(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記補完帯域決定部は、前記第1基準周波数が所定の周波数よりも低い場合に、前記所定の周波数を前記第1基準周波数としたときに決定される帯域幅よりも、前記補完帯域決定部にて決定する前記帯域幅を狭くする
請求項7に記載の信号処理装置。
前記第1の信号列生成部は、前記第1の信号列生成部の出力信号の各周波数成分を、前記第1の信号列生成部の入力信号に対応する各周波数成分の共役複素数に、前記第1の係数列を乗じて生成する
請求項10に記載の信号処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本開示の一態様を得るに至った経緯)
まず、本開示の一態様を得るに至った経緯について、
図1および
図2を参照しながら説明する。
【0016】
図1の(a)は、旧世代の収音機器で録音された信号の周波数成分を示す図である。
図1の(a)において、横軸は時間、縦軸は周波数で、色が明るいほど信号が強いことを示している。
図1の(a)に示されるように、旧世代の収音機器で録音された信号には、低い周波数成分は記録されているが、高い周波数成分はほとんど記録されていない。
【0017】
図1の(b)は、MP3(MPEG Audio Layer−3)によって圧縮符号化された信号の周波数成分を示す図である。
図2に示されるように、MP3によって圧縮符号化された信号は、所定の周波数よりも高い周波数成分は除去されている。
【0018】
本開示では、このように高域の周波数成分が不十分である(不足している)音声信号に対し、高域の周波数成分を補完することで、再生信号の高音質化を図る信号処理装置等を提供する。以下、従来の信号処理方法および実施の形態に係る信号処理方法の違いを概略的に説明する。
【0019】
図2は、従来の信号処理方法および実施の形態に係る信号処理方法の違いを示す概念図である。
【0020】
図2の(a)には、ハープなどの楽器の原音の周波数スペクトルが示されている。
図2の(a)に示すように、音声信号には、周波数軸(横軸)方向に所定の間隔で並ぶ複数の調波成分が現れる。この図には、例えば数100Hzの間隔で並ぶ調波成分が高域まで連続的に続いている様子が示されている。
【0021】
図2の(b)には、原音の音声信号のうち、高域の調波成分が欠落した音声信号の周波数スペクトルが示されている。調波成分は、周波数Fよりも低域側である数kHzの帯域(中域)に存在しているが、周波数Fよりも高域側にはほとんど存在していない。
【0022】
図2の(c)には、従来技術を用いて、高域の調波成分を補完した後の周波数スペクトラムが示されている。この従来技術では、
図2の(b)に示す音声信号に対して、音声信号の中域の調波成分を単に高域に複写することで、高域の調波成分を補っている。
【0023】
しかしながら、中域の調波成分を高域に複写する方法では、複写元の周波数領域と複写先の周波数領域との境目(
図2の(c)では8kHz付近)で不自然な段差が生じる。この段差が生じるのは、中域の周波数の振幅が高域の周波数の振幅より大きいために、単に中域の周波成分を複写すると境目にて不連続となる部分が生じるからである。そのため、上記境目において周波数成分に不自然さが残り、再生信号を高音質化できない。
【0024】
また、高域の調波成分を補完する他の方法として、1/2にダウンサンプリングされた信号を2倍にアップサンプリングする際に、低域の周波数成分を高域の周波数成分に折り返して、高域の調波成分を補う方法もある(特許文献2の
図6参照)。しかしながら、ダウンサンプリングおよびアップサンプリングの関係が、整数分の1および整数倍の関係でない場合、例えば、2.03分の1にダウンサンプリングされた信号を2.03倍にアップサンプリングする場合には、多大な演算能力を必要とする。また、低域の周波数成分を高域の周波数成分に折り返す際の折り返しの基準となる周波数Fが時間とともに変動する場合には、タイミングによっては補完に必要な信号を取得できないことがあり、高域の調波成分を補うことが困難となる。
【0025】
図2の(d)には、本実施の形態の信号処理方法を用いて、高域の調波成分を補完した後の周波数スペクトラムが示されている。
【0026】
本実施の形態では、
図2の(d)に示すように、音声の周波数信号のうち、所定の周波数Fをよりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号に、周波数Fを対称軸として周波数Fより高い周波数領域に折り返す処理を行っている。これにより、折り返しを行う周波数F近辺で不自然な段差が生じにくくなっている。また、本実施の形態では、音声の周波数信号を分析し、その分析結果に基づいて折り返しの基準となる周波数Fを決定する。そのため、折り返しの基準となる周波数Fを、時間とともに変動する音声信号に応じて決めることができ、補完に必要な信号を取得することができる。これらにより、本実施の形態の信号処理方法では、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0027】
以下、本実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも本開示の一具体例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、使用手順、通信手順等は、一例であり、本開示を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、各図は、必ずしも厳密に図示したものではない。各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0028】
(実施の形態1)
[1−1.信号処理装置の構成]
実施の形態1に係る信号処理装置1の構成について、
図3を参照しながら説明する。
【0029】
図3は、実施の形態1に係る信号処理装置1の構成を示す図である。
【0030】
信号処理装置1は、補完帯域決定部12と、第1の係数列出力部13と、第1の信号列生成部14と、第1の信号出力部15とを備える。また、信号処理装置1は、周波数変換部10と、メモリ11と、周波数逆変換部16と、を備える。
【0031】
周波数変換部10は、周波数変換部10に入力された音声の時間軸信号を音声の周波数信号に変換する回路である。
【0032】
メモリ11は、周波数変換部10から出力された周波数信号を記憶する回路である。なお、音声の周波数信号とは、周波スペクトルを表すデジタル信号である。
【0033】
補完帯域決定部12は、メモリ11から周波数信号を受け取り、この周波数信号に基づいて第1基準周波数F1と帯域幅Wとを決定する回路である。
【0034】
第1基準周波数F1とは、前述した折り返し処理を行う際の折り返しの基準となる周波数である。補完帯域決定部12は、音声の周波数信号を取得して分析し、周波数成分のエネルギが大幅に低下する周波数を第1基準周波数F1として決定する。帯域幅Wとは、調波成分を補完する際の補完領域を決めるための周波数の幅である。補完帯域決定部12は、第1基準周波数F1の値に応じて、補完すべき帯域幅Wを決定する。補完帯域決定部12は、第1の係数列出力部13および第1の信号列生成部14のそれぞれに、決定した第1基準周波数F1および帯域幅Wに関する情報を出力する。
【0035】
