(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693022
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】膨潤性組成物、それから形成される製品、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20200427BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20200427BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20200427BHJP
E21B 33/10 20060101ALI20200427BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20200427BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/00
C08K3/04
E21B33/10
C09K3/10 Z
C09K3/10 Q
F16J15/10 Y
【請求項の数】12
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-522408(P2017-522408)
(86)(22)【出願日】2015年10月9日
(65)【公表番号】特表2017-537181(P2017-537181A)
(43)【公表日】2017年12月14日
(86)【国際出願番号】US2015054924
(87)【国際公開番号】WO2016081088
(87)【国際公開日】20160526
【審査請求日】2018年10月2日
(31)【優先権主張番号】14/542,695
(32)【優先日】2014年11月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301008534
【氏名又は名称】ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】レイ・ツァオ
(72)【発明者】
【氏名】ヅィユー・スー
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・エドワード・グッドソン
(72)【発明者】
【氏名】ウェイン・アール・ファーラン
【審査官】
藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】
特開平02−124767(JP,A)
【文献】
特開2002−256083(JP,A)
【文献】
特開平02−202576(JP,A)
【文献】
特開昭51−109914(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02586963(EP,A1)
【文献】
国際公開第2015/080814(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/16
C08K3/00−13/08
E21B33/00−33/16
F16J15/00−15/56
C09K3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリクス材料(6)、前記マトリクス材料(6)内に配置された凝縮膨張性黒鉛(5)材料、及び、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、チタン、亜鉛、ケイ素、またはホウ素のうちの1つ以上を含む還元剤と酸化ホウ素、酸化ケイ素、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、または酸化鉛のうちの1つ以上を含む酸化剤とを含むテルミット、Al−Ni、Ti−Si、Ti−B、Zr−Si、Zr−B、Ti−Al、Ni−Mg、またはMg−Biのうちの1つ以上を含む活性化材料を含む膨潤性組成物であって、
前記凝縮膨張性黒鉛(5)材料が嵩密度1〜8g/cm3を有し、かつ膨張性黒鉛を含む、組成物。
【請求項2】
