特許第6692810号(P6692810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6692810カチオン空孔によるナノメータアナターゼ格子、その生成方法、およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692810
(24)【登録日】2020年4月17日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】カチオン空孔によるナノメータアナターゼ格子、その生成方法、およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20200427BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20200427BHJP
【FI】
   C01G23/00 Z
   H01M4/48
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-525838(P2017-525838)
(86)(22)【出願日】2015年11月20日
(65)【公表番号】特表2017-536320(P2017-536320A)
(43)【公表日】2017年12月7日
(86)【国際出願番号】CA2015051215
(87)【国際公開番号】WO2016077933
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2018年8月27日
(31)【優先権主張番号】62/082,345
(32)【優先日】2014年11月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513138072
【氏名又は名称】ハイドロ−ケベック
(73)【特許権者】
【識別番号】504317743
【氏名又は名称】ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー(パリ シズエム)
(73)【特許権者】
【識別番号】508242056
【氏名又は名称】センター ナショナル デ ラ ルシェルシュ サイエンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ダンブルネ, ダミアン
(72)【発明者】
【氏名】リ, ウェイ
(72)【発明者】
【氏名】グルールト, アンリ
(72)【発明者】
【氏名】ルクレルク, サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン, クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ザジブ, カリム
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−512329(JP,A)
【文献】 特開2012−234746(JP,A)
【文献】 Journal of Fluorine Chemistry,2012年,Vol.134,P.35-43
【文献】 Chemical Engineering Science,2008年,Vol.63,P.5066-5070
【文献】 J. Phys. Chem. C,2009年,Vol.113,P.21258-21263
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00−23/08
H01M 4/48
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素原子および水酸基による酸素原子の部分的置換から生じるカチオン空孔を有するアナターゼ型構造を有するチタン系化合物を調製する方法であって、該方法が、
a)チタン前駆体、フッ素化剤、および有機溶媒を含有する溶液を調製するステップと、
b)一般化学式Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)(式中、□は、カチオン空孔を表し、xおよびyは、0.01≦(x+y)<0.5であるような数であり、xは、0とは異なる)を有するチタン系化合物を析出させるステップと
を含み、
ここで、ステップ(a)または(b)が、熱処理をさらに含み、該熱処理が、50℃〜220℃の範囲内の温度で、密封容器中のステップ(a)の溶液を加熱することを含み、前記カチオン空孔(□)の程度が、前記熱処理の前記温度を調整することによって制御される、方法。
【請求項2】
