(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リム部には、前記第1吐水口から吐き出される洗浄水を第1棚部で受けて導水するための第1リム導水路と、前記第2吐水口から吐き出される洗浄水を第2棚部で受けて導水するための第2リム導水路と、が形成され、
前記第1リム導水路の終端部は、前記第2吐水口に洗浄水を供給するための通水路の下流端部に対して前記便鉢部の径方向内側に設けられ、
前記第1リム導水路の終端部の少なくとも一部は、前記第2リム導水路の始端部より平面視での内周面の曲率半径が小さくなるように形成される請求項1に記載の水洗大便器。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態、変形例では、同一の構成要素に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、各図面では、説明の便宜のため、構成要素の一部を適宜省略したり、構成要素の寸法を適宜拡大、縮小して示す。以下、共通点の多い別々の構成要素には、名称の冒頭に「第1、第2、第3」又は「左側、右側」等と付し、符号の末尾に「(A)、(B)、(C)」又は「(L)、(R)」等と付すことで区別し、総称するときはこれらを省略する。
【0010】
図1は、本実施形態の水洗大便器10の便器本体12の側面断面図である。
図2は、便器本体12の平面断面図である。
水洗大便器10は、陶器、樹脂等を素材とする便器本体12を備える。便器本体12は、平面視において、左右方向に沿った左右寸法より、前後方向に沿った前後寸法が大きくなるように形成される。便器本体12の上方には、図示しないが、局部洗浄装置等の温水洗浄用装置を収めたケーシングや、ケーシングに上下に回動可能に支持される便蓋及び便座が配置される。便器本体12は、便鉢部14と、排水通路部16と、リム部18と、吐水部20と、を備える。
【0011】
便鉢部14は、便器本体12の前部に形成される。便鉢部14は、汚物を受けるための鉢状の受け面部22と、受け面部22の下縁部から下方に窪むとともに便鉢部14の底部に形成される凹部24と、を備える。受け面部22は、平面視において、左右寸法より前後寸法が大きくなるような楕円状に形成される。受け面部22は、鉢中心側に向けて下り勾配で傾斜するように形成される。凹部24は有底状をなし、その底面部には排水通路部16の入口16aが開口する。
【0012】
排水通路部16は、便鉢部14の底部に接続される。排水通路部16は、便鉢部14内から下水側水路(不図示)に排出される汚物の通り道となる。排水通路部16は、通水方向の空気の流れを遮断するための封水26が溜められるトラップ部28を備える。封水26の一部は便鉢部14の凹部24内に溜められる。
【0013】
リム部18は、便鉢部14の上端開口14aの周縁部を形成する。リム部18は、内周壁部18aと、上壁部18bとを有する。内周壁部18aは、便鉢部14の内周壁部の上端部を形成するとともに受け面部22の上縁部に接続される。内周壁部18aには後述する吐水口30やリム導水路44が形成される。上壁部18bは、便鉢部14の上端開口14aから便器本体12の左右両側及び前後両側に延びる。
【0014】
本実施形態の水洗大便器10は、次に説明する左右中心線La、前後中心線Lbとの関係で、各構成要素の位置関係が設定されている。
図3は、便器本体12の左右中心線Laと、便鉢部14の前後中心線Lbとを説明するための図である。便器本体12の左右中心線Laとは、平面視において、便器本体12の外面部分の左右寸法Lxを二等分して前後方向に沿って延びる直線をいう。詳しくは、平面視において、便器本体12の外面部分の左端12Lから右端12Rまでの最大となる左右寸法Lxを二等分する直線が左右中心線Laとなる。また、便鉢部14の前後中心線Lbとは、平面視において、便鉢部14の内面部分の前後寸法Lyを二等分して左右方向に沿って延びる直線をいう。詳しくは、平面視において、便鉢部14の内面部分の前端14Fから後端14Rまでの最大となる前後寸法Lyを二等分する直線が前後中心線Lbとなる。この左右中心線Laと前後中心線Lbとの交点は便鉢部14の中心点Cpとなる。
