【実施例】
【0015】
(実施例1)
放出されたN−グリカンの、HILIC分析用、高速標識化試薬を用いた高速調製
本実施例では、どのようにして糖タンパク質から、30分間で、完全な脱グリコシル化を伴って、標識化(本明細書では「ラベル化」とも呼ぶ)N−グリカンを、分析の準備ができたサンプルに調製するかを説明する。発明者らのプロセスは、GLYCOWORKS(商標)RAPIFLOUR−MS(商標)N−グリカンキットとして知られているキットにより容易に実行可能になる、合理的なプロトコルである。ラベル化されたN−グリカンに対する感度は、これまでの蛍光及びMS検出よりも少なくとも2〜100倍に増加しており、テトラシアル酸化されたN−グリカンを中和するロバスト性のある固相抽出(「SPE」)に基づいた正確なプロファイリングを提供可能である。Lauber,Mら、Rapid Preparation of Released N−Glyans for HILIC Analysis Using a Labeling Reagent that Facilitates Sensitive Fluorescence and ESI−MS Detection,Anal.Chem.、2015年、第97巻、5401〜5409頁を参照。なお、同論文は参照により、本明細書に組み込まれる。
【0016】
本発明者らのN−グリカン分析を容易にする高速標識化試薬は、高速ラベル化の速度と、高い蛍光量子収率と、MS検出性の相当な向上とを得られるような合理的な設計上の考慮に基づいて合成されたものである。N−グリカンサンプルの調製は、アルデヒド末端を有する糖類の還元型アミノ化に依存し得るものである。このプロセスにおいては、脱シアル化を最小限にするため、グリカンが、無水条件下で還元的にアミン化される。サンプルの調製は、水性条件から無水条件へと移行する。他方、高速標識化試薬を用いることにより、還元型アミノ化は、水性条件下での高速標識化反応を通じて省略可能となる。
【0017】
グリカンは、高速標識化反応によりラベル化されないとしても、還元型アミノ化を用いてその還元末端部でラベル化され得る。この反応においては、一級アミンを含有する標識化試薬が、縮合反応においてグリカンのアルデヒド基と反応し、イミン又はシッフ基を結果として生じ、それが還元剤により還元されて、二級アミンを生じる。反応は、酢酸を含有するジメチルスルホキシド内で実行されるが、テトラヒドロフランとメタノールとを用いる代替的な方法も説明されている。アミンの例(本明細書においては、一級アミン又は一級アミンを有する化合物とも呼ばれる)としては、エタノールアミン、プロピルアミン、アミノベンザミド、遊離アミノ末端を有するペプチド(本明細書の実施例5に示すようなもの)、N,N−ジメチルエチレンジアミン、アミノアントラセン、及びアミノビオチンが挙げられる。本ラベル化方法の利点は、グリカン毎に1つのラベルを化学量論的につけることで、蛍光又はUV吸光度に基づく直接的定量化を可能にすることにある。
【0018】
【化2】
【0019】
あるいはグリカンの高速標識化は、本明細書において説明され、かつN−グリカンサンプル調製のあらゆる側面からその障害となっているものを取り除くことを目的として設計されたGLYCOWORKS(商標)RAPIFLUOR−MS(商標)N−グリカンキットによって、即座に導入可能である。下記の
図1に示すように、N−グリカンサンプル調製の最適化されたワークフローは、以下の3つのステップを要する:(1)糖タンパク質からグリカンを放出させるための脱グリコシル化;(2)グリカンに対して、検出可能な化学物質を付与するためのラベリング;及び(3)サンプルから潜在的に妨害となり得る物質を取り除くためのクリーンアップ。これらのグリカンは次に、迅速に1種類以上の高速標識化試薬と反応させられ、それにより、蛍光及びMS検出の両方に対して感度を上昇させる、効率的な蛍光色素分子と強塩基性三級アミンとを含む標識によってラベル化される。直ぐ下に、高速でラベル化されたグリカンの構造を表す図を示す。高速でラベル化されたグリカンは、還元型アミノ化反応に由来する二級アミン結合とは異なる、とりわけ独特の結合部分を有することは注目に値する。