(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィルム表面の凹部又は凸部により形成された構造体が可視光波長以下のピッチで設けられているナノ構造を有するナノ構造フィルムが該ナノ構造を外側にして熱可塑性樹脂成形体と溶着しており、ナノ構造フィルムの厚さが1〜10μmであるナノ構造付き成形体であって、
ナノ構造フィルムが、UV硬化型アクリル樹脂を光硬化させた光硬化樹脂から形成されており、
ナノ構造付き成形体のナノ構造の形成面には、更に、マスターフィルムが剥離可能に積層されており、マスターフィルムのナノ構造フィルム側表面には、ナノ構造の表面凹凸が反転した表面凹凸を有する反転凹凸樹脂層が形成されており、
ナノ構造フィルムのヤング率が300〜700MPaであり、反転凹凸樹脂層のヤング率が700〜1500MPaであり、それらの差が400〜1200MPaであるナノ構造付き成形体。
熱可塑性樹脂成形体の成形型の内面にマスターフィルム付きナノ構造フィルムを配置し、マスターフィルム付きナノ構造フィルムのナノ構造フィルムが表面に溶着した熱可塑性樹脂成形体を製造するナノ構造付き成形体の製造方法であって、
マスターフィルム付きナノ構造フィルムが、ナノ構造フィルム、及びナノ構造フィルムのナノ構造形成面に剥離可能に積層されているマスターフィルムを有し、
ナノ構造フィルムが、UV硬化型アクリル樹脂を光硬化させた光硬化樹脂から形成されており、当該フィルム表面の凹部又は凸部により形成された構造体が可視光波長以下のピッチで設けられているナノ構造を有し、ナノ構造フィルムのフィルム厚が1〜10μmであり、
マスターフィルムのナノ構造フィルム側表面には、ナノ構造の表面凹凸が反転した表面凹凸を有する反転凹凸樹脂層が形成されており、
ナノ構造フィルムのヤング率が300〜700MPaであり、反転凹凸樹脂層のヤング率が700〜1500MPaであり、それらの差が400〜1200MPaであるナノ構造付き成形体の製造方法。
熱可塑性樹脂成形体の成形型の内面にマスターフィルム付きナノ構造フィルムを配置した後、該成形型で熱可塑性樹脂成形体を成形すると共に熱可塑性樹脂成形体にナノ構造フィルムを溶着する請求項4記載のナノ構造付き成形体の製造方法。
熱可塑性樹脂成形体の成形後にマスターフィルム付きナノ構造フィルムを熱可塑性樹脂成形体の成形型の内面に配置し、ナノ構造フィルムを熱可塑性樹脂成形体に溶着する請求項4記載のナノ構造付き成形体の製造方法。
熱可塑性樹脂成形体上にマスターフィルム付きナノ構造フィルムを配置し、加熱下で真空成形又は圧空成形することによりマスターフィルム付きナノ構造フィルムのナノ構造フィルムを熱可塑性樹脂成形体の表面に溶着させるナノ構造付き成形体の製造方法であって、
マスターフィルム付きナノ構造フィルムが、ナノ構造フィルム、及びナノ構造フィルムのナノ構造形成面に剥離可能に積層されているマスターフィルムを有し、
ナノ構造フィルムが、UV硬化型アクリル樹脂を光硬化させた光硬化樹脂から形成されており、当該フィルム表面の凹部又は凸部により形成された構造体が可視光波長以下のピッチで設けられているナノ構造を有し、ナノ構造フィルムのフィルム厚が1〜10μmであり、
マスターフィルムのナノ構造フィルム側表面には、ナノ構造の表面凹凸が反転した表面凹凸を有する反転凹凸樹脂層が形成されており、
ナノ構造フィルムのヤング率が300〜700MPaであり、反転凹凸樹脂層のヤング率が700〜1500MPaであり、それらの差が400〜1200MPaであるナノ構造付き成形体の製造方法。
【背景技術】
【0002】
基材表面の凹部又は凸部により形成されたナノ構造体が、可視光波長以下の微細ピッチで多数配置されているナノ構造は、可視光波長域の光に対して優れた反射防止効果を有するモスアイ構造として知られている。
【0003】
ナノ構造の形成方法として、光ナノインプリント法がある。光ナノインプリント法では、一般に、透明樹脂からなる基材上に光硬化性樹脂を塗布し、表面凹凸を有する原盤を光硬化性樹脂に押し付けて原盤の表面凹凸を光硬化性樹脂に転写し、原盤から剥離した光硬化性樹脂層に紫外線を照射して硬化させ、基材上に、光硬化樹脂からなるモスアイ構造が形成された光学素子を得る。この方法は、ナノ構造を備えたCCD、CMOS等のイメージセンサのカバーガラス、ディスプレイのフロントパネル、偏光子等に適用できるとされている(特許文献1)。しかしながら、この方法で自動車メーターパネル、レンズ、枠部に段差を有するディスプレイのフロントパネル、3次元的湾曲形状を有するタッチパネル等の曲面を有する成形体の表面にナノ構造を設けようとしても、原盤は追従性がないため意図したナノ構造を形成することができない。
