【実施例1】
【0021】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて説明する。
本発明の一実施例であるレール締結機構100は、
図1乃至
図4に示すように、レールRをレール支承体Sに向けて押圧する板バネクリップ140を用いてレールRをレール支承体Sに対して確実に位置決めして取り付けるものであって、以下に詳しく説明する。
【0022】
なお、本実施例のレール締結機構100に適用するレールRの具体的なレール形態については、
図2に示すように、幅広で平底のレール底部R1を備えた逆T字状のレール断面を呈する長さ1mあたり重量50kgのものであって、レールRのレール底部R1が、レールRのレール腹部R2から末広がり状に連続形成した底部下り傾斜面R1aaとこの底部下り傾斜面R1aaから連続形成した底部緩斜面R1abとの2つの傾斜面からなるレール底部上面R1aを備えたものをその対象としている。
【0023】
また、本実施例のレール締結機構100に適用するレール支承体Sについては、このレール支承体Sの天面S1と、この天面S1よりも低位置に形成された凹部の底面に位置してレールRを敷設するレール設置用座面S2と、このレール設置用座面S2の両端縁から連続して立ち上がった内方端壁面S3とを備えたものであって、コンクリートにあらかじめ引張力を作用させた鋼材を用いてコンクリートに圧縮力を与えることによって強度の高いコンクリートとしたもの、所謂、プレストレスト・コンクリート(PC)製のまくらぎをその対象としている。
【0024】
本発明の一実施例であるレール締結機構100は、
図1乃至
図4に示すように、レールパッド110と、タイプレート120と、タイプレートパッド130と、板バネクリップ140と、締結用ボルト150と、埋込栓160と、バネ受け座台170との組合せによるレール締結のための基本構造を備えたものであって、以下に、これらの部品について説明する。
【0025】
まず、前述したレールパッド110は、レールRのレール底部R1の少なくとも全幅に渡って敷設されてレールRの振動を弾力的に吸収し、列車通過時にレール外軌側で圧縮変形を生じてレール外軌側へのレール小返りを許容するものであって、ゴム製の矩形状パッドから構成されている。
なお、レールパッド110のゴム材質については、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)などの合成ゴムや、天然ゴム(NR)などの弾性材料であれば、如何なるものであっても構わない。
【0026】
そして、本実施例のレール締結機構100で用いるタイプレート120は、レールRとレールパッド110とを係合包容してレールRに加わる荷重を分散するとともに締結用ボルト150でレール支承体Sに締結固定するものであって、鋳造品から構成されている。
さらに、このタイプレート120は、
図4に示すように、内面を平坦面とし、外面を傾斜面とした断面台形状を呈する一対の突部122、122を備え、これら一対の突部122、122の相互間に載置したレールRの横圧を受け止めるものであって、一対の突部122、122が上面に形成され、この上面の中間部には、板バネクリップ140がレールRを押圧する際に突部上面に当接してレールRに対する押圧を阻止しないように板バネクリップ140の幅よりも長い上面凹部が形成され、外面の中間部には外面凹部が形成され、一対の突部122、122の外側中央にはそれぞれ締結用ボルト挿通孔121が設けられ、この締結用ボルト挿通孔121の両側には一対の山形状の凸状着座部123、123が設けられている。
【0027】
さらに、タイプレートパッド130は、タイプレート120を載置した状態で重なり合ってレールRの振動を弾力的に吸収し、列車通過時にレール外軌側で圧縮変形を生じてレール外軌側へのレール小返りをレールパッド110と協働して許容するものであって、ゴム製の矩形状パッドから構成されている。
なお、タイプレートパッド130のゴム材質については、レールパッド110と同様に、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ウレタンゴム(U)などの合成ゴムや、天然ゴム(NR)などの弾性材料であれば、如何なるものであっても構わない。
【0028】
