特許第6693676号(P6693676)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693676
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】ポリイミド及びポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/14 20060101AFI20200427BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20200427BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   C08G73/14
   C08L79/08 Z
   C08J5/18CFG
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-94116(P2016-94116)
(22)【出願日】2016年5月9日
(65)【公開番号】特開2017-203061(P2017-203061A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2019年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】石井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】末永 修也
(72)【発明者】
【氏名】松丸 晃久
(72)【発明者】
【氏名】大石 實雄
【審査官】 阪▲崎▼ 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−264632(JP,A)
【文献】 特開昭63−239257(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/002273(WO,A1)
【文献】 特開2009−286706(JP,A)
【文献】 特開2009−191253(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/122032(WO,A1)
【文献】 特開2013−088753(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/
C08L 79/08
C09D179/08
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される繰り返し単位を含むポリイミド。
【化1】

(式(I)中、
は炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数2〜6のアルキル基を表し、
は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)
【請求項2】
がメトキシ基、Rが水素原子である、請求項1に記載のポリイミド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリイミドが有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
【請求項4】
前記有機溶媒が非アミド系溶媒であり、前記ポリイミドの濃度が10質量%以上である、請求項3に記載のポリイミドワニス。
【請求項5】
請求項1または2に記載のポリイミドを含む、ポリイミドフィルム。
【請求項6】
300℃以上のガラス転移温度、45ppm/K以下の線熱膨張係数、7.0以下の黄色度、1.0%以下のヘイズおよび10%以上の破断伸びを有する、請求項5に記載のポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のポリイミドフィルムを含む、画像表示装置用プラスチック基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド及びそれを用いたポリイミドフィルムに関するものである。また、本発明は、ポリイミドフィルムの製造に用いられるポリイミドワニス及びポリイミドフィルムを用いた画像表示装置用プラスチック基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在液晶ディスプレー(LCD)等の画像表示装置には無機のガラス基板(例えば無アルカリガラス基板、以下単にガラス基板という)が用いられているが、ガラス基板の代わりにプラスチック基板を適用することで、画像表示装置の軽量化・薄型化・フレキシブル化を実現しようとする検討が活発になされている。
【0003】
工業的に生産されている無着色透明なスーパーエンジニアリングプラスチックの中で、最も優れた特性を有するものとしてポリエーテルスルホン(以下PESと称する)が知られている。PESは透明性に加え、靱性、難燃性および加工性に優れ、現行のスーパーエンジニアリングプラスチックの中で最も高い物理的耐熱性(即ちガラス転移温度:T=225℃)を有している。しかしながらPESでさえも、画像表示装置製造工程における透明電極や薄膜トランジスタ(TFT)形成等の様々な高温プロセスに対する物理的耐熱性(短期耐熱性ともいう)の観点では必ずしもが十分ではない。
【0004】
画像表示装置製造工程では、上記高温プロセスと室温への冷却を繰り返す温度サイクルがあるが、最近プラスチック基板材料には、温度サイクルに対する優れた寸法安定性も強く求められている。寸法安定性を高める最も有効な方法の1つは、プラスチック基板材料のフィルム面方向(XY方向)の熱膨張特性、具体的にはガラス転移温度以下(ガラス領域)でのXY方向線熱膨張係数(以下CTEと称する)をできるだけ下げることである。CTEが低いほど、温度サイクルに追従するフィルムの可逆的熱膨張−収縮そのものを低減することができる。これにより素子層のひび割れや位置ずれといった深刻な問題を回避することができる。
【0005】
上記に加えて、不可逆的な熱膨張―収縮を抑制することも重要である。プラスチック基板のCTEが大きいほど、温度サイクルが繰り返されるうちに熱膨張―収縮においてヒステリシスが顕著になるか、更には不可逆的な熱膨張−収縮が増加してフィルムに歪(微小変形)が蓄積される等により、素子層のひび割れ、層間接着不良あるいは素子の位置ずれ等の深刻な問題が生じる恐れがある。この観点からもプラスチック基板材料のCTEをできるだけ下げることが好ましい。
【0006】
しかしながら、PESを含む殆どの有機高分子フィルムは60〜100ppm/Kと高いCTE値を有しており、上記寸法安定性の要求に合致する透明樹脂材料がないのが実情である。
【0007】
全芳香族ポリイミドは物理的・化学的耐熱性、電気絶縁性、機械的特性、難燃性および製造工程の簡便さの観点から現在最も信頼性の高い耐熱性絶縁樹脂材料としてエレクトロニクス分野を中心に広く用いられている。しかしながら、下記式(1)で表される東レ・デュポン社製KAPTON−Hや下記式(2)で表される宇部興産社製UPILEX−Sに代表される現行の全芳香族ポリイミドフィルムは、電子供与体(ジアミン由来の芳香族基)と電子受容体(ビスイミド構造単位)が交互に連結した連鎖に由来する電荷移動相互作用により強く着色しており(例えば非特許文献1参照)、本目的には適合しない。
【化1】
【0008】
このような状況から、全芳香族ポリイミドに比べると必然的に耐熱性は劣るものの、PESよりも高い耐熱性を維持した無色透明ポリイミドが検討されている。全芳香族ポリイミドのうち、下記式(3):
【化2】

で表されるポリイミドは、全芳香族ポリイミドの中でも無着色透明なフィルムを与える非常に限られたケースである(例えば非特許文献2参照)。このポリイミドフィルムの透明性は、電子吸引基として作用し、高分子鎖間の凝集力を弱める働きを持つトリフルオロメチル基(CF)の効果によるものであり、この効果によりこのポリイミドは優れた溶媒溶解性即ち溶液加工性も有している。しかしながら、このポリイミドフィルムは残念ながら低熱膨張特性を示さない(例えば非特許文献2参照)。
【0009】
一般に、ポリイミドフィルムが低いXY方向CTEを示すためには、ポリイミド主鎖がXY方向へ高度に分子配向(面内配向と称する)する必要があり、そのためにはポリイミド主鎖の直線性・剛直性が不可欠であることが報告されている(例えば非特許文献3参照)。式(3)で表されるポリイミド中、トリフルオロイソプロピリデン基部位における折れ曲がった構造によりポリイミド主鎖が非直線状構造となり、主鎖の面内配向が妨害されることが、このポリイミドフィルムが低熱膨張特性を示さない要因である。
【0010】
ポリイミドを無色透明化する有効な他の方法は、モノマー成分であるテトラカルボン酸二無水物かあるいはもう1つのモノマー成分であるジアミンのいずれか一方、または両方に非芳香族即ち脂肪族モノマーを使用することである。耐熱性の観点から、脂肪族モノマーとして線状ではなく環状のもの(脂環式モノマーと称する)が通常選択される。
【0011】
例えば下記式(4):
【化3】