【0004】
一方、射出成形体に絵柄をつける方法として、インモールド転写法がある(特許文献2)。インモールド成形法では転写箔を有する転写シートを固定型と可動型の間に送り、固定型と可動型の間隙のキャビティ空間に溶融した熱可塑性樹脂を注入し、射出成形と同時に転写箔を成形体に転写する。この可動型に表面凹凸を設けておくと、インモールド成形する成形体の表面に可動型の表面凹凸が転写され、成形体の表面に深さ20〜200μmの表面凹凸を形成することができる(特許文献3)。しかしながら、この方法で凹凸深さ100nm〜数百nmの微細なナノ構造を形成することはできない。
【0005】
また、インモールド転写法において、モスアイフィルム自体を成形体に転写する方法やモスアイフィルムの表面凹凸を成形体に転写する方法がある(特許文献4)。しかしながら、従来のモスアイフィルムでは、反射防止フィルムとしてのハンドリング性を確保するため、厚さ50μm以上のベースフィルム上の樹脂層にナノ構造が形成されている。そのため、従来のモスアイフィルムは柔軟性に劣り、曲面を有する成形体に転写してもその曲面に追随することができず、シワが発生しやすい。一方、モスアイフィルムの表面凹凸を成形体に転写する場合には、射出成形時の熱や圧力でナノ構造が損傷してしまい、ナノ構造としての機能を得られない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の従来技術に対し、本発明は、曲面や段差を有する成形体にナノ構造を有するフィルムを貼着する場合でも、シワなどを発生させることなく、均一にナノ構造を形成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、光ナノインプリント法により原盤からフィルム状のマスターフィルムを製造し、そのマスターフィルムを転写型としてナノ構造フィルムを剥離可能に形成することによりマスターフィルム付きナノ構造フィルムを製造し、そのマスターフィルム付きナノ構造フィルムをインモールド転写法又はTOM法(Three-dimension Over-lay Method)で使用すると、成形体の表面にナノ構造フィルムを溶着させることができること、この場合、(i)ナノ構造フィルムの表面凹凸面はマスターフィルムで保護されているので、インモールド成形時又はナノ構造フィルムの溶着時にナノ構造フィルムが損傷することを抑制できること、(ii)マスターフィルム付きナノ構造フィルムではナノ構造フィルムのハンドリング性を向上させるためのベースフィルムが不要となり、ナノ構造フィルムの厚さを低減できるので、ナノ構造フィルムの柔軟性を向上させることができること、したがって、(iii)成形体が表面に曲面や段差を有する場合でも、その曲面や段差のある表面にナノ構造フィルムを追随させてシワ無く転写できることを見出し、本発明を想到した。
【0009】
即ち、本発明は、フィルム表面の凹部又は凸部により形成された構造体が可視光波長以下のピッチで設けられているナノ構造を有するナノ構造フィルムが該ナノ構造を外側にして熱可塑性樹脂成形体と溶着しており、ナノ構造フィルムの厚さが1〜10μmであるナノ構造付き成形体を提供する。
【0010】
また本発明は、上述のナノ構造付き成形体の製造方法として、熱可塑性樹脂成形体の成形型の内面にマスターフィルム付きナノ構造フィルムを配置し、マスターフィルム付きナノ構造フィルムのナノ構造フィルムが表面に溶着した熱可塑性樹脂成形体を製造し、マスターフィルムを剥離するナノ構造付き成形体の製造方法であって、
マスターフィルム付きナノ構造フィルムが、ナノ構造フィルム、及びナノ構造フィルムのナノ構造形成面に剥離可能に積層されているマスターフィルムを有し、
ナノ構造フィルムが、フィルム表面の凹部又は凸部により形成された構造体が可視光波長以下のピッチで設けられているナノ構造を有し、ナノ構造フィルムのフィルム厚が1〜10μmであり、
ナノ構造フィルムとマスターフィルムの互いの対向の表面凹凸が反転している、ナノ構造付き成形体の製造方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明はナノ構造付き成形体の製造方法の別法として、熱可塑性樹脂成形体上にマスターフィルム付きナノ構造フィルムを配置し、加熱下で真空成形又は圧空成形することによりマスターフィルム付きナノ構造フィルムのナノ構造フィルムを熱可塑性樹脂成形体の表面に溶着させ、マスターフィルムを剥離するナノ構造付き成形体の製造方法であって、