第1の係数列出力部13は、第1の係数列C1(
図7参照)を生成し出力する回路である。第1の係数列出力部13は、補完帯域決定部12から第1基準周波数F1および帯域幅Wに関する情報を受け取り、第1の係数列C1を生成する。第1の係数列C1とは、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第1基準周波数F1に最も近い調波の信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第1基準周波数F1から離れる信号列に対して第1基準周波数F1から離れるほど小さな値をとる係数列である。第1の係数列C1の例としては、初項が1以下であり、初項から単調減少する等差列または等比列が挙げられる。
【0036】
なお、第1の係数列出力部13は、演算によって生成された係数列を出力してもよいし、予めメモリ11に記憶された係数列を読み出して出力してもよいし、あるいは図示しない第1の係数列出力部13の内部の記憶領域に記憶された係数列を出力してもよい。
【0037】
第1の信号列生成部14は、高域の調波成分を補完するための折り返し信号列ST1を生成する回路である。
【0038】
第1の信号列生成部14は、メモリ11から上記周波数信号を受け取り、補完帯域決定部12から第1基準周波数F1および帯域幅Wに関する情報を受け取り、ならびに、第1の係数列出力部13から第1の係数列C1に関する情報を受け取る。
【0039】
そして、第1の信号列生成部14は、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1の係数列C1を乗ずる乗算処理を行う。乗算処理は、周波数信号の各信号列SL1と、各信号列SL1に対応する第1の係数列C1の各係数とを掛けあわせることで実行される。また、第1の信号列生成部14は、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す折り返し処理を行う。第1の信号列生成部14は、これら両方の処理を行うことで、折り返し信号列ST1を生成し、出力する。第1の信号列生成部14は、これら両方の処理を同時に行ってもよいし、順不同に行ってもよい。
【0040】
第1の信号出力部15は、補完された周波数信号を出力する回路である。第1の信号出力部15は、第1の信号列生成部14から折り返し信号列ST1に関する情報を受け取る。そして、第1の信号列生成部14は、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1を折り返し信号列ST1に置き換えることで、補完された周波数信号を生成し出力する。
【0041】
周波数逆変換部16は、補完された周波数信号を音声の時間軸信号に逆変換して出力する回路である。具体的には、周波数逆変換部16は、第1の信号出力部15から出力され、周波数逆変換部16に入力された音声の周波数信号を音声の時間軸信号に逆変換する。この信号処理装置1によれば、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0042】
[1−2.信号処理方法]
次に、本実施の形態に係る信号処理方法および信号処理装置1の詳細な構成について、
図3に加え、
図4〜
図15を参照しながら説明する。
【0043】
図4は、実施の形態1に係る信号処理方法を示すフローチャート、および、信号処理方法を示す概念図である。
【0044】
図4に示すように、本実施の形態に係る信号処理方法は、音声の時間軸信号を周波数信号に変換する変換ステップ(S10)と、第1基準周波数F1および帯域幅Wを決定する帯域決定ステップ(S20)と、第1の係数列C1を出力する係数列出力ステップ(S30)と、折り返し信号列ST1を生成する信号列生成ステップ(S40)と、周波数信号の信号列SH1を折り返し信号列ST1に置き換えることで、補完された周波数信号を出力する信号出力ステップ(S50)と、補完された周波数信号を音声の時間軸信号に逆変換する逆変換ステップ(S60)とを含む。以下、各ステップについて順に説明する。
【0045】
まず、変換ステップ(S10)にて、周波数変換部10は、周波数変換部10に入力された音声の時間軸信号を音声の周波数信号に変換して出力する。周波数変換部10は、例えばフーリエ変換を用いて、入力された時間軸信号を複素数の周波数信号に変換する。なお、上記は一例に過ぎず、周波数変換部10は、フィルタバンクなどを用いて時間軸信号を周波数信号に変換してもよい。周波数変換部10から出力された信号は、メモリ11に格納される。
【0046】
図5は、信号処理装置1のメモリ11に格納された周波数信号を示す概念図である。
【0047】
図5には、サンプリング周波数48kHzの時間軸信号が256ポイントの複素フーリエ級数に変換されてメモリ11に格納された状態が示されている。サンプリング周波数が48kHzなので、周波数分解能は93.75Hz(=24000/256)である。メモリ11には、この周波数分解能で、ナイキスト周波数である24kHzまで256ポイントの複素周波数信号が格納される。
【0048】
次に、帯域決定ステップ(S20)にて、補完帯域決定部12は、メモリ11に格納された周波数信号に基づいて、第1基準周波数F1および帯域幅Wを決定する。
【0049】
第1基準周波数F1は、第1基準周波数F1より低い周波数成分の大きさを示す低域成分値PLと、第1基準周波数F1より高い周波数成分の大きさを示す高域成分値Phとを比較した場合に、低域成分値PLが高域成分値Phより十分に大きな値となる場合の周波数である。
【0050】
図6は、高域の周波数成分が欠落した周波数信号の一例を示す図である。例えば
図6では、周波数8kHzを境目として低域には周波数成分が多く、高域には周波数成分が少ないので、第1基準周波数F1は8kHzとなる。
【0051】
ここで、第1基準周波数F1を求める手順の一例を以下に示す。まず、補完帯域決定部12は、第1基準周波数F1の候補となる候補周波数Fxを仮に6kHzと設定する。そして(式1)に示すように、候補周波数Fx以下の周波数成分の大きさの和を低域成分値PLとして求める。
【0052】
PL=ΣRe[i]*Im[i]・・・(式1)
式1におけるiは、6kHzの信号が格納されているメモリ11(
図5参照)のインデックス以下のインデックス値である。
【0053】
また、(式2)に示すように、候補周波数Fx以上の周波数成分の大きさの和を高域成分値Phとして求める。
【0054】
Ph=ΣRe[j]*Im[j]・・・(式2)
式2におけるjは、6kHzの信号が格納されているメモリ11(
図5参照)のインデックス以上のインデックス値である。
【0055】
式1および式2に基づいて、補完帯域決定部12は、低域成分値PLが、高域成分値Phよりも所定の閾値以上、例えば24dB以上となる条件を満たす場合に、候補周波数Fxを第1基準周波数F1として決定する。
【0056】
図6に示す周波数成分を有する信号において候補周波数Fxを6kHzに設定した場合には、低域成分値PLが、閾値以上となる条件を満たさないので6kHzという候補周波数Fxを採用しない。そして、候補周波数Fxを異なる値に変更して、閾値以上となる条件を満たす候補周波数Fxを探す。
【0057】