で表される汎用の脂環式ジアミンと下記式(5):
【化4】

で表される汎用の芳香族テトラカルボン酸二無水物即ちピロメリット酸二無水物(以下PMDAと称する)より得られる下記式(6):
【化5】

で表されるポリイミドは無色透明なフィルムを与える。しかしながら、脂肪族ジアミンが芳香族ジアミンに比べてはるかに高い塩基性を持っているために、等モル重付加反応(以下単に重合反応という)の初期段階で生成した低分子量アミド酸のカルボキシル基と脂肪族アミノ基との間で塩が形成される(例えば非特許文献4参照)。この塩は架橋した構造をとり、無水の重合溶媒に溶けにくいため、塩が沈殿として析出し、重合反応が全く進行しなくなる場合がある。生成した塩が重合溶媒に僅かでも溶解する場合は、一旦析出後室温で撹拌することで徐々に重合が進行するが、塩が完全に溶解して均一なワニスとなるまで、非常に長時間必要となる。また均一化までに要する重合反応時間やポリイミド前駆体の分子量の再現性が乏しい。
【0012】
また、上記式(6)で表されるポリイミドのフィルムは低熱膨張特性を示さない。これは、メチレン結合部位における主鎖の折れ曲がりと、シクロヘキシレン基部位においてトランス−シス異性体が混合していることにより、ポリイミド主鎖の直線性が低下し、面内配向が妨害されるためである。
【0013】
ポリイミドフィルムの低熱膨張化に有利な唯一の脂環式ジアミンとして下記式(7):
【化6】

で表されるトランス−1,4−シクロヘキサンジアミン(以下CHDAと称する)が知られているが、式(5)で表されるテトラカルボン酸二無水物(PMDA)と通常の重合方法で反応を行おうとすると、初期段階で形成される塩が極めて強固なため、如何なる反応条件でも析出した塩が全く溶解せず、ポリイミド前駆体は得られない(例えば非特許文献4参照)。
【0014】
式(7)で表されるCHDAは下記式(8):
【化7】

で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物即ち、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下s−BPDAと称する)とは反応するので、最終的に均一で高粘度のポリイミド前駆体ワニスを得ることは可能であるが、重合初期に一旦析出した塩を溶解させるのに短時間の加熱操作が必要であるため、このプロセスは大規模生産にとって不都合である。得られたポリイミド前駆体を基板上に塗布乾燥後、300℃以上に加熱して脱水閉環反応(イミド化反応)させると式(9):
【化8】

で表されるポリイミドが得られ、そのフィルムは比較的透明で低熱膨張性を示す(例えば非特許文献5参照)。しかしながらこのポリイミドフィルムは実用的な膜靱性を有していない。またこのポリイミドは溶媒に全く不溶で溶液加工性に乏しい。
【0015】
一方、脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの組み合わせでは、上記のような塩形成の問題なく通常の方法でポリイミド前駆体ワニスを得ることができる。重合反応の際に用いるモノマーとして、直線的・平面的で剛直な構造の脂環式テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンを選択することで、低熱膨張性の透明ポリイミドが得られる。直線的・平面的で剛直な構造を有する、入手可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物は非常に限られており、例えば下記式(10):
【化9】

で表される剛直構造の脂環式テトラカルボン酸二無水物即ち、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(以下CBDAと称する)が知られているのみである。これと例えば下記式(11):
【化10】

で表される剛直で直線的な構造を有する芳香族ジアミン即ち、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(以下TFMBと称する)との重合反応により、容易に高分子量のポリイミド前駆体が得られ、これをキャスト製膜・熱イミド化して得られる下記式(12):
【化11】

で表されるポリイミドのフィルムは無着色透明で低いCTEを示す(例えば非特許文献5参照)。しかしながら、このポリイミドフィルムは自立膜とはなるものの可撓性が十分でなく、ポリイミド自身の溶液加工性も有していない(例えば非特許文献6参照)。
【0016】
またCBDAはその製造法上の制約によるコストの問題も有している。CBDAは無水マレイン酸の光二量化反応によって合成される(例えば非特許文献7参照)。そのため紫外線照射装置上の制約から通常の熱反応のように大型反応釜による大規模生産に必ずしも適していないことから、大量生産による低コスト化は容易ではない。
【0017】
これに対して、下記式(13):
【化12】

(式(13)中、中央のシクロヘキサン部位は舟型構造である。)
で表されるシス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(以下H−PMDAまたは、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物と称する)の合成方法として、安価なPMDAを水素還元して製造する技術が知られている。また、ピロメリット酸を水素還元して1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を得た後、当該1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸を無水物化してH−PMDAを製造する技術も知られている。それらの方法によれば、大規模生産が可能であるため、現在入手可能な脂環式テトラカルボン酸二無水物の中で最も低コストで実用的である。
【0018】
上記H−PMDAは、屈曲性の連結基としてエーテル結合を含む通常の芳香族ジアミンと室温で重合反応させてポリイミド前駆体を得る場合、その固有粘度から推測される重合度はからずしも高くはならないものの、透明で優れた靱性を有するポリイミドフィルムを与えることが知られている(例えば非特許文献8参照)。例えば下記式(14)および(15):
【化13】

で表されるポリイミドはその代表的なものであるが、これらのポリイミドフィルムは主鎖が折れ曲がった構造であるため、殆ど面内配向せず、低熱膨張特性を示さない。
【0019】
しかしながらポリイミドの低熱膨張化を期待して剛直で直線性の高い構造のジアミン例えば式(11)で表されるTFMBを用いた場合、重合度の低くさとポリマー鎖同志の絡み合いに不利な剛直な主鎖構造の影響でポリイミドフィルムは非常に脆弱になり、製膜困難になる(例えば非特許文献8参照)。これに対して前述のようにTFMBとCBDAとの重合反応では、極めて高重合度のポリイミド前駆体が得られる。この結果はH−PMDAがCBDAよりも重合反応性に劣ることによるものである。
【0020】
H−PMDAの重合反応性が必ずしも高くない理由として、H−PMDAの立体構造に由来して、H−PMDA上の官能基が成長鎖によってブロックされる状態となり、重合反応の立体障害となるためであるとの機構が提案されている(例えば非特許文献8参照)。
【0021】
H−PMDAと組み合わせるジアミン成分として、ポリイミドの低熱膨張化に有利な極めて剛直で直線性の高い構造を持ち、且つ極めて重合反応性の高いものを使用すれば、H−PMDAの低重合反応性を補って、十分高分子量のポリイミドを得ることは原理的に可能であるが、そのようなジアミンは知られていない。
【0022】
H−PMDAとジアミンの重合反応性を高めるために、重合反応を高温下で行うこともしばしば有効である。重合反応を溶媒中加熱して行うと、重付加反応によりポリイミド前駆体が生成するが、ポリイミド前駆体段階で止まることなく、イミド化反応も同時に進行して溶液中でポリイミドが生成する。この方法(以下ワンポット重合法と称する)により、安定なポリイミドワニスが得られるならば、このワニスを基板に塗布・乾燥するだけで即ち、より高温の熱イミド化反応工程なしでポリイミドフィルムを簡便に作製できるため、ワンポット重合法にはプロセス簡略化の観点で大きなメリットがある。
【0023】
しかしながらポリイミドの低熱膨張化を期待して剛直で直線状構造のジアミンを使用すると、生成したポリイミドが溶解性を失い、沈殿が析出することになり、沈殿したポリイミドを濾別・再溶解してフィルム状に成形する工程はもはや適用不可となる。そのため、上記目的に適合するジアミンは、ポリイミドフィルムのCTEをできるだけ下げるために剛直で直線状の構造であるだけでなく、それと同時に、生成したポリイミドの重合溶媒に対する溶解性も悪化させてはならないという制約がある。しかし、これらを両立することは原理的に極めて困難な課題である。
【0024】
剛直で直線状構造のジアミンのうち、ポリイミドの低熱膨張化に最も効果が高いジアミンとして、下記式(16):
【化14】

