【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の免震装置は、剛性層及び弾性層が交互に積層されてなる積層弾性体と、少なくともこの積層弾性体の内周面で規定された少なくとも一つの柱状中空部、好ましくは円柱状中空部に配された減衰体からなる柱体、好ましくは円柱体とを備えており、減衰体は、熱伝導性フィラーと黒鉛と熱硬化性樹脂とを含んでいる。
【0009】
本発明の免震装置はまた、剛性層及び弾性層が交互に積層されてなる積層弾性体と、少なくともこの積層弾性体の内周面で規定された少なくとも一つの柱状中空部、好ましくは円柱状中空部に配されていると共に柱状中空部、好ましくは円柱状中空部の軸方向に積層された複数個の減衰体からなる柱体、好ましくは円柱体とを備えており、各減衰体は、熱伝導性フィラーと黒鉛と熱硬化性樹脂とを含んでいる。
【0010】
本発明の免震装置によれば、減衰体は、付加される振動に起因する繰り返し剪断変形を相互の摩擦により減衰させる熱伝導性フィラーと、同じく付加される振動に起因する繰り返し剪断変形を少なくとも熱伝導性フィラーとの摩擦により減衰させる黒鉛と、減衰体の初期の形状保持のためにこれらを相互に接着すると共に高温で硬化する熱硬化性樹脂とを含んでいるので、長時間継続して作用する地震において、エネルギ吸収に伴う減衰体の温度上昇が生じても熱硬化性樹脂が溶融しないので、熱硬化性樹脂の溶融化による熱伝導性フィラー相互及び熱伝導性フィラーと黒鉛との間の低摩擦をもった流動現象を回避でき、熱伝導性フィラー自体の相互の摩擦及び黒鉛の熱伝導性フィラーとの摩擦による本来の減衰効果を温度上昇に拘わらず継続して維持できる結果、硬化後、エネルギ吸収性能の低下を来すことがない。
【0011】
また、柱状中空部に配されていると共に柱状中空部の軸方向に積層されている複数個の減衰体からなる柱体を備えた本発明の免震装置によれば、減衰体間の相対的変位と各減衰体での剪断(撓み)変形とにより好ましい柱体の変位追従性を得ることができる。
【0012】
本発明において、熱硬化性樹脂は、最初の地震の減衰体の剪断変形で減衰体に対するその形状保持性が解除される一方、硬化後の剪断変形でその粉砕、粒子化が行われる結果、硬化後をも含めてその後の地震においては、熱硬化性樹脂自体の相互摩擦、熱伝導性フィラー及び黒鉛間の相互摩擦で、熱伝導性フィラー及び黒鉛による繰り返し剪断変形の減衰に同様にして寄与するようになっている。
【0013】
熱伝導性フィラーは、減衰効果に加えて、減衰体の形状を保持する形状保持効果及び減衰体中で生じる摩擦熱を放散する放熱効果をも有するので、製造時及び剪断変形後の柱体の型崩れ及び地震での柱体の温度上昇を防ぎ得る。
【0014】
熱伝導性フィラーは、好ましい例では、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化カルシウム(CaO
2)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ケイ素(SiO
2)、酸化鉄(Fe
2O
3)、酸化ニッケル(NiO)及び酸化銅(CuO)等の金属酸化物、窒化硼素(BN)、窒化アルミニウム(AlN)及び窒化ケイ素(Si
3N
4)等の金属窒化物、炭化ホウ素(B
4C)、炭化アルミニウム(Al
4C
3)、炭化ケイ素(SiC)及び炭化チタン(TiC)等の金属炭化物並びに水酸化アルミニウム〔Al(OH)
3〕、水酸化マグネシウム〔Mg(OH)
2〕、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム〔Ca(OH)
2〕及び水酸化亜鉛〔Zn(OH)
2〕等の金属水酸化物の粒子のうちの一種若しくは二種以上を含んでおり、就中、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素及び炭化ケイ素等の粒子は、高い熱伝導性を有すると共に分散性の観点から熱伝導性フィラーとして更に好ましい。