一方、候補周波数Fxを8kHzに設定した場合には、低域成分値PLが閾値以上となる条件を満たすので、8kHzという候補周波数Fxを第1基準周波数F1として決定する。なお上記では、所定の閾値を24dBにしたが、それに限られず、所定の閾値は18dBに設定されてもよい。
【0058】
次に、帯域幅Wについて説明する。補完帯域決定部12は、第1基準周波数F1に応じて帯域幅Wを決定する。帯域幅Wは、例えば、2kHz以上4kHz以下の範囲から決定される。第1基準周波数F1が高い周波数である場合、帯域幅Wは広くてもよいが、第1基準周波数F1が低い周波数である場合、帯域幅Wは狭い方がよい。例えば、第1基準周波数F1が8kHzである場合は、帯域幅Wを2kHzとし、第1基準周波数F1が12kHzである場合は、帯域幅Wを4kHzとしてもよい。このように、第1基準周波数F1が低い周波数である場合に帯域幅Wを狭くするのは、帯域幅Wを広くして低い帯域の周波数成分を折り返し処理すると、再生信号の歪感が煩わしく知覚されるからである。
【0059】
以下、この実施の形態では、第1基準周波数F1が8kHz、帯域幅Wが2kHzである場合を例に挙げて説明する。
【0060】
次に、係数列出力ステップ(S30)にて、第1の係数列出力部13は、上記の第1基準周波数F1および帯域幅Wを補完帯域決定部12から受けとり、第1の係数列C1を生成する。ここで、第1の係数列C1とメモリ11に格納された周波数信号の信号列との関係について説明する。
【0061】
図5に示すメモリ11において、周波数信号の信号列のうち、第1基準周波数F1である8kHz近傍の周波数信号が格納される場所は、7968Hzの信号が格納されている場所(行並び方向における85番目のメモリ内位置)である。また、(第1基準周波数F1−帯域幅W)である6kHz近傍の周波数信号が格納される場所は、5995Hzの信号が格納されている場所(64番目のメモリ内位置)である。また、(第1基準周波数F1+帯域幅W)である10kHz近傍の周波数信号が格納される場所は、9937Hzの信号が格納されている場所(106番目のメモリ内位置)である。
【0062】
第1の係数列C1には、これらのメモリ内位置の各信号列のうち、例えば84番目のメモリ内位置から64番目のメモリ内位置までに格納された21個の各信号列に対応する各係数が含まれている。
【0063】
図7は、第1の係数列出力部13によって生成される第1の係数列C1の一例を示す図である。
図7には、第1の係数列C1として等差列で単調減少する例が示されている。具体的には、第1基準周波数F1に最も近い1番目の信号列に対応する係数は、第1の係数列C1[1]=1.0−(1/21)=0.952であり、第1基準周波数F1から遠く離れた21個目の信号列に対応する係数は、第1の係数列C1[21]=1.0−(21/21)=0.0である。
【0064】
図8は、第1の係数列出力部13によって生成される第1の係数列C1の他の一例を示す図である。
図8には、係数列として等比列で単調減少する例が示されている。具体的には、第1基準周波数F1に最も近い1番目の信号列に対応する係数は、第1の係数列C1[1]=0.8^1=0.8であり、第1基準周波数F1から遠く離れた21個目の信号列に対応する係数は、第1の係数列C1[21]=0.8^21=0.009となる。
【0065】
なお、第1の係数列C1は、上記のような単調減少する係数列に限られず、減少傾向を示す係数列であればよい。以下では、
図7に示す等差列で単調減少する第1の係数列C1を例に挙げて説明する。
【0066】
次に、信号列生成ステップ(S40)にて、第1の信号列生成部14は、折り返し信号列ST1を生成する。具体的には、第1の信号列生成部14は、上記第1基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1の係数列C1を乗ずる乗算処理、および、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行う。
【0067】
図9Aは、信号処理装置1にて実行される乗算処理および折り返し処理を、周波数信号の信号列で示す図である。
図9Bは、第1の信号出力部15が出力する補完された周波数信号を、周波数信号の信号列を用いて示す図である。
【0068】
第1の信号列生成部14は、
図9Aの(a)に示すように、周波数信号の各信号列SL1に対応する第1の係数列C1の各係数を乗じる。そして、第1の信号列生成部14は、
図9Aの(b)に示すように、周波数信号の信号列SL1を、第1基準周波数F1である7968Hzを対称軸として高域側に折り返し、折り返し信号列ST1を生成する。このように周波数信号の信号列SL1に乗算処理および折り返し処理が施された後、第1の信号出力部15から、
図9Bに示すような補完された周波数信号が出力される。
【0069】
なお、第1の信号列生成部14は、折り返し処理を乗算処理の前に行ってもよい。
【0070】
図10は、第1の信号列生成部14にて実行される乗算処理および折り返し処理の他の例を示す図である。
図10には、第1の信号列生成部14が、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す処理を行った後、この処理後の信号列に対して、第1の係数列C1を乗ずる処理を行っている様子が示されている。このように、折り返し処理をした後に乗算処理をすることによっても、折り返し信号列ST1を生成することができる。なお、
図10に示す例では、折り返し処理した後の信号列に乗算処理を行っているが、折り返し処理した後の信号列の中身は帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1であるので、この例でも上記信号列SL1に対して乗算処理をしていることになる。
【0071】
また、第1の信号列生成部14は、これらの乗算処理および折り返し処理を、同時に行ってもよい。すなわち、第1の信号列生成部14は、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返すとともに、第1の係数列C1を乗ずる処理を行ってもよい。
【0072】
次に、信号出力ステップ(S50)にて、第1の信号出力部15は、補完された周波数信号(
図9B参照)を出力する。第1の信号出力部15は、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1を、前述した折り返し信号列ST1に置き換えることで、補完された周波数信号を出力する。
【0073】
図11は、
図6に示した高域の周波数成分が欠落した周波数信号を、信号処理装置1を用いて信号処理した後の周波数信号を示す図である。
図11には、高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1が、折り返し信号列ST1に置き換えられた状態が示されている。この置き換えにより、高域の周波数信号が補完される。第1の信号出力部15は、補完した周波数信号を周波数逆変換部16に出力する。
【0074】
次に、逆変換ステップ(S60)にて、周波数逆変換部16は、周波数逆変換部16に入力された音声の周波数信号を音声の時間軸信号に逆変換して出力する。周波数逆変換部16は、例えばフーリエ逆変換を用いて、入力された複素数の周波数信号を時間軸信号に変換して出力する。
【0075】
