特許第6693985号(P6693985)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6693985
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】土耕コンテナ栽培システム
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/00 20180101AFI20200427BHJP
【FI】
   A01G9/00 J
   A01G9/00 C
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-42556(P2018-42556)
(22)【出願日】2018年3月9日
(65)【公開番号】特開2018-148882(P2018-148882A)
(43)【公開日】2018年9月27日
【審査請求日】2018年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2017-45450(P2017-45450)
(32)【優先日】2017年3月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100122574
【弁理士】
【氏名又は名称】吉永 貴大
(72)【発明者】
【氏名】座間 一明
(72)【発明者】
【氏名】大宮 徳
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/061200(WO,A1)
【文献】 特開2013−111046(JP,A)
【文献】 特開平07−255288(JP,A)
【文献】 特開平02−283222(JP,A)
【文献】 特開2018−011542(JP,A)
【文献】 実開昭49−098341(JP,U)
【文献】 実開平05−074243(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00−9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土耕栽培を行うためのコンテナと、前記コンテナを移送するための移送手段と、前記コンテナに水及び養液を供給するための養液供給手段と、植物の生長に必要な光を供給するための光源と、を備え、閉鎖空間内において植物の土耕栽培を行う土耕コンテナ栽培システムであって、
前記コンテナ、コンテナ底部の空間に水及び養液を供給するための水供給パイプを備え、
前記養液供給手段が、前記水供給パイプの開口部から前記コンテナ底部の空間に前記水及び/又は養液を供給し、前記水及び/又は養液が前記コンテナ底部の空間に拡散された後、土壌に移動するように構成された、
土耕コンテナ栽培システム。
【請求項2】
前記養液供給手段を複数備え、各養液供給手段から供給される養液の成分及び/又は濃度が異なるものである、請求項1に記載の土耕コンテナ栽培システム。
【請求項3】
前記コンテナに、有機培地と、粘土鉱物とを含む土壌が投入されてなる、請求項1又は2に記載の土耕コンテナ栽培システム。
【請求項4】
前記水供給パイプが、略U字状に形成されてなり、前記コンテナ底部の空間に水や養液を漏出するための穴が少なくとも1以上形成されてなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の土耕コンテナ栽培システム。
【請求項5】
さらに、土壌に植え付けされる植物の根が通過するのを阻止して水を通過させる防根シートと、
前記防根シートの下に積層されて、土壌に水を供給する吸水シートと
が、前記水供給パイプの一部を覆うように前記コンテナ内の土壌の下に設置されてなる、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の土耕コンテナ栽培システム。
【請求項6】
さらに、前記コンテナ底部に設けられ前記水供給パイプを支える支持体を備えた、請求項1〜5のいずれか1項に記載の土耕コンテナ栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工場内で所定の容積からなるコンテナを使用して土壌栽培を行う土耕コンテナ栽培システムに関する。
【背景技術】
【0002】
