【文献】
ZUHL, M. et al.,"Exercise regulation of intestinal tight junction proteins",Br. J. Sports Med.,2014年,vol.48,pp.980-986,全文、特に、ABSTRACT、INTRODUCTION
【文献】
American Journal of Biochemistry and Molecular Biology,2014年 2月,Vol.4, No.2,p.48-63
【文献】
Free Radical Biology & Medicine,2003年,Vol.35, No.3,p.284-291
【文献】
ZUHL, M. N. et al.,"Effects of oral glutamine supplementation on exercise-induced gastrointestinal permeability and tig,J. Appl. Physiol.,2014年,vol.116,pp.183-191,全文、特に、要旨
【文献】
COSTA, K. A. et al.,"L-Arginine supplementation prevents increases in intestinal permeability and bacterial translocatio,J. Nutr.,2014年,vol.144,pp.218-223,全文、特に、Abstract
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
運動誘発性の消化管障害が、運動誘発性の消化管バリア機能低下、運動誘発性の消化管の炎症及び運動誘発性の胃腸の不調から選ばれる少なくとも一つである、請求項1又は2記載の組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献2および3においては、グルタミンおよびアルギニンの長期間の摂取が必要であり、運動時の利用としては煩雑である。さらにグルタミンに関しては、水溶液中の安定性が低く用途が限られる。本発明の目的は、消化管バリア機能低下をはじめとする消化管障害に対して、従来技術と同等以上の改善効果を奏し得、且つ手軽に摂取できる、消化管障害の改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を解決すべく鋭意検討した結果、ヒスチジン、セリン、分岐鎖アミノ酸(ロイシン、イソロイシン、バリン)といったアミノ酸および脂溶性抗酸化剤が消化管障害の改善素材として有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下のとおりである。
(1)セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有する、消化管障害を改善するための経口組成物(以下、「本発明の組成物」とも称する)。
(2)セリンを有効成分として含有する、(1)記載の組成物。
(3)消化管障害が、消化管バリア機能低下、消化管の炎症及び胃腸の不調から選ばれる少なくとも一つである、(1)又は(2)記載の組成物。
(4)消化管障害が、運動誘発性である、(1)〜(3)のいずれか一つに記載の組成物。
(5)ヒトの1回摂取単位量あたり、セリンの含有量が10mg〜10gである、(2)〜(4)のいずれか一つに記載の組成物。
(6)更に、ヒスチジン、アルギニンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する、(2)〜(5)のいずれか一つに記載の組成物。
(7)セリンの含有量が、組成物中の全アミノ酸に対して50重量%以上である、(2)〜(6)のいずれか一つに記載の組成物。
(8)ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有し、
消化管障害が、運動誘発性の消化管バリア機能低下である、(1)記載の組成物。
(9)セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有し、
消化管障害が、運動誘発性の消化管バリア機能低下である、(1)記載の組成物。
(10)バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(8)又は(9)記載の組成物。
(11)セリンおよびヒスチジンを有効成分として含有する、(9)記載の組成物。
(12)ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(8)又は(9)記載の組成物。
(13)イソロイシン、ロイシンおよびバリンの重量比が、1:1.5〜2.5:0.8〜1.7である、(10)又は(12)記載の組成物。
(14)更に、アルギニンおよび/またはセリンを含有する、(8)〜(13)のいずれか一つに記載の組成物。
(15)セリン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(9)記載の組成物。
(16)ヒスチジン、セリン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(9)記載の組成物。
(17)ヒトの1回摂取単位量あたり、有効成分の含有量が0.1〜100gである、(8)〜(16)のいずれか一つに記載の組成物。
(18)運動開始前に少なくとも1回摂取される、(8)〜(17)のいずれか一つに記載の組成物。
(19)運動中または運動終了直後に摂取される、(8)〜(17)のいずれか一つに記載の組成物。
(20)運動開始前に少なくとも1回、運動中または運動終了直後にさらに少なくとも1回摂取される、(8)〜(17)のいずれか一つに記載の組成物。
(21)(1)〜(20)のいずれか一つに記載の組成物を含有する食品または医薬品。
(22)(1)〜(20)のいずれか一つに記載の組成物、および当該組成物を消化管障害の改善に使用することができる、または使用すべきであることを記載した記載物を含む、商業的パッケージ。
(23)セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有する組成物を、それを必要とする対象に少なくとも1回経口投与することを含む、消化管障害の改善方法。
(24)前記組成物が、セリンを有効成分として含有する、(23)記載の方法。
(25)消化管障害が、消化管バリア機能低下、消化管の炎症及び胃腸の不調から選ばれる少なくとも一つである、(23)又は(24)記載の方法。
(26)消化管障害が、運動誘発性である、(23)〜(25)のいずれか一つに記載の方法。
(27)前記組成物が、セリンを、ヒトの1回摂取単位量あたり、10mg〜10g含有する、(24)〜(26)のいずれか一つに記載の方法。