【0015】
図2に示すように、吐水部20は、便鉢部14内に洗浄水を吐き出すためのものである。吐水部20は、複数の吐水口30と、二つの通水路32とを有する。複数の吐水口30はリム部18の内周壁部18aに形成される。本実施形態では三つの吐水口30が形成される。複数の吐水口30からは、リム部18の内周壁部18aの内周面に沿って、便鉢部14の周方向の一方側(図中の反時計回り方向。以下、単に反時計回り方向という)に洗浄水が吐き出される。
【0016】
ここで、
図3に示すように、便鉢部14に関して、平面視において、便鉢部14の左右中心線Laと前後中心線Lbとで四つの分割領域Sr1〜Sr4に区分けする。四つの分割領域Sr1〜Sr4は、平面視において、左右中心線La及び前後中心線Lbを境界として分けられる便鉢部14の別々の部位である。以下、四つの分割領域に関して、前側の分割領域に対して便鉢部14の周方向の他方側(図中の時計回り方向。以下、単に、「時計回り方向」という)に隣り合う後側の分割領域を第1分割領域Sr1とする。また、四つの分割領域のうち、第1分割領域Sr1から平面視で反時計回り方向に順に設けられる三つの分割領域を、それぞれ第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3、第4分割領域Sr4とする。ここでの前側の分割領域とは第2分割領域Sr2、第3分割領域Sr3であり、後側の分割領域とは第1分割領域Sr1、第4分割領域Sr4である。
【0017】
このとき、複数の吐水口30には、第2分割領域Sr2に設けられる第1吐水口30(A)と、第3分割領域Sr3に設けられる第2吐水口30(B)と、第4分割領域Sr4に設けられる第3吐水口30(C)とが含まれる。第1吐水口30(A)は、左右方向の一方側(図中右側)に配置され、第2吐水口30(B)及び第3吐水口30(C)は左右方向の他方側(図中左側)に配置される。
【0018】
また、第1吐水口30(A)は、受け面部22の上端縁34との関係で次の位置に設けられる。受け面部22の上端縁34は、平面視において、前端34Fを含む前側領域34aと、後端34Bを含む後側領域34bと、前側領域34aと後側領域34bとを繋ぐ左右の中間領域34cとを有する。ここでの上端縁34とは、便鉢部14の中心点Cpを通る鉛直断面(例えば、
図1に示す断面)において、受け面部22からリム部18に向かう途中位置で、便鉢部14の内周面の曲げ方向が径方向内側から径方向外側に変わる変曲点となる位置をいう。前側領域34aは、第1範囲R1(たとえば、70mm〜120mm)内の曲率半径の曲線状をなし、後側領域34bは、第2範囲R2(たとえば、100mm〜130mm)内の曲率半径の曲線状をなす。中間領域34cは、平面視にて便鉢部14の中心点Cpに対して左右方向に位置するように設けられ、第1範囲R1や第2範囲R2より大きい第3範囲R3(たとえば、200mm〜530mm)内の曲率半径の曲線状をなす。
【0019】
受け面部22の上端縁34には、前側領域34aと中間領域34cとの境界となる第1曲率変化点34dと、後側領域34bと中間領域34cとの境界となる第2曲率変化点34eとが設けられる。このとき、第1吐水口30(A)は、便器本体12の前後方向での位置に関して、第1曲率変化点34dと第2曲率変化点34eとの間にあるように設けられる。別の観点からみると、第1吐水口30(A)は、便器本体12の前後方向での位置に関して、第1曲率変化点34dより後方にあるように設けられるともいえる。
【0020】
