で、この比率を小さくすることで、ガラスの耐失透性、屈折率を高められる。従って、モル比(ZnO+RO)/(TiO+Nb)は、好ましくは10.00、より好ましくは5.00、さらに好ましくは3.00、さらに好ましくは1.50、さらに好ましくは1.30を上限としてもよい。
【0061】
ZnO成分及びNaO成分の合計量に対する、TiO成分及びNb成分の合計量の比率(モル比)は、0.30以上が好ましい。これにより、ガラス転移点がより低くなるため、プレス成形に好適な光学ガラスを得られる。従って、モル比(ZnO+NaO)/(TiO+Nb)は、好ましくは0.30、より好ましくは0.35、さらに好ましくは0.45、さらに好ましくは0.60を下限とする。
他方で、この比率を小さくすることで、ガラスの耐失透性、屈折率を高められる。従って、モル比(ZnO+NaO)/(TiO+Nb)は、好ましくは10.00、より好ましくは5.00、さらに好ましくは3.00、さらに好ましくは1.50、さらに好ましくは1.30を上限としてもよい。
【0062】
SiO成分及びAl成分の合計含有量(モル和)は、10.0%以下が好ましい。これにより、ガラス転移点を低くでき、且つ耐失透性を高められる。従って、モル和(SiO+Al)は、好ましくは10.0%、より好ましくは6.0%、さらに好ましくは4.5%、さらに好ましくは2.0%を上限とする。
【0063】
SiO成分及びAl成分の合計量に対する、B成分の含有量は、0.50以上が好ましい。これにより、ガラス転移点を低くでき、且つ耐失透性を高められる。従って、モル比B/(SiO+Al)は、好ましくは0.50、より好ましくは1.00、さらに好ましくは1.30、さらに好ましくは1.60を下限とする。
なお、モル比B/(SiO+Al)の上限は無限大であってよく、このときモル和(SiO+Al)は0である。
【0064】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない成分について説明する。
【0065】
上述されていない他の成分を、本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じることで、本願発明の可視光透過率を高める効果を減殺する性質があるため、特に可視領域の波長を透過させる光学ガラスでは、実質的に含まないことが好ましい。
【0066】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0067】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物資として使用を控える傾向にあり、使用した場合には、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要になる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0068】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を石英坩堝又はアルミナ坩堝に投入して粗溶融した後、白金坩堝、白金合金坩堝又はイリジウム坩堝に入れて1000〜1400℃の温度範囲で2〜10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1300℃以下の温度に下げてから仕上げ攪拌を行って脈理を除去し、金型に鋳込んで徐冷することにより作製される。
本発明の光学ガラスでは、作製されたガラスに対して、可視光についての透過率を高めるための特別な加熱処理を行わなくても、後述するような優れた物性を有するガラスを得ることができる。
【0069】
[物性]
本発明の光学ガラスは、可視光についての透過率、特に可視光のうち短波長側の光についての透過率が高く、それにより着色が少ない。
特に、本発明の光学ガラスでは、厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す最も短い波長(λ70)は、好ましくは440nm、より好ましくは425nm、さらに好ましくは420nmを上限とする。
本発明の光学ガラスは、適切な公知の製法によってガラスを作製したときに、このようにガラスの吸収端が紫外領域やその近傍に位置するようになり、可視域の特に短波長側の光についてのガラスの透明性がより高められることで、ガラスの黄色や橙色への着色が低減される。よって、この光学ガラスをレンズ等の可視光を透過させる光学素子の材料に好ましく用いることができる。
【0070】
本発明の光学ガラスは、高い屈折率を有しながらも、より高い分散(低いアッベ数)を有することが好ましい。
本発明の光学ガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.80、より好ましくは1.81を下限とし、さらに好ましくは1.82超とする。屈折率(n)の上限は、好ましくは2.20、より好ましくは2.00、さらに好ましくは1.93であってもよい。このような高い屈折率を有することで、さらに素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。
また、本発明の光学ガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは35、より好ましくは30を上限とし、さらに好ましくは27未満、さらに好ましくは25未満とする。アッベ数(ν)の下限は、好ましくは10、より好ましくは15、さらに好ましくは17、さらに好ましくは19であってもよい。このような低いアッベ数を有することで、例えば高いアッベ数を有する光学素子と組み合わせた場合に、高い結像特性等を図ることができる。
従って、このような高屈折率高分散の光学ガラスを、例えば光学素子の用途に用いることで、高い結像特性等を図りながらも、光学設計の自由度を広げることができる。
【0071】
本発明の光学ガラスは、650℃以下のガラス転移点を有することが好ましい。これにより、ガラスがより低い温度で軟化するため、より低い温度でガラスをモールドプレス成形できる。また、モールドプレス成形に用いる金型の酸化を低減して金型の長寿命化を図ることもできる。従って、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは650℃、より好ましくは620℃、さらに好ましくは600℃、さらに好ましくは580℃を上限とする。
なお、本発明の光学ガラスのガラス転移点の下限は特に限定されないが、本発明の光学ガラスのガラス転移点は、好ましくは460℃、より好ましくは500℃、さらに好ましくは520℃を下限としてもよい。
【0072】
本発明の光学ガラスは、700℃以下の屈伏点(At)を有することが好ましい。屈伏点は、ガラス転移点と同様にガラスの軟化性を示す指標の一つであり、プレス成形温度に近い温度を示す指標である。そのため、屈伏点が700℃以下のガラスを用いることにより、より低い温度でのプレス成形が可能になるため、より容易にプレス成形を行うことができる。従って、本発明の光学ガラスの屈伏点は、好ましくは700℃、より好ましくは680℃、最も好ましくは650℃を上限とする。
なお、本発明の光学ガラスの屈伏点は特に限定されないが、好ましくは500℃、より好ましくは520℃、さらに好ましくは550℃を下限としてもよい。
【0073】