このように、上記の信号処理方法を実行する信号処理装置1は、補完帯域決定部12と、第1の係数列出力部13と、第1の信号列生成部14と、第1の信号出力部15とを備える。補完帯域決定部12は、メモリ11に格納された音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1および帯域幅Wを決定する。第1の係数列出力部13は、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第1基準周波数F1に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第1基準周波数F1から離れる信号列に対して第1基準周波数F1から離れるほど小さい値をとる第1の係数列C1を出力する。第1の信号列生成部14は、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1の係数列C1を乗ずる乗算処理、および、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行うことで、折り返し信号列ST1を生成する。第1の信号出力部15は、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1を折り返し信号列ST1に置き換えることで、補完された周波数信号を出力する。
【0076】
この構成によれば、周波数信号の信号列SL1を折り返す際の対称軸となる第1基準周波数F1付近にて、隣り合う周波数信号の信号列が互いに近い値となるので、従来技術のような不自然な段差は生じにくくなる。また、折り返し処理の対象となる周波数信号の信号列SL1に、減少傾向を示す第1の係数列C1を乗じるので、高域の振幅が低域の振幅よりも小さくなるという自然な状態を実現できる。また、これらの信号処理は、信号列の折り返し処理および係数列の乗算処理という簡易な演算処理によって実行されるので、演算負荷を低減することができる。
【0077】
なお、第1の信号列生成部14は、第1の信号列生成部14の出力信号の各周波数成分を、第1の信号列生成部14の入力信号に対応する各周波数成分の共役複素数に、第1の係数列C1を乗じて生成してもよい。
【0078】
図12の(a)は、高域の周波数成分が欠落した周波数信号の一例であり、
図12の(b)は、複素数値をそのまま用いる信号処理をした後の周波数信号であり、
図12の(c)は、共役複素数による信号処理した後の周波数信号を示す図である。本実施の形態の信号処理方法では、第1基準周波数F1を対称軸として折り返された複素周波数信号は、折り返し元の周波数信号の共役複素数とすることが望ましい。共役複素数とは、虚部の符号を反転させた複素数である。
【0079】
例えば、
図12の(a)に示す周波数信号に対して、複素数値をそのまま用いて信号処理を行った場合は、
図12の(b)に示すように調波成分の側帯にてひげが発生する。それに対し、折り返し処理にて互いに対となる信号列の信号成分を共役複素数の関係とすると、逆変換ステップ(S60)にて周波数信号を時間軸信号に逆変換したときに、時間軸の虚数成分がキャンセルされる。これにより、
図12の(c)に示すように、歪のない実数成分を有する時間軸信号を生成することができる。
【0080】
また、前述したように第1基準周波数F1が高い周波数である場合、帯域幅Wは広くてもよいが、第1基準周波数F1が低い周波数である場合、帯域幅Wは狭い方がよい。すなわち、補完帯域決定部12は、第1基準周波数F1が所定の周波数よりも低い場合に、所定の周波数を第1基準周波数F1としたときに決定される帯域幅よりも、補完帯域決定部12にて決定する帯域幅Wを狭くすることが望ましい。
【0081】
ここで、第1基準周波数F1および帯域幅Wとの関係について
図13および
図14を参照しながら説明する。
【0082】
図13は、第1基準周波数F1および帯域幅Wの関係の一例を示す図である。
図14は、第1基準周波数F1および帯域幅Wの関係の他の一例を示す図である。
【0083】
図13および
図14に示すように、(第1基準周波数F1−帯域幅W)の値は、4kHzを下回らないようにすることが望ましい。4kHz以下の信号は、音色に直接関係する周波数成分であり、高域側に転写することが適切でないことがあるからである。また、
図14に示すように、第1基準周波数F1が十分に大きな値である場合、(第1基準周波数F1+帯域幅W)の値は、所定の値を超えないように設定することが望ましい。第1基準周波数F1が十分に大きな値である場合、元々の音楽コンテンツの品質が優れているので、折り返し処理をするメリットが小さいからである。
【0084】
また、本実施の形態の信号処理方法は、
図15に示す信号処理装置1のハードウェア構成にて実現されてもよい。
図15は、信号処理装置1の機能をソフトウェアにより実現するコンピュータ1000のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0085】
コンピュータ1000は、
図15に示すように、入力装置1001、出力装置1002、CPU1003、内蔵ストレージ1004、RAM1005、およびバス1009を備えるコンピュータである。入力装置1001、出力装置1002、CPU1003、内蔵ストレージ1004、およびRAM1005は、バス1009により接続される。
【0086】
入力装置1001は入力ボタン、タッチパッド、タッチパネルディスプレイなどといったユーザインタフェースとなる装置であり、ユーザの操作を受け付ける。なお、入力装置1001は、ユーザの接触操作を受け付ける他、音声での操作、リモコン等での遠隔操作を受け付ける構成であってもよい。
【0087】
内蔵ストレージ1004は、フラッシュメモリなどである。また、内蔵ストレージ1004は、信号処理装置1の機能を実現するためのプログラムおよび/または信号処理装置1の機能構成を利用したアプリケーションが、予め記憶されているとしてもよい。
【0088】
RAM1005は、Random Access Memoryであり、プログラムまたはアプリケーションの実行に際してデータ等の記憶に利用される。
【0089】
CPU1003は、Central Processing Unitであり、内蔵ストレージ1004に記憶されたプログラムやアプリケーションをRAM1005にコピーし、そのプログラムやアプリケーションに含まれる命令をRAM1005から順次読み出して実行する。
【0090】
[1−3.効果等]
本実施の形態の信号処理装置1は、メモリ11に格納された音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1および帯域幅Wを決定する補完帯域決定部12と、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第1基準周波数F1に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第1基準周波数F1から離れた信号列に対して第1基準周波数F1から離れるほど小さな値をとる第1の係数列C1を出力する第1の係数列出力部13と、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1の係数列C1を乗ずる乗算処理、および、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行うことで、折り返し信号列ST1を生成する第1の信号列生成部14と、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1を折り返し信号列ST1に置き換えることで、補完された周波数信号を出力する第1の信号出力部15とを備える。