xおよびyは、0.04≦(x+y)<0.5であるような数である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記チタン前駆体が、チタンC〜C10アルコキシドおよび塩化チタンから選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フッ素化剤が、フッ化物アニオンをもたらす作用物質である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フッ素化剤が、フッ化水素(HF)、フッ化アンモニウム(NHF)、および二フッ化水素アンモニウム(NHHF)から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(a)の前記溶液の前記溶媒が、有機溶媒および水の混合物を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記有機溶媒が、C〜C10アルコール、ジアルキルケトン、エーテル、エステル、またはこれらの組合せから選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ジアルキルケトンがアセトンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール、またはこれらの組合せである、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記熱処理が、90℃〜160℃の範囲内の温度でステップ(a)の前記溶液を加熱することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
フッ素原子および水酸基による酸素原子の部分的置換から生じるカチオン空孔を有するアナターゼ型構造を有する、一般化学式:
Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)
(式中、
□は、カチオン空孔を表し、
xおよびyは、数であり、式0.01≦(x+y)<0.5に対応し、xは、0とは異なる)のチタン系化合物を含む電気化学的活物質。
【請求項12】
xおよびyは、0.04≦(x+y)<0.5であるような数である、請求項11に記載の電気化学的活物質。
【請求項13】
Ti0.780.220.4(OH)0.481.12である、請求項11または12に記載の電気化学的活物質。
【請求項14】
集電体上に請求項11から13のいずれか一項に記載の電気化学的活物質を含む電極。
【請求項15】
請求項14に記載の電極、対電極、および前記電極と前記対電極の間の電解質を備えるリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権出願
本出願は、2014年11月20日に出願された米国仮出願第62/082,345号から、適用法の下、優先権を主張し、この出願の内容はすべての目的のためにその全体が本明細書において参照として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、フッ素原子および/または水酸基による酸素の部分的置換を通じた制御可能量のカチオン空孔を含有するナノサイズアナターゼ粒子の調製を可能にする化学プロセス、ならびにリチウム電池電極におけるこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
エネルギー供給は、21世紀の最大の課題の1つである。同時に起こっている気候変動および限られた将来の化石燃料供給は、クリーンエネルギー源の使用へと推し進める。電気化学的エネルギーの貯蔵が、我々のエネルギーの脱炭素化において主要な役割を果たすと予測されている。電池は、電気化学反応によってエネルギーを貯蔵することができる電気化学的デバイスであり、例えば、風源または太陽源のサポートとして使用され得る電気輸送および定置型エネルギー貯蔵システムなどの将来の社会的課題に応える最も有望な技術の1つとして考えられている。
【0004】
負極に関して、炭素質電極の使用は、安全性への懸念および芳しくないレート特性に起因して限られている。反対に、チタン系化合物は、リチウム電池における安全な負極の強力な候補と考えられている。実際に、このクラスの材料の動作電圧は、電解質安定性領域内、すなわち0.8V超である。このことは、熱的に不安定な固体−電解質−界面(SEI)層、およびアノード上のリチウムめっきが望み通り存在しないことと共に、電池に改善された安全性特徴を付与する。
【0005】
チタン系化合物の別の興味深い特徴は、電気自動車などの高出力用途に要求される高放電/充電速度を持続するその能力である。レート特性の増強を実現するのに一般に使用される一手法は、粒子サイズの低減である。相補的な手法は、イオン置換による構造的配置の改変を含む。
【0006】
二酸化チタンファミリーの中で、アナターゼ(正方晶、空間群:I4/amd)形態が、その特異な性質に起因して広く調べられている。Ti4+/Ti3+レドックス対に基づいて、335mAh/gの容量を実現することができる。アナターゼ構造は、エッジ共有によって連結されたTiO八面体単位から構築される。この3次元構造は、可逆性の一次転移、すなわち、正方晶から斜方晶系への転移を介して進行するリチウムインターカレーションに適した空のサイトを示す。この相転移挙動は、電位−容量曲線におけるプラトー領域によって特徴付けられる。それでもやはり、リチウム組成範囲全体にわたる固溶体性質が、実際の用途にとって好ましい。実際、これにより一般に、高速の核形成プロセスを回避し、一次転移材料と比較して電池の充電状態をより容易に監視することが可能になる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の要旨
