(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アミノ変性シリコーン、前記水、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、前記アミノ変性シリコーンと前記非イオン界面活性剤との含有割合の合計が20〜50質量部、及び前記水が50〜80質量部の割合で含有するものである請求項1又は2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
前記非イオン界面活性剤に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比が、前記アミノ変性シリコーン/前記非イオン界面活性剤=95/5〜75/25である請求項1〜3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
以下、本発明の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液(以下、単に水性液という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の水性液は、アミノ変性シリコーンの他、所定の分子量分布を有する非イオン界面活性剤を必須成分として含有する。
【0015】
アミノ変性シリコーンとは、(−Si−O−)の繰り返しからなるポリシロキサン骨格を持ち、そのケイ素原子のアルキル側鎖の一部がアミノ変性基により変性されたものである。アミノ変性基は、主鎖であるシリコーンの側鎖と結合していてもよいし、末端と結合していてもよいし、またその両方と結合していてもよい。アミノ変性基としては、例えばアミノ基、アミノ基を有する有機基等が挙げられる。アミノ基を有する有機基としては、下記の化2が例示される。
【0016】
【化2】
(化2中、R
1及びR
2は、炭素数2〜4のアルキレン基であり、それぞれ同じでも異なっていてもよい。zは、0又は1の整数である。)
化2のアミノ変性基を有するアミノ変性シリコーンの具体例としては、例えばジメチルシロキサン・メチル(アミノプロピル)シロキサン共重合体(アミノプロピルジメチコン)、アミノエチルアミノプロピルメチルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体(アモジメチコン)等が挙げられる。
【0017】
アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の下限は、特に制限はないが、好ましくは50mm
2/s以上である。動粘度の下限が50mm
2/s以上の場合、炭素繊維の強度をより向上させる。アミノ変性シリコーンの25℃の動粘度の上限は、特に制限はないが、好ましくは4000mm
2/s以下である。動粘度の上限が4000mm
2/s以下の場合、水性液の経時安定性をより向上させる。なお、アミノ変性シリコーンが複数種類使用される場合の動粘度は、使用する複数のアミノ変性シリコーンの混合物の実際の測定値が適用される。
【0018】
非イオン界面活性剤は、分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.50の範囲を有する。非イオン界面活性剤の分子量分布は、水性液に配合される非イオン界面活性剤の混合物を試験試料としてGPC法により求められる。水性液に配合される非イオン界面活性剤は、単分散のものではなく、所定の分子量分布を有するブロード状態のものを使用することにより、水性液の経時安定性を向上させる。
【0019】
非イオン界面活性剤の種類は、例えばアルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させ化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物等が挙げられる。本発明においては、下記の化3で示される化合物が含まれるものが用いられる。
【0020】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2−エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0021】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば(7)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(8)2−エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(9)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(10)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。一種の原料であるアルコール類又はカルボン酸類を使用してもよく、また二種以上のアルコール類又はカルボン酸類を組み合わせて使用してもよい。これらの中で分子量分布をブロードにし、水性液の経時安定性をより向上させる観点から二種以上のアルコール類又はカルボン酸類を組み合わせて使用することが好ましい。
【0022】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1〜60モル、より好ましくは1〜40モル、さらに好ましくは2〜30モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。アルキレンオキサイドの付加モル数が0.1モル以上の場合、分子量分布をブロードに調整することが容易となる。一方、アルキレンオキサイドの付加モル数が60モル以下の場合、炭素繊維の強度をより向上させる。
【0023】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、グリセリン、2−メチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0024】