で表される。4,4’−ジアミノベンズアニリド(以下DABAと称する)が知られている(例えば非特許文献9参照)。しかしながら、如何なる重合溶媒を使用したとしても、DABAとH−PMDAをワンポット重合すると、反応中に一部沈殿が析出し、均一なポリイミドワニスが得られない。これは、生成したポリイミド主鎖の剛直性が高いこと、水素結合による分子間力が非常に強いことに起因して、重合溶媒に対するポリイミドの溶解性が乏しいためである。
【0025】
一方、ポリイミド主鎖の剛直性がそれほど高くなければ、溶媒溶解性が維持されてワンポット重合で均一なワニスが得られやすくなるが、その反面、ポリイミドが低熱膨張特性を発現することは殆ど期待できない。ポリイミド主鎖の剛直性・直線性を維持しながら、溶媒溶解性を確保するためのかなり限られた方策として、側鎖にトリフルオロメチル(CF)基のような分子間力低減に有効なフッ素含有置換基を導入することが知られている。しかしながら、製造コストの上昇や、ポリイミド/異種材料界面での接着不良等の不具合を回避するといった観点から、CF基をポリイミドに導入して要求特性を達成するアプローチは実用性の点で大きな障害である。
【0026】
このような事情から、現在実用性のある唯一の脂環式テトラカルボン酸二無水物即ち、H−PMDAを用い、ワンポット重合により均一で安定なポリイミドワニスが得られ、更にそのワニスを基板上に塗布・乾燥するだけで即ち熱イミド化工程を必要とせずに、低熱膨張特性が発現されるような透明ポリイミド材料が当該分野において待ち望まれている。しかしながら、これを開発することは原理的に容易ではなく、実際にそのような材料は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0027】
【非特許文献1】Prog. Polym. Sci., 26, 259-335 (2001).
【非特許文献2】Eur. Polym. J., 49, 3657-3672 (2013).
【非特許文献3】Macromolecules, 29, 7897-7909 (1996).
【非特許文献4】High Perform. Polym., 19, 175-7193 (2007).
【非特許文献5】High Perform. Polym., 15, 47-64 (2003).
【非特許文献6】Polymer, 74, 1-15 (2015).
【非特許文献7】J. Polym. Sci., Part A, 38, 108-116 (2000).
【非特許文献8】J. Polym. Sci., Part A, 51, 575-592 (2013).
【非特許文献9】High Perform. Polym., 18, 697-717 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、製膜プロセス適合性に非常に優れたポリイミドであって、且つ、高い透明性、高いガラス転移温度、比較的低い線熱膨張係数および十分な膜靱性を同時に有する耐熱性フィルムを与えるポリイミドを提供することを目的とする。なお、本明細書において、ポリイミドが製膜プロセス適合性に非常に優れるとは、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)だけでなくポリイミド自体も有機溶媒に対して高い溶解性を有し、ポリイミドフィルムの一般的な製膜プロセス(ポリイミド前駆体ワニスを基板に塗布する工程を含む製膜プロセスだけでなく、ポリイミドワニスを基板に塗布する工程を含む製膜プロセスも)への適合性が高いことを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、下記式(13):
【化15】

(式(13)中、中央のシクロヘキサン部位は舟型構造である。)
で表されるH−PMDAとアミド結合を有する高重合反応性ジアミンより得られるポリイミドが非常に優れた製膜プロセス適合性を有し、高い透明性、高いガラス転移温度、比較的低い線熱膨張係数および十分な膜靱性を同時に有するポリイミドフィルムを与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0030】
即ち、本発明は以下に示すものである。
<1>
下記式(I)で表される繰り返し単位を含むポリイミド。
【化16】

(式(I)中、
は炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数2〜6のアルキル基を表し、
は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)
<2>
がメトキシ基、Rが水素原子である、<1>に記載のポリイミド。
<3>
<1>または<2>に記載のポリイミドが有機溶媒に溶解してなるポリイミドワニス。
<4>
前記有機溶媒が非アミド系溶媒であり、前記ポリイミドの濃度が10質量%以上である、<3>に記載のポリイミドワニス。
<5>
<1>または<2>に記載のポリイミドを含む、ポリイミドフィルム。
<6>
300℃以上のガラス転移温度、45ppm/K以下の線熱膨張係数、7.0以下の黄色度、1.0%以下のヘイズおよび10%以上の破断伸びを有する、<5>に記載のポリイミドフィルム。
<7>
<5>または<6>に記載のポリイミドフィルムを含む、画像表示装置用プラスチック基板。
【発明の効果】
【0031】
本発明においては、脂環式テトラカルボン酸二無水物(H−PMDA)と高い重合反応性を有するアミド基含有芳香族ジアミンより、高分子量のポリイミド前駆体およびポリイミド、そしてこれらの均一で安定な高溶質濃度ワニスを得ることができる。これらのワニスは従来の製膜工程に適合するため、容易に高品質なポリイミドフィルムを作製することができる。特に、本発明においては、ワンポット重合により均一で安定なポリイミドワニスが得られるため、そのワニスを基板上に塗布・乾燥するだけで(即ち、熱イミド化工程を必要とせずに)、ポリイミドフィルムを作製することができる。
更に、得られたポリイミドフィルムは高い透明性、高いガラス転移温度、従来の透明ポリイミドに比べて低いCTEおよび十分な膜靱性を有している。したがって、液晶ディスプレー(LCD)、有機発光ダイオードディスプレー(OLED)、電子ペーパー(EP)等の画像表示装置において現在使用されているガラス基板に代わるプラスチック基板として、本発明のポリイミドフィルムを適用することが可能となる。それによって、画像表示装置の軽量化、フレキシブル化、脆弱性改善に寄与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
<1−1.ポリイミド>
以下、本発明のポリイミドについて詳細に説明する。
本発明のポリイミドは、下記式(I)で表される繰り返し単位を含む。
【化17】

