特許第6692571号(P6692571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692571
(24)【登録日】2020年4月17日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】ミシンのピッカー装置
(51)【国際特許分類】
   D05B 69/08 20060101AFI20200427BHJP
   D05B 57/26 20060101ALI20200427BHJP
   D05B 71/00 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   D05B69/08
   D05B57/26 B
   D05B71/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-175364(P2015-175364)
(22)【出願日】2015年9月7日
(65)【公開番号】特開2017-51234(P2017-51234A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2018年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】山本 博嗣
【審査官】 姫島 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−255182(JP,A)
【文献】 特開昭53−123258(JP,A)
【文献】 特開2002−233683(JP,A)
【文献】 特開平11−033265(JP,A)
【文献】 特開2008−155885(JP,A)
【文献】 米国特許第01592235(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 69/08
D05B 57/26
D05B 71/00
D05B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端部を押し当てることにより釜の内側のボビンを押さえるボビン押さえと、
前記ボビン押さえを前記ボビンに対して進退移動させる進退機構とを備えるミシンのピッカー装置において、
前記ボビン押さえの先端部をノズル状とし、当該ボビン押さえが前記ボビンを押さえる押さえ位置に移動する際に前記先端部からエアーを吐出することを特徴とするミシンのピッカー装置。
【請求項2】
前記ボビン押さえの進退機構の駆動源と前記ボビン押さえのエアーの吐出の制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、前記ボビン又は前記釜に対してエアーを吹き付け可能な位置で前記ボビン押さえからエアーを吐出させる冷却制御を行うことを特徴とする請求項1記載のミシンのピッカー装置。
【請求項3】
前記ボビン押さえは回動可能に支持されており、
前記進退機構は、前記ボビン押さえを回動により前記ボビンに対して進退移動させ、
前記ボビン押さえの進退機構の駆動源と前記ボビン押さえのエアーの吐出の制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、所定の回動角度で前記ボビン押さえからエアーを吐出させる清掃制御を行うことを特徴とする請求項1記載のミシンのピッカー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンのピッカー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミシンにおいて縫製が終了して下糸を切断する際に、下糸が巻回されているボビンが回転して、下糸がボビンから余分に引き出されてしまうことにより、下糸の切断不良や被縫製物側の残端が長くなってしまうことを防止するために、ボビンが空転しないように押さえ付けるミシンのピッカー装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
従来のピッカー装置は、釜の開口部から内側のボビンに当接して押さえる軸部材と、軸部材の先端部にコイルバネを介して設けられ、軸部材に対して進退移動可能なダンパー部材を備えている。
