特許第6693571号(P6693571)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6693571含フッ素重合体およびこれを有効成分とする防錆剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693571
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】含フッ素重合体およびこれを有効成分とする防錆剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/18 20060101AFI20200427BHJP
   C08F 220/24 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   C09K3/18 102
   C08F220/24
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-548983(P2018-548983)
(86)(22)【出願日】2017年10月27日
(86)【国際出願番号】JP2017038934
(87)【国際公開番号】WO2018084086
(87)【国際公開日】20180511
【審査請求日】2019年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-214397(P2016-214397)
(32)【優先日】2016年11月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】木島 哲史
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/034773(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/101091(WO,A1)
【文献】 特開2014−172952(JP,A)
【文献】 特開2014−079960(JP,A)
【文献】 特開2009−029902(JP,A)
【文献】 特開昭60−262870(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/129362(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F220/24
C09K 3/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A) 一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCOCR=CH2 〔I〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1〜6の整数であり、aは1〜4の整数であり、bは1〜3の整数であり、cは1〜3の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体、
(B) 一般式
CH2=CRCOOR3 〔III〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R3は酸素原子を含有してもよい、炭素数1〜30の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基である)で表される非フッ素系(メタ)アクリル酸エステルおよび
(C) 一般式
CH2=CRCOO(H)p(R4Y)q 〔IV〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、p,qは0または1で、p+qは1であり、R4は酸素原子を有してもよい、炭素数1〜30の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基であり、Yはリン酸基またはエポキシ基である)で表される官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルを共重合体単位とし、共重合体中、(B)成分を1〜50重量%、(C)成分を0.01〜5重量%の割合で共重合させた含フッ素共重合体を有効成分とする防錆剤。
【請求項2】
一般式
CH2=CRCOOR1(NR2SO2)mRf 〔II〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R1は炭素数1〜6の直鎖状または分岐状アルキレン基であり、R2は炭素数1〜4の低級アルキル基であり、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基であり、mは0または1である)で表される含フッ素重合性単量体を、さらに共重合させた請求項1記載の含フッ素共重合体を有効成分とする防錆剤。
【請求項3】
ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体〔I〕またはこれと他の含フッ素重合性単量体〔II〕と(メタ)アクリル酸またはそのエステル〔III〕および〔IV〕とが、重量比で1〜99:99〜1の割合で共重合された請求項1記載の含フッ素共重合体を有効成分とする防錆剤。
【請求項4】
重量平均分子量Mwが2,000〜2,000,000である請求項1記載の含フッ素共重合体を有効成分とする防錆剤。
【請求項5】
有機溶媒溶液として調製された請求項1記載の防錆剤。
【請求項6】
含フッ素有機溶媒溶液として調製された請求項5記載の防錆剤。