本実施例のレール締結機構100で用いる締結用ボルト150は、板バネクリップ140とタイプレート120とタイプレートパッド130とにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔141h、143h、121、131に順次挿通してレールRをレール支承体Sに締結して左右から固定するために、レールRに対して左右一対で配置されている。
なお、締結用ボルト150は、バネ座金(スプリングワッシャ―)151と平座金(平ワッシャ―)152とを用いて埋込栓160に螺着されることは言うまでもない。
【0029】
本実施例のレール締結機構100で用いる埋込栓160は、左右一対の締結用ボルト150とそれぞれ螺合するために、レールRに対して左右一対で配置され、レール支承体Sのレール設置用座面S2に埋め込まれている。
【0030】
本実施例のレール締結機構100で用いるバネ受け座台170は、レール支承体Sのレール設置用座面S2の左右両端部位にそれぞれ配置して板バネクリップ140の中間湾曲板部142を保持するために、レールRに対して左右一対で配置されている。
【0031】
次に、本実施例のレール締結機構100が最も特徴とする板バネクリップ140について、更に詳しく説明する。
本実施例のレール締結機構100で用いる板バネクリップ140は、
図1、
図2、
図4乃至
図6に示すように、短冊状の鋼板を上下に湾曲させてバネ受け座台170に着座する中間湾曲板部142と、この中間湾曲板部142の上端縁142aから延びてレールRのレール底部R1に着座する上側平板状部141と、中間湾曲板部142の下端縁142bから延びてレールRに加わる荷重を分散させるタイプレート120の上縁部に着座する下側屈曲板部143とで構成され、上側平板状部141と下側屈曲板部143とからなる上下の二股構造とした板状体を呈している。
これにより、板バネクリップ140は、レールRに対して左右一対で配置するとともにタイプレート120の上側に載置され、上側平板状部141と下側屈曲板部143とに挿通した状態でレール支承体Sに締結する締結用ボルト150がレールRのレール底部R1をレール支承体S側に向けて押圧保持するため、板バネクリップ140がレール支承体Sの平坦なレール設置用座面S2に向けてレールRのレール底部R1のレール底部上面R1aを左右から押圧してレールRをレール支承体Sに対して確実に位置決めして取り付けることが可能になる。
【0032】
さらに、板バネクリップ140の上側平板状部141は、中間湾曲板部142の上端縁142aから水平方向に延びる上側平板領域141aとこの上側平板領域141aの先端縁に沿って隣接する屈曲板領域141bとこの屈曲板領域141bから斜め上方に延びる上向き傾斜板領域141cとを有している。
これにより、レールRのレール底部R1を押圧保持する上向き傾斜板領域141cに屈曲板領域141bを介して連なっている上側平板領域141aが、列車通過時に撓み変形を生じるようになっている。
【0033】
また、上述した上側平板状部141の上側平板領域141aに対する上向き傾斜板領域141cの屈折角度は、列車非通過時にレール外軌側およびレール内軌側でレール底部R1と上向き傾斜板領域141cの最先端の下側に位置する最先端部分141dとが接触する一方で列車通過時にレール外軌側でレール底部R1と上向き傾斜板領域141cの最先端部分141dとが接触するとともにレール内軌側でレール底部R1と屈曲板領域141bの下側に位置する稜線部分141eとが接触するように規定されている。
これにより、通過列車の車輪フランジ部が、レール内軌側のレール頭部R3を押圧してレール外軌側に向けた横圧がレール頭部R3に負荷された場合、板バネクリップ140の上側平板状部141とレール内軌側のレール底部R1との接触が、上向き傾斜板領域141cの最先端部分141dから屈曲板領域141bの稜線部分141eへ転移して、レール内軌側のレール底部R1を押圧する上側平板状部141のばね定数が、レール外軌側のレール底部R1を押圧する上側平板状部141のばね定数より高くなる。
さらに、板バネクリップ140の上向き傾斜板領域141cは、レール頭部R3の傾きを、通常の列車通過時に生ずるレール小返りに対して追従し、過度のレール小返りに対して抑制するため、列車走行時にレール頭部R3のレール踏面が波状に擦り減るようなレール波状摩耗の発生を抑制する。
【0034】
