【実施例】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例に係る可搬式仮設階段について詳細に説明する。
【0017】
図1(A)及び
図2は、本発明の好適な実施形態に係る可搬式仮設階段の構成を示す側面図及び正面図である。
【0018】
図1及び
図2には、鉄道の軌道Tと、鉄道内の上部床を構成するプラットホームPとが示されている。プラットホームPの縁部と軌道Tとの間には、可搬式架設階段1(以下、「階段1」という。)が懸架される。プラットホームPと軌道Tとの高低差ΔHは、約1.2〜1.5m(例えば、1.3m)であり、階段1は、水平面に対して所定範囲内の傾斜角θをなして全体的に傾斜する。本例において、傾斜角θは、35〜55度の範囲内、好ましくは、40〜50度の範囲内の範囲内の角度(例えば、43度)に予め設定される。
【0019】
階段1は、左右一対の側桁2と、左右の側桁2によって支持された複数の踏み板(段板)3と、片側の側板2に取付けられた折り畳み可能な手摺り組立体4と、各側桁2の上端部に配置された支承部5と、各側板2の下端部に配置された脚部6とから構成される。本例において、傾斜角θは、水平面に対する側桁2の軸芯の角度である。側桁2、踏み板3、手摺り組立体4、支承部5及び脚部6の主要部は、アルミニウム合金製部材の加工品からなり、樹脂、ゴム等の可撓性弾性部材や、高剛性の鋼製部材又は鋼製部品等が、必要に応じて各部品の適所に配設される。支承部5は、プラットホームPの縁部上面に接地する。脚部6は、軌道Tを構成する左右のレール(軌条)Rの間に配置され、道床Qの採石面等に接地する。
図2に示す如く、絶縁カバー(図示せず)を収納可能な頂部開口形容器7が、片側の側桁2に一体的に形成される。絶縁カバーは、作業者等をレールRから絶縁すべく、階段1近傍のレールRを被覆するためものである。
【0020】
踏み板3は、ボルト・ナット組立体31によって左右の側桁2に固定される。
図1(A)の部分拡大図に示す如く、踏み板3は、概ね水平な踏み面30が形成されるように側桁2に固定される。本例において踏み面30は、側桁2に対して角度θをなす方向に配向される。
【0021】
手摺り組立体4は、側桁2に支持された複数の支柱40と、支柱40の上端部に連結された手摺り部材41と、手摺り組立体4を構造的に安定させる方杖部材42とから構成される。各支柱40の下端部は、枢軸43によって側桁2に枢動可能又は回動可能に連結される。手摺り部材41は、枢動連結具44によって支柱40の上端部に枢動可能又は回動可能に連結される。方杖部材42の一端は、枢軸45によって支柱40の中間高さ位置(下端部及び上端部の間の所定高さ)に枢動可能又は回動可能に連結される。方杖部材42の他端は、係止具46を有し、係止具46は、手摺り部材41の中央部に突設されたピン47に対して係脱可能に連結される。
【0022】
図3は、手摺り組立体4を折り畳んだ状態で示す階段1の側面図である。係止具46とピン47との係合を解くことにより、手摺り組立体4の構造的安定性を喪失させ、
図3に示す如く、手摺り組立体4を折り畳むことができる。係止具46は、手摺り部材41上のピン48に対して係止され、手摺り組立体4は、
図3に示す格納位置(折り畳んだ状態)に保持される。
【0023】
図1(A)の部分拡大図に示すように、支承部5は、水平杆50と、水平杆50の下面に取付けられた複数の着座部材51とから構成される。側桁2の上端部には、水平方向に間隔を隔てた複数のボルト孔53が穿設される。水平杆50は、ボルト孔53を貫通するボルト・ナット組立体52によって側桁2の上端部に堅固に固定され、側桁2からプラットホームP側に水平に突出する。弾性着座部材51は、樹脂又はゴム等の弾性部材からなり、プラットホームPの縁部上面に着座する。弾性着座部材51がプラットホームPの縁部上面に着座することにより、側桁2の傾斜角θは実質的に固定され、踏み面30の水平性が確保される。
【0024】
水平杆50は、ボルト・ナット組立体52の弛緩・解放によって側桁2から取り外すことができる。側桁2には、ボルト孔53と異なる高さ位置において水平杆50を側桁2に固定するためのボルト孔54が穿設される。
【0025】