マスターフィルム付きナノ構造フィルムが、ナノ構造フィルム、及びナノ構造フィルムのナノ構造形成面に剥離可能に積層されているマスターフィルムを有し、
ナノ構造フィルムが、フィルム表面の凹部又は凸部により形成された構造体が可視光波長以下のピッチで設けられているナノ構造を有し、ナノ構造フィルムのフィルム厚が1〜10μmであり、
ナノ構造フィルムとマスターフィルムの互いの対向面の表面凹凸が反転している、ナノ構造付き成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、曲面や段差を有する熱可塑性樹脂成形体にも、ナノ構造を有するフィルムを均一に溶着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1Aは、実施例のナノ構造付き成形体100Aの正面図である。
【
図1B】
図1Bは、実施例のナノ構造付き成形体100Aの断面図である。
【
図2A】
図2Aは、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する方法の工程説明図である。
【
図2B】
図2Bは、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する方法の工程説明図である。
【
図2C】
図2Cは、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する方法の工程説明図である。
【
図2D】
図2Dは、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する方法の工程説明図である。
【
図2E】
図2Eは、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する方法の工程説明図である。
【
図2F】
図2Fは、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する方法の工程説明図である。
【
図2G】
図2Gは、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する方法の工程説明図である。
【
図3A】
図3Aは、インモールド転写法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図3B】
図3Bは、インモールド転写法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図3C】
図3Cは、インモールド転写法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図3D】
図3Dは、インモールド転写法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図4】
図4は、実施例のナノ構造付き成形体100Bであって、マスターフィルムが積層した状態の断面図である。
【
図5A】
図5Aは、TOM法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図5B】
図5Bは、TOM法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図5C】
図5Cは、TOM法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図5D】
図5Dは、TOM法でナノ構造付き成形体を製造する方法の工程説明図である。
【
図6】
図6は、実施例のナノ構造付き成形体100Cの断面図である。
【
図7】
図7は、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1Bを製造する方法の工程説明図である。
【
図8】
図8は、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1Bの断面図である。
【
図9】
図9は、実施例のナノ構造フィルムの反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明を詳細に説明する。なお、各図中、同一符号は同一又は同等の構成要素を表している。
【0015】
<ナノ構造付き成形体>
