(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
パイロット油の圧力であるパイロット圧に応じて複数の切換位置へ切換可能な油圧切換弁に付加される前記パイロット圧を開度の設定によって変更可能な方向切換弁が、所定の開度である第1位置と、前記第1位置に対応する所定の開度よりも大きい開度である第2位置との切り換わりを検出するステップと、
前記パイロット圧の変化率を検出するステップと、
前記パイロット圧の変化率に基づいて、前記方向切換弁を前記第2位置で保持する否かを判定するステップと、
前記変化率が予め定められた判定値よりも小さいとき、前記方向切換弁を前記第2位置から前記第1位置へ切り換えるステップと、
前記変化率が前記判定値よりも大きいとき、前記方向切換弁を前記第2位置に保持するステップと、
前記方向切換弁の前記第2位置での保持が検出され、且つ前記パイロット圧が予め定められた所定圧力未満に低下した時間である第2経過時間を計測するステップと、
前記第2経過時間が予め定められた第2所定時間に達すれば、前記方向切換弁を前記第2位置から前記第1位置へ切り換えるステップと、
前記第2経過時間が予め定められた第2所定時間に達していない場合は、前記方向切換弁を前記第2位置に保持するステップと、
を備えている作業機の油圧システムの制御方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態に係る作業機の油圧システムの制御方法、作業機の油圧システム及びこの油圧システムを備えた作業機について、適宜図面を参照しながら説明する。
[第1実施形態]
まず、
図8及び
図9を参照し、本発明の実施形態による作業機1の全体の構成を説明する。
【0013】
図8及び
図9では、本実施形態による作業機1の一例としてトラックローダを示しているが、本実施形態係る作業機はトラックローダに限定されず、例えば、トラクタ、スキッドステアローダ、コンパクトトラックローダ、バックホー等であってもよい。尚、本実施形態において、作業機1の運転席に着座した運転者の前側(
図8に示す矢印Fが指す方向)を前方、運転者の後側(
図8に示す矢印Rが指す方向)を後方、運転者の左側(
図8の紙面に向かって手前側)を左方、運転者の右側(
図8の紙面に向かって奥側)を右方として説明する。
【0014】
図8及び
図9に示すように、本実施形態に係る作業機1は、機体フレーム(機体)2と、この機体2に装着した作業装置3と、機体2を支持する走行装置4とを備えている。機体2の上部であって当該機体2の前部には、キャビン5が搭載されている。キャビン5の後部は、機体2の支持ブラケット11に支持されており、支持軸12回りに揺動自在である。キャビン5の前部は、機体2の前部で支持可能である。
【0015】
キャビン5内には運転席13が設けられている。運転席13の一方側(例えば、左側)には、走行装置4を操作するための走行用操作装置14が配置されている。
走行装置4は、クローラ式走行装置により構成されている。走行装置4は、機体2の左側の下方及び機体2の右側の下方に設けられている。走行装置4は、油圧駆動式の走行モータ21L,21R(ホイルモータ)の駆動力によって、走行可能である。
【0016】
作業装置3は、左側ブーム22Lと右側ブーム22Rからなる一対のブーム22と、該ブーム22の先端に装着したバケット23(作業具)とを備える。左側ブーム22Lは、機体2の左側に配置されている。右側ブーム22Rは、機体2の右側に配置されている。左側ブーム22Lと右側ブーム22Rとは、左側ブーム22Lと右側ブーム22Rの間に設けられた連結体(図示せず)によって相互に連結されている。左側ブーム22L及び右側ブーム22Rは、それぞれ第1リフトリンク24及び第2リフトリンク25に支持されている。左側ブーム22L及び右側ブーム22Rの基部側と機体2の後下部との間には、複動式油圧シリンダからなるリフトシリンダ26が左側ブーム22L及び右側ブーム22Rに対応して設けられている。リフトシリンダ26を同時に伸縮させることにより左側ブーム22L及び右側ブーム22Rが同時に上下に揺動動作する。左側ブーム22L及び右側ブーム22Rの先端側には、それぞれ装着ブラケット27が、横軸回りに回動自在に枢支連結され、装着ブラケット27にバケット23の背面側が取り付けられている。
【0017】
また、装着ブラケット27と左側ブーム22L及び右側ブーム22Rの先端側中途部との間には、複動式油圧シリンダからなるチルトシリンダ28が、左側ブーム22L及び右側ブーム22Rに対応して介装されている。チルトシリンダ28の伸縮によってバケット23が揺動動作(スクイ・ダンプ動作)する。
バケット23は装着ブラケット27に着脱自在である。装着ブラケット27は、バケット23を取り外せば、各種のアタッチメント(油圧アクチュエータを有する油圧駆動式の作業具)を取り付けることができ、掘削以外の各種の作業(又は他の掘削作業)を行えるように構成されている。
【0018】
機体(車体)2の底壁6上の後側にはエンジン29が設けられ、機体2の底壁6上の前側には燃料タンク30と作動油タンク31とが設けられている。
エンジン29の前方には、走行モータ21L,21Rを駆動する油圧駆動装置32が設けられている。さらに、油圧駆動装置32の前方には、油圧ポンプからなる第1〜3ポンプP1,P2,P3が設けられている。機体2には、作業装置3用のコントロールバルブ33(油圧制御装置)が設けられている。
【0019】
次に、本実施形態に係る作業機1の油圧システムについて説明する。
図1は、本実施形態に係る作業機1の走行系の油圧システムである油圧システムの一部を示す図である。
油圧ポンプである第1〜3ポンプP1,P2,P3は、エンジン29の動力によって駆動される定容量型のギヤポンプによって構成されている。
【0020】
第1ポンプP1(メインポンプ)は、リフトシリンダ26、チルトシリンダ28又はブーム22の先端側に取り付けられるアタッチメントの油圧アクチュエータを駆動するために使用される。第2ポンプP2(サブポンプ)は、ブーム22の先端側に取り付けられる油圧アタッチメントの油圧アクチュエータが大容量を必要とするものである場合に、この油圧アクチュエータに供給する作動油の流量を増量するために使用される。第3ポンプP3(パイロットポンプ、チャージポンプ)は、主として制御信号としてのパイロット油の圧力(パイロット圧)を供給するために使用される。
【0021】
さて、
図1に示すように、第3ポンプP3の吐出ポートには、該第3ポンプP3から吐出される吐出油(パイロット油)を流通させる吐出油路100aが接続されている。尚、
図1では、第1ポンプP1及び第2ポンプP2に接続された油路は省略されている。
第3ポンプP3の吐出油路100aの終端には、後述する油圧切換弁に付加されるパイロット圧を開度の設定によって変更可能な方向切換弁である2速切換弁64が接続されている。吐出油路100aの下流側には、第3ポンプP3の最高圧力を設定するリリーフ弁52が接続されている。
【0022】