(28)前記組成物が、更に、ヒスチジン、アルギニンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを含有する、(24)〜(27)のいずれか一つに記載の方法。
(29)前記組成物中のセリンの含有量が、組成物中の全アミノ酸に対して50重量%以上である、(24)〜(28)のいずれか一つに記載の方法。
(30)前記組成物が、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有し、
消化管障害が、運動誘発性の消化管バリア機能低下である、(23)記載の方法。
(31)前記組成物が、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有し、
消化管障害が、運動誘発性の消化管バリア機能低下である、(23)記載の方法。
(32)前記組成物が、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(30)又は(31)記載の方法。
(33)前記組成物が、セリンおよびヒスチジンを有効成分として含有する、(31)記載の方法。
(34)前記組成物が、ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(30)又は(31)記載の方法。
(35)イソロイシン、ロイシンおよびバリンの重量比が、1:1.5〜2.5:0.8〜1.7である、(32)又は(34)記載の方法。
(36)前記組成物が、更に、アルギニンおよび/またはセリンを含有する、(30)〜(35)のいずれか一つに記載の方法。
(37)前記組成物が、セリン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(31)記載の方法。
(38)前記組成物が、ヒスチジン、セリン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンを有効成分として含有する、(31)記載の方法。
(39)前記組成物が、有効成分を、ヒトの1回摂取単位量あたり、0.1〜100g含有する、(30)〜(38)のいずれか一つに記載の方法。
(40)前記組成物を、運動開始前に少なくとも1回摂取する、(30)〜(39)のいずれか一つに記載の方法。
(41)前記組成物を、運動中または運動終了直後に摂取する、(30)〜(39)のいずれか一つに記載の方法。
(42)前記組成物を、運動開始前に少なくとも1回、運動中または運動終了直後にさらに少なくとも1回摂取する、(30)〜(39)のいずれか一つに記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の組成物は、消化管障害を改善するために好適に用いられる。とりわけ、本発明の組成物は、運動誘発性の消化管障害を改善するために効果的に用いられる。
本発明の組成物は、一態様として、運動選手のトレーニング中のコンディションを維持するために好適に用いられる。とりわけ、本発明の組成物は、運動誘発性の消化管バリア機能の低下を改善するために効果的に用いられる。
また、本発明の組成物は、安全性が高く副作用がほとんどないため、極めて有利である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において「消化管障害」とは、消化管(咽頭、食道、胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸)における組織の損傷及び機能低下、並びにそれらに起因して発現する症候をいい、例えば、消化管バリア機能低下、消化管の炎症及び胃腸の不調等が挙げられる。
【0012】
消化管上皮細胞を介する物質の輸送経路は、細胞内(transcellular)および細胞間(paracellular)経路に大別される。細胞内経路は、細胞膜上の輸送体やチャンネルを介して栄養素の吸収に寄与する。一方、細胞間経路は、隣接する細胞同士の接着分子により選択的透過性が制御され、カルシウムなどのミネラル類吸収に役立つとともに、管腔内に大量に存在する腸内細菌や食事由来の抗原に対しては、体内に侵入させないバリア機能を示す。この選択的透過性を担う接着分子構造がタイトジャンクションである。タイトジャンクションは、上皮細胞側底膜の刷子縁膜近傍に局在する、巨大なタンパク質複合体であり、occludinやclaudinなどの膜貫通型タンパク質とzonula occludensなどの細胞内裏打ちタンパク質から構成される。
【0013】
本発明において「消化管バリア機能低下」とは、消化管の上皮細胞間のバリアが破綻することをいい、消化管の透過性が亢進して異物、腸内細菌または腸内細菌が産生する毒素等が消化管を通じて体内に侵入しやすい状態をいう。消化管バリア機能の低下は、例えば、運動時に消化管への血液の供給が減少すること等によって引き起こされると考えられている。また消化管バリア機能の低下は、例えば体温の上昇等によっても引き起こされると考えられている。消化管バリア機能の低下の模式図を
図1に示す。
【0014】
消化管バリア機能の低下およびその改善の有無は、消化管のバリア機能が正常に維持されている場合は消化管内から体内への移行が抑制されるが、消化管のバリア機能が低下した場合に消化管を透過して血中に移行する程度の分子量(例えば、分子量4000程度)を有する標識された化合物を動物に経口投与し、血中の標識化合物の量(濃度)を測定することによって確認することができる。ヒトの場合は、マンニトール、ラムノース、ラクチュロースなどの非代謝性糖分子の腸粘膜の透過量を測定することによって確認することができる。
【0015】
本発明において「消化管の炎症」には、消化管において認められる炎症であれば、原因等を問わず包含される。当該炎症は急性及び慢性のいずれであってもよい。また、発赤、疼痛、発熱、腫張等の炎症症状の一つ以上を伴うものであってもよいし、又はこれらの炎症症状を伴わないものであってもよい。
【0016】
本発明において「胃腸の不調」とは、胃腸において発生する病的症状、及び、胃腸の機能低下に起因して発生する病的症状の総称であり、例えば、胃の痛み、吐き気、下痢等が挙げられる。
【0017】
本発明において「運動誘発性の消化管障害」とは、運動(特に、激しい運動)に伴って発現する消化管障害をいう。ここで「激しい運動」とは、例えば長時間の運動、連日の運動、相対的に高強度の運動、または、高温下等の過酷な環境での運動などをいう。消化管障害が運動誘発性であるか否かの判別方法としては、例えば、TNF−αの有意な上昇は確認できないが、消化管障害が起きている場合、その消化管障害は運動誘発性であると判別し得る。消化管障害が運動誘発性であるか否かの判別は、TNF−αだけでなく、例えば、体温上昇、血液不足、炎症の発生(特に、TNF−αの上昇が顕著ではない炎症)等から判別してもよい。