前記マトリクス材料(6)が、エチレン−プロピレン−ジエンゴム;ブタジエンゴム;スチレン−ブタジエンゴム;天然ゴム;アクリロニトリルブタジエンゴム;スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル樹脂;ポリイソプレンゴム;アクリレート−ブタジエンゴム;ポリクロロプレンゴム;アクリレート−イソプレンゴム;エチレン−酢酸ビニルゴム;ポリプロピレンオキシドゴム;ポリプロピレンスルフィドゴム;フルオロエラストマー;または熱可塑性ポリウレタンゴムのうちの1つ以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記凝縮膨張性黒鉛(5)材料が、さらに、SiO2、Si、B、B2O3、金属、または金属合金のうちの1つ以上を含む結合剤を含み、前記金属が、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンのうちの1つ以上である、請求項1または請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物を含む製品。
【請求項5】
前記製品が、シール、高圧ビーズフラックスクリーンプラグ、スクリーンベースパイププラグ、ボール及びシート用コーティング、ガスケット、圧縮パッキング要素、膨張性パッキング要素、Oリング、接着シール、弾丸シール、地下安全弁シール、地下安全弁フラッパシール、動的シール、Vリング、バックアップリング、ドリルビットシール、ライナーポートプラグ、砂防ダム、ドリル・イン・スティム・ライナー・プラグ(drill in stim liner plug)、流入制御装置プラグ、フラッパ、シート、ボールシート、直接接続ディスク、ドリル・イン・リニア・ディスク(drill−in linear disk)、ガスリフト弁体、流体損失制御フラッパ、電動水中ポンプシール、シア・アウト・プラグ(shear out plug)、フラッパ弁、ガスリフト弁、またはスリーブである、請求項4に記載の製品。
【請求項6】
タップ密度0.005〜1g/cm3を有する膨張性黒鉛(5)と結合剤の混合物を圧縮して、凝縮膨張性黒鉛(5)のバルク材を得;
前記凝縮膨張性黒鉛(5)のバルク材を、タップ密度1〜5g/cm3を有する凝縮膨張性黒鉛(5)粒子に分割し;
前記凝縮膨張性黒鉛(5)粒子を前記マトリクス材料(6)と混合することを含む、請求項1に記載の組成物の製造方法。
【請求項7】
膨潤性部材(10)及び前記膨潤性部材(10)の表面に配置された封止部材(11)を含む封止装置であって、
前記膨潤性部材(10)が凝縮膨張性黒鉛(5)材料を含み、前記凝縮膨張性黒鉛(5)材料が嵩密度1〜8g/cm3を有し、かつ膨張性黒鉛を含み、
前記膨潤性部材(10)が、さらに、テルミット;Al−Ni;Ti−Si;Ti−B;Zr−Si;Zr−B;Ti−Al;Ni−Mg;またはMg−Biのうちの1つ以上を含む活性化材料を含み、
前記封止部材(11)が、エチレン−プロピレン−ジエンゴム;ブタジエンゴム;スチレン−ブタジエンゴム;天然ゴム;アクリロニトリルブタジエンゴム;スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル樹脂;ポリイソプレンゴム;アクリレート−ブタジエンゴム;ポリクロロプレンゴム;アクリレート−イソプレンゴム;エチレン−酢酸ビニルゴム;ポリプロピレンオキシドゴム;ポリプロピレンスルフィドゴム;フルオロエラストマー;または熱可塑性ポリウレタンゴムのうちの1つ以上を含む、封止装置。
【請求項8】
前記凝縮膨張性黒鉛(5)材料が、さらに、SiO2、Si、B、B2O3、金属、または金属合金のうちの1つ以上を含む結合剤を含み、前記金属が、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンのうちの1つ以上である、請求項7に記載の封止装置。
【請求項9】
さらに、前記封止部材に隣接する押出防止部材(12)及び任意の環状体を含み、前記押出防止部材(12)が任意にバックアップリングであり、前記膨潤性部材(10)が任意に前記環状体の表面に配置される、請求項7または請求項8に記載の封止装置。
【請求項10】
請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物であって、第一の形状を有する前記組成物を含む製品、または請求項7から9のいずれか一項に記載の封止装置であって、前記膨潤性部材(10)が第一の形状を有する前記封止装置を所定の位置に配置し;
前記凝縮膨張性黒鉛(5)材料を活性化して、前記製品中の前記組成物、または前記封止装置の前記膨潤性部材(10)に前記第一の形状とは異なる第二の形状を獲得させることを含む、製品または封止装置の展開方法。
【請求項11】
