(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693778
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】解体工事あるいは建設工事における建築構造物の引抜き転倒防止装置および引抜き転倒防止方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/08 20060101AFI20200427BHJP
【FI】
E04G23/08 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-53718(P2016-53718)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-166250(P2017-166250A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】内藤 仁志
(72)【発明者】
【氏名】三輪 明広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信也
【審査官】
前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5343253(JP,B2)
【文献】
特開平10−110544(JP,A)
【文献】
特開2015−124506(JP,A)
【文献】
特開2014−227692(JP,A)
【文献】
特開2011−017209(JP,A)
【文献】
特開2012−132145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/08
E04G 21/14−21/22
B66F 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
解体工事あるいは建設工事における建築構造物の引抜き転倒を防止する引抜き転倒防止装置であって、第1ジャッキ式昇降機によって昇降する第1ステップロッドの下端に配設された引掛けフックに固定される第2ジャッキ式昇降機と、該第2ジャッキ式昇降機の内部に挿入されかつ前記第1ジャッキ式昇降機を支持する昇降機支持体の床面に固定される第2ステップロッドと、を有し、前記第2ステップロッドを引抜き抵抗材としたことを特徴とする建築構造物の引抜き転倒防止装置。
【請求項2】
解体工事あるいは建設工事における建築構造物の引抜き転倒を防止する引抜き転倒防止方法において、第1ジャッキ式昇降機によって昇降する第1ステップロッドの下端に配設された引掛けフックに第2ジャッキ式昇降機を固定し、該第2ジャッキ式昇降機の内部に第2ステップロッドを挿入し、前記第1ジャッキ式昇降機を支持する昇降機支持体の床面に前記第2ステップロッドの下端を固定して、前記第2ステップロッドを引抜き抵抗材とすることを特徴とする建築構造物の引抜き転倒防止方法。
【請求項3】
前記第2ジャッキ式昇降機の上段コレットと下段コレットのいずれか片方が前記第2ステップロッドの水平面との間に0mm超え20mm以下の隙間を保持する動作を交互に繰り返しながら、前記第1ジャッキ式昇降機による前記第1ステップロッドの上下動に同期して前記第2ジャッキ式昇降機の前記上段コレットと前記下段コレットの上下動を行なうことを特徴とする請求項2に記載の建築構造物の引抜き転倒防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物の解体工事あるいは建設工事において、工事中に地震や強風が原因となって建築構造物の横揺れが発生した場合に、その建築構造物に引抜き力が働くことによって建築構造物が転倒するのを防止するための引抜き転倒防止装置および引抜き転倒防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