図1Aは、自動車メーターパネル用プレートとして使用される実施例のナノ構造付き成形体100Aの正面図であり、
図1Bはその断面図である。
【0016】
このナノ構造付き成形体100Aは、
図1Bの拡大図に示すように、ナノ構造フィルム21が、透明で表面に曲面51を有する熱塑性樹脂成形体50の片面に溶着しているものである。なお、本発明において溶着とは、熱可塑性樹脂の加熱溶融による融着を意味する。
【0017】
ナノ構造フィルム21は、その一方のフィルム表面に該フィルム表面の凹部又は凸部により形成された構造体25が可視光波長以下のピッチで多数設けられているナノ構造22を有する。ナノ構造フィルム21は、ナノ構造22を外側にして熱可塑性樹脂成形体50と溶着している。
【0018】
このナノ構造フィルム21にはベースフィルムが設けられていない。それゆえ、ナノ構造フィルム21のフィルム厚は、従来のナノ構造を有する反射防止フィルムよりも薄く、1〜10μm、好ましくは1〜6μmである。これにより、ナノ構造フィルム21は柔軟性に優れ、それが溶着する樹脂成形体の表面に曲面があっても段差があっても、樹脂成形体の表面形状に追随する。
【0019】
このようなナノ構造フィルム21は、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂を硬化させたものから形成することができ、後述するマスターフィルムとナノ構造フィルム21との剥離性の点から、UV硬化型アクリル樹脂等の光硬化樹脂から形成したものが好ましい。
【0020】
一方、本発明においてナノ構造フィルム21が溶着する熱可塑性樹脂成形体50は、
図1A、
図1Bに示した自動車メーターパネル用プレートに限定されず、種々の形状及び用途のとすることができ、特に、従来の反射防止フィルムでは均一に貼着することのできなかった、自動車メーターパネル用プレート、レンズ、枠部に段差を有するディスプレイのフロントパネル、3次元的湾曲形状を有するタッチパネル等の曲面又は段差を有する樹脂成形体をあげることができる。より具体的には、熱可塑性樹脂成形体50におけるナノ構造フィルム21の溶着面は曲率半径を15mm以上、好ましくは100mm以上、さらには500mm以上とすることができる。本発明によれば、このような曲面に対してもナノ構造フィルム21を良好に追随させることができる。勿論、ナノ構造フィルム21の溶着面を、曲率半径が無限大、即ち平面としてもよい。ナノ構造フィルムをシワ、たるみ、クラックなどが入らずきれいに溶着できる点からは、熱可塑性樹脂成形体50における溶着面の曲率半径は、好ましくは15mm以上無限大以下が好ましく、特に、曲面を溶着面とする点からは15mm以上500mm以下が好ましい。
【0021】
<ナノ構造付き成形体の製造方法>
ナノ構造付き成形体100Aの製造方法の概要としては、例えば、まず
図2Gに示すように、ナノ構造フィルム21のナノ構造22の形成面に、マスターフィルム10が剥離可能に積層しているマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造する。次に、熱可塑性樹脂成形体本体50の成形型の内面にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を配置し、ナノ構造フィルム21が表面に溶着した熱可塑性樹脂成形体を製造し、そこからマスターフィルム10を剥離すればよい。
【0022】
以下に、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1の製造方法と、これを用いたナノ構造付き成形体100Aの製造方法について詳細に説明する。
【0023】
(マスターフィルム付きナノ構造フィルムの製造方法)
マスターフィルム付きナノ構造フィルム1は次の工程から製造することができる。
【0024】
工程1:
ナノ構造フィルム21に形成しようとするナノ構造の表面凹凸31を表面に有する原盤30を作製する(
図2A)。例えば、ナノ構造フィルム21の反射防止機能、防汚機能、親水・撥水機能を考慮して、構造体間のピッチを可視光波長以下、特に数百nmとし、構造体の高さ(即ち、山と谷の高低差)を数十〜数百nmとする。
【0025】
この原盤30の作製方法自体には特に制限はなく、ナノ構造の原盤を作製する公知の方法を使用することができる。例えば、特許文献1に記載のように、ロールガラス原盤を、レーザ光を用いてフォトリソグラフの手法によりパターニングする方法を使用することができる。また、アルミニウムを陽極酸化して得られる陽極酸化ポーラスアルミナを原盤として使用してもよい(WO2006/059686)。