一態様によれば、本発明は、フッ素原子および水酸基による酸素原子の部分的置換から生じるカチオン空孔を有するアナターゼ型構造を有するチタン系化合物を調製する方法に関する。例えば、本方法は、
a)チタン前駆体、フッ素化剤、および溶媒を含有する溶液を調製するステップと;
b)一般化学式Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)(式中、□は、カチオン空孔を表し、xおよびyは、0.01≦(x+y)<0.5、または0.04≦(x+y)<0.5であるような数である)を有するチタン系化合物を析出させるステップと
を含む。
【0008】
一実施形態では、チタン前駆体は、チタンC〜C10アルコキシドおよび四塩化チタンから選択される。別の実施形態では、フッ素化剤は、フッ化物アニオンをもたらす作用物質、好ましくはフッ化水素(HF)、フッ化アンモニウム(NHF)、または二フッ化水素アンモニウム(NHHF)である。さらなる実施形態では、ステップ(a)の溶液中の溶媒は、有機溶媒または有機溶媒および水の混合物、例えば、微量の水を含有する有機溶媒などの有機溶媒が主成分である混合物である。例えば、有機溶媒は、C〜C10アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、およびオクタノールのような)、ジアルキルケトン(例えば、アセトン)、エーテル、エステル、またはこれらの組合せから選択される。
【0009】
一実施形態では、本方法のステップ(b)は、例えば、約50℃〜約220℃または約90℃〜約160℃の範囲内の温度でステップ(b)の溶液を加熱することを含む熱処理(例えば、密封容器内での)をさらに含む。一実施形態によれば、カチオン空孔(□)の程度は、熱処理の温度を調整することによって制御される。
【0010】
本発明はさらに、一般化学式:
Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)
(式中、
□は、カチオン空孔を表し、
xおよびyは、数であり、式0.01≦(x+y)<0.5、または式0.04≦(x+y)<0.5に対応する)
のチタン系化合物に関する。
【0011】
一実施形態では、チタン系化合物は、本発明のプロセスによって調製される。別の実施形態では、チタン系化合物は、Ti0.780.220.4(OH)0.481.12である。
【0012】
本発明はまたさらに、本発明のプロセスによって調製されるチタン系化合物または本明細書で定義されるチタン系化合物を含む電気化学的活物質に、前記電気化学的活物質および集電体を含む電極に、ならびに前記電極を備えるリチウムイオン電池に関する。
本発明は、例えば以下の項目を提供する。
(項目1)
フッ素原子および水酸基による酸素原子の部分的置換から生じるカチオン空孔を有するアナターゼ型構造を有するチタン系化合物を調製する方法。
(項目2)
a)チタン前駆体、フッ素化剤、および溶媒を含有する溶液を調製するステップと、
b)一般化学式Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)(式中、□は、カチオン空孔を表し、xおよびyは、0.01≦(x+y)<0.5、または0.04≦(x+y)<0.5であるような数である)を有するチタン系化合物を析出させるステップと
を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記チタン前駆体が、チタンC〜C10アルコキシドおよび塩化チタンから選択される、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記フッ素化剤が、フッ化物アニオンをもたらす作用物質、好ましくはフッ化水素(HF)、フッ化アンモニウム(NHF)、または二フッ化水素アンモニウム(NHHF)である、項目2または3に記載の方法。
(項目5)
ステップ(a)の前記溶液の前記溶媒が、有機溶媒、または有機溶媒および水の混合物を含む、項目2から4のいずれか一項に記載の方法。
(項目6)
前記有機溶媒が、C〜C10アルコール、アセトンなどのジアルキルケトン、エーテル、エステル、またはこれらの組合せから選択される、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、オクタノール、またはこれらの組合せである、項目5または6に記載の方法。
(項目8)
ステップ(a)または(b)が、熱処理をさらに含む、項目2から7のいずれか一項に記載の方法。
(項目9)
前記熱処理が、約50℃〜約220℃または約90℃〜約160℃の範囲内の温度でステップ(a)の前記溶液を加熱することを含む、項目8に記載の方法。