老朽化した建築構造物を解体するにあたって、油圧クラッシャーを用いる工法(いわゆる圧砕機工法)やダイヤモンドブレードを用いる工法(いわゆるカッター工法)が広く普及している。これらの工法は、いずれも建設工事とは逆の手順で解体する工法であり、解体工事においては、上層階から鉄骨、鉄筋、コンクリート等を切断または破砕して地上に下ろしながら、下層階へ順次解体していく。
【0003】
このように建築構造物を上層階から解体する場合には、
(a)地上に解体用の大型重機を設置して、その大型重機の腕を伸ばして建築構造物を上層階から解体する、
(b)使用する機材を大型のクレーンで地上から屋上まで吊り上げて、その機材を用いて上層階から解体する、
(c)切断した鉄筋や鉄骨、破砕したコンクリート等をクレーンで地上に下ろす
等の作業を行なうために、クレーン等の大型重機が必要である。そのため、解体する建築構造物の周辺に大型重機を設置する場所を確保できないような立地条件では、解体工事に支障をきたす。大型重機の使用が可能な立地条件であっても、周囲の道路を占有するから、近隣の住民の日常生活や企業団体の業務に多大な影響を及ぼす。
【0004】
また、上層階から解体する場合には、飛石や粉塵が遠方まで飛散し易くなるという問題もある。建築構造物全体を保護シートで覆うことによって、飛石や粉塵の飛散を防止することは可能であるが、工期の延長や工費の上昇を招く。また、地上に設置した大型重機を用いて解体する場合には、その大型重機の腕が回動する空間を確保する必要があることから、その空間に加えて建築構造物全体を保護シートで覆うことは困難である。
そこで建築構造物の下層部から解体する工法が検討されている。建築構造物を下層部から解体すれば、大型のクレーンを使用する必要はなく、立地条件の制約を受けずに解体工事を行なうことができる。しかも、建築構造物全体を保護シートで覆う必要もなく、下層部のみを覆うことによって飛石や粉塵の飛散を防止できる。
【0005】
たとえば特許文献1には、建築構造物の柱体8の下層部を解体した後、柱体8とその基礎構造体11との間に油圧ジャッキ12を装着して建築構造物を支持する工法(
図6参照)が開示されている。この技術では、油圧ジャッキ12のロッドを縮めて、柱体8を油圧ジャッキ12のストローク分ずつ下ろし、引き続いて、油圧ジャッキ12上の柱体8を解体し、さらに油圧ジャッキ12のロッドを伸ばして支え直すという手順を繰り返すことによって、建築構造物を下層から解体することができる。
【0006】
しかしこの特許文献1に開示された技術では、建築構造物の柱体8の下層部を解体する
ために、油圧ジャッキ12とは固定ができず、建築構造物の大きな水平方向の力(以下、水平力という)が加わった場合、柱体8が浮き上がるのを防止するための引抜き抵抗がないと、建築構造物の傾斜や転倒が生じる可能性が高くなる。また、解体中の柱体8aは基礎構造体11aから分離しており、その柱体8aに作用する荷重が他の柱体8に分散される。その結果、建築構造物に歪みが生じて解体作業に支障をきたす。なお
図5中では、建築構造物の柱体8を支持する基礎構造体の符号を11とするが、下層部を解体中の柱体の符号を8aとし、その柱体8aの基礎構造体の符号を11aとして、通常の建築構造物の柱体8およびその基礎構造体11と区別する。
【0007】
特許文献2には、柱体の貫通孔に挿入された閂材を保持するL字型のフックを、ジャッキ式昇降機に連結して建築構造物を支持しながら解体工事を行なう技術が開示されている。
特許文献2に開示された技術では、柱体の下層部を解体することによって、柱体が基礎構造物から分離するものの、その柱体に作用する荷重は、ジャッキ式昇降機を支持するための構造体(以下、昇降機支持体という)の支柱で支持されるので、他の柱体に作用する荷重は変化しない。したがって解体工事中に、建築構造物の歪みが生じるのを防止できる。
【0008】
ところが解体工事中に強風や地震が発生した場合には、建築構造物が振動することによって、建築構造物のみならず昇降機支持体にも、水平力が作用し、その水平力により、鉛直方向上下に働く力も生じる。この鉛直方向に働く力は、ジャッキ式昇降機からステップロッドを引抜く方向に作用するので、以下では引抜き力と記す。そして建築構造物の形状や荷重の大きさによっては、引抜き力に起因する転倒(以下、引抜き転倒という)が生じる。
