特許第6693786号(P6693786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693786
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】導電性繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/37 20060101AFI20200427BHJP
   D06M 13/256 20060101ALI20200427BHJP
   D06M 13/152 20060101ALI20200427BHJP
   D06M 101/06 20060101ALN20200427BHJP
   D06M 101/12 20060101ALN20200427BHJP
【FI】
   D06M15/37
   D06M13/256
   D06M13/152
   D06M101:06
   D06M101:12
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-68938(P2016-68938)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179657(P2017-179657A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年2月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】506209422
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】添田 心
(72)【発明者】
【氏名】古田 博一
(72)【発明者】
【氏名】池田 善光
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−505441(JP,A)
【文献】 特開2010−280997(JP,A)
【文献】 特表平11−504982(JP,A)
【文献】 特表2014−510843(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2009−0033571(KR,A)
【文献】 中国特許出願公開第102094332(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
D01F1/00−6/96、9/00−9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性繊維と、前記親水性繊維を内包する有機導電性被膜とを有し、
前記有機導電性被膜が、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸でドープされたポリアニリンのエメラルディン塩を含有し、
前記有機導電性被膜の固着量が、前記親水性繊維100重量部に対して、9重量部以上であることを特徴とする導電性繊維。
【請求項2】
抵抗値が、1.0×10−1kΩ/cm以上1.0×10kΩ/cm以下であることを特徴とする請求項1に記載の導電性繊維。
【請求項3】
前記親水性繊維がカルボキシル基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の導電性繊維。
【請求項4】
前記親水性繊維が絹であることを特徴とする請求項3に記載の導電性繊維。
【請求項5】
前記親水性繊維がヒドロキシル基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の導電性繊維。
【請求項6】
前記親水性繊維が綿であることを特徴とする請求項5に記載の導電性繊維。
【請求項7】
前記有機導電性被膜が、メタクレゾールを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の導電性繊維。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の導電性繊維を有する導電性布。
【請求項9】
導電率が1.0×10−4S・cm以上3.0×10S・cm以下であることを特徴とする請求項8に記載の導電性布。
【請求項10】
表面抵抗率が1.0−2Ω/sq.以上1.0×10Ω/sq.以下であることを特徴とする請求項8に記載の導電性布。
【請求項11】
親水性繊維と、前記親水性繊維を内包する有機導電性被膜とを有し、
前記有機導電性被膜が、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸でドープされたポリアニリンのエメラルディン塩を含有し、
前記有機導電性被膜の固着量が、前記親水性繊維100重量部に対して、9重量部以上であることを特徴とする導電性繊維の製造方法であって、
アニリンの酸化重合を、前記親水性繊維の存在下、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸を含む酸性水溶液中で行うことを特徴とする導電性繊維の製造方法。
【請求項12】
前記酸化重合が、
30度以上40度以下で行う第一段階と、5度以下で行う第二段階とを有することを特徴とする請求項11に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項13】
前記親水性繊維が、カルボキシル基を有することを特徴とする請求項12に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項14】
前記酸化重合が、
炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸の非存在下で行う第一段階と、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸の存在下で行う第二段階とを有することを特徴とする請求項11に記載の導電性繊維の製造方法。
【請求項15】
前記親水性繊維が、ヒドロキシル基を有することを特徴とする請求項14に記載の導電性繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性繊維として、金属めっき被膜を形成した繊維(特許文献1)、カーボン等の導電体粒子を練り込んだ繊維(特許文献2)、カーボン等の導電体粒子を含有する塗布層を形成した繊維(特許文献3)、炭素繊維などが知られている。しかし、金属めっき被覆を形成した繊維は、重く、柔軟性に劣り、さらには金属めっきが錆びるという問題がある。導電体粒子を練り込んだ繊維や、導電体粒子を含有する塗布層を形成した繊維は、導電体粒子を保持するマトリックスにより導電性が低下してしまうため、十分な導電性を有する繊維が得られない。また、炭素繊維は高価であり、曲げに対して脆い。