図2に示すように、通水路32には、便器本体12の左右方向の一方側(図中右側)に配置される右側通水路32(R)(第1通水路)と、左右方向の他方側(図中左側)に配置される左側通水路32(L)(第2通水路)とが含まれる。右側通水路32(R)は第1吐水口30(A)に洗浄水を供給するためのものであり、左側通水路32(L)は第2吐水口30(B)及び第3吐水口30(C)に洗浄水を供給するためのものである。右側通水路32(R)は、リム部18の左右両部分18(R)、18(L)のうち、第1吐水口30(A)がある側に設けられるリム部18の右部分18(R)(第1部分)の内部を通るように形成される。左側通水路32(L)は、リム部18の左右両部分18(R)、18(L)のうち、第2吐水口30(B)がある側に設けられるリム部18の左部分18(L)(第2部分)の内部を通るように形成される。左側通水路32(L)は、便鉢部14に対して前側において、便器本体12の左右中心線Laを通らないように配置される。ここでのリム部18の右部分18(R)とは、便器本体12の左右中心線Laに対して左右一方側となる右側に配置される部分をいい、リム部18の左部分18(L)は、その左右中心線Laに対して左右他方側となる左側に配置される部分をいう。
【0021】
左側通水路32(L)や右側通水路32(R)には、図示しない洗浄水供給装置36から洗浄水が供給される。本実施形態の洗浄水供給装置36は、洗浄水タンク、分配器等を組み合わせて構成される。
図2では通水路32に対する洗浄水供給装置36からの洗浄水の供給方向Wp1と、通水路32内を通る洗浄水の流れ方向Wp2とを示す。
【0022】
右側通水路32(R)は、全体として、リム部18の右部分18(R)の内部にて反時計回り方向に延びるように形成され、その延び方向の末端側には第1吐水口30(A)が設けられる。
【0023】
左側通水路32(L)は、全体として、リム部18の左部分18(L)の内部にて時計回り方向に延びるように形成され、その延び方向の末端側には第2吐水口30(B)が設けられる。左側通水路32(L)は、リム部18の左部分18(L)の内部にて便器本体12の前後方向に延在する延在部38と、延在部38の前端側に連なる折り返し部40とを有する。折り返し部40は、延在部38から流入する洗浄水の流れ方向を時計回り方向から反時計回り方向に折り返すように誘導するためのものである。このとき、折り返し部40は、洗浄水の通る位置が便鉢部14の径方向外側から内側に変わるように洗浄水を誘導する。また、左側通水路32(L)は、延在部38の始端側から終端側に向かう経路となる延在部38の後端部から分岐して形成され、反時計回り方向に延びる分岐部42を有する。分岐部42の延び方向の末端側には第3吐水口30(C)が設けられる。本実施形態の左側通水路32(L)には洗浄水供給装置から供給される洗浄水が延在部38の後端部に流入する。
【0024】
リム部18の内周壁部18aには、三つの吐水口30のそれぞれから反時計回り方向に延びるように三つのリム導水路44が形成される。リム導水路44は、吐水口30から吐き出される洗浄水を棚部46で受けて反時計回り方向に旋回させるように導水することで、リム導水路44の始端位置から終端位置まで洗浄水を届かせ易くするためのものである。
【0025】
三つのリム導水路44は、三つの吐水口30のそれぞれに対応しており、第1吐水口30(A)に対応する第1リム導水路44(A)と、第2吐水口30(B)に対応する第2リム導水路44(B)と、第3吐水口30(C)に対応する第3リム導水路44(C)とが含まれる。第1リム導水路44(A)は、平面視において、第2吐水口30(B)の近傍、かつ、その径方向内側を終端位置として、第1吐水口30(A)から終端位置まで反時計回り方向に延びるように形成される。第2リム導水路44(B)は、第3吐水口30(C)の近傍、かつ、その径方向内側を終端位置として、第2吐水口30(B)から終端位置まで反時計回り方向に延びるように形成される。第2リム導水路44(B)の始端部は第1リム導水路44(A)の終端部と連続するように形成される。第3リム導水路44(C)は、平面視において、第1吐水口30(A)の近傍、かつ、その径方向内側を終端位置として、第3吐水口30(C)から終端位置まで反時計回り方向に延びるように形成される。
【0026】
図1、