【0009】
このような解体中の建築構造物が、水平力から生じる引抜き力によって傾斜する、あるいは転倒するという問題に対して、外面全長にネジを設けた棒状の部材(以下、ネジ棒部材という)を用いて昇降機支持体の引抜きを防止する技術が検討されている(特許文献3参照)。ネジ棒部材は、昇降機支持体の床面と天井面に固定することによって、昇降機支持体の引抜きを防止するものである。そして、ネジ棒部材に螺合するナット材、あるいはナット材と螺合するネジ棒部材を回転させることによって、ステップロッドに沿って昇降するジャッキ式昇降機に追随して、解体中の建築構造物を支障なく昇降させることができる。しかも、水平力が作用したときは、水平力の向きに関わらず一定の強度を確保でき、ジャッキ式昇降機とステップロッドとの相対的位置関係の変化を防止する効果が得られる。
【0010】
しかし、長尺のネジ棒部材は極めて高価であるばかりでなく、ネジを設ける加工にて使用する工作機械の仕様等に応じて、長さの制約を受ける。比較的安価な短尺のネジ棒部材を接続して使用するためには、その接合部においてネジ山が円滑に連続するように接続する必要があるので、ネジ棒部材の接続は極めて困難な作業となる。つまり、ネジ棒部材は長さの制約を受けるので、昇降機支持体の高さ(床面と天井面との距離)の大幅な延長は期待できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009-138377号公報
【特許文献2】特開2014-227692号公報
【特許文献3】特許第5343253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来の技術の問題点を解消し、建築構造物をその下層部から解体する解体工事にて、強風や地震に起因する水平力に起因する引抜き力が作用した場合に、建築構造物の傾斜や倒壊(以下、転倒という)を簡便かつ安価な手段で防止し、しかも昇降機支持体の高さを延長することが可能な建築構造物の転倒防止装置および転倒防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、建築構造物の下層部を解体するにあたって、昇降機支持体の高さ(床面と天井面との距離)を延長すれば、解体する部分の高さを拡張できることから、昇降機支持体を補強するための部材として容易に接続して長さを延長できるステップロッドに着目した。そしてステップロッドを活用して、下層部から解体中の建築構造物が転倒するのを防止する技術を詳細に検討した結果、ジャッキ式昇降機と組み合わせることによって、引抜き力による建築構造物の転倒(以下、引抜き転倒という)を防止することができ、建築構造物の引抜き転倒を防止するための有効な手段となることを見出した。
【0014】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、解体工事あるいは建設工事における建築構造物の引抜き転倒を防止する引抜き転倒防止装置であって、第1ジャッキ式昇降機によって昇降する第1ステップロッドの下端に配設された引掛けフックに固定される第2ジャッキ式昇降機と、第2ジャッキ式昇降機の内部に挿入されかつ第1ジャッキ式昇降機を支持する昇降機支持体の床面に固定される第2ステップロッドと、を有
し、その第2ステップロッドを引抜き抵抗材とした建築構造物の引抜き転倒防止装置である。
【0015】
また本発明は、解体工事あるいは建設工事における建築構造物の引抜き転倒を防止する引抜き転倒防止方法において、第1ジャッキ式昇降機によって昇降する第1ステップロッドの下端に配設された引掛けフックに第2ジャッキ式昇降機を固定し、第2ジャッキ式昇降機の内部に第2ステップロッドを挿入し、第1ジャッキ式昇降機を支持する昇降機支持体の床面に第2ステップロッドの下端を固定して、第2ステップロッドを引抜き抵抗材とする建築構造物の引抜き転倒防止方法である。