【0018】
本発明において「運動誘発性の消化管バリア機能低下」とは、運動(特に、激しい運動)に伴って発現する消化管バリア機能の低下をいう。
「運動誘発性の消化管バリア機能低下」は、運動による体温上昇や血流低下が主要因だと考えられている。一方、ストレス性の腸疾患や炎症性腸疾患は炎症に起因するものであり、これらと運動誘発性の消化管バリア機能の低下とは、メカニズムや状態において異なると考えられる。
【0019】
本発明において「運動誘発性の消化管の炎症」とは、運動(特に、激しい運動)に伴って発現する消化管の炎症をいう。また「運動誘発性の胃腸の不調」とは、運動(特に、激しい運動)に伴って発現する胃腸の不調をいう。
【0020】
本発明において「改善」とは、「予防または治療」を含む意である。例えば、消化管障害の一種である「運動誘発性のバリア機能低下」を例に挙げて説明すると、運動誘発性のバリア機能低下の「改善」とは、運動時に運動誘発性の消化管バリア機能の低下を有意に抑制すること、運動誘発性の消化管バリア機能の低下に伴う運動時または運動後の吐き気や消化能力の低下を有意に抑制すること、運動後の食欲低下を有意に抑制すること、腸内細菌や細菌由来の毒素の体内への侵入を防ぎ体調悪化を緩和することをいう。
また本発明において、消化管の炎症又は胃腸の不調の「予防」とは、消化管の炎症又は胃腸の不調が発症することを防止又は遅延させることを意味し、「治療」とは、消化管の炎症又は胃腸の不調の症状を軽減すること、或いは症状の進行(悪化)を防止又は遅延させることを意味する。
【0021】
本発明の組成物に有効成分として含まれるアミノ酸である、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンは、それぞれ、L−体、D−体、DL−体のいずれも使用可能であるが、好ましくは、L−体、DL−体であり、さらに好ましくは、L−体である。
また、前記アミノ酸は、遊離体のみならず、塩の形態でも使用することができる。塩の形態としては、酸付加塩や塩基との塩等を挙げることもでき、薬理上許容される塩を選択することが好ましい。
セリンの塩としては、例えば、無機塩基との塩、無機酸との塩、有機酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸等との塩が挙げられる。
ヒスチジンの塩としては、例えば、無機塩基との塩、無機酸との塩および有機酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。
イソロイシン、ロイシンおよびバリンの分岐鎖アミノ酸にそれぞれ付加して薬理上許容される塩を形成する酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、硫酸、リン酸等の無機酸;酢酸、乳酸、クエン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、モノメチル硫酸等の有機酸が挙げられる。
イソロイシン、ロイシンおよびバリンの分岐鎖アミノ酸の薬理上許容される塩基としては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の金属の水酸化物又は炭酸化物、あるいはアンモニア等の無機塩基;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、エタノールアミン、モノアルキルエタノールアミン、ジアルキルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基が挙げられる。
【0022】
本発明の組成物に有効成分として含まれる脂溶性抗酸化剤は、消化管障害を改善し得る作用を有するものであれば特に制限されないが、例えば、クロロゲン酸化合物、α−リポ酸化合物、ビタミンE、アスタキサンチン等が挙げられ、好ましくは、クロロゲン酸化合物、α−リポ酸化合物である。
【0023】
本発明において用いられるクロロゲン酸化合物は、キナ酸の5位の水酸基にカフェ酸がエステル結合した5−カフェオイルキナ酸(クロロゲン酸)およびその誘導体を含む。当該誘導体としては、例えば、キナ酸の4位の水酸基にカフェ酸がエステル結合した4−カフェオイルキナ酸(クリプトクロロゲン酸)、キナ酸の3位の水酸基にカフェ酸がエステル結合した3−カフェオイルキナ酸(ネオクロロゲン酸)、キナ酸の3位、4位及び5位の水酸基のうちのいずれか二つにカフェ酸がエステル結合したジカフェオイルキナ酸(イソクロロゲン酸)、キナ酸の3位、4位及び5位の水酸基のうちのいずれか一つにフェルラ酸がエステル結合したフェルリルキナ酸、キナ酸の3位、4位及び5位の水酸基のうちのいずれか二つにカフェ酸とフェルラ酸がそれぞれエステル結合したフェルリルカフェオイルキナ酸等が挙げられる。また、これらの生理学的に許容される塩(例、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等)、エステル、アミドを使用してもよい。本発明において用いられるクロロゲン酸化合物は、これらのうちのいずれか一つの化合物であっても、又は二つ以上の化合物の混合物であってもよい。本発明において用いられるクロロゲン酸化合物は、好ましくはクロロゲン酸である。
【0024】
本発明において用いられるα−リポ酸化合物は、α−リポ酸(チオクト酸(1,2−ジチオラン−3−ペンタノン酸))及びその誘導体を含む。当該誘導体としては、例えば、ジヒドロリポ酸(6,8−ジメルカプトオクタン酸)等が挙げられる。また、これらの生理学的に許容される塩(例、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等)、エステル、アミドを使用してもよい。本発明において用いられるα−リポ酸化合物は、これらのうちのいずれか一つの化合物であっても、又は二つ以上の化合物の混合物であってもよい。本発明において用いられるα−リポ酸化合物は、好ましくはα−リポ酸である。
【0025】
脂溶性抗酸化剤(例えば、クロロゲン酸化合物、α−リポ酸化合物等)は、天然から抽出されたものを使用してよく、又は工業的に化学合成されたものを使用してもよい。市販品を使用してもよく、簡便であることから好ましい。
【0026】