本実施形態に係る作業機1の油圧システムは、HSTモータ257と、油圧切換弁263とを有する。HSTモータ257は、例えばカムモータ(ラジアルピストンモータ)で構成されている。このHSTモータ257は、稼動時における容量(モータ容量)の大きさを変更できる容量可変型であって、モータ容量を変更することによって出力軸の回転やトルクを変更することができる。詳しくは、HSTモータ257は、第1モータ257Aと、第2モータ257Bとを有している。第1モータ257A及び第2モータ257Bの両方に作動油を供給することにより、モータ容量は大きくなり、HSTモータ257は1速となる。また、第1モータ257Aと第2モータ257Bとのいずれかに作動油を供給することによって、モータ容量は小さくなり、HSTモータ257は2速となる。
【0023】
油圧切換弁263は、パイロット油の圧力であるパイロット圧に応じて複数の切換位置に切換可能な油圧切換弁であって、HSTモータ257を1速或いは2速に切り換える弁であり、第1切換位置63a、第2切換位置63b、及び中立位置63cの3つの位置に切り換え可能な三位置切換弁である。詳しくは、油圧切換弁263の受圧部264に作用するパイロット油の圧力が、予め定められた所定圧力である設定圧に満たない場合、油圧切換弁263は、バネによって第1切換位置63aに保持される。油圧切換弁263が第1切換位置63aである場合、第1モータ257A及び第2モータ257Bの両方に作動油が供給され、HSTモータ257は1速となる。油圧切換弁263の受圧部264に作用するパイロット油の圧力が、設定圧以上である場合、油圧切換弁263は、中立位置63cを経て第2切換位置63bに切り換えられる。油圧切換弁263が第2切換位置63bである場合、第1モータ257Aだけに作動油が供給され、HSTモータ257は2速となる。
【0024】
上述した油圧切換弁263と2速切換弁(方向切換弁)64とは、第2油路100xにより接続されている。第2油路100xにおいて油圧切換弁263と2速切換弁64との間には、第2絞り部81が設けられている。
2速切換弁64を第2位置64bに切り換えると、油圧切換弁263の受圧部264にパイロット圧が加わる。受圧部264に加わるパイロット圧が設定圧に達すると、油圧切換弁263は、第1切換位置63aから中立位置63cを経て第2切換位置63bへ切り換わる。
【0025】
第2絞り部81は、第2油路100xを流れるパイロット油の量を制限するものであり、この第2絞り部81によって2速切換弁64から油圧切換弁263に向かうパイロット圧を低減させる。このように、第2絞り部81は、油圧切換弁263に付与されるパイロット圧の変化速度を低減させるので、油圧切換弁263の切換え速度を低下させることができる。その結果、油圧切換弁263が急激に切換えられることを回避することができ、HSTモータ257を1速から2速に切り換える際の衝撃を緩和することができる。
【0026】
2速切換弁64は、励磁により第1位置64aと第2位置64bとに切り換え可能な二位置切換弁からなる。2速切換弁(方向切換弁)64は、第2位置64bに切り換えられたときには、第2油路100xを介して第3ポンプP3の吐出油路100a(第1油路100aということがある)と油圧切換弁263とを接続する。そして、第3ポンプP3から吐出したパイロット油が2速切換弁64及び第2油路100xを通って、油圧切換弁263の受圧部264に作用する。油圧切換弁263は、2速切換弁64から油圧切換弁263へ至るパイロット油の圧力(パイロット圧)により、第2切換位置63bに切り換えられる。一方、第1位置64aに切り換えられたときには、作動油タンク31と油圧切換弁263とを接続して、油圧切換弁263に作用するパイロット油を作動油タンク31へ排出する。これにより、第2油路100xのパイロット圧が低下し、油圧切換弁263は第1切換位置63aへ切り換わる。
【0027】
上述のように、本実施形態では、第2油路100xのパイロット圧に基づいて2速切換弁(方向切換弁)64を制御する。
図1に示すように、第2油路100xであって、油圧切換弁263の受圧部264と合流部VXとの間には、パイロット圧を検出する圧力検出部300が接続されている。圧力検出部300は、圧力計(圧力センサ)から構成されている。圧力検出部300は、CPU(Central Processing Unit)等から構成された制御部301に接続されている。
【0028】
制御部301は、当該制御部301に接続された操作部材302及び圧力検出部300が検出したパイロット圧に基づき、上述した2速切換弁64の切り換えを制御する。
操作部材302は、HSTモータ257の1速或いは2速を設定するスイッチであって、作業機1の走行速度の切換を指示するものである。操作部材302は、例えば、揺動自在なシーソ型スイッチ、スライド自在なスライド型スイッチ、或いは、押圧自在なプッシュ型スイッチで構成されている。シーソ型スイッチにあっては、一方側に揺動することにより1速、他方側に揺動することにより2速に設定することができる。スライド型スイッチにあっては、一方側にスライドすることにより1速、他方側にスライドすることにより2速に設定することができる。プッシュ型スイッチにあっては、押圧を行う毎に1速、2速の順に切り換わる。
【0029】
次に、制御部301による制御について詳しく説明する。
制御部301は、操作部材302が操作されてHSTモータ257を1速にする操作がなされたとき、方向切換弁64を第1位置64aにする指令(以下、「1速指令」ということがある)を方向切換弁64に出力する。この1速指令によって方向切換弁64が第1位置64aに設定されると、第2油路100xのパイロット圧が設定値未満(設定圧未満)であれば、油圧切換弁263は第1切換位置63aに設定され、HSTモータ257が1速となる。
【0030】
また、制御部301は、操作部材302が操作されてHSTモータ257を2速にする操作がなされたとき、方向切換弁64を第2位置64bにする指令(以下、2速指令ということがある)を方向切換弁64に出力する。この2速指令によって方向切換弁64が第2位置64bに設定されると、第2油路100xを介して第3ポンプP3の吐出油路100aと油圧切換弁263とが接続される。このとき、第3ポンプP3から吐出したパイロット油が2速切換弁64及び第2油路100xを通って、油圧切換弁263の受圧部264に作用する。
【0031】
2速切換弁(方向切換弁)64は、第2位置64bに切り換えられたときには、油圧切換弁263は、2速切換弁64から油圧切換弁263へ至るパイロット油の圧力(パイロット圧)により、第2切換位置63bに切り換えられる。この条件で、圧力検出部300で検出される第2油路100xのパイロット圧が設定値以上(設定圧以上)となれば、油圧切換弁263が第2切換位置63bに設定され、HSTモータ257が2速となる。
【0032】