高速でラベル化されたN−グリカンは、中性(非酸性)尿素結合を含有することになる。これは、高速でラベル化されたグリカンの物理化学的特性及び/又は性状に影響を及ぼし得るが、それらの特性及び/又は性状には、クロマトグラフ保持値、及び蛍光特性、更には、例えば、等電点(「pI」)、酸性度、塩基性、疎水性、親水性、金属をキレート化する能力、UV吸光度、蛍光性、可視光スペクトルにおける吸光度、比色変化、分子量、結合相手との相互作用に対する親和性(すなわち、アビジン又はストレプトアビジンに対するビオチン化残基、抗原結合部位に対する抗原決定基)、酸化還元電位、架橋傾向、切断性(化学的及び熱的)、及び、さまざまな長さの高分子置換成分(すなわち、ポリエチレングリコール(PEG)4繰り返し単位、PEG 40繰り返し単位)のようなその他の物理化学的性状が挙げられる。
【0020】
【化3】
【0021】
本明細書において用いられる場合、商標GLYCOWORKS(商標)及び商標RAPIFLUOR−MS(商標)は、出願者であるWaters Technologies Corporationにより所有されている。商標GLYCOWORKS(商標)は、生物学的標準品類、サンプル調製装置、並びにクロマトグラフィー及び質量分析用サンプルを調製するための使い捨てカートリッジ及び化学試薬を含む、ラボ使用向けサンプル調製キットに関連して用いられる。同様に、商標RAPIFLUOR−MS(商標)は、クロマトグラフィー及び質量分析用サンプルを調製するための化学試薬に関連して、また、生物学的標準品類、サンプル調製装置、及び使い捨てカードリッジを含むサンプル調製キットに関連して用いられる。
【0022】
したがって、GLYCOWORKS(商標)RAPIFLUOR−MS(商標)N−グリカンキットは、N−グリカンの、高速での酵素による放出及び高速ラベル化に対して使用可能である。このプロトコルは、モノクローナル抗体を用いて有効性を検証されているものであるが、広い範囲のその他のN結合型糖タンパク質に対して実行するよう試験されているものでもある。本サンプル調製キットは、最適化された脱グリコシル化条件及び高速放出用試薬を用いるものである。本キットは、2014年8月13日出願の、米国特許出願公開第2014/0350263号(参照により本明細書に組み込まれる)の、段落[0008]〜[0022]、[0047]〜[0050]、[0053]〜[0182]、[0191]、[0228]、及び[0230]〜[0316]に記載の高速ラベル試薬を含み得るが、なおかつ、高い感度の蛍光検出及び質量検出用に適切な信号強度と両方の利益を提供するように設計されている。
【0023】
本明細書において説明しているように、タンパク質のN−グリコシル化の特性把握及びモニタリングは、病勢の検知及びバイオ医薬品の製造において重要である。グリコシル化プロファイルは、時間がかかることで悪い評判がありかつMS感度の面で妥協を迫られるような技法によってサンプルがしばしば調製される、放出されたグリカンの分析によって最も多く評価される。本明細書において記載されているGLYCOWORKS(商標)RAPIFLUOR−MS(商標)N−グリカンキットの開発により、過去に例のない高いグリカン検出感度を可能にし、N−グリカンのサンプル調製のスループットを改善することも実現したことで、これらの問題点への対処がなされた。
【0024】
この新しいサンプル調製方法及び関連する方法によりもたらされた効率性及び感度についての利益と同様に重要なのは、そのロバスト性及び、過去のN−グリカンプロファイリングと一貫性のある結果を生み出すその能力である。更に、生成されたグリカンデータは、グリカンデータベースに問い合わせをするために用いることが可能であるが、まずは、グルコース単位(「GU」)値と呼ばれる標準化された値に変換する必要がある。したがって、較正規格を実現することの別の1つの利益は、既存のグリカンデータを、グリカンデータベースの探索を可能にするフォーマットに変換する能力である。変換されたデータは、未知のグリカン組成物のサンプルが調査されている発見のプロセスにおいて使用可能である。ひとたびグリカンがGU値に変換されると、ユーザーはオンラインのデータベースに問い合わせて、サンプル中に存在すると思われるグリカン構造の候補について、洞察を得ることが可能となり、潜在的には、典型的な特性把握の実行に必要とされる時間を減らすことも可能になる。液体クロマトグラフィーにおいては、較正が頻繁に実行されるが、それは時に、グリカン混合物の分離を実行するたびに、その実行後に実行されるほどである。