そして、板バネクリップ140の上側平板状部141は、上側平板領域141aに締結用ボルト150を挿通させる締結用ボルト挿通孔141hを備えている。
【0035】
他方、板バネクリップ140の下側屈曲板部143は、中間湾曲板部142の下端縁142bからタイプレート120の端縁に沿って上側平板状部141に向けて立ち上がる立上り板領域143aとこの立上り板領域143aの立上り端縁143bから上側平板状部141と遊離した状態で緩い下向き勾配となるように先端に向かって直線的に延びてタイプレート120の上面に形成された凸状着座部123に着座するプレート対面板領域143cを備え、さらに、このプレート対面板領域143cは、先端に向かって二つに分岐し、分岐部間に締結用ボルト150が挿通し得る締結用ボルト挿通孔としての結用ボルト回避スリット143hが形成され、板バネクリップ140を取り付けた際にプレート対面板領域143cの分岐部がタイプレート120の上面に形成された凸状着座部123の頂面にそれぞれ当接している。
これにより、板バネクリップ140が締結用ボルト150によってレール支承体Sに締結された際、上側平板状部141の水平性を保持した状態で板バネクリップ140における上側平板状部141の上側平板領域141aと下側屈曲板部143のプレート対面板領域143cとの間隔が押し縮められて、締結用ボルト150とこの締結用ボルト150を螺合するレール支承体Sの埋込栓160との間に板バネクリップ140の反発力が働くことになる。
なお、板バネクリップ140に用いられる鋼板の材質については、シリコンマンガン鋼鋼材、マンガンクロム鋼鋼材、クロムバナジウム鋼鋼材などのばね鋼鋼材であれば、如何なるものであっても構わない。
【0036】
次に、本発明の一実施例の機構設置状態を図面に基づいて説明する。
レール締結機構100をレール支承体Sに設置する場合、
図7(A)および
図7(B)に示すように、締結用ボルト150を締結する前の解放状態で、下側屈曲板部143のプレート対面板領域143cが緩い下向き勾配を有しており、このプレート対面板領域143cの下面が、タイプレート120の上面端部付近に設けられた凸状着座部123に着座するため、上側平板状部141の下面とレール底部R1のレール底部上面R1aとが離間して非接触状態となっている。
次いで、締結用ボルト150を板バネクリップ140とタイプレート120とタイプレートパッド130とにそれぞれ設けた締結用ボルト挿通孔141h、143h、121、131に順次挿通し、締結用ボルト150と埋込栓160との螺合を進める。
【0037】
そして、締結用ボルト150の締結力を締め込み規定の12〜13%程度に軽く締結した場合、
図8(A)および
図8(B)の板バネクリップ140で示すように、板バネクリップ140の最先端部分141dだけがレール底部上面R1aの底部下り傾斜面R1aaと接触しており、稜線部分141eがレール底部上面R1aの底部緩斜面R1abから浮いた状態になる。
【0038】
その後、締結用ボルト150を所定の締結力まで締結した場合、
図9(A)および
図9(B)に示すように、板バネクリップ140の上側平板状部141が、屈曲形成されているため、上側平板状部141の上向き傾斜板領域141cの下側に位置する最先端部分141dとレール底部R1の底部下り傾斜面R1aaとが接触するとともに、屈曲板領域141bの下側に位置する稜線部分141eとレール底部R1の底部緩斜面R1abとが、接触する。
これにより、板バネクリップ140は、レール内軌側およびレール外軌側の底部下り傾斜面R1aaと底部緩斜面R1abの2か所でそれぞれ着座して押圧する。
なお、締結用ボルト150を所定の締結力まで締結した際、板バネクリップ140の稜線部分141eがレール底部R1のレール底部上面R1aの底部緩斜面R1abから若干離間した状態であっても、例えば、内軌側に横圧が働いてレール小返りが生じた時に内軌側に設けられた板バネクリップ140の稜線部分141eがレール底部上面R1aの底部緩斜面R1abに接触する状態であってもよい。
【0039】
そして、
図10に示すように、レール内軌側に横圧が働いてレール小返りが生じた場合、小返り量が大きくなると、レールパッド110の外軌側は、押圧されて沈み、レールパッド110のレール内軌側は、若干浮くようになる。
さらに、レール内軌側の板バネクリップ140の最先端部分141dは、レール底部上面R1aの底部下り傾斜面R1aaから離間し、板バネクリップ140の稜線部分141eだけがレール底部上面R1aの底部緩斜面R1abに接触してレール底部R1をレール支承体Sに向けて押圧保持する。