このピッカー装置は、ダンパー部材を介して軸部材がボビンの回転を抑止しており、弾性的にボビンを押さえるダンパー部材を使用することにより、軸部材やボビンを破損から保護していた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−230747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のピッカー装置は、軸部材の前進時にダンパー部材がボビンに衝突し、ダンピングを生じることが問題となっていた。このようなダンピングを生じると、それが収まるまで下糸の切断を行うことができず、迅速な縫製の妨げとなっていた。
また、ダンピングを伴うダンパー部材のボビンへの衝突音がうるさく、騒音の原因となっていた。
【0006】
本発明は、ダンピングの発生を抑制することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、ミシンにおいて、
先端部を押し当てることにより釜の内側のボビンを押さえるボビン押さえと、
前記ボビン押さえを前記ボビンに対して進退移動させる進退機構とを備えるミシンのピッカー装置において、
前記ボビン押さえの先端部をノズル状とし、当該ボビン押さえが前記ボビンを押さえる押さえ位置に移動する際に前記先端部からエアーを吐出することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のミシンにおいて、
前記ボビン押さえの進退機構の駆動源と前記ボビン押さえのエアーの吐出の制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、前記ボビン又は前記釜に対してエアーを吹き付け可能な位置で前記ボビン押さえからエアーを吐出させる冷却制御を行うことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のミシンにおいて、
前記ボビン押さえは回動可能に支持されており、
前記進退機構は、前記ボビン押さえを回動により前記ボビンに対して進退移動させ、
前記ボビン押さえの進退機構の駆動源と前記ボビン押さえのエアーの吐出の制御を行う制御装置を備え、
前記制御装置は、所定の回動角度で前記ボビン押さえからエアーを吐出させる清掃制御を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ボビン押さえの先端部をノズル状とし、当該ボビン押さえの先端部からエアーを吐出することができるので、エアーの吐出を行いながらボビン押さえをボビンに押し当てることにより、エアーが適度なクッションとなってボビンに対するボビン押さえの衝突を緩和し、ダンピングの発生を抑制することが可能となる。また、エアーが適度なクッションとなるので、ダンパー部材を不要とすることができる。
また、エアーが適度なクッションとなるので、ボビン押さえのボビンに対する衝突音も抑制し、騒音の発生を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ピッカー装置を搭載したミシンの釜周辺の斜視図である。
図2】ミシンの釜周辺の底面図である。
図3】ミシンの制御系を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[ミシンの概略]
以下、図面を参照して、本発明にかかるピッカー装置10について説明する。図1はピッカー装置10を搭載したミシン100の底部を下方から見た斜視図、図2はピッカー装置10周辺の底面図である。なお、以下の説明において、水平方向であってミシン100のベッド部の長手方向に沿った方向をY軸方向、水平方向であってY軸方向に直交する方向をX軸方向、鉛直上下方向をZ軸方向というものとする。また、必要に応じて、図1に示すように、Y軸方向における一方を「前」、他方を「後」とし、X軸方向における一方を「右」、他方を「左」とする。
【0013】
ミシン100は、ミシンベッド部101の針落ち位置周辺が広く開口しており、当該開口部には針板が装備された針板台110が装備されている。そして、針板台110の下方には、上糸と下糸とを絡める垂直釜120が配置されている。
垂直釜120は、Y軸方向に沿った状態でミシンベッド部101に回転可能に支持された釜軸124の前端部に設けられ、釜軸124は、縫製の駆動源となるミシンモーター151からトルクが付与される。