前記活性化が、前記組成物または前記膨潤性部材(10)を、電流、電磁放射線、または熱のうちの1つ以上を含む選択された形のエネルギーに曝露することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
さらに、坑井孔を、前記製品または前記封止装置を前記坑井孔内で展開させることによって、遮断または完成させることを含む、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年11月17日に出願された米国出願第14/542,695号の利益を主張する。当該出願は、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
液体膨潤性材料は、当該膨潤性材料と反応する液体に触れた場合、近傍の構造に対する接触力を生じる能力がある。液体膨潤性材料は、様々な産業で使用されている。例えば、ダウンホール掘削及び完成工業において、液体膨潤性材料は、様々なパッカー、遮断、駆動、及び封止装置に使用される。機械的セットアップパッカー及び膨張式パッカーと比較して、液体膨潤性パッカーは、セットアップが容易である。しかしながら、特定の用途では、液体膨潤性パッカーの封止率は、所望より低いことがある。さらに、一部の液体膨潤性パッカーは、膨潤後に弾性率を失うことがある。この弾性率の損失は、通常、十分な封止を確保するためのパッカーの長さを不必要に増加させる。従って、業界では、長期業務での信頼性が向上された新たな膨潤性材料または製品を常に受け入れている。かかる材料または製品が向上された封止率も有している場合は、さらに有利であろう。
【0003】
簡単な説明
従来技術における上記及び他の欠点は、実施形態において、マトリクス材料及び該マトリクス材料内に配置された凝縮膨張性黒鉛材料を含み、該凝縮膨張性黒鉛材料が嵩密度約1〜約8g/cm
3を有しかつ膨張性黒鉛を含む膨張性組成物によって克服される。該組成物の製造方法は、該凝縮膨張性黒鉛材料と該マトリクス材料を混合することを含む。
【0004】
該膨潤性組成物を含む製品もまた提供する。該製品の形成方法は、該膨潤性組成物を成形または機械加工することを含む。
【0005】
製品の展開方法は、マトリクス材料及び凝縮膨張性黒鉛材料を含み、第一の形状を有する組成物を含む製品を所定の位置に配置し;該凝縮膨張性黒鉛材料を活性化して該組成物に該第一の形状とは異なる第二の形状を獲得させることを含むとともに、該凝縮膨張性黒鉛材料は嵩密度約1〜約8g/cm
3を有し、かつ該凝縮膨張性黒鉛材料は膨張性黒鉛を含む。
【0006】
別の実施形態では、封止装置は、膨潤性部材及び該膨潤性部材の表面に配置された封止部材を含み、該膨潤性部材は凝縮膨張性黒鉛材料を含み、凝縮膨張性黒鉛材料は嵩密度約1〜約8g/cm
3を有しかつ膨張性黒鉛を含む。
【0007】
封止装置の展開方法は、該膨潤性部材が第一の形状を有する該封止装置を所定の位置に配置し;該膨潤性部材を活性化して該膨潤性部材に該第一の形状とは異なる第二の形状を獲得させることを含む。
【0008】
以下の説明は、いかようにも限定すると見なすべきではない。添付の図面に関して、同種の要素は同様に番号付けられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】単一の片状膨張性黒鉛の気体漏出過程の概略図である。
【
図2】凝縮膨張性黒鉛粒子における気体漏出過程の概略図である。
【
図3】本開示の実施形態に従う膨潤機構を示す。
図3(a)は膨潤前の組成物を示し、
図3(b)は膨潤後の組成物を示す。
【
図4】本開示の実施形態に従うパッカーのセットアップ過程を示す。
図4(a)はセットアップ前のパッカーを示し、
図4(b)はセットアップ後のパッカーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
黒鉛は、炭素原子の六角形配列または網目の層で構成されている。炭素の層間に共有結合が存在しないため、一般に「インターカラント(intercallant)」と呼ばれる他の分子がそれらの間に挿入されうる。活性化の際、該インターカラントは、液体または固体状態から気相に変換されうる。気体の形成で圧力が生じ、これが隣接する炭素の層を押し開き、結果として黒鉛を膨張させる。
【0011】