さらに、制御部301は、方向切換弁64を第2位置64bにする指令を出力している状態、つまり方向切換弁64へ2速指令を出力している状態において、圧力検出部300で検出されたパイロット圧が、予め定められた所定圧力を超えた後に当該所定圧力未満(設定値未満)となった場合は、1速指令を方向切換弁64に出力する。具体的に、制御部301が2速指令を出力した後に第2油路100xのパイロット圧が設定圧以上に上昇し、その後第2油路100xのパイロット圧が設定圧未満に低下した場合、制御部301は、方向切換弁64に1速指令を出力する。これによって、油圧切換弁263は、パイロット圧が予め定められた所定圧力を超えたときに第2切換位置63bに設定され、パイロット圧が設定圧未満に低下したときに第1切換位置63aに設定される。
【0033】
また、2速指令の出力後に第2油路100xのパイロット圧が設定圧以上に上昇せず、設定圧未満の状態が所定時間続いた場合、制御部301は、方向切換弁64に1速指令を出力する。このとき、油圧切換弁263は、方向切換弁64の状態にかかわらず、パイロット圧が設定圧未満であるときの位置である第1切換位置63aから動かない。
つまり、制御部301は、2速指令の出力後に第2油路100xにおけるパイロット圧を監視する。第2油路100xにおけるパイロット圧が設定値以上であれば、油圧切換弁263は、方向切換弁64に対する2速指令に従って、第2切換位置63bに設定されてHSTモータ257は2速の状態にある。しかし、第2油路100xにおけるパイロット圧が設定値未満の場合は、制御部301が2速指令を出力し方向切換弁64が第2位置64bに設定されているのにも関わらず、油圧切換弁263は第2切換位置63bに設定されていない。このとき、油圧切換弁263は中立位置63cに設定されている可能性があるので、制御部301は、方向切換弁64に2速指令を出力後に第2油路100xにおけるパイロット圧が設定値未満である場合には、2速指令の出力を停止して1速指令を出力する。
【0034】
したがって、制御部301が2速指令を出力している状況下で何らかの事情によって第2油路100xにおけるパイロット圧が低下した場合には、1速指令を方向切換弁64に出力することにより、油圧切換弁263が中立位置63cで維持されることを防止している。例えば、制御部301が2速指令を出力している状態で、エンジン回転数の急速な低下、ヒッチシリンダの急速な使用時、又は作動油の極端な高温化などによって第2油路100xにおけるパイロット圧が一時的に低下した場合、望まれない中立位置63cへの切り換えを防止することができる。
【0035】
以下、
図2〜
図4を参照し、上述の制御部301による油圧システムの制御方法について更に詳しく説明する。
制御部301は、方向切換弁である2速切換弁64を、所定の開度である1速(第1位置)から、1速よりも大きい開度である2速(第2位置)に切換えると共に、油圧切換弁263へ付加されるパイロット圧に基づいて2速切換弁64を2速で保持するか、2速から1速へ戻す、つまり1速へ切換えるかを判断し、2速切換弁64の切換えを行う。
【0036】
制御部301は、コンピュータプログラムによって動作するものであり、各々コンピュータプログラムで構成された切換検出部320、第1計測部321、第1時間判定部322、圧力判定部323、保持部324、第1切換部325、位置検出部326、第2計測部327、第2時間判定部328、及び第2切換部329を備え、これらの動作を、後述する
図2に示すフローチャートに基づいて制御する。
【0037】
制御部301は、操作部材302が操作されてHSTモータ257を1速にする操作がなされたとき、方向切換弁64に1速指令を出力して方向切換弁64を所定の開度である第1位置64aへ切り換え、操作部材302が操作されてHSTモータ257を2速にする操作がなされたとき、方向切換弁64に2速指令を出力して方向切換弁64を前記第1位置に対応する所定の開度よりも大きい開度である第2位置64bへ切り換える。
【0038】
切換検出部320は、方向切換弁64が、所定の開度である第1位置64a、又は第1位置64aに対応する所定の開度よりも大きい開度である第2位置64bに切り換えられたことを検出するものであり、制御部301が1速指令を出力しているか、2速指令を出力しているかを検出する。切換検出部320は、この検出によって、方向切換弁64が第1位置である第1位置64aから第2位置である第2位置64bへ切り換えられたことを検出すると共に、方向切換弁64が第2位置64bから第1位置64aへ切り換えられたことを検出する。切換検出部320は、方向切換弁64が第1位置64aから第2位置64bへ切り換えられたことを検出すると、第2位置64bへ切り換えられたことを示す2速切換信号を出力し、方向切換弁64が第2位置64bから第1位置64aへ切り換えられたことを検出すると、第1位置64aへ切り換えられたことを示す1速切換信号を出力する。
【0039】
第1計測部321は、方向切換弁64が第2位置64bへ切り換えられてからの経過時間、つまり方向切換弁64の第2位置64bでの経過時間である第1経過時間を計測するタイマー(タイマーA)である。第1計測部321は、切換検出部320が出力した2速切換信号を取得すると第1経過時間の計測を開始する。
第1時間判定部322は、予め定められた長さの時間である第1所定時間を保持すると共に、第1計測部321で計測された第1経過時間を取得し、第1経過時間が予め定められた第1所定時間に達したか否かを判定するものである。第1所定時間は、制御部301が2速指令を出力してから、方向切換弁64が第2位置64bへ切り換わり、油圧切換弁263が第2切換位置63bへ切り換わるまでに要する時間、つまり、2速指令の出力から第2切換位置63bへの切り換えまでの時間差に基づいて決められる長さの時間であり、本実施形態では、例えば800ms(ミリ秒)である。
【0040】
なお、2速指令の出力から第2切換位置63bへの切り換えまでの時間差は、パイロット油の温度の高低によっても変化するので、第1所定時間は、800msに限らず油圧システムの運転の状態に基づいて異なる長さとなってもよい。例えば、外気温が氷点下となるなどによって、パイロット油の温度が下がり粘度が大きくなると、第1所定時間は800msよりも長い方が好ましい場合がある。逆に、パイロット油の温度によっては、第1所定時間は800msよりも短い方が好ましい場合もある。従って、第1所定時間は、2速指令の出力から第2切換位置63bへの切り換えまでの時間差と、パイロット油の温度とに基づいて決められる時間ともいえる。
【0041】
圧力判定部323は、上述の圧力検出部300などの圧力計で計測されたパイロット圧を取得し、取得したパイロット圧が予め定められた所定圧力に達しているか否かを判定するものである。圧力判定部323は、予め定められた所定圧力として、油圧切換弁263を第2切換位置63bへ切り換えると共に、油圧切換弁263を第2切換位置63bに保持するのに必要な圧力である1.2MPaを保持している。
【0042】