【0091】
この構成によれば、周波数信号の信号列SL1を折り返す際の対称軸となる第1基準周波数F1付近にて、隣り合う周波数信号の信号列SL1、SH1が互いに近い値となるので、従来技術のような不自然な段差は生じにくくなる。また、折り返し処理の対象となる周波数信号の信号列SL1に、減少傾向を示す第1の係数列C1を乗じるので、高域の振幅が低域の振幅よりも小さくなるという自然な状態を実現できる。また、音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1を決定するので、第1基準周波数F1を時間とともに変動する音声信号に応じて決めることができ、補完に必要な信号を過不足なく取得することができる。これにより、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0092】
また、補完帯域決定部12は、上記周波数信号に表れる周波数成分のエネルギの低下が18dB以上となる周波数を第1基準周波数F1として決定してもよい。
【0093】
これによれば、音声の周波数信号のうち、高域の周波数成分が不十分である箇所を的確に見つけ、この不十分な箇所に周波数成分を補完することができる。これにより、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0094】
また、補完帯域決定部12は、第1基準周波数F1の値に応じて帯域幅Wを決定してもよい。
【0095】
このように、第1基準周波数F1の値に応じて帯域幅Wを決定することで、例えば、第1基準周波数F1が低い周波数である場合に、帯域幅Wを狭くすることが可能になる。これによれば、周波数成分を折り返し処理する際に、再生信号の歪感が煩わしく知覚されることを抑制することができ、再生信号を高音質化できる。
【0096】
また、補完帯域決定部12は、第1基準周波数F1が所定の周波数よりも低い場合に、所定の周波数を第1基準周波数F1としたときに決定される帯域幅よりも、補完帯域決定部12にて決定する帯域幅Wを狭くしてもよい。
【0097】
このように、第1基準周波数F1が所定の周波数よりも低い場合に、補完帯域決定部12にて決定する帯域幅Wを狭くすることで、周波数成分を折り返し処理する際に、再生信号の歪感が煩わしく知覚されることを抑制することができる。これにより、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0098】
また、信号処理装置1は、さらに、音声の時間軸信号を音声の周波数信号に変換して出力する周波数変換部10と、周波数変換部10から出力された周波数信号を記憶するメモリ11と、第1の信号出力部15から出力された、補完された周波数信号を音声の時間軸信号に逆変換して出力する周波数逆変換部16とを備えていてもよい。
【0099】
これによれば、信号処理装置1は、音声の時間軸信号を周波数信号に変換した状態にて上記の乗算処理および折り返し処理等の信号処理を行い、この信号処理を行った後に周波数信号を音声の時間軸信号に戻すことができる。これにより、高音質化された音を出力することができる。
【0100】
また、第1の信号列生成部14は、第1の信号列生成部14の出力信号の各周波数成分を、第1の信号列生成部14の入力信号に対応する各周波数成分の共役複素数に、第1の係数列C1を乗じて生成してもよい。
【0101】
このように、第1の信号列生成部14が共役複素数による信号処理を行うことで、周波数逆変換部16にて周波数信号を時間軸信号に逆変換したときに、時間軸の虚数成分がキャンセルされる。これにより、歪のない実数成分を有する時間軸信号を生成することができ、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0102】
本実施の形態に係る信号処理方法は、周波数信号を処理する信号処理方法であって、メモリ11に格納された音声の周波数信号に基づいて基準周波数(例えば第1基準周波数F1)および帯域幅Wを決定する帯域決定ステップと、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、基準周波数F1に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、基準周波数F1から離れた信号列に対して基準周波数F1から離れるほど小さな値をとる係数列(例えば第1の係数列C1)を出力する係数列出力ステップと、上記周波数信号のうち、基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅を有する周波数信号の信号列(例えば信号列SL1)に、係数列C1を乗ずる乗算処理、および、基準周波数F1を対称軸として基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行うことで、折り返し信号列(例えば折り返し信号列ST1)を生成する信号列生成ステップと、上記周波数信号のうち、基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列(例えば信号列SH1)を折り返し信号列ST1に置き換えることで、補完された周波数信号を出力する信号出力ステップとを含む。
【0103】
この信号処理方法によれば、周波数信号の信号列SL1を折り返す際の対称軸となる第1基準周波数F1付近にて、隣り合う周波数信号の信号列SL1、SH1が互いに近い値となるので、従来技術のような不自然な段差は生じにくくなる。また、折り返し処理の対象となる周波数信号の信号列SL1に、減少傾向を示す第1の係数列C1を乗じるので、高域の振幅が低域の振幅よりも小さくなるという自然な状態を実現できる。また、音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1を決定するので、第1基準周波数F1を時間とともに変動する音声信号に応じて決めることができ、補完に必要な信号を過不足なく取得することができる。これにより、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0104】
[1−4.実施の形態1の変形例]
実施の形態1の変形例に係る信号処理装置1について
図16〜
図17を参照しながら説明する。変形例では、折り返し信号列ST1と周波数信号の信号列SH1とを加算している点で、前述した実施の形態1と異なる。
【0105】
図16は、変形例の信号処理装置1の第1の信号出力部15にて実行される処理を示す図である。
図17は、変形例に係る第1の信号出力部15が出力する補完された周波数信号を、周波数信号の信号列を用いて示す図である。
【0106】
実施の形態の変形例では、信号出力ステップ(S50)にて、第1の信号出力部15が、補完された周波数信号を出力する。具体的には第1の信号出力部15は、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1に対して、折り返し信号列ST1を加算することで、補完された周波数信号を出力する(