(項目10)
カチオン空孔(□)の程度が、前記熱処理の前記温度を調整することによって制御される、項目8または9に記載の方法。
(項目11)
一般化学式:
Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)
(式中、
□は、カチオン空孔を表し、
xおよびyは、数であり、式0.01≦(x+y)<0.5、または式0.04≦(x+y)<0.5に対応する)
のチタン系化合物。
(項目12)
項目1から10のいずれか一項に記載のプロセスによって調製されるチタン系化合物であって、前記化合物は、一般化学式:
Ti1−x−yx+y2−4(x+y)4x(OH)4y
(式中、
□は、カチオン空孔を表し、
xおよびyは、数であり、式0.01≦(x+y)<0.5、または式0.04≦(x+y)<0.5に対応する)
の化合物である、チタン系化合物。
(項目13)
Ti0.780.220.4(OH)0.481.12である、項目11または12に記載のチタン系化合物。
(項目14)
項目1から10のいずれか一項に記載のプロセスによって調製されるチタン系化合物、または項目11から13のいずれか一項に記載のチタン系化合物を含む電気化学的活物質。
(項目15)
集電体上に項目14に記載の電気化学的活物質を含む電極。
(項目16)
項目15に記載の電極、対電極、および前記電極と前記対電極の間の電解質を備えるリチウムイオン電池。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照して本明細書の以下の記載を読むとより良好に理解されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、実施例1によって調製される相のX線粉末回折パターンを示す。パターンに、アナターゼネットワークに特徴的な正方晶対称性を使用して指数付けた。
【0015】
図2図2は、実施例1によって調製される相から得られる高分解能透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【0016】
図3図3は、実施例1によって調製される相から得られるTi2p XPSコアスペクトルを示す。
【0017】
図4図4は、実施例1によって調製される相の19Fマジック角回転NMRスペクトルを示す。
【0018】
図5図5は、合成温度とTi1−x−yx+y2−4(x+y)4x(OH)4yの化学組成との間の相関を示す。Ti(4a)サイト占有率は、回折データの構造解析によって判定した。
【0019】
図6図6は、20mA/gの下で1から3Vの間でサイクルしたLi/Ti0.780.220.40(OH)0.481.12セルの電位対容量を示す。挿入図:Li/TiOセルの電圧プロファイル。
【0020】
図7図7は、定電流間欠滴定技法によって得られる準平衡電圧を示す。Li/Ti.780.220.40(OH)0.481.12セルを、C/10のCレート(33.5mA/g)で20分間、間欠的に放電し、その後20時間緩和した。x軸は、Ti0.780.220.40(OH)0.481.12電極に挿入されたLiイオンの数を指す。
【0021】
図8図8は、Li/Ti0.780.220.40(OH)0.481.12セルのレート容量を示す。比較目的で、335mA/gの下でLi/TiOセルについて得られるデータも示されている。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本発明は、酸素からフッ素/水酸基への置換から生じるカチオン空孔を有するアナターゼ型構造を有するチタン系化合物を調製する方法に関する。カチオン空孔の程度は、アナターゼネットワーク内で酸素を置換するフッ素/OH基の量によって制御することができる。調製される化合物の一般化学式は、Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)であり、式中、□は、カチオン空孔を表し、xおよびyは、これらの和が0.01から0.5の間、または0.04から0.5の間(上限値は含まない)であるようなものである。
【0023】
ネットワーク内にカチオン空孔が存在すると、リチウムイオンを留めるための追加の空のサイトがもたらされ、イオン移動度が増大し、したがって実現されるより高いエネルギー/電力密度に潜在的に寄与する。
【0024】
本発明はさらに、得ることができる高出力および高エネルギー密度に寄与するリチウム貯蔵機構を可能にする構造的配置/化学式を有する電極として、本明細書で調製されるチタン系化合物を使用する電気化学セルに関する。化学組成の制御による構造的配置の改変は、リチウム電池中で負極として試験されるとき、電気化学的応答のバリエーションを誘導する。実際に、ネットワーク内にカチオン空孔およびフッ素原子が存在すると、化学量論のTiOアナターゼについて観察される可逆性一次転移とは対照的に、リチウムインターカレーション時の可逆性固溶体挙動が誘導される。さらに、純粋なTiOと比較した場合、レート特性の観点からの有意な改善を、高出力用途に適している電極として使用されるとき、本材料で実現することができる。