【0025】
蛍光性(「FLR」)の、ラベル化されたグリカンを検出するため、蛍光検出と組み合わせた親水性相互作用液体クロマトグラフィー(「HILIC」)を用いることが可能である。分離の処理の場合、かつある一部の従来型高性能液体クロマトグラフィー(「HPLC」)法と比較して、HILICモードで動作しているエチレン架橋型ハイブリッドグリカンカラム(以下、「BEHグリカンカラム」又は「BEHカラム」と呼ぶ)は、ピーク解像度の向上を、中性及び酸性グリカンの両方を分離する能力とともに提供し得るものである。BEHグリカンカラムは、再現性のあるグリカン分離データを、方法の最適化のためにより少ない時間しかかけずに生成するのを可能にする。
【0026】
BEHカラムは、ハイブリッドシリカBEH、安定な、アミドを含有する種により官能化された架橋技術粒子、を用いる。BEH技術は、直径が1.7〜5μmの範囲の数多くの粒径固定相をもたらし、HPLC技術プラットフォームと、超高性能液体クロマトグラフィー(「UPLC」)技術プラットフォームとの間の橋渡しをするものである。BEH粒子は、塩基性検体に対してピーク形状と効率性を提供し、クロマトグラフ選択制の合理的なアレイを提供し、更に、極端な移動相、特に高いpH値において、化学的安定性の向上をもたらすものである。これらのカラムの分解能は、関連付けられた用途に対して最適な、アミド配位子の濃度を有する多孔質粒子に、部分的には因るものである。このカラムは、さまざまなバイオ医薬品から放出されラベル化されたN−結合型グリカンを分離するための蛍光(「FLR」)検出を有するUPLC又はHPLCシステムとともに使用するために最適化され得るが、中性の及び荷電した、ラベル化されたグリカン種のHILICに基づく分離を実現し得る。
【0027】
BEHグリカンカラム、又は、単に任意のHILICに基づくグリカンのプロファイリングを最大限活用するために、デキストラン較正ラダー(以下、時に、「デキストランラダー」又は「デキストランラダー標準」と呼ぶ)を使用することが可能である。HILIC/FLRシステムから得られるグリカンプロファイルは、デキストランラダーに対して較正され、グルコース単位(GU)値により特定され得る。例えば、そのような既知のラダーの1つである、2AB−ラベル化デキストラン較正ラダーは、その他の市販のものとは異なるものである。グルコースホモポリマーの平均分子量は、より高く(最大で4,500ダルトン)、そのため、「使用可能な」GU値の範囲は、その他のデキストランラダー標準の2倍にもなっている。観測されたGUは、2〜30である。したがって、大きなグリカン保持時間の特定が改善される。デキストランラダーの純度及び構造的一体性は、HILIC及び質量分析(「MS」)の両方で評価可能である。
【0028】
グリカンの溶出時間は、デキストランラダーを参照することにより、グルコース単位(「GU」)で表現可能である。個々のグリカン構造のそれぞれは、その連結及びそれを構成する単糖類に直接関係するGU値を有する。ある特定の連結内のそれぞれの単糖類は、所与のグリカンのGU値に特定の方法で寄与するので、GU値は、構造を予測するために用いることが可能である。したがって、本明細書において提供されるデキストランラダーを用いて、日々の変化又はシステムごとの変化に対して、液体クロマトグラフィー(「LC」)の実行を較正することが可能である。GU値は、5次多項分布曲線又は3次スプライン曲線を、デキストランラダーにフィットさせ、次にこの曲線を用いて、保持時間からGU値を割り当てることにより、計算される。N−グリカンに対するGU値は、カラム間での標準偏差は0.3未満の、非常に再現性が高いものであり得る。これにより、一連の器具からある一定の期間にわたって集めたデータベース値と、直接比較することが可能となる。