垂直釜120は、上糸を捕捉する剣先を備えた外釜121と、外釜121の内側でボビンケース123を介してボビンを保持する中釜122とから主に構成される。外釜121は釜軸124に連結され、釜軸124と共に回転を行う。中釜122は、ミシンベッド部101に固定装備された図示しない凸部により回転しないように係止されている。
ボビンケース123は、中釜122の内側に保持されており、中釜122と共に回転しないように係止されている。このボビンケース123は、ボビンの前面側と周囲を覆っており、当該ボビンケース123の前面上部には、後述するピッカー装置10のボビン押さえ20がボビンケース123内のボビンにアクセスすることができるように開口部123aが貫通形成されている。
【0014】
針板台110の底面側であって垂直釜120の上方には、縫製終了時に、布地から垂直釜120に渡っている下糸を針穴の真下で捕捉するための下糸捕捉機構130が配置されている。この下糸捕捉機構130は、被縫製物と垂直釜120との間を渡る下糸を一定の捕捉位置に導いて、傾斜を低減し、下糸の切断を良好に行わせるためのものである。
この下糸捕捉機構130は、針穴の右側に配置された糸捕捉部材131と、針穴の左側に配置された糸たぐり部材132とが互いに接近する方向に回動して下糸を針穴の真下となる位置で保持する。糸捕捉部材131と糸たぐり部材132とは、互いに連動して回動を行うように相互間に連動構造が施されており、これらに共通する駆動源から動力を得て下糸捕捉動作を実行する。
【0015】
針板台110の底面側であって下糸捕捉機構130のすぐ上には、当該下糸捕捉機構130に捕捉された下糸の切断を行う下糸切断機構140が配置されている。下糸切断機構140は、上下に重ねられた状態で相互に回動可能に連結された一対のメスからなる糸切りメス141と当該糸切りメス141の刃先に重合して取り付けられた板バネ142とを備えている。
糸切りメス141は、相互に回動可能な一対のメスがはさみ構造をなしており、一対のメスのそれぞれの刃先で挟み込むことにより下糸の切断を行う。
また、板バネ142は、一方のメスの切断時の回動動作によりボビン側の下糸の切断端部をメスとの間で挟持する。
この糸切りメス141は、針板台110の底面に回動可能に支持されており、通常は、刃先が針穴の左方に退避しており、切断の際に回動することで刃先が針穴の真下に移動して下糸の切断を実行する。
また、この下糸切断機構140の糸切りメス141は、下糸捕捉機構130の糸たぐり部材132とリンク部材143により連結されており、共通する駆動源であるアクチュエーター152(図3参照)より、下糸の捕捉動作と下糸の切断動作とが連動して実行されるようになっている。
【0016】
[ピッカー装置]
ピッカー装置10は、開口部123aから先端部を挿入して垂直釜120のボビンケース123の内側のボビンを押さえるボビン押さえ20と、ボビン押さえ20をボビンに対して進退移動させる進退機構30とを備えており、進退機構30はミシン100の制御装置160(図3参照)によりその動作が制御される。
【0017】
ボビン押さえ20は、全長に渡って内部が中空となっているパイプ材であり、針穴の左方において針板台110の底面にZ軸回りで回動可能に装備されたボビン押さえ腕21に基端部が挿入された状態で保持されている。
ボビン押さえ20は、ボビン押さえ腕21の回動半径方向に延出され、途中から屈曲して先端部が概ね後方を向いている。
【0018】
ボビン押さえ腕21は、ボビン押さえ20の基端部側から中空内部に連通するエアーの供給経路が内部に形成されており、その回動中心位置には、当該供給経路につながっている継手22が設けられている。この継手22は、外部の正圧エアー発生源から延びるホース又は配管と接続され、ボビン押さえ20に正圧エアーを供給することができる。これにより、ボビン押さえ20は、その先端部からエアーを噴出することができる。
また、継手22に接続される正圧エアー発生源から延びるホース又は配管には、その途中に正圧エアーの供給状態と停止状態とを切り替える電磁弁24(図3参照)が設けられており、当該電磁弁24は、ミシン100の制御装置160により切り替え動作が制御される。
【0019】
また、ボビン押さえ20は、その先端部が垂直釜120から前方に離間して先端部が右後方を向いた待機位置(図1の状態)とその先端部が後方を向いて垂直釜120のボビンケース123の開口部123aに挿入された押さえ位置(図2の状態)との間でボビン押さえ腕21と共に回動することにより、その先端部をボビンに対して進退移動させることができる。