「植物工場」とは、施設内の温度、光、炭酸ガス、養液などの環境条件を自動制御装置で最適な状態に保ち、作物の播種、育苗、定植、収穫、出荷調整まで、周年計画的に一貫して行う生産システムのことをいう。近年、水耕栽培(養液栽培)方式で植物を育成する植物工場が数多く実用化されている。しかしながら、水耕栽培(養液栽培)方式の植物工場で実用化されている植物は主にレタス、クレソン、バジルなどの葉菜類に限られており、イニシャルコスト及びランニングコストがかかる植物工場では、単価が安い葉物野菜のみでは安定した経営を持続することは困難である。また、水耕栽培(養液栽培)方式では根部が常に養液に接しているため水分含量が高くなることから、みずみずしさが要求される野菜の栽培には適しているが、水分の吸収を制限することで糖度が高くなる(甘味が増す)野菜の栽培には適していない。さらに、果菜類や根菜類は葉菜類とは水分の要求特性や養分吸収特性が異なること、養液中の直根は肥大化が進まないことなどから、水耕栽培(養液栽培)方式の植物工場では果菜類や根菜類の栽培は従来から困難とされてきた。
【0003】
そこで、根菜類の栽培にも適した植物栽培システムが提案されている。例えば、特開2008−118957号公報には、平面視において互いに重なるように、複数の栽培ベッドが多段配置されており、各栽培ベッドには、植物が栽培されるモンモリナイトを含む培地が保持されており、各栽培ベッドの上方には、前記培地で栽培されている植物に照射される光の光源として、蛍光ランプと、植物の生育促進に有効な波長の光を放射する発光ダイオードが配置された、根菜類の栽培にも適した植物工場が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−118957公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記のような植物工場では、水が流れる凹部状の溝が形成された栽培ベッドに植物栽培用コンテナが設置され、植物栽培用コンテナには、吸水性を有する吸水シートの一部が溝を流れている水に浸漬し、毛細管現象を利用することで、コンテナ内に水分を供給するような構造となっている。
【0006】
しかしながら、このような構造の水分供給方式では、水に浸漬している吸水シートが水に接している分だけ水を吸収してしまい、細かい水分コントロールは困難乃至不可能である。そのため栽培初期は水分を十分に供給し、栽培後期は水分の供給を抑制することで糖度の高い野菜を栽培するといった制御を行うことができない。また、根菜類は養分吸収特性が一定ではない為、養液の濃度(EC値)を容易に制御できる水耕式の植物工場と比較して、土耕式の植物工場では高度な施肥設計技術が必要となる。
【0007】
従って本発明の目的は、葉菜類、果菜類及び根菜類ともに品質が高く食味に優れた野菜を栽培することができる栽培システムであって、自動化が容易で、根菜類、果菜類、葉菜類の養分吸収特性にも合わせた肥料供給を可能とし、糖度の高い野菜栽培を可能とする、土耕栽培システムに関する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するため、土耕栽培を自動化できるシステムについて種々検討を行った。その中で、生育段階に合わせて土壌中の水分と添加する養分を制御することにより、葉菜類、果菜類及び根菜類のいずれも栽培可能となり、糖度の高い野菜を栽培することが可能であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は係る知見に基づきなされたものであり、土耕栽培を行うためのコンテナと、前記コンテナを移送するための移送手段と、前記コンテナに水及び養液を供給するための養液供給手段と、植物の生長に必要な光を供給するための光源と、を備え、閉鎖空間内において植物の土耕栽培を行う土耕コンテナ栽培システムであって、前記コンテナが、コンテナ底部に水を供給するための水供給パイプを備え、前記養液供給手段が、前記水供給パイプの開口部から水及び/又は養液を供給するように構成された、土耕コンテナ栽培システムを提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の土耕コンテナ栽培システムによれば、根菜類、果菜類、葉菜類の養分吸収特性に合わせた肥料供給を自動化することができ、葉菜類、果菜類及び根菜類ともに品質が高く食味に優れた野菜を栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る土耕コンテナ栽培システム1の一例を示す概略図である。