本発明の組成物は、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤(例えば、クロロゲン酸化合物、α−リポ酸化合物等)からなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有するものである。本発明の組成物は、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる2つ以上の組み合わせを有効成分として含有するものであってもよい。本発明の組成物は、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有するものであってもよく、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる群より選ばれる2つ以上の組み合わせを有効成分として含有するものであってもよい。
【0027】
本発明の組成物は、セリンを必須の有効成分として含有するものであってもよい。この場合、本発明の組成物は、更に、ヒスチジン、アルギニンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを、有効成分として含有するものであってもよい。
【0028】
本発明の組成物は、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを、必須の有効成分として含有するものであってもよい。この場合、本発明の組成物は、更に、アルギニンおよび/またはセリンを、有効成分として含有するものであってもよい。
【0029】
本発明の組成物に有効成分として含まれ得るアルギニンは、L−体、D−体、DL−体のいずれも使用可能であるが、好ましくは、L−体、DL−体であり、さらに好ましくは、L−体である。
アルギニンの塩としては、無機塩基との塩、無機酸との塩および有機酸との塩等が挙げられる。無機塩基との塩としては、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩等が挙げられる。無機酸との塩としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等)、硫酸、硝酸、リン酸等との塩が挙げられる。有機酸との塩としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等との塩が挙げられる。
【0030】
本発明の組成物は、セリンを必須成分とし、ヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンからなる群より選ばれる少なくとも1種のアミノ酸を有効成分として含有するものであってもよい。
【0031】
好ましい有効成分(アミノ酸、脂溶性抗酸化剤)の組合せとしては、
セリンおよびヒスチジン;セリンおよびアルギニン;またはヒスチジンおよびアルギニンの2種のアミノ酸;
ヒスチジンおよびクロロゲン酸化合物(好ましくは、クロロゲン酸);
バリン、ロイシンおよびイソロイシンの3種のアミノ酸;
セリン、バリン、ロイシンおよびイソロイシン;またはヒスチジン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンの4種のアミノ酸;
ヒスチジン、セリン、バリン、ロイシンおよびイソロイシンの5種のアミノ酸が挙げられる。
【0032】
本発明の組成物の、前記有効成分(アミノ酸、脂溶性抗酸化剤)の含有量は、消化管障害(例、運動誘発性の消化管バリア機能の低下等)の改善効果の観点から、ヒトに適用する場合1回摂取単位量あたり、好ましくは0.1g以上であり、より好ましくは0.5g以上、特に好ましくは1g以上である。また、実際の摂取における、摂取しやすさの観点から、上記含有量は好ましくは100g以下であり、より好ましくは10g以下である。本発明において、アミノ酸の含有量の計算は、アミノ酸が塩を形成する場合、その塩を遊離体に換算した上で行うものとする。
前記有効成分の含有量とは、例えば、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシン及び脂溶性抗酸化剤からなる群から選ばれる1つのみを、組成物中に有効成分として含有する場合は、1回摂取単位量あたりの当該1つの成分の含有量をいう。セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシン及び脂溶性抗酸化剤からなる群から選ばれる2つ以上の組み合わせを、組成物中に有効成分として含有する場合には、1回摂取単位量あたりの前記組み合わせの合計量をいう。ここで、「1回摂取単位量」とは、1回に摂取または投与される量である。
【0033】
本発明の組成物がセリンを有効成分として含有する場合、セリンの含有量は、消化管障害の改善効果の観点から、ヒトに適用する場合1回摂取単位量あたり、好ましくは10mg以上であり、より好ましくは50mg以上、特に好ましくは100mg以上である。また、実際の摂取における、摂取しやすさの観点から、上記含有量は、好ましくは10g以下であり、より好ましくは5g以下である。
【0034】
本発明の組成物がセリンを有効成分として含有する場合、セリンの含有量は、本発明の組成物中の全アミノ酸に対して、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは20重量%以上であり、特に好ましくは50重量%以上である。この場合、セリンの含有量は、本発明の組成物中の全アミノ酸に対して、好ましくは100重量%以下であり、より好ましくは95重量%以下であり、特に好ましくは90重量%以下である。
【0035】
本発明の組成物がヒスチジンを有効成分として含有する場合、ヒスチジンの含有量は、消化管障害の改善効果の観点から、ヒトに適用する場合1回摂取単位量あたり、好ましくは10mg以上であり、より好ましくは50mg以上、特に好ましくは100mg以上である。また、実際の摂取における、摂取しやすさの観点から、上記含有量は、好ましくは10g以下であり、より好ましくは5g以下である。
【0036】
本発明の組成物がヒスチジンを有効成分として含有する場合、ヒスチジンの含有量は、本発明の組成物中の全アミノ酸に対して、好ましくは10重量%以上であり、より好ましくは20重量%以上であり、特に好ましくは50重量%以上である。この場合、ヒスチジンの含有量は、本発明の組成物中の全アミノ酸に対して、好ましくは100重量%以下であり、より好ましくは95重量%以下であり、特に好ましくは90重量%以下である。
【0037】
本発明の組成物は、有効成分として、イソロイシン、ロイシンおよびバリンの3種の分岐鎖アミノ酸の混合物(本発明ではBCAAと省略する場合がある)を含有してもよい。かかる3種のアミノ酸の配合比は、それぞれ重量比で、通常、イソロイシン:ロイシン:バリン=1:1.5〜2.5:0.8〜1.7の範囲であり、特に好ましくは1:1.9〜2.2:1.1〜1.3の範囲である。
【0038】