(式(I)中、
は炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数2〜6のアルキル基を表し、
は、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基を表す。)
【0033】
式(I)中、Rを炭素数1〜6のアルコキシ基または炭素数2〜6のアルキル基とし、Rを、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数1〜6のアルコキシ基とすることで、低熱膨張特性を犠牲にすることなく、優れた溶媒溶解性を実現することが可能となる。
【0034】
は、好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、より好ましくは炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、さらに好ましくはメトキシ基を表す。
は、好ましくは水素原子、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数1〜3のアルコキシ基を表し、より好ましくは水素原子、メチル基またはメトキシ基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。
本発明のポリイミドは、式(I)中のRがメトキシ基且つRが水素原子であること、即ち、下記式(I−1)で表される繰り返し単位を含むことが特に好ましい。
【化18】
【0035】
本発明のポリイミドは、下記式(13)で表されるシス、シス、シス−1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(または、(1S,2R,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物とも言う。以下H−PMDAと称することがある。)と、下記式(17)で表されるジアミンとを反応させて得ることができる。
【化19】

(式(13)中、中央のシクロヘキサン部位は舟型構造であり、
式(17)中のR及びRは、式(I)中のR及びRと同様に定義され、好ましい様態も同様である。)
ただし、ジアミンとの重合反応性およびポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、H−PMDA以外のテトラカルボン酸二無水物を部分的に使用即ち共重合してもよい。また、テトラカルボン酸二無水物との重合反応性およびポリイミドの要求特性を損なわない範囲で、式(17)で表されるジアミン以外のジアミンを部分的に使用即ち共重合してもよい。
【0036】
共重合成分として使用することができるテトラカルボン酸二無水物は、脂環式テトラカルボン酸二無水物でもよいし、芳香族テトラカルボン酸二無水物でもよい。
脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えば(1S,2S,4R,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、(1R,2S,4S,5R)−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物(以下BTAと称する)、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]ヘプタンテトラカルボン酸二無水物、5−(ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−テトラリン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸二無水物、3c−カルボキシメチルシクロペンタン−1r,2c,4c−トリカルボン酸1,4:2,3−二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。また、これらを2種類以上併用することもできる。H−PMDAの共重合成分としてこれらの脂環式テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、その含有量はH−PMDAを含めた脂環式テトラカルボン酸二無水物総量のうち1〜70mol%、好ましくは10〜50mol%の範囲である。
【0037】
芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、特に限定されないが、例えばピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタリックアンハイドライド、3,4’−オキシジフタリックアンハイドライド、3,3’−オキシジフタリックアンハイドライド、ハイドロキノン−ジフタリックアンハイドライド、4,4’−ビフェノール−ジフタリックアンハイドライド、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物等が挙げられる。またこれらを2種類以上用いてもよい。H−PMDAの共重合成分としてこれらの芳香族テトラカルボン酸二無水物を使用する場合、H−PMDAも含めたテトラカルボン酸二無水物量総量に対して1〜30mol%、好ましくは1〜20mol%の範囲である。
【0038】
共重合成分として使用することができるジアミンは、脂肪族ジアミンでもよいし、芳香族ジアミンでもよい。
脂肪族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えば4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルシクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン、トランス−1,4−シクロヘキサンジアミン、シス−1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.0]デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。これらは単独で用いても2種類以上を併用してもよい。上記式(17)で表されるジアミンの共重合成分としてこれらの脂肪族ジアミンを使用する場合、その含有量はジアミン総量のうち1〜50mol%、好ましくは5〜30mol%の範囲である。
【0039】
芳香族ジアミンとしては、特に限定されないが、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、p−ターフェニレンジアミン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(3,5−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)等を例示できる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。上記式(17)で表されるジアミンの共重合成分としてこれらの芳香族ジアミンを使用する場合、ジアミン総量に対して1〜50mol%、好ましくは5〜30mol%の範囲である。
【0040】
本発明のポリイミドは、式(I)で表される繰り返し単位のみからなってもよい。一方で、本発明のポリイミドは上述のように、H−PMDA以外のテトラカルボン酸二無水物を、及び/又は、式(17)で表されるジアミン以外のジアミンを、共重合して得てもよいため、式(I)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位をさらに含みえる。そのような場合、本発明のポリイミド中における式(I)で表される繰り返し単位の含有比率は、ポリイミドを構成する全繰り返し単位に対して、30モル%以上であることが好ましく、50モル%以上であることがより好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましく、90モル%以上であることが特に好ましい。
【0041】
本発明のポリイミドの固有粘度は、0.4〜3dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜2dL/gの範囲であることがより好ましい。固有粘度が0.4dL/gを下回ると、ポリイミドの分子量が不十分であるために、ポリマー鎖どうしの絡み合いが不十分となり、製膜時にひび割れ等が発生し、製膜性に重大な問題を生じる恐れがある。一方、固有粘度が3dL/gを上回ると、ワニスの粘度が高すぎて、脱泡に長時間を要したり、塗工時のハンドリングが悪くなる恐れがある。
【0042】
<1−2.ポリイミドの製造方法>
本発明のポリイミドの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重付加反応させて、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を得た後、次いで当該ポリアミド酸を加熱脱水閉環反応(熱イミド化)させるか、又は当該ポリアミド酸に脱水環化剤を添加してイミド化(化学イミド化)することで、ポリイミドを製造することができる。また、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを溶媒中高温で加熱還流して、一段階でポリイミドを製造(ワンポット重合)することもできる。
