特許第6693090号(P6693090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693090
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】2次スライム処理の管理方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 15/06 20060101AFI20200427BHJP
   E02D 5/34 20060101ALI20200427BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20200427BHJP
   E02D 5/18 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   E02D15/06 101
   E02D5/34 Z
   E02D5/20 102
   E02D5/18 102
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-217677(P2015-217677)
(22)【出願日】2015年11月5日
(65)【公開番号】特開2017-89158(P2017-89158A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2018年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】喜多 直之
(72)【発明者】
【氏名】荒川 真
【審査官】 富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−154821(JP,A)
【文献】 特開平06−316929(JP,A)
【文献】 特開昭58−202809(JP,A)
【文献】 特開平04−016620(JP,A)
【文献】 米国特許第04180350(US,A)
【文献】 中国特許出願公開第103031848(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 15/06
E02D 5/18
E02D 5/20
E02D 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
安定液を満たした掘削孔にて1次スライム処理および2次スライム処理を実施した後、前記掘削孔にコンクリートを打設して場所打ちコンクリート造の構造物を構築する方法における、2次スライム処理の管理方法であって、
1次スライム処理後に安定液を所定時間静置して、浮遊していた沈降速度の遅い砂分の沈降が進んだところで開始し、
孔底近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルによる、安定液の砂分率の定点測定を一定時間ごとに繰り返し行い、前記孔底近傍の安定液の砂分率が、施工現場ごとに定められた管理基準値以下となることを確認する工程と、
少なくとも孔口近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルによる、安定液の砂分率の定点測定を行い、同時刻に測定した孔底近傍の安定液の砂分率と同一もしくは近似する数値となることを確認する工程と、を備え、
両工程の確認が終了するまで、前記2次スライム処理を継続することを特徴とする2次スライム処理の管理方法。
【請求項2】
安定液を満たした掘削孔にて1次スライム処理および2次スライム処理を実施した後、前記掘削孔にコンクリートを打設して場所打ちコンクリート造の構造物を構築する方法における、2次スライム処理の管理方法であって、
1次スライム処理後に安定液を所定時間静置して浮遊していた沈降速度の遅い砂分の沈降が進んだところで開始し、
孔底近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルによる、安定液の砂分率の定点測定を一定時間ごとに繰り返し行い、前記孔底近傍の安定液の砂分率が施工現場ごとに定められた管理基準値以下となることを確認する工程と、
少なくとも孔底近傍の安定液の比重と孔口近傍の安定液の比重の定点測定を、孔底近傍及び孔口近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルにより行い、同時刻に測定した両者の比重が、施工現場ごとに定められた管理基準値の範囲内に収まることを確認する工程と、を備え、