本発明の組成物がBCAAを有効成分として含有する場合、BCAAの含有量は、消化管障害の改善効果の観点から、ヒトに適用する場合1回摂取単位量あたり、好ましくは10mg以上であり、より好ましくは50mg以上であり、特に好ましくは100mg以上である。また、実際の摂取における、摂取しやすさの観点から、上記含有量は、好ましくは10g以下であり、より好ましくは5g以下である。
【0039】
本発明の組成物がBCAAを有効成分として含有する場合、BCAAの含有量は、本発明の組成物中の全アミノ酸に対して、好ましくは50重量%以上であり、より好ましくは60重量%以上であり、特に好ましくは70重量%以上である。この場合、BCAAの含有量は、本発明の組成物中の全アミノ酸に対して、好ましくは100重量%以下であり、より好ましくは95重量%以下であり、特に好ましくは90重量%以下である。
【0040】
本発明の組成物がクロロゲン酸化合物を有効成分として含有する場合、クロロゲン酸化合物の含有量は、消化管障害の改善効果の観点から、ヒトに適用する場合1回摂取単位量あたり、好ましくは1mg以上であり、より好ましくは5mg以上、特に好ましくは50mg以上である。また、実際の摂取における、摂取しやすさの観点から、上記含有量は、好ましくは10g以下であり、より好ましくは5g以下である。
【0041】
本発明の組成物がα−リポ酸化合物を有効成分として含有する場合、α−リポ酸化合物の含有量は、消化管障害の改善効果の観点から、ヒトに適用する場合1回摂取単位量あたり、好ましくは10mg以上であり、より好ましくは50mg以上、特に好ましくは100mg以上である。また、実際の摂取における、摂取しやすさの観点から、上記含有量は、好ましくは10g以下であり、より好ましくは5g以下である。
【0042】
本発明の組成物がヒスチジンおよびセリン、またはヒスチジンおよびBCAAを含有する場合、ヒスチジンに対するセリンまたはBCAAの比は、それぞれ重量比で、通常、ヒスチジン:セリンまたはBCAA=1:0.1〜5の範囲である。セリンおよびBCAAを含有する場合、セリンに対するBCAAの比は、通常、セリン:BCAA=1:0.1〜5の範囲である。
【0043】
本発明の組成物がヒスチジン、セリンおよびBCAAを含有する場合、アミノ酸の配合比は、それぞれ重量比で、通常、ヒスチジン:セリン:BCAA=1:0.1〜5:0.1〜5の範囲である。
【0044】
本発明の組成物がセリンおよびアルギニンを含有する場合、セリンとアルギニンとの比は、それぞれ重量比で、通常、セリン:アルギニン=1:0.1〜10の範囲であり、好ましくは、1:0.2〜5の範囲である。
【0045】
本発明の組成物がヒスチジンおよびアルギニンを含有する場合、ヒスチジンとアルギニンとの比は、それぞれ重量比で、通常、ヒスチジン:アルギニン=1:0.1〜10の範囲であり、好ましくは、1:0.2〜5の範囲である。
【0046】
本発明の組成物がヒスチジンおよび脂溶性抗酸化剤(例えば、クロロゲン酸化合物等)を含有する場合、ヒスチジンと脂溶性抗酸化剤との比は、それぞれ重量比で、通常、ヒスチジン:脂溶性抗酸化剤=1:0.001〜5の範囲であり、好ましくは、1:0.01〜2の範囲である。
【0047】
本発明の組成物は、消化管潰瘍の治療薬と併用することもできる(以下、併用薬と称することもある)。併用薬としては、消化器疾患の治療において通常用いられる治療薬であれば特に限定されず、具体的には、レバミピドなどが挙げられる。
【0048】
本発明の組成物は、乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌と併用することもできる。具体的にはVSL#3(登録商標)などが挙げられる。
【0049】
本発明の組成物は、グルタミンやアルギニンと併用することもできる。
【0050】
本発明の組成物は、その適用対象としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サル等)が挙げられる。なお、ヒト以外の哺乳動物に適用する場合、本発明の組成物の摂取量は、動物の体重もしくは大きさに応じて適宜設定すればよい。
【0051】
本発明の組成物は、通常、経口で使用されるが、対象の症状に応じて経腸経管投与、輸液による投与等の投与経路を経ることができる。経口で使用される場合の剤形としては、顆粒剤、細粒剤、粉剤、被覆錠剤、錠剤、散剤、(マイクロ)カプセル剤、チュアブル剤、シロップ、ジュース、液剤、懸濁剤、乳濁液等が挙げられる。
【0052】
これら剤形への調製は、常法により製剤化することによって行われる。製剤上の必要に応じて、薬理学的に許容し得る各種の製剤用物質を配合することができる。製剤用物質は製剤の剤型により適宜選択することができるが、例えば、賦形剤、希釈剤、添加剤、崩壊剤、結合剤、被覆剤、潤滑剤、滑走剤、滑沢剤、矯味剤、風味剤、甘味剤、可溶化剤等が挙げられる。更に、製剤用物質を具体的に例示すると、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、ラクトース、マンニトールおよびその他の糖類、タルク、牛乳蛋白、ゼラチン、澱粉、セルロースおよびその誘導体、動物および植物油、ポリエチレングリコール、および溶剤、例えば滅菌水および一価又は多価アルコール、例えばグリセロール等を挙げることができる。
【0053】
本発明の組成物の摂取量または投与量は、対象の症状、年齢、体重もしくは剤形、摂取方法又は投与方法などによっても異なるが、成人1日あたり、ヒスチジン0.005g/kg体重〜5g/kg体重、セリン0.005g/kg体重〜5g/kg体重、イソロイシン0.005g/kg体重〜5g/kg体重、ロイシン0.01g/kg体重〜10g/kg体重、バリン0.005g/kg体重〜5g/kg体重、脂溶性抗酸化剤(例えば、クロロゲン酸化合物、α−リポ酸化合物等)0.001g/kg体重〜1g/kg体重を目安とする。一般の成人の場合、好ましくは、成人1日あたり、ヒスチジン0.01g/kg体重〜1g/kg体重、セリン0.01g/kg体重〜1g/kg体重、イソロイシン0.01g/kg体重〜1g/kg体重、ロイシン0.02g/kg体重〜2g/kg体重、バリン0.01g/kg体重〜1g/kg体重、脂溶性抗酸化剤0.001g/kg体重〜0.05g/kg体重、より好ましくは、ヒスチジン0.02g/kg体重〜0.2g/kg体重、セリン0.02g/kg体重〜0.2g/kg体重、イソロイシン0.02g/kg体重〜0.2g/kg体重、ロイシン0.04g/kg体重〜0.4g/kg体重、バリン0.02g/kg体重〜0.2g/kg体重、脂溶性抗酸化剤(例えば、クロロゲン酸化合物、α−リポ酸化合物等)0.003g/kg体重〜0.01g/kg体重であり、有効成分の全体量としては1日あたり0.01g/kg体重〜2g/kg体重程度が好ましい。本発明の組成物がアルギニンを含有する場合、アルギニンの摂取量または投与量は、成人1日あたり、通常0.005g/kg体重〜5g/kg体重、好ましくは0.01g/kg体重〜1g/kg体重である。上記1日あたりの量は一度にもしくは数回に分けて摂取または投与することができる。本発明の組成物は、運動前、運動後、運動中のいずれに摂取または投与しても構わない。本発明の組成物の摂取または投与時期は、好ましくは、運動開始前、運動中または運動終了直後である。運動終了直後とは、運動終了後1時間以内をいう。また摂取または投与回数は、少なくとも1回である。運動開始前に少なくとも1回、運動中または運動終了直後にさらに少なくとも1回摂取または投与することが、より好ましい。摂取または投与期間は特に限定されないが、本発明の組成物は、運動前の1回投与で有意にその効果を奏することができる。