【0020】
ボビン押さえ腕21は、その回動中心位置から左方に延出された入力腕211を備え、当該入力腕211には引っ張りバネ23が連結されて、ボビン押さえ20を待機位置から押さえ位置に回動させる張力が入力されている。
【0021】
進退機構30は、ボビン押さえ20の左方においてミシンベッド部101にZ軸回りに回動可能に支持されたベルクランク状の伝達部材31と、伝達部材31に回動動作を付与するリンク部材32と、ボビン押さえ20の進退動作の駆動源となるボビン押さえモーター33(図3参照)とを備えている。
【0022】
伝達部材31は、回動中心から概ね後方に延出された入力腕と回動中心から概ね右方に延出された出力腕とを備え、入力腕と出力腕にはそれぞれZ軸方向に沿った係合ピン311,312が装備されている。
リンク部材32は、図示しない後端部側からボビン押さえモーター33により回動動作が入力され、その前端部は、伝達部材31の係合ピン311に対して右方から当接するように配置されている。
【0023】
リンク部材32は、通常時(ボビンを押さえないとき)は、ボビン押さえモーター33から後端部に図2における反時計回りのトルクが入力され、その前端部が左方に回動して、係合ピン311を介して伝達部材31に対して図2における時計回りへのトルクを付与している。伝達部材31は、この時計回りのトルクにより、係合ピン312を介してボビン押さえ腕21の入力腕211を引っ張りバネ23に抗して後方に押圧し、ボビン押さえ20を反時計回りに回動させて待機位置に維持する。
【0024】
また、ボビンを押さえる際には、リンク部材32の後端部にボビン押さえモーター33から図2における時計回りのトルクが入力され、リンク部材32の前端部が右方に回動して、係合ピン311に対して左方への押圧状態を解放するので、伝達部材31はボビン押さえ腕21の引っ張りバネ23に押し戻されて図2における反時計回りに回動する。一方、ボビン押さえ腕21は引っ張りバネ23に従って時計回りに回動し、ボビン押さえ20を押さえ位置に前進させる。
【0025】
[ミシンの制御系]
図3はミシン100の制御系を示すブロック図である。
ミシン100は、一般的なミシンが当然に備える周知の構成を全て備えているが、その中でピッカー装置10に関連の薄い構成については、図示及び説明を省略する。
ミシン100は、上記各構成の動作を制御するための動作制御手段としての制御装置160を備えている。そして、制御装置160は、各種の制御プログラムを記憶するROM162と、制御プログラムを実行するCPU161と、CPU161の作業領域となるRAM163と、ミシンの動作制御に要する各種の設定データを記憶すると共に記憶内容を書き換え可能なEEPROM166とを備えている。
【0026】
また、CPU161には、ミシンモーター151及びその回転角度を検出するエンコーダー151bと接続されたミシンモータードライバー151a、ボビン押さえモーター33と接続されたボビン押さえモータードライバー33a及び下糸の捕捉動作と下糸の切断動作とを行うアクチュエーター152のドライバー152aが図示しないインターフェイスを介して接続されている。
また、CPU161には、各種設定の入力を行う操作パネル164と、縫製の開始を入力するスタートスイッチ165とが接続されている。
【0027】
[ピッカー装置のボビン押さえ制御]
制御装置160が行うピッカー装置10のボビンの押さえ制御について説明する。
このボビン押さえ制御は、縫製の最終針の針落ちが行われた後であって下糸の切断を行う直前に実行される。
即ち、縫製中はボビン押さえ20は待機位置を維持するようにボビン押さえモーター33が制御されており、ボビン押さえ制御を実行する際には、ボビン押さえモーター33がリンク部材32を図2における時計回りに回動させる。これにより、伝達部材31はリンク部材32の拘束から解放され、ボビン押さえ腕21の引っ張りバネ23の張力に従って、伝達部材31は反時計回りに回動し、ボビン押さえ腕21は時計回りに回動する。
また、CPU161は、ボビン押さえモーター33によるボビン押さえ20の垂直釜120側への回動動作に伴い、電磁弁24を停止状態から正圧エアーの供給状態に切り替える制御を実行する。
これらにより、ボビン押さえ20は、先端部からエアーを吐出しながらボビンケース123の開口部123aに進入し、エアーの吐出圧力でボビンとの衝突の勢いが緩和される。従って、ダンピングの発生が抑制される。