図2に示すように、第1リム導水路44(A)は、洗浄水を受けるための第1棚部46(A)と、第1棚部46(A)に対して上側に配置される第1オーバーハング部48(A)とを備える。第1棚部46(A)は、第1棚部46(A)の下方に連なる受け面部22の内周面部分(便鉢部14の内周面部分)より緩やかな勾配となるように形成される。第1オーバーハング部48(A)は、便鉢部14の径方向内側に向かって延びるように形成される。第2リム導水路44(B)も、第1リム導水路44(A)の第1棚部46(A)や第1オーバーハング部48(A)と同様の構成の第2棚部46(B)や第2オーバーハング部(不図示)とを有する。第3リム導水路44(C)も、第1リム導水路44(A)の第1棚部46(A)や第1オーバーハング部48(A)と同様の構成の第3棚部46(C)や第3オーバーハング部48(C)とを有する。
【0027】
図2に示すように、第3リム導水路44(C)には、第3吐水口30(C)に対して第3吐水口30(C)の洗浄水吐出方向に突き当たる位置に流れ変更部50が設けられる。流れ変更部50は、便鉢部14の内部空間と右側通水路32(R)とを隔てる壁部52の一部である。流れ変更部50は、第3吐水口30(C)から吐き出された洗浄水を衝突させることにより、その流れ方向を便鉢部14の凹部24に向かう方向に変更させるためのものである。
【0028】
以上の水洗大便器10の吐水部20は、第1吐水口30(A)の洗浄水吐出量が最も多く、第3吐水口30(C)の洗浄水吐出量が次に多く、第2吐水口30(B)の洗浄水吐出量が最も少なくなるように構成される。つまり、第1吐水口30(A)、第3吐水口30(C)及び第2吐水口30(B)の順で洗浄水吐出量が少なくなるように構成される。本実施形態での各吐水口30の洗浄水吐出量の比は、たとえば、40:27:33となる。ここでの洗浄水吐出量とは吐水口30を通る単位時間当たりの洗浄水の流量(L/s)をいう。
【0029】
このような各吐水口30の洗浄水吐出量の大小関係を満たすため、吐水部20は、次のように構成される。洗浄水供給装置からの各通水路32に対する洗浄水の流入位置から各吐水口30までの通水経路を考える。通水経路は、第1吐水口30(A)〜第3吐水口30(C)のそれぞれに対応する通水経路がある。吐水口の洗浄水吐出量は、吐水口に洗浄水を供給する通水経路の中で最も通路断面積が小さい部位(以下、流量設定部という)の通路断面積に比例した大きさとなる。本実施形態において、第1吐水口30(A)の流量設定部は、第1吐水口30(A)の通水経路の下流端にある第1吐水口30(A)そのものとなる。第2吐水口30(B)の流量設定部も第2吐水口30(B)のそのものとなり、第3吐水口30(C)の流量設定部も第3吐水口30(C)そのものとなる。吐水部20は、第1吐水口30(A)の流量設定部の通路断面積が最も大きく、第3吐水口30(C)の通路断面積が次に大きく、第2吐水口30(B)が最も小さくなるように構成される。ここでの通路断面積とは、通水方向に直交する断面での断面積をいう。これにより、前述のような、各吐水口30のそれぞれの洗浄水吐出量の大小関係を満たすことができる。
【0030】
次に、以上の水洗大便器10を用いた便鉢部14の洗浄方法を説明する。
水洗大便器10は、便鉢部14内の汚物を水の落差を用いて排水通路部16内に押し流す、いわゆる洗い落し式の洗浄方式により便鉢部14内を洗浄する。洗浄水の供給を開始するためのスイッチ、レバー等の操作部材に対する操作により、洗浄水供給装置から所定の流量範囲内の洗浄水が供給される。以下、所定の流量範囲内の洗浄水の供給を開始してから終了するまでの動作を一回の洗浄動作として説明する。
【0031】
洗浄水は、洗浄水供給装置から右側通水路32(R)及び左側通水路32(L)のそれぞれに供給される。右側通水路32(R)内では洗浄水供給装置から供給される洗浄水が第1吐水口30(A)に導かれるように流れる。左側通水路32(L)内では洗浄水供給装置から供給される洗浄水の一部が延在部38及び折り返し部40を経由して第2吐水口30(B)に導かれるように流れ、更に一部は分岐部42を経由して第3吐水口30(C)に導かれるように流れる。この結果、各通水路32のそれぞれを通した流れる洗浄水は各吐水口30から吐き出される。
【0032】