炭素の層間に挿入されたインターカラント材料を有する黒鉛は、一般に膨張性黒鉛と呼ばれる。膨張性黒鉛は、薄片として市販されている。膨張性黒鉛は体積が数百倍に膨張しうるものの、片状膨張性黒鉛は、より高い膨張度が必要とされる用途において弾性材料を拡大するのに直接使用されることはほとんどない。驚くべきことに、出願者らは、本明細書に開示の凝縮膨張性黒鉛材料が、活性化の際、マトリクス材料を顕著に膨張させるのに十分な力を生じさせるために有効であることを見出した。理論に拘束されることを望むものではないが、膨張性薄片は、インターカラントから生じる気体が該薄片の端で該膨張性黒鉛の底面に沿って漏出しうるため、膨張力が限られることがあると考えられる。さらに、理論に拘束されるものではないが、該凝縮膨張性黒鉛材料において、該インターカラントによって生成された気体は、限られた空間の内部に捕捉されうるため、より強い膨張力を生成すると考えられる。本発見は、高い封止率及び向上された信頼性を有する膨潤性製品の製造を可能にする。金属間封止と比較して、該膨潤性製品はセットアップが容易である。
【0012】
単一の片状膨張性黒鉛及び凝縮膨張性黒鉛粒子における気体漏出過程の概略図をそれぞれ
図1及び2に示す。
図1に示すように、インターカラント1から生じる気体は、当該片状膨張性黒鉛の端で底面2に沿って失われることがある。
図2に示すように、凝縮膨張性黒鉛粒子は、複数の黒鉛粒子3を含む。該粒子の境界は4で示される。該凝縮膨張性黒鉛粒子では、該インターカラントの濃度は増加する。さらに、
図2に示すように、黒鉛粒子は、凝縮黒鉛の粒子内に閉じ込められる。従って、黒鉛粒子の境界で気体の漏出がなく、結果として、より高い気体の圧力が生じうる。
【0013】
代表的な膨潤機構を
図3に示す。
図3に示すように、組成物8は凝縮膨張性黒鉛5及びマトリクス材料6を含む。該膨張性黒鉛が活性化されると、膨張性黒鉛5は膨張し、膨張黒鉛7を形成する。それと同時に、膨張性黒鉛5の膨張は、該マトリクス材料及び該黒鉛を含む該組成物を膨潤させる。
【0014】
該マトリクス材料は弾性材料でよい。実施形態では、該マトリクス材料は以下のうちの1つ以上である:エチレン−プロピレン−ジエンモノマーゴム;ブタジエンゴム;スチレン−ブタジエンゴム;天然ゴム;アクリロニトリルブタジエンゴム;スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル樹脂;ブタジエン−ニトリルゴム;ポリイソプレンゴム;アクリレート−ブタジエンゴム;ポリクロロプレンゴム;アクリレート−イソプレンゴム;エチレン−酢酸ビニルゴム;ポリプロピレンオキシドゴム;ポリプロピレンスルフィドゴム;フルオロエラストマー、または熱可塑性ポリウレタンゴム。フルオロエラストマーは具体的に言及する。例示的なフルオロエラストマーとしては、高フッ素含量のフルオロエラストマーゴム、例えば、FKM群のもので、商品名VITON(登録商標)(FKM−Industriesより入手可能)で上市されているもの、ならびにパーフルオロエラストマー、例えば、FFKM(同様にFKM−Industriesより入手可能)及び商品名KALREZ(登録商標)パーフルオロエラストマー(DuPontより入手可能)で上市されているものが挙げられる。
【0015】
該マトリクス材料内に配置された該凝縮膨張性黒鉛は、嵩密度約1〜約8g/cm
3、約1〜約6g/cm
3、約1〜約5g/cm
3、または約1〜約3g/cm
3を有する。該凝縮膨張性黒鉛が粉体状の場合、該凝縮膨張性黒鉛の嵩密度は、該凝縮膨張性黒鉛を製造するために使用されるバルク材(製粉前の固体片)の密度を指す。該凝縮膨張性黒鉛の粉体は、タップ密度約0.1〜約6g/cm
3、約0.1〜約4g/cm
3、約0.1〜約3g/cm
3、または約0.1〜約2g/cm
3を有しうる。結合剤が存在する場合、該凝縮膨張性黒鉛材料の粉体はタップ密度約1〜約5g/cm
3を有しうる。本明細書で用いられるタップ密度とは、体積の変化がほとんど(<5%)、またはそれ以上認められなくなるまで、試料を含むメスシリンダーまたは容器を機械的に軽くたたいた後に達する密度を指す。
【0016】
該凝縮膨張性黒鉛は、任意の所望の形状を有することができる。該凝縮膨張性黒鉛のサイズまたは寸法は、特に限定されない。例示的には、凝縮膨張性黒鉛材料は、平均粒子径約10ミクロン〜約5センチメートル、約10μm〜約1cm、または約1cm〜約5cmの粒子を含む。粒子径は、適切な粒子サイズの測定法、例えば、レーザ光源を用いる静的または動的光散乱(SLSまたはDLS)によって測定できる。
【0017】
