(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に基づき、本発明の実施形態を詳細に説明する。同一の機能を有する部品及び要素には同一の番号を付与し、その説明を省略することがある。
【0013】
本発明の自動車用防音構造1は自動車の防音構造に一般的に適用できる。ここでは、車両前方のエンジンルームと車室とを仕切るダッシュパネル20と、ダッシュパネル20に装着される吸音材10(ダッシュサイレンサ)と、を例に説明する。
【0014】
図1は、自動車のダッシュパネル20に取付けられた吸音材10の全体構成を示す斜視図である。
図1は車室側から吸音材10をみた図であり、左側が車両の左前席、右側が車両の右前席に対応している。吸音材10はダッシュパネル20の車室側の面に沿って、ダッシュパネル20に取り付けられている。吸音材10は、ダッシュパネル20と、エアコンユニットやインスツルメントパネルなどの部品(図示せず)との間に設けられている。吸音材10はこれらの部品で覆われており、車室内から視認できない。吸音材10は車室外から伝わるノイズを遮音または吸音する防音機能と、ダッシュパネル20や部品に生じる振動を抑制する制振機能と、を有している。部品はダッシュパネル20に適宜の方法で固定され、車両に対して固定されている。
【0015】
ダッシュパネル20にはエアコンのダクト、ワイヤーハーネス、ステアリングシャフトなどが貫通する複数の開口20aが設けられ、吸音材10にもこれに対応した開口10aが設けられている。後に詳述するように、ダッシュパネル20の車室側の面にはスタッド40が取り付けられており、吸音材10には開口10bや切り欠き10cが形成されている。スタッド40が吸音材10の開口10bや切り欠き10cに通され、クリップやナットなどの固定具(図示せず)がスタッド40に係止している。それによって吸音材10はダッシュパネル20に固定されている。
【0016】
吸音材10の材料としては、各種の軟質樹脂からなる発泡体や不織布からなる繊維成形体が好適に用いられ、特に好ましい素材は軟質ウレタン樹脂の発泡体である。吸音材10は好ましくは、密度が0.01g/cm
3〜0.1g/cm
3、硬さが25N〜650N(評価方法 JIS K 6400−2)、より好ましくは、150〜400Nである。本発明においては吸音材10の硬さが特に重要である。硬さが上記数値範囲より小さいと(やわらかいと)吸音材10全体の剛性が不足するため、吸音材10の車両への取付け性が悪化するおそれがある。硬さが上記数値範囲より大きいと(硬いと)パネルに対する所要の制振性能が得られないおそれがあり、また、吸音材10の一部が部品30によって弾性圧縮させられた際に、吸音材10の弾性反発力が強くなりすぎ、部品の取付不良や取付作業性の低下が発生するおそれがある。
【0017】
吸音材10の下部は衝撃吸収材41で覆われている。衝撃吸収材41は車室内の乗員の足が置かれる領域に配置されている。衝撃吸収材41の前方部分は吸音材10の上に置かれ、後方部分は床パネル上に設置されている。衝撃吸収材41の上面にはフロアカーペット(図示せず)が敷設されており、衝撃吸収材41は車室内から視認できない。これによって、車室内の外観、見栄えが良好に保たれている。衝撃吸収材41はポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ウレタン等の発泡体で形成されている。衝撃吸収材41は、床パネル上に固定具を用いずに載置されているが、クリップ等の固定具で床パネルに固定されてもよい。衝撃吸収材41をフロアカーペットに組み込み、フロアカーペットとともに床パネル上に載置または固定してもよい。衝撃吸収材41は車両の左前席と右前席にそれぞれ設けられ、それらの間にフロアトンネル42が設けられている。
【0018】
吸音材10の形状及び大きさは、吸音材10が設けられるダッシュパネル20の形状及び大きさにより決定される。
図1に示す実施形態の場合、取付状態での吸音材10の形状は横長の略長方形であり、幅(水平方向の長さ)が900mm〜1800mm、高さ(鉛直方向の長さ)が400mm〜1200mmである。
【0019】
図2は、
図1のA−A線に沿った模式的断面図を示している。以下に説明する突起13は、取付け時には部品30で圧縮されているが、便宜上、圧縮されていない状態の突起13を、部品30と重ね合わせて示している(
図7,8も同様)。重ね合わせ部はハッチングを付している。