一種の原料としてのアルキレンオキサイド又は多価アルコールを使用してもよく、また二種以上のアルキレンオキサイド又は多価アルコールを組み合わせて使用してもよい。
非イオン界面活性剤の分子量分布を調整するためには、複数種類の非イオン界面活性剤を使用することにより分子量分布がブロードな非イオン界面活性剤が得られる。分子量分布がブロードな非イオン界面活性剤を得るためには、複数種類の非イオン界面活性剤を混合する方法が挙げられる。また、複数種類のアルコール類又はカルボン酸類等の原料を使用したり、反応条件を変更、例えば触媒の量を通常使用する量より減らしたりすることにより、分子量分布がブロードな非イオン界面活性剤が得られる。
【0025】
本発明においては、これらのノニオン界面活性剤の中でも下記の化3で示される化合物が含まれるものが用いられ、かかる化合物を使用することにより、水性液の経時安定性をより向上させる。
【0026】
【化3】
(化3において
R
1:炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、又は炭素数8〜18の分岐鎖の炭化水素基
AO:炭素数2〜3のオキシアルキレン基
R
2:水素原子、又は炭素数1〜4の炭化水素基
n:1〜60の整数。)
さらに、
本発明において非イオン界面活性剤は、上述した化3中のR
1の炭素数の異なる2種以上の非イオン界面活性剤を含むもの
が用いられる。かかる非イオン界面活性剤を使用することにより、分子量分布をブロードに調整することが容易となる。それにより水性液の経時安定性をより向上させる。
【0027】
水性液中において、前記アミノ変性シリコーン、前記水、及び前記非イオン界面活性剤の含有割合は、特に限定されない。アミノ変性シリコーン、水、及び非イオン界面活性剤の含有割合の合計を100質量部とすると、アミノ変性シリコーンと非イオン界面活性剤との含有割合の合計が20〜50質量部、及び水が50〜80質量部の割合で含有するものが好ましい。かかる配合割合に規定することにより、水性液の経時安定性をより向上させる。
【0028】
水性液中において、前記非イオン界面活性剤に対する前記アミノ変性シリコーンの含有量の質量比は、特に限定されない。非イオン界面活性剤に対するアミノ変性シリコーンの含有量の質量比は、アミノ変性シリコーン/非イオン界面活性剤=95/5〜75/25であることが好ましい。かかる配合割合に規定することにより、水性液の経時安定性をより向上させる。
【0029】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る炭素繊維前駆体(以下、前駆体という)を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の前駆体は、炭素繊維前駆体に第1実施形態に記載の炭素繊維用処理剤が付着している。
【0030】
本実施形態の前駆体を用いた炭素繊維の製造方法は、例えば炭素繊維前駆体の原料繊維に第1実施形態の水性液を付着させて前駆体を得た後、必要により乾燥処理が行われた後、製糸する製糸工程が行われる。次に、その製糸工程で製造された前駆体を200〜300℃、好ましくは230〜270℃の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程と、前記耐炎化繊維をさらに300〜2000℃、好ましくは300〜1300℃の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程が行われる。
【0031】
製糸工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維に第1実施形態の水性液を付着させて得られた前駆体を製糸する工程であり、付着処理工程と延伸工程とを含む。
付着処理工程は、炭素繊維前駆体の原料繊維を紡糸した後、水性液を付着させる工程である。つまり、付着処理工程で炭素繊維前駆体の原料繊維に水性液を付着させる。またこの炭素繊維前駆体の原料繊維は紡糸直後から延伸されるが、付着処理工程後の高倍率延伸を特に「延伸工程」と呼ぶ。延伸工程は高温水蒸気を用いた湿熱延伸法でもよいし、熱ローラーを用いた乾熱延伸法でもよい。
【0032】
炭素繊維前駆体の原料繊維は、例えばアクリル繊維等が挙げられる。アクリル繊維としては、少なくとも90モル%以上のアクリロニトリルと、10モル%以下の耐炎化促進成分とを共重合させて得られるポリアクリロニトリルを主成分とする繊維から構成されることが好ましい。耐炎化促進成分としては、例えばアクリロニトリルに対して共重合性を有するビニル基含有化合物が好適に使用できる。炭素繊維前駆体の単繊維繊度については、特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは0.1〜2.0dTexである。また、炭素繊維前駆体の繊維束を構成する単繊維の本数についても特に限定はないが、性能及び製造コストのバランスの観点から、好ましくは1,000〜96,000本である。
【0033】
水性液は、製糸工程のどの段階で炭素繊維前駆体の原料繊維に付着させてもよいが、延伸工程前に一度付着させておくことが好ましい。また、延伸工程前の段階であればどの段階でも付着させてもよい。例えば紡糸直後に付着させてもよい。さらに延伸工程後のどの段階で再度付着させてもよい。例えば、延伸工程直後に再度付着させてもよいし、巻取り段階で再度付着させてもよいし、耐炎化処理工程の直前に再度付着させてもよい。製糸工程中、付着させる回数は特に限定されない。また、水性液が炭素繊維前駆体に付着させた後、必要により乾燥処理されてもよい。付着処理工程後、水性液由来の水分は蒸発され、炭素繊維には、炭素繊維用処理剤が付着している。
【0034】