【0054】
本発明の組成物が、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤(例えば、クロロゲン酸化合物、α−リポ酸化合物等)からなる群より選ばれる2つ以上を有効成分として含有するものである場合、これらの有効成分は、それぞれが単独で、若しくは任意の組み合わせで製剤に含有されていてもよく、又は全てが1種の製剤中に含有されていてもよい。また各々を投与するタイミングも、同時であっても別々であってもよい。併用する薬剤がある場合は、その種類や効果によって適宜投与のタイミングを決定する。即ち、本発明の組成物は、少なくとも2種の有効成分を同時に含有する製剤であってもよく、又、それぞれを別途製剤化して併用するような併用剤であってもよい。特に、同一製剤中に全ての有効成分を含有する態様が、簡便に投与できて好ましい。
【0055】
本発明において、「重量比」とは、製剤中のそれぞれの成分の重量の比を示す。例えば、少なくとも2種の有効成分を1つの製剤中に含めた場合には、個々の含有量の比であり、各有効成分のそれぞれを単独で又は任意の組み合わせで複数製剤中に含めた場合には、各製剤に含められる各有効成分の重量の比である。
【0056】
また本発明において、実際の投与量の比は、適用対象あたりの各有効成分1回投与量あるいは1日投与量の比である。例えば、少なくとも2種の有効成分を1つの製剤中に含め、それを適用対象に投与する場合には、重量比が投与量比に相当する。各有効成分を単独で又は任意の組み合わせで複数の製剤中に含めて投与する場合には、1回あるいは1日投与した各製剤中の各有効成分の合計量の比が重量比に相当する。
【0057】
さらに、本発明の組成物は、各種食品に添加して使用することができる。食品に添加する場合には、本発明の組成物を添加する以外に制限はなく、一般的な食事形態であれば如何なるものでも良い。例えば、適当な風味を加えてドリンク剤、例えば清涼飲料、粉末飲料とすることもできる。具体的には、例えば、ジュース、牛乳、菓子、ゼリー、ヨーグルト、飴等に添加して飲食することができる。
また、このような本発明の組成物を添加した食品を、保健機能食品またはダイエタリーサプリメントとして提供することも可能である。この保健機能食品には、特定保健用食品および栄養機能食品なども含まれる。特定保健用食品は、例えば、消化管障害の改善など、特定の保健の目的が期待できることを表示できる食品である。また、栄養機能食品は、1日あたりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が、国が定めた上限下限値の規格基準に適合している場合その栄養成分の機能の表示ができる食品である。ダイエタリーサプリメントには、いわゆる栄養補助食品または健康補助食品などが含まれる。本発明において、特定保健用食品には、消化管障害などの用途に用いるものであるという表示を付した食品、さらには、かかる用途に用いるものである旨を記載した書類(いわゆる効能書き)などをパッケージとして包含する食品なども含まれるものとする。
【0058】
さらに、本発明の組成物を濃厚流動食や、食品補助剤に添加して利用することも可能である。食品補助剤に添加する場合、他の成分とともに例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。本発明における食品補助剤とは、食品として摂取されるもの以外に栄養を補助する目的で摂取されるものをいい、栄養補助剤、サプリメントなどもこれに含まれる。
【0059】
なお、「濃厚流動食」とは、1kcal/ml程度の濃度に調整され、長期間の単独摂取によっても著しい栄養素の過不足が生じないよう、各栄養素の質的構成が十分考慮され、1日の栄養所要量をもとに設計された総合栄養食品(液体状食品)である。
【0060】
本発明の組成物は、単位包装形態とすることができる。本発明において「単位包装形態」とは、特定量(例えば、1回摂取単位量等)を1単位として、該1単位又は2単位以上が一つの包装に収容された形態をいい、例えば、1回摂取単位量を1単位とする単位包装形態は、「1回摂取単位量あたりの単位包装形態」と称する。単位包装形態に用いられる包装は、組成物の形態等に応じて適宜選択し得るが、例えば、紙容器、プラスチック容器、アルミ缶、スチール缶、ガラス瓶、ペットボトル、PTPシート等が挙げられる。
【0061】
本発明においては、セリン、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシン及び脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有する、消化管障害(例えば、運動誘発性の消化管バリア機能低下等)を改善するための経口組成物には、消化管障害(例えば、運動誘発性の消化管バリア機能低下等)の改善に使用することができる、または使用すべきであることを記載した記載物を含む、商業的パッケージも含まれる。
【0062】
本発明の組成物は、それを必要とする対象に少なくとも1回経口投与することにより、消化管障害を改善し得る。とりわけ、本発明の組成物は、運動誘発性の消化管障害を効果的に改善し得る。
また本発明の組成物は、それを必要とする対象に少なくとも1回経口投与することにより、消化管バリア機能低下、消化管(好ましくは、小腸(十二指腸、空腸、回腸))の炎症、及び、胃腸の不調を改善し得る。とりわけ、本発明の組成物は、運動誘発性の消化管バリア機能低下、運動誘発性の消化管の炎症、及び、運動誘発性の胃腸の不調を効果的に改善し得る。
本発明の組成物は、セリンを有効成分として含有する場合、消化管障害(好ましくは、運動誘発性の消化管障害)を改善するために特に好適に用いられる。本発明の組成物は、ヒスチジン、バリン、ロイシン、イソロイシンおよび脂溶性抗酸化剤からなる群より選ばれる少なくとも一つを有効成分として含有する場合、消化管バリア機能低下(好ましくは、運動誘発性の消化管バリア機能低下)を改善するために特に好適に用いられる。