図4は、便鉢部14内での洗浄水の流れ方を示す図である。本図では便鉢部14内での洗浄水の流れに矢印を付して示す。
第1吐水口30(A)〜第3吐水口30(C)のそれぞれから吐き出される洗浄水は、自らに対応する第1リム導水路44(A)〜第3リム導水路44(C)のそれぞれに沿って反時計回り方向に旋回する流れFa〜Fcを形成する。第1リム導水路44(A)〜第3リム導水路44(C)のそれぞれに沿って流れる洗浄水は、各リム導水路44の棚部46から受け面部22に徐々に流れ落ち、受け面部22の下方に向かいながら旋回する流れFd、Feを形成する。このように、吐水部20は、各吐水口30(A)〜30(C)から便鉢部14内に洗浄水を吐き出すことにより、便鉢部14内を反時計回り方向に旋回する流れFa〜Feを形成する。この流れFa〜Feは、便鉢部14の内周面、詳しくは、リム部18の内周面や受け面部22の内周面を洗浄するための水流となる。
【0033】
ここで、便鉢部14の内周面には、凹部24に対して前方側にて左右中心線La上に大曲率部分54が設けられる。この大曲率部分54は、通常、平面視において、便鉢部14の左右に連なる他の部分より曲率が大きい部分となる。第1吐水口30(A)から吐き出された洗浄水が形成する流れFaは、この大曲率部分54を経由して便鉢部14の周方向での速度成分が弱められることで、凹部24内に集中的に流れ込む流れFgを形成する。この流れFgは、その近傍の他の流れより流量の多い主流Fg(水束)となり、便鉢部14の前方側から後方側に向かって流れる。また、この主流Fgは、凹部24に対して斜め前側より凹部24内に流れ込む。便鉢部14の凹部24内の汚物は、便鉢部14の受け面部22やリム導水路44を流れる洗浄水の落差、特に、この主流Fgに含まれる洗浄水の落差を用いて、排水通路部16内に入口16aから押し流される。
【0034】
第3吐水口30(C)から吐き出される洗浄水は、第3リム導水路44(C)を経由して流れ変更部50に衝突した後に流れ方向を変更し、凹部24内に向けて後方側から前方側に向かう流れFhを形成する。この流れFhは、便鉢部14の大曲率部分54を経由しておらず、第3吐水口30(C)から吐き出された強い水勢のまま凹部24内に流れ込み易くなっている。この強い水勢の流れFhは、凹部24内で前方から後方に向かって折り返すように流れ方向を変えた後に排水通路部16内に入口16aから流れ込む。このとき、第1吐水口30(A)から吐き出される洗浄水が形成する主流Fgと合流することで、排水通路部16内に入口16aから流れ込む流れの水勢を高め、汚物排出能力が効果的に高められる。なお、図示はしないが、第3吐水口30(C)から吐き出される洗浄水の一部は、凹部24の右側方にて後方側から前方側に向かって流れた後、便鉢部14の大曲率部分54を経由してから、便鉢部14の受け面部22上で前述の主流Fgに合流することで、その水勢を高める役割もある。
【0035】
以上の水洗大便器10の作用効果を説明する。
(A)本実施形態の第1吐水口30(A)は第1分割領域Sr1に設けられている。よって、第1吐水口30(A)から吐き出される洗浄水は、便鉢部14の大曲率部分54を経由することになり、これにより、便鉢部14の周方向での速度成分が弱められてしまう。この影響を受けて、第1吐水口30(A)から吐き出される洗浄水は、第4分割領域Sr4の受け面部22やリム導水路44にまで行き届き難くなる。この対策として、本実施形態の水洗大便器10では、第3分割領域Sr3に第2吐水口30(B)が設けられている。これにより、第1吐水口30(A)から吐き出される洗浄水が届き難い第4分割領域Sr4に十分量の洗浄水を行き届かせ易くなり、良好な便鉢洗浄能力を得られるようになる。
【0036】
特に、このような効果を得るうえで、一回の便器洗浄に用いられる全洗浄水量の増大が不要なため、全洗浄水量の増大に伴う外部への洗浄水の飛び出しを防止しつつ、良好な便鉢洗浄能力を得られる利点がある。
【0037】