第1実施形態の炭素繊維前駆体用処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、炭素繊維前駆体用処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1〜2質量%となるように付着させることが好ましく、0.3〜1.2質量%となるように付着させることがより好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。第1実施形態の水性液の付着方法としては公知の方法が適用でき、これには例えば、スプレー給油法、浸漬給油法、ローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の水性液及び炭素繊維前駆体の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、アミノ変性シリコーン及び水を含む水性液を調製するに際し、所定の分子量分布を有する非イオン界面活性剤を使用した。したがって、水性液の経時安定性を向上できる。特に、夏場の高温時における経時安定性を向上させる。また、かかる水性液が付与されて得られた炭素繊維前駆体により合成された炭素繊維の強度を向上させる。
【0036】
尚、上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態の水性液には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、水性液の品質保持のための安定化剤や制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、防腐剤、抗菌剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、その他の界面活性剤、その他のシリコーン類等の通常炭素繊維前駆体用処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0038】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の水性液の調製)
・非イオン界面活性剤(N−1)の製造方法
オートクレーブ内に上記化3のR
1を構成する原料アルコールとしてデカノール20部、ウンデカノール50部、ドデカノール30部を加え、さらに水酸化カリウム0.05部を加え、雰囲気を窒素ガスで置換した。150℃でエチレンオキサイド76部を徐々に加えて、エーテル化反応を行った。水酸化カリウムを吸着処理した後、濾過する事で、非イオン界面活性剤(N−1)を合成した。
【0039】
化3によって示される非イオン界面活性剤(N−1)を構成する各構造(R
1、AO、R
2)について、表1の「化3中のR
1のアルキル基の炭素数」欄、「R
1の原料混合比」欄、「化3中のAO」欄、「化3中のR
2の種類」欄にそれぞれ示す。
【0040】
・非イオン界面活性剤(N−2)〜(N−11)の製造方法
下記表1の「化3中のR
1のアルキル基の炭素数」欄、「R
1の原料混合比」欄、「化3中のAO」欄、及び「化3中のR
2の種類」欄に基づいて、上記と同様の処方で非イオン界面活性剤(N−2)〜(N−11)を合成した。
【0041】
化3によって示される非イオン界面活性剤(N−2)〜(N−11)を構成する各構造(R
1、AO、R
2)について、表1の「化3中のR
1のアルキル基の炭素数」欄、「R
1の原料混合比」欄、「化3中のAO」欄、「化3中のR
2の種類」欄にそれぞれ示す。
【0042】
(実施例1)
(A)アミノ変性シリコーン(Si−1)を30部、(B)非イオン界面活性剤(N−4)を5部、及びイオン交換水65部をよく撹拌した後、ホモジナイザーを用いて乳化する事で、実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の固形分濃度35%水性液を調製した。
【0043】
(実施例2〜
11,14〜16、参考例12,13、比較例1〜4)
実施例2〜
11,14〜16、参考例12,13、及び比較例1〜4の各炭素繊維前駆体用処理剤の水性液は、表3の各「質量部」欄に記載の(A)アミノ変性シリコーン、(B)非イオン界面活性剤、及び水の各配合量に基づいて、実施例1と同様の処方で調製した。
【0044】
各実施例及び比較例で用いたシリコーン(Si−1)〜(Si−5)、(rSi−6)、(rSi−7)の構造及び動粘度を、表2の「シリコーン構造」欄及び「動粘度」欄に示す。
【0045】
各実施例及び比較例で用いた(A)アミノ変性シリコーン及び(B)非イオン界面活性剤の種類を、表3の各成分の「種類」欄に示す。また(A)アミノ変性シリコーン、(B)非イオン界面活性剤、及び水の水性液中における各配合量を、表3の各成分の「質量部」欄に示す。また、各水性液中における(A)アミノ変性シリコーン及び(B)非イオン界面活性剤の合計質量、並びに(B)非イオン界面活性剤の含有量に対する(A)シリコーンの含有量の質量比を、表3の「A成分とB成分の合計質量」欄、及び「A成分/B成分の質量比」欄にそれぞれ示す。
【0046】
・分子量分布の測定方法
非イオン界面活性剤の分子量分布は、下記に示される方法により求めた。
まず、各実施例及び比較例の水性液に配合される非イオン界面活性剤の混合物0.02gをバイアル瓶に採取し、テトラヒドロフラン(THF)を30mL加えて希釈し、試料溶液を得た。その試料溶液1mLをGPC用濾過フィルターを装着した注射器を用いて、GPC用試料瓶に異物を除去することにより試料溶液を調製した。リファレンスカラムとしてTSKgel SuperH-RC、測定用カラムとしてTSKguardcolumn SuperH-L、TSKgel SuperH4000、TSKgel SuperH3000、TSKgel SuperH2000を装着した、東ソー社製HLC-8320GPCを使用して、GPCを測定した。数平均分子量(=Mn)と質量平均分子量(=Mw)は、標準試料として、TSKgel標準ポリスチレンを用いて検量線を作成し、各実施例及び比較例の水性液に配合される非イオン界面活性剤の混合物のMn及びMwを求めた。その数値を用いて、分子量分布(=Mw/Mn)を算出した。分子量分布の結果を表3の「分子量分布」欄に示す。
【0047】
【表1】
表1の区分欄に記載するN−1〜N−11の各非イオン界面活性剤の詳細は以下のとおりである。
【0048】