【0040】
この時、レール外軌側の板バネクリップ140の稜線部分141eは、レール底部上面R1aの底部緩斜面R1abから離間し、板バネクリップ140の最先端部分141dだけがレール底部上面R1aの底部下り傾斜面R1aaに接触してレール底部R1をレール支承体Sに向けて押圧保持する。
ここで、板バネクリップ140の押圧力は、板バネクリップ140の稜線部分141eのばね定数の方が板バネクリップ140の最先端部分141dのばね定数よりも大きいことから、内軌側のレール底部R1への押圧力が増し、レール外軌側への過度のレール小返りを抑制する。
【0041】
このようにして得られた本実施例のレール締結機構は、板バネクリップ140の上側平板状部141が、中間湾曲板部142の上端縁142aから水平方向に延びる上側平板領域141aとこの上側平板領域141aの先端縁に沿って隣接する屈曲板領域141bとこの屈曲板領域141bから斜め上方に延びる上向き傾斜板領域141cとを有していることにより、列車通過時に惹起しがちな板バネクリップ140の振動を吸収緩和することができる。
【0042】
そして、上側平板領域141aに対する上向き傾斜板領域141cの屈折角度が、列車非通過時にレール外軌側およびレール内軌側でレール底部R1と上向き傾斜板領域141cの最先端部分141dとが接触する一方で列車通過時にレール外軌側でレール底部R1と上向き傾斜板領域141cの最先端部分141dとが接触するとともにレール内軌側でレール底部R1と屈曲板領域141bの稜線部分141eとが接触するように規定されていることにより、列車通過時に生じがちなレール外軌側への過度のレール小返りを抑制することができる。
【0043】
また、板バネクリップ140の下側屈曲板部143が、中間湾曲板部142の下端縁142bからタイプレート120の端縁に沿って上側平板状部141に向けて立ち上がる立上り板領域143aとこの立上り板領域143aの立上り端縁143bから上側平板状部141と遊離した状態で緩い下向き勾配となるように延びてタイプレート120の凸状着座部123に着座するプレート対面板領域143cを有していることにより、上向き傾斜板領域141cの最先端部分141dをレール底部R1に確実に接触させるとともに列車通過時の振動による締結用ボルト150の緩みを防止することができる。
また、レールRのレール底部R1が、レールRのレール腹部R2から末広がり状に連続形成した底部下り傾斜面R1aaとこの底部下り傾斜面R1aaから連続形成した底部緩斜面R1abとを備え、上側平板状部141が、レール締結時に上側平板状部141の上向き傾斜板領域141cとレール底部R1の底部下り傾斜面R1aaとで接触するとともに屈曲板領域141bの稜線部分141eとレール底部R1の底部緩斜面R1abとで接触するように屈曲形成されていることにより、レールRをレール支承体Sに対してより確実に位置決めして取り付けることができる。
【0044】
また、レール支承体Sが、コンクリートから構成されていることにより、締結用ボルト150が板バネクリップ140に挿通した状態でレール支承体Sに強固に取り付けられて、板バネクリップ140の中間湾曲板部142がレール支承体Sに当接するバネ受け座台170に確実な着座して保持されるため、板バネクリップ140の上側平板状部141が、列車通過時に生じがちなレール外軌側への過度のレール小返りを抑制することができるなど、その効果は甚大である。
【0045】
なお、本実施例のレール締結機構は、タイプレートパッド130およびバネ受け座台170、170とレール設置用座面S2との間に高さ調整パッキンを挿入し、この高さ調整パッキンにタイプレートパッド130とバネ受け座台170とを並置状態で着座させることによって高さを調整が可能な構成としても良く、このような高さ調整パッキンを併用した場合には、レールRに生じたレール波状摩耗をレール削正して除去した後に、板バネクリップ140に当接するタイプレートパッド130とバネ受け座台170とを同時に締結用ボルト150に沿って高さ調整パッキンの厚みだけ持ち上げて高さ調整パッキンによりレールRを底上げしても、レールRに対して当接する板バネクリップ140の押圧姿勢がより一層確実に保持されるので、その効果はより一段と甚大である。