図17参照)。変形例の信号処理装置1によれば、原音の高域側の成分を活かしつつ、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0107】
実施の形態の変形例に係る信号処理装置1は、メモリ11に格納された音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1および帯域幅Wを決定する補完帯域決定部12と、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第1基準周波数F1に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第1基準周波数F1から離れた信号列に対して第1基準周波数F1から離れるほど小さな値をとる第1の係数列C1を出力する第1の係数列出力部13と、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1の係数列C1を乗ずる乗算処理、および、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行うことで、折り返し信号列ST1を生成する第1の信号列生成部14と、上記周波数信号のうち、第1基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1と折り返し信号列ST1とを加算することで、補完された周波数信号を出力する第1の信号出力部15とを備える。
【0108】
この構成によれば、周波数信号の信号列SL1を折り返す際の対称軸となる第1基準周波数F1付近にて、隣り合う周波数信号の信号列SL1、SH1が互いに近い値となるので、従来技術のような不自然な段差は生じにくくなる。また、折り返し処理の対象となる周波数信号の信号列SL1に、減少傾向を示す第1の係数列C1を乗じるので、高域の振幅が低域の振幅よりも小さくなるという自然な状態を実現できる。また、音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1を決定するので、第1基準周波数F1を時間とともに変動する音声信号に応じて決めることができ、補完に必要な信号を過不足なく取得することができる。また、原音の高域側の成分を活かしつつ、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0109】
本実施の形態に係る信号処理方法は、周波数信号を処理する信号処理方法であって、メモリ11に格納された音声の周波数信号に基づいて基準周波数(例えば第1基準周波数F1)および帯域幅Wを決定する帯域決定ステップと、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、基準周波数F1に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、基準周波数F1から離れた信号列に対して基準周波数F1から離れるほど小さな値をとる係数列(例えば第1の係数列C1)を出力する係数列出力ステップと、上記周波数信号のうち、基準周波数F1を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅を有する周波数信号の信号列(例えば信号列SL1)に、係数列C1を乗ずる乗算処理、および、基準周波数F1を対称軸として基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行うことで、折り返し信号列(例えば折り返し信号列ST1)を生成する信号列生成ステップと、上記周波数信号のうち、基準周波数F1を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列(例えば信号列SH1)と折り返し信号列ST1とを加算することで、補完された周波数信号を出力する信号出力ステップとを含む。
【0110】
この信号処理方法によれば、周波数信号の信号列SL1を折り返す際の対称軸となる第1基準周波数F1付近にて、隣り合う周波数信号の信号列SL1、SH1が互いに近い値となるので、従来技術のような不自然な段差は生じにくくなる。また、折り返し処理の対象となる周波数信号の信号列SL1に、減少傾向を示す第1の係数列C1を乗じるので、高域の振幅が低域の振幅よりも小さくなるという自然な状態を実現できる。また、音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1を決定するので、第1基準周波数F1を時間とともに変動する音声信号に応じて決めることができ、補完に必要な信号を過不足なく取得することができる。また、原音の高域側の成分を活かしつつ、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0111】
(実施の形態2)
[2−1.信号処理装置の構成]
実施の形態2に係る信号処理装置1Aについて、
図18および
図19を参照しながら説明する。実施の形態1では、周波数成分の折り返し処理等を1回実行する例を示したが、実施の形態2では、折り返し処理等をさらにもう1回実行する例を説明する。
【0112】
図18は、実施の形態2に係る信号処理装置1Aの構成を示す図である。
図19は、実施の形態2に係る信号処理方法において信号処理を2回実行する場合を示す概念図である。
【0113】
図18に示すように、信号処理装置1Aは、実施の形態1で示した補完帯域決定部12、第1の係数列出力部13、第1の信号列生成部14および第1の信号出力部15と、さらに、第2の係数列出力部23、第2の信号列生成部24および第2の信号出力部25とを備える。なお信号処理装置1Aは、周波数変換部10、メモリ11および周波数逆変換部16も備えている。
【0114】
補完帯域決定部12は、メモリ11から周波数信号を受け取り、この周波数信号に基づいて、さらに、第2基準周波数F2を決定する。第2基準周波数F2は、第1基準周波数F1に帯域幅Wを加えた周波数である。補完帯域決定部12は、第2の係数列出力部23および第2の信号列生成部24のそれぞれに、決定した第2基準周波数F2および帯域幅Wに関する情報を出力する。
【0115】
第2の係数列出力部23は、第2の係数列C2を生成し出力する回路である。第2の係数列出力部23は、補完帯域決定部12から第2基準周波数F2および帯域幅Wに関する情報を受け取り、第2の係数列C2を生成する。第2の係数列C2とは、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第2基準周波数F2に最も近い調波の信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第2基準周波数F2から離れる信号列に対して第2基準周波数F2から離れるほど小さな値をとる係数列である。第2の係数列C2の例としては、初項が1以下であり、初項から単調減少する等差列または等比列が挙げられる。
【0116】
第2の係数列C2および第1の係数列C1は、それぞれ減少傾向の傾きを有している。第2の係数列C2の傾きは、第1の係数列C1の傾きと同じか、それより緩やかであってもよい。例えば、実施の形態1で示した第1の係数列C1(
図7および