保持部324は、上記第1経過時間が上記第1所定時間に達する以前にパイロット圧が所定圧力に達していれば方向切換弁64の第2位置64bを保持するものである。保持部324は、方向切換弁64が第2位置64bに切り換えられていることを示すフラグ(第2位置フラグ)を有している。保持部324は、第1時間判定部322による判定結果と圧力判定部323によって取得されたパイロット圧とを取得し、第1経過時間が第1所定時間である800ms未満であり、且つパイロット圧が1.2MPa以上である場合、方向切換弁64が第2位置64bに切り換えられていることを示すフラグ(第2位置フラグ)を有効(オンON)に設定すると共に、方向切換弁64を第2位置64bに保持する。さらに、保持部324は、方向切換弁64が第1位置64aへ切り換えられれば、第2位置フラグを無効(オフOFF)に設定する。
【0043】
第1切換部325は、第1経過時間が第1所定時間に達する以前にパイロット圧が所定圧力に達していなければ、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換えるものである。第1切換部325は、圧力判定部323によって取得されたパイロット圧と第1時間判定部322による判定結果とを取得し、パイロット圧が1.2MPa未満であり、第1時間判定部322による判定結果において第1経過時間が第1所定時間である800ms以上である場合、方向切換弁64に1速指令を出力して、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換える。
【0044】
位置検出部326は、方向切換弁64が第2位置64bで保持されていることを検出するものであり、保持部324が有する第2位置フラグが有効(ON)であるか無効(OFF)であるかを検出し、この第2位置フラグに基づいて方向切換弁64が第2位置64bで保持されていることを検出するものである。
第2計測部327は、方向切換弁64の第2位置64bでの保持が検出され、且つパイロット圧が所定圧力よりも低下したとき、つまり圧力判定部323が用いる所定圧力である1.2MPa未満となったときに、当該パイロット圧が所定圧力である1.2MPa未満に低下してからの経過時間(つまり、パイロット圧が所定圧力よりも低下した時間)である第2経過時間を計測するタイマー(タイマーB)である。方向切換弁64の第2位置64bでの保持が検出されているので、パイロット圧は、一旦所定圧力(1.2MPa)以上となっている。つまり、第2計測部327は、一旦所定圧力(1.2MPa)以上となったパイロット圧が所定圧力未満となっている時間を計測する。
【0045】
第2時間判定部328は、計測された第2経過時間が、第1所定時間とは異なり予め定められた長さの時間である第2所定時間に達したか否かを判定するものであり、第2所定時間を保持すると共に、第2計測部327で計測された第2経過時間を取得し、第2経過時間が予め定められた第2所定時間に達したか否かを判定する。第2所定時間は第1所定時間とは異なる時間であり、第2所定時間は、外乱などによりパイロット圧が一時的に低下して所定圧力(1.2MPa)未満となったときに、当該低下したパイロット圧が所定圧力に復帰するのに要する時間に基づいて決められる長さの時間であり、本実施形態では、例えば500ms(ミリ秒)である。
【0046】
なお、外乱などにより低下したパイロット圧が所定圧力に復帰するのに要する時間は、パイロット油の温度の高低によっても変化するので、第2所定時間は、500msに限らず油圧システムの運転の状態に基づいて異なる長さとなってもよい。例えば、外気温が氷点下となるなどによって、パイロット油の温度が下がり粘度が大きくなると、第2所定時間は500msよりも長い方が好ましい場合がある。逆に、パイロット油の温度によっては、第2所定時間は500msよりも短い方が好ましい場合もある。本実施形態では、第2所定時間は、第1所定時間よりも短い時間に設定されている。その理由は、第2経過時間を計測する第2計測部327が、方向切換弁64の第2位置64bでの保持が少なくとも一度検出された後に動作するため、パイロット油の暖機が僅かでも進んでパイロット油の圧力伝達が円滑になっていると考えられるからである。
【0047】
第2切換部329は、第2経過時間が第2所定時間に達すれば方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換えるものであり、方向切換弁64の第2位置64bでの保持が検出され、且つパイロット圧が所定圧力未満となり、さ
らに第2経過時間が第2所定時間に達した(第2所定時間以上となった)ときに、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換える。第2切換部329は、圧力判定部323によって取得されたパイロット圧、保持部324が有する第2位置フラグ、及び第2時間判定部328による判定結果を取得し、パイロット圧が1.2MPa未満となったことを示し、第2位置フラグが有効(ON)であり、且つ第2時間判定部328による判定結果が、第2経過時間が第2所定時間である500ms以上である場合、方向切換弁64に1速指令を出力して、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換える。
【0048】
図2を参照しながら、上述の構成を有する制御部301の動作について説明する。
図2は、本実施形態に係る油圧システムの制御方法のフローを示す図である。
制御部301は、操作部材302の操作に従って1速指令又は2速指令を出力するが、
図2のフローチャートの最初(START)では、操作部材302がHSTモータ257を1速に設定する位置にあり、制御部301が1速指令を出力している。従って、方向切換弁64は第1位置64aにある。
【0049】
作業機1のオペレータなどによって操作部材302が操作されると、制御部301は、切換検出部320によって、1速指令を出力しているか、2速指令を出力しているかを検出する(ステップS100)。
切換検出部320が1速指令を検出していれば(ステップS100:No)、方向切換弁64は第1位置64aにあり、2速指令を検出していれば(ステップS100:Yes)、方向切換弁64は第1位置64aから第2位置64bに切り換えされた、又は第2位置64bにあることがわかる。
【0050】
制御部301は、ステップS100において切換検出部320が1速指令を検出していれば(ステップS100:No)、
図2のフローに示す制御を終了する。
ステップS100において切換検出部320が2速指令を検出していれば(ステップS100:Yes)、処理はステップS110へ遷移する。ステップS110において切換検出部320は、2速切換信号を第1計測部321へ出力し、第1計測部321は、出力された2速切換信号を取得する。第1計測部321は、2速切換信号を取得すると、第1経過時間の計測を開始する(ステップS110)。
【0051】
これによって、第1計測部321は、方向切換弁64が第2位置64bへ切り換えられてからの経過時間である第1経過時間の計測を開始し、処理はステップS120へ遷移する。
圧力判定部323は、ステップS100において切換検出部320が2速指令を検出していればステップ(S100:Yes)、圧力検出部300で計測されたパイロット圧を取得し、取得したパイロット圧が予め定められた所定圧力である1.2MPa以上であるか1.2MPa未満であるかを判定する(ステップS120)。