【0003】
また、導電性高分子の中で比較的安価であり、安定性に優れたポリアニリンを用いて導電性繊維を形成することも検討されている。例えば、特許文献4には、ポリアニリンを溶剤に溶解または分散させて繊維表面に塗布して繊維表面に導電層を積層した導電性繊維、特許文献5には、繊維とアニリン化合物とを超臨界又は亜臨界二酸化炭素流体中、5〜35MPaで接触させた後、繊維表面でアニリン化合物を重合させて繊維表面にポリアニリン被膜を形成した導電性繊維、特許文献6には、有機溶剤とポリアニリン複合体とフェノール性水酸基を有する化合物を紡糸した繊維が提案されている。
特許文献4で提案されている繊維は、導電層の密着性を高めるために界面活性剤及び/または高分子化合物を含む溶剤を塗布することが記載されており、その組成によってはポリアニリンが希釈されて導電性が低下する。また、ポリアニリン含有量を多くすることにより導電性を高めることはできるが、繊維との密着性が低下し、長期間使用するうちに、摩擦や洗濯等により、導電層が剥離してしまう。特許文献5で提案されている導電性繊維は、超臨界または亜臨界二酸化炭素流体を用いて製造されており、特殊な設備が必要である。特許文献6で提案されている繊維は、実質的に水と混和しない有機溶剤を用いるものであり、紡糸する際に、有機溶剤を取り除くための設備が必要であり、大量の有機溶剤を使用することによる環境への影響も大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−048243号公報
【特許文献2】特開平06−073249号公報
【特許文献3】特開2004−076176号公報
【特許文献4】特開平11−117178号公報
【特許文献5】特開2006−328610号公報
【特許文献6】特開2008−222893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、繊維としての柔軟性を維持しながら、優れた導電性を有する導電性繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.親水性繊維と、前記親水性繊維を内包する有機導電性被膜とを有し、
前記有機導電性被膜が、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸でドープされたポリアニリンのエメラルディン塩を含有し、
前記有機導電性被膜の固着量が、前記親水性繊維100重量部に対して、9重量部以上であることを特徴とする導電性繊維。
2.抵抗値が、1.0×10−1kΩ/cm以上1.0×10kΩ/cm以下であることを特徴とする1.に記載の導電性繊維。
3.前記親水性繊維がカルボキシル基を有することを特徴とする1.または2.に記載の導電性繊維。
4.前記親水性繊維が絹であることを特徴とする3.に記載の導電性繊維。
5.前記親水性繊維がヒドロキシル基を有することを特徴とする1.または2.に記載の導電性繊維。
6.前記親水性繊維が綿であることを特徴とする5.に記載の導電性繊維。
7.前記有機導電性被膜が、メタクレゾールを含むことを特徴とする1.〜6.のいずれかに記載の導電性繊維。
8.前記1.〜7.のいずれかに記載の導電性繊維を有する導電性布。
9.導電率が1.0×10−4S・cm以上3.0×10S・cm以下であることを特徴とする8.に記載の導電性布。
10.表面抵抗率が1.0−2Ω/sq.以上1.0×10Ω/sq.以下であることを特徴とする8.に記載の導電性布。
11.親水性繊維と、前記親水性繊維を内包する有機導電性被膜とを有し、
前記有機導電性被膜が、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸でドープされたポリアニリンのエメラルディン塩を含有し、
前記有機導電性被膜の固着量が、前記親水性繊維100重量部に対して、9重量部以上であることを特徴とする導電性繊維の製造方法であって、
アニリンの酸化重合を、前記親水性繊維の存在下、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸を含む酸性水溶液中で行うことを特徴とする導電性繊維の製造方法。
12.前記酸化重合が、
30度以上40度以下で行う第一段階と、5度以下で行う第二段階とを有することを特徴とする11.に記載の導電性繊維の製造方法。
13.前記親水性繊維が、カルボキシル基を有することを特徴とする12.に記載の導電性繊維の製造方法。
14.前記酸化重合が、
炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸の非存在下で行う第一段階と、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸の存在下で行う第二段階とを有することを特徴とする11.に記載の導電性繊維の製造方法。
15.前記親水性繊維が、ヒドロキシル基を有することを特徴とする14.に記載の導電性繊維の製造方法。
16.水、メタクレゾール、グリセリン、アニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤を含有する水系エマルションからなり、
前記メタクレゾールの含有率が40wt%以上60wt%以下であることを特徴とする導電性向上剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性繊維は、親水性繊維100重量部に対するポリアニリンのエメラルディン塩からなる有機導電性被膜の固着量が9重量部以上であり、従来報告されているものと比較して有機導電性被膜の固着量が多い。本発明の導電性繊維は、抵抗値が、1.0×10−1kΩ/cm以上1.0×10kΩ/cm以下であり、電気特性に優れている。本発明の導電性繊維は、導電率が1.0×10−4S・cm以上3.0×10S・cm以下、または、表面抵抗率が1.0−2Ω/sq.以上1.0×10Ω/sq.以下である布とすることができる。
本発明の導電性繊維において、有機導電性被膜は、親水性繊維から剥離しにくく、本発明の導電性繊維を長期間使用しても導電性が低下しにくい。本発明の導電性繊維は、親水性繊維の柔軟性を維持しており、糸としてだけでなく、ニット、織物等の布として利用することができる。本発明の導電性繊維を有する布は、通常の布と同様の手触り、柔らかさを備えている。そのため、本発明の導電性繊維を有する布からなる衣類は、着用者に硬さ、ゴワつき等を感じさせない。