また、吐水部20は、第1吐水口30(A)の洗浄水吐出量が第2吐水口30(B)の洗浄水吐出量より多くなるように構成される。よって、第2吐水口30(B)に洗浄水を供給するためにリム部18の内部に形成される左側通水路32(L)の寸法を小さくでき、リム部18の幅を大きくせずに、便鉢洗浄能力を高められる利点もある。
【0038】
なお、前述のように、第1吐水口30(A)から吐き出される洗浄水により形成される主流Fgにより、汚物排出性能が確保されている。よって、第4分割領域Sr4を洗浄するうえではそれほど洗浄水量を確保する必要はなく、第2吐水口30(B)の洗浄水吐出量が少なくとも汚物排出性能に大きな影響はない。
【0039】
(B)また、本実施形態の吐水口には第4分割領域Sr4に設けられる第3吐水口30(C)が含まれる。よって、第2吐水口30(B)から吐き出される洗浄水の吐出量を増大させなくとも、便鉢部14内にて第2吐水口30(B)から反時計回り方向に遠い位置にある第1吐水口30(A)の近傍にまで洗浄水を届かせ易くなる。このため、第2吐水口30(B)の洗浄水吐出量を抑えつつ、便鉢部14の広い範囲を洗浄させ易くなる。
【0040】
また、第4分割領域Sr4に設けられる第3吐水口30(C)から吐き出される洗浄水は、第1吐水口30(A)から吐き出される洗浄水と凹部24内や受け面部22上で合流することで、汚物排出能力に寄与する主流Fgの水勢を高める役割をもつ。本実施形態の吐水部20は、第3吐水口30(C)の洗浄水吐出量が第2吐水口30(B)の洗浄水吐出量以上となるように構成されるため、この主流Fgの水勢を効果的に強くすることで、汚物排出能力を効果的に高めることができる。
【0041】
また、第1吐水口30(A)に洗浄水を供給するための右側通水路32(R)と、第2吐水口30(B)に洗浄水を供給するための左側通水路32(L)とが、リム部18の右部分18(R)と左部分18(L)とに別々に設けられるレイアウトである。よって、これらをリム部18の片側部分にまとめて設けるよりも、リム部18の幅を大きくせずともよくなる。また、左側通水路32(L)には折り返し部40が設けられるため、このようなレイアウトにしつつ、第1吐水口30(A)や第2吐水口30(B)からの洗浄水の吐出方向を同じ向き(反時計回り方向)にすることができる。
【0042】
次に、本実施形態の水洗大便器10の他の特徴を説明する。
図5は、第2吐水口30(B)の周囲を拡大して示す平面図である。
第1リム導水路44(A)は、便鉢部14の前端14Fを経由する前端部53と、前端部53より第1リム導水路44(A)の下流側に設けられる終端部54とを有する。ここでの便鉢部14の前端14Fとは、平面視において、前述の左右中心線Laと便鉢部14の内周面とが交わる箇所をいう。第1リム導水路44(A)の終端部54は、左側通水路32(L)の下流端部となる折り返し部40に対して便鉢部14の径方向内側に設けられる。
【0043】
この第1リム導水路44(A)の終端部54の内周面の平面視での曲率半径をAとし、第2リム導水路44(B)の始端部56の内周面の平面視での曲率半径をBとする。第1リム導水路44(A)の前端部53、終端部54及び第2リム導水路44(B)の始端部56には、本図でハッチングを付して示す。このとき、第1リム導水路44(A)の終端部54は、第2リム導水路44(B)の始端部56より平面視での内周面の曲率半径が小さくなるように形成される。これは、第1リム導水路44(A)の終端部54の曲率半径Aが、第2リム導水路44(B)の始端部56の曲率半径Bより小さいことを意味する。この曲率半径Aは、たとえば、40mm以上80mm未満であり、曲率半径Bは、たとえば、300mm〜600mmである。この利点を説明する。
【0044】
図4を用いて前述した通り、第1吐水口30(A)から吐き出された洗浄水が形成する流れFeは、凹部24内に集中的に流れ込む主流Fgを形成する。この主流Fgを形成する流れには、第1吐水口30(A)から第1リム導水路44(A)を経由する流れFaが含まれる。ここで、本実施形態によれば、第1リム導水路44(A)の始端部56と第2リム導水路44(B)の終端部54との曲率半径が前述の関係を満たしている。よって、これらの曲率半径が同じである場合より、第1リム導水路44(A)に沿って流れた後に第1リム導水路44(A)の内周面の終端位置54aから洗浄水が離れたときの洗浄水の流れ方向を凹部24に向け易くなる。これは、第1リム導水路44(A)の終端位置54aから見て、洗浄水の流れ方向を便鉢部14の中心点Cp側に向け易くなることを意味する。この結果、凹部24内に集中的に流れ込む主流Fgに含まれる洗浄水量を増やすことで、汚物排出性能を効果的に高められる。