【0052】
位置検出部326は、ステップS120でパイロット圧が所定圧力(1.2MPa)未満であると判定されると(ステップS120:No)、保持部324が有する第2位置フラグが有効(ON)であるか無効(OFF)であるかを検出する(ステップS130)。
ステップS130において位置検出部326が、第2位置フラグが無効(OFF)であることを検出すると(ステップS130:No)、制御部301は、第1計測部321が計測した第1経過時間を参照し、第1経過時間が第1所定時間である800ms以上であるか800ms未満であるかを判定する(ステップS140)。
【0053】
ステップS140において第1経過時間が800ms未満であれば(ステップS140:No)、処理はステップS120に戻って、圧力判定部323が、圧力検出部300で計測されたパイロット圧を再び取得し、取得したパイロット圧が予め定められた所定圧力である1.2MPa以上であるか1.2MPa未満であるかを判定する(ステップS120)。
【0054】
保持部324は、ステップS120でパイロット圧が所定圧力(1.2MPa)以上であると判定されると(ステップS120:Yes)、保持部324が有する第2位置フラグを有効(ON)に設定する(ステップS150)。
第1計測部321は、ステップS150で第2位置フラグが有効(ON)に設定されると、第1経過時間の計測を停止し、すでに計測した第1経過時間を初期値(例えば、ゼロ0)に設定する(ステップS160)。
【0055】
ステップS160で第1経過時間が初期値に設定(リセット)されると、圧力判定部323が、圧力検出部300で計測されたパイロット圧を三たび取得し、取得したパイロット圧が予め定められた所定圧力であるか否かを判定する(ステップS120)。
この後、ステップS120においてパイロット圧が所定圧力(1.2MPa)以上であると判定され続ける(ステップS120:Yes)かぎり、ステップS120から、ステップS150及びステップS160を経てステップS120へ戻るループが繰り返される。
【0056】
ここで、パイロット圧が低下して所定圧力(1.2MPa)未満であると判定されると(ステップS120:No)、位置検出部326は、保持部324が有する第2位置フラグが有効(ON)であるか無効(OFF)であるかを検出する(ステップS130)。
ステップS130で第2位置フラグが有効(ON)であると検出されると(ステップS130:Yes)、制御部301は、第2計測部327を動作させて第2経過時間の計測を開始する(ステップS170)。
【0057】
これによって、第2計測部327は、方向切換弁64の第2位置64bでの保持が検出され、且つパイロット圧が1.2MPa未満となったときに、当該パイロット圧が1.2MPa未満に低下してからの経過時間である第2経過時間の計測を開始する。
ステップS170で第2計測部327が動作を開始すると、第2時間判定部328は、第2経過時間を取得し、第2経過時間が第2所定時間(500ms)以上であるか第2所定時間未満であるかを判定する(ステップS180)。
【0058】
ステップS180で第2経過時間が第2所定時間未満であれば(ステップS180:No)、制御部301は処理をステップS120に戻す。
このとき、パイロット圧が回復(上昇)して所定圧力(1.2MPa)以上となり、圧力判定部323が四たび取得したパイロット圧が予め定められた所定圧力である1.2MPa以上であれば(ステップS120:Yes)、処理はステップS150へ遷移するが、第2位置フラグはすでに有効(ON)であり、処理はさらにステップS160へ遷移する。
【0059】
ここで、第2計測部327は、第2経過時間の計測を停止し、すでに計測した第2経過時間を初期値(例えば、ゼロ0)に設定する(ステップS160)。
その後、処理がステップS120へ戻ったときにパイロット圧が所定圧力である1.2MPa未満であれば、処理は、ステップS120、ステップS130及びステップS170を経てステップS180へ戻る。
【0060】
第2経過時間が第2所定時間未満であれば(ステップS180:No)、上述のとおり処理はステップS120へ戻るが、パイロット圧が継続的に所定圧力である1.2MPa未満であれば、ステップS120から、ステップS130、ステップS170及びステップS180を経てステップS120へ戻るループが繰り返され、第2経過時間が累積されてゆく。
【0061】
ステップS180において、第2経過時間が第2所定時間である500ms以上であると判定されると(ステップS180:Yes)、制御部301は、1速指令を出力し、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換える(ステップS190)。
ステップS190に続いて、制御部301は、保持部324が有し、有効(ON)となっている第2位置フラグを、方向切換弁64が第1位置64aにあることを示す無効(OFF)に設定する(ステップS200)。
【0062】
ステップS190及びS200の後又は同時に、第2計測部327は、第2経過時間の計測を停止し、すでに計測した第2経過時間を初期値(例えば、ゼロ0)に設定する(ステップS210)。
図3を参照し、上述の制御フローについて説明を補足する。
図3は、本実施形態に係る油圧システムの制御方法におけるパイロット圧の時系列変化のグラフを示す図である。
図3の縦軸はパイロット圧を示し、横軸は時間を示す。
図3に実線L1で示すパイロット圧は、所定圧力である1.2MPa以上となったり未満となったりといった上下を数回繰り返して、最終的には大きく低下している。この圧力変化について、上述の制御フローを参照しながら説明する。
【0063】
実線L1で示すパイロット圧は、時間0において所定圧力である1.2MPa以上であるので、制御部301が2速指令を出力して方向切換弁64は第2位置64bであり、保持部324の第2位置フラグは有効(ON)となっている。このとき、
図2の制御フローにおいて、処理は、ステップS120から、ステップS150及びステップS160を経てステップS120へ戻るループが繰り返される。
【0064】
その後、何らかの原因でパイロット圧が所定圧力である1.2MPa未満となっている。このとき、
図2の制御フローにおいて、処理は、ステップS120から、ステップS130、ステップS170及びステップS180を経てステップS120へ戻るループが繰り返され、第2経過時間(タイマーB)が累積されてゆく。
図3において、パイロット圧が1.2MPa未満となった1度目は、第2経過時間(タイマーB)が220msとなっ
たところでパイロット圧が所定圧力である1.2MPa以上となり、処理は、ステップS120から、ステップS150及びステップS160を経てステップS120へ戻るループへ戻っている。2度目は、第2経過時間(タイマーB)が250msとなったところでパイロット圧が所定圧力である1.2MPa以上となり、処理は、ステップS120から、ステップS150及びステップS160を経てステップS120へ戻るループへ戻っている。