【0063】
本発明は、本発明の組成物を、それを必要とする対象に少なくとも1回経口投与することを含む、消化管障害(例えば、消化管バリア機能低下、消化管の炎症及び胃腸の不調等)の改善方法も提供する。
また、本発明は、本発明の組成物を、それを必要とする対象に少なくとも1回経口投与することを含む、運動誘発性の消化管障害の改善方法も提供する。
これらの方法は、医療行為を除くものであってよい。ここで「医療行為」とは、医師又は歯科医師によって、あるいは、医師又は歯科医師の指導監督の下で行われる、ヒトを治療、手術又は診断する行為をいう。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の実施範囲はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0065】
実施例1 ヒスチジンの運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善する効果
通常はあまり消化管から吸収されない高分子物質は、消化管のバリア機能が低下していると腸管を透過し血液中に入っていくことが知られている(
図1)。そこで、下記のような試験にて、アミノ酸の運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善する効果を検討した。
7週齢の雄性CD2F1マウス(日本チャールス・リバー株式会社)に各種アミノ酸またはその塩の水溶液を1g/kg体重の用量で投与し、その30分後に回転車内で4時間走行させた(速度10.5m/min)。走行終了後にFITC−デキストラン(平均分子量4000;FD4、シグマ アルドリッチ ジャパン)を500mg/kg体重の用量で経口投与し、1時間経過後に採血を行った(
図2)。Cani et al., Gut 2009, 58(8):1091−1103に記載の方法に従って、消化管から血液中へ漏出したFD4濃度を、血液中の蛍光強度を測定して算出することにより、FD4の消化管透過性の評価を行った(
図3)。具体的には、マウスよりイソフルラン麻酔下にて血液を採取した。血液を遠心分離し、血漿を得た。その後、血漿をリン酸緩衝液にて2倍希釈し励起波長485nm検出波長535nmの条件で蛍光強度を測定した(測定機器 SPECTRA MAX GEMINI EM モレキュラーデバイス ジャパン)。
図4に結果を示す。水を投与して4時間の運動をさせた群(Water)では、非運動群(Sed)の動物と比較して、血液中のFD4濃度は上昇していた。この結果から、4時間の走行によって消化管バリア機能が低下し、高分子量の物質が血液中に多く流入したことが確認された。炭水化物であるマルトデキストリンを1g/kg体重の用量で投与した群(CHO)では、血液中のFD4濃度は低下しなかったことから炭水化物の摂取では消化管のバリア機能は改善されないことが判明した。一方、L−ヒスチジン塩酸塩投与群(HisHCL)ではFD4濃度が低下していたことから、ヒスチジンは運動誘発性の消化管バリア機能低下を抑制することがわかった。その効果は、L−グルタミン投与群(Gln)やL−アルギニン塩酸塩投与群(ArgHCL)よりも高かった。
【0066】
実施例2 BCAAの運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善する効果
実施例1と同様にして、各種アミノ酸の運動誘発性の消化管バリア機能低下に対する効果を調べた。
0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC−Na)を溶媒として分散させた分岐鎖アミノ酸(L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン=2:1:1)を1g/kg体重で投与して運動させた群(BCAA、Ex)では、溶媒のみを投与して運動させた群(CMC−Na、Ex)と比較して、有意に血液中のFD4濃度を低下させた(
図5)。この結果から、BCAAが運動誘発性の消化管バリア機能の改善効果を有することが認められた。
【0067】
実施例3 α−リポ酸、クロロゲン酸の運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善する効果
走行中に足の爪が剥がれる怪我を防止するため、マウスの爪を短く切ったこと以外は実施例1と同様にして、α−リポ酸及びクロロゲン酸の運動誘発性の消化管バリア機能低下に対する効果を調べた。
0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC−Na)を溶媒として分散させたα−リポ酸を80mg/kg体重で投与して運動させた群(α−lipoic acid)、及び0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC−Na)を溶媒として分散させたクロロゲン酸を50mg/kg体重で投与して運動させた群(chlorogenic acid)では、溶媒のみを投与して運動させた群(CMC−Na)と比較して、血中FD4濃度の上昇が抑えられた(
図6)。この結果から、α−リポ酸及びクロロゲン酸は、それぞれ運動誘発性の消化管バリア機能低下の緩和効果を有することが認められた。
【0068】
実施例4 ヒスチジンと他のアミノ酸との併用効果
実施例3と同様にして、L−ヒスチジンと他のアミノ酸との併用効果について調べた。
L−セリン(用量:0.25g/kg体重)及びL−ヒスチジン塩酸塩(用量:0.25g/kg体重)の水溶液を投与して運動させた群(0.25g/kg His+0.25g/kg Ser)、並びに、L−アルギニン塩酸塩(用量:0.25g/kg体重)及びL−ヒスチジン塩酸塩(用量:0.25g/kg体重)の水溶液を投与して運動させた群(0.25g/kg Arg+0.25g/kg His)では、L−ヒスチジン塩酸塩(用量:0.5g/kg体重)水溶液を投与して運動させた群(0.5g/kg His)と比較して、血中FD4濃度の上昇が抑えられた(
図7)。この結果から、運動誘発性の消化管バリア機能低下の緩和効果は、ヒスチジンを単独で投与する場合よりも、セリン又はアルギニンを併用する場合の方が高まることが明らかとなった。
【0069】
実施例5 セリンの運動誘発性の消化管バリア機能低下を改善する効果
実施例1と同様にして、L−セリンとグリシンの運動誘発性の消化管バリア機能低下に対する効果を調べた。その結果、L−セリンを1g/kg体重で投与して運動させた群では水を投与して運動させた群と比較して有意に血中FD4濃度が低下した。一方で、グリシンを1g/kg体重で投与して運動させた群では血中FD4濃度の低下は見られなかった(