【0026】
工程2:
原盤30のナノ構造の表面凹凸31の形成面に、第1の光硬化性樹脂11pを密着させる(
図2B)。より具体的には、例えば、ベースフィルム12に塗布した第1の光硬化性樹脂11pを原盤30に密着させる。
【0027】
ここで、ベースフィルム12としては、フィルム厚が30μm未満では破れ易くなるため、30μm以上が好ましく、50μmがより好ましく、60μm以上がさらに好ましい。また、フィルム厚が400μmになると、ロールツールールで表面凹凸を転写することにより反転凹凸樹脂層11を形成することが困難になる。そのためフィルム厚は400μm未満が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下がさらに好ましい。
【0028】
また、ベースフィルム12を構成するフィルムの種類としては、マスターフィルム10の形状安定性、湾曲形状への追従性、透明性の点から、PETフィルム、TACフィルム、PCフィルム等を使用することができ、中でも追従性に優れたインモールド成型用のPCフィルムやPMMAフィルム、易成型PETフィルムなどの加飾成型フィルムとして用いられる、ガラス転移点Tgを超えると変形性が向上する熱可塑性樹脂フィルムを使用することが好ましい。
【0029】
第1の光硬化性樹脂11pとしては、例えば、アクリル系又はメタアクリル系モノマー、開始剤、シリコーン系、フッ素系樹脂等の離型剤を含有する紫外線硬化性樹脂を使用することができる。
また、第1の光硬化性樹脂11pの塗布厚は1〜10μmが好ましい。
【0030】
工程3:
次に、原盤30上の第1の光硬化性樹脂11pに紫外線を照射して光硬化させて反転凹凸樹脂層11を形成し(
図2C)、これを原盤30から剥離してマスターフィルム10を得る(
図2D)。
【0031】
工程4:
マスターフィルム10の表面凹凸の形成面に第2の光硬化性樹脂21pを塗布する(
図2E)。ここで、第2の光硬化性樹脂21pとしては、例えば、アクリル系又はメタアクリル系モノマー、開始剤、シリコーン系離型剤等を含有する液状の紫外線硬化性樹脂を使用することができる。特に、第2の光硬化性樹脂21pを光硬化させた後、その硬化層とマスターフィルム10の反転凹凸樹脂層11とを剥離可能とするため、第1の光硬化性樹脂11pと第2の光硬化性樹脂21pのどちらか一方、もしくは双方にシリコーン系等の離型剤を添加するか、又は双方の弾性率(ヤング率)を異ならせ、より好ましくは離型剤を添加すると共に弾性率を異ならせる。双方の弾性率を異ならせる場合に、弾性率の差は400〜1200MPaとすることが好ましい。例えば、ナノ構造フィルム21の弾性率を300〜700MPaとし、反転凹凸樹脂層11の弾性率を700〜1500MPaとする。弾性率の調整は、例えば、官能基数が少ない変性ジアクリレートや、ポリエチレングリコールジアクリレート等のグリコール系樹脂を添加した低弾性率のUV硬化型樹脂を配合することにより行う。
【0032】
また、マスターフィルム10のナノ構造の形成面に、酸化ケイ素、シリコン、酸化タングステン、ITO等の無機膜を数nm〜20nm程度の厚さで設けてもよい。この無機膜はスパッタ法で形成することができる。無機膜の形成により離型剤の添加や弾性率の調整を省略することができる。
【0033】
第2の光硬化性樹脂21pの塗布厚は、この第2の光硬化性樹脂から形成されるナノ構造フィルム21におけるナノ構造の製造安定性の点から、1〜10μmとすることが好ましく、1〜6μmがより好ましい。
【0034】
第2の光硬化性樹脂21pのマスターフィルム10への塗布は、スポイドでノズルから滴下するか、ダイを用いて、マスターフィルム10と、表面を鏡面仕上げしたガラス製のミラー原盤40との間に第2の硬化性樹脂21pを充填することで行うことができる。
なお、ミラー原盤40としては、金属製のものを使用してもよい。
【0035】
工程5:
マスターフィルム10側から紫外線を照射し、第2の光硬化性樹脂21pを光硬化させてナノ構造フィルム21を形成する(
図2F)。こうして得られるナノ構造フィルム21はそのフィルム厚が好ましくは1〜10μm、より好ましくは1〜6μmであり、ナノ構造フィルム21とマスターフィルム10は、互いの対向面の表面凹凸が反転している。
【0036】
工程6:
ナノ構造フィルム21をミラー原盤40から剥離し、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を得る(