【0043】
<1−2−1.ポリイミド前駆体およびそのワニス>
上述の通り、本発明のポリイミドは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を経由して製造することができる。即ち、本発明のポリイミド前駆体は、H−PMDAと式(I7)で表されるジアミンとを重付加反応させて得られるものである。
また、本発明のポリイミド前駆体は、本発明のポリイミドと同様に、H−PMDA以外のテトラカルボン酸二無水物を、及び/又は、式(I7)で表されるジアミン以外のジアミンを、部分的に使用即ち共重合して得てもよい。それら共重合成分の具体的な化合物や含有量についてもポリイミドの場合と同様である。
【0044】
本発明のポリイミド前駆体の固有粘度は、0.4〜3dL/gの範囲であることが好ましく、0.5〜2dL/gの範囲であることがより好ましい。固有粘度が0.4dL/gを下回ると、ポリイミド前駆体の分子量が不十分であるために、ポリマー鎖どうしの絡み合いが不十分となり、製膜時にひび割れ等が発生し、製膜性に重大な問題を生じる恐れがある。一方、固有粘度が3dL/gを上回ると、ワニスの粘度が高すぎて、脱泡に長時間を要したり、塗工時のハンドリングが悪くなる恐れがある。
【0045】
本発明のポリイミド前駆体ワニスは、本発明のポリイミド前駆体が有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミド前駆体ワニスは、本発明のポリイミド前駆体及び有機溶媒を含み、当該ポリイミド前駆体は当該有機溶媒に溶解している。有機溶媒の詳細については、後述する。
本発明のポリイミド前駆体ワニスは、本発明のポリイミド前駆体を5〜40質量%含むことが好ましく、10〜30質量%含むことがより好ましい。
また、本発明のポリイミド前駆体ワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
【0046】
以下にポリイミド前駆体及びそのワニスの製造方法について説明する。ポリイミド前駆体及びそのワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、以下のような製造方法が挙げられるが、それに限定されるものではない。
まずジアミンを溶媒に溶解し、その溶液にテトラカルボン酸二無水物の粉末を徐々に添加し、0〜100℃、好ましくは20〜50℃で0.5〜120時間、好ましくは4〜72時間攪拌する。
【0047】
この際、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の物質量(モル)比(即ち仕込比)は、ジアミンの総量1に対して、テトラカルボン酸二無水物の量を0.8〜1.1とすることができるが、好ましくは0.9〜1.1であり、より好ましくは0.95〜1.05である。分子量ができるだけ高いポリイミド前駆体を得るという観点から、モノマーは実質的に等モルで仕込まれる。
【0048】
また、ポリイミド前駆体重合の際のモノマー(溶質)濃度は、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。この範囲より低いモノマー濃度で重合を行うと、ポリイミド前駆体の分子量が十分に上がらない恐れがあり、この範囲より高いモノマー濃度では、モノマー及び生成するポリイミド前駆体の溶解性を十分に確保することができない場合があり、ゲル化等反応溶液が不均一化する恐れがある。なお、ポリイミド前駆体の分子量が増加しすぎて、反応溶液が攪拌しにくくなった場合は、適宜適量の同一溶媒で希釈することもできる。
【0049】
上記ポリイミド前駆体を重合する際に使用される溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミド前駆体と反応せず且つこれらが十分に溶解すればよく、特に限定されないが例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン等の環状エステル溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が使用可能である。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性の観点から、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびγ−ブチロラクトンが好適に用いられる。
使用する溶媒は場合によっては低吸湿性であることが好ましい。低吸湿性溶媒を用いることで、塗工の際、吸湿によりポリイミド前駆体が部分的に析出して塗膜が白化するリスクが低減することに加え、塗工時の湿度管理が不要になる等、低コスト化にも有利である。この観点から使用する溶媒としてγ−ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジグライム、トリグライム等が好適である。
【0050】
<1−2−2.ポリイミドワニス>
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミドが有機溶媒に溶解してなるものである。即ち、本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド及び有機溶媒を含み、当該ポリイミドは当該有機溶媒に溶解している。有機溶媒の詳細については、後述する。
本発明のポリイミドは溶媒溶解性を有しているため、室温で安定な高濃度のワニスとすることができる。本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミドを5〜40質量%含むことが好ましく、10〜30質量%含むことがより好ましい。
また、本発明のポリイミドワニスは、ポリイミドフィルムの要求特性を損なわない範囲で、無機フィラー、接着促進剤、剥離剤、難燃剤、紫外線安定剤、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、蛍光増白剤、架橋剤、重合開始剤、感光剤等各種添加剤を含んでもよい。
【0051】
本発明のポリイミドワニスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を適用することができる。例えば、以下のような製造方法が挙げられるが、それに限定されるものではない。
【0052】
窒素導入管、撹拌装置、ディーン・スタークトラップおよびコンデンサーを備えた反応容器中、該ジアミンを室温で重合溶媒に溶かしておき、撹拌しながらテトラカルボン酸二無水物粉末を添加し、室温で0.5〜12時間撹拌して一旦ポリイミド前駆体のワニスを得る。その後反応溶液に共沸剤を加え、用いた溶媒の沸点にもよるが150〜250℃で加熱・撹拌してイミド化反応の副生成物である水を共沸留去しながら1〜12時間還流することでポリイミドワニスが得られる。ワニスの着色を抑制するという観点から、この反応は窒素等の不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましいが、不活性ガスの導入を省略することもできる。
【0053】
上記のように、ポリイミドワニスを得る前段階で一旦ポリイミド前駆体ワニスとしてもよいが、本発明のポリイミドは優れた溶媒溶解性を有しているため、この工程は省略することができる。即ち、室温において該ジアミン溶液に必要量のテトラカルボン酸二無水物粉末を全て添加した後、反応溶液に共沸剤を加え、用いた溶媒の沸点にもよるが150〜250℃で還流・撹拌することで、一段階でポリイミドのワニスを得る方法(ワンポット重合法)を適用できる。
【0054】
ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込比(モル比)は、ジアミンの総量1に対して、テトラカルボン酸二無水物の量を0.8〜1.1とすることができるが、好ましくは0.9〜1.1であり、より好ましくは0.95〜1.05である。分子量ができるだけ高いものを得るという観点から、モノマーは実質的に等モルで仕込まれる。
【0055】
また、ポリイミド重合の際のモノマー(溶質)濃度は、5〜50質量%、好ましくは10〜40質量%である。この範囲より低いモノマー濃度で重合を行うと、ポリイミドの分子量が十分に上がらない恐れがあり、逆にこの範囲より高いモノマー濃度では、モノマー及び生成するポリイミドの溶解性を十分確保することができない場合があり、ゲル化や沈殿析出等、反応溶液が不均一化する恐れがある。なおポリイミドの分子量が増加しすぎて、反応溶液が攪拌しにくくなった場合は、適宜適量の同一溶媒で希釈することもできる。
【0056】
ポリイミドを重合する際に使用される溶媒は、原料モノマーと生成するポリイミドと反応せず且つこれらが十分に溶解ればよく特に限定されないが、イミド化反応完結の観点から、沸点が150℃以上であることが好ましく、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルアミド等のアミド系溶媒、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン等の環状エステル溶媒、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホン系溶媒、ジグライム、トリグライム等のエーテル系溶媒、m−クレゾール、p−クレゾール、3−クロロフェノール、4−クロロフェノール等のフェノール系溶媒、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒が使用可能である。これらの溶媒を単独でも、2種類以上混合して用いてもよい。反応原料の溶解性や沸点の観点から、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンおよびγ−ブチロラクトンが好適に用いられる。