該凝縮膨張性黒鉛材料は、膨張性黒鉛を含む。本明細書で用いられる膨張性黒鉛とは、黒鉛の炭素の層間に挿入されたインターカラント材料を有する黒鉛を指す。多種多様な化学物質が、黒鉛材料をインターカレートするために用いられている。これらは酸、酸化剤、ハロゲン化物等を含む。代表的なインターカラント材料としては、硫酸、硝酸、クロム酸、ホウ酸、SO
3、またはハロゲン化物、例えば、FeCl
3、ZnCl
2、及びSbCl
5が挙げられる。当技術分野で既知の他のインターカラント材料も用いることができる。
【0018】
任意に、該凝縮膨張性黒鉛材料はさらに結合剤を含む。代表的な結合剤としては、以下のうちの1つ以上が挙げられる:SiO
2;Si;B;B
2O
3;金属;または金属合金。該金属は、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、タングステン、クロム、鉄、マンガン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ビスマス、アンチモン、鉛、カドミウム、またはセレンでよい。該合金としては、アルミニウム合金、銅合金、チタン合金、ニッケル合金、タングステン合金、クロム合金、鉄合金、マンガン合金、ジルコニウム合金、ハフニウム合金、バナジウム合金、ニオブ合金、モリブデン合金、スズ合金、ビスマス合金、アンチモン合金、鉛合金、カドミウム合金、またはセレン合金が挙げられる。実施形態では、該結合剤は、銅、ニッケル、クロム、鉄、チタン、銅合金、ニッケル合金、クロム合金、鉄合金、チタン合金、または上記金属もしくは金属合金の少なくとも1つを含む組合せを含む。代表的な合金としては、鋼、ニッケル−クロム系合金、例えば、インコネル
*、及びニッケル−銅系合金、例えばモネル合金が挙げられる。ニッケル−クロム系合金は、Ni約40〜75%とCr約10〜35%を含むことができる。該ニッケル−クロム系合金はまた、鉄約1〜約15%を含むことができる。少量のMo、Nb、Co、Mn、Cu、Al、Ti、Si、C、S、P、B、または上記のうちの少なくとも1つを含む組合せもまた該ニッケル−クロム系合金に含まれてもよい。ニッケル−銅系合金は、主にニッケル(約67%まで)及び銅からなる。該ニッケル−銅系合金はまた、以下のうちの1つ以上を少量含むことができる:鉄、マンガン、炭素、またはケイ素。これらの材料は、粒子、繊維、及びワイヤ等の異なる形状でよい。該材料の組合せを用いることができる。
【0019】
該結合剤は、マイクロまたはナノサイズでありうる。実施形態では、該結合剤は、平均粒子径約0.05〜約250ミクロン、約0.05〜約100ミクロン、約0.05〜約50ミクロン、約0.05〜約10ミクロン、具体的には約0.5〜約5ミクロン、より具体的には約0.1〜約3ミクロンを有する。理論に拘束されることを望むものではないが、該結合剤がこれらの範囲内のサイズを有する場合、それは該膨張性黒鉛の中に均一に分散すると考えられる。
【0020】
該膨張性黒鉛は、該組成物の合計重量に基づいて、約20重量%〜約100重量%、約20重量%〜約95重量%、約20重量%〜約80重量%、または約50重量%〜約80重量%の量で存在する。該結合剤は、該組成物の合計重量に基づいて、0重量%〜約75重量%、約5重量%〜約75重量%、または約20重量%〜約50重量%の量で存在する。有利には、該結合剤は、該インターカラント材料が活性化される際に溶融または軟化し、冷却時に膨張性黒鉛を互いに結合し、得られる製品/組成物の構造的一体性をさらに高める。該結合機構は、機械的連動、化学的結合、またはそれらの組合せを含む。
【0021】
該膨潤性組成物は、さらに充填剤、例えば、炭素、カーボンブラック、マイカ、クレー、ガラス繊維、またはセラミック材料を含むことができる。代表的な炭素としては、非晶質炭素、天然黒鉛、及び炭素繊維が挙げられる。代表的なセラミック材料としては、SiC、Si
3N
4、SiO
2、BN等が挙げられる。これらの材料は、粒子、繊維、及びワイヤ等の異なる形状でよい。該材料の組合せを用いることができる。該充填剤は、該組成物の合計重量に基づいて、約0.5〜約10重量%または約1〜約8%の量で存在することができる。
【0022】