本発明の導電性繊維は、静電気が防止できる衣類、スマートフォン等のタッチパネル操作が可能な手袋、電磁波シールド材料、発熱体、電子機器の製造現場で用いられる帯電防止能を有する帽子、靴、手袋、作業服等に用いることができる。さらに、ウェアラブルデバイスや生体センサ等と接続される高機能衣類とすることにより、ヘルスケア、介護分野、医療分野等に応用することができる。
【0008】
本発明の導電性繊維は、水系溶媒中で導電性被膜が形成される。また、導電率を向上させるメタクレゾール処理を水系で行うことができる。製造時、およびメタクレゾール処理時に使用する溶媒は水系であり、使用する有機溶媒量は少ない。そのため、有機溶媒の吸い込みによる作業員の健康被害、排水による環境汚染を抑えることができる。
本発明の導電性繊維は、親水性繊維の存在下の水系環境でアニリンを酸化重合させることにより製造される。染色業者は、水系で染色を行う設備を有するが、従来から有する設備に低温維持装置を付加するだけで本発明の導電性繊維を製造することができ、有機溶媒に対応した新たな設備が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の導電性繊維の断面模式図。
図2】ポリアニリンの各状態における化学構造式と物性を示す図。
図3】実施例1で製造した導電性繊維の光学顕微鏡画像。
図4】実施例3で製造した導電性繊維の光学顕微鏡画像。
図5】実施例1、3、比較例1、2で得られた導電性布の分光スペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に、本発明の導電性繊維の断面模式図を示す。
本発明の導電性繊維1は、親水性繊維2と、親水性繊維2を内包する有機導電性被膜3とを有する。有機導電性被膜3は、ポリアニリン、またはポリアニリン誘導体のエメラルディン塩を含有する。本発明の導電性繊維は、親水性繊維100重量部に対して、有機導電性被膜が9重量部以上固着している。本発明の導電性繊維は、有機導電性被膜が9重量部以上固着しているため、優れた電気特性を有し、抵抗値が、1.0×10−1kΩ/cm以上1.0×10kΩ/cm以下である。また、本発明の導電性繊維を含む布は、導電率が1.0×10−4S・cm以上3.0×10S・cm以下、あるいは、表面抵抗率が1.0−2Ω/sq.以上1.0×10Ω/sq.以下である。
【0011】
「親水性繊維」
本明細書において、親水性繊維とは、標準状態の水分率(20℃、65%RH)が8%を超える繊維を意味する。なお、標準状態の水分率は、JIS L 1013、JIS L 1015に規定される方法により測定することができる。
【0012】
親水性繊維は、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、スルホン酸基等の親水性基を分子中に有する繊維を意味する。親水性繊維としては、天然繊維、再生繊維、天然の植物繊維や動物性タンパク質繊維などを一旦溶解してから化学的に処理して繊維化した精製繊維などを利用することができる。また、親水性繊維は、その表面が親水性樹脂で構成されていればよく、疎水性樹脂の表面を親水化処理した樹脂や、内部が疎水性樹脂で構成された複合繊維などを用いることもできる。
【0013】
親水性繊維としては、カルボキシル基、またはヒドロキシル基を有するものが好ましい。カルボキシル基は、絹繊維(家蚕絹、野蚕絹)、獣毛繊維(羊毛、モヘア、カシミヤ、らくだ毛、アルパカ、ビキュナ、アンゴラなど)などの動物性タンパク質繊維などに含まれる。獣毛繊維は、親水性を高めるために、脱スケール処理を行うことが好ましい。ヒドロキシル基は、天然繊維では、種子毛繊維(綿、カポックなど)、靭皮繊維(麻、亜麻、苧麻、大麻、黄麻など)、葉脈繊維(マニラ麻、サイザル麻など)、やし繊維、いぐさ、わら等のセルロース系植物繊維、再生繊維では、セルロース系繊維(レーヨン、ポリノジック、キュプラ、アセテートなど)、精製セルロース繊維(テンセル、リヨセルなど)に含まれる。これらの中で、特に有機導電性被膜の形成性に優れ、導電性を高くすることのできるため、絹、または綿が好ましい。
【0014】
「有機導電性被膜」
有機導電性被膜は、ポリアニリンのエメラルディン塩を含有する。本発明のポリアニリンを重合するためのモノマーとしては、アニリンのみならず、アニリン誘導体を用いることができる。アニリン誘導体としては、塩酸塩の状態で水に溶解するものであれば特に制限することなく使用することができ、例えば、o−トルイジン、m−トルイジン、o−エチルアニリン、m−エチルアニリン、o−エトキシアニリン、m−ブチルアニリン、m−ヘキシルアニリン、m−オクチルアニリン、2,3−ジメチルアニリン、2,5−ジメチルアニリン、2,5−ジメトキシアニリン、o−シアノアニリン、2,5−ジクロロアニリン、2−ブロモアニリン、5−クロロ−2−メトキシアニリン、3−フェノキシアニリン等が挙げられる。
【0015】
ポリアニリンは、その酸化状態により、ロイコエメラルディン(無色〜黄色、絶縁性)、エメラルディン(青色、絶縁性)、パーニグラニリン(黒色〜紫色、絶縁性)の3種類の構造を有する。また、エメラルディンとパーニグラニリンは、プロトン酸によりドープされ、パーニグラニリン塩(青色、絶縁性)、エメラルディン塩(緑色、導電性)となる。ポリアニリンの各状態における化学構造式と物性を、図2に示す。ポリアニリンは、それ自体は絶縁性であるが、エメラルディン塩は、ドープされることにより導電性が向上し、3.0×10S/cm程度の導電率を有する。
【0016】
エメラルディンにドープされるドーパントとしては、塩酸、硫酸、硝酸等のプロトン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸等のカルボン酸化合物、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、カンファースルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等のスルホン酸化合物等が知られている。本発明は、ドーパントとして、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸を用いる。ドーパントとして、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸を用いることにより、本発明の導電性繊維は、優れた電気特性を示す。炭素数10以上のアルキル基は、直鎖、分岐鎖、環状のいずれを用いることができる。炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸としては、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、デシルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、カンファースルホン酸等が挙げられる。