【請求項7】
撥水撥油剤として用いられる請求項1、2または3記載の防錆剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体およびこれを有効成分とする防錆剤に関する。さらに詳しくは、生体蓄積性が低いといわれている炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を含有する(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体である含フッ素重合体およびこれを有効成分とする防錆剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロアルキル基含有アルコールのアクリル酸誘導体、例えばCF3(CF2)7CH2CH2OCOCH=CH2は、繊維用撥水撥油剤を形成する含フッ素共重合体の合成モノマーとして多量に使用されている。また、そのアクリレート化前駆体であるパーフルオロアルキルアルコールは、界面活性剤等として広く使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献2には、基材の表面処理剤におけるパーフルオロアルキル基〔Rf〕含有(メタ)アクリレートの撥水撥油性の発現は、処理膜におけるRf基の配向に起因し、さらにRf基が配向するためにはRf基(炭素数8以上)に由来する微結晶の融点が存在することが必要であるとされ、そのため炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートが使用されてきたと記載されている。また、炭素数8以下のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレートを使用して、イソシアネート単量体非含有の場合においては、炭素数8以上でみられる撥水撥油性能への寄与は十分ではないことも示されている。
【0004】
しかるに近年、自然界には存在しないパーフルオロオクタン酸(PFOA)あるいは炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル基含有カルボン酸(PFCA)が大気中や河川等でその存在が確認されている。これらの化合物の内炭素数8前後のパーフルオロアルキル基を有する化合物は生体蓄積性が高く、環境に問題がみられるとの報告がなされており、今後はその製造や使用が困難になることが予測されている。
【0005】
ここで、現在撥水撥油剤など表面改質剤の原料として用いられるテロマー化合物の内、炭素数8以上のパーフルオロアルキル基を有する化合物は、環境中でPFCAとなる可能性が示唆されており、今後はそれの製造、使用が困難となることが予測されている。一方、パーフルオロアルキル基の炭素数が6以下の化合物にあっては、生体蓄積性が低いといわれているものの、炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有する化合物では、防錆剤等の製品に要求される性能を得ることは困難であるとされている。
【0006】
本出願人は先に、(A)一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCOCR=CH2
R:水素原子、メチル基
n:1〜6
a:1〜4
b:0〜3または1〜3
c:1〜3
で表されるフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体を重合単位で5〜100重量%含有する含フッ素重合体の含フッ素有機溶剤溶液または水性分散液、あるいは非フッ素系有機溶剤分散液が、表面改質剤として有効に用いられることを提案している(特許文献3〜4)。
【0007】
本出願人はまた、(A)上記一般式で表されるフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体に、(B)
一般式 CH2=CRCOOR3で表される(メタ)アクリル酸エステル
R:水素原子、メチル基
R3:C1〜C30の直鎖状、分岐状または脂環状のアルキル基あるい はアラルキル基
一般式 CH2=CRCOOR4Yで表される(メタ)アクリル酸エステル
R:水素原子、メチル基
R4:C1〜C30の直鎖状または分岐状のアルキレン基
Y:架橋性官能基(水酸基)
一般式 CH2=CRCOO(R5O)lR6で表される(メタ)アクリル酸エステル
R:水素原子、メチル基
R5:C1〜C6の直鎖状または分岐状のアルキレン基
R6:水素原子、C1〜C30の直鎖状または分岐状のアルキル基、
芳香族基
l:1〜50
の少くとも一種を共重合させた含フッ素共重合体が、表面改質剤として有効に用いられることも提案している(特許文献5)。
【0008】
しかるに、離型剤、オイルバリア剤などの表面処理剤として一般的に用いられているパーフルオロアルキル(メタ)アクリレートを単量体として用いた含フッ素共重合体は、基材との密着性が必ずしも満足のいくものではなく、加工耐久性についても改良が求められている。また、防錆性についてもそれの改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭63−22237号公報
【特許文献2】WO2004/035708A1
【特許文献3】WO2009/034773A1
【特許文献4】WO2010/101091A1