図2】土耕コンテナ栽培システム1に使用されるコンテナを説明するための図である。
図3図2に示す水供給パイプ14の部分拡大図である。
図4】土耕コンテナ栽培システム1に使用されるコンテナの他の例を説明するための図である。
図5】実施形態に係る土耕コンテナ栽培システムを使用してカブを収穫した後のコンテナの底層部から上層部にかけての各水分率(pF値)を示す図である。
図6】実施形態に係る土耕コンテナ栽培システムを使用して根菜類を栽培した例を示す図である。
図7】実施形態に係る土耕コンテナ栽培システムを使用して葉菜類及び果菜類を栽培した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る土耕コンテナ栽培システム1の一例を示す概略図である。説明の都合上省略しているが、土耕コンテナ栽培システム1は閉鎖空間内に設置され、作物の生長に必要な光源も設置している。
【0013】
本実施形態に係る土耕コンテナ栽培システム1は、土耕栽培を行うためのコンテナ10と、前記コンテナを移送するための移送手段20と、前記コンテナに水及び養液を供給するための養液供給手段30と、を備えている。
【0014】
図2は、土耕コンテナ栽培システム1に使用されるコンテナを説明するための図である。コンテナ10は、コンテナ本体12と、コンテナ底部に水及び養液を供給するための水供給パイプ14を備えている。そして、土壌16の下にあって、土壌16に植え付けされる植物18の根が通過するのを阻止して水を通過させる防根シート40と、この防根シート40の下に積層されて、土壌16に水を供給する吸水シート42とが、水供給パイプ14の一部を覆うように設置されている。さらに、水供給パイプ14を支え、コンテナ底部に一定の空間Xを設けるための支持体44が形成されている。コンテナ本体12は、水供給パイプ14と土壌16と植物18を収容しうる容積と強度を有し、かつ、水を通さない材料から形成されているものであれば特に限定されない。図においてはコンテナ底部の空間Xが広く形成されているように見えるが、実際には土壌16の重みで防根シート40と吸水シート42が押し付けられ、支持体44により形成されたわずかな隙間しか形成されていない。
【0015】
水供給パイプ14は、灌水時に開口上部14aから水や養分が投入され、コンテナの底部の空間Xに水や養分が到達するように円筒形状に形成されていることが好ましい。但し、水や養液がコンテナ底部の空間Xに供給することができれば形状は特に限定されない。例えば、図2に示すように、水供給パイプ14の全体形状は略U字状であることが好ましい。
【0016】
図3は、図2に示す水供給パイプ14の部分拡大図である。水供給パイプ14には、その底部に水や養液を漏出するための穴14bが少なくとも1以上形成されており、穴14bから水や溶液が矢印方向でコンテナ底部の空間Xに供給される。穴14bの大きさは任意に設計することができるが、500cc/30secの速度で供給される程度の穴であることが好ましい。なお、図2図3では穴14bの向きが下方向に形成されている例を示したがこれに限定されることはなく、例えば、水供給パイプ14の側面に穴を形成してもよい。
【0017】
水供給パイプ14の上部には、防根シート40と吸水シート42が積層されており、水供給パイプ14の穴14bから供給された水及び養分は、コンテナ底部の空間Xに拡散された後、吸水シート42及び防根シート40を介して土壌16に供給される。
【0018】
図4は、図2に示すコンテナの他の実施形態を示す図である。本実施形態のコンテナ11は、略I字状の水供給パイプ15を備えており、水供給パイプ15の灌水時に上開口部15aから水や養分が投入され、下開口部15bからコンテナの底部の空間Xに水や養分が到達するように構成されている。なお、図4ではコンテナ本体13の端部に水供給パイプ15が設置されているがこれに限定されることはなく、コンテナ本体13の中央部に設置してもよい。なお、図には示していないが、図2図3で示した防根シート40と吸水シート42を使用してもよい。
【0019】
なお、コンテナ10は透水性がなく、水分、土壌、肥料などが外部へ流出しないようになっている。また、植物は制限された領域でしか根を張ることができないため、根域の環境制御が容易であり、根に適度なストレスもかけやすい。すなわち、根域制限下で根にストレスをかけることにより、野菜は糖分を蓄積しやすくなり、食味の良好な野菜を栽培することが可能となる。