任意に、該膨潤性組成物は、以下のうちの1つ以上を含む活性化材料を含む:テルミット;または自己伝播粉末混合物。テルミット組成物は、例えば、金属粉(還元剤)及び金属酸化物(酸化剤)を含み、テルミット反応として知られる発熱酸化還元反応を生じる。還元剤の選択肢としては、以下の1つ以上が挙げられる:例として、アルミニウム;マグネシウム;カルシウム;チタン;亜鉛;ケイ素;またはホウ素。一方、酸化剤の選択肢としては、以下のうちの1つ以上が挙げられる:例として、酸化ホウ素;酸化ケイ素;酸化クロム;酸化マンガン;酸化鉄;酸化銅;または酸化鉛。自己伝播粉末混合物としては、以下のうちの1つ以上が挙げられる:Al−Ni(Al粉末とNi粉末の混合物);Ti−Si(Ti粉末とSi粉末の混合物);Ti−B(Ti粉末とB粉末の混合物);Zr−Si(Zr粉末とSi粉末の混合物)、Zr−B(Zr粉末とB粉末の混合物);Ti−Al(Ti粉末とAl粉末の混合物);Ni−Mg(Ni粉末とMg粉末の混合物);またはMg−Bi(Mg粉末とBi粉末の混合物)。
【0023】
テルミット及び自己伝播粉末混合物の使用は、これら組成物が坑井孔温度では安定であるが、活性化後に極めて強いが非爆発性の発熱反応を生じるために有利である。該活性化は、該活性化材料を含む該膨潤性組成物を選択された形のエネルギーに曝露することによって達成することができる。該選択された形のエネルギーとしては、電流;赤外線放射、紫外線放射、ガンマ線放射、及びマイクロ波放射を含めた電磁放射線;または熱が挙げられる。生成されたエネルギーは、該凝縮膨張性黒鉛によって吸収され、該凝縮膨張性黒鉛を含む該組成物/製品を膨張させる。それと同時に、該エネルギーは局在化されるため、当該ツールの他の部分の任意の潜在的な劣化が最小限に抑えられる。
【0024】
該活性化材料の量は特に限定されず、通常は、該活性化材料が該選択された形のエネルギーに曝露された際に該凝縮膨張性黒鉛を膨張させるために十分なエネルギーを生成するのに十分な量である。実施形態では、該活性化材料は、該組成物の合計重量に基づいて、約0.5重量%〜約20重量%または約1重量%〜約15重量%の量で存在する。
【0025】
該膨潤性組成物は、該凝縮膨張性黒鉛材料と該マトリクス材料及び存在する場合に任意的成分を混合することによって製造できる。該混合としては、乾燥ブレンド;溶融ブレンド;またはそれらの組合せが挙げられる。乾燥ブレンド過程では、該マトリクス材料は、当技術分野で既知の任意の適切な方法によって、凝縮膨張性黒鉛とブレンドされる。適切な方法の例としては、ボール混合、音響的混合、リボンブレンド、垂直スクリュー混合、及びVブレンドが挙げられる。
【0026】
溶融ブレンド過程では、該マトリクス材料は、その融点より高くその分解温度より低い温度にされ、該凝縮膨張性黒鉛と混合される。該混合は、例えば、バレルまたは押出機内で、ブラベンダー混合または他の配合設備を含めた任意の適切な混合装置で実施することができる。
【0027】
別の方法として、該膨潤性組成物は、モノマー(複数可)またはオリゴマー(複数可)を凝縮膨張性黒鉛の存在下で重合することによって、または該凝縮膨張性黒鉛を、凝縮膨張性黒鉛の存在下で後に硬化する硬化性樹脂組成物にブレンドすることによって製造できる。
【0028】
該凝縮膨張性黒鉛は、タップ密度約0.005〜約1g/cm
3を有する膨張性黒鉛を圧縮して凝縮膨張性黒鉛のバルク材を得;該凝縮膨張性黒鉛のバルク材を、タップ密度約0.1〜6g/cm
3、0.1〜4g/cm
3、0.1〜3g/cm
3、または0.1〜2g/cm
3を有する凝縮膨張性黒鉛粒子に分割することによって調製することができる。結合剤が該凝縮膨張性黒鉛に存在する例では、該圧縮は、タップ密度約0.005〜約1g/cm
3を有する膨張性黒鉛と結合剤の混合物を圧縮して凝縮膨張性黒鉛のバルク材を得;該凝縮膨張性黒鉛のバルク材を、タップ密度約1〜約5g/cm
3を有する凝縮膨張性黒鉛粒子に分割することを含む。
【0029】
圧縮は、室温または高温で行うことができる。実施形態では、タップ密度0.005〜1g/cm
3を有する膨張性黒鉛またはかかる膨張性黒鉛と結合剤の組合せは、温度約20℃〜約200℃で圧縮される。該凝縮膨張性黒鉛のバルク材を形成するための圧力は、約500psi〜約10ksiでよい。本段階での減少率、すなわちタップ密度0.005〜1g/cm
3を有する該膨張性黒鉛またはかかる膨張性黒鉛と結合剤の組合せの体積に対する該凝縮膨張性黒鉛のバルク材の体積は、約10%〜約80%または約20%〜約50%である。
【0030】
該膨潤性組成物は、限定されないが、電子機器、原子力、熱間金属加工、コーティング、航空宇宙、自動車、石油・ガス、及び海洋用途を含めた種々多様の用途の製品の作成に有用である。該膨潤性組成物は、製品のすべてまたは一部を形成するために用いてもよい。従って、該膨潤性組成物を含む製品が提供される。
【0031】