N−1:ポリオキシエチレン(n=3:エチレンオキサイドの付加モルを示す。以下同じ。)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=3)ウンデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=3)ドデシルエーテルの混合物
N−2:ポリオキシエチレン(n=9)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=9)ウンデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=9)ドデシルエーテルの混合物
N−3:ポリオキシエチレン(n=12)デシルエーテル、ポリオキシエチレン(n=12)ウンデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=12)ドデシルエーテルの混合物
N−4:ポリオキシエチレン(n=5)ドデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=5)トリデシルエーテルの混合物
N−5:ポリオキシエチレン(n=10)ドデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=10)トリデシルエーテルの混合物
N−6:ポリオキシエチレン(n=25)ドデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=25)テトラデシルエーテルの混合物
N−7:ポリオキシエチレン(n=15)ポリオキシプロピレン(m=10:プロピレンオキサイドの付加モルを示す。以下同じ。)テトラデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=15)ポリオキシプロピレン(m=10)ペンタデシルエーテルの混合物
N−8:ポリオキシエチレン(n=40)ポリオキシプロピレン(m=10)テトラデシルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=40)ポリオキシプロピレン(m=10)ペンタデシルエーテルの混合物
N−9:ポリオキシエチレン(n=5)ヘキサデシルエチルエーテル、及びポリオキシエチレン(n=5)オクタデシルエチルエーテルの混合物
N−10:ポリオキシエチレン(n=7)オクチルエーテル
N−11:ポリオキシエチレン(n=5)ポリオキシプロピレン(m=5)ブチルエーテル
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
試験区分2(炭素繊維前駆体及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の水性液を用いて、炭素繊維前駆体及び炭素繊維を製造した。
【0051】
アクリロニトリル95%、アクリル酸メチル3.5%、メタクリル酸1.5%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0052】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランドを作成した。これを試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の水性液をさらに希釈した4%イオン交換水溶液を浸漬法にて炭素繊維前駆体用処理剤の固形分付着量が1%(溶媒を含まない)となるように給油した。その後、このアクリル繊維ストランドを130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、さらに170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に糸管に巻き取ることで炭素繊維前駆体を得た。この炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230〜270℃の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間耐炎化処理した後、連続して窒素雰囲気下で300〜1,300℃の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取った。
【0053】
炭素繊維前駆体用処理剤の水性液の経時安定性、炭素繊維の強度を以下に示されるように評価した。
試験区分3(評価)
・乳化安定性の評価
炭素繊維前駆体用処理剤の水性液100mLを透明な密閉容器に保管し、40℃で3日間静置した後、容器を10回振盪し、再度、40℃で3日間静置した。静置後の外観を目視にて観察した。また、保管後の処理剤を固形分5%となるように、さらにイオン交換水で希釈し、希釈後の外観を目視にて観察した。以下の基準で評価し、結果を表3の「経時安定性」欄に示した。
【0054】
・乳化安定性の評価基準
◎:ほとんど分離、沈殿は見られず、外観均一となった。また、希釈後は、良好な乳化性を保っていた。
【0055】
○:わずかにクリーミングや分離が見られるが、乳化性は良好であり実用上問題ないレベルであった。また、希釈後は、良好な乳化性を保っていた。
×:明らかなクリーミングや分離が見られた。若しくは、希釈後に沈殿又は分離が発生した。
【0056】
・炭素繊維強度の評価
JIS R 7606に準じて、上記得られた炭素繊維の強度を測定し、以下の基準で評価した。結果を表3の「強度」欄に示した。
【0057】
・炭素繊維強度の評価基準
○:3.3GPa以上。
×:3.3GPa未満。
【0058】
−:安定性不良の為、未評価。
以上表3の結果からも明らかなように、本発明によれば、炭素繊維前駆体用処理剤の水性液の経時安定性を向上できると共に、炭素繊維の強度を向上できるという効果が示された。
【解決手段】本発明の炭素繊維前駆体用処理剤の水性液は、アミノ変性シリコーン及び分子量分布(Mw/Mn)が1.05〜1.50の非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤と、水とを含んで構成されている。前記アミノ変性シリコーンが、25℃の動粘度が50〜4000mm