【0029】
GU値を入手したら、あるグリカン集団内に存在する、潜在的なグリカン構造を明らかにする助けとするために、GU値で記録されたグリカンのデータベースからデータを得ることが可能である。デキストランラダーはまた、異なるラボの異なる機器によって得られるクロマトグラムを較正するために用いることが可能である、品質がコントロールされた標準を提供する。HILIC−FLR器具類を用いて得られたグリカン保持時間は、ラボごとにそして器具ごとに異なるであろう。保持時間をGU値に変換することにより結果として得られたデータは、オンサイト及びオフサイトの両方で、異なる場所どうしの間の情報比較をするために用いることが可能である。GU値の使用は、ここで例として用いられているが、その他のクロマトグラフィー法も、本発明の方法により調製されたデキストランによる較正を使用することから利益を引き出すことが可能であり、そのようなクロマトグラフィーの例には、逆相クロマトグラフィー、及び逆相クロマトグラフィーとHILICとの両方を繰り返し混合するモードが挙げられるが、それらに限られない。
【0030】
N−グリカンの高速ラベル化は、分析のためのグリカンサンプルの調製を単純化するものである。しかしながら、高速標識化用試薬によって高速でラベル化されたグリカンとともに用いるのに適切なデキストランラダーを製造することは、簡単なことではない。本明細書において提供されるのは、2ステップ式の、還元グリカン標識化のためのプロセスであり、例えば蛍光及びMS活性、並びに異なる検出特性を有する多くの標識のような、クロマトグラフ応答及び化学的性質の調整を可能にするプロセスである。各ステップは、還元グリカンへの付着の性質が異なっている。「還元グリカン」という用語は、還元糖、還元糖類、還元多糖類(異糖類、異糖単位、又は、異単糖類、又はホモ糖類)を意味し、アルデヒド末端を有する任意の糖類を含み、例えば、キトトリオース、キトビオース、ガラクトロース−β−(1〜3)−GalNAc−グリカン、マンノトロース−ジ−(N−アセチル−D−グルコサミン)、及びマルトロースが挙げられる。還元グリカン又は還元糖は、遊離アルデヒド基を有するために還元剤として機能することが可能な任意の糖である。したがって、本明細書において提供される方法は、O−グリカンを含む、アルデヒド(時にアルデヒド基とも呼ばれる)を含有する任意の化合物を標識化又は二重標識化するのに有用である。
【0031】
直ぐ下に示すように、最初のステップでは還元型アミノ化プロセスを用いるが、一級アミンを有する化合物と還元グリカン(アルデヒド末端を有する糖類)を反応させて、例えば、エタノールアミノデキストランラダー、プロピルアミノデキストランラダー、又は、二級アミンに転換されたアルデヒド又は二級アミン末端を有するように転換された還元グリカン(還元糖類)を有するその他の化合物のような中間化合物を生成するステップを含むものである。上記のような中間化合物又はそのアルデヒドが二級アミンに転換される化合物を生成するのに望ましい特性を示すことが可能な一級アミン(本明細書においては、「一級アミンを有する化合物」又はアミンとも呼ぶ)には、エタノールアミン、プロピルアミン、アミノベンザミド、遊離アミノ末端を有するペプチド(本明細書において実施例5に示されるようなもの)、N,N−ジメチルエチレンジアミン、アミノアントラセン、及びアミノビオチンが挙げられる。第2のステップは、異なる特性を付与し得る高速標識化試薬との反応である。換言すれば、中間化合物の特性は、高速標識化された化合物(すなわち、高速標識化グリカン)の特性とは異なっている。
【0032】
【化4】
上の図において、R−NH2は、エタノールアミン、又は一級アミンを有する類似のタイプの化合物である。
【0033】
この方法は当初、直ぐ下に示すような前駆体を用いる還元型アミノ化のみを介して標識化されたデキストラン標準の特性(本明細書においては、還元糖とも呼ぶ)に高速標識化試薬(