【0016】
本発明の引抜き転倒防止方法においては、第2ジャッキ式昇降機の上段コレットと下段コレットのいずれか片方が第2ステップロッドの水平面との間に0mm超え20mm以下の隙間を保持する動作を交互に繰り返しながら、第1ジャッキ式昇降機による第1ステップロッドの上下動に同期して第2ジャッキ式昇降機の上段コレットと下段コレットの上下動を行なうことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、建築構造物をその下層部から解体する解体工事にて、強風や地震に起因する水平力が作用した場合に、建築構造物の傾斜や倒壊を簡便かつ安価な手段で防止し、しかも昇降機支持体の高さを延長することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明で使用するジャッキ式昇降機とステップロッドの例を模式的に示す断面図である。
【
図2】ステップロッドを連結する例を模式的に示す側面図である。
【
図3】ジャッキ式昇降機とステップロッドを用いて解体工事を行なう例を模式的に示す側面図である。
【
図5】第1ジャッキ式昇降機の動作を模式的に示す断面図である。
【
図6】従来の解体工法の例を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、本発明で使用するジャッキ式昇降機とステップロッドの例を模式的に示す断面図である。まず
図1を参照して、本発明で使用するジャッキ式昇降機とステップロッドについて説明する。
【0020】
本発明においては、
図1に示すように、ジャッキ式昇降機1の内部にステップロッド2を挿入して使用する。その際、ジャッキ式昇降機1の下部は、昇降機支持体(図示せず)に固定される。
【0021】
ステップロッド2は、鋼製の丸棒の外面に一定の間隔で円錐状の傾斜面3aを有する。その傾斜面3aは一定方向へ向かって縮径していくように設けられ、傾斜面3aの最小径の端部にステップロッド2の中心軸に対して直角な水平面3bが設けられる。したがってステップロッド2には傾斜面3aと水平面3bで形成される窪み部3(以下、ロッド凹部という)が一定の間隔で存在する。
【0022】
ジャッキ式昇降機1には、円周方向に分割されたコレットがロッド凹部3に当接して上下2ケ所に取り付けられる。以下では、上側のコレット4aを上段コレット、下側のコレット4bを下段コレットと記す。上段コレット4aと下段コレット4bは、夫々上段バネ5aと下段バネ5bが取り付けられており、常に下方へ押し込まれている。
【0023】
そしてステップロッド2に荷重が加わることによって、ステップロッド2が下方へ移動しようとすると、上段コレット4a(または下段コレット4b)の上面と側面がロッド凹部3の水平面3bと傾斜面3aに密着して荷重を支える。この時、下段コレット4b(または上段コレット4a)の側面はロッド凹部3の傾斜面3aに当接するものの、上面は水平面3bに必ずしも接触する必要はない。
【0024】
本発明は、このようなジャッキ式昇降機1を2台併用するものであり、夫々のジャッキ式昇降機1(すなわち第1ジャッキ式昇降機1a、第2ジャッキ式昇降機1b)を同期させる動作の詳細については、
図5を参照して後述する。
【0025】
ジャッキ式昇降機1の収縮と延伸によってステップロッド2が移動する1回分の距離をL
strokeとすると、ジャッキ式昇降機1の収縮と延伸の操作をn回繰り返すことによって、荷重を支えるステップロッド2を距離L
strokeずつn回下降させることができる。その総下降距離(=L
stroke×n)は、ステップロッド2の長さH
steprodおよび上段コレット4aと下段コレット4bの間隔M
colletの制約を受ける。つまり、ジャッキ式昇降機1の収縮と延伸を繰り返す回数nは、
L
stroke×n≦H
steprod+M
collet
の関係を満たす最大の整数となる。
【0026】
この制約に対してステップロッド2は、
