(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693863
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】電気二重層コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 11/64 20130101AFI20200427BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20200427BHJP
H01G 11/60 20130101ALI20200427BHJP
H01G 11/82 20130101ALI20200427BHJP
H01G 11/12 20130101ALI20200427BHJP
【FI】
H01G11/64
H01G11/52
H01G11/60
H01G11/82
H01G11/12
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-255036(P2016-255036)
(22)【出願日】2016年12月28日
(65)【公開番号】特開2018-107380(P2018-107380A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】宮田 晋嗣
【審査官】
多田 幸司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−342593(JP,A)
【文献】
特開昭60−050914(JP,A)
【文献】
特開2001−210554(JP,A)
【文献】
特開平07−050232(JP,A)
【文献】
特開2005−039196(JP,A)
【文献】
特開2002−050548(JP,A)
【文献】
特開2001−035754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 11/64
H01G 11/12
H01G 11/52
H01G 11/60
H01G 11/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性のセパレータと、前記セパレータを介して対向配置された一対の分極性電極と、前記セパレータと前記分極性電極に含浸された電解液とを含む電気二重層コンデンサであって、
前記電解液は、平均分子量200〜2万の範囲のポリエチレングリコールを添加した水系電解液であり、前記分極性電極は、固体活性炭と前記電解液とのペーストからなるペースト電極であり、前記電解液中の前記ポリエチレングリコールの添加量は5〜20質量%の範囲となる量であることを特徴とする電気二重層コンデンサ。
【請求項2】
前記セパレータが親水性セパレータである請求項1に記載の電気二重層コンデンサ。
【請求項3】
前記セパレータは、前記ポリエチレングリコールを細孔内に含む請求項1又は2に記載の電気二重層コンデンサ。
【請求項4】
前記セパレータを介して対向配置された一対の分極性電極と、前記分極性電極の前記セパレータとの当接面と対向する面にそれぞれ配置された一対の集電体と、前記分極性電極の周囲を囲み、前記セパレータの外周端部を挟持し、前記集電体と共に前記電解液を封止するガスケットを備えた単位セルを少なくとも一つ有する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電気二重層コンデンサ。
【請求項5】
前記単位セルの複数を直列に積層してなる積層素子と、前記積層素子の積層方向両端の前記集電体と接続された端子板と、前記積層素子及び前記端子板とを保持するモールド樹脂とを含む請求項4に記載の電気二重層コンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気二重層コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層コンデンサは、分極性電極と、この分極性電極に接触する電解液との界面に生じる電気二重層を利用して蓄電するデバイスであり、主に、ICメモリや小型アクチュエータ等のバックアップ用電源に使用されている。
【0003】
電気二重層コンデンサ(EDLC)は、単一または複数の単位セルから構成されている。単位セルは、電解液を含んだ活性炭を主とする一対の分極性電極の間にセパレータを挟んで、周りにガスケット及び集電体を配して密封することにより構成される。通常、この単位セルを必要枚数積層した上で、金属ケースやモールド樹脂等により外装することで電気二重層コンデンサとしている。
【0004】
単位セルの電解液には、有機溶媒を用いた非水系電解液と、希硫酸等の水溶液を用いた水系電解液がある。また、分極性電極は活性炭に電解液を混合したペーストを塗布した電極も用いられている。
【0005】
また、活性炭に代えてポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂の炭化物を使用する方法が提案されており、PVDC樹脂炭化物の粉末を電解質ゲル、特にPVDC樹脂炭化物の粉末を希硫酸に含浸してスラリ化したものに分子量20万〜400万のポリエチレングリコールを添加してゲル電極を形成する方法が特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−97317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のEDLCでは、電極の製造が煩雑であったり、電解液の漏れやドライアップの問題があった。特許文献1のゲル電極を用いたEDLCでは、電極製造が容易となり、ドライアップ等の問題も解決されている。しかしながら、容量の経時変化は少ないものの、その一方で、ゲル化のため等価直列抵抗(ESR)が高く、また、初期静電容量が不十分になる問題がある。