図2)で標識化された(
図3)N−結合型グリカンどうしの間で、光学的特性を一致させる必要から生まれたものである:
【0034】
【化5】
【0035】
不都合なことには、これらの2つのタイプの材料どうしの間で、蛍光特性、すなわち励起極大及び発光極大が、異なることが見いだされた。その結果、そのようなデキストランラダーは、液体クロマトグラフィーで高速でラベル化されたグリカンを分析するための検量体として好適とは言えないものであった。
【0036】
本明細書において提供される方法は、蛍光及び/又はMS活性特性を通じたN−グリカンの検出を提供するための高速標識化/アミン反応性ラベルによる、還元グリカン(又はアルデヒド末端を有する任意のグリカン)の標識化への反応経路を使用する。還元グリカンの従来の標識化は、特定の標識化試薬による還元型アミノ化(1〜4時間、高い収率を得るには8時間もかかる場合があり得るような時間のかかるプロセス)を伴うものである。本方法は還元型アミノ化を使用するものの、ひとたび中間アミンが生成すると、蛍光/MS活性特性を有する標識(又はラベル)を導入し、以下の構造式Iの糖分子を提供するために第2のステップ(高速、最長で5分間)が実行される。本実施形態において提供されるように、末端単糖類残基が、残りの糖構造に、4−OH位を介して結合する、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)であることが示される。しかしながら、末端単糖類残基はGlcNAcである必要はない。デキストランラダーは、構造に6−OH位を介して結合する、グルコース単糖類末端を有していてもよい。加えて、末端単糖類残基は、4−OH位を介して結合することも可能である。デキストランラダーは、以下の式IIに例示されるように、残りの糖構造に、6−OH位を介して結合する任意のグルコース単糖類末端を有することが可能である。
【0037】
【化6】
式中、Rは、単糖単位又はグルコース残基であり得るが、R1は、−CH2CH2OHであり、かつR2は、FLR−MS機能性を構造に組み込み、以下の構造により例示される高速標識化試薬の部位である:
【0038】
【化7】
【0039】
本明細書において提供される方法は、高速標識化試薬で既にラベル化されたその他の分子と同じ光学的特性及びMS特性を有する高速標識化剤で、還元グリカンを標識化することを可能にする。換言すれば、高速標識化試薬の一級アミンで還元型アミノ化反応を実行することにより、吸光特性及び発光特性において、高速標識化剤(N−結合型分子)でラベル化された比較対象の分子と異なる、分子を生成することが可能である。リンカーは異なり得る(アミン対尿素)が、その結果、発色特性における変化が見られる。一級アミンを有する化合物で還元型アミノ化を実行し、次にアミンを高速標識化試薬で標識化することにより、光学的特性が維持される。
【0040】
図4Aは、本明細書に記載の方法により生成された、高速でラベル化されたデキストランラダーの光学的特性を示すが、その際に用いられた高速標識化試薬は、以下のものである:
【0041】
【化8】
【0042】
図4Bは、デキストランラダーが、同じ高速標識化試薬で生成された、高速でラベル化されたグリカンの蛍光特性と実質的に同じ蛍光特性を有することを示すが、その高速でラベル化されたグリカンは、以下に例示するものである:
【0043】
【化9】
【0044】
本方法は、全体的な極性における変化を通じて、グルコースホモポリマー(本明細書においては「デキストランラダー」と言及される)の相対的保持を調整するのを可能にする。例えば、a)エタノールアミン又はb)プロピルアミンによる還元型アミノ化を通じたデキストランラダーの標識化と、その後に行われる高速標識化試薬との反応の結果、異なる保持特性が得られる。このように、デキストランラダーの諸特性の中でも特にクロマトグラフ保持特性は、較正標準として調整することが可能である。
【0045】
したがって、本方法は、高速標識化ラベル化試薬でラベル化されたN−グリカンの化学的特性と類似の化学的特性を有する、デキストランラダーを生成することが可能である。