使用する溶媒は場合によっては低吸湿性であることが好ましい。低吸湿性溶媒を用いることで、塗工の際、吸湿によりポリイミドが部分的に析出して塗膜が白化するリスクが低減することに加え、塗工時の湿度管理が不要になるなど低コスト化にも有利である。この観点から使用する溶媒としてγ−ブチロラクトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、ジグライム、トリグライム等の非アミド系溶媒が好適である。非アミド系溶媒を用いる場合、ポリイミドワニス中のポリイミドの濃度は、10質量%以上であることが好ましい。
【0057】
イミド化反応時に生ずる水を除去するために用いられる共沸剤としては、トルエン、キシレン、ベンゼン、クメン、シクロヘキサン、酢酸エチル、ピリジン等が挙げられる。沸点や除去のしやすさの観点からトルエンやキシレンが好適に用いられる。
【0058】
イミド化反応促進剤を添加して、イミド化反応の低温化や反応時間を短縮化することができる。その際使用可能なものとして例えば、ピリジン、ビピリジン、ピコリン、ピリミジン、ピラジン、ピリダジン、トリアジン、キノリン、キノキサリン、アクリジン、フェナジン、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾールおよびこれらの異性体、誘導体等の有機弱塩基が挙げられる。添加量は特に制限はないが、反応溶液中1〜50質量%の範囲である。モノマーは生成するポリイミドの溶解性の問題がなければ、重合溶媒の代わりにこれらを用いてもよい。ただし、上記イミド化促進剤はポリイミドワニスを着色し、結果としてポリイミドフィルムの透明性を悪化させる場合があるため、着色に注意しながら適宜選択することが望ましい。
【0059】
上記のようにワンポット重合により得られたポリイミドワニスをそのまま用いるかまたはこれを同一溶媒で適宜希釈してから大量の貧溶媒中にゆっくりと滴下して析出させ、濾過・洗浄・乾燥してポリイミド粉末として単離することもできる。その際使用可能な貧溶媒としては、重合溶媒とよく混和し、該ポリイミドを溶解しない溶媒であれば特に制限はないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等が好適に用いられる。これらを2種類以上混合して使用してもよい。
上記のようにして単離したポリイミド粉末を5〜40質量%の溶質濃度で溶媒に再溶解してポリイミドワニスとしてもよい。この際に使用可能な溶媒として、ワンポット重合反応の際に使用可能な前述の溶媒と同一なものが用いられる。ポリイミド粉末を溶媒に再溶解する際に、ワニスが著しく着色しない範囲であれば40〜200℃で1分〜24時間加熱しても差し支えない。
【0060】
また、本発明のポリイミドは優れた溶媒溶解性を有しているため、ポリイミド前駆体ワニスを同一溶媒で適宜希釈し、塩基と脱水縮合剤の混合物からなる脱水環化剤(以下化学イミド化剤と称する)をゆっくりと添加し、20〜100℃で2〜24時間撹拌することで、反応溶液の均一性を確保しながらイミド化(以下化学イミド化と称する)を完結することができる。
【0061】
化学イミド化剤中の塩基としては有機3級アミンが使用可能であり、特に限定されないが、例えばピリジン、ピコリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等が用いられる。毒性やコストの観点からピリジンが好適に使用される。
【0062】
化学イミド化剤中の脱水縮合剤としては、特に限定されず、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水安息香酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水フタル酸等の酸無水物が使用可能であるが、除去の容易さやコストの観点から無水酢酸が好適に用いられる。
【0063】
化学イミド化剤中の脱水縮合剤と塩基の混合比は特に限定されず、脱水縮合剤の質量を1とすると、塩基の質量は0.1〜5の範囲であり、好ましくは0.3〜2の範囲である。
【0064】
化学イミド化剤は、その中に含まれる脱水縮合剤がポリイミド前駆体中のカルボキシル基量即ち理論脱水量(モル)の1〜20倍量の範囲になるように添加する。化学イミド化剤の添加量が少ない程イミド化反応速度が低下するため、イミド化の完結に長時間を要することになる。一方、化学イミド化剤の添加量が多すぎると、反応溶液中の溶媒が溶解力を失い、反応溶液の均一性が保持できなくなる恐れがある。この観点から、脱水縮合剤は理論脱水量(モル)の3〜10倍量の範囲であることが好ましい。
【0065】
化学イミド化反応の完結は、化学イミド化後の反応溶液からポリイミドを粉末として単離したものを重水素化溶媒に溶解してH−NMRスペクトルを測定し、ポリイミド前駆体由来のアミド基(NHCO)のプロトンやカルボキシル基(COOH)のプロトンの完全な消失より確認することができる。また、4〜5μm厚のポリイミド薄膜を作製するか、ポリイミド粉末を用いてKBr法によりFT−IRスペクトルを測定し、例えばポリイミド前駆体由来のアミドC=O伸縮振動バンドの完全な消失とイミドC=O伸縮振動バンドの出現からも化学イミド化の完結を確認することができる。
【0066】
化学イミド化剤を添加して得られた均一なポリイミドワニスをそのまま製膜工程に使用することもできるが、反応溶液中に残存している化学イミド化剤が製膜工程でフィルムを着色させる恐れがあるため、製膜工程には化学イミド化剤をあらかじめ除去したワニスを用いる方が好ましい。具体的には、化学イミド化反応終了後、反応溶液を適宜同一溶媒で希釈し、大量の貧溶媒例えば水、メタノール、エタノール、プロパノールやこれらの混合溶液中にゆっくりと滴下してポリイミドを析出させ、濾過・洗浄・乾燥してポリイミド粉末として単離し、これを5〜40質量%の溶質濃度で溶媒に再溶解して製膜工程に適したワニスを得ることができる。この際に使用可能な溶媒として、ワンポット重合の際に使用可能な前述の溶媒と同一なものが用いられる。ポリイミド粉末を溶媒に再溶解する際に、ワニスが著しく着色しない範囲であれば40〜200℃で1分〜24時間加熱しても差し支えない。
【0067】
<2.ポリイミドフィルム>
本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミドを含む。本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミド前駆体ワニスを基板上に塗布・乾燥し、更にこれをより高温で加熱してイミド化させる従来の二段階法(熱イミド化法)により製造することができる。また、本発明のポリイミドフィルムは、本発明のポリイミドワニスを基板上に塗布・乾燥することによっても製造することができる。
【0068】
まず、ポリイミド前駆体フィルムを熱イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法について説明する。本発明のポリイミド前駆体ワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗布し、強制対流乾燥器中40〜120℃、好ましくは50〜100℃で10分〜4時間好ましくは0.5〜2時間乾燥する。得られたポリイミド前駆体フィルムを基板上で200〜350℃、好ましくは250〜330℃で加熱することで本発明のポリイミドフィルムが得られる。この際、加熱温度はイミド化反応を完結するという観点から200℃以上、ポリイミドフィルムの着色を抑制するという観点から、350℃以下が好ましく、更に真空中または窒素等の不活性ガス中で熱イミド化を行うことが好ましい。
【0069】
次に上記ワンポット重合法や化学イミド化法を経て得られた安定なポリイミドワニスからポリイミドフィルムを作製する方法について説明する。本発明のポリイミドワニスをガラス、銅、アルミニウム、ステンレス、シリコン等の基板上に塗布し、40〜220℃、好ましくは60〜200℃で10分〜4時間、好ましくは0.5〜2時間仮乾燥する。続いて更に昇温し、200〜350℃、好ましくは250〜330℃で10分〜2時間、好ましくは0.5〜1時間熱処理することでポリイミドフィルムが得られる。ポリイミドフィルムの着色を抑制するという観点から、熱処理は350℃以下で行うことが好ましく、更に真空中または窒素等の不活性ガス中で行うことが好ましい。また、ポリイミドフィルム表面の平滑性および低熱膨張特性の観点から上記乾燥・熱処理工程は緩やかな昇温となるようにできるだけ多段階で行うことが好ましく、更に200℃を越える乾燥・熱処理工程は真空中または窒素等の不活性ガス中で行うことが好ましい。