【0045】
また、第1リム導水路44(A)の前端部53の内周面の平面視での曲率半径をCとする。このとき、第1リム導水路44(A)の終端部54は、第1リム導水路44(A)の前端部53より平面視での内周面の曲率半径が小さくなるように形成される。これは、第1リム導水路44(A)の終端部54の曲率半径Aが、第1リム導水路44(B)の前端部53の曲率半径Cより小さいことを意味する。この曲率半径Cは、たとえば、80mm以上120mm以下である。
【0046】
これにより、これらの曲率半径が同じである場合より、第1リム導水路44(A)に沿って流れた後に第1リム導水路44(A)の内周面の終端位置54aから洗浄水が離れたときの洗浄水の流れ方向を凹部24に向け易くなる。この結果、凹部24内に集中的に流れ込む主流Fgに含まれる洗浄水量を増やすことで、汚物排出性能を効果的に高められる。
【0047】
なお、本実施形態では、第1リム導水路44(A)の終端部54の全部が第2リム導水路44(B)の始端部56より曲率半径が小さくなる例を説明したが、少なくともその一部がこの条件を満たしていればよい。また、同様に、第1リム導水路44(A)の終端部54の全部が第2リム導水路44(B)の始端部56より曲率半径が小さくなる例を説明したが、少なくとも一部がこの条件を満たしていればよい。たとえば、第1リム導水路44(A)の終端部54は、第1リム導水路44(A)の終端位置54aよりも上流側であって、第1リム導水路44(A)の前端部53より下流側にある一部のみがこの条件を満たしていてもよい。
【0048】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変更が可能である。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0049】
水洗大便器10は、洗浄方式として洗い落し式を用いる例を説明したが、サイホン式、サイホンゼット式等の他方式と組み合わせた洗浄方式により便鉢部14内を洗浄してもよい。
【0050】
第1吐水口30(A)は、第2分割領域Sr2に設けられる例を説明したが、第1分割領域Sr1及び第2分割領域Sr2のうちの少なくとも一方に設けられていればよい。また、前述の作用効果(A)を得る観点からは、三つの吐水口30を設けることは必須にならず、少なくとも第1吐水口30(A)と第2吐水口30(B)とが設けられていればよい。
【0051】
左側通水路32(L)と右側通水路32(R)とは空間的に分離した位置に設けられる例を説明したが、共通通水路を介して連通されていてもよい。この場合、洗浄水供給装置から供給される洗浄水は共通通水路を通して左側通水路32(L)及び右側通水路32(R)のそれぞれに供給される。
【0052】
吐水部20は、第1吐水口30(A)の洗浄水吐出量が最も多ければよく、その具体例は特に限定されない。たとえば、第1吐水口30(A)、第2吐水口30(B)、第3吐水口30(C)の洗浄水吐出量の比は、40:27:33の他に、40:25:35としてもよいし、60:3:37としてもよい。これらの例からいうと、吐水部20は、一回の洗浄動作で用いられる全洗浄水量に対する、第1吐水口30(A)の洗浄水吐出量の割合が40%以上となるように構成されてもよいともいえる。
【0053】
また、この他にも、各吐水口30の洗浄水吐出量の比は、たとえば、50:25:25として、第2吐水口30(B)と第3吐水口30(C)の洗浄水吐出量が同等となるようにしてもよい。つまり、吐水部20は、第2吐水口30(B)の洗浄水吐出量が第3吐水口30(C)の洗浄水吐出量と同等又はそれ以上となるように構成されてもよい。いずれの場合でも、前述した作用効果(B)を得られる。
