(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693944
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】複合材強化のためのハイブリッド織布
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20200427BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20200427BHJP
D03D 15/12 20060101ALI20200427BHJP
D03D 15/02 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
D03D1/00 A
C08J5/04CER
C08J5/04CEZ
D03D15/12 A
D03D15/12 Z
D03D15/02 Z
【請求項の数】17
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-507727(P2017-507727)
(86)(22)【出願日】2015年8月11日
(65)【公表番号】特表2017-524839(P2017-524839A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】US2015044564
(87)【国際公開番号】WO2016025427
(87)【国際公開日】20160218
【審査請求日】2018年8月6日
(31)【優先権主張番号】1414363.0
(32)【優先日】2014年8月13日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】516100285
【氏名又は名称】サイテック インダストリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブラックバーン, ロバート
(72)【発明者】
【氏名】ヒル, サミュエル ジェスティン
【審査官】
川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2013−515124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00−27/00
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材強化のための織布であって、
シート状の形態で互いに平行に配置された一方向繊維トウと、
製織パターンで一方向繊維トウと織り交ぜられた不織繊維のストリップと
を含み、
各一方向繊維トウが複数の連続繊維フィラメントから成り、
不織繊維の各ストリップが、自己支持型の、別の繊維の層に付着していない単層材料であり、ランダムに配置された繊維及び/又はランダムに配向された繊維から成る、織布。
【請求項2】
50gsmから380gsmの面積重量を有している、請求項1に記載の織布。
【請求項3】
不織繊維の各ストリップが2gsmから34gsmの面積重量を有している、請求項1又は2に記載の織布。
【請求項4】
不織繊維の各ストリップがおよそ5mmから40mmの幅を有している、請求項1から3の何れか一項に記載の織布。
【請求項5】
不織繊維の各ストリップが10μmから50μm(又は0.01mmから0.05mm)の範囲内の厚さを有している、請求項1から4の何れか一項に記載の織布。
【請求項6】
ストリップの不織繊維の多数が、直径約3μmから40μmの範囲、好ましくは約5μmから10μmの範囲の断面直径を有している、請求項1から5の何れか一項に記載の織布。
【請求項7】
各一方向繊維トウが1000から100000の繊維フィラメントから成る、請求項1から6の何れか一項に記載の織布。
【請求項8】
各繊維トウの繊維フィラメントが3μmから15μm、好ましくは4μmから7μmの範囲内の断面直径を有している、請求項7に記載の織布。
【請求項9】
一方向繊維トウが、炭素、グラファイト、ガラス、石英、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、アラミド、高弾性ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ−p−フェニレン−ベンゾビスオキサゾール(PBO)、及びそれらの組み合わせから成る群から選択された高強度材料から形成される、請求項1から8の何れか一項に記載の織布。
【請求項10】