【特許文献5】特開2014−172952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生体蓄積性が低いといわれている炭素数6以下のパーフルオロアルキル基を有するポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体および官能基含有重合性単量体の共重合体よりなる含フッ素共重合体およびこれを有効成分とする防錆剤であって、基材との密着性にすぐれ、耐久性および防錆性を改良せしめたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、
(A) 一般式
CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCOCR=CH2 〔I〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1〜6の整数であり、aは1〜4の整数であり、bは1〜3の整数であり、cは1〜3の整数である)で表されるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体、
(B) 一般式
CH2=CRCOOR3 〔III〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、R3は酸素原子を含有してもよい、炭素数1〜30の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基である)で表される非フッ素系(メタ)アクリル酸エステルおよび
(C) 一般式
CH2=CRCOO(H)p(R4Y)q 〔IV〕
(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、p,qは0または1で、p+qは1であり、R4は酸素原子を有してもよい、炭素数1〜30の直鎖状、分岐状または環状の炭化水素基であり、Yはリン酸基またはエポキシ基である)で表される官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルを共重合体単位とし、共重合体中、(B)成分を1〜50重量%、(C)成分を0.01〜5重量%の割合で共重合させた含フッ素共重合体およびこれを有効成分とする防錆剤によって達成される。ここで、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルを指している。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体は、パーフルオロアルキル基が生体蓄積性の低い炭素数6以下で構成されているばかりではなく、分子中のフッ化ビニリデン由来のCH2CF2基が容易に脱HFして二重結合を形成し、それがオゾン分解を受けて分解し易いため、環境を阻害することが少なく、しかも有効な防錆性を有するため、撥水撥油剤、オイルバリア剤、防錆剤などの表面処理剤の有効成分として好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体〔I〕としては、特許文献3〜4に記載される如く、次のような化合物を例示することができる。
およびこれらに対応するメタクリル酸誘導体。
【0014】
一般式〔I〕において、重合時の重合液安定性、溶解性、重合速度といった観点から、nは1〜6、好ましくは3〜4の整数であり、aは1〜4、好ましくは1〜3の整数であり、bは1〜3、好ましくは1〜2の整数であり、cは1〜3、好ましくは1〜2の整数である。
【0015】
ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体は、それ単独でも一方の単量体である含フッ素重合性単量体として用いることができるが、その一部、具体的には含フッ素重合性単量体合計量中約30重量%以下の範囲内で他の含フッ素重合性単量体と併用して用いることもできる。
【0016】
かかる他の含フッ素重合性単量体としては、一般式
CH2=CRCOOR1(NR2SO2)mRf 〔II〕
R:水素原子またはメチル基
R1:炭素数1〜6のアルキレン基
R2:炭素数1〜4の低級アルキル基
Rf:炭素数1〜6、好ましくは2〜4のポリフルオロアルキル基、
好ましくはパーフルオロアルキル基
m:0または1
で表されるものが用いられ、例えば次のようなポリフルオロアルキル基含有(メタ)アクリレート単量体が示される。ただし、末端ポリフルオロアルキル基Rfの炭素数は1〜6でなければならないため、nは1〜6であり、n’は3〜6である
CH2=CHCOOCH2CnF2nH
CH2=C(CH3)COOCH2CnF2nH
CH2=CHCOOCH2CnF2n+1
CH2=C(CH3)COOCH2CnF2n+1
CH2=CHCOOC2H4CnF2n+1
CH2=C(CH3)COOC2H4CnF2n+1
CH2=CHCOOC3H6CnF2n+1
CH2=C(CH3)COOC3H6CnF2n+1
CH2=CHCOOC4H8CnF2n+1
CH2=C(CH3)COOC4H8CnF2n+1
CH2=CHCOOC2H4[N(CH3)SO2]CnF2n+1
CH2=C(CH3)COOC2H4[N(CH3)SO2]CnF2n+1
CH2=CHCOOC2H4[N(C2H5)SO2]CnF2n+1
CH2=C(CH3)COOC2H4[N(C2H5)SO2]CnF2n+1
CH2=CHCOOC2H4[N(C3H7)SO2]CnF2n+1
CH2=C(CH3)COOC2H4[N(C3H7)SO2]CnF2n+1
CH2=CHCOOC2H4Cn’-3F2n’-6CF(CF3)2
CH2=C(CH3)COOC2H4Cn’-3F2n’-6CF(CF3)2
【0017】
ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体〔I〕またはこれと他の含フッ素重合性単量体〔II〕との両者と(メタ)アクリル酸またはそのエステル〔III〕および〔IV〕とは、重量比で1〜99:99〜1の割合で共重合される。
【0018】
ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体〔I〕またはこれと他の含フッ素重合性単量体〔II〕の両者と共重合される重合性単量体としては、下記一般式〔III〕で表される非フッ素系(メタ)アクリル酸エステルおよび一般式〔IV〕で表される官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルが用いられる。
CH2=CRCOOR3 〔III〕
CH2=CRCOO(H)p(R4Y)q 〔IV〕
R:H、メチル基
R3:酸素原子を含有してもよい、炭素数1〜30の直鎖状、分岐状 または環状の炭化水素基、好ましくはアルキル基
R4:酸素原子を含有してもよい、炭素数1〜30の直鎖状、分岐状 または環状の炭化水素基
Y:リン酸基、エポキシ基
p,q:0または1で、p+qは1である
【0019】
化合物〔III〕の非フッ素系重合性単量体としては、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、ラウリル、ステアリル等の炭素数1〜18の直鎖状または分岐状アルキル基またはメトキシメチル、2-メトキシエチル、2-エトキシエチル、2-ブトキシエチル、3-エトキシプロピル等のアルコキシアルキル基でエステル化された(メタ)アクリレート、シクロヘキシル等のシクロアルキル基、ベンジル等のアラルキル基、ボルニル基、アダマンチル基等のイス型アルキル基等の環状炭化水素基でエステル化された(メタ)アクリレートが用いられる。
【0020】
これらの非フッ素系(メタ)アクリル酸エステルを共重合させることにより、基材への密着性を改良することができ、造膜性、皮膜強度も改善され、優れた撥水撥油性を付与することが可能となる。また、防錆性を大きく改善させる。非フッ素系(メタ)アクリル酸エステルの共重合割合は、含フッ素共重合体中約1〜50重量%で、好ましくは約5〜20重量%である。
【0021】
化合物〔IV〕の官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルとしては、2-(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基を有する(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を有する(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
これらの官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルは、含フッ素共重合体中約0.01〜5重量%、好ましくは約0.1〜2重量%を占めるような割合で共重合せしめる。これらの官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルを撥水撥油性含フッ素共重合体の有効な成分として共重合させると、基材に対する密着性が強固となり、防錆剤の耐久性を向上させる効果がみられる。また、防錆性を大きく改善させる。これより多く用いられると、後記比較例4の結果に示されるように、撥水撥油性や防錆性の改善が達成されない。
【0023】
重合反応に際しては、含フッ素共重合体が溶解する溶媒であれば特に限定されないが、好ましくはフッ素原子を有する有機溶媒がよい。例えば、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3,3-ジクロロプロパン、1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-1,3-ジクロロプロパン、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロペンタン、パーフルオロヘキサンおよび3M社のNovec7100(C4F9OCH3)、同7200(C4F9OC2H5)、同7300〔C2F5CF(OCH3)C3F7)〕等のハイドロフルオロエーテルの少くとも一種よりなる含フッ素有機溶媒中で、重合反応が行われる。
【0024】
官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルの含フッ素有機溶媒への溶解性が良くない場合は、アルコールと混合させることが好ましい。アルコールは特に限定されないが、得られる含フッ素共重合体の溶解性があり、かつ含フッ素有機溶媒との相溶性がよく、さらに官能基含有(メタ)アクリル酸またはそのエステルとの相溶性があるものが好ましい。例えば、イソプロピルアルコール等が用いられる。混合比は、含フッ素有機溶媒:アルコール=95:5〜70:30が好ましい。
【0025】
共単量体総量に対して約0.1〜4重量%、好ましくは約1〜2重量%の割合で用いられる開始剤としては、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステル等が用いられ、具体的にはイソブチリルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、ビス(ヘプタフルオロブチリル)パーオキサイド、ペンタフルオロブチロイルパーオキサイド、ビス(4-第3ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の有機過酸化物が用いられ、重合反応によってはアゾ化合物や無機過酸化物またはそれのレドックス系も用いられる。反応条件や組成比によっては重合反応が進行し難い場合もあるが、その場合には重合反応の途中で再度重合開始剤を追加して用いることもできる。