図2G)。なお、ナノ構造フィルム21とミラー原盤40との界面が平坦であるのに対し、ナノ構造フィルム21と、マスターフィルム10の反転凹凸樹脂層11との界面はナノ構造の表面凹凸により面積が広く、アンカー効果もはたらくため、ナノ構造フィルム21は、ミラー原盤40よりもマスターフィルム10の反転凹凸樹脂層11と密着する。このため、ナノ構造フィルム21はミラー原盤40から容易に剥離することができる。
【0037】
(ナノ構造付き成形体の製造方法)
マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を用いてナノ構造付き成形体100Aを製造する方法としては、熱可塑性樹脂成形体50にナノ構造をもたせるために、該熱可塑性樹脂成形体50の成形型を使用する方法と、その成形型を使用しない方法をあげることができる。
【0038】
熱可塑性樹脂成形体にナノ構造をもたせるために、該熱可塑性樹脂成形体50の成形型を使用する方法としては、熱可塑性樹脂成形体50の成形型の内面にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を配置し、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1のナノ構造フィルム21が表面に溶着した熱可塑性樹脂成形体を製造し、次いでマスターフィルム10を剥離する方法をあげることができる。一方、熱可塑性樹脂成形体にナノ構造をもたせるために成形型を使用しない方法としては、TOM法(Three-dimension Over-lay Method)等をあげることができる。
【0039】
より具体的には、上述の成形型を使用する方法としてはインモールド転写法等をあげることができる。この場合、成形型の内面にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を、そのマスターフィルム10を成形型の内面に対向するように配置し、成形型に溶融した熱可塑性樹脂を注入して熱可塑性樹脂成形体50を成形すると共に熱可塑性樹脂成形体50にナノ構造フィルム21を溶着してもよく、また、成形型を用いて熱可塑性樹脂成形体50を成型した後に熱可塑性樹脂成形体を成形型から取り出し、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1をその成形型の内面に配置し、ナノ構造フィルム21を熱可塑性樹脂成形体50に溶着してもよい。ナノ構造フィルム21はフィルム厚が1〜10μmと薄く、柔軟性に優れているため、いずれの方法でもナノ構造フィルム21を熱可塑性樹脂成形体50の表面にシワ無く溶着させることができる。また、溶着後にマスターフィルム10を剥離するまで、ナノ構造フィルム21のナノ構造はマスターフィルム10で保護されているため、ナノ構造が損傷を受けることが回避される。
【0040】
図3A〜
図3Dはインモールド転写法で熱可塑性樹脂成形体を製造する場合の工程説明図である。この方法では、まず、
図3Aに示すように、転写箔がついた転写シート60としてマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を使用し、可動型61にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を供給する。この場合、ナノ構造フィルム21を固定型62に向ける。
【0041】
次に、
図3Bに示すように、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1をクランプし、可動型61側に吸引する。
【0042】
そして、
図3Cに示すように、固定型62に形成されている樹脂注入口63から溶融した熱可塑性樹脂50aを、可動型61及び固定型62の間のキャビティ空間64に充填し、熱可塑性樹脂成形体50を射出成形する。この成形時にナノ構造フィルム21は、熱可塑性樹脂成形体50に溶着する。
【0043】
その後、
図3Dに示すように、マスターフィルム10を可動型61へ吸引した状態で可動型61を固定型62から離し、熱可塑性樹脂成形体50を取り出す。このとき、ナノ構造フィルム21はマスターフィルム10から剥離し、熱可塑性樹脂成形体50にナノ構造フィルム21が溶着したナノ構造付き成形体100Aが得られる。
【0044】