図2に示すように、ジョイントカプラー13を用いることによって容易に連結できるという利点を有する。つまり、端部内面にネジを有するジョイントカプラー13と端部外面にネジを有するステップロッド2とを螺合することによって、容易にステップロッド2を連結できるので、ステップロッド2の長さH
steprodが延長される。その結果、上記の式を満たす回数nも増加する。したがって、
図2に示すようなジョイントカプラー13を使用すれば、ステップロッド2の長さH
steprodの制約は解消する。
【0027】
そして、建築構造物の解体工事を行なう際には、
図3に示すように、昇降機支持体6にジャッキ式昇降機1a、1bとステップロッド2a、2bを取り付ける。以下では、2台のジャッキ式昇降機1a、1bを、夫々第1ジャッキ式昇降機1a、第2ジャッキ式昇降機1bとし、それに挿入するステップロッド2a、2bを夫々第1ステップロッド2a、第2ステップロッド2bと記す。
【0028】
第1ジャッキ式昇降機1aは、その下部が昇降機支持体6に固定され、第1ステップロッド2aが挿入される。その際、第1ステップロッド2aの下端にL字型の引掛けフック7を配設する。一方で、解体する建築構造物の柱体8には貫通孔が設けられ、その貫通孔に閂材9が水平に挿入される。そして、引掛けフック7が閂固定材15とともに閂材9を固定した状態で柱体8の下層部を解体した後、第1ジャッキ式昇降機1aを操作して第1ステップロッド2aを下降させる。
【0029】
その際の第1ジャッキ式昇降機1aの動作について説明する。
まず
図5(a)に示すように、第1ジャッキ式昇降機1aが収縮した状態で、下段コレット4bが荷重を支える。次に、上段コレット4aが第1ステップロッド2aの水平面3bに引っ掛からないように解放し(
図5(b)参照)、さらに、第1ジャッキ式昇降機1aを延伸する(
図5(c)参照)。そして、上段コレット4aが第1ステップロッド2aの水平面3bよりも高い位置(すなわち1段高いロッド凹部3)へ移動する。次いで、上段コレット4aを1段高いロッド凹部3に当接させて(
図5(d)参照)、第1ジャッキ式昇降機1aをフルストローク延伸する(
図5(e)参照)。こうすることによって上段コレット4aの上面がロッド凹部3の水平面3bに密着して、第1ステップロッド2aを一旦持ち上げる。その結果、下段コレット4bはロッド凹部3の水平面3bから離れるので、下段コレット4bは荷重を受けない状態になる。
【0030】
引き続き、下段コレット4bが第1ステップロッド2aの水平面3bに引っ掛からないように解放して、第1ジャッキ式昇降機1aを収縮する。そして、下段コレット4bが第1ステップロッド2aの水平面3bよりも高い位置(すなわち1段高いロッド凹部3)へ移動する。次いで、下段コレット4bを1段高いロッド凹部3に当接させて、第1ジャッキ式昇降機1aをフルストローク収縮する。こうすることによって下段コレット4bの上面がロッド凹部3の水平面3bに密着して荷重を支える状態になり、第1ステップロッド2aの下降は停止する。ただし、第1ジャッキ式昇降機1aの収縮はストロークエンドに到達するまで継続するので、上段コレット4aはロッド凹部3の水平面3bから離れて、上段コレット4aは荷重を受けない状態になる。
上記の手順を繰り返すことによって、荷重を支えるステップロッド2を下降させることができる。
【0031】
引掛けフック7は、
図4に示すように、建築構造物の柱体8の幅よりも広い間隔を設けて2枚のL字型の鋼材で構成され、引抜き力を第2ジャッキ式昇降機1bに伝えるための梁材10が配設される。
【0032】
第2ジャッキ式昇降機1bは、その下部が梁材10に定着され、第2ステップロッド2bが挿入される(
図4参照)。その際、第2ステップロッド2bの上端を昇降機支持体6の天井面6aに定着し、下端を床面6bに固定する(
図3参照)。このようにして、第1ジャッキ式昇降機1aを操作して第1ステップロッド2aを下降させる時に、第2ジャッキ式昇降機1bを同期して操作することによって支障なく下降させることが可能となり、建築構造物を柱体8の基礎上部まで下ろすことができる。