図4(A)は、高低差ΔHよりも小さい高低差ΔH'のプラットホームPに対して階段1を架設した状態を示す側面図である。
図4(A)には、最上段の踏み板3の近傍に位置するボルト孔54にボルト・ナット組立体52を挿通して水平杆50を固定した状態が示されている。高低差ΔH'が更に小さい場合には、最上段よりも更に下側の踏み板3の近傍に位置するボルト孔54に対して水平杆50を固定しても良い。
【0026】
図1(A)に示すように、側桁2には、階段1の不使用時に水平杆50を格納位置に保持するためのボルト孔55が更に穿設される。
図3に破線で示す如く、水平杆50は、ボルト孔55に挿通したボルト・ナット組立体52によって側桁2と平行に配向され、側桁2に保持される。このような状態では、水平杆50は、側桁2の幅寸法の範囲内に納まるように配置される。
【0027】
図5は、
図3に示す格納位置の階段1を積み重ねた状態を示す側面図である。
【0028】
図3に示す如く、手摺り組立体4を折り畳み、ボルト孔55によって水平杆50を保持した格納位置の階段1は、
図5に示す如く、上下に積み重ねることができる。側桁2の上端部及び下端部には、階段1の積み重ねを可能にするスペーサ9が一体的に形成される。このような構成によれば、
図5に示すように多数の階段1を駅の倉庫、保管庫等にコンパクトに収納し得るので、実用的に極めて有利である。また、このようなコンパクトな収納形態の階段1は、その移送時にも極めて有利である。
【0029】
次に、
図1、
図3及び
図4を参照して脚部6の構成について更に説明する。
図1(A)の部分拡大図に示すように、脚部6は、側桁2の下端部に固定された保持具60と、保持具60によって側桁2に連結された伸縮杆61と、伸縮杆61の先端部(下端部)に連結された接地部材62とから構成される。伸縮杆61は、例えば、補強用の金属製芯材を内装した角形の金属製管材からなる。保持具60を貫通する螺子又はボルト等の係留具65が、伸縮杆61の螺子孔63に螺入し、伸縮杆61を側桁2に同軸状且つ一体的に連結する。伸縮杆61には、多数の螺子孔63が等間隔に穿設されており、保持具60には、複数の係留具65が螺子孔63と同一の間隔に配設される。係留具65と螺子孔63との相対位置は、プラットホームPと軌道Tとの高低差ΔHに相応して適切に設定される。
【0030】
図3に示す如く、伸縮杆61及び側桁2の全長は、伸縮杆61の伸縮位置に相応して、長さL1〜L2の範囲内で設定変更することができ、係留具65は、伸縮杆61の伸縮位置に相応する螺子孔63に螺入され且つ締付けられる。例えば、プラットホームP及び軌道Tの高低差ΔHが比較的小さい場合、
図1(B)に示す如く、伸縮杆61の伸長寸法を短縮し、階段1を高低差ΔHに適応させることができる。長さL1及びL2の差、即ち、伸縮杆61の伸長可能寸法ΔLは、例えば、300〜400mm程度の値に設定される。
【0031】
図1(A)に示す如く、接地部材62は、伸縮杆61の端部を貫通するボルト・ナット組立体64によって伸縮杆61に連結される。ボルト・ナット組立体64の軸部は、接地部材62の枢動可能又は回動可能に支承する。接地部材62は、樹脂又はゴム等の弾性部材からなり、道床Qの採石面等に接地する。所望により、接地部材62の枢動又は回動を利用して、側桁2の傾斜角θを
図1(C)に示すように角度θ'に変化させることも可能である。但し、この角度変化は、踏み面30の水平性又は歩行感を大きく損なうことがない範囲のものである。
【0032】
また、比較的大きくカーブした多くの軌道では、道床Qの上面は、
図4(B)及び
図4(C)に示すように傾斜する。このような軌道においても、接地部材62の枢動によって側桁2の傾斜角θを維持することができる。
【0033】
次に、上記階段1の使用方法について説明する。
【0034】
階段1は、手摺り組立体4を折り畳み、ボルト孔55によって水平杆50を格納位置に保持し、更には、伸縮杆61を引き込んだ状態で、
図5に示す如く積み重ねられ、駅の倉庫等に保管される。使用において、作業者等は、この状態の階段1をプラットホームPの使用部位に持ち運び、プラットホームP上で手摺り組立体4を起立させるとともに、高低差Hに相応するように水平杆50を側桁2に固定し且つ伸縮杆61の伸縮位置を設定し、しかる後、
図1及び