さらに、EDLCは長期の信頼性の要求も増加している。
【0008】
本発明は上述した課題を解決するためになされたもので、その目的は、電解液をゲル化することなく、長期信頼性を有する電気二重層コンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
電気二重層コンデンサの高温負荷試験において、電解液が残っているにも関わらず、突如製品寿命を迎えることがある。本発明者は、その原因について究明したところ、分極性電極間に配されるセパレータが、高温負荷試験で乾燥し、電極間の導通がなくなりオープンとなってしまっていることを見出した。そこで、セパレータの乾燥を抑制する方法について鋭意検討したところ、低分子量のポリエチレングリコールを希硫酸等の水系電解液に添加することでセパレータの乾燥が抑制できることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の一形態によれば、絶縁性のセパレータと、前記セパレータを介して対向配置された一対の分極性電極と、前記セパレータと前記分極性電極に含浸された電解液とを含む電気二重層コンデンサであって、前記電解液は、平均分子量200〜2万の範囲のポリエチレングリコールを添加した水系電解液であ
り、前記分極性電極は、固体活性炭と前記電解液とのペーストからなるペースト電極であり、前記電解液中の前記ポリエチレングリコールの添加量は5〜20質量%の範囲となる量であることを特徴とする電気二重層コンデンサ、が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、水系電解液に低分子量のポリエチレングリコールを添加したことで、セパレータの乾燥が抑制され、高温負荷試験での長期信頼性を有する電気二重層コンデンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気二重層コンデンサの単位セルを模式的に表した断面図。
【
図2】本発明の一実施形態に係る単位セルを複数積層したコンデンサ素子の一部破断斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る電気二重層コンデンサの単位セルを模式的に表した断面図である。本発明の電気二重層コンデンサの単位セル10は、
図1に示すように、セパレータ3を介して対向配置された一対の分極性電極4と、分極性電極4のセパレータ3との当接面と対向する面にそれぞれ配置された一対の集電体1と、分極性電極4の周囲を囲み、セパレータ3の外周端部を挟持し、集電体1と共に電解液を封止するガスケット2を備える。セパレータ3を介して対向して配置された分極性電極4は、一方が正極、他方が負極となる。これらの分極性電極4には、電解液が含浸されており、セパレータ3で絶縁されている。この構造により、正負の集電体1を介して電圧を印加した際に、単位セル10内部の分極性電極4表面に電気二重層を形成でき、セルを充放電に用いることが可能となる。
【0014】
図2は、
図1に示す単位セルを複数積層したコンデンサ素子20の一部破断斜視図である。単位セルは集電体1同士を接触させて積層素子5とされており、積層方向両端の集電体にはリード6と一体化された端子板がそれぞれ配置され、これらがモールド樹脂7で保持されている。
【0015】
電解液は、硫酸水溶液(希硫酸)に平均分子量200〜2万のポリエチレングリコールを添加したものである。ポリエチレングリコールは、下記式(1)
HO−(−C
2H
4O−)
n−H (1)
で表される。n=4の分子量は194であり、基本的には本発明で使用のポリエチレングリコールはn≧5のものを含むことになる。エチレンオキシ基の繰り返し単位数nが小さいものは単一化合物として得られることもあるが、単位数nが大きくなる、すなわち分子量が大きくなるに従い、単一化合物としての生成、単離が困難となり混合物となる。そのため、ポリエチレングリコールの分子量は平均分子量で表される。ポリエチレングリコールは市販品が容易に入手可能であり、平均分子量により区分されている。
【0016】
ポリエチレングリコールの添加量は、電解液の組成やポリエチレングリコールの平均分子量の関係から電解液の機能を損なわない範囲で適宜設定できる。例えば、40質量%硫酸水溶液への添加では、平均分子量1000のポリエチレングリコールは、5質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、8質量%以上、15質量%以下であることがより好ましい。ポリエチレングリコールの平均分子量が大きくなるほど、電解液の粘度が高くなり、ゲル化しやすい傾向にあり、ドライアップ抑制には有利である。しかしながら、平均分子量が小さい方がセパレータの乾燥の抑制に適している。これは、平均分子量の小さいポリエチレングリコールはセパレータの空孔に入り込んで絡みやすいためである。すなわち、本発明においては、ポリエチレングリコールがセパレータの細孔内に含まれていることが肝要である。ポリエチレングリコールの平均分子量は200以上、1万以下が好ましく、400以上6000以下がより好ましく、600以上1500以下が最も好ましい。