図2のA部を参照すると、ダッシュパネル20と吸音材10は開口20a,10aを有しており、これらの開口20a,10aを覆うように部品30がダッシュパネル20に取り付けられている。部品30は車両に対して固定されている。一例では、部品30の端部がダッシュパネル20に当接した状態で、ダッシュパネル20に取り付けられたスタッド40に部品30が通され、スタッド40にナット43が締結される。本実施形態では部品30はエアコンユニットであるが、これに限定されず、部品30とダッシュパネル20との間で吸音材10が挟持される限り、いかなるものでもよい。
【0020】
吸音材10の車室側の面10d、すなわち吸音材10のダッシュパネル20と反対側の面には凸部(突起)13が設けられている。凸部13は吸音材10の厚さ一定部(以下、本体14という。)と一体成形されているが、接着剤、融着などによって本体14に固定されてもよい。
図3には凸部13の斜視図を示す。凸部13はダッシュパネル20の開口20a及び吸音材10の本体14の開口10aと概ね一致する中央開口を備え、吸音材10の本体14の開口10aの周縁部の全周に沿って設けられている。凸部13は吸音材10の本体14の開口10aの周縁部に沿って部分的または断続的に設けられていてもよい。
【0021】
部品30は、凸部13を押し付けるようにダッシュパネル20に取り付けられている。この結果、吸音材10の凸部13とその周囲は弾性圧縮させられる。吸音材10の他の部分は部品30によって弾性圧縮させられない。以下の説明では、吸音材10の、部品30とダッシュパネル20との間で押圧されて弾性圧縮させられた部分を変形部12と呼び、その他の部分を一般部11と呼ぶ。変形部12は、吸音材10の、部品30によって押圧される凸部13を含んでいる。吸音材10の、凸部13と反対側の面はダッシュパネル20に接している。吸音材10の一般部11はダッシュパネル20に接していてもよく、ダッシュパネル20から離れていてもよい。
【0022】
吸音材10の一般部11の厚さは、10mm〜120mmが好ましく、20mm〜80mmが特に好ましい。一般部11の厚さが上記数値範囲より小さいと吸音性を確保することが難しく、厚さが上記数値範囲より大きいと柔軟性が不足して吸音材10をダッシュパネル20に沿って配置することが難しくなる。一般部11の厚さは一定であるが、場所によって変わっていてもよい。
【0023】
吸音材10の凸部13の厚さは、1mm〜30mmが好ましく、5mm〜20mmが特に好ましい。凸部13の圧縮量(部品30の押圧による厚さの変化量)は、0mm〜10mm(0mmを除く)が好ましく、2mm〜6mmが特に好ましい。凸部13の圧縮量が上記数値範囲より小さいと弾性反発力が不足し十分な制振性能が得られない。圧縮量が上記数値範囲より大きいと弾性反発力が大きくなりすぎ、取付け性の低下や不具合が発生しやすい。
【0024】
従来の吸音材はダッシュパネルと部品に押圧されることなく取り付けられている。このため吸音材の寸法精度や取付け精度によっては、吸音材が部品から離れ、エンジンノイズやロードノイズが吸音材と部品の隙間を通って車室内に侵入しやすい。本実施形態によれば、吸音材10の変形部12は凸部13を有し、一般部11に比べて厚い。このため、吸音材10は変形部12で弾性的に圧縮され、ダッシュパネル20及び部品30に強く密着させられる。車室外から振動が侵入しやすい吸音材10の開口10aに沿って凸部13が連続的に設けられているため、吸音材10の開口10aと部品30の隙間を通って車室内に侵入するエンジンノイズやロードノイズが効果的に遮蔽される。しかも、圧縮された吸音材10の弾性反発力によってダッシュパネル20と部品30が拘束されるため、これらの振動が抑えられる。
【0025】
凸部13が局所的に形成されているため(すなわち吸音材10が局所的に厚くされているため)、部品30のダッシュパネル20または車両への取付け性を高めることができる。吸音材を全面で厚く形成すると、吸音材は全面で圧縮される。この結果、部品30が吸音材から受ける弾性反発力が増加し、部品30の取り付けに要する荷重が高くなり作業性が悪化する可能性が高くなる。これに対し本実施形態では、凸部13が局所的に形成されているため、吸音材10の弾性反発力は限定的である。従って、部品30の取付け性が悪化することなく制振性能を向上させることが可能である。仮に吸音材10及び部品30の寸法や位置決め精度がばらついても、吸音材10の弾性反発力の大きな変動を避けることができる。一方、凸部13が形成されているため、吸音材10及び部品30の寸法や位置決め精度が変動しても、吸音材10はダッシュパネル20と部品30の間で確実に押圧される。このため、吸音材10の防音性能と、ダッシュパネル20や部品30に対する制振性能を、確実に付与することが可能となる。