【0017】
「導電性繊維」
本発明の導電性繊維は、親水性繊維と、この親水性繊維を内包する有機導電性被膜とを有する。下記で詳述するが、本発明の導電性繊維は、親水性繊維の存在下でポリアニリンの酸化重合を行うことにより得られる。アニリンは、親水性繊維表面で重合反応が進行するため、ポリアニリンは親水性繊維表面に固着して親水性繊維を鞘状に覆い、有機導電性被膜を形成する。
【0018】
ポリアニリンのエメラルディン塩は、水やアルコール等の汎用溶媒に不溶であるが、ドデシルベンゼンスルホン酸でドープされたエメラルディン塩はトルエンに溶解する。本発明の導電性繊維は、トルエンで洗浄しても有機導電性被膜が溶解せず、有機導電性被膜は、親水性繊維に対して強固に固着している。そのため、本発明の導電性繊維を長期間使用しても、有機導電性被膜は親水性繊維から剥離しない。なお、下記製造方法で詳述するが、親水性繊維と有機導電性被膜との結合は、親水性繊維がカルボキシル基を有する場合は、主にカルボキシル基とエメラルディン塩のカチオンとのイオン結合、親水性繊維がヒドロキシル基を有する場合は、主にファンデルワールス力によると推測される。
【0019】
本発明の導電性繊維は、親水性繊維100重量部に対して、有機導電性被膜が9重量部以上固着している。有機導電性皮膜の固着量は、使用モノマー量を増やしたり、アニリンの重合工程を繰り返すことにより、増やすことができる。本発明の導電性繊維は、有機導電性被膜の固着量により、抵抗値を、1.0×10−1kΩ/cm以上1.0×10kΩ/cm以下の範囲で制御することができる。また、この導電性繊維を含む布は、導電率が1.0×10−4S・cm以上3.0×10S・cm以下、あるいは表面抵抗率が1.0−2Ω/sq.以上1.0×10Ω/sq.以下の範囲となる。固着量が多いほど、導電率は大きくなるため、求める導電率にあわせて調整する。
ここで、本明細書において、抵抗値は、導電性繊維の10cmの長さで測定した値であり、導電率、表面抵抗率は、導電性繊維を含む布を四端針法で測定した値である。
【0020】
「導電性向上剤」
ポリアニリンのエメラルディン塩は、メタクレゾール処理を行うことにより、導電率が向上することが知られている。通常、メタクレゾール処理は、エメラルディン塩のトルエン溶液に、メタクレゾールを10wt%程度溶解させることにより行う。本発明の導電性繊維は、エメラルディン塩からなる有機導電性被膜を有するが、この有機導電性被膜は、固体であり、上記した方法でメタクレゾール処理を行うことはできない。
水、メタクレゾール、グリセリン、界面活性剤を含有する水系エマルションからなり、メタクレゾールの含有率が40wt%以上60wt%以下である導電性向上剤を用いることにより、本発明の導電性繊維にメタクレゾール処理を行うことができ、導電性を1桁程度向上することができる。
【0021】
メタクレゾールの含有率が40wt%より小さいと、導電率を向上させる効果が十分でなく、60wt%より多いと、エマルションの安定性が低下する。メタクレゾールの含有率は、45wt%以上55wt%以下がより好ましく、47wt%以上53wt%以下がさらに好ましい。
グリセリンは、水とともにエマルションの水相を形成する。本発明の導電性繊維は、親水性繊維を有するため、水との親和性が高い。水相がグリセリンを含むことにより、導電性繊維がエマルションから水を吸収してエマルションが崩壊するデマルションを防止することができる。グリセリンは、水相100重量部に対して、10重量部以上25重量部以下含有させることが好ましく、12重量部以上23重量部以下含有させることがより好ましく、13wt%以上21wt%以下含有させることがさらに好ましい。
【0022】
界面活性剤は、エマルションを形成するためのものである。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを用いる。界面活性剤は、水相100重量部に対して8重量部以上20重量部以下含有することが好ましく、10重量部以上15重量部以下含有することが好ましい。また、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤との重量比は、1:0.8以上1:1.6以下が好ましい。アニオン性界面活性剤としては、エメラルディン塩のドーパントでもある炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸を好適に利用することができる。非イオン性界面活性剤としては、HLB値が12以上14以下のものが好ましく、HLB値が12.5以上13.4未満のものがさらに好ましい。非イオン性界面活性剤として、例えば、第一工業製薬株式会社製、商品名「ノイゲン HC」、「ノイゲン EA−137」等を利用できる。
【0023】
「製造方法」
本発明の導電性繊維は、親水性繊維の存在下で、アニリン塩酸塩またはアニリン誘導体の塩酸塩のいずれか、または両方を、ドデシルベンゼンスルホン酸を含む酸性水溶液中で酸化重合を行うことにより製造することができる。導電性繊維の製造方法は、カルボキシル基を有する親水性繊維と、ヒドロキシル基を有する親水性繊維とで、好適な製造方法が異なる。
【0024】
「第一の製造方法」
第一の製造方法は、カルボキシル基を有する親水性繊維に適した方法である。
第一の製造方法は、アニリンの重合反応を30℃以上40℃以下で行う第一段階と、5℃以下で行う第二段階とを有する。
なお、ヒドロキシル基を有する親水性繊維は、下記第二の製造方法が望ましいが、第一の製造方法の適用も可能である。
【0025】
「第一段階」
第一段階は、カルボキシル基を有する親水性繊維の存在下で、アニリンの重合反応を、30℃以上40℃以下の温度で行う。