ナノ構造付き成形体の製造方法の別法としては、例えば、インモールド転写法でナノ構造付き成形体を製造するにあたり、ナノ構造フィルム21を溶着する熱可塑性樹脂成形体50の表面が平坦な場合には、マスターフィルム付きナノ構造フィルムとは別個に転写シートを使用し、転写シートに設ける転写箔としてマスターフィルム付きナノ構造フィルム10を使用する。これにより、
図4に示したように、熱可塑性樹脂成形体50にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を溶着させたナノ構造付き成形体100Bを得ることができる。ナノ構造付き成形体100Bのマスターフィルム10はナノ構造フィルム21から容易に剥離することができるので、マスターフィルム10をナノ構造フィルム21の保護フィルムとして使用することができる。
【0045】
ナノ構造付き成形体の製造方法のうち、TOM法を使用する場合の具体的方法としては、例えば、
図5A〜
図5Dに示すように、上ボックス71と下ボックス72からなる成形機70を使用する方法をあげることができる。上ボックス71には、ヒーター73が設けられている。下ボックス72には、昇降機能付きのテーブル74、熱可塑性樹脂成形体50を載置する受治具75、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1の載置部が設けられている。また、上ボックス71と下ボックス72には給排気管76、77が設けられており、これらは圧空ポンプと真空ポンプに接続されている。
【0046】
この成形機70を使用して熱可塑性樹脂成形体50にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を溶着する場合、まず、下ボックス72の受治具75に熱可塑性樹脂成形体50をセットすると共にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1をセットする(
図5A)。次に、上ボックス71を降下させて上ボックス71と下ボックス72を閉じ、これらの内部を真空にし(
図5B)、ヒーター73で成形機70内を加熱し、テーブル74を上昇させ、上ボックス71内に圧縮空気を導入し、熱可塑性樹脂成形体50にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1のナノ構造フィルム21を溶着する(
図5C)。このとき、テーブル74の上昇位置を調整して熱可塑性樹脂成形体50の所定の面にのみナノ構造フィルム21を溶着させる。次いで、
図5Dに示すように上ボックス71でマスターフィルム10を吸引しつつ、テーブル74を下降させる。これによりマスターフィルム10がナノ構造フィルム21から剥離し、熱可塑性樹脂成形体50にナノ構造フィルム21が溶着したナノ構造付き成形体100Aを得る。
【0047】
上述のように種々の方法でナノ構造付き成形体を製造するにあたり、ナノ構造フィルムとして、その表裏両面にナノ構造を有するものを使用してもよい。
図6に示すように、表裏両面にナノ構造22、22Bを有するナノ構造フィルム21Bを使用し、これを熱可塑性樹脂成形体50に溶着することにより、ナノ構造付き成形体100Cの表面及び内部にナノ構造22、22Bを設けることができる。このナノ構造付き成形体100Cによれば、反射防止特性を一層改善することができる。
【0048】
この表面及び内部にナノ構造22、22Bを有するナノ構造付き成形体100Cは、表裏両面にナノ構造を有するナノ構造フィルム21Bとマスターフィルム10が剥離可能に積層しているマスターフィルム付きナノ構造フィルム1Bを用いて、前述のナノ構造付き成形体100Aと同様に製造することができる。
【0049】
また、表裏両面にナノ構造を有するマスターフィルム付きナノ構造フィルム1Bは、前述のマスターフィルム付きナノ構造フィルム1の製造方法の工程3でマスターフィルム10を形成し、それを原盤30から剥離し(
図2D)、工程4でマスターフィルム10の表面凹凸の形成面に第2の光硬化性樹脂21pを塗布するときに、
図7に示すように、塗布した第2の光硬化性樹脂21pの表面を第2の構造体26に対して反転した表面凹凸を有するロール状の第2の原盤32で押さえつつマスターフィルム10側から紫外線を照射して第2の光硬化性樹脂21pを硬化させればよい。これにより、
図8に示すように、表裏両面にナノ構造22、22Bを有するナノ構造フィルム21Bとマスターフィルム10が積層したマスターフィルム付きナノ構造フィルム1Bを得ることができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0051】