不織繊維のストリップが、炭素、ガラス、金属、石英、ポリマー及びそのコポリマー、並びにそれらの組み合わせから成る群から選択された材料から作られた繊維を含む、請求項1から9の何れか一項に記載の織布。
【請求項11】
当該ポリマーが、アラミド、ポリエステル、ポリアミド、ポリフタラミド、ポリアミド−イミド、ポリアリルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリアリルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、エラストマーポリアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン、液晶ポリマー(LCP)、フェノキシ、ポリアクリロニトリル、及びアクリレートポリマーから選択される、請求項10に記載の織布。
【請求項12】
一方向繊維トウが炭素繊維から成り、不織繊維のストリップがランダムに配置された炭素繊維及び/又はランダムに配向された炭素繊維を含む、請求項1から11の何れか一項に記載の織布。
【請求項13】
不織繊維のストリップが、繊維をまとめて保持するが、ストリップを液体及び気体に透過可能にする十分な量の結合剤を有している、請求項1から12の何れか一項に記載の織布。
【請求項14】
製織パターンが、平織、繻子織、及び綾織から選択される、請求項1から13の何れか一項に記載の織布。
【請求項15】
液状樹脂に透過性である、請求項1から14の何れか一項に記載の織布。
【請求項16】
積み重ね配置で積層された強化繊維の層を含む液体成形プロセスにおいて液状樹脂を受容するように適合されたプリフォームであって、強化繊維の層の少なくとも1つが請求項1から14の何れか一項に記載の織布である、プリフォーム。
【請求項17】
マトリックス樹脂が含浸又は注入された請求項1から14の何れか一項に記載の織布を含む複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
3次元ポリマー複合部品は、異なる方法を用いて製造することができ、その1つはオートクレーブ成形である。オートクレーブ成形法では、通常炭素繊維から成る布には、樹脂マトリックスが予め含浸される。プリプレグは、典型的には型に置かれ、次いで真空下で加熱されて含浸された樹脂を硬化させ、最終的な複合部品を生成する。複合物に成形されるプリプレグは、使用が容易で信頼性が高いという利点を有する。しかしながら、プリプレグにはまた、ドレープ性(即ち、ドレープする能力)が限定されるという欠点もある。
【0002】
別の複合製造方法は、液体成形である。樹脂移送成形(RTM)及び真空アシスト樹脂移送成形(VARTM)は、ある特定の例である。液体成形プロセスでは、乾燥強化繊維(マトリックス樹脂を含まない)の層が成形され、「プリフォーム」と呼ばれる粘着性のある成形構造に成形及び圧縮される。次いで、このプリフォームには、しばしば閉じた型又は包囲された真空バッグ内で、未硬化の液状樹脂が注入される。樹脂注入段階が完了した後、樹脂が硬化して固体複合部品が得られる。液体成形技術は、他の点では従来のプリプレグ技術を用いて製造することが困難な複雑な形状の構造を製造する際に特に有用である。更に、プリフォームを形成するために使用される乾燥したフレキシブルな繊維状材料は、より長い貯蔵寿命及びより複雑な形状への適用性のために、標準的な樹脂含浸プリプレグ材料よりも顕著な利点を有することができる。
【発明の概要】
【0003】
本開示の目的は、繊維強化複合材料の製造に使用することができるハイブリッド織布材料を提供することである。ハイブリッド織布材料は、織りパターンの不織繊維のストリップと織り交ぜられた一方向繊維からなる織布である。1つの実施形態では、ハイブリッド織布材料は、RTMプロセスで使用される液状樹脂に関して多孔質かつ透過性があり、この織布材料から形成されたプリフォームには、RTMプロセス中に液状樹脂を注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】単一織(Uni−Weave)とも呼ばれる、織り上げられた一方向性構成に基づく布構造の上面図である。
【
図2】
図1に示す織布の断面図であり、圧着を示している。
【
図3】単一ステッチ(Uni−Stitch)とも呼ばれる、ステッチ留めされた一方向構成に基づく布構造を概略的に示す。
【
図4】
図3に示された織物構造のためのステッチ固定機構を示す。
【
図5】本開示の一実施形態によるハイブリッド織布を概略的に示す。
【
図7】本開示の1つの実施形態により製造された平織り織布の写真画像である。