【0065】
しかし、3度目は、パイロット圧が所定圧力である1.2MPa未満となって、ステップS120から、ステップS130、ステップS170及びステップS180を経てステップS120へ戻る処理が繰り返され、ステップS180において、累積された第2経過時間(タイマーB)が500ms以上であると判定される(時間T1)。このとき、上述のとおりステップS190〜ステップS210を経て、制御部301は1速指令を出力する。この1速指令によって、方向切換弁64は第1位置64aに設定され、パイロット圧は急激に低下する。
【0066】
ここで、上述の説明とは関係なく
図2のフローチャートの最初(START)に戻る。操作部材302はHSTモータ257を1速に設定する位置にあり、制御部301が1速指令を出力して方向切換弁64は第1位置64aにある。この後、作業機1のオペレータなどが操作部材302を操作し、操作部材302がHSTモータ257を2速に設定する位置に移動すると、ステップS100において2速指令の出力が検出され、さらにステップS110において第1経過時間の計測が開始される。
【0067】
このとき、ステップS120においてパイロット圧が所定圧力である1.2MPa以上であると判定されれば(ステップS120:Yes)、処理がステップS170へ遷移して上述の制御が実行されるが、反対にステップS120においてパイロット圧が所定圧力である1.2MPa未満であると判定されれば(ステップS120:No)、処理はステップS130へ遷移する。しかし、第2位置フラグは、未だ一度も有効(ON)となっておらず無効(OFF)のままであり(ステップS130:No)、処理は、ステップS140へ遷移する。ステップS140において第1経過時間が第1所定時間である800ms未満であり(ステップS140:No)、パイロット圧が所定圧力である1.2MPa未満であり続ければ(ステップS120:No)、ステップS140から、ステップS120及びステップS130を経てステップS140へ戻るループが繰り返され、第1経過時間が累積されてゆく。
【0068】
パイロット圧が所定圧力である1.2MPa以上とならず(ステップS120:No)、ステップS140で第1経過時間が第1所定時間(800ms)以上であると判定されれば(ステップS140:Yes)、処理はステップS190へ遷移して、制御部301は1速指令を出力し、操作部材302はHSTモータ257を1速に設定する位置に戻る。その後、処理はステップS200へ遷移して、第2位置フラグは無効(OFF)を維持する。続くステップS210では第1経過時間の計測が停止してリセットされ、
図2に示すフローは終了する。
【0069】
図4を参照し、上述の制御フローについて説明を補足する。
図4は、本実施形態に係る油圧システムの制御方法におけるパイロット圧の時系列変化のグラフを示す図である。
図4の縦軸はパイロット圧を示し、横軸は時間を示す。
図4に実線L2で示すパイロット圧は、時間T2で上昇を始め、時間T3で所定圧力である1.2MPa以上となっている。この圧力変化について、上述の制御フローを参照しながら説明する。
【0070】
図2を参照し、時間T2において作業機1のオペレータなどが操作部材302を操作し、操作部材302がHSTモータ257を2速に設定する位置に移動すると、ステップS100において制御部301は2速指令を出力し、方向切換弁64は第2位置64bに設定される。
実線L2で示すパイロット圧は、方向切換弁64が第2位置64bに設定された時間T2から上昇を始める。このとき、
図2の制御フローにおいて、処理は、ステップS120から、ステップS130及びステップS140を経てステップS120へ戻るループが繰り返される。
【0071】
その後、パイロット圧は、時間T3で所定圧力である1.2MPa以上となっている。このとき、時間T3は第1所定時間(800ms)未満であるので(ステップS140:No)、続くステップS120で、パイロット圧が1.2MPa以上であると判定され(ステップS120:Yes)、処理は、既に説明したステップS120から、ステップS150及びステップS160を経てステップS120へ戻るループへ遷移する。
【0072】
しかし、
図4に破線で示すパイロット圧は、時間T3を超え、第1所定時間である800msを超えても1.2MPa以上とはなっていない。このときは、パイロット圧が1.2MPa未満であると判定され(ステップS120:No)、且つ第1経過時間が第1所定時間(800ms)以上であると判定される(ステップS140:Yes)ことで、処理はステップS190へ遷移して、上述のとおりステップS190〜ステップS210を経て、制御部301は1速指令を出力する。この1速指令によって、方向切換弁64は第1位置64aに設定される。
【0073】
ここで、改めて
図3と
図4を参照すると、
図4は、時間T2で1速指令から2速指令に切り換えた後、つまり方向切換弁64を第1位置64aから第2位置64bに切り換えた後における、パイロット圧の変化を示すグラフであるといえる。また、
図3は、既に2速指令が出力されて油圧切換弁263が第2切換位置63bに設定されているときにおけるパイロット圧の変化を示すグラフであるといえる。
【0074】
ここで、
図4に示す状態は、作業機1のエンジンが始動した後に初めて操作部材302を操作したときに生じることに注意をされたい。特に、氷点下などの極寒時にエンジンを始動してパイロット油の暖機が十分に行われていない状態で初めて操作部材302を操作したときは、低温のパイロット油の流動性が十分に確保されておらず、方向切換弁64が第2位置64bに切り換えられた直後のパイロット圧がスムーズに上昇しないことがある。
【0075】
このような、パイロット圧のスムーズな上昇が困難な条件下で、第1所定時間を、パイロット油の暖機が僅かでも進んでいることを前提とした第2所定時間(500ms)と同じ長さに設定してしまうと、
図4に示したように、500ms経過した時点では、パイロット圧が所定圧力(1.2MPa)以上とならない。そこで、第1所定時間を、第2所定時間の1.4倍〜1.8倍程度の長さ(700ms〜900ms)に設定すると、極寒の寒冷地においても油圧切換弁263の切換が円滑に行われる。このような第1所定時間を経てもパイロット圧が所定圧力まで上昇しないときは、パイロット油の暖機が必要であるとして、油圧切換弁263を第1切換位置63aで維持すべく、1速指令を出力して方向切換弁64を第1位置64aに戻す。
【0076】
しかし、パイロット圧が一度でも所定圧力(1.2MPa)以上となったときは、第1所定時間を、第2所定時間と同じ長さに変更しても良い。第1所定時間を第2所定時間よりも長くなるように設定することは、極寒の寒冷地において初めて操作部材302を操作したときに重要である。
上述の実施形態では、
図4に示す2速指令から1速指令への切り換えの判定は、第1所定時間とパイロット圧とに基づいている。しかし、
図4における時間T2直後のパイロット圧の変化率に基づいて2速指令から1速指令への切り換えを判定することもできる。