【0046】
実施例3において提案されている手順において提供されるように、上のようなグルコースホモポリマーの1つの実施形態は、エタノールアミンでの還元型アミノ化反応と、それに続く高速標識化試薬での標識化により、直ぐ下に示す、高速でラベル化されたエタノールアミノデキストランラダー(高速でラベル化されたデキストランラダーの実施形態)を生成することを含む:
【0047】
【化10】
【0048】
別の1つの実施形態では、実施例3において提案される手順におけるエタノールアミンを、プロピルアミンで置き換えることが可能である。その結果得られる、高速でラベル化されたプロピルアミノデキストラン(下図に示す)は、BEHアミド固定相で分離された際に、
図7Bに示すものとは異なる、
図7Aに示すようなクロマトグラフ保持値を示す。
【0049】
【化11】
【0050】
(実施例2)
高速でラベル化されたデキストランラダーの調製
デキストランの還元型アミノ化、カップリング手順
100mgのデキストラン5000を正確に計量し、8mLのバイアル瓶に入れる。次に、2800μLのDMSOを、8mLのバイアル瓶にピペットで移し、デキストランが溶解するまで攪拌する。次に実際に重量を測定して記録する。
【0051】
1200μLの氷酢酸を、8mLのバイアル瓶に添加し、次に、90.0mg(91.0mL)の再蒸留エタノールアミン(MW=61.08、d=1.012)を添加し、更に、128mgのシアノ水素化ホウ素ナトリウムを添加する。得られるスラリーを静かに混ぜ、ヒートブロック内で、磁気攪拌しながら3時間、70℃でインキュベートする。3時間のインキュベーション後、得られた反応物をヒートブロックから取り出し、40℃未満の温度まで冷やす。反応内容物を、8mLのバイアル瓶から容器自体の重量を計ってある50mLの遠心分離機に移し、40mLのACNを添加する。容器自体の重量を計って記録し、バイアル瓶を冷蔵庫に30分間入れておく。次に、混合物を4000RPMで5分間遠心分離にかけて、上澄みを他の容器に移す。ペレットを、40mLのACN中に再度懸濁させて、勢いよく渦をつくるように混ぜる。遠心分離するステップ、上澄みを移すステップ、及び再懸濁させるステップを、合計3回洗浄するまで繰り返す。30分間静置しておく必要はない。ペレットを、窒素蒸気下で20分間にわたり乾燥し、次にひと晩、室温かつ真空条件下で乾燥する。ペレットを計量し、最終的な回収量を決定する。最終重量、容器重量、及び回収重量を記録する。
【0052】
エタノールアミドでラベル化されたデキストランラダーを生成するための高速ラベル化の手順
本手順は、高速標識化試薬がモル濃度で100〜200倍の過剰状態で、高速標識化反応を実行するために設計されている。4.0±0.3mgのエタノールアミノデキストランを、50mMのHEPES 500μLの、pH=7.9中に溶解させる(水酸化ナトリウムを用いて遊離酸から滴定される)。300μLの無水のDMFを添加する。このデキストラン溶液を用いて、100±0.5mgの高速標識化試薬を溶解させる。室温で10分間、反応を進行させておく。定期的に(20〜30秒ごとに)、反応混合物をかき混ぜ/攪拌する。室温でのインキュベーション完了後、反応混合物を7.6mLのACNで希釈する。SPEカートリッジに入れる直前に、反応混合物を希釈するのが最も好ましい。
【0053】
HILIC及びSPEによるクリーンアップ
6mLの水と6mLの85% ACNで洗浄する。ACNで希釈した反応混合物を、それぞれ4.5mL(およその体積)の量の2つの部分にわけて、カートリッジに入れる。ギ酸:水:ACNが1:9:90の混合液6mLで3回洗浄する。pH調製しない200mMの酢酸アンモニウムのそれぞれ4mLの量3つで、5%のACNを希釈する。600μLずつ分配し、遠心分離真空蒸発により乾燥させる。
【0054】
この手順により、バッチごとに最大で約80標準収量の、エタノールアミノデキストラン中間体から調製されたラベル化されたデキストランラダーを結果としてもたらし得る。
【0055】