両工程の確認が終了するまで、前記2次スライム処理を継続することを特徴とする2次スライム処理の管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定液を満たした掘削孔にて1次スライム処理および2次スライム処理を実施する際の、2次スライム処理の管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤中に現場打ちコンクリート杭や地中連続壁等のコンクリート構造物を構築するにあたり、安定液を供給しつつ地中を掘削して柱状もしくは溝状の掘削孔を形成する工法では、掘削完了後、掘削孔内の安定液を所要時間静置して安定液中に浮遊する土砂分を沈殿させ、孔底に堆積してスライムとなった土砂分を除去する1次スライム処理を行う。また、コンクリートの打設前には、1次スライム処理後に孔底に堆積してスライムとなった沈降速度の遅い砂分を、安定液と共に吸引除去する2次スライム処理を行う。
【0003】
そして、例えば、特許文献1には、杭孔の底部に堆積したスライムを杭孔内の安定液とともに吸引し、杭孔外に排出するためのスライム除去装置が開示されている。
【0004】
このようなスライム除去装置を利用した2次スライム処理の管理方法は、一般に、スライム処理装置から排出される孔底近傍の安定液に対して砂分率の測定を行う、もしくは、孔底近傍の安定液を採取して砂分率の測定を行う、などして孔底近傍における安定液の砂分率が、所定の管理基準値以下になるまでスライムの除去処理を継続する、というものである。
【0005】
しかし、上記の2次スライム処理の管理方法では、杭孔中間部や杭孔口部近傍の安定液について状態把握を行っていないため、2次スライム処理終了後からコンクリートの打設作業前の間に不慮の時間を要した場合、浮遊していた砂分が沈降して孔底にスライムが堆積する可能性があり、構築後のコンクリート構造物に対して、スライムに起因する沈下や先端支持力の低下を招く恐れが生じる。
【0006】
このような中、例えば、特許文献2には、杭孔の底部に注入袋体を配置した状態で上方にコンクリートを打設し、コンクリートの硬化後に注入袋体内に注入材を注入して杭先端から下方に向けて膨張させることで孔底地盤にプレロードを与え、孔底地盤をあらかじめ圧縮させて杭先端の強化を図る、場所打ちコンクリート杭工法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−120067号公報
【特許文献2】特許3688546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に開示された方法によれば、注入袋体の膨張により、注入袋体の下方にスライムが存在していたとしてもこれを押出し排出することができ、また、杭先端地盤を圧縮させることにより、地盤の応力開放の改善を図ることができるため、場所打ちコンクリート杭の初期沈下を小さくすることが可能となる。
【0009】
しかし、特許文献2の方法では、杭先端地盤にプレロード圧を作用させる作業が煩雑であるとともに、プレロード圧の大きさや圧力保持時間の長さ等を設定する方法が確立されておらず、また、孔底に堆積したスライムを十分押し出し排出できたか否かについて確認することも容易ではない。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、安定液を満たした掘削孔にコンクリートを打設して場所打ちコンクリート造の構造物を施工する方法において、2次スライム処理終了後の安定液を静置しても、孔底にスライムの堆積をほぼ生じない、2次スライム処理の管理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明の2次スライム処理の管理方法は、安定液を満たした掘削孔にて1次スライム処理および2次スライム処理を実施した後、前記掘削孔にコンクリートを打設して場所打ちコンクリート造の構造物を構築する方法における、2次スライム処理の管理方法であって、1次スライム処理後に安定液を所定時間静置して、浮遊していた沈降速度の遅い砂分の沈降が進んだところで開始し、孔底近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルによる、安定液の砂分率の定点測定を一定時間ごとに繰り返し行い、前記孔底近傍の安定液の砂分率が、施工現場ごとに定められた管理基準値以下となることを確認する工程と、少なくとも孔口近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルによる、安定液の砂分率の定点測定を行い、同時刻に測定した孔底近傍の安定液の砂分率と同一もしくは近似する数値となることを確認する工程と、を備え、両工程の確認が終了するまで、前記2次スライム処理を継続することを特徴とする。
【0012】
上述する本発明の2次スライム処理の管理方法によれば、前記孔底近傍の安定液の砂分率が施工現場ごとに定められた管理基準値以下となることを確認するとともに、孔口近傍の安定液の砂分率を孔底近傍の安定液の砂分率と同一もしくは近似する数値とすることで、2次スライム処理終了後の掘削孔内全体の安定液について、砂分率を施工現場ごとに定められた管理基準値以下とし、時間の経過とともに沈降する可能性の高い砂分が大幅に低減された状態にすることができる。これにより、2次スライム処理後からコンクリート打設作業までに多大な時間を要した場合にも、コンクリートの打設直前時における掘削孔の孔底には、スライムの堆積をほぼ生じない。したがって、構築後の構造物に対して、スライムに起因する沈下および先端支持力の低下を抑制することが可能となる。