【0020】
コンテナ10には、植物を栽培するための土壌が使用される。本実施形態で使用する土壌は、保水力(容水量)及び保肥力(陽イオン交換容量:CEC)が高く、かつ、不純物が少なく物性が安定している土壌であることが好ましい。例えば、ピートモスのような有機培地と、モンモリロナイトのような粘土鉱物を含む土壌であることが好ましい。
【0021】
播種、育苗及びコンテナ10への定植は別途行う。なお、後述するように、コンテナ10に投入する土壌は新品のものを使用することもできるが、栽培後に回収した土壌をリサイクルして使用することもできる。
【0022】
養液供給手段30は、コンテナ10の水供給パイプ14の開口部14aから水及び/又は養液を供給するように構成されている。養液供給手段30と水供給パイプ14の開口部14aとの位置合わせは、ベルトコンベア等からなる移送手段20が、コンテナ10を養液供給手段30のノズル(図示せず)の位置に移送することで行われ、配管32を介してノズルから水及び/又は養液を注入する。
【0023】
水又は養液の流れは図2に示すように、水供給パイプ14の上開口部14aから注入された後、穴14bからコンテナ10の空間Xに到達し、吸水シート42及び防根シート40を介して土壌16に移動する。添加される水又は養液の量は、土壌16の低層部のPF値が1.8前後となるように制御される。低層部の水分率をそのように制御することで、栽培後期には、低層部の根が生育に必要な水を吸収する一方、上層部の根は、土壌の乾燥により水ストレスがかけられた状態となり、植物(作物)の可食部の糖分の蓄積量を高めることができる。但し、上層部の土壌が乾燥しすぎると植物の生長に影響が出る恐れがあるため、水分率の下限はPF値が3.0とすることが好ましい。
【0024】
ここで、「pF値」とは、土の中の水が土の毛管力によって引き付けられている強さの程度を表す値を意味する。換言すれば、土の湿り具合を表す値である。十分に水を含んでいる土壌の場合pF値は低く、植物の根が水を吸いやすいことを示す。逆に土壌が乾燥してくるとpF値は高くなり、水を吸い上げるには高い力が必要となる。
【0025】
本実施形態において、養液供給手段30は複数備えていることが好ましい。植物は生長段階で栄養要求特性が異なるため、各養液供給手段30から供給される養液の成分及び/又は濃度を異なるものとすることで、その時に最も適切な養分を供給することが可能となる。
【0026】
図1では養液供給手段30を2つ設置した例を示したが、本実施形態ではこれに限定されることなく、1つでもよく、3つ以上設置してもよい。また、養液の成分は栽培する葉菜類、果菜類、根菜類に応じて適宜設定される。
【0027】
図5は、本実施形態に係る土耕コンテナ栽培システムを使用してカブを収穫した後のコンテナの低層部から上層部までの各水分率(pF値)を示す図である。
【0028】
未使用の新品土、リサイクルして再利用した連続使用土及び黒ボク土の各々について、水分率とpF値を測定したところ、図に示すような関係が得られた。
【0029】
図6は、実施形態に係る土耕コンテナ栽培システムを使用して根菜類を栽培した例を示す図である。また、図6には収穫した各根菜類について、糖度計により測定した糖度を示す。
【0030】
図6に示すように、本実施形態の土耕コンテナ栽培システム1は、蕪(カブ)、人参、二十日大根、辛味大根といった根菜類について、糖度が高く、健康的な根菜類を栽培することができる。
【0031】
図7は、実施形態に係る土耕コンテナ栽培システムを使用して葉菜類及び果菜類を栽培した例を示す図である。
【0032】
図7に示すように、本実施形態の土耕コンテナ栽培システム1は、サニーレタス、バジル、ビート、水菜、フリルアイス、コリアンダー、イエローステム、グリーンマスタード・レッドマスタード、アイスプラント、ミニチンゲン菜、アマランサスといった葉菜類、およびトマトなどの果菜類についても、優れた生産能力を示すことが実証された。
【符号の説明】
【0033】
1…土耕コンテナ栽培システム
10、11…コンテナ
12、13…コンテナ本体
14、15…水供給パイプ
14a、15a…上開口部
14b…穴
15b…下開口部
16…土壌
18…苗
19…収穫物
20…移送手段
30…養液供給手段
32…配管
40…防根シート
42…吸水シート
44…支持体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7