【0017】
分極性電極は、固体活性炭と前記電解液との混合物(ペースト)からなるペースト電極であることが好ましい。
ペースト電極の製造方法は、特に制限されず、従来公知の方法を採用することができる。例えば、リング状のガスケットと円盤状の集電体とを貼り合わせ、有底の円筒部材とし、そこに固体活性炭と電解液とを混合して調製したペーストを滴下しペースト電極を得る。ガスケットには非導電性のブチルゴムを、集電体に導電性のブチルゴムを使用することができ、ペースト電極を内包する2つの円筒部材をセパレータを介して積層し、熱圧着することで、ガスケット同士及びガスケットと集電体とが加硫接合され、単位セルを構成することができる。なお、ガスケットと集電体の外形は円形でなく、方形や楕円形等の形状であってもよく、セパレータもそれに合わせた形状とすれば良い。また、集電体シート上に電極形成部の穴あきガスケットシートを積層し、電極ペーストを穴部に注入して一括して多数個の電極シートを作製し、セパレータを介して1対の電極シートを重ね合わせて単セルシートを形成することもできる。その後、各単セルに打ち抜く、あるいは単セルシートを積層して積層シートを形成してから打ち抜くことで、単層又は積層構造の素子を得ることができる。電気二重層コンデンサの単位セルの耐電圧は、電解液の電気分解電圧、すなわち、電解液中の水分量により決まり、40質量%希硫酸では約1.2Vである。最大使用電圧5.5Vの耐電圧設計では、単位セルを5枚以上直列接続することで設計される。
【0018】
本発明に係る電気二重層コンデンサにおいて、セパレータは、例えば有機繊維の不織布のような多孔質の絶縁シートであり、正負の分極性電極が直接接触することを防ぎ、電解液が細孔内に含浸され、電解液中のイオンの移動を可能としている。特に、乾燥抑制の対象となるセパレータは、水系電解液との親和性の高い、親水性セパレータであることが好ましい。親水性のセパレータとしては、濾過膜等に使用されるメンブレンフィルターなどが挙げられる。
【0019】
なお、本発明に係る電気二重層コンデンサにおいて、分極性電極は上記のペースト電極に限定されず、バインダーを用いた電極であっても良い。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0021】
<実施例1>
電解液として40質量%希硫酸に平均分子量1000のポリエチレングリコールを10質量%添加したものを用意した。粒径10μm程度の活性炭を上記で調製した電解液に加え、よく混練しペースト状とした。次いで非導電性ブチルゴムからなるガスケットと導電性ブチルゴムからなる集電体とで構成されたシート(電極塗工部:厚さ0.5mm、直径10mm)を用意し、このシートの電極形成部にペーストを塗工することでペースト電極を作製した。次いで電極が形成されたシートを一対用意し、親水性セパレータを介してそれらを重ね合わせた。次に熱圧着を行うことでブチルゴムの加硫を促し封止することで単セルシートを作製し、単セルシートを7枚積層した後、所定の寸法にてシートを打ち抜き、積層素子を作製した。その後、積層素子の上下にリードつき端子板6を配置し、一定圧力で加圧した状態でモールド樹脂7(ポリブチレンテレフタレート)にて外装し、
図2に示す積層EDLC素子20を作製した。
【0022】
このように形成したEDLCを10個用意し、エージングし、初期静電容量を測定後、加速試験として、環境温度+105℃、印加電圧5.5Vで、所定時間の信頼性試験を実施し、初期の静電容量に対する所定時間経過後の静電容量の減少率(サンプル数(m)の平均値)を求めた。結果を表1に示す。100%はオープンとなり静電容量の測定ができないものを示す。オープンの発生個数(n)を合わせて示す。オープンの発生がなければ、信頼性が確保されており、特に静電容量の減少率が30%以下であれば、十分な信頼性が確保できたといえる。
【0023】
<比較例1>
ポリエチレングリコールを添加しなかった以外は実施例1と同様に10個のEDLCを用意し、静電容量減少率/オープン個数を評価した。結果を表1に示す。
【0024】
<実施例2〜7>
ポリエチレングリコール(PEG)の平均分子量を変更し、サンプル数mを表1に記載の通り変更した以外は実施例1と同様に積層EDLCを作製し、静電容量減少率/オープン個数を評価した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
<参考例1、実施例8,9>
実施例1と同様に平均分子量1000のPEGを用い、添加量を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様に10個のEDLCを用意し、静電容量減少率/オープン個数を評価した。実施例1の結果を合わせて、表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
以上、実施例1〜9では500時間後もオープン発生がなく、実施例1〜8では十分な長期信頼性も確保されている。特に実施例1では620時間でもオープンの発生がなく、減少率も30%以下であり、優れている。
【符号の説明】
【0029】
1 集電体
2 ガスケット
3 セパレータ
4 分極性電極
5 積層素子
6 リード
7 モールド樹脂
10 電気二重層コンデンサ(単位セル)
20 コンデンサ素子