【0013】
また、2次スライム処理終了後の安定液は、掘削孔内全域の砂分率が一様に管理された状態にあるため、コンクリート打設時の置換不良を生じることがなく、高品質の現場打ちコンクリート造の構造物を構築することが可能となる。
【0014】
本発明の2次スライム処理の管理方法は、安定液を満たした掘削孔にて1次スライム処理および2次スライム処理を実施した後、前記掘削孔にコンクリートを打設して場所打ちコンクリート造の構造物を構築する方法における、2次スライム処理の管理方法であって、1次スライム処理後に安定液を所定時間静置して浮遊していた沈降速度の遅い砂分の沈降が進んだところで開始し、孔底近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルによる、安定液の砂分率の定点測定を一定時間ごとに繰り返し行い、前記孔底近傍の安定液の砂分率が施工現場ごとに定められた管理基準値以下となることを確認する工程と、少なくとも孔底近傍の安定液の比重と孔口近傍の安定液の比重の定点測定を、孔底近傍及び孔口近傍に設置したサンプラーから採取したサンプルにより行い、同時刻に測定した両者の比重が、施工現場ごとに定められた管理基準値の範囲内に収まることを確認する工程と、を備え、両工程の確認が終了するまで、前記2次スライム処理を継続することを特徴とする。
【0015】
上述する本発明の2次スライム処理の管理方法によれば、比重と砂分率が相関関係にあることから、2次スライム処理の管理を砂分率のみで行う方法と同様に、スライムの堆積抑制効果やコンクリートとの良好な置換機能を保持効果が得られるとともに、2次スライム処理終了後の安定液が、掘削孔内全域の比重を一様に管理された状態にあるため、施工現場で地盤条件のことなる掘削孔ごとに、掘削孔内全体の安定液が良好な性状を有しているか否かの評価を行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、2次スライム処理終了後の掘削孔内全体の安定液を、時間の経過とともに沈降する可能性の高い砂分が大幅に低減された状態にすることができる。これにより、2次スライム終了後からコンクリート打設作業までに多大な時間を要した場合にも、掘削孔の孔底にスライムの堆積をほぼ生じることなく、構築後の構造物に対して、スライムに起因する沈下および先端支持力の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】1次スライム処理終了後の掘削孔を示す図である。
図2】掘削孔内の安定液の状態を示すグラフである。
図3】2次スライム処理実施中の掘削孔を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の2次スライム処理の管理方法は、地盤中に場所打ちコンクリート造の構造物を構築する工法であって、安定液が満たされた掘削孔にて1次スライム処理および2次スライム処理を実施する工程を含む工法に採用するものである。したがって、アースドリル工法、リバース工法、オールケーシング工法等の場所打ち杭工法や地中連続壁工法に採用可能であり、掘削孔の形状も、柱状もしくは溝状のいずれでもよく、構築される構造物も地中連続壁や基礎杭等いずれでもよい。
【0019】
また、掘削孔を満たす安定液は、ベントナイト安定液やポリマー安定液等いずれでもよく、地盤状況や打設しようとするコンクリートの性状等に応じて、孔壁の安定保持性、掘削土砂の分離性およびコンクリートの置換性を考慮し、適宜配合したものを採用すればよい。
【0020】
本実施の形態では、アースドリル工法にて場所打ちコンクリート杭を構築するべく、地中に柱状の掘削孔を形成し、その内方をベントナイト系の安定液で満たした場合を事例として、図1図3を参照しつつ以下に説明する。
【0021】
図1で示すように、掘削孔1は、対象地盤の表層7に対してケーシング3を建込んだ後、土質に適合した安定液2を注入しながら図示しないドリリングバケットを回転させて掘削されたもので、支持層8まで根入れ掘削されている。また、掘削作業の終了後には、一定時間静置して安定液2中に浮遊する土砂分を自然沈降させ、掘削孔1の孔底に堆積してスライムとなった土砂分を、底浚いバケット等にて地上に排出する1次スライム処理を行っている。
【0022】
掘削孔1の安定液2中には、図2(a)の深度と比重の関係を示すグラフからわかるように、1次スライム処理終了時(時点t1)に沈降しなかった沈降速度の遅い微細な砂分が浮遊しており、深度方向全体の比重が高い状態にある。そして、掘削孔1の安定液2を所定時間静置すると(時点t2)、安定液2中を浮遊していた微細な砂分が徐々に沈降するため、深度方向全体で比重も徐々に低下し、沈降した砂分がスライムとして孔底に堆積していく様子がわかる。