図8)。この結果から、セリンは運動誘発性の消化管バリア機能低下の緩和効果を有することが認められた。
【0070】
実施例6 セリンの消化管バリア機能低下を改善する効果
7週齢の雄性CD2F1マウス(日本チャールス・リバー株式会社)に、水又はL−セリン水溶液(用量:1g/kg体重)を投与し、その30分後に回転車内で4時間走行させた(速度:10.5m/min)。走行終了後にFITC−デキストラン(平均分子量:4000;FD4、シグマ アルドリッチ ジャパン)を500mg/kg体重の用量で経口投与し、1時間経過後に採血を行った(
図2)。なお、水投与後に走行させなかった群(Sed)は走行群と同じく絶食及び絶水を行った。Cani et al., Gut 2009, 58(8):1091−1103に記載の方法に従って、消化管から血液中へ漏出したFD4濃度を、血液中の蛍光強度を測定して算出することにより、FD4の消化管透過性の評価を行った(
図3)。具体的な測定方法は、実施例1と同様である。また、血漿中のエンドトキシン濃度をトキシノメーター(登録商標)ET−6000(和光純薬工業株式会社)を用いて測定した。
図9に、FD4の消化管透過性の評価結果を示す。水を投与して4時間の運動をさせた群(Water)では、非運動群(Sedentary)と比較して、血液中のFD4濃度は上昇していた。この結果から、4時間の運動によって消化管バリア機能が低下し、高分子量の物質であるFD4が血液中に多く流入したことが確認された。一方、L−セリン水溶液を投与して4時間の運動をさせた群(Ser 1.0g/kg)では、血液中のFD4濃度が低下していたことから、L−セリンは運動誘発性の消化管バリア機能低下を抑制することがわかった。
また、
図10に、血漿中のエンドトキシン濃度の測定結果を示す。
図10に示すように、毒素の一つであるエンドトキシンの血中濃度は、水を投与して4時間の運動をさせた群(Water)では上昇していたが、L−セリン水溶液を投与して4時間の運動をさせた群(Ser 1.0g/kg)では上昇がみられなかった。
以上の結果から、セリンは消化管バリア機能の低下を改善することが明らかとなった。
【0071】
実施例7 セリンの消化管の炎症を抑制する効果
実施例6と同様に、7週齢の雄性CD2F1マウス(日本チャールス・リバー株式会社)に、水又はL−セリン水溶液(用量:1g/kg体重)を投与し、その30分後に回転車内で4時間走行させた(速度10.5m/min)。走行終了後に血漿を採取し、血液中のインターロイキン6(IL−6)濃度、血清アミロイドA(SAA2)濃度を、それぞれMouse IL−6 ELISA Ready−SET−Go!(eBioscience社)、MOUSE SERUM AMYLOID A ELISA TEST KIT(Life Diagnostics社)を用いて測定した。IL−6、SAA2は、それぞれ炎症の指標である。また、走行終了後のマウスから小腸を採取し、小腸(空腸、回腸)におけるIL−6遺伝子発現量をリアルタイムPCR法にて測定した(ハウスキーピングとしてGAPDH遺伝子を用いた)。
図11及び12に、血液中のIL−6濃度及びSAA2濃度の測定結果を示す。水を投与して4時間の運動をさせた群(Water)では、非運動群(「Sedentary」又は「Sed」)の動物と比較して、血液中のIL−6濃度及びSAA2濃度は上昇していた(
図11及び12)。この結果から、4時間の運動によって炎症が惹起されていることが判明した。L−セリン水溶液を投与して4時間の運動させた群(「Ser 1.0g/kg」又は「Ser」)では、血液中のIL−6濃度及びSAA2濃度が低下していた。
図13に空腸におけるIL−6遺伝子発現量の測定結果を、
図14に回腸におけるIL−6遺伝子発現量の測定結果を示す。水を投与して4時間の運動をさせた群(Water)では、非運動群(Sedentary)の動物と比較して、空腸及び回腸のいずれにおいてもIL−6遺伝子発現量が増加していた。この結果から、4時間の運動によって、小腸において炎症が惹起されていることが判明した。L−セリン水溶液を投与して4時間の運動させた群(Ser 1.0g/kg)では、空腸及び回腸のいずれにおいてもIL−6遺伝子発現量が低下していた。
以上の結果から、セリンは消化管の炎症を抑制する効果を有することが明らかとなった。
【0072】
実施例8 セリンと他のアミノ酸との併用効果
7週齢の雄性CD2F1マウス(日本チャールス・リバー株式会社)に、水、L−セリン水溶液(用量:0.5g/kg体重)、L−セリン(用量:0.25g/kg体重)及びL−ヒスチジン塩酸塩(用量:0.25g/kg体重)の水溶液、あるいは、L−セリン(用量:0.25g/kg体重)及びL−アルギニン塩酸塩(用量:0.25g/kg体重)の水溶液を投与し、その30分後に回転車内で4時間走行させた(速度10.5m/min)。
走行終了後にFD4を500mg/kg体重の用量で経口投与し、1時間経過後に採血を行った。Cani et al., Gut 2009, 58(8):1091−1103に記載の方法に従って、消化管から血液中へ漏出したFD4濃度を、血液中の蛍光強度を測定して算出することにより、FD4の消化管透過性の評価を行った。具体的な測定方法は、実施例1と同様である。
また走行終了後に血漿を採取し、血液中のIL−6濃度を、Mouse IL−6 ELISA Ready−SET−Go!(eBioscience社)を用いて測定した。
図15に、FD4の消化管透過性の評価結果を、
図16に、血液中のIL−6濃度の測定結果を示す。これらの結果から、消化管バリア機能の低下を改善する効果及び消化管の炎症を抑制する効果は、セリンを単独で投与する場合よりも、ヒスチジン又はアルギニンを併用する場合の方が高まることが明らかとなった。
【0073】
実施例9 L−ヒスチジンと脂溶性抗酸化剤との併用効果
実施例8と同様にして、L−ヒスチジンと脂溶性抗酸化剤(クロロゲン酸)との併用効果について調べた。
L−ヒスチジン塩酸塩(用量:0.5g/kg体重)及びクロロゲン酸(用量:50mg/kg体重)の水溶液を投与して運動させた群(Ex−His+chlorogenic acid)は、L−ヒスチジン塩酸塩(用量:0.5g/kg体重)水溶液を投与して運動させた群(Ex−His 0.5g/kg)及びクロロゲン酸(用量:50mg/kg体重)の水溶液を投与して運動させた群(Ex−chlorogenic acid)と比較して、血中FD4濃度の上昇が抑えられた(
図17)。この結果から、運動誘発性の消化管バリア機能低下の緩和効果は、ヒスチジン及び脂溶性抗酸化剤をそれぞれ単独で投与する場合よりも、これらを併用する場合の方が高まることが明らかとなった。