【0026】
図4(a)に、
図3のD−D線に沿った凸部13の断面形状を示す。凸部13の断面形状は長方形または正方形の形状である。凸部13の断面形状は、
図4(b)に示す台形形状、
図4(c)に示す先端角部が丸められた長方形形状、
図4(d)に示す頂部が丸められた三角形形状、
図4(e)に示す半円形形状などを用いることもできる。
図4(b)〜(e)に示す凸部13は、先端に向かって幅が漸減するテーパー状の断面を有している。このため、凸部13の強度が高められ、凸部13が破断する可能性が低減するとともに、成形性が高められ、凸部13の欠損などの成形不良が発生する可能性が低減する。
【0027】
図2のB部に示すように、ダッシュパネル20の開口20aがない位置に部品30を固定する場合も、吸音材10に凸部13が設けられている。部品30は図示しない固定手段によって、車両に対して固定されている。凸部13は部品30とダッシュパネル20との間で押圧されて弾性圧縮されている。吸音材10がダッシュパネル20と部品30を拘束するため、ダッシュパネル20や部品30に対する制振効果が高められる。
図2のB部における凸部13は
図3に示すような凹部13aを備えた形状を有し、凸部13と部品30との接触部が部品30の外縁に沿って設けられている。部品30の中央に接触部を設けた場合と比べて部品30をより広い範囲で確実に拘束することができるため、部品30に対する制振効果が高められる。一方、凹部13aが設けられているため、凸部13と部品30の接触面積は大きく増えない。このため、吸音材10の弾性反発力が制限され、取付け性を高めることが可能となる。これにより、互いに相反する制振効果と取付け性を両立させることができる。
【0028】
図5はB部の凸部13に適用可能な他の態様を示している。凸部13は
図5(a)に示す間隔をあけて配列した複数の凸部の集合、
図5(b)に示す十字状、
図5(c)に示すX字状、
図5(d)に示すS字状、
図5(e)に示す直角の折れ部を有する折れ線状でもよい。このような構成とすることによって、部品30を拘束する範囲を確保しつつ、部品30と凸部13の接触面積を制限することができる。
【0029】
図6はB部の凸部13に適用可能なさらに他の態様を示している。凸部13は
図6(a)に示す直方体、
図6(b)に示す円柱形状(円板形状)、
図6(c)に示す角部が丸められた直方体形状、
図6(d)に示す円錐台形状であってもよい。これらの態様でも、部品30と凸部13の接触面積を大きくすると、ダッシュパネル20や部品30に対する拘束効果が高められる。
【0030】
図7は、
図1のB−B線に沿った断面図を示している。
図7のC部に示すように、ダッシュパネル20には開口が設けられておらず、吸音材10だけに開口10aが設けられている。開口10a内には、第1の固定部材21と、第1の固定部材21に対向する第2の固定部材22と、が設けられている。第1の固定部材21のベース部21aはダッシュパネル20の車室側の面に溶接されている。第1の固定部材21は車室側に突き出た第1の頂板21bを有している。第2の固定部材22はベース部22aと、車室側から引き込んだ第2の頂板22bと、を有している。第1の頂板21bと第2の頂板22bは互いに対向するとともに、ボルトまたはねじ23で互いに固定されている。このため、第1の固定部材21のベース部21aと第2の固定部材22のベース部22aの間の距離が一定に保たれる。第1の固定部材21のベース部21aと第2の固定部材22のベース部22aの間に吸音材10が挟持されている。吸音材10の開口10aに沿った縁部、すなわち吸音材10の第2の固定部材22のベース部22aとの接触部には、開口10aを取り囲むリブ状の凸部13が形成されている。凸部13は第1の固定部材21のベース部21aと第2の固定部材22のベース部22aの間で圧縮され、第2の固定部材22のベース部22aと吸音材10の間の隙間から車室内に進入するノイズを阻止する。凸部13は
図3と同様の形状を有しており、
図4に示す様々な断面形状を取ることができる。
【0031】
図7のD部に示すように、吸音材10の開口10aを通って部品30がダッシュパネル20に固定されている場合も、同様の構成が可能である。すなわち、部品30の底面30aがダッシュパネル20に固定され、部品30のフランジ部30bとダッシュパネル20の間に吸音材10が挟持されている。部品30は図示しない固定手段によって、車両に対して固定されている。部品30の底面30aとフランジ部30bの間の距離は一定であるが、これに限らず、吸音材10の形状に沿った形状としてもよい。吸音材10の開口10aに沿った縁部、すなわち吸音材10と部品30のフランジ部30bとの接触部には、開口10aを取り囲むリブ状の凸部13が形成されている。凸部13はダッシュパネル20と部品30のフランジ部30bの間で圧縮され、部品30のフランジ部30bと吸音材10の間の隙間から車室内に進入するノイズを阻止する。凸部13は