【0023】
このため、掘削孔1に対する2次スライム処理は、1次スライム処理後に安定液2を所定時間静置して浮遊していた沈降速度の遅い砂分の沈降が進んだところ(時点t2)で開始する。なお、2次スライム処理を開始する時刻(時点t2)の選定方法としては、例えば、図1で示すように、掘削孔1の孔口近傍における特定深度にサンプラー61を設置し、一定時間ごとに安定液2を採取して比重の定点測定を行う。そして、安定液2中に浮遊する砂分の沈降速度や安定液2の性状、現場状況等を考慮して、2次スライム処理を開始する基準となる比重を予め設定しておき、定点測定した比重が基準となる比重まで低減した時刻を、2次スライム処理を開始する時刻として選定する方法が採用できる。
【0024】
2次スライム処理は、図3で示すように、孔底に堆積したスライムを安定液2とともにスライム処理装置4にて吸引し、地上に排出する。このとき、孔底近傍に存在する安定液2の吸引と同時に、安定液供給管5を介して吸引した安定液2と同量の安定液2を追加供給し、掘削孔1内における安定液2の液面を常に一定に保持する。
【0025】
なお、追加供給する安定液2は、新たに安定液2として作液した新液、もしくは地上に排出したスライムを含んだ安定液2を、図示しない安定液プラントにて再生したリサイクル液のいずれを採用したものでもよい。また、スライム処理装置4は、一般に2次スライム処理に採用されているサンドポンプ方式、エアリフト方式、サクションポンプ方式等、掘削孔1の孔底に堆積したスライムを安定液2とともに吸引し、地上に排出できる装置であればいずれを採用してもよい。
【0026】
このような2次スライム処理の管理方法は、孔底近傍の安定液2に対して比重と相関関係にある砂分率の測定を一定時間ごとに繰り返し行い、この砂分率が施工現場ごとに定められた管理基準値以下となったところで、2次スライム処理を終了する、という方法である。なお、管理基準値とは、場所打ちコンクリート造の構造物を構築する場合に、施工現場ごとに立てられる施工計画に、安定液の管理方法として記載される数値である。しかし、上述の管理方法では、掘削孔1の孔口部や中間部の砂分率を確認していないため、孔底近傍の安定液2の砂分率が、掘削孔1中の安定液2全体の砂分率を反映しているか否かを評価することができない。
【0027】
一方で、掘削孔1内の安定液2について発明者らは、管理基準値以下まで低減した孔底近傍の安定液2の砂分率と同一もしくは近似する数値まで、孔口近傍における安定液2の砂分率が低減すると、掘削孔1内の安定液2全体について、その砂分率を管理基準値以下とすることができ、これに伴って時間の経過とともに沈降する可能性の高い砂分を大幅に低減した状態とすることが可能となる、との知見を得ている。
【0028】
そこで、本実施の形態では、孔底近傍の安定液2だけでなく掘削孔1内全体の安定液2中の砂分率を把握し、図2(b)の深度と砂分率の関係を示すグラフのように、2次スライム処理終了後(時点t3)の安定液2において、砂分率が深度方向に一様な状態となるよう、以下に示す2次スライム処理の管理方法を採用する。
【0029】
本実施の形態における2次スライム処理の管理方法は、2次スライム処理の管理として現在実施されている、孔底近傍の安定液2に対して砂分率の測定を一定時間ごとに繰り返し行い、この砂分率が施工現場ごとに定められた管理基準値以下となることを確認する工程(以下、従来工程という)を実施した上で、第1の実施の形態もしくは第2の実施の形態で示す工程を追加して行うものである。
【0030】
〈第1の実施の形態〉
本実施の形態の2次スライム処理の管理方法では、孔底近傍の安定液2の砂分率を測定する従来工程に追加して、少なくとも孔口近傍の安定液2の砂分率の測定を行い、孔口近傍の安定液2の砂分率が同時刻に測定した孔底近傍の安定液2の砂分率と同一もしくは近似する数値となることを確認する工程を実施する。そして、孔底近傍の安定液2の砂分率が施工現場ごとに定められた管理基準値以下となることが確認され、かつ、孔口近傍の安定液2の砂分率が、同時刻に測定した孔底近傍の安定液2の砂分率と同一もしくは近似する数値となったことが確認されるまで、2次スライム処理を継続して行う。
【0031】
なお、砂分率の測定は、例えば図3で示すように、孔口近傍と孔底近傍にサンプラー61、62を設置し、一定時間ごとにサンプルを採取して地上にて測定する定点測定を行うとよい。孔口近傍に設置するサンプラー61は、先に述べた2次スライム処理を開始する時刻を選定するべく比重測定を行った特定深度と同一の深度に設定するとよい。また、孔底近傍に設置するサンプラー62は、従来工程にて砂分率を測定する際に、施工現場ごとで立てられる施工計画に安定液の管理方法として定められた深度に設定する。
【0032】