【0054】
リム導水路44の棚部46は、平面状に形成される例を説明したが、円弧状等に形成されてもよい。また、リム導水路44はオーバーハング部48がなくともよい。また、第1リム導水路44(A)は第2リム導水路44(B)と連続するように形成される例を説明したが、これらは連続せずに分断されるように形成されてもよい。
【0055】
以上の実施形態、変形例により具体化される発明を一般化すると、以下の技術的思想が導かれる。以下、発明が解決しようとする課題に記載の態様を用いて説明する。
【0056】
第2の態様の水洗大便器は、第1の態様において、前記リム部には、前記第1吐水口から吐き出される洗浄水を第1棚部で受けて導水するための第1リム導水路と、前記第2吐水口から吐き出される洗浄水を第2棚部で受けて導水するための第2リム導水路と、が形成され、前記第1リム導水路の終端部は、前記第2吐水口に洗浄水を供給するための通水路の下流端部に対して前記便鉢部の径方向内側に設けられ、前記第1リム導水路の終端部の少なくとも一部は、前記第2リム導水路の始端部より平面視での内周面の曲率半径が小さくなるように形成されてもよい。
第1吐水口から吐き出された洗浄水は、凹部内に集中的に流れ込む主流を形成する。この態様によれば、第1リム導水路の終端部の少なくとも一部と第2リム導水路の始端部との曲率半径が同じである場合より、第1リム導水路に沿って流れた後に第1リム導水路の終端位置から洗浄水が離れたときの洗浄水の流れ方向を凹部に向け易くなる。この結果、凹部内に集中的に流れ込む主流に含まれる洗浄水量を増やすことで、汚物排出性能を効果的に高められる。
【0057】
第3の態様の水洗大便器は、第1、第2の態様において、前記リム部には、前記第1吐水口から吐き出される洗浄水を第1棚部で受けて導水するための第1リム導水路が形成され、前記第1リム導水路は、前記便鉢部の前端を経由する前端部と、前記前端部より前記第1リム導水路の下流側に設けられ、前記第2吐水口に洗浄水を供給するための通水路の下流端部に対して前記便鉢部の径方向内側に設けられる終端部とを有し、前記第1リム導水路の終端部の少なくとも一部は、前記前端部より平面視での内周面の曲率半径が小さくなるように形成されてもよい。
第1吐水口から吐き出された洗浄水は、凹部内に集中的に流れ込む主流を形成する。この態様によれば、第1リム導水路の終端部の少なくとも一部と第1リム導水路の前端部との曲率半径が同じである場合より、第1リム導水路に沿って流れた後に第1リム導水路の終端位置から洗浄水が離れたときの洗浄水の流れ方向を凹部に向け易くなる。この結果、凹部内に集中的に流れ込む主流に含まれる洗浄水量を増やすことで、汚物排出性能を効果的に高められる。
【0058】
第4の態様の水洗大便器は、第1〜第3の態様において、前記複数の吐水口には、前記第4分割領域に設けられる第3吐水口が含まれ、前記吐水部は、前記第3吐水口の洗浄水吐出量が前記第2吐水口の洗浄水吐出量と同等又はそれ以上となるように構成されてもよい。
この態様によれば、第2吐水口から吐き出される洗浄水の吐出量を増大させなくとも、第2吐水口から周方向の一方側に遠い位置にまで洗浄水を届かせ易くなる。このため、第2吐水口の洗浄水吐出量を抑えつつ、便鉢部の広い範囲を洗浄させ易くなる。
【0059】
第5の態様の水洗大便器は、第1〜第4のいずれかの態様において、前記吐水部は、前記リム部の左右両部分のうち、前記第1吐水口がある側に設けられる第1部分の内部を通り、前記第1吐水口に洗浄水を供給するための第1通水路と、前記リム部の左右両部分のうち、前記第2吐水口がある側に設けられる第2部分の内部を通り、洗浄水の流れ方向を周方向の他方側から一方側に折り返すように誘導するための折り返し部が設けられ、前記第2吐水口に洗浄水を供給するための第2通水路と、を有してもよい。
この態様によれば、第1通水路と第2通水路とがリム部の第1部分と第2部分とに別々に設けられるレイアウトにできる。よって、これらをリム部の片側部分にまとめて設けるよりも、リム部の幅を大きくせずともよくなる。