【
図8】樹脂が注入されたプリフォームの製造に使用される3つの異なる布構成の面内透過性能の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0005】
一方向繊維に基づく布を製造する幾つかの利用可能な技術は、製織、ステッチ留め又は結合を含む。
【0006】
単一織とも呼ばれる織り上げられた一方向性構成は、製織手法である。ここで、構造繊維を主軸に固定するために、補助織り糸を副軸に織り込むことができる。繊維圧着を最小にするために、これらの補助糸は、典型的には細い繊維である。単一織構成及び圧着モデルの例は、
図1及び
図2にそれぞれ示される。この構成で使用される一般的な補助繊維の種類は、ガラス、ポリエステル及びコポリアミドである。この種の構成は、0度配向の強化繊維により適しているが、90度及び極性配向布を構成するために利用することもできる。単一織布は、典型的には、主配向において繊維質量の95%、二次配向において5%を有することが分かっている。この種の織物の分かっている特徴は、布の完全性が低く、面内の機械的特性が低いという代償はあるものの、透過性及びドレープ性(即ち、ドレープする能力)が良好であるということである。典型的には、0度の引張特性及び圧縮特性が、横糸補助繊維によって引き起こされる圧着効果を被ることが分かっている。織物の織りパターンを調節することは、圧着効果の頻度を低下するのに役立ち得るが、これは、典型的には、布の安定性の更なる低下をもたらす。安定性が低いことへの対処は、ポリマー系補助織り糸の場合には熱処理を介して、又は粉末結合剤若しくは積層フリースのような安定化媒体の添加を介して達成できることがよくあるが、これらの溶液は、次に最終織物の透過性を低下させ、環境及び溶媒耐性に関する更なる問題をもたらすことになる。
【0007】
単一ステッチとも呼ばれるステッチ留めされた一方向構成は、浮遊する横糸の補助織り糸とインターロックする貫通厚さステッチを使用して構造繊維を主軸に固定するためのたて編み機;の使用に基づいており、よってステッチ留め糸と補助糸との間で主繊維を制限する。単一ステッチ構成及びステッチ固定機構の例が、
図3及び
図4にそれぞれ示されている。この方法で使用されるステッチ留め糸が、典型的にはポリエステル又はコポリアミドのいずれかであるのに対し、補助糸は、同一であるかガラス製かのいずれかであり、これらの構成におけるステッチ留め糸及び補助織り糸の質量は、通常、総質量の2%から6%であることが分かっている。この種の一方向布は、0度配向の強化繊維として適しているが、90度配向の強化が可能であり得る。単一ステッチ構成は、典型的には、比較的低下した面外圧着のレベルのために、製織構造よりも機械的性能の改善を示すが、トウ間の隙間及びステッチ留めからの残留圧着のため、プリプレグテープ製品と比較したときに、なおも低下を示す。結果的に、これらの織物の透過性は、通常、それらの織物同等物の透過性より高いことが分かっているが、取扱いの安定性もまた、ステッチ留め糸の局部的な固定効率のために改善される。
【0008】
別の織物構成は、一方向繊維をポリマー材料で所定位置に結合又は積層することによって製造されるものである。幾つかの結合手法は、エポキシ結合剤、熱可塑性ベール及びポリマー糸の使用を含む。乾燥一方向構造を製造するためのこの手法は、実現することができる高レベルの繊維整列及び略ゼロのトウ間の間隙のため、予め含浸されたテープに最も近い機械的性能を確実に提供する。この非常に高いレベルの繊維のネスティングは、これらの織物構成の透過性を著しく低下させ、厚さを介した透過性が、代替スタイルよりも桁違いに低い。これにより、この布構成の使用が、透過性調整をプリフォーム構造内で実現することができる一方向テープを狭めるのにより適したものになる。これらの布でよく観察される更なる問題は、「繊維洗浄」として知られる現象であるより低いレベルの安定性である。これは、繊維の局部的な座屈を引き起こす透過プロセス中のフローフロントでの圧力差により、トウバンドルが面内偏差を有するように見える樹脂注入プロセス後に観察される効果である。この結合した種類の構成は、0度配向の補強材として適している。
【0009】
典型的には、繊維圧着及び間隙を低減することによって機械的特性が増加すると、次に透過性、特に厚さを介した透過性が大幅に低下することが分かっている。機械的性能、透過性及び布の完全性の間にトレードオフが存在する、乾燥した一方向繊維製品で見られる問題に照らして、独自のハイブリッド織布がこれらの問題に対処するために設計された。
【0010】