実施例1
図2A〜
図2Gに示した工程でマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を製造した。この場合、ベースフィルム12としてTACフィルム(厚み60μm)を使用し、このTACフィルムに紫外線硬化性樹脂を塗布し、TACフィルム上の紫外線硬化樹脂層に、ロールガラス原盤30の表面に形成したナノ構造の表面凹凸を転写し、光硬化させることにより反転凹凸樹脂層11を形成することでマスターフィルム10を得た。原子間力顕微鏡(AFM)を用いた測定により、反転凹凸樹脂層11の厚さは3μm、反転凹凸樹脂層11におけるナノ構造体のピッチは150〜230nm、深さは250〜300nmであった。次に、このマスターフィルム10のナノ構造面である反転凹凸樹脂層11に、無機膜であるSiを厚さ20nm、スパッタリング法にて形成し、その無機膜の形成面とロール型のミラー原盤40との間に紫外線硬化性樹脂を充填し、光硬化させることによりナノ構造フィルム21を形成し、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1を得た。ナノ構造フィルム21の厚さは3μmであった。また、ナノ構造フィルム21は反転凹凸樹脂層11と同様の紫外線硬化性樹脂から形成した。
【0052】
このマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を、曲率半径80mmのガラス製レンズ型とPMMA板材(厚さ1.0mm)との間に、ナノ構造フィルム21がこの板材と接するように配置し、温度180℃に加熱して板材を変形させながら、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1のナノ構造フィルム21側を板材に溶着した。
【0053】
この板材を放冷後、レンズ型から取り出し、マスターフィルム10を剥がすと板材の表面にナノ構造フィルム21がしわなく、汚染されずに溶着されていることを確認できた。このナノ構造フィルム21面の反射スペクトルを分光光度計により測定し、視感反射率Yを計算したところ0.4%であり、優れた反射防止性能が確認できた。この反射スペクトルを
図9に示す。
【0054】
比較例1
実施例1と同様に形成したマスターフィルム10を、曲率半径80mmのガラス製レンズ型とPMMA板材(厚さ1.0mm)との間に、TACフィルムが板材と接するように配置し、温度180℃に加熱して板材を変形させながらマスターフィルム10を板材に溶着した。その結果、マスターフィルム10のナノ構造面の汚染が確認された。また、マスターフィルム10の溶着直後は外観にしわや剥がれがなかったが、溶着後の放冷開始から数分程度で全体面積の30%程度のはがれの発生が確認された。
【0055】
実施例2
実施例1よりも曲率半径の小さい板材にマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を溶着できるようにするため、実施例1においてTACフィルム(厚さ60μm)に代えてPMMAフィルム(厚み150μm)を使用し、それ以外は実施例1と同様にしてマスターフィルム10を作製し、それにナノ構造フィルム21を形成することでマスターフィルム付きナノ構造フィルム1を作製した。
【0056】
また、曲率半径80mmのガラス製レンズ型に代えて曲率半径15mmのガラス製レンズ型を使用し、実施例1と同様にしてPMMA板材(厚さ1.0mm)に、マスターフィルム付きナノ構造フィルム1のナノ構造フィルム21側を溶着した。
【0057】
この板材を放冷後、レンズ型から取り出し、マスターフィルム10を剥がすと、板材の表面にナノ構造フィルムがしわなく、汚染されずに溶着されていることを確認できた。このナノ構造フィルム21面の反射スペクトルから視感反射率Y値を実施例1と同様に求めたところ0.4%であり、優れた反射防止性能が確認できた。
【0058】
比較例2
実施例2と同様に形成したマスターフィルム10を、曲率半径15mmのガラス製レンズ型とPMMA板材(厚さ1.0mm)との間にPMMAフィルムが板材に接するように配置し、温度180℃に加熱して板材を変形させながらマスターフィルム10を板材に溶着した。その結果
、放冷開始直後に、マスターフィルム10のナノ構造面である反転凹凸樹脂層11の、R形状に沿った輪帯上のほぼ全面にクラックが入る等の外観不良が確認された。