図8参照)に対し、第2の係数列C2をC2(i)=1.0−i/40としてもよいし、C2(i)=0.9^iとしてもよい(ただし、iは、第2基準周波数F2からみてi番目のメモリ内位置である)。一般的に周波数信号の振幅の減少傾向は、周波数が高くなるほど緩やかになるので、第2の係数列C2の傾きを第1の係数列C1の傾きよりも緩やかにすることで、補完された周波数信号の振幅を一般的な周波数信号の振幅の減少傾向に合わせることが可能となる。
【0117】
第2の信号列生成部24は、高域の調波成分を補完するための折り返し信号列ST2を生成する回路である。第2の信号列生成部24は、第1の信号出力部15から補完された周波数信号を受け取り、補完帯域決定部12から第2基準周波数F2および帯域幅Wに関する情報を受け取り、ならびに、第2の係数列出力部23から第2の係数列C2に関する情報を受け取る。
【0118】
そして、第2の信号列生成部24は、
図19に示すように、上記周波数信号のうち、第2基準周波数F2を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL2に、第2の係数列C2を乗ずる乗算処理を行う。また、第2の信号列生成部24は、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL2に、第2基準周波数F2を対称軸として第2基準周波数F2より高い周波数領域に折り返す折り返し処理を行う。第2の信号列生成部24は、これら両方の処理を行うことで、折り返し信号列ST2を生成し、出力する。第2の信号列生成部24は、これら両方の処理を同時に行ってもよいし、順不同に行ってもよい。
【0119】
第2の信号出力部25は、さらに補完された周波数信号を出力する回路である。第2の信号出力部25は、第2の信号列生成部24から折り返し信号列ST2に関する情報を受け取る。そして、第2の信号列生成部24は、上記周波数信号のうち、第2基準周波数F2を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH2を折り返し信号列ST2に置き換えることで、さらに補完された周波数信号を生成し出力する。
【0120】
ここで、上記のように、第1基準周波数F1を対称軸として帯域幅Wの信号を1回折り返しさらに第2基準周波数F2を対称軸として帯域幅Wの信号をもう1回折り返し、合計2回の処理を行うことと、第1基準周波数F1を対称軸として幅広の帯域幅(例えば2×W)の信号を1回折り返すことの違いを説明する。
【0121】
本実施の形態1の例では、6kHzから8kHzの周波数帯域の信号を8kHzから12kHzに折り返し処理しているが、6kHzから8kHzの周波数帯域の主要な信号は高調波成分であるので、折り返し処理を高域側に2回行っても違和感は発生しにくい。一方、幅広の帯域幅(2×W)の信号を1回折り返す場合、4kHzから8kHzの周波数帯域の信号を8kHzから12kHzに折り返すことになるが、4kHzから8kHzの信号には、高調波成分だけでなく例えば子音の音韻を形成する独特の周波数成分が含まれていることがある。このような周波数成分を含む信号を高域側に折り返して処理すると、聴感上の違和感を生じさせることがある。そのため、実施の形態2の補完帯域決定部12では、第1基準周波数F1の周波数値に応じて、幅が広くなりすぎない帯域幅Wを決定し、その後、2つの第1の信号列生成部14および第2の信号列生成部24にて合計2回の折り返し処理を行っている。これにより、折り返し処理を行った場合に違和感が生じることを抑制している。
【0122】
[2−2.効果等]
本実施の形態に係る信号処理装置1Aは、さらに、補完された周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第1基準周波数F1に帯域幅Wを加えた第2基準周波数F2に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第2基準周波数F2から離れた信号列に対して第2基準周波数F2から離れるほど小さな値をとる第2の係数列C2を出力する第2の係数列出力部23と、補完された周波数信号のうち、第2基準周波数F2を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL2に、第2の係数列C2を乗ずる乗算処理、および、第2基準周波数F2を対称軸として第2基準周波数F2より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行うことで、折り返し信号列ST2を生成する第2の信号列生成部24と、補完された周波数信号のうち、第2基準周波数F2を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH2を折り返し信号列ST2に置き換えることで、さらに補完された周波数信号を出力する第2の信号出力部25とを備える。
【0123】
このように、上記乗算処理および折り返し処理等を2回行うことで、再生信号をさらに高音質化できる。
【0124】
なお、係数列出力部は、
図18に示すように必ずしも2つ設ける必要がない。
【0125】
図20は、信号処理装置1Aの構成の他の例を示す図である。信号処理装置1Aは、
図20に示すように、第1の係数列出力部13が第1の係数列C1および第2の係数列C2のそれぞれを出力するように構成されていてもよい。
【0126】
また、上記第2の信号出力部25は、周波数信号の信号列SH2を折り返し信号列ST2に置き換えるのでなく、周波数信号の信号列SH2と折り返し信号列ST2とを加算することで、さらに補完された周波数信号を生成してもよい。
【0127】
すなわち、本実施の形態に係る信号処理装置1Aは、さらに、上記第2の係数列出力部23と、上記第2の信号列生成部24と、補完された周波数信号のうち、第2基準周波数F2を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH2と折り返し信号列ST2とを加算することで、さらに補完された周波数信号を出力する第2の信号出力部25とを備える。
【0128】
このように、上記乗算処理および折り返し処理等を2回行うことで、再生信号をさらに高音質化できる。
【0129】
また、第2の係数列C2の傾きは、第1の係数列C1の傾きよりも小さくてもよい。
【0130】
これによれば、周波数信号の振幅が、周波数が高くなるほど緩やかになるので、一般的な周波数信号の振幅の減少傾向に合致させることができる。これにより、音声信号を再生する際の再生信号を高音質化できる。
【0131】
なお、上記では周波数成分の折り返し処理等を2回実行する例を示したが、折り返し処理等の回数は2回に限られず、3回であってもよい。
【0132】
図21は、実施の形態2に係る信号処理方法の他の例であって、信号処理を3回実行する場合を示す概念図である。
【0133】
図21に示すように、この他の例では、第3基準周波数F3を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL3に、第3の係数列C3を乗ずる乗算処理を行う。また、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL3に、第3基準周波数F3を対称軸として第3基準周波数F3より高い周波数領域に折り返す折り返し処理を行う。これら両方の処理を行うことで、折り返し信号列ST3を生成している。そして、上記周波数信号のうち、第3基準周波数F3を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH3を折り返し信号列ST3に置き換えることで、さらに補完された周波数信号を生成し出力する。