図5は、不織ストリップ11と織り交ぜられた連続繊維トウ10の形態の一方向繊維を有する例示的ハイブリッド織布を示す。
図6は、
図5に示す織布の断面図である。
図6を参照すると、一方向繊維トウ10は、シート状の形態で互いに平行にかつ第1の方向、例えば縦方向に、延びるように配置され、不織ストリップ11は、第1の方向を横断する第2の方向、例えば横方向に延びている。各不織ストリップは、複数のトウ上で、次いで複数のトウの下で、製織パターンで浮遊する。各繊維トウ10は、複数の繊維フィラメントの束である。不織ストリップ11は、ランダムに配置され及び/又はランダムに配向された繊維から成る軽量の不織ベールから形成される。不織繊維状ベールは、1gsm(g/m
2)から40gsm、より好ましくは3gsmから10gsmの面積重量を有する軽量の材料であることが好ましい。各不織ストリップは、フレキシブルであり、その長さに対して狭い幅を有する。1つの実施形態では、不織ストリップの幅は、5mmから40mm、好ましくは10mmから30mmであり、厚さは、10μmから60μm(0.01mmから0.05mm)である。製織パターンは、平織(
図5に示す)、繻子織又は綾織のような任意の従来の製織構造であり得る。
【0011】
上述のように、一方向繊維は、連続繊維トウの形態である。各繊維トウは、数百のより小さい連続繊維フィラメントから成る。繊維トウは、トウ当たり1000から100,000の繊維フィラメントを有し、幾つかの実施形態では、トウ当たり3000から24000のフィラメントを有し得る。繊維フィラメントは、3μmから15μm、好ましくは4μmから7μmの範囲内の断面直径を有し得る。適切な繊維は、航空宇宙用途及び自動車用途のための複合部品のような高性能複合材の構造強化材として使用される繊維である。構造繊維は、炭素(グラファイトを含む)、ガラス(Eガラス繊維又はSガラス繊維を含む)、石英、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素及び他のセラミックなどの高強度材料、並びにアラミド(ケブラーを含む)、高弾性ポリエチレン(PE)、ポリエステル、ポリ−p−フェニレン−ベンゾビスオキサゾール(PBO)、及びそれらのハイブリッドな組合せなどの硬質ポリマーから形成され得る。航空機の主要部分のような高強度の複合構造を形成するために、一方向繊維は、好ましくは500ksiを超える引張強度を有する。好ましい実施形態では、一方向繊維は、炭素繊維である。
【0012】
一方向繊維は、取扱いを容易にし、圧縮及びプロセス誘発損傷から繊維を保護し、樹脂により繊維の適合性及び湿潤を補助し、複合物性能全体を強化することを含む、複数の目的に役立つサイジング組成物及び/又は仕上げ剤でコーティングされ得る。
【0013】
上述の不織ストリップは、より大きな不織ベールをスリットすることによって形成され得、次いでスリットされた不織材料は、製織に使用される。不織ベールは、混ざり合ってランダムに配置された繊維と、繊維をまとめて保持する少量のポリマー結合剤とから成る。繊維をまとめて保持するのに十分な量の結合剤を有する不織ベールを提供することが望ましいが、結合剤の量は、得られるベールを多孔質かつ液体及び空気、特に液状樹脂に透過性がある状態を維持するほど十分に小さい。適切なポリマー結合剤には、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、コポリエステル、架橋ポリエステル、スチレンアクリル、フェノキシ及びポリウレタン、それらの組み合わせ及びコポリマーが含まれる。好ましくは、結合剤の量は、ベールの総重量に基にして5重量%から25重量%である。不織ベールは、フレキシブルであり、自己支持型であるが、これは、支持担体を必要としないことを意味する。更に、不織ベールは、別の繊維層に付着していない単層材料である。不織ベールの繊維は、短繊維フィラメント若しくは連続繊維フィラメント又はそれらの組み合わせであり得る。不織ベール用の不織繊維材料は、炭素、ガラス、金属、石英、
ポリマー及びそのコポリマー、それらのハイブリッド(例えば、炭素/ガラスハイブリッド)、及びそれらの組み合わせから選択され得る。繊維用のポリマー材料は、アラミド;ポリエステル;脂肪族ポリアミド、脂環式ポリアミド、及び芳香族ポリアミドを含むポリアミド;ポリフタルアミド;ポリアミドイミド;ポリエーテルスルホン及びポリエーテルエーテルスルホンを含むポリアリルスルホン;ポリスルホン;ポリフェニレンスルホン;ポリエーテルエーテルケトン及びポリエーテルケトンケトンを含むポリアリルエーテルケトン;ポリフェニレンスルフィド;エラストマーポリアミド;ポリフェニレンエーテル;ポリウレタン;液晶ポリマー(LCP);フェノキシ;ポリアクリロニトリル、アクリレートポリマー、及びそれらのコポリマーから選択され得る。ベールの繊維は、金属コーティングされていてもよい。好ましい実施形態では、不織ストリップは、炭素繊維からなる。