通常、アニリンの重合反応は、ポリアニリンの分岐による導電率の低下を防ぐために、5℃以下の温度で行われる。それに対し、第一の製造方法は、第一段階において30℃以上40℃以下の温度でアニリンの重合反応を行うことを特徴とする。30℃以上40℃以下の高温で重合反応を行うことにより、合成により生じたエメラルディンが親水性繊維のカルボキシル基をプロトン酸としてエメラルディン塩となり、親水性繊維の表面に固着する。反応温度が30℃未満では、合成により生じたエメラルディンは、親水性繊維表面に固着しない。これは、エメラルディンの親水性繊維表面への固着が、吸熱反応であるためと推測される。反応温度が40℃より高いと、ポリアニリンの分岐が増えることにより、電気特性が低下する。反応温度が低いほど、ポリアニリンの固着量が増加し、優れた電気特性を有する導電性繊維を製造することができる。
第一段階の処理時間は、30分以上120分以下である。30分未満では、親水性繊維表面へのポリアニリンの固着が十分でなく、120分より長いと、ポリアニリンが分岐して電気特性が低下する。反応温度が高いほど、処理時間を短くすることができる。
【0026】
第一段階の合成反応は、カルボキシル基を有する親水性繊維を、アニリン(誘導体)塩酸塩と、ドーパントである炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸と、酸化剤と含む反応液に浸した状態で行う。また、撹拌しながら行うことが好ましい。
反応液は、親水性繊維1重量部に対して80重量部以上100重量部以下とすることが望ましい。また、反応液中のアニリン塩酸塩の濃度は、0.8g/L以上1.0g/L以下が好ましい。アニリン塩酸塩の濃度が0.8g/L未満では繊維表面にポリアニリンが十分に固着せず、1.0g/Lより高いと液中での重合反応が盛んとなり、繊維表面への固着が減少する。アニリン(誘導体)塩酸塩とドーパントとのモル比は、40:60以上60:40以下が好ましく、50:50がより好ましい。アニリン(誘導体)塩酸塩とドーパントのモル比が、50:50に近いほど、エメラルディン塩が生成しやすい。
【0027】
酸化剤の種類としては特に制限されず、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、五フッ化ヒ素もしくは塩化アルミニウム等の金属ハロゲン化物、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、過硫酸、過硫酸アンモニウムもしくは過硫酸カリウム等の過硫酸またはその塩、過よう素酸、過塩素酸カリウムもしくは過塩素酸アンモニウム等の過ハロゲン酸またはその塩、過マンガン酸カリウム、重クロム酸アンモニウム等の遷移金属化合物、あるいは酸素、オゾン等があげられ、これらは単独または混合して用いられる。酸化剤については、その酸化還元電位により、適正量が異なるが、例えば、過硫酸カリウムの量は、アニリン(誘導体)塩酸塩に対して1.5当量以上2.5当量以下であることが、親水性繊維への固着量の点から好ましく、2当量以上2.3当量以下であることがより好ましい。
【0028】
「第二段階」
第二段階は、第一段階終了後のカルボキシル基を有する親水性繊維を、蒸留水で洗浄、軽く脱水した後、新たな反応液を用いてアニリンの重合反応を5度以下の温度で行う。
第二段階の処理時間は、求める電気特性に応じて適宜、調整することができる。第二段階の処理時間が長いほど、固着量が増え、電気特性が向上する。
【0029】
第二段階の重合反応は、第一段階で使用した反応液とは別の新たな反応液を使用して行う。これは、第一段階終了後の反応液中に溶解している親水性繊維に吸着していないオリゴマーを取り除くためである。反応液中に溶解しているオリゴマーは、親水性繊維に吸着しているオリゴマーと比較して反応性に優れるため、反応液中にオリゴマーが存在すると、液中での重合が優先的に進行して、親水性繊維表面での重合が進行しにくい。
第二段階は、開始時の反応液中に開始点となるオリゴマーが存在しないため、親水性繊維表面に固着しているポリアニリン末端を開始点として重合反応が進行する。親水性繊維表面のポリアニリンを伸長させることにより、ポリアニリンの固着量を多くすることができる。第二段階の反応液は、第一段階と同様のものを使用することができるが、アニリン塩酸塩の濃度は、1.0g/L以上2.5g/L以下が好ましい。
【0030】
第二段階は、親水性繊維を洗浄、脱水し、反応液を交換することにより、複数回繰り返し行うこともできる。第二段階を繰り返し行うことにより、ポリアニリンの固着量を増やすことができる。
上記した第一の製造方法により、エメラルディン塩の色に由来する暗緑色を有する親水性繊維を製造することができる。
【0031】
「第二の製造方法」
第二の製造方法は、ヒドロキシル基を有する親水性繊維に適した方法である。
第二の製造方法は、アニリンの重合反応を炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸の非存在下で行う第一段階と、炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸の存在下で行う第二段階とを有する。
なお、カルボキシル基を有する親水性繊維は、上記第一の製造方法が望ましいが、下記第二の製造方法の適用も可能である。
【0032】
「第一段階」
第一段階は、ヒドロキシル基を有する親水性繊維の存在下で、アニリンの重合反応を、ドーパントである炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸を添加せずに、5℃以下の温度で行う。
第一段階の処理時間は、30分以上90分以下であり、40分以上80分以下が好ましく、50分以上70分以下がより好ましく、55分以上65分以下がさらに好ましく、60分が最も好ましい。処理時間が30分未満であっても、90分より長くても、固着量が低下し、電気特性に優れた繊維が得られない。
第一段階の合成反応は、ヒドロキシル基を有する親水性繊維を、アニリン(誘導体)塩酸塩と、酸化剤とを含み、ドーパントを含まない反応液に浸した状態で行う。反応液は、親水性繊維1重量部に対して55重量部以上75重量部以下とすることが望ましい。反応液中のアニリン塩酸塩の濃度は、2.5g/L以下が好ましい。アニリン塩酸塩の濃度が2.5g/Lより高いと、反応液中でのポリアニリンの重合が盛んとなり、親水性繊維に固着する量が低下する。
【0033】