【0028】
なお、電磁弁24によるエアーの吐出は、ボビン押さえ20がボビンに到達したときに行われていれば良く、よりボビン到達に近いタイミングでエアーの吐出を開始させてもよい。
また、ボビン押さえ20のボビン当接後には、CPU161は、電磁弁24を停止状態に速やかに切り替えてエアーの吐出を終了する。
【0029】
また、上記CPU161は、ボビン押さえ20がボビンを押さえると、アクチュエーター152を作動させて、糸捕捉部材131と糸たぐり部材132とにより下糸の捕捉を行うと共に糸切りメス141を針穴の真下に移動させて下糸の切断を実行する。
この時、ボビンがボビン押さえ20により押さえられているので、下糸の捕捉作業や切断作業の際に垂直釜120から下糸が繰り出されることを抑止し、下糸の捕捉と切断をより適正に行うことが可能となる。
【0030】
なお、下糸の捕捉と切断後は、CPU161は、ボビン押さえモーター33の制御により、ボビン押さえ20を反時計回りに回動させて待機位置に戻し、縫製全体を終了する。
【0031】
[ピッカー装置の冷却制御]
制御装置160が行うピッカー装置10の冷却制御について説明する。
垂直釜120は、外釜121が縫い針の上下動回数の二倍の回転数で高速回転することから、周囲各部との摩擦により温度上昇が生じやすい。
従って、ピッカー装置10のボビン押さえ20の先端部から吐出されるエアーを利用して垂直釜120の冷却を図るのがこの冷却制御の目的である。
【0032】
冷却制御は、ボビン押さえ制御の実行時以外のタイミング、即ち、縫製中又は縫製完了後の待機中に行うことができるが、発熱を生じる縫製中に行うことがより望ましい。
また、冷却制御は、予め定められた継続時間で行うことが望ましく、また、周期的に繰り返し実行しても良い。
【0033】
この冷却制御は、ボビン押さえ20の先端部から吐出されるエアーを垂直釜120に吹き付けることが可能な位置となるようにボビン押さえ20を回動させ、エアーを吹き付ける動作を実行する。
縫製中に冷却制御を行う場合には、エアーの吹き付けを行うボビン押さえ20の位置は、ボビンを拘束しないように、ボビン押さえ20の先端部がボビンに届かない位置とすることが必要である。従って、ボビン押さえ20から吐出したエアーを垂直釜に当てることが可能な限界角度からボビン押さえ20の先端部がボビンに届く手前の角度までの範囲内とすることが望ましい。なお、縫製完了後の待機中に行う場合には、ボビン押さえ20の先端部がボビンに届く位置を含ませてもよい。
また、冷却制御におけるボビン押さえ20の角度は、一定値に固定しても良いし、一定の角度範囲に定め、当該角度範囲内でボビン押さえ20が往復回動しながらエアーの吐出を行っても良い。
【0034】
また、ボビン押さえモーター33は、ボビン押さえ20の位置制御に適した位置制御可能なモーターを使用しても良いし、ボビン押さえ20の予め定められた位置を検出するセンサーをボビン押さえ20の周辺に設け、当該センサーの出力に基づいてボビン押さえモーター33を制御しても良い。
【0035】
具体的には、CPU161は、縫製中又は縫製完了後の待機中において、ボビン押さえモーター33を制御して、ボビン押さえ20を所定の位置に停止させるか或いは所定の角度範囲で往復回動を行わせる。
そして、CPU161は、電磁弁24を停止状態から正圧エアーの供給状態に切り替える制御を実行する。これにより、ボビン押さえ20の先端部からエアーが吐出され、垂直釜120に吹き付けることができる。
これにより、垂直釜120を冷却することができる。
【0036】
[ピッカー装置の清掃制御]
制御装置160が行うピッカー装置10の清掃制御について説明する。
垂直釜120の周囲は、被縫製物に針落ちが行われ、上糸と下糸との摺動が生じる場所であることから、被縫製物や糸の繊維、綿屑などの塵芥が生じてたまりやすくなっている。
従って、ピッカー装置10のボビン押さえ20の先端部から吐出されるエアーを利用して垂直釜120の周囲の塵芥の除去を図るのがこの清掃制御の目的である。
【0037】
清掃制御は、ボビン押さえ制御の実行時以外のタイミング、即ち、縫製中又は縫製完了後の待機中に行うことができるが、塵芥の発生時に周囲に付着しないように縫製中に行うことがより望ましい。
また、清掃制御は、予め定められた継続時間で行うことが望ましく、また、周期的に繰り返し実行しても良い。
【0038】