【0014】
不織繊維の多数は、約1μmから40μmの範囲の断面直径を有し、繊維の大部分は、より好ましくは、直径約4μmから20μmの範囲にある。
【0015】
1つの実施形態では、織布(一方向繊維トウと不織ストリップとの組み合わせに基づく)は、50gsmから400gsm、好ましくは100gsmから200gsmの面積重量を有する。
【0016】
本明細書に記載されるハイブリッド布材料の利点は、不織ベールの厚さが薄いことに起因する構造繊維の極端に低い圧着;不織ストリップの多孔質構造に起因する改善した透過性;プリフォーム又は最終複合積層体の層間領域を強化する不織ストリップからの改善された破壊挙動;連続布形態の軸外繊維を有することからプリフォーム準備中に改善されたレイアップ効率;不織布が安定結合剤及び積層布を含有する場合の潜在的に改善された取扱挙動を含む。更に、本明細書に開示される織物は、0度、90度、+θ度又は−θ度の繊維配向を提供するように様々な構成で製造することができるだろう。
【0017】
不織ベールの形成方法
上述の不織ベールは、例として、従来の湿式プロセスによって製造され得る。湿式法では、結合剤、界面活性剤、粘度調整剤、消泡剤及び/又は他の化学薬剤を含有する水スラリーに湿った短繊維が分散される。短繊維が一旦スラリーに導入されると、スラリーは、繊維が分散するように、激しく攪拌される。繊維を含有するスラリーを移動スクリーン上に堆積させ、水のかなりの部分を除去してウェブを形成する。得られたマットを乾燥させて残っている水を除去し、結合剤を硬化させる。形成された不織マット/ベールは、ランダムな配向で配置された分散した個々の繊維フィラメントの集合体である。湿式プロセスは、典型的には、繊維及び/又は重量の均一な分散が望ましいときに使用される。
【0018】
最終不織ベールは、例えば、サイジング/結合剤を除き、乾燥ベースで約93重量%から約99重量%の繊維など、乾燥ベースで少なくとも約90重量%の繊維(サイジング/結合剤化学物質を除く)を含む。
【0019】
追加の結合剤は、形成後だが製織前に、複合部品の製造中にベールの安定性を改善し、プリフォームの圧縮を助けるために、不織ベールに塗布され得る。不織ベール安定化のための適切な結合剤は、エポキシ樹脂、熱可塑性ポリマー、又はそれらの組み合わせを含む。不織ベールの安定化のために特に適した結合剤は、米国特許第8,927,662号に開示されたポリアリルエーテル熱可塑性−エポキシ結合剤であり、その内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれている。この結合剤は、乾式バーコーティングのような従来のコーティング技術を用いてベールに粉末形態で塗布され得、ロールオーバーロール又はナイフオーバーロールコーティング機を用いて剥離紙上に乾燥粉末をコーティングし、次いで粉末は、ベールの上に移される。安定化のための別の適した結合剤は、米国特許公開公報第2014/019187号に記載の液体結合剤組成物であり、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。2015年6月25日に出願された米国特許出願第14/750,327号に開示されている液体結合剤も適切である。液体結合剤は、例として、ディップコーティングによってベールに塗布され得る。
【0020】
追加結合剤が使用される場合、最終ベール中の結合剤の総量は、25重量%を超えてはならない。
【0021】
ハイブリッド織布の形成方法
本明細書に開示されるハイブリッド織布は、標準レピア織機で製造され得る。一方向繊維(例えば、炭素繊維)は、FAW要件に基づいてオフラインで正しい幅に広げられる。不織布は、先ほど詳しく見たプロセスで幅広い形に製造され、必要な幅にスリットされる。広げられた繊維及び不織ストリップは、個々のカセット上に巻き付けられ、織機の軸に取り付けられる。目標の布幅を実現するためには、縦方向に複数の繊維カセットが必要であり、他方で、織りプロセス中に横糸挿入が個別に行われるので、単一カセットの不織ストリップが必要とされる。縦糸繊維が織機を通って供給されると、隣接する繊維が反対方向に(即ち、上又は下に)引っ張られ、横糸不織ストリップがシェッドを通して引っぱられ、織りパターンを形成する。横糸不織ストリップが一旦位置付けられると、縦糸繊維が解放され、張力下で引っ張られて、製織が強化される。