酸化剤の種類としては特に制限されず、塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、五フッ化ヒ素もしくは塩化アルミニウム等の金属ハロゲン化物、過酸化水素、過酸化ベンゾイル等の過酸化物、過硫酸、過硫酸アンモニウムもしくは過硫酸カリウム等の過硫酸またはその塩、過よう素酸、過塩素酸カリウムもしくは過塩素酸アンモニウム等の過ハロゲン酸またはその塩、過マンガン酸カリウム、重クロム酸アンモニウム等の遷移金属化合物、あるいは酸素、オゾン等があげられ、これらは単独または混合して用いられる。酸化剤については、その酸化還元電位により、適正量が異なるが、例えば、過硫酸カリウムの量は、アニリン(誘導体)塩酸塩に対して1.5当量以上2.5当量以下であることが、親水性繊維への固着量の点から好ましく、2当量以上2.3当量以下であることがより好ましい。
【0034】
ここで、アニリンの重合は、フェナジン骨格を含むオリゴマーができ、そこからポリマー鎖が成長するといわれている(Sapurina,I.& Stejskal,J.(2008) Review Polym.Int.57,1295−1325)。フェナジン骨格を含むオリゴマーは、共役性が高く、その分子構造は平面的である。しかし、ドーパントの存在下でアニリンの重合を行うと、オリゴマーは、プロトンドープされてエメラルディン塩となる。エメラルディン塩は、共役性が低く、分子構造は螺旋状に捻れており、平面的ではない。
【0035】
第一段階では、ドーパントを添加せずにポリアニリンの合成を行うことにより、分子構造が平面的なフェナジン骨格を含む二量体、四量体等の初期生成物が生じ、この初期生成物がファンデルワールス力により、ヒドロキシル基を有する親水性繊維に吸着する。これは、分子構造が平面的な化合物である直接染料が綿に吸着し、綿を染色する原理と同一である。
【0036】
「第二段階」
次いで、第二段階として、ドーパントである炭素数10以上のアルキル基を有するスルホン酸を添加する。第二段階は、第一段階の反応液にドーパントを添加するだけで行うことができる。ドーパントは、アニリン(誘導体)塩酸塩に対して、アニリン(誘導体)塩酸塩とドーパントとのモル比が、40:60以上60:40以下となるように添加する。上記第一の製造方法と同様に、アニリン塩酸塩とドーパントとのモル比は、50:50がより好ましい。また、ドーパントを添加した後の最終的な反応液は、親水性繊維1重量部に対して80重量部以上100重量部以下であることが望ましい。
第二段階は、ドーパントの存在下で、親水性繊維表面に吸着しているポリアニリン末端を開始点として重合反応が進行することにより、ポリアニリンのエメラルディン塩が合成される。
【0037】
反応段階を観察すると、第一段階終了時の反応液は無色であり、親水性繊維は紺色である。その後、第二段階終了時の反応液は暗緑色で粘性を有し、親水性繊維は暗緑色である。これは、第一段階で二量体、四量体を含む低重合度のエメラルディンが繊維に固着し、第二段階でドーパントを加えて重合することにより、エメラルディン塩が付加成長するためである。
【0038】
上記したポリアニリンの製造方法において、導電性繊維は、糸、または、ニット、織物等の布の状態で用いることができる。
また、上記した第一の製造方法、第二の製造方法は、それぞれカルボキシル基を有する親水性繊維、ヒドロキシル基を有する親水性繊維に適した方法であるが、第一、第二の製造方法を、それぞれヒドロキシル基を有する親水性繊維、カルボキシル基を有する親水性繊維に適用することもできる。これにより得られる導電性繊維は、それぞれに適した方法で得られる導電性繊維と比較して、電気特性が多少劣るが、従来報告されているものと比較して、優れた電気特性を有する。
【0039】
「ポリアニリンの増量付加反応」
第一の製造方法あるいは第二の製造方法で作成した導電性繊維を洗浄、脱水した後、新たな反応液を使用して重合反応を継続することができる。洗浄、脱水、反応液の入れ替え操作は、反応溶液中に溶解しているオリゴマーやポリアニリンを取り除くためである。
新しい反応溶液には、液中に開始点となるオリゴマーやポリアニリンが存在しないため、親水性繊維表面に固着しているポリアニリン末端を開始点として重合反応が進行する。親水性繊維表面のポリアニリンを伸長させることにより、ポリアニリンの固着量をさらに増やすことができる。
【0040】
「導電性向上剤によるメタクレゾール処理」
上記した製造方法により得られる導電性繊維に、本発明の導電性向上剤によるメタクレゾール処理を行うことにより、導電率を1桁程度、すなわち、約10倍程度高くすることができる。
【0041】
本発明の導電性向上剤は、水系エマルションであるため、メタクレゾールが揮発しにくい水系でメタクレゾール処理を行うことができる。
本発明の導電性向上剤によるメタクレゾール処理は、導電性繊維を、導電性向上剤に含浸させることにより行う。本発明の導電性向上剤は、親水性繊維を含む導電性繊維を含浸してもデマルションしない。十分に含浸させた後、導電性繊維を絞って軽く脱水する。このとき、あまり絞りすぎるとデマルションを起こすため、絞り率100%以上とする。この導電性繊維を乾燥すると、エマルションから水分が蒸発してデマルションが起き、メタクレゾールと有機導電性被膜とが接触することにより、メタクレゾール処理を行うことができる。
導電性向上剤は、処理工程を通じてエマルションが安定しており、均一なメタクレゾール処理を行うことができる。また、乾燥工程を除いて、メタクレゾールの揮発が無く、水系環境下で作業を行うことができ、作業環境の悪化を防ぐことができる。
【0042】
「電気特性の評価」
本発明の導電性繊維を有する布(以下、導電性布という。)の電気特性は、抵抗率計により四端針法で測定し、導電率(S・cm)と表面抵抗率(Ω/sq.)で評価する。
導電率(S・cm)は、金属など均一な物質の評価に適した方法である。導電性布における導電率の測定は、不導体である親水性繊維を含めた導電性布全体の導電性を評価しており、布の厚さの影響を受ける傾向があるが、材料評価として使用した。
表面抵抗率(Ω/sq.)は、めっき製品の電気特性を評価するのに使用される。表面抵抗率は、布の厚さによる影響を受けないため、素材や組織の異なる導電性布の相互を比較する評価として使用した。
【実施例】
【0043】
実験1:第一の製造方法
「実施例1」
第一段階
アニリン塩酸塩水溶液(10g/L)10ml、塩酸(42ml/L)5ml、ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(25.1g/L)10mlを混合し、さらに過硫酸カリウム水溶液(24g/L)を10ml加え、蒸留水で100mlとした。この反応液を、予め濡らした1gの絹布(株式会社田中直染料店製、商品名:変りちりめん)とともに、ポリプロピレン製の200ml容反応容器に入れ、蓋をした。