【0026】
また、分子量の調整を行うため、必要に応じて連鎖移動剤を用いることもでき、連鎖移動剤としては、例えばジメチルエーテル、メチル第3ブチルエーテル、炭素数1〜6のアルカン類、メタノール、エタノール、2-プロパノール、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、メタン、酢酸エチル、マロン酸エチル、アセトン等が挙げられる。
【0027】
共重合反応は、これらの反応溶媒、反応開始剤等を用いて約0〜100℃、好ましくは約5〜60℃、特に好ましくは約40〜50℃の反応温度で行われる。反応終了後、固形分濃度が約5〜40重量%の共重合体溶液が得られ、この反応混合物から溶媒を除去することにより、含フッ素共重合体が得られる。
【0028】
共重合反応に用いられたポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体〔I〕は、未反応の残留共単量体をガスクロマトグラフィーで分析した結果殆ど完全に共重合されていることが確認された。
【0029】
ポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体の製造方法は、かかる溶液重合法に限定されず、例えば水を分散媒とし、ノニオン界面活性剤および/またはカチオン界面活性剤を含むけん濁重合法、乳化重合法なども用いられる。
【0030】
このようにして得られるポリフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体の共重合体は、蒸発乾固する方法、無機塩等の凝集剤を添加して凝集させる方法などにより分離され、溶媒等で洗浄する方法により精製される。得られた共重合体の重量平均分子量Mwは、高速液体クロマトグラフィー法によって示され、その値は約2,000〜2,000,000となる。
【0031】
溶液重合法により得られた重合体溶液は、さらに1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等の含フッ素有機溶媒、好ましくは重合反応に用いられたものと同じ有機溶媒によって、その固形分濃度が約0.01〜30重量%、好ましくは約0.05〜15重量%に希釈した上で、防錆剤として用いられる。水系の乳化重合法、けん濁重合法などによって得られる重合物については、そのままあるいは水で固形分濃度を約0.1〜10重量%に希釈した上で水性分散液として、または重合反応液に凝集剤を添加して重合物を凝集させ、水または有機溶媒で洗浄して分離された共重合体を水に分散または含フッ素有機溶媒に溶解させることにより、その水性分散液または有機溶媒溶液として、調製することもできる。水性分散液としては、好ましくは界面活性剤および水溶性有機溶媒を20重量%以下含有させたものが用いられる。かかる水性分散液または有機溶媒溶液は、例えば撥水撥油剤、オイルバリヤなどの表面処理剤としても用いることができる。
【0032】
この共重合体の水性分散液またはこれらの含フッ素有機溶媒溶液よりなる重合体溶液中には、さらに他の添加剤としてメラミン樹脂、尿素樹脂、ブロックドイソシアネート等の架橋剤、重合体エクステンダー、シリコーン樹脂、またはオイル、ワックス等の他の撥水剤、防虫剤、帯電防止剤、染料安定剤、防皺剤、ステインブロッカー等の表面処理剤用途に必要な添加剤を添加することができる。
【0033】
このようにして得られる表面処理剤は、金属、紙、フィルム、繊維、布、織布、カーペットあるいはフィラメント、繊維、糸等で作られた布帛製品等の撥水撥油剤あるいは時計、モータ、デジタルカメラのレンズ等の精密機械の摺動部品またはその摺動部品に近接する部品に対して摺動面から周辺部への潤滑オイルの滲み出しを防止するオイルバリア、自動車用部品およびプリント基板、半導体などの電子部品の防水防湿剤、車載用部品の防錆剤などの表面処理剤、特に防錆剤として有効に適用される。適用方法としては、刷毛塗り、スプレー、浸漬、スピンコート、ディスペンサー、パッディング、ロール被覆あるいはこれらの組合せ方法等が一般に用いられ、被処理材料の種類にもよるが、一般には室温〜200℃の温度で5秒〜24時間程度の乾燥が行われ、表面処理が終了する。
【実施例】
【0034】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0035】
合成例1
(1) 攪拌機および温度計を備えた容量1200mlのオートクレーブに、
CF3(CF2)3(CH2CF2)(CF2CF2)2I (99.9GC%)
529g(0.86モル)およびジ第3ブチルパーオキサイド5gを仕込み、真空ポンプでオートクレーブを脱気した。内温を80℃迄加熱したところで、エチレンを逐次的に導入し、内圧を0.5MPaとした。内圧が0.2MPa迄下がったら、再びエチレンを導入して0.5MPaとし、これをくり返した。内温を80〜115℃に保ちながら、約3時間かけてエチレン34g(1.2モル)を導入した。内温50℃以下で内容物を回収し、
CF3(CF2)3(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)I (99.1GC%)
550g(収率99.4%)を得た。
【0036】
(2) コンデンサおよび温度計を備えた容量200mlの三口フラスコに、上記(1)で得られた