該製品は、ダウンホール要素であってよい。例示的な製品としては、シール、高圧ビーズフラックスクリーンプラグ、スクリーンベースパイププラグ、ボール及びシート用コーティング、圧縮パッキング要素、膨張性パッキング要素、Oリング、接着シール、弾丸シール、地下安全弁シール、地下安全弁フラッパシール、動的シール、Vリング、バックアップリング、ドリルビットシール、ライナーポートプラグ、大気ディスク、大気室ディスク、砂防ダム、ドリル・イン・スティム・ライナー・プラグ(drill in stim liner plug)、流入制御装置プラグ、フラッパ、シート、ボールシート、直接接続ディスク、ドリル・イン・リニア・ディスク(drill−in linear disk)、ガスリフト弁体、流体損失制御フラッパ、電動水中ポンプシール、シア・アウト・プラグ(shear out plug)、フラッパ弁、ガスリフト弁、及びスリーブが挙げられる。
【0032】
該製品は、該膨潤性組成物を成形もしくは機械加工することによって、またはそれらの組合せによって製造できる。成形としては、成型、押出し、注型、及び積層が挙げられる。機械加工としては、例えば、フライス盤、鋸、旋盤、外形加工機、放電加工機等を使用する切断、鋸引き、アブレーション、フライス加工、表面仕上げ、旋盤加工、穿孔等が挙げられる。
【0033】
該膨潤性組成物を含む製品は、封止及びパッキング用途に使用することができる。実施形態では、製品の展開方法は、本明細書に開示の膨潤性組成物を含み、前記組成物が第一の形状を有する製品を所定の位置に配置し;該凝縮膨張性黒鉛を活性化して該膨潤性組成物に該第一の形状とは異なる第二の形状を獲得させることを含む。本方法は、さらに、坑井孔を、該坑井孔内で該製品を展開することによって遮断または完成することを含むことができる。
【0034】
該凝縮膨張性黒鉛の活性化としては、該膨潤性組成物をマイクロ波エネルギーに曝露することや、該膨潤性組成物を加熱することが挙げられる。有利には、該凝縮膨張性黒鉛は、マイクロ波エネルギーの印加によって活性化される。マイクロ波エネルギーは、波長約1mm〜約1メートルを有する。膨張は急速に起こる。例えば、該凝縮膨張性黒鉛をマイクロ波エネルギーに曝露することで、数分のうちに当該インターカラントの分解を誘発し、該黒鉛を元の体積の何倍にも膨張させることができる。マイクロ波エネルギーを使用することの1つの利点は、高い加熱率を生み出すことができるということである。マイクロ波照射が発生すると、数秒以内に高温に達し、膨張はほとんど瞬時に開始しうる。マイクロ波照射は、黒鉛が膨張された後にスイッチを切ってよい。さらに、マイクロ波照射は、該膨潤性組成物のみに焦点を合わせることができ、結果として、該マイクロ波照射によって生じる高温による当該ツールの劣化のリスクを最小限に抑えることができる。
【0035】
実施形態では、該マイクロ波エネルギーは、該膨潤性組成物の近傍に配置されたマイクロ波源によって生成される。該マイクロ波源を操作して、マイクロ波エネルギーのレベルを変化させることができる。別の方法として、該マイクロ波エネルギーは、別の場所で生成され、一連の導波路を通して該膨潤性組成物に向けられる。例えば、該マイクロ波エネルギーは、地表面で生成され、地下で該膨潤性組成物に向けられうる。
【0036】
有利には、該膨潤性組成物を含む装置の、特に該膨潤性組成物が固定される部分用の材料は、それらがマイクロ波エネルギーをほとんど吸収も反射もせずにマイクロ波を通すように選択される。実施形態では、生成されたマイクロ波エネルギーの約70%超、約80%超、約90%超、または約95%超が該膨潤性組成物に達する。かかる材料としては、高靭性セラミック、例えば、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、及びこれらセラミック材料に基づく複合体、例えば、繊維強化セラミック複合体が挙げられる。
【0037】
該凝縮膨張性黒鉛はまた、該膨潤性組成物が活性化材料を含む場合の実施形態に対して選択された形のエネルギーによって活性化されうる。該選択された形のエネルギーとしては、電流;赤外線放射、紫外線放射、ガンマ線放射、及びマイクロ波放射を含めた電磁放射線;または熱が挙げられる。
【0038】