この反応容器を、水を張った試験瓶に入れて蓋をし、洗濯試験機(株式会社大栄科学精器製作所製、装置名:ラウンダーメーターL−20Z−T、JIS 0844に準拠)を用いて、30℃、2時間、攪拌した。その後、反応容器から絹布を取り出し、水洗、脱水を行った。
【0044】
第二段階
アニリン塩酸塩水溶液(10g/L)15ml、塩酸(42ml/L)5ml、ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(25.1g/L)15mlを混合し、さらに過硫酸カリウム水溶液(24g/L)を15ml加え、蒸留水で100mlとした。この反応液を、上記第一段階で脱水した絹布とともにポリプロピレン製の200ml容反応容器に入れ、蓋をした。
上記洗濯試験機を用いて、5℃以下、22時間、撹拌した。反応終了後、絹布を湯洗い、水洗し、乾燥した。
乾燥後の絹布を、トルエンを用いたソックスレー抽出により洗浄した後、乾燥し、暗緑色の絹布である導電性布1を得た。
【0045】
「実施例2」
綿布(一般財団法人 日本規格協会 商品名:試験用添付白布綿 カナキン3号)を用いた以外は、実施例1と同様にして、暗緑色の綿布である導電性布2を得た。
【0046】
「比較例1」
アニリン塩酸塩水溶液(10g/L)25ml、塩酸(42ml/L)5ml、ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(25.1g/L)25ml、過硫酸カリウム水溶液(24g/L)25mlを混合し、蒸留水で100mlとした。この反応液を、予め濡らした1gの絹布(変りちりめん)とともに、ポリプロピレン製の200ml容反応容器に入れ、蓋をした。
この反応容器を、実施例1と同様にして、5℃以下、24時間撹拌した。反応終了後は実施例1の後処理と同じ処理を施して、導電性布3を得た。得られた導電性布3は、淡黄緑色であり、また、均一ではなく斑に着色していた。
【0047】
実験2:第二の製造方法
「実施例3」
第一段階
アニリン塩酸塩水溶液(10g/L)25ml、塩酸(42ml/L)5ml、過硫酸カリウム水溶液(24g/L)25mlを混合し、蒸留水で75mlとした。この反応液を、予め濡らした1gの綿布(試験用添付白布綿 カナキン3号)とともに、ポリプロピレン製の200ml容反応容器に入れ、蓋をした。
この反応容器を、水を張った試験瓶に入れて蓋をし、洗濯試験機を用いて5℃以下、1時間、攪拌した。
【0048】
第二段階
反応容器にドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(25.1g/L)25mlを加えた後、第一段階と同様にして、23時間撹拌した。反応終了後、綿布を湯洗い、水洗、乾燥した。
乾燥後の綿布を、トルエンを用いたソックスレー抽出により洗浄した後、乾燥し、暗緑色の綿布からなる導電性布4を得た。
【0049】
「実施例4」
絹布(変りちりめん)を用いた以外は、実施例3と同様にして、青緑色の絹布である導電性布5を得た。
【0050】
「比較例2」
アニリン塩酸塩水溶液(10g/L)25ml、塩酸(42ml/L)5ml、ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(25.1g/L)25ml、過硫酸カリウム水溶液(24g/L)25mlを混合し、蒸留水で100mlとした。この反応液を、予め濡らした1gの綿布(試験用添付白布綿 カナキン3号)とともに、ポリプロピレン製の200ml容反応容器に入れ、蓋をした。
この反応容器を、実施例3と同様にして、5℃以下、24時間撹拌した。反応終了後は、実施例3と同じ後処理を施して、導電性布6を得た。得られた導電性布6は、淡青緑色であり、また、均一ではなく斑に着色していた。
【0051】
実施例1〜4、比較例1、2で得られた導電性布1〜6について、絶乾重量と初期重量から固着量を求めた。
また、得られた導電性布1〜6の厚さを、恒温恒湿室で自動化圧縮試験機(カト−テック株式会社製、装置名:KES−FB3−A)を使用し、圧縮加重を24.5kPa(250gf/cm)として測定した。測定は任意の5箇所で行い、平均値を厚さとした。
更に、抵抗率計(三菱化学株式会社製、装置名:ロレスタGP MCP−T600)を用いて、JIS K 7194に準拠した方法で、四端針法による導電率及び表面抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【表1】
【0052】
本発明の製造方法により、絹、綿ともに、ポリアニリンの固着量が9.0重量部以上である導電性繊維を製造することができた。
実施例1、2と比較例1で得られた導電性布を比べると、固着量、厚み、導電率ともに、実施例1で得られた導電性布が優れており、第一の製造方法がカルボキシル基を有する絹に適したものであることが示された。
比較例1で得られた導電性布の固着量は、導電率に比して大きな値となっている。絹は、アミノ基とカルボキシル基を有する蛋白繊維であり、アミノ基にドデシルベンゼンスルホン酸をはじめとする反応に使用したアニオン物質が吸着し、ポリアニリンにドープして固着したものと、絹の蛋白質に吸着したものとが区別できないため、見かけの固着量が大きくなったと推測される。
【0053】
実施例3、4と比較例2では、比較例2で得られた導電性布は導電性を示さなかったのに対し、実施例3、4で得られた導電性布は導電性を示した。特に、実施例3で得られた導電性布は、固着量、布厚、導電率ともに優れており、第二の製造方法がヒドロキシル基を有する綿に適したものであることが示された。
実施例1と実施例3で得られた導電性布の固着量と表面抵抗率を比較すると、実施例1のほうが固着量が高く、表面抵抗率が低くなっている。このことからカルボキシル基を有する親水性繊維の方が、電気特性に優れた導電性繊維を得やすいと考えられる。
【0054】
実施例1、3で得られた導電性布から、繊維を取り出し、繊維の側面と断面とを光学顕微鏡で観察した。それぞれの光学顕微鏡画像を図3、4に示す。
綿、絹とも、エメラルディン塩に由来する緑色の着色が確認できた。また、その断面画像からは、親水性繊維内部は着色しておらず、ポリアニリンのエメラルディン塩が、鞘状に親水性繊維を覆っていることが確認できた。
【0055】
「導電性布の色彩」
作成した導電性布1〜6を、分光色彩計(日本電色工業株式会社製、装置名:SD6000)で測定した。各導電性布の色彩(L*a*b*)を表2に示す。また、実施例1、3、比較例1、2で得られた導電性布の分光スペクトルを図5に示す。図5における縦軸は、表面染着濃度K/S(Kubelka−Munk式)は、分光反射率を濃度と比例する値に変換したものであり、下記式で表される値である。