【0077】
例えば、本実施形態による第1切換部325が、時間T2直後のパイロット圧の変化率(増加率)を、
図4に示すグラフにおける当該部分の微分値などから取得して、取得した変化率のパイロット圧が、第1所定時間経過後に所定圧力(1.2MPa)以上となるか否かを判定する。
以下、
図5を参照しながら、本実施形態の変形例について説明する。
図5は、パイロット圧の変化率に基づいて、2速指令から1速指令への切り換えを判定する場合の制御フローである。
図5において、
図2の制御フローと同じ動作は、同符号を付して説明を省略する。また、
図5では、タイマーAに関する動作は行わないこととし、説明を進める。
【0078】
図5に示すように、制御部301は、ステップS100において切換検出部320が2速指令を検出していれば(ステップS100:Yes)、処理はステップS300へ遷移する。ステップS300において、切換検出部320が2速切換信号を出力すると、制御部301は、圧力検出部300で検出したパイロット圧を、所定時間取得し続け、当該所定時間でのパイロット圧の推移からパイロット圧の変化率を検出する。そして、制御部301(第1切換部325)は、パイロット圧の変化率が、予め定められた判定値(増加判定値)よりも小さい場合(ステップS310:No)は、ステップS130を経た後、方向切換弁64に1速指令を出力して、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換える(ステップS190)。即ち、第1切換部325は、パイロット圧の変化率に基づいて、方向切換弁64を第2位置64bで保持しない判定をして、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換える。
【0079】
なお、増加判定値とは、パイロット圧の変化率によって、短時間にパイロット圧が所定圧力(1.2MPa)以上に達するか否かを判定するための値であって、油温等に基づいて定めたものである。例えば、パイロット油が低温のために、当該パイロット油の流動性が十分に確保されていない場合には、パイロット圧の変化率は小さく、パイロット圧が所定圧力(1.2MPa)以上に達するには時間を要する。一方、パイロット油が高温であって、当該パイロット油の流動性が十分に確保されている場合は、パイロット圧の変化率は大きく、パイロット圧が所定圧力(1.2MPa)以上に達するには短時間で済む。このように、増加判定値も、パイロット油の温度に基づいて設定される。
【0080】
一方、制御部301(第1切換部325)は、パイロット圧の変化率が、予め定められた判定値(増加判定値)よりも大きい場合(ステップS310:Yes)は、方向切換弁64を2速に保持する。なお、
図5に示したS120、S130、S160、S170、S180、S200、S210の各ステップについては、タイマーAに関する動作が無いことと、一部、順序が
図2と異なるものの、その他の動作は同じである。
【0081】
以上に説明した本実施形態に係る油圧システムの制御方法によれば、極寒の寒冷地においても、特に油圧切換弁による1速から2速への切換に関連する油圧システムの動作を円滑に行なうことができる。
なお、
図2のステップS110の動作、即ち、方向切換弁64が第2位置64bでの経過時間である第1経過時間
の計測は、少なくとも1回、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換えるステップが行われた後、再び、第1位置64aから第2位置64bに切換が行われたときに行ってもよい。具体的には、
図2に示すように、ステップS190にて、方向切換弁64が第2位置64bから第1位置64aに切り換えられた後、再び、ステップS100にて、切換検出部320が2速指令を検出した場合に、ステップS110の動作を開始する。つまり、エンジン29を始動後、最初に操作部材302によって2速指令を行った場合には、例外的にステップS110を行わず、その後、1速である状態から操作部材302によって2速指令が行われた場合に、ステップS110を実行する。
【0082】
以上に説明した第1実施形態に係る油圧システムの制御方法によれば、極寒の寒冷地においても、特に油圧切換弁による1速から2速への切換に関連する油圧システムの動作を円滑に行なうことができる。
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態に係る油圧システムの制御方法のフローを示す図である。なお、制御部301の構成(切換検出部320、第1計測部321、第1時間判定部322、圧力判定部323、保持部324、第1切換部325、位置検出部326、第2計測部327、第2時間判定部328、及び第2切換部329)については、第1実施形態と同様である。なお、第2実施形態では、制御部301は、1速に関する制御を行うモードである「1速モード」と、2速に関する制御を行うモードである「2速モード」とを有しているものとして説明を進める。
【0083】
オペレータなどによって操作部材302が操作されると、制御部301は、操作部材302の操作が、2速指令に対応する操作であるか否かを判断する(ステップS300)。操作部材302の操作が2速指令に対応する操作である場合(ステップS300:Yes)、切換検出部320は、制御部301が、既に2速モードで動作しているか否かを検出する(ステップS301)。即ち、ステップS301において、切換検出部320は、方向切換弁64が、第1位置、或いは、第2位置に切り換えられたことを検出する。
【0084】
制御部301は、2速モードでなければ(ステップS301:No)、1速モードに保持する(ステップS302)。制御部301は、2速モードであれば(ステップS301:Yes)、2速モードに保持する(ステップS303)。即ち、制御部301は、保持部324が有する第2位置フラグを有効(ON)に保持する。
ステップS303において切換検出部320は、2速切換信号を第1計測部321へ出力し、第1計測部321は、出力された2速切換信号を取得する。第1計測部321は、2速切換信号を取得すると、第1経過時間の計測(タイマAの動作)を開始する(ステップS304)。これによって、第1計測部321は、方向切換弁64が第2位置64bへ切り換えられてからの経過時間である第1経過時間の計測を開始し、処理はステップS305へ遷移する。
【0085】
次に、制御部301は、再び、2速モードで動作しているか否かを検知する(ステップS305)。ここで、制御部301が2速モードであれば(ステップS305:Yes)、制御部301は、S306〜S310に示すように、圧力検出部300で計測されたパイロット圧が所定値以下である時間が連続して、500ms超えるか否かによって、方向切換弁64を第2位置64bに保持するか、或いは、第1位置64aに切り換えるかの処理を行う。
【0086】
具体的には、制御部301が2速モードであれば(ステップS305:Yes)、処理はステップS306に推移し、ステップS306において、圧力判定部323は、圧力検出部300で計測されたパイロット圧を取得し、取得したパイロット圧が予め定められた所定圧力である1.2MPa以上であるか1.2MPa未満であるかを判定する(ステップS306)。