【0070】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されず、使用目的に応じて適宜調節することができる。画像表示装置におけるガラス基板代替プラスチック基板材料として用いる場合、フィルム厚は20〜100μmが好適な範囲であり、フレキシブル回路基板として用いる場合であれば、30〜200μmが好適な範囲である。
また、本発明のポリイミドフィルムは、300℃以上のガラス転移温度、45ppm/K以下の線熱膨張係数、7.0以下の黄色度、1.0%以下のヘイズおよび10%以上の破断伸びを有することが好ましい。
【0071】
本発明のポリイミドフィルムは、上述した通り優れた特性を有することから、LCD、OLED、EP等の画像表示装置におけるプラスチック基板として好適に使用できる。即ち、本発明の画像表示装置用プラスチック基板は、本発明のポリイミドフィルムを含む。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、これら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例における物性値は、次の方法により測定した。
【0073】
<赤外線吸収(FT−IR)スペクトル>
ジアミンの赤外線吸収スペクトルは、日本分光社製フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR4100)を用い、KBr法で測定した。
H−NMRスペクトル>
ジアミンのH−NMRスペクトルは、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d)を溶媒として、日本電子社製NMR分光光度計(ECP400)を用いて測定した。
<示差走査熱量分析(融点および融解曲線)>
ジアミンの融点および融解曲線は、ネッチ・ジャパン社製示差走査熱量分析装置(DSC3100)を用い、窒素雰囲気中、昇温速度5℃/分で測定した。
<固有粘度>
ポリイミドの還元粘度は、溶質濃度0.5質量%、30℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。この値は固有粘度と見なすことができ、この値が高い程分子量が高いことを表す。
<ガラス転移温度(T)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)のガラス転移温度(T)は、ネッチ・ジャパン社製熱機械分析装置(TMA4000)を用い、周波数0.1Hz、昇温速度5℃/分における損失エネルギー曲線のピーク温度からを求めた。Tが高いほど、物理的耐熱性が高いことを表す。
<線熱膨張係数(CTE)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)のCTEは、ネッチ・ジャパン社製熱機械分析装置(TMA4000)を用い、荷重0.5g/膜厚1μm当たり、昇温速度5℃/分における試験片の伸びより、100〜200℃の範囲での平均値として求めた。CTE値が0に近いほど寸法安定性にすぐれていることを表す。
<5%重量減少温度(T)>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)の5%重量減少温度(T)は、ネッチ・ジャパン社製熱重量分析装置(TG−DTA2000)を用いて、窒素中および空気中、昇温速度10℃/分での昇温過程において、ポリイミドフィルム(20μm厚)の質量が、初期質量の5%減少した時の温度から求めた。T値が高いほど化学的耐熱性(熱安定性)が高いことを表す。
<引張弾性率、破断伸び、破断強度>
ポリイミドフィルム(約20μm厚)の機械的特性はエー・アンド・ディー社製引張試験機(テンシロンUTM−2)を用いて評価した。試験片(30mm長×3mm幅×約20μm厚)を作製し、引張試験(延伸速度:8mm/分)を実施して、応力−歪曲線の初期勾配から引張弾性率、破断点応力から破断強度、破断時の伸び率から破断伸びを求めた。破断伸びが高いほどフィルムの靭性が高いことを表す。
<ポリイミドフィルムの透明性:光透過率、カット・オフ波長、黄色度指数、ヘイズ>
ポリイミドフィルムの透明性は以下の光学特性から評価した。日本分光社製紫外−可視分光光度計(V−530)を用いて波長200〜800nmの範囲でポリイミドフィルム(約20μm厚)の光透過率曲線を測定し、波長400nmにおける光透過率および、光透過率が事実上ゼロとなる波長(カット・オフ波長)を求めた。またこのスペクトルを基に、日本分光社製色彩計算プログラムを用い、ASTM E313規格に基づいて黄色度指数(YI値)を求めた。更に、日本電色工業社製ヘイズメーター(NDH4000)を用い、JIS K7361−1およびJIS K7136規格に基づき、全光線透過率および濁度(ヘイズ)を求めた。
【0074】
[合成例]
<H−PMDAの合成>
内容積5リットルのハステロイ製(HC22)オートクレーブにピロメリット酸552g、活性炭にロジウムを担持させた触媒(エヌ・イーケムキャット株式会社(N.E. Chemcat Corporation)製)200g、水1656gを仕込み、攪拌をしながら反応器内を窒素ガスで置換した。次に水素ガスで反応器内を置換し、反応器の水素圧を5.0MPaとして60℃まで昇温した。水素圧を5.0MPaに保ちながら2時間反応させた。反応器内の水素ガスを窒素ガスで置換し、反応液をオートクレーブより抜き出し、この反応液を熱時濾過して触媒を分離した。濾過液をロータリーエバポレーターで減圧下に水を蒸発させて濃縮し、結晶を析出させた。析出した結晶を室温で固液分離し、乾燥して1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸481g(収率85.0%)を得た。
続いて、得られた1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸450gと無水酢酸4000gとを、5リットルのガラス製セパラブルフラスコ(ジムロート冷却管付)に仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶媒の還流温度まで昇温し、10分間溶媒を還流させた。攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して一次結晶を得た。更に分離母液をロータリーエバポレーターで減圧下に濃縮し、結晶を析出させた。この結晶を固液分離し、乾燥して二次結晶を得た。一次結晶、二次結晶を合わせて1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(式(13)で表されるH−PMDA)375gが得られた(無水化の収率96.6%)。
<ジアミンの製造方法>
反応容器中、東京化成社製2−メトキシ−4−ニトロアニリン3.37g(20mmol)をよく脱水したテトラヒドロフラン(THF)8.7mLに溶解し、脱酸剤としてピリジン2.0mLを加えてセプタムキャップで密封しこれをA液とした。次に別の容器中、4−ニトロベンゾイルクロリド(4−NBC)4.08g(22mol)をTHF10.6mLに溶かし同様に密封しB液とした。A液を氷浴で冷やして撹拌しながら、これにB液をシリンジで徐々に滴下し、数時間撹拌した後、更に室温で12時間撹拌を続けた。析出した沈殿物を濾別して、少量のTHF、次いで水で十分に洗浄して副生成物のピリジン塩酸塩を溶解除去し、メタノールで洗浄して120℃で12時間真空乾燥し、収率91%で黄色粉末状のジニトロ体を得た。更にこれをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)/トルエン混合溶媒(体積比3/2)より再結晶して精製した。ジニトロ体の融点は219℃であった。
上記のジニトロ体の還元は次のようにして行った。上記ジニトロ体4.85g(15.3mmol)をDMF50mLに溶解し、Pd/C(0.487g)を加えた。この溶液を水素雰囲気中80℃で5時間還流し、Pd/Cを濾過して分離除去した。濾液をエバポレーターで濃縮後、大量の水中に滴下して析出させ、濾別して水およびメタノールで洗浄し、120℃で12時間真空乾燥し、収率73%で融点141℃の薄赤色粉末を得た。この生成物の分析結果を以下に示す。FT−IRスペクトル(KBr、cm−1):3422/3386/3340(アミノ基、N−H伸縮振動)、3249(アミノ基+アミド基、N−H伸縮振動)、3034(脂肪族C−H伸縮振動)、2999(脂肪族C−H伸縮振動)、1619/1519(アミド基、C=O伸縮振動)。H−NMRスペクトル(400MHz,DMSO−d,δ,ppm):8.65(s、1H(実測積分強度1.00H)、NHCO)、7.63(d、2H(2.00H)、J=8.6Hz、4−カルボニルアニリンの3,5−プロトン)、7.22(d、1H(1.00H)、J=8.4Hz、3−メトキシアニリンの5−プロトン)、6.56(d、2H(2.02H)、J=8.6Hz、4−カルボニルアニリンの2,6−プロトン)、6.28(sd、1H(100H)、J=2.2Hz、3−メトキシアニリンの2−プロトン)、6.12(dd、1H(100H)、J=8.4、2.2Hz、3−メトキシアニリンの6−プロトン)、5.65(s、2H(2.00H)、4−カルボニルアニリンのNH)、5.01(s、2H(2.01H)、3−メトキシアニリンのNH)、3.70(s、3H(3.01H)、OCH)。これらの分析結果より、この生成物は下記式(18):
【化20】