K/S=(1−Rλ/2Rλ
但し、Rλ:分光反射率(0<R≦1)
【0056】
実施例1と実施例3の色彩は暗緑色であり、色彩に大きな相違は見られなかったが、実施例1、3と比較例1、比較例2とはそれぞれ相互に異なる色彩であった。
実施例1、3は、エメラルディン塩の存在比が高く、比較例1はエメラルディン塩の存在比が低いため、緑色の濃さに違いが生じたと考えられる。比較例2は、エメラルディンとエメラルディン塩とに基づく混色により青緑となったと考えられる。
【表2】
【0057】
実験3:カルボキシル基を有する導電性繊維へのポリアニリンの増量付加反応
「実施例1−2」
実施例1と同様にして、導電性布7−1を得た。
【0058】
「実施例5」
アニリン塩酸塩水溶液(10g/L)25ml、塩酸(42ml/L)5ml、ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(25.1g/L)25ml、過硫酸カリウム水溶液(24g/L)25mlを混合し、蒸留水で100mlとした反応液を、予め濡らした導電性布7−1とともにポリプロピレン製の200ml容反応容器に入れ、蓋をした。
この反応容器を、水を張った試験瓶に入れて蓋をし、洗濯試験機を用いて5℃以下、24時間、攪拌した。反応終了後、絹布を湯洗い、水洗、乾燥した。乾燥後の絹布を、トルエンを用いたソックスレー抽出により洗浄した後、乾燥し、暗緑色の絹布からなる導電性布7−2を得た。
【0059】
「実施例6」
導電性布7−2を用いた以外は、実施例5と同様にして、暗緑色の絹布からなる導電性布7−3を得た。
実施例5、6は、実施例1−2で得られた導電性布に対し、引き続き比較例1の処理を、それぞれ1回、2回施したものである。
【0060】
実験4:ヒドロキシル基を有する導電性繊維へのポリアニリンの増量付加反応
「実施例3−2」
実施例3と同様にして、導電性布8−1を得た。
【0061】
「実施例7」
アニリン塩酸塩水溶液(10g/L)25ml、塩酸(42ml/L)5ml、ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液(25.1g/L)25ml、過硫酸カリウム水溶液(24g/L)25mlを混合し、蒸留水で100mlとした反応液を、予め濡らした導電性布8−1とともにポリプロピレン製の200ml容反応容器に入れ、蓋をした。
この反応容器を、水を張った試験瓶に入れて蓋をし、洗濯試験機を用いて5℃以下、24時間、攪拌した。反応終了後、綿布を湯洗い、水洗、乾燥した。乾燥後の綿布を、トルエンを用いたソックスレー抽出により洗浄した後、乾燥し、暗緑色の綿布からなる導電性布8−2を得た。
【0062】
「実施例8」
導電性布8−2を用いた以外は、実施例7と同様にして、暗緑色の綿布からなる導電性布8−3を得た。
実施例7、8は、実施例3−2で得られた導電性布に対し、引き続き比較例2の処理を、それぞれ1回、2回施したものである。
【0063】
固着量の測定結果を表3に示す。
【表3】
【0064】
表3より、反応液を交換して液中に溶解した反応点を取り除いた状態で重合反応を進行することにより、固着量を著しく増加できることが確かめられた。これは、絹にポリアニリンを固着させた実施例1と同様に、繊維表面に固着したポリアニリン末端が開始点となり、重合反応が進行したためであると推測される。導電率は、固着量と比例するため、液中から開始点を取り除き、繊維表面に固着した開始点を起点として重合反応を行うことにより、アニリン固着量と導電率を制御することができることが確かめられた。
【0065】
実験5:導電性向上剤
下記表4に示す重量比で各成分を配合し、導電性向上剤A〜Hとした。
導電性向上剤の保存安定性と、加工安定性とを下記基準で評価した。評価結果を表4に示す。
保存安定性 ○:1ヶ月以上安定
△:1ヶ月以内に分離
×:1週間以内に分離
加工安定性 ○:繊維布浸漬に乳化維持
×:繊維布浸漬時に分離
【表4】
【0066】
グリセリンを含まない導電性向上剤A〜Dは、加工時の安定性に劣り、親水性繊維を浸漬した際にエマルションが崩壊した。非イオン性界面活性剤を含まない導電性向上剤Gは、保存安定性に劣っていた。アニオン性界面活性剤を含まない導電性向上剤Hは、エマルションを形成できなかった。
グリセリン、アニオン性界面活性剤、非イオン製活性剤を含む導電性向上剤E、Fが、保存安定性と加工安定性に優れていた。
【0067】
実験6:導電性向上剤による導電性繊維の処理
「実施例9」
実施例1と同様にして、固着量が32.7重量部で厚さが0.56mmである絹からなる導電性布9を得た。
この導電性布9を、2.6mlの上記導電性向上剤Fに含浸させた。
導電性布9を、導電性向上剤に浸漬し、マングルにて絞り率100%で絞る操作を二回繰り返した。
絞った後の絹織物を、80℃に設定した排気処理装置付乾燥機で30分間乾燥し、湯洗い、水洗、乾燥することにより、メタクレゾール処理を行った。
【0068】
「実施例10」
上記実施例3で得た綿からなる導電性布4(固着量19.3重量部、厚さ0.15mm)を用いた以外は、実施例9と同様にしてメタクレゾール処理を行った。
導電性布9、4の、メタクレゾール処理前後の導電率の測定結果を表5に示す。
【表5】
メタクレゾール処理の効果は、実施例9(固着量32.7重量部)のほうが、実施例10(固着量19.3重量部)よりも高く、処理後の導電率は30倍以上となった。メタクレゾールは、ポリアニリンに作用して導電率を向上させるため、ポリアニリンの固着量の高い実施例9のほうが処理効果が強く出たものと考えられる。
【0069】
実験7:導電性繊維の電気特性
上記実験6と同様に導電性向上剤Fによるメタクレゾール処理を行った絹、または綿からなる導電性布から、一本の繊維を取り出し、この導電性繊維の抵抗値を測定した。
測定は、絶縁板上に、導電性繊維を緩みがないように、銅テープを用いて10cm間隔で2箇所固定し、この銅テープ間の抵抗値を、工業用デジタル・マルチテスター(Fluke Corporation製、装置名:Fluke87V)で測定して行った。測定結果を表6に示す。
【表6】
【0070】
絹、綿ともに、固着率が大きくなるほど、繊維状態での抵抗値が小さくなる傾向が確かめられ、布の状態での電気特性の傾向とも一致した。実験7で使用した導電性繊維は、いずれもメタクレゾール処理を行っている。メタクレゾール処理を行う前の導電性繊維は、抵抗値が1桁程度高かったものと推測される。
【符号の説明】
【0071】
1 導電性繊維
2 親水性繊維
3 有機導電性被膜
図1
図2
図3
図4
図5