【0087】
パイロット圧が1.2MPa以下である場合(ステップS306:Yes)、位置検出部326は、保持部324が有する第2位置フラグが有効(ON)であるか無効(OFF)であるかを検出する(ステップS307)。保持部324が有する第2位置フラグが無効(OFF)である場合、ステップS308に進み、ステップS308において、第2時間判定部328は、第2経過時間を参照し、第2経過時間が第2所定時間(500ms)以上であるか第2所定時間未満であるかを判定する。第2経過時間が第2所定時間(500ms)未満である場合(ステップS308:No)、第2計測部327における第2経過時間の計測(タイマBの動作)を続ける(ステップS309)。第2経過時間が第2所定時間以上であれば(ステップS308:Yes)、制御部301は、1速モードとなり、当該制御部301(第2切換部329)は、1速指令を出力し、方向切換弁64を第2位置64bから第1位置64aへ切り換える(ステップS310)。
【0088】
さて、上述したステップS305において、制御部301が2速モードではなく、1速モードである場合は、制御部301は、第2経過時間を初期値に設定(リセット)する(ステップS311)。
そして、ステップS310及びステップS311のいずれかを行った後、制御部301は、再び、2速モードで動作しているか否かを検知する(ステップS312)。制御部301が2速モードである場合、第1時間判定部322は、第1計測部321が計測した第1経過時間を参照し、第1経過時間が第1所定時間である800ms以上であるか800ms未満であるかを判定する(ステップS313)。第1時間判定部322による判定結果において第1経過時間が第1所定時間である800ms以上である場合(ステップS313:Yes)、制御部301は、第1経過時間を初期値に設定(リセット)する(ステップS314)と共に、保持部324が有する第2位置フラグを無効(OFF)にする(ステップS315)。一方、第1経過時間が第1所定時間である800ms未満である場合(ステップS313:No)、制御部301は、第1計測部321による第1経過時間の計測(タイマAの動作)を継続する(ステップS316)。
【0089】
そして、ステップS315及びステップS316のいずれかを行った後は、ステップS300に戻る。なお、制御部301が、既に、2速モードでステップS300に戻り、ステップS303及びステップS304に至る場合は、ステップS303では、2速モードを保持し、ステップS304では、第1計測部321による第1経過時間の計測(タイマAの動作)を継続する。
【0090】
以上に説明した第2実施形態に係る油圧システムの制御方法においても、極寒の寒冷地においても、特に油圧切換弁による1速から2速への切換に関連する油圧システムの動作を円滑に行なうことができる。
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態に係る油圧システムの油圧回路を示す図である。第3実施形態において、第1実施形態及び第2実施形態と同様の構成及び方法については説明を省略する。
【0091】
図7に示すように、第1油路100a及び第2油路100xに圧力検出部300が設けられている。以降、第1油路100aに設けた圧力検出部のことを第1圧力検出部300a、第2油路100xに設けた圧力検出部のことを第2圧力検出部300bという。この場合も、制御部301は、2速指令を出力している状態において、第1圧力検出部300aで検出されたパイロット圧が設定値未満になった場合には、1速指令を方向切換弁64に出力する。
【0092】
第1圧力検出部300aを第1油路100aに設けた場合、何らかの事情によって第1油路100aにおけるパイロット圧が低下したときは、上述の制御部301の制御によって方向切換弁64が第2位置64bから第1位置64aへ切換えられて油圧切換弁263を第1切換位置63aへ切換えることができる。これによって、HSTモータ257を2速から1速に強制的に変更することができる。その後、第1油路100aにおけるパイロット圧の低下が回復した場合、作業機1のオペレータが操作部材302を操作することにより、HSTモータ257を1速から2速に戻すことができる。
【0093】
制御部301は、2速指令を出力している状態において、第2圧力検出部300bで検出されたパイロット圧が設定値未満になった場合には、方向切換弁64に1速指令を出力する。ここで、制御部301が1速指令を方向切換弁64に出力した後、第1圧力検出部300aで検出されたパイロット圧が設定値以上に戻る場合がある。パイロット圧が設定値以上に戻ったときに操作部材302からの2速指令が維持されていれば、制御部301は、自動的に方向切換弁64に対して2速指令を出力する。
【0094】
或いは、制御部301は、上述のとおり1速指令を方向切換弁64に出力した後、第1油路100aに設けられた第1圧力検出部300aで検出されたパイロット圧が設定値以上になり、且つ、操作部材302で2速の設定が行われれば、方向切換弁64に2速指令を出力する。これとは逆に、第1圧力検出部300aで検出されたパイロット圧が所定値未満になっている状態で、操作部材302によって方向切換弁64を第2位置64bにする操作(2速指令)が行われたとしても、制御部301は、方向切換弁64を第1位置64aに保持(1速指令)する。
【0095】
つまり、制御部301は、2速から1速に強制的に変更した状態、つまり方向切換弁64を第1位置64aに設定する1速指令を出力している状態で、第1油路100aに設けられた第1圧力検出部300aで検出されたパイロット圧が設定値以上に復帰した場合に、方向切換弁64を第2位置64bに設定することにより、油圧切換弁263を第2切換位置63bへ切換えることができる。これによって、HSTモータ257を1速から2速に復帰させることができる。なお、1速から2速に復帰させるときの第2圧力検出部300bで検出されたパイロット圧(復帰圧)は、上述した設定値以上でなくてもよい。例えば、第2切換位置63bに設定するパイロット圧(設定値)と、1速から2速に復帰させるための復帰圧とは同じであってもよいが、復帰圧と設定圧は互いに異なっていてもよい。
【0096】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。上述した実施形態では、方向切換弁64を第1位置64aにして、第2油路100xのパイロット油を作動油タンク31に排出することにより、油圧切替弁263を1速にしていたが、逆に、方向切換弁64を切り替えることによって、第2油路100xのパイロット油の圧力を所定の圧力にすることによって、油圧切換弁263を1速にしてもよい。つまり、方向切換弁64が、所定の開度よりも大きい開度である第2位置である場合に、油圧切換弁263が1速になり、所定の開度である第1位置である場合に油圧切換弁263が2速になる構成であってもよい。