CF3(CF2)3(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)I (99.1GC%)
150g(0.24モル)とN-メチルホルムアミド105g(1.78モル)を仕込み、150℃で5時間攪拌した。反応終了後、反応混合物を水40mlで洗浄し、その下層(132.3g)を15重量%p-トルエンスルホン酸水溶液135gと混合し、80℃で7時間攪拌した。反応混合物を静置後、下層として白色の固体である反応生成物(65.5GC%)を103g(収率53.5%)得た。
【0037】
反応生成物について、内圧0.2kPa、内温121〜163℃、塔頂温度76〜77℃の条件下で減圧蒸留を行い、精製反応生成物(95.3GC%)66.9g(蒸留収率94.2%)を得た。
【0038】
得られた精製反応生成物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で示される化合物であることが確認された。
CF3(CF2)3(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OH
【0039】
(3) 上記(2)で得られた反応生成物(95.4GC%)60.0g(0.11モル)、トルエン29g、p-トルエンスルホン酸1.6gおよびハイドロキノン0.07gを、コンデンサおよび温度計を備えた容量100mlの三口フラスコに仕込み、内温を100℃迄加熱した後アクリル酸10g(0.14モル)を加え、内温118℃で3時間攪拌した。反応終了後、冷却して82gの反応液を回収し、エバポレータでトルエンを除去した残渣63.9gを水道水で洗浄し、下層として常温で無色透明の液体である反応生成物(89.3GC%)を60.8g(収率86.4%)得た。
【0040】
この反応生成物について、内圧0.2kPa、内温125〜155℃、塔頂温度84〜86℃の条件下で減圧蒸留を行い、精製反応生成物(99.4GC%)42.2g(蒸留収率77.2%)を得た。
【0041】
得られた精製反応生成物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で示される化合物であることが確認された。
CF3(CF2)3(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OCOCH=CH2 〔含フッ素モノマーA〕
【0042】
合成例2
合成例1(2)で得られた反応生成物(95.4GC%)60.0g(0.11モル)、トルエン29g、p-トルエンスルホン酸1.6gおよびハイドロキノン0.07gを、コンデンサおよび温度計を備えた容量100mlの三口フラスコに仕込み、内温を100℃迄加熱した後メタクリル酸12g(0.14モル)を加え、内温118℃で3時間攪拌した。反応終了後、冷却して82gの反応液を回収し、エバポレータでトルエンを除去した残渣64gを水道水で洗浄し、下層として常温で無色透明の液体である反応生成物(89GC%)を60.8g(収率86%)得た。
【0043】
この反応生成物について、内圧0.2kPa、内温125〜155℃、塔頂温度84〜86℃の条件下で減圧蒸留を行い、精製反応生成物(99.4GC%)42.2g(蒸留収率77.2%)を得た。
【0044】
得られた精製反応生成物は、1H-NMRおよび19F-NMRの結果から、次式で示される化合物であることが確認された。
CF3(CF2)3(CH2CF2)(CF2CF2)2(CH2CH2)OCOC(CH3)=CH2〔含フッ素モノマーB〕
【0045】
実施例1
合成例1で得られた含フッ素モノマーA 46.4g
n-ステアリルメタクリレート〔StMA〕 10.0g
2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート〔P-1A〕0.2g
(共栄社化学製品ライトアクリレートP-1A(N))
1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン〔MTF-TFM〕 193.0g
イソプロピルアルコール〔IPA〕 50.0g
以上の各成分を、コンデンサを備えた容量500mlの反応器に仕込み、窒素ガスで30分間置換した。反応器に、さらにビス(4-第3ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート〔P-16〕0.8gを添加した後(合計300.0g)、反応器内温度を徐々に50℃まで上げ、攪拌しながらこの温度で21時間重合反応を行った。
【0046】
反応終了後冷却し、固形分濃度19.1重量%の重合体溶液を得た。未反応の残留共単量体についてガスクロマトグラフィーで分析した結果、共重合反応に用いられた含フッ素モノマーAの99%が共重合反応されていることが確認された。
【0047】
なお、得られた共重合体溶液を120℃のオーブン中に入れ、溶媒を除去して単離した含フッ素モノマーA・n-ステアリルメタクリレート・2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート共重合体の重量平均分子量Mwは、123,000であった。ここで、Mwの測定は、Shodex GPC KD 806M + KD-802 + KD-Gを用い、温度40℃、溶出液である10mMテトラヒドロフラン溶液の溶出速度を1ml/分としてGPC測定法により行われ、検出器としては視差屈折計が、また解析にはSIC製Labchart 180(ポリスチレン換算)がそれぞれ用いられた。
【0048】