(実施例3)
高速でラベル化されたエタノールアミノデキストラン、高速でラベル化されたデキストランに対する実験条件と代表的なデータ。
高速でラベル化されたデキストランエタノールアミノのバッチ1〜3に対する実験条件、高速でラベル化されたデキストラン液体クロマトグラフィーが用いられて、実施例2で調製したようなラベル化されたデキストランラダーの蛍光及びMS特性を分析した。カラムは、体積比70%のHPLCグレードのアセトニトリル(ACN)/体積比30%のHPLCグレードの水で流した。カラムは、次に最初の注入を行う前に、移動相条件で均衡化させられる。直ぐ下に示す表2及び表3は、分析おいて用いられるHILICのUPLC/FLR/MS条件を提供する。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
図5A、5B、及び5Cは、調製され、ラベル化された(エタノールアミノ)デキストランラダーの3つのバッチのそれぞれに対する蛍光クロマトグラムを示す。
図6A、6B、及び6Cは、高速でラベル化されたデキストランラダーの各バッチに対して、対応する基準ピークイオン(BPI)クロマトグラムを示す。ラベル化されたグルコース単位(GU)種の質量が、表4に示されている。
【0059】
【表4】
【0060】
(実施例4)
クロマトグラフ保持値を、還元型アミノ化を通じて、一級アミンを有する化合物で調節すること
第2の高速でラベル化されたデキストランが、実施例2において提案されるエタノールアミンをプロピルアミンに置き換えて調製された。結果として得られる、高速でラベル化されたプロピルアミノデキストランのクロマトグラフィー保持値を、上に言及した高速でラベル化されたエタノールアミノデキストランと、以下に概要を示す実験条件にしたがって比較した:
カラムは、体積比70%のHPLCグレードのアセトニトリル(ACN)/体積比30%のHPLCグレードの水で流した。カラムは、次に最初の注入を行う前に、移動相条件で均衡化させられる。表5は、分析において用いられたHILIC UPLC/FLR条件を示す。
【0061】
【表5】
【0062】
図7A及び7Bは、BEHアミド2.1×50mmカラムを用いた場合の、高速でラベル化されたエタノールアミノデキストラン用に対する、高速でラベル化されたプロピルアミノデキストラン用蛍光クロマトグラムを示す。
【0063】
予言的実施例5
還元糖類への、多官能性の組み込み
より広く言えば、本方法は、別々のラベル化部分(本明細書においては、「標識」または「ラベル」とも呼ぶ)を、1つは還元型アミノ化反応を介して、別の1つは高速標識化処理により組み込むことを通じて、還元グリカン及び糖類に、ある化学的性質を付与することが可能なものである。
【0064】
本方法の実施形態では、ストレプトアビジンプルダウンを介してサンプルの基質から、2回ラベル化されたN−グリカンを生成し、次に高速標識化試薬を介して検出して、蛍光の付与及び/又は電離の効率性向上を可能にするものである。以下に示す、この「2回ラベル化された」糖類は、蛍光性の高い、MS活性ラベルとともに、ビオチンラベルを有することが可能である。直ぐ下に示す1つの実施形態では、アミノビオチン分子が、還元型アミノ化反応に使用され得るが、還元的にアミノ化された糖類が、高速で標識化された反応を介してラベル化され得るようになっている。
【0065】
【化12】
【0066】
1つの実施形態では、ちょうどグリカンをアミノベンザミドで還元的にアミノ化し、その後で、高速標識化試薬でラベル化するのに本方法が適用された場合に可能となるように、1種類以上の蛍光団/発色団を用いて、単一の糖類種について複数波長検知を可能にする。
【0067】
【化13】
【0068】
本方法はまた、免疫親和性濃縮又は免疫をベースとする検出が可能になるようにエピトープ標識で糖類/グリカンがラベル化されるのを可能にすることもできる。1つの特定の実施形態では、血球凝集素(HA)エピトープ標識(YPYDVPDYAの配列のペプチド)で糖類が還元的にアミノ化され、次に高速標識化試薬でラベル化され得る。
【0069】
【化14】