本発明の光学ガラスは、平均線膨張係数(α)が小さいことが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの平均線膨張係数は、好ましくは90×10−7−1、より好ましくは80×10−7−1、さらに好ましくは75×10−7−1、さらに好ましくは73×10−7−1を上限とする。これにより、光学ガラスを成形型でプレス成形する際に、ガラスの温度変化による膨張や収縮の総量が低減される。そのため、プレス成形時に光学ガラスを割れ難くでき、光学素子の生産性を高めることができる。
【0074】
本発明の光学ガラスは、ガラス作製時における耐失透性(明細書中では、単に「耐失透性」という場合がある。)が高いことが好ましい。これにより、ガラス作製時におけるガラスの結晶化等による透過率の低下が抑えられるため、この光学ガラスをレンズ等の可視光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。なお、ガラス作製時における耐失透性が高いことを示す尺度としては、例えば液相温度が低いことが挙げられる。
【0075】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えばリヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0076】
このようにして作製されるガラス成形体は、様々な光学素子及び光学設計に有用である。特に、本発明の光学ガラスから、精密プレス成形等の手段を用いて、レンズやプリズム、ミラー等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、カメラやプロジェクタ等のような光学素子に可視光を透過させる光学機器に用いたときに、高精細で高精度な結像特性等を実現しつつ、これら光学機器における光学系の小型化を図ることができる。
【実施例】
【0077】
本発明の実施例(No.1〜No.16)及び比較例(No.A)のガラスの組成、屈折率(n)、アッベ数(ν)、分光透過率が5%及び70%を示す波長(λ、λ70)、ガラス転移点(Tg)、屈伏点(At)、並びに、平均線膨張係数(α)を表1〜表3に示す。このうち、比較例(No.A)のガラスは、ジェイ・アール・マルチネリ(J.R. Martinelli)、他2名、ジャーナル・オブ・ノンクリスタル・ソリッズ(Journal of Non−Crystalline Solids)、2000年、第263&264巻、p.263−270に記載された、PNBK30−30−30−10ガラスである。
なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。
【0078】
これら実施例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料を選定し、表に示した各実施例及び比較例の組成の割合になるように秤量して均一に混合した後、作製した混合物を石英坩堝に投入してガラス組成の溶融難易度に応じて電気炉で1200〜1350℃の温度範囲で粗溶融した後、白金坩堝に入れて1200〜1350℃の温度範囲で2〜10時間溶融し、攪拌均質化して泡切れ等を行った後、1300℃以下に温度を下げて攪拌均質化してから金型に鋳込み、徐冷してガラスを作製した。
【0079】
実施例のガラスの屈折率及びアッベ数は、日本光学硝子工業会規格JOGIS01―2003に基づいて測定した。
【0080】
実施例のガラスの可視光透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの可視光透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200〜800nmの分光透過率を測定し、λ70(透過率70%時の波長)及びλ(透過率5%時の波長)を求めた。
【0081】
実施例のガラスのガラス転移点(Tg)及び屈伏点(At)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、温度と試料の伸びとの関係を測定することで得られる熱膨張曲線より求めた。
【0082】
実施例のガラスの平均線膨張係数(α)は、日本光学硝子工業会規格JOGIS08−2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に従い、−30〜+70℃における平均線膨張係数を求めた。
【0083】
【表1】
【0084】
【表2】
【0085】
【表3】
【0086】
表1〜表3に表されるように、本発明の実施例の光学ガラスは、ガラス転移点が650℃以下、より詳細には600℃以下であるため、より低い温度でガラスをモールドプレス成形できることが推察される。
他方で、比較例のガラスは、ガラス転移点が650℃を超えている。
そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べてガラス転移点が低く、プレス成形に好適なことが明らかになった。
【0087】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈伏点が700℃以下、より詳細には660℃以下であり、所望の範囲内であった。
【0088】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもλ70(透過率70%時の波長)が440nm以下、より詳細には425nm以下であり、所望の範囲内であった。
そのため、本発明の実施例の光学ガラスは、可視光について高い透過率を有していることが明らかになった。
【0089】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも屈折率(n)が1.80以上であるため、所望の高い屈折率を有していることが明らかになった。
また、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれもアッベ数(ν)が35以下、より詳細には24以下であるため、所望の低いアッベ数(ν)を有していることが明らかになった。
加えて、本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも失透していない安定なガラスであった。
【0090】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、高い屈折率(n)を有しながらも、より低いアッベ数(ν)を有しており、耐失透性が高く、且つ、ガラス転移点が低くプレス成形に好適なことが明らかになった。
【0091】
また、本発明の実施例の光学ガラスは、高い屈折率(n)を有しながらも、より低いアッベ数(ν)を有しており、耐失透性が高く、且つ、得られたガラスに対してアニールを行わなくとも可視光に対する高い透過率を有していることが明らかになった。
【0092】
加えて、本発明の実施例の光学ガラスは、平均線膨張係数(α)が90×10−7−1以下、より詳細には80×10−7−1以下であるため、所望の低い平均線膨張係数を有していた。他方で、比較例のガラスは、平均線膨張係数(α)が90×10−7−1を超えている。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて平均線膨張係数が小さいことが明らかになった。
【0093】
さらに、本発明の実施例の光学ガラスを用いてレンズプリフォームを形成し、このレンズプリフォームに対してモールドプレス成形したところ、安定に様々なレンズ形状に加工することができた。
【0094】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。