【0033】
その際の第2ジャッキ式昇降機1bの動作について説明する。
まず、第1ジャッキ式昇降機1aが
図5(a)に示す状態の時に、第2ジャッキ式昇降機1bを延伸して、上段コレット4aの上面と第2ステップロッド2bの水平面3bとの間に隙間を設ける。その隙間が狭すぎる場合は、先に動作する第1ジャック式昇降機1aの昇降動作より、わずかに遅れることで隙間がなくなり、第1ジャック式昇降機1aおよび第2ジャッキ式昇降機1bともに荷重が増加する状態となるため、第1ステップロッド2aと第2ステップロッド2bの許容荷重を超える危険な状態になる。また、隙間が広すぎる場合は、引抜き力が作用した際に、隙間分加速してから引掛かりが生じるため、衝撃力が加わり、これもまた第2ステップロッド2bの危険な状態になる。したがって、第2ジャッキ式昇降機1bの上段コレット4aと下段コレット4bのいずれかが、交互に、第2ステップロッド2bの水平面3bとの間に形成する隙間は0mm超え20mm以下の範囲内が好ましく、0mm超え6mm以下の範囲内が最も好ましい。
【0034】
次に、第1ジャッキ式昇降機1aが
図5(e)に示すように一旦持ち上がった状態の時に、第2ジャッキ式昇降機1bを同じ速さで収縮することによって、上段コレット4aの上面が第2ステップロッド2bの水平面3bと同じ隙間を有して保持される。そして、第1ジャッキ式昇降機1aの収縮(すなわち第1ステップロッド2aの下降)に伴い引掛けフック7が下降するのに合わせて、第2ジャッキ式昇降機1bを延伸する。
【0035】
こうして第1ジャッキ式昇降機1aと第2ジャッキ式昇降機1bを同期して操作する間に、第2ジャッキ式昇降機1bの下段コレット4bが第2ステップロッド2bの1段低いロッド凹部3へ移動し、第1ステップロッド2aの下降が停止した時に、第2ジャッキ式昇降機1bの下段コレット4bが1段低いロッド凹部3の傾斜面3aに当接する。
【0036】
ここまでの手順で引掛けフック7の下降動作は一旦終了するが、第2ジャッキ式昇降機1bの上段コレット4aの上面と第2ステップロッド2bの水平面3bとの間に上記した隙間を設けるために、以下の操作を行なう。
【0037】
第1ジャッキ式昇降機1aを収縮して、第2ジャッキ式昇降機1bの下段コレット4bの上面を第2ステップロッド2bの水平面3bとを所定の隙間を設けて配置させる。こうすることによって第2ジャッキ式昇降機1bの上段コレット4aが第2ステップロッド2bのロッド凹部3から離れても良い状態となったので、第2ジャッキ式昇降機1bをストロークエンドまで収縮して、上段コレット4aを1段低いロッド凹部3へ移動させる。次いで、第2ジャッキ式昇降機1bを延伸して、上段コレット4aの上面と第2ステップロッド2bの水平面3bとの間に上記した隙間を設ける。
【0038】
以上の通り、第2ジャッキ式昇降機1bを第1ジャッキ式昇降機1aに同期させるためには複雑な操作が必要であるが、第1ジャッキ式昇降機1aおよび第2ジャッキ式昇降機1bの内部に小型の計測機器(たとえば変位計等)を装着して常時監視することによって、円滑な動作を行なうことが可能となる。
【0039】
図3に示すように、引掛けフック7が閂材9を閂固定材15とともに固定し、かつ建築構造物の柱体8の下層部を解体した状態で、強風や地震に起因する水平力が作用すると、引抜き力が発生して、第1ジャッキ式昇降機1aと第1ステップロッド2aの相対的な位置関係が変化(以下、変位という)する。その変位は、
(A)第1ステップロッド2aが第1ジャッキ式昇降機1a内を相対的に下降する方向へ移動することによって生じる変位
と、
(B)第1ステップロッド2aが第1ジャッキ式昇降機1a内を相対的に上昇する方向へ移動することによって生じる変位
に大別される。
【0040】
上記の(A)による変位が生じても、建築構造物の引抜き転倒(すなわち傾斜や倒壊)は発生しない。その理由は、第1ステップロッド2aのロッド凹部3の水平面3bが、第1ジャッキ式昇降機1aの上段コレット4aと下段コレット4bの上面に密着するからである。