【0015】
熱伝導性フィラーは、好ましくは、平均粒径10μmmから50μmの粒度をもっており、特に、粒度の異なる粒子、例えば平均粒径が10μm程度の細かい粒度の金属酸化物と平均粒径が50μm程度の粗い粒度の金属酸化物とを50:50又は40:60の割合で配合してなる熱伝導性フィラーでは、分散した50μm程度の粗い粒度の金属酸化物の粒子間の隙間が10μm程度の細かい粒度の金属酸化物の粒子で埋められているために、金属酸化物の粒子の連続性が得られて熱放散性が高められており、また、異なる金属酸化物の粒子、例えば酸化アルミニウムの粒子と酸化マグネシウムの粒子とを50:50の割合で配合してなる熱伝導性フィラーでは、熱の放散性が高められている。
【0016】
これら金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物及び金属炭化物等の粒子から選択される熱伝導性フィラーの減衰体に対する配合割合は、好ましくは、35〜70体積%である。配合割合が35体積%未満では、ヒステリシス(履歴)曲線で囲まれる領域の面積で評価される減衰性に不安定さを招来し、また配合割合が70体積%を超えると、減衰体の成形性を悪化させ、所望の形状、例えば円盤状(円板状)又は円柱状の減衰体の作製が難しくなる。
【0017】
黒鉛は、好ましくは、人造黒鉛及び鱗片状黒鉛等の天然黒鉛のうちの少なくとも一方からなり、黒鉛の好ましい例としての鱗片状黒鉛は、鱗片状(フレーク状)をなし、粒状の黒鉛に比べると大きな表面面積を有しており、減衰体が振動、衝撃等の外力を受けたときに生じるその層間すべり摩擦と、熱伝導性フィラーとの摩擦とにより当該振動、衝撃等の外力を減衰する作用をより効果的に発揮する。黒鉛には、好ましくは、平均粒径が100μmを超えるものを用い、鱗片状黒鉛には、好ましくは、平均粒径が100μ〜1000μm、より好ましくは500μm〜700μmの接触面積の大きい粒径のものを用いる。
【0018】
黒鉛、特に鱗片状黒鉛の減衰体に対しての配合割合は、好ましくは、5〜50体積%である。配合割合が5体積%未満では十分な摩擦減衰が発揮されず、また、配合割合が50体積%を超えると、減衰体の成形性を悪化させる虞があり、仮に成形できたとしても減衰体の強度を低下させ、脆さが発現する。
【0019】
熱硬化性樹脂は、減衰体の形成材料に粘着性及び圧縮成形性を付与する。例えば、熱硬化性樹脂を含む減衰体において、熱硬化性樹脂は、その空隙率を減少させる作用を発揮して耐久性を向上させる。減衰体に対する熱硬化性樹脂の配合割合は、好ましくは、10〜30体積%である。配合割合が10体積%未満では、減衰体の形成材料に十分な粘着性を付与し難く、また配合割合が30体積%を超えると、減衰体の形成材料の混練り加工性、成形性を悪化させる虞がある。
【0020】
熱硬化性樹脂は、好ましくは、フェノール樹脂を含んでおり、フェノール樹脂としては、各種のフェノール類とホルムアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させてなるレゾール型フェノール樹脂や酸触媒の存在下で反応させてなるノボラツク型フェノール樹脂を例示し得、具体的には、群栄化学工業株式会社製の「レジトップ(アルキル基の炭素数8のアルキルフェノール樹脂):軟化点78〜105℃」等を例示し得る。
【0021】
好ましい例では、減衰体は、熱伝導
性フィラー35〜70体積%と、黒鉛5〜50体積%と、熱硬化性樹脂10〜30体積%とを含んでいる。
【0022】
本発明の免震装置において、減衰体は、他の成分として、加硫ゴム及びシリコーンゴムのうちの少なくとも一方のゴム粉末及び結晶性ポリエステル樹脂のうちの少なくとも一方を更に含んでいてもよく、ゴム粉末の配合割合は、減衰体の成分組成に対して、好ましくは40体積%以下、より好ましくは7〜30体積%であり、結晶性ポリエステル樹脂の配合割合は、減衰体の成分組成に対して、好ましくは25体積%以下、より好ましくは3〜22体積%である。