該ダウンホール製品を用いて、坑井孔を遮断または完成することができる。本方法は、坑井孔内で該ダウンホール製品の1つ以上を含む装置を展開することを含む。例えば、該製品は、1つ以上の生産用管状物(production tubular)の周囲の位置の掘削孔内のアニュラスを充填するのに適したタイプのものでよい。本明細書で用いられる「生産用管状物(production tubular)」という用語は、例えば、坑井を完成するのに用いられる任意の種類の管状物、例えば、限定されないが、生産用導管、生産用保護管、中間保護管、及び炭化水素が表面に流れる装置を含めるように定義される。かかる製品の例としては、非限定的な実施形態では、非標的生産または水帯を遮断するため等に用いられる環状アイソレーターが挙げられる。
【0039】
マトリクス材料とともに膨潤性組成物を形成することに加えて、該凝縮膨張性黒鉛を用いて封止装置を形成することもできる。実施形態では、封止装置は、膨潤性部材及び該膨潤性部材の表面に配置された封止部材を含む。該封止部材は、本明細書に開示のマトリクス材料のうちの1つ以上を含むと同時に、該膨潤性部材は凝縮膨張性黒鉛を含む。任意に、該膨潤性部材はさらに、本明細書に開示の通り結合剤及び/または活性化材料を含む。該封止装置はさらに、該封止部材に隣接する押出防止部材を含むことができる。代表的な押出防止部材としては、バックアップリングが挙げられる。該封止装置はさらに、生産用導管等の環状体を含むことができる。該膨潤性部材は、該環状体の表面に配置することができる。
【0040】
該封止装置の展開方法は、該膨潤性部材が第一の形状を有する該封止装置を所定の位置に配置し;該膨潤性部材を活性化して該膨潤性部材に該第一の形状とは異なる第二の形状を獲得させることを含む。該活性化は、以下のうちの少なくとも1つを含む:該膨潤性部材のマイクロ波エネルギーへの曝露;または本明細書に開示の方法を用いた該膨潤性部材の加熱。該膨潤性部材が本明細書に開示の活性化材料を含む場合、該活性化は、該膨潤性部材を選択された形のエネルギーに曝露することを含む。該封止装置の展開方法はさらに、坑井孔内で該封止装置を展開して該坑井孔を遮断または完成することを含むことができる。
【0041】
坑井孔内での封止装置の代表的な展開方法を、
図4(a)及び4(b)に示す。
図4(a)に示すように、封止装置は、膨潤性部材10、封止部材11、及び押出防止部材12を具備する。該封止装置は、生産用管13の外径に対して固定される。
図4(b)において、マイクロ波発生器14は、膨潤性部材10に近接した管13内に配置される。マイクロ波発生器14は、膨潤性部材10に向けられたマイクロ波エネルギーを生成し、膨潤性部材10内の該凝縮膨張性黒鉛を膨張させ、結果として、管13の外径と該保護管(図示せず)の間の空間を充填する。
【0042】
本明細書に開示のすべての範囲は端点を含み、これら端点は独立して互いに組合せ可能である。本明細書で用いられる接尾辞「(複数可)」は、それが修飾する用語の単数形及び複数形の両方を含むことを意図し、従って、その用語の少なくとも1つを含む(例えば、着色剤(複数可)は少なくとも1つの着色剤を含む)。「または」は「及び/または」を意味する。「optional(任意的)」または[optionally(任意に)」は、続けて記載される事象または状況が生じても生じなくてもよいことを意味し、該記載が、該事象が生じる例及びそれが生じない例を含むことを意味する。本明細書で用いられる「組合せ」は、ブレンド、混合物、合金、反応生成物等を含む。「それらの組合せ」とは、「記載された項目の1つ以上及び任意に記載されていない同様の項目を含む組合せ」を意味する。すべての参考文献は、参照することによって本明細書に組み込まれる。特に断らない限り、すべての密度は23℃で測定される。
【0043】
本発明を説明する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈)における用語「a」、「an」、「the」、及び同様の指示対象の使用は、本明細書に別段の指示のない限り、または、文脈上明らかに矛盾のない限り、単数形及び複数形の両方を網羅するように解釈されるべきである。さらに、本明細書の「第一の」、「第二の」等の用語は、いかなる順序、数量、または重要性も示さず、1つの要素を別の要素と区別するために使用される。数量に関連して使用される修飾語「約」は、記載された値を含み、文脈によって指示された意味を有する(例えば、それは特定の数量の測定に伴う誤差の程度を含む)。
【0044】
例示の目的のために代表的な実施形態を記載してきたが、上記の説明は本明細書の範囲を限定するものと見なされるべきではない。従って、様々な変形、適応、及び代替が、本明細書の趣旨及び範囲から逸脱することなく当業者には想到されうる。