で表される目的とするジアミン(MeO−DABAと称する)であることが確認された。
【0075】
<重合、製膜およびポリイミドフィルムの特性評価>
[実施例1]
窒素導入管、撹拌装置、コンデンサーを備えた三口フラスコにMeO−DABA5.146g(20mmol)を入れ、十分に脱水したγ−ブチロラクトン(GBL)を20mLおよびトルエンを10mL加えた。この溶液にH−PMDA粉末4.483g(20mmol)を加えて昇温していき、イミド化によって生成する水を除去しながら窒素雰囲気中、200℃で4時間撹拌してワンポット重合を行い、溶質濃度30質量%の均一で粘稠なポリイミドワニスを得た。ポリイミドの固有粘度は0.94dL/gであった。このワニスは密封容器中室温で2週間静置してもゲル化や沈殿析出等は全く見られず、高い安定性を有していた。
このポリイミドワニスをガラス基板に塗布し、熱風乾燥器中80℃で2時間乾燥してポリイミドフィルムを作製した。これをガラス基板ごと真空中250℃で1時間乾燥させ、次いで基板から剥がして更に真空中250℃で1時間熱処理を行い、膜厚約20μmの柔軟なポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムについて動的粘弾性測定を実施したところ、333℃にTが見られ、高い物理的耐熱性を示した。また線熱膨張係数は41ppm/Kであり、比較的低い値を示した。また5%重量減少温度(T)は窒素中で410℃、空気中で403℃であった。全光線透過率は85.9%、波長400nmにおける光透過率は63.5%、カット・オフ波長は360nm、黄色度指数6.2、ヘイズ0.97%であり、比較的良好な透明性を有していた。また、このポリイミドフィルムの機械的特性を評価したところ、引張弾性率3.99GPa、破断伸び16.3%(最大値36.7%)、破断強度は0.090GPaであり、可撓性を有していた。
【0076】
[比較例1]
ジアミンとして2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパンを選択し、これと等モルのH−PMDAより、実施例1に記載した方法と同様にしてGBL中でワンポット重合を行い、均一なポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドの固有粘度は0.49dL/gであった。実施例1に記載した方法に従って製膜し、膜厚約20μmのポリイミドフィルムを得た。特性評価したところ、全光線透過率89.1%、波長400nmにおける光透過率は86.6%、カット・オフ波長295nm、黄色度指数1.3、ヘイズ0.57%であり、高い透明性を有していたが、Tは239℃と耐熱性に乏しかった。これは屈曲性のエーテル結合を主鎖中に数多く含んでいるためである。またCTEは60.2ppm/Kと、一般の樹脂材料に見られる高い値であり、熱寸法安定性は不十分であった。
【0077】
[比較例2]
実施例1に記載した方法と同様にして、m−トリジンとH−PMDAよりGBL中でワンポット重合を行い、均一なポリイミドワニスを得た。得られたポリイミドの固有粘度は0.52dL/gであった。実施例1に記載した方法に従って製膜し、膜厚約20μmのポリイミドフィルムを得た。特性評価したところ、全光線透過率89.5%、波長400nmにおける光透過率87.7%、カット・オフ波長298nm、黄色度指数0.93、ヘイズ0.28%であり、優れた透明性を有していた。またTは380℃、Tは窒素中で498℃、空気中で457℃であり、高い耐熱性も保持していたが、CTEは61.9ppm/Kと、一般の高分子材料に見られる高い値であった。このポリイミドフィルムの機械的特性を評価したところ、引張弾性率は3.72GPa、破断伸びは3.4%(最大値4.9%)であり、膜靱性は不十分であった。
【0078】
[比較例3]
実施例1に記載した方法と同様にして、4,4’−ジアミノベンズアニリド(DABA)とH−PMDAよりGBL中でワンポット重合を行った。固形分濃度30質量%から反応を開始し、反応溶液が均一にならなかったため、GBLで固形分濃度10質量%まで徐々に希釈して加熱を続けたが、析出物が生じて白濁し、均一なポリイミドワニスを得ることはできなかった。
【0079】
[比較例4]
実施例1に記載した方法と同様にして、H−PMDAと下記式(19):
【化21】

で表されるジアミンよりGBL中でワンポット重合を行った。しかしながら析出物が生じて白濁し、均一なポリイミドワニスを得ることはできなかった。