【0025】
本発明は、フッ素および水酸基による部分的な酸素の置換によって誘導されるカチオン空孔を有するアナターゼ型構造を有するチタン系化合物の調製、ならびにリチウムイオン電池用負極でのその使用を開示する。
【0026】
一部の実施形態では、本願は、それだけに限らないが、
a)チタン前駆体およびフッ素化剤を含有する溶液を調製するステップと;
b)一般化学式Ti1−x−yx+y2−4(x+y)4x(OH)4y(式中、□は、カチオン空孔を表し、xおよびyは、0.01≦(x+y)<0.5、または0.04≦(x+y)<0.5、例えば0.1≦(x+y)<0.3であるような数であり、xは、ゼロとなり得ない)を有するチタン系化合物を析出させるステップと
を使用する調製法を記載する。
【0027】
例えば、ステップ(a)のチタン前駆体は、チタンC〜C10アルコキシドおよび塩化チタンから選択される。例えば、チタンC〜C10アルコキシドは、チタンエトキシド、チタンプロポキシド、チタンイソプロポキシド、および/またはチタンブトキシドから選択され得る。フッ素化剤は、限定することなく、フッ化水素(HF)、フッ化アンモニウム(NHF)、および二フッ化水素アンモニウム(NHHF)を含めたフッ化物アニオンの源として作用する作用物質である。フッ素化剤は、溶液、例えば、水溶液、例えば、濃フッ化水素酸溶液の形態であり得る。例えば、ステップ(a)の溶液に使用される溶媒は、有機溶媒または有機溶媒および水の混合物である。有機溶媒は、C〜C10アルコール、ジアルキルケトン(例えば、アセトン)、エーテル、およびエステルから選択される。C〜C10アルコールの例としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、およびオクタノールが挙げられる。
【0028】
一実施形態では、チタンアルコキシド、アルコール、およびフッ化物イオン源を含有する溶液が使用される。フッ化物とチタンのモル比は、好ましくは、0.1〜4の範囲であり、好ましくは、モル比は、2.0である。典型的には、チタンアルコキシド、フッ化物、および有機溶媒を含有する溶液が調製され、次いで密封容器、例えば、Teflon(登録商標)裏打ち密封容器に移される。次いで密封容器は、オーブン内に配置され、例えば、約50℃〜約200℃もしくは約90℃〜約160℃の範囲内の温度に付され、または温度は、約90℃に設定される。熱処理の継続時間は、好ましくは1〜300時間の範囲であり、好ましくは約12時間である。濾過した後、次いで析出物は洗浄され、50〜400℃の範囲の温度で、好ましくは150℃で一晩脱ガスされる。
【0029】
異なる化学組成を有するいくつかのフッ素化アナターゼ化合物を、本願による調製方法によって、例示的目的で調製した。比較目的で、無フッ素化合物を、空気雰囲気下で450℃にて4時間フッ素化化合物を熱処理することによって調製した。
【実施例】
【0030】
以下の非限定的な実施例は、本発明を例示するものである。これらの実施例および本発明も、添付の図面を参照してより良好に理解されることになる。
【0031】
(実施例1)
フッ素化アナターゼは、イソプロパノール25mL中に13.5mmolのチタンイソプロポキシド(4mL)および27mmolのHF水溶液(40%)を含有する溶液を、密封容器内で90℃にて12時間処理することによって得た。図1は、本実施例によって得た試料について記録されたX線粉末回折パターン(CuKα)を提示する。対応するパターンにアナターゼネットワークに特徴的であるI4/amd空間群を有する正方晶構造を使用して指数付けた。試料は、よく結晶化されており、著しいX線ラインブロードニングが観察され、小さいコヒーレンスドメインを示した。
【0032】
高分解能透過型電子顕微鏡法(図2)により、固体の形態は、サイズが5〜8nmの範囲である粒子の塊からなることが明らかになった。さらに、hkl依存性X線ラインブロードニングおよびHRTEMは、準安定表面の安定化におけるフッ素原子の役割を強調する最近の論文(H.G. Yangら、2008年、Nature、453巻、638〜641頁)と一致して、ファセット結晶、すなわち小板の形成を示した。本実施例によって調製した試料上の窒素吸着から判定した比表面積は、約180m/gであった。
【0033】
試料内のチタンの酸化状態を、X線光電子分光法を使用して判定した。図3は、四価チタンに特徴的な458.9eVに位置したTi 2p3/2コアを伴ったTi2p XPSコアスペクトルを表す。
【0034】