【0134】
また、周波数成分の折り返し処理等の回数は3回に限られず、n(nは1以上の整数)であってもよい。
【0135】
すなわち、本実施の形態に係る信号処理装置1Aは、さらに、補完された周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第1基準周波数F1に帯域幅Wをn個加えた第(n+1)基準周波数に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第(n+1)基準周波数から離れた信号列に対して第(n+1)基準周波数から離れるほど小さな値をとる第(n+1)の係数列を出力する第(n+1)の係数列出力部と、補完された周波数信号のうち、第(n+1)基準周波数を上限周波数とし、上限周波数よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列に、第(n+1)の係数列を乗ずる乗算処理、および、第(n+1)基準周波数を対称軸として第(n+1)基準周波数より高い周波数領域に折り返す折り返し処理の両方の処理を行うことで、折り返し信号列を生成する第(n+1)の信号列生成部と、補完された周波数信号のうち、第(n+1)基準周波数を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列を折り返し信号列に置き換えることで、さらに補完された周波数信号を出力する第(n+1)の信号出力部とを備えていてもよい。
【0136】
また、信号処理装置1Aは、さらに、上記第(n+1)の係数列出力部と、第(n+1)の信号列生成部と、補完された周波数信号のうち、第(n+1)基準周波数を下限周波数とし、下限周波数よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列と折り返し信号列とを加算することで、さらに補完された周波数信号を出力する第(n+1)の信号出力部とを備えていてもよい。
【0137】
また、信号処理装置1Aにおいて、帯域幅Wは一定に限られず、帯域幅を折り返し回数に応じて変化させてもよい。例えば、折り返し処理の回数が増えるに応じて帯域幅を広げてもよい。
【0138】
(その他の実施の形態)
以上、本開示の態様に係る信号処理装置等について、実施の形態等に基づいて説明したが、本開示は、この実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本開示の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本開示の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本開示に含まれる。
【0139】
また、以下に示す形態も、本開示の一つまたは複数の態様の範囲内に含まれてもよい。
【0140】
(1)上記の信号処理装置を構成する構成要素の一部は、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニット、ディスプレイユニット、キーボード、マウスなどから構成されるコンピュータシステムであってもよい。前記RAMまたはハードディスクユニットには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、その機能を達成する。ここでコンピュータプログラムは、所定の機能を達成するために、コンピュータに対する指令を示す命令コードが複数個組み合わされて構成されたものである。
【0141】
(2)上記の信号処理装置を構成する構成要素の一部は、1個のシステムLSI(Large Scale Integration:大規模集積回路)から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、コンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0142】
(3)上記の信号処理装置を構成する構成要素の一部は、各装置に脱着可能なICカードまたは単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカードまたは前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカードまたは前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカードまたは前記モジュールは、その機能を達成する。このICカードまたはこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【0143】
(4)また、上記の信号処理装置を構成する構成要素の一部は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号をコンピュータで読み取り可能な記録媒体、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray(登録商標) Disc)、半導体メモリなどに記録したものとしてもよい。また、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
【0144】
また、上記の信号処理装置を構成する構成要素の一部は、前記コンピュータプログラムまたは前記デジタル信号を、電気通信回線、無線または有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0145】
(5)本開示は、上記に示す方法であるとしてもよい。また、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
【0146】
(6)また、本開示は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
【0147】
(7)また、前記プログラムまたは前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、または前記プログラムまたは前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0148】
(8)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【解決手段】信号処理装置1は、音声の周波数信号に基づいて第1基準周波数F1および帯域幅Wを決定し、上記周波数信号に表れる複数の調波の信号列のうち、第1基準周波数F1に最も近い信号列に対して1以下の最大値をとり、かつ、第1基準周波数F1から離れた信号列に対して第1基準周波数F1から離れるほど小さな値をとる第1の係数列C1を出力し、第1基準周波数F1よりも低域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SL1に、第1の係数列C1を乗ずる乗算処理、および、第1基準周波数F1を対称軸として第1基準周波数F1より高い周波数領域に折り返す処理を行うことで、折り返し信号列ST1を生成し、第1基準周波数F1よりも高域側に帯域幅Wを有する周波数信号の信号列SH1を折り返し信号列ST1に置き換えることで、補完された周波数信号を出力する。