この清掃制御は、ボビン押さえ20の先端部から吐出されるエアーをより広範囲に吹き付けることができるように、ボビン押さえ20の可動域全体を使って往復回動させ、エアーを周囲に吹き付ける動作を実行する。
なお、縫製中に清掃制御を行う場合には、ボビンを拘束しないように、ボビン押さえ20の先端部がボビンに届かない範囲で往復回動させる。なお、縫製完了後の待機中に行う場合には、ボビン押さえ20の先端部がボビンに届く位置を含ませてもよい。
また、回動動作を行わず、ボビン押さえ20を一定の角度に維持してエアーを吹き付けても良い。
【0039】
また、この清掃制御の場合も、ボビン押さえモーター33は、ボビン押さえ20の位置制御に適した位置制御可能なモーターを使用しても良いし、ボビン押さえ20の可動域の一端部の位置と他端部の位置を検出するセンサーをボビン押さえ20の周辺に設け、当該センサーの出力に基づいてボビン押さえ20が往復回動を行うようボビン押さえモーター33を制御しても良い。
【0040】
具体的には、CPU161は、縫製中又は縫製完了後の待機中において、ボビン押さえモーター33を制御して、可動域内を所定の角度範囲で往復回動を行わせる。
そして、CPU161は、電磁弁24を停止状態から正圧エアーの供給状態に切り替える制御を実行する。これにより、ボビン押さえ20の先端部からエアーが吐出され、垂直釜120とその周辺に吹き付けることができる。
これにより、垂直釜120の周囲を清掃することができる。
【0041】
[発明の実施形態の技術的効果]
ピッカー装置10は、ボビン押さえ20をパイプ状として先端部をエアーの吐出が可能なノズル状としたので、エアーの吐出を行いながらボビン押さえ20をボビンに押し当てることにより、エアーが適度なクッションとなってボビンに対するボビン押さえ20の衝突を緩和し、ダンピングの発生を抑制することが可能となる。
これに伴い、ボビン押さえ20のボビンに対する衝突音も抑制し、騒音の発生を低減することが可能となる。また、騒音が緩和されるので、ボビン押さえ20の材料として摩耗や劣化が生じにくい金属を使用することができ、耐久性の向上を図ることも可能となる。
【0042】
また、制御装置160は、ボビン又は垂直釜120に対してエアーを吹き付け可能な位置でボビン押さえ20からエアーを吐出させる冷却制御を行うので、発熱しやすい垂直釜120を効果的に冷却することができる。また、これにより、垂直釜120の温度が下がるまで待つことなく迅速にボビンの交換を行うことができ、作業性の向上を図ることが可能となる。
さらに、ピッカー装置10を垂直釜120の冷却装置として利用できるので、ミシンの部品点数を低減し、コスト低減を図ることが可能となる。
【0043】
また、制御装置160は、所定の回動角度又は回動角度範囲でボビン押さえ20からエアーを吐出させる清掃制御を行うので、塵芥が生じやすい垂直釜120の周辺を効果的に清掃することができる。また、これにより、糸や被縫製物の汚れを低減し、縫い品質の向上を図ることが可能となる。
さらに、清掃作業の困難なミシン内部の清掃を容易に行うことができ、メンテナンスや清掃作業の負担を飛躍的に低減することが可能となる。
さらに、ピッカー装置10を垂直釜120周辺の清掃装置として利用できるので、ミシンの部品点数を低減し、コスト低減を図ることが可能となる。
【0044】
[その他]
ピッカー装置10は全回転の垂直釜120を対象とするものを例示したが、釜の種別は問わず、半回転、水平釜等他のあらゆる釜について適用可能である。
また、上記ピッカー装置10を搭載するミシンとしては、下糸の糸切りを行う糸切り装置を備えるあらゆる種類のミシンを対象とすることが可能である。
【0045】
また、ボビン押さえ20は、全長を通じて貫通したパイプ状である場合を例示したが、これに限らず、少なくとも先端が開口し、その近傍がパイプ状に貫通していれば良い。その場合には、ボビン押さえ20の側部に継手を設け、途中からエアーを供給する。
【符号の説明】
【0046】
10 ピッカー装置
20 ボビン押さえ
21 ボビン押さえ腕
24 電磁弁
30 進退機構
31 伝達部材
33 ボビン押さえモーター
100 ミシン
120 垂直釜
121 外釜
122 中釜
123 ボビンケース
123a 開口部
130 下糸捕捉機構
140 下糸切断機構
151 ミシンモーター
152 アクチュエーター
160 制御装置
161 CPU
図1
図2
図3