こうすると、コンクリートの打設前に実施する、鉄筋かごを掘削孔1内に建込むとともにトレミー管を挿入するといった作業に手間を要した場合や、不慮の事態によりコンクリートの打設前に大幅な時間を要した場合にも、コンクリートの打設直前時における掘削孔1の孔底に、スライムの堆積をほぼ生じない。これにより、安定液2を長時間静置した場合であっても、従来行われていた、孔底近傍における安定液2を撹拌しスライムを拡散させた上で、コンクリートを打設するといった煩雑な作業を行うことなく、構築後の場所打ちコンクリート杭に対して、スライムに起因する先端支持力の低下を抑制することが可能となる。
【0033】
また、2次スライム処理終了後の安定液2は、掘削孔内全域の砂分率が一様に管理された状態にあるため、安定液が打設中のコンクリートの流動性を損なって巻き込まれるといったコンクリート打設時の置換不良を生じることがなく、高品質の現場打ちコンクリート杭を構築することが可能となる。
【0034】
なお、孔口近傍の安定液2の砂分率が、同時刻に測定した孔底近傍の安定液2の砂分率と近似する数値となったことの判定方法はいずれでもよいが、例えば、安定液2の配合や作液時の性状、地盤条件や施工条件等を考慮した上で許容範囲を設定する。そして、孔口近傍の安定液2の砂分率と同時刻に測定した孔底近傍の安定液2の砂分率との差が、設定した許容範囲内に収まるか否かで判定してもよい。
【0035】
〈第2の実施の形態〉
先にも述べたように、比重と砂分率は相関関係にあることから、第2の実施の形態では、図2(a)の深度と比重の関係を示すグラフのように、2次スライム処理終了後(時点t3)の安定液2において、比重が深度方向に一様な状態となるよう、2次スライム処理の管理方法に砂分率と比重を用いる。
【0036】
具体的には、孔底近傍の安定液2の砂分率を測定する従来工程に追加して、孔底近傍の安定液2の比重と孔口近傍の安定液2の比重の測定を行い、同時刻に測定した両者の比重が、施工現場ごとで定められた管理基準値の範囲内に収まることを確認する工程を実施する。そして、孔底近傍の安定液2の砂分率が管理基準値以下になることが確認され、かつ、孔口近傍の安定液2の比重と同時刻に測定した孔底近傍の安定液2の比重がともに、管理基準値の範囲内に収まったことが確認されるまで、2次スライム処理を継続して行う。
【0037】
なお、比重の測定は第1の実施の形態と同様な深度位置で、孔口近傍と孔底近傍にサンプラー61、62を設置し、一定時間ごとにサンプルを採取して地上にて測定する定点測定を行うとよい。
【0038】
こうすると、第1の実施の形態で示した管理方法と同様に、2次スライム処理の終了後からコンクリートの打設直前までに多大な時間を要した場合にも、掘削孔1の孔底にスライムの堆積をほぼ生じることがなく、コンクリート打設時の置換不良を生じることもない。また、掘削孔内全域の比重が一様に管理された状態にあるため、コンクリートの打設直前時まで、孔壁の崩落を安定して抑制することが可能となる。
【0039】
さらに、2次スライム処理の管理方法は、砂分率だけでなく比重を取り入れることから、施工現場で地盤条件のことなる掘削孔1ごとで、掘削孔1内全体の安定液2が良好な性状を有しているか否かの判定を行うことが可能となる。したがって、例えば、孔底近傍および孔口近傍の安定液2の両者の比重が、あらかじめ設定した時刻を経過しても、管理基準値の範囲内に収まらない場合には、掘削孔1内の安定液2を全量入れ替えるというように、良液置換の必要性を判断する指標とすることも可能となる。
【0040】
本発明における2次スライム処理の管理方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、本実施の形態では、孔底近傍および孔口近傍の2地点にて砂分率および比重を測定したが、これらに追加して掘削孔1の深度方向に異なる位置に複数の測定点を設けてもよい。
【0042】
また、砂分率の測定方法は、電気比抵抗センサを用いる方法や砂分測定器を用いる方法等いずれを採用してもよく、同様に、比重の測定方法も、マッドバランスを用いる方法や浮き子式比重計を用いる方法等いずれを採用してもよい。このように、掘削孔1の深度方向に異なる位置に複数の設置された測定点の安定液2について、同時刻の砂分率および比重を測定できる方法であれば、原位置にて測定する方法もしくはサンプルを採取して地上にて測定する方法のいずれの測定方法を用いてもよい。
【0043】
さらに、サンプルを採取するにあたり、孔底近傍の安定液2については、サンプラーを用いて採取する方法、スライム処理装置4から排出される安定液2を採取する方法のいずれを採用してもよい。
【0044】
また、本実施の形態では、2次スライム処理の終了後に鉄筋かごの建込みを行う方法を示したが、鉄筋かごの建込みを行った後、2次スライム処理を実施する工法に、2次スライム処理の管理方法を採用してもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 掘削孔
2 安定液
3 ケーシング
4 スライム処理装置
5 安定液供給管
61 サンプラー
62 サンプラー
7 表層
8 支持層
図1
図2
図3