【0022】
用途
本明細書に開示されているハイブリッド織布材料は、このようなRTMプロセスで使用される液状樹脂に対して多孔質で透過性があるため、RTMプロセスで使用されるプリフォームを成形するのに特に適している。プリフォームを形成するために、複数プライの布材料が所望の厚さに積層される。
【0023】
繊維を所望の形状及び位置に保持するのに十分であるが、得られるプリフォームを多孔質に維持し、その後の成形プロセス中にマトリックス樹脂で含浸できるほど十分小さい結合剤含量を有する繊維プリフォームを提供することが望ましいだろう。加えて、注入時間を短縮し、繊維のウエットアウトを改善するために、RTM樹脂に対して改善された透過性を有する一方向繊維プリフォームを提供することが望ましいだろう。この目的のために、プリフォーム中の結合剤の量は、好ましくは、プリフォームの総重量に基づいて15重量%未満である。
【0024】
プリフォームを閉じた型に入れる。型を所定の温度まで加熱し、低粘度の樹脂を型内に注入してプリフォームに樹脂を注入する。次いで、樹脂を硬化させて複合部品を形成する。
【0025】
代替的には、ハイブリッド織布材料が、従来の樹脂含浸技術を用いてプリプレグを形成するために使用され得る。
【実施例】
【0026】
図7は、本開示の1つの実施形態に従って製造されたハイブリッドベール織布を示す。一方向炭素繊維トウ(Toho TenaxのIMS65)は、従来の製織プロセスを用いて平織構造の不織炭素繊維のストリップと共に織り込まれた。炭素トウは、幅が8mmであり、不織布炭素ストリップは、幅が16mmである。不織布炭素ストリップは、8gsmの面積重量を有し、5gsmのCycom(登録商標)7720結合剤(Cytec Engineered Materials製)が粉末形態でコーティングされた。織物は、110gsmの面積重量を有している。
【0027】
10のプライの上記ハイブリッドベール織物が、プリフォームを形成するために積層された。プリフォームが、対流オーブンの真空バッグの下で130℃で15分間加熱され、プライを固めるために真空下で25℃まで冷却された。
【0028】
比較のために、2つの追加のプリフォームが、従来の単一織布(uniweave fabric)(Sigmatex Ltdによって供給される)及び乾いた一方向テープ(Sigamtex Ltdによって供給される)を使用して同じ方法で構成された。
【0029】
プリフォームの半分にPRISM(登録商標)EP2400(Cytec Engineered Materials製)が注入され、硬化させた。次いで、得られた複合積層体を、ダイヤモンドチップ冷却鋸を用いて試験片に切断し、Zwick試験機でEN試験法基準によって試験した。これらの試験結果を表1に記録する。表1において、積層体コードDT、UW及びVWは、乾燥テープ、単一織布及びベール−織布でそれぞれ形成された硬化複合積層体を指す。
【0030】
プリフォームの他の部分を使用して、面内の透過度性能を測定した。純粋な面内流動挙動を確実にするために、流れの補助なしにプリフォームを詰めた。注入された樹脂の流動前面及び体積を時間の関数としてモニターした。また、注入温度及び達成された繊維体積における樹脂の粘度を知ることにより、プリフォームの透過性はダルシーの法則を用いて計算することができる:
ここで、
K=透過度(10
−Xμm
2)
X=注入長(m)
η=樹脂粘度(m.Pas)
FVF=繊維体積分率(%)
Δρ=圧力差(mbar)
t=時間(時間)
【0031】
結果が
図8に示される。
図8から、UDテープは、プリフォームを通る樹脂の流れを制限する高度に整列した繊維のために、平面透過性が非常に悪いこと示したことが明らかである。対照的に、織られたUDは、より優れた透過性能をもたらす圧着を示した。新規のベール織り構成は、炭素繊維における高度の整列を維持しながら、布製品内の流動特性を向上させる不織ストリップを包含するために最も高い透過性能を示した。
【0032】
RTM法は、乾燥した繊維プリフォームの一端側から他端側に向かって面内方向に樹脂を注入する。一方向繊維の基織物構造に不織炭素繊維を混入させると、透過性及び面内特性(0度の機械的性能)が改善することが判明した。乾燥テープ(DT)及び単一織布(UW)から形成されたプリフォームと比較して、ハイブリッドベール−織物(VW)から形成されたプリフォームに透過性の顕著な増加が見られた。
単一織布(UW)と比較して+56%
乾燥テープ(DT)と比較して+782%