【0041】
上記の(B)による変位が生じると、ロッド凹部3の傾斜面3aが上段コレット4aと下段コレット4bの側面に沿って摺動して、第1ステップロッド2aが容易に上昇するので、建築構造物の引抜き転倒を引き起こす惧れがある。この問題に対して、本発明では、第2ジャッキ式昇降機1bと第2ステップロッド2bを用いて、建築構造物の引抜き転倒を防止する。
【0042】
つまり、第1ステップロッド2aの上昇は、フック7の上昇を意味しており、ひいては第2ジャッキ式昇降機1bの上昇を意味する。そして第2ジャッキ式昇降機1bの上昇は、第2ステップロッド2bが第1ジャッキ式昇降機1a内を相対的に下降することを意味するので、上記の(A)と同様に建築構造物の引抜き転倒は発生しない。その理由は、第2ステップロッド2bのロッド凹部3の水平面3bが、第2ジャッキ式昇降機1bの上段コレット4aと下段コレット4bの上面に密着するからである。
【0043】
ここでは、第1ジャッキ式昇降機1aと第1ステップロッド2aを用いて建築構造物を下降させる例において、第2ジャッキ式昇降機1bと第2ステップロッド2bの機能について説明したが、ワイヤジャッキを用いて建築構造物を下降させる場合にも、本発明の引抜き転倒防止技術を適用することができる。つまりワイヤジャッキを用いる場合も、第2ジャッキ式昇降機1bと第2ステップロッド2bを併用することによって、困難ではあるが、建築構造物の引抜き転倒を防止できる。
【0044】
引掛けフック7の形状は、建築構造物を下降させる際の安定性を高める観点から、L字型が有効であるが、他の形状の引掛けフックを第1ステップロッド2aに配設して解体工事を行なう場合にも、第2ジャッキ式昇降機1bと第2ステップロッド2bを併用することによって、建築構造物の引抜き転倒を防止できる。
【0045】
また、本発明の建築構造物の引抜き転倒防止技術は、解体工事のみならず建設工事にも適用できる。つまり、建築構造物の上層部の柱体8を基礎構造物上で組み立てた後、その柱体8を第1ジャッキ式昇降機1aと第1ステップロッド2aで持ち上げて、順次、下層部を継ぎ足して行く建築工事においても、第2ジャッキ式昇降機1bと第2ステップロッド2bを併用することによって、建築構造物の引抜き転倒を防止できる。
【0046】
以上に説明した通り、本発明の建築構造物の引抜き転倒防止技術は、解体工事中あるいは建設工事中の建築構造物に水平力が作用した場合に、その水平力から生じる引抜き力に起因する建築構造物の引抜き転倒を防止するものである。なお、水平力は昇降機支持体の支柱によって支持される。
【実施例】
【0047】
図3に示すように第1ジャッキ式昇降機1a、第1ステップロッド2a、第2ジャッキ式昇降機1b、第2ステップロッド2bを用いて、柱体8を保持しつつ昇降させる実験を行なった。その手順を説明する。
【0048】
断面寸法80cm×80cmの柱体の下部に貫通孔を設けて、その貫通孔に閂材9を挿入し、その閂材9を引掛けフック7で保持しつつ、第1ジャッキ式昇降機1aと第2ジャッキ式昇降機1bを操作して、柱体8を昇降した。その際、柱体8の上部に10階建ての建築構造物に相当する荷重500トンを作用させたが、柱体8を支障なく昇降できた。また、強風や地震を想定して、柱体8に引抜き力として上方向に200トンを作用させたが、第1ジャッキ式昇降機1aと第2ジャッキ式昇降機1bの動作がどの段階であっても、柱体8は引き抜かれず、建築構造物が転倒する状況にはならなかった。
【符号の説明】
【0049】
1 ジャッキ式昇降機
1a 第1ジャッキ式昇降機
1b 第2ジャッキ式昇降機
2 ステップロッド
2a 第1ステップロッド
2b 第2ステップロッド
3 ロッド凹部
3a 傾斜面
3b 水平面
4a 上段コレット
4b 下段コレット
5a 上段バネ
5b 下段バネ
6 昇降機支持体
6a 天井面
6b 床面
7 引掛けフック
8 柱体
9 閂材
10 梁材
11 基礎構造体
12 油圧ジャッキ
13 ジョイントカプラー
14 固定用アンカー
15 閂固定材