図4に示す如く、接地部材62を道床Qの採石面等に接地させるとともに、支承部5の着座部材51をプラットホームPの縁部上面に着座させる。
【0035】
これらの作業は、プラットホームP上の作業者等によって実施することができるので、作業者等は、予め軌道T上に降りることなく、階段1をプラットホームPに設置することができる。これは、作業の効率、迅速性及び安全性等を考慮すると、極めて有利である。なお、最終的な階段1の微調整等は、必要に応じて、階段1をプラットホームPに設置した後に実施すれば良い。
【0036】
図6は、支承部5と、プラットホームPの縁部上面との位置関係を示す断面図である。
【0037】
図6(A)に示す如く、左右の側桁2に夫々設けられた各水平杆50は、水平杆50の軸線方向に間隔を隔てて配置された少なくとも2つの着座部材51を有する。階段1が所定の傾斜角θで傾斜する場合、2つの着座部材51は、階段1の重量によって均等に圧縮変形した状態でプラットホームPの縁部上面に着座する。しかしながら、プラットホームPの上面の傾斜、勾配又は不陸等や、接地部材62の接地位置の相違等により、プラットホームPの上面に対する階段1の傾斜角度が所定の傾斜角θと相違することがある。
【0038】
図6(B)及び
図6(C)に示す如く、プラットホームPの上面に対する階段1の傾斜角度θ1、θ2が所定の傾斜角θと若干相違する場合には、一方の着座部材51が比較的大きく圧縮変形する。このため、2つの着座部材51は、プラットホームPに対する支承部5の着座状態を維持する。他方、
図6(D)及び
図6(E)に示す如く、プラットホームPの上面に対する階段1の傾斜角度θ3、θ4が所定の傾斜角θと大きく相違する場合、一方の着座部材51がプラットホームPから離間する。しかし、他方の着座部材51が大きく圧縮変形し、プラットホームPに対する支承部5の着座状態を維持する。
【0039】
即ち、各々の水平杆50は、その軸線方向に間隔を隔てて配置された複数の着座部材51を有し、着座部材51の弾力的な変形により全着座部材51がプラットホームPの上面に着座し、或いは、一部の着座部材51がプラットホームPに上面から離間するが、少なくとも一つの着座部材51がプラットホームPに着座した状態を維持することにより、実際の階段1の傾斜角度θ1〜θ4と、所定の傾斜角θとの相違を補償する。
【0040】
図1及び
図4には、階段1をプラットホームPに設置した状態が示されている。作業者等は、
図1及び
図4に示す如く前向き歩行で階段1を昇降し得る。このため、作業者等は、昇降時に工具等を携行した状態であっても、プラットホームP及び軌道Tの間を比較的容易に昇降することができる。しかも、作業者等は、手摺り部材41を手指で掴んだ状態で階段1を昇降歩行し得るので、作業者等の昇降動作の安全性は、かなり向上する。
【0041】
なお、使用後の階段1は、プラットホームP上の作業者等によって、プラットホームP上に持ち上げられる。手摺り組立体4は、格納位置(
図3)に折り畳まれ、階段1は、
図5に示す如く、積み重ねられ、嵩張ることなくコンパトクトに倉庫、保管庫等に収納される。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0043】
例えば、本発明の仮設階段は、深夜等に実施される保守・点検作業の際に使用し得るばかりでなく、鉄道の運行中にプラットホームから軌道上に落下した落下物等を回収するための昇降手段としても有効に使用し得る。
【0044】
また、上記実施例では、階段構成要素(側桁、踏み板、手摺り組立体等)の主要部は、アルミニウム合金製部材の加工品からなるものとして説明したが、他の合金製部品や、鋼製部品、或いは、樹脂製部品によって階段構成要素を製作しても良い。
【0045】
更に、上記実施例では、仮設階段の片側のみに手摺り組立体を配設したが、仮設階段の両側に手摺り組立体を配設することも可能である。
【0046】
また、上記実施例においては、支承部は、ボルト・ナット組立体によって取外し可能に側桁に固定されるが、階段の不使用時に格納位置に移動するように支承部を可動式に構成しても良い。
【0047】
更には、階段構成要素の形状、各部構造及び寸法等は、仮設階段の形状及び寸法等に相応して適宜設計変更し得るものである。