図3と同様の形状を有しており、
図4に示す様々な断面形状を取ることができる。
【0032】
図7のE部に示すように、部品30は直接ダッシュパネル20に固定されていなくてもよい。ハーネスなどの電装部品など、車室の所定の位置に固定される部品30で吸音材10を圧縮させることにより、同様に制振効果が得られる。凸部13は
図5,6に示す様々な断面形状を取ることができる。
【0033】
図8は、
図1のC−C線に沿った断面図を示している。ダッシュパネル20には吸音材10を固定するための固定部(スタッド40)が設けられている。スタッド40はダッシュパネル20に溶接されている。スタッド40は吸音材10に設けられた開口10bを貫通している。クリップ50の爪51がスタッド40の溝に係止され、吸音材10がダッシュパネル20に固定されている。吸音材10の凸部13は、ダッシュパネル20側の面に設けられている。すなわち、変形部12は、吸音材10のダッシュパネル20との接触部に設けられた凸部13を含んでいる。変形部12は、2つのスタッド40の間に設けられている。吸音材10は
図1に示すように鉛直方向またはそれに近い姿勢でダッシュパネル20に支持されているため、2つのスタッド40の間の位置でダッシュパネル20から離れやすい。凸部13は吸音材10がダッシュパネル20から離れる方向に移動したときもダッシュパネル20を押圧するため、スタッド40によるダッシュパネル20の制振効果に加えて、スタッド40のない位置でも制振効果が生じる。
【0034】
図9(a)に示すように、凸部13が設けられた変形部12は、変形部12の中心から最も近い2つのスタッド40a,40b間の中心間距離Lよりも変形部12の中心から各スタッド40a,40bの中心までの距離L1,L2の方が短くなる、図中のハッチングした範囲内に設けられることが好ましい。変形部12は、より好ましくは、
図9(b)に示すように、2つの円弧44a,44bで囲まれる範囲内に設けられる。ここで、2つの円弧44a,44bはそれぞれ、変形部12の中心から最も近い2つのスタッド40a,40b間の中心間距離Lを半径とし、2つのスタッド40a,40bを通る。このような構成とすることによって、変形部12で吸音材10がダッシュパネル20から離れることを防止し、制振機能を発揮させることができる。
【0035】
凸部は、吸音材10の代わりにダッシュパネル20または部品30に形成されてもよい。一例を
図10に示す。
図10は
図8に示す実施形態の変形例である。本変形例では、ダッシュパネル20に凸部24が形成されている。
図10(a)に示す例では、凸部24はダッシュパネル20と一体形成されている。
図10(b)に示すように、凸部24はダッシュパネル20と別体の凸状のレインフォース25をダッシュパネル20に溶接してもよいし、
図10(c)に示すように、ダッシュパネル20にスタッド形状の凸部24を溶接してもよい。クリップ50を吸音材10に押し付けることによって吸音材10の凸部24に接する部分が圧縮され、変形部12が形成される。図示は省略するが、クリップ50の吸音材10側の面に凸部を形成して、クリップ50を吸音材10に押し付けることによって、変形部12を形成することもできる。すなわち、変形部12は、ダッシュパネル20またはクリップ50(より一般的には、車両に対して固定された部品30)の、吸音材10との接触部に設けられ、吸音材10の変形部12を押圧する凸部であってもよい。
【0036】
図8、
図10の例では、クリップ50とダッシュパネル20の間隔が吸音材10の厚みと略同等となる位置までクリップ50をスタッド40に対して押し込み、スタッド40に係止させている。さらにクリップ50を押し込むことにより、吸音材10を弾性圧縮させてもよい。このような構成とすれば、制振性能がさらに高められる。
【0037】
さらに、本発明は凸部がなくてもよく、吸音材10の一部が部品30とダッシュパネル20の間で押圧されて弾性圧縮された変形部12を有していればよい。
図11に示すように、部品30の取付け位置をダッシュパネル20に近づけることで、吸音材10の一部を部品30で押圧し、吸音材10に変形部12を形成することができる。