この共重合体溶液に、1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを加えて、その固形分濃度を2重量%に希釈し、その希釈液1mlをいずれも2×5cmのアルミニウム板または銅板に滴下し、スピンコートした後、120℃で30分間乾燥させて、試験片を作製した。
【0049】
作製された試験片について、撥水・撥油性能の一つの指標である静的接触角の測定(セシルドロップ法による)を、水およびn-ヘキサデカンについて実施した。測定は、試験片の1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン溶媒による洗浄前、洗浄後について、それぞれ行われた。
【0050】
実施例2〜7
実施例1において、共重合モノマーが種々変更されて用いられた。
【0051】
共重合モノマー(単位:g)、重合体溶液の固形分濃度(単位:重量%)、共重合体Mwおよび静的接触角(単位:度)の測定結果は、次の表1に示される。この表1には、実施例1の結果が併記されている。
注)BzMA:ベンジルメタクリレート
IBMA:イソボルニルメタクリレート
MMA:メチルメタクリレート
【0052】
実施例8〜14
実施例1において、共重合モノマー、溶媒または重合開始剤が種々変更された。
【0053】
共重合モノマー(単位:g)、重合体溶液の固形分濃度(単位:重量%)、共重合体Mwおよび静的接触角(単位:度)の測定結果は、次の表2に示される。なお、溶媒の1成分であるIPAは用いられなかった。
注)MAA:メタクリル酸
【0054】
実施例15〜19
実施例2において、官能基含有モノマー、溶媒または重合開始剤が種々変更された。
【0055】
共重合モノマー(単位:g)、重合体溶液の固形分濃度(単位:重量%)、共重合体Mwおよび静的接触角(単位:度)の測定結果は、次の表3に示される。
表3
実施例 15 16 17 18 19
官能基含有モノマー
P-1A 0.2 0.2 0.2 0.2
GMA 0.2
溶媒
MTF-TFM 193.0 193.0 96.5 96.5 243.0
Novec7100 96.5
Novec7200 96.5
IPA 50.0 50.0 50.0 50.0
重合開始剤
P-16 0.8 0.8 0.8
AIBN 0.8
V-65 1.3

固形分濃度(重量%) 19.1 19.2 19.1 19.1 19.1
共重合体 Mw 182,000 165,000 130,000 145,000 176,000
水との接触角(°)
Al 洗浄前 118 117 118 118 119
洗浄後 116 116 116 115 114
Cu 洗浄前 116 119 118 117 118
洗浄後 114 115 116 113 113
注)GMA:グリシジルメタクリレート(東京化成工業製品)
Novec7100:3M社製品(メチルノナフルオロブチルエーテ
ル-メチルノナフルオロイソブチルエーテル
混合品)
Novec7200:3M社製品(エチルノナフルオロブチルエーテ
ル-エチルノナフルオロイソブチルエーテル
混合品)
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル
V-65:2,2′-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)
【0056】
比較例1〜4
次のような含フッ素モノマー、非フッ素モノマー、官能基含有モノマー、溶媒および重合開始剤が用いられた。
【0057】
共重合モノマー(単位:g)、重合体溶液の固形分濃度(単位:重量%)、共重合体Mwおよび静的接触角(単位:度)の測定結果は、次の表4に示される。
表4
比較例
含フッ素モノマー
A 51.0 43.4
FAAC-8 74.9 84.8
非フッ素モノマー
StMA 8.8
BzMA 9.5 6.0 5.1
官能基含有モノマー
P-1A 8.5
溶媒
MTF-TFM 413.0 404.0 243.0 243.0
重合開始剤
P-16 3.0 1.3 1.5 1.5

固形分濃度(重量%) 17.4 19.1 19.4 19.4
共重合体 Mw 130,000 163,000 196,000 56,000
水との接触角(°)
Al 洗浄前 119 120 118 108
洗浄後 104 103 101 100
Cu 洗浄前 118 119 118 106
洗浄後 101 100 102 104
C16H34との接触角(°)
Al 洗浄前 73 74 76 77
洗浄後 31 30 30 68
Cu 洗浄前 75 76 77 73
洗浄後 31 32 30 65
注)FAAC-8:2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート
【0058】
実施例20〜24、比較例5
実施例2、4、9、11、12および比較例3で得られた含フッ素共重合体の1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン溶液(成分濃度5重量%)(実施例2および4はイソプロピルアルコールを含有)を用いて防錆性の評価を行った。
【0059】
防錆性評価は、塩水噴霧試験(JIS Z 2371)により行った。基材としては、70×150×1.0mmのアルミニウム、銅またはSPCC基板を用い、各含フッ素共重合体の1,4-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン溶液に浸漬させ、基材の表面処理を行った。240時間の塩水噴霧後の外観を、◎(錆なし)、○(一部錆発生)、△(半面以上錆発生)、×(全面錆発生)の4段階で評価した。得られた結果は、次の表5に示される。