【0023】
ゴム粉末、特に加硫ゴム粉末は、成形して得られる減衰体に柔軟性を付与して当該減衰体の動き易さを助長すると共にエネルギ吸収量を増大させる役割を果たす。加硫ゴム粉末には、好ましくは、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、エチレン−プロピレンゴム(EPM、EPDM)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、アクリルゴム(ACM)、エチレン酢酸ビニルゴム又はエチレン−メチルアクリレート共重合体等の加硫ゴムを粉砕して形成される平均粒径が90μmの粉砕粉末が使用され、これら粉砕粉末の一種又は二種以上が選択されて使用される。
【0024】
シリコーンゴムは、無機のゴムであり、耐熱性、耐寒性、耐候性、電気絶縁性、難燃性、無毒性などに優れた特長を兼ね備えており、シリコーンゴムとして、メチルシリコーンゴム(MQ)、ビニル・メチルシリコーンゴム(VMQ)、フェニル・メチルシリコーンゴム(PMQ)を好ましい例として挙げることができる。
【0025】
ゴム粉末の配合割合は、熱伝導性フィラー、黒鉛、特に鱗片状黒鉛及び熱硬化性樹脂からなる減衰体又は熱伝導性フィラー、黒鉛、特に鱗片状黒鉛、熱硬化性樹脂及び結晶性ポリエステル樹脂からなる減衰体に対して、好ましくは40体積%以下、より好ましくは7〜30体積%である。
【0026】
結晶性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリグルコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリエチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート及びポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等の半芳香族ポリエステル、エステル系エラストマー等を例示し得る。結晶性ポリエステル樹脂の具体例としては、東洋紡株式会社製の「バイロンGM900」、「バイロンGM920」及び「バイロンGM990」(いずれも商品名)等を挙げることができる。結晶性ポリエステル樹脂の分子量は、好ましくは10000〜35000、より好ましくは15000〜30000である 。
【0027】
本明細書において「平均粒径」は、レーザー回析・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0028】
好ましい例では、柱状中空部に配されている、好ましくは、柱状中空部に圧入されている減衰体からなる柱体は、積層弾性体と共に積層方向の荷重をも支持するようになっているが、これに代えて、柱体は、専ら振動エネルギを吸収するようになっていてもよい。
【0029】
本発明において、剛性を有する剛性層及び弾性を有する弾性層は、好ましい例では、円環状であるが、これに代えて、多角形、例えば四角形の環状であってもよく、積層弾性体は、柱状中空部が一つの場合において、通常は、筒状であるが、剛性層及び弾性層が円環状である場合には、円筒状であり、これに代えて、剛性層及び弾性層が多角形、例えば四角形の環状である場合には、四角筒状であってもよい。
【0030】
本発明において、柱状中空部は、一個又は複数個であってもよく、複数個の柱状中空部が積層弾性体の内周面で規定されている場合には、全ての柱状中空部に本発明に係る減衰体からなる柱体が配されている必要はなく、要求される機能、効果との観点にから一部の柱状中空部に減衰体からなる柱体が、好ましくは圧入されて配されてもよく、また、一個又は複数個の柱状中空部に配された柱体が複数個の減衰体からなる場合、当該複数個の全ての減衰体が本発明に係る減衰体からなっている必要はなく、一部の減衰体が本発明に係る減衰体であってもよい。