調製した試料中のフッ素原子含有量は、フッ素核(19F)の固体核磁気共鳴を使用して評価した。F/Tiモル比の推定を、参照(NaF)を使用して実施し、0.5の比に至った。試料の化学組成は、Ti0.780.220.4(OH)0.481.12であった。情報目的で、19F MAS NMRスペクトルで観察された3つのシグナル(図4)を、アナターゼネットワーク内のフッ素の様々な配位モードに割り当てた。−85ppmを中心としたピークを、3つのチタンイオンに配位したフッ素に割り当てた。0ppm付近に位置した最も強いピークは、架橋フッ素に特徴的であり、したがって1つの空孔付近に位置したフッ化物イオンに帰した。最終的に、約90ppmで検出された広幅シグナルは、2つの空孔付近に位置した、すなわち、一重配位したフッ化物イオンに割り当てた。相対強度から、フッ化物イオンは、二重配位、すなわち、1つの空孔に隣接することを優先的に採用したと結論付けられた。
【0035】
シンクロトロン回折をさらに使用して試料の結晶学的データを得た。結果を無フッ素TiO化合物のものと比較し、これらを表1に要約する。
【0036】
【表1】
【0037】
両化合物は、近い単位格子パラメータおよび原子間距離値を示した。無フッ素TiOの占有率(taux d'occupation)を精密化すると100%の占有率になり、化学量論組成が確認された。他方では、フッ素化化合物は、78%のTi(4a)占有率を呈する。したがって、熱分析および元素分析を含めた様々な技法の組合せにより、本実施例で調製した試料の化学組成がTi0.780.220.4(OH)0.481.12であると判定することが可能になる。
【0038】
(実施例2)
Ti1−x−yx+y4x(OH)4y2−4(x+y)中のカチオン空孔の含有量は、合成的に制御することができる。実施例1の条件中の反応温度を調節することによって、様々なカチオン濃度を得た。密封容器内に入れたイソプロパノール25mL中に13.5mmolのチタンイソプロポキシド(4mL)および27mmolのHF水溶液(40%)を含有する溶液を、90〜160℃の範囲の異なる温度で12時間処理した。調製した試料についてのカチオン空孔中の含有量を回折データ分析によって判定した。図5に表示した結果は、反応温度の関数としてのカチオン含有量の線形変動を示した。
【0039】
(実施例3)
実施例1によって調製したTi0.780.220.4(OH)0.481.12を、Li/Ti0.780.220.4(OH)0.481.12セル中で試験した。電気化学セルは、正極、負極、および非水性電解質から構成されている。正極は、銅箔に被覆された80wt%のTi0.780.220.881.12粉末、10wt%の炭素、および10wt%のPVDFバインダーの混合物からなっていた。負極は、金属リチウムであり、参照として機能した。LP30市販溶液を非水性電解質として使用した。これは、炭酸エチレン(EC)および炭酸ジメチル(DMC)溶媒の混合物中に溶解したLiPFを含有する。
【0040】
図6は、3つの最初のサイクルについての20mA/gの下でのLi/Ti0.780.220.4(OH)0.481.12セルの電位対容量曲線を示す。電圧ウィンドウは、1〜3Vの間に設定した。第1の放電容量は、理論的な容量をはるかに超え、490mAh/gに到達した。大きい非可逆性の容量が、充電すると観察され、充電容量は、230mAh/gに到達した。このような現象は一般に、ナノサイズチタン系材料について観察され、表面種(HO、OH基など)と反応するリチウムの結果だとされる。ここで最も顕著なポイントは、電位対容量の連続的な変遷を呈する放電(還元)曲線および充電(酸化)曲線の形状であり、それは、フッ素化アナターゼTi0.780.220.4(OH)0.481.12が、1相プロセス、すなわち、固溶体挙動でトポタクティックにリチウムを挿入することを示す。これは、1.78VにおけるLiプラトーの存在によって特徴付けられる正方晶(I4/amd)から斜方晶系(Imma)への相転移による2相プロセス(一次転移)でリチウムを挿入するTiOアナターゼと対照的である(図6中の挿入図)。
【0041】
リチウムとの反応が固溶体挙動を介して進行することを確認するために、準平衡電圧(図7)を定電流間欠滴定技法(GITT)によって得た。GITTグラフは、リチウムが固溶体挙動を介してTi0.780.220.4(OH)0.481.12中に挿入されることを強調する滑らかな曲線を示す。
【0042】
図8は、Li/Ti0.780.220.881.12セルについてのサイクル数の関数としての容量の変遷を示す。高電流密度下で、優れた容量保持率が得られた。Li/Ti0.780.220.881.12セルは、3335mA/gの下で50サイクル後に135mAh/gの容量を実際に持続することができる。これは、4分で135mAh/gを放電することに対応し、それは、15Cレートに等価である。比較目的で、335mA/gの下でサイクルしたLi/TiOセルは、10サイクル後に165mAh/gに到達し、無フッ素試料に対するフッ素化アナターゼの優れたレート特性を示した。
【0043】
企図した本発明の範囲から逸脱することなく、上述した実施形態の任意の1つに対して多数の改変をなすことができる。本願で述べた参考文献、特許、または科学文献文書は、すべての目的のためにその全体が本明細書において参照として援用される。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4
図5
図6
図7
図8