特許第6694037号(P6694037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694037
(24)【登録日】2020年4月20日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】膵内分泌細胞へのヒト胚性幹細胞の分化
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20200427BHJP
【FI】
   C12N5/071
【請求項の数】19
【外国語出願】
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-205547(P2018-205547)
(22)【出願日】2018年10月31日
(62)【分割の表示】特願2015-516197(P2015-516197)の分割
【原出願日】2013年6月6日
(65)【公開番号】特開2019-50810(P2019-50810A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2018年11月30日
(31)【優先権主張番号】61/657,160
(32)【優先日】2012年6月8日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】レザニア,アリレザ
【審査官】 西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−533500(JP,A)
【文献】 特表2012−507289(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/081222(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0004152(US,A1)
【文献】 国際公開第2011/079017(WO,A1)
【文献】 特表2009−528066(JP,A)
【文献】 米国特許第7326572(US,B2)
【文献】 特表2006−500003(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/160066(WO,A1)
【文献】 Stem Cell Rev.,2009年,Vol.5,pp.159-173
【文献】 Stem Cell Research,2011年10月11日,Vol.8,pp.274-284
【文献】 Development,2011年,Vol.138,pp.861-871
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/
C12N 15/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチビンA又はアクチビンCを含む培地において膵内胚葉細胞を培養することを含む、ホルモン発現細胞において、ソマトスタチンの発現を増強し、インスリン、グルカゴン及びグレリンの発現を抑制する、方法。
【請求項2】
アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団が、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団より多くのソマトスタチンを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団におけるインスリンの発現が、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけるインスリンの発現と比較して抑制される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団におけるグルカゴンの発現が、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけるグルカゴンの発現と比較して抑制される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団におけるグレリンの発現が、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけるグレリンの発現と比較して抑制される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記膵内胚葉細胞が、CDX2又はSOX2を発現しない、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
アクチビンAを含む培地において膵内胚葉細胞を培養することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
アクチビンCを含む培地において膵内胚葉細胞を培養することを含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地において膵内胚葉細胞を処理することによって、NKX6.1の発現を増強する方法。
【請求項10】
セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理した前記膵内胚葉細胞集団が、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理されていない膵内胚葉細胞に比較して強化された量のNKX6.1を発現する、請求項に記載の方法。
【請求項11】
インスリン、グルカゴン、及びグレリンの発現レベルが、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理した膵内胚葉細胞において、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理していない膵内胚葉細胞に比較して影響を受けない、請求項に記載の方法。
【請求項12】
セマフォリン3aを含む培地で膵内胚葉細胞を処理することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項13】
エピゲンを含む培地で膵内胚葉細胞を処理することを含む、請求項に記載の方法。
【請求項14】
前記膵内胚葉細胞が多能性幹細胞の段階的分化によって取得される、請求項1又はに記載の方法。
【請求項15】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞に由来する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒト多能性幹細胞がヒト胚性多能性幹細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
多能性幹細胞を胚体内胚葉細胞に分化させること、
前記胚体内胚葉細胞を原腸管細胞に分化させること、
前記原腸管細胞を前腸細胞に分化させること、
前記前腸細胞を膵前腸前駆細胞に分化させること、および
前記膵前腸前駆細胞を前記膵内胚葉細胞に分化させること
をさらに含む、請求項1又はに記載の方法。
【請求項18】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記膵内胚葉細胞がヒト膵内胚葉細胞である、請求項1又はに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2012年6月8日に出願された、米国特許仮出願第61/657,160
号の利益を主張するものであり、その全体が、あらゆる目的について参照により本明細書
に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、細胞分化の分野にある。より具体的には、本発明は、内分泌細胞への多能性
幹細胞の分化の調節因子として、エフリンリガンド及びスフィンゴシン−1−リン酸塩の
使用を開示する。
【背景技術】
【0003】
I型糖尿病の細胞置換療法の進歩及び移植可能なランゲルハンス島の不足により、生着
に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つ
の手法として、例えば、胚性幹細胞のような多能性幹細胞から機能性のβ細胞を生成する
ことがある。
【0004】
脊椎動物の胚発生において、多能性細胞は、原腸形成として既知のプロセスにて、3つ
の胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)を含む細胞のグループを生じる。例えば、甲状腺
、胸腺、膵臓、腸、及び肝臓などの組織は、内胚葉から中間ステージを経て発達する。こ
のプロセスにおける中間段階は、胚体内胚葉の形成である。胚体内胚葉細胞は、HNF3
β、GATA4、MIXL1、CXCR4、及びSOX17などの多数のマーカーを発現
する。
【0005】
原腸形成の終了までに、内胚葉は、内胚葉の前部、中間、及び後部の領域を特異的にマ
ークする因子のパネルの発現によって認識することができる前部−後部ドメインに分割さ
れる。例えば、Hhex及びSox2は内胚葉の前領域を特定し、Cdx1、2及び4は
後半分を特定する。
【0006】
内胚葉組織の移行は、内胚葉を腸管の領域化に役立つ異なった中胚葉組織に近接させる
。これは、例えば、FGF、Wnt、TGF−B、レチノイン酸(RA)、及びBMPリ
ガンド、並びにそれらのアンタゴニストのような多数の分泌された因子によって達成され
る。例えば、FGF4及びBMPは推定後腸内胚葉においてCdx2の発現を促進し、前
方の遺伝子Hhex及びSOX2の発現を阻害する(2000 Development
,127:1563〜1567)。WNTシグナル伝達はまた、後腸の発達を促進し、前
腸の運命を阻害するために、FGFシグナル伝達と平行して作用することが示されている
(2007 Development,134:2207〜2217)。最後に、間葉に
よって分泌されるレチノイン酸は、前腸−後腸の境界を調節する(2002 Curr
Biol,12:1215〜1220)。
【0007】
特異的転写因子の発現レベルは、組織のアイデンティティを指定するために使用できる
可能性がある。原腸管への胚体内胚葉の形質転換中に、腸管は、制限された遺伝子発現パ
ターンにより分子レベルで観察することができる広いドメインに領域化される。例えば、
腸管で領域化された膵臓ドメインは、PDX−1の非常に高い発現及びCDX2並びにS
OX2の非常に低い発現を示す。同様に、Foxe1の高レベルの存在は、食道組織の指
標である。肺組織において高度に発現されるのはNKX2.1である。SOX2/Odd
1(OSR1)は胃組織において高度に発現される。PROX1/Hhex/AFPの発
現は肝組織において高い。SOX17は胆管構造の組織で高度に発現される。PDX1、
NKX6.1/PTf1a、及びNKX2.2は膵臓組織において高度に発現される。C
DX2の発現は、腸組織において高い。上記要約は、Dev Dyn 2009,238
:29〜42及びAnnu Rev Cell Dev Biol 2009,25:2
21〜251からの引用である。
【0008】
膵臓の形成は、膵臓内胚葉への胚体内胚葉の分化から生じる(2009 Annu R
ev Cell Dev Biol,25:221〜251;2009 Dev Dyn
,238:29〜42)。背側と腹側の膵臓ドメインは、前腸上皮から生じる。また、前
腸は、食道、気管、肺、甲状腺、胃、肝臓、膵臓、及び胆管系を生じさせる。
【0009】
膵臓内胚葉の細胞は膵臓−十二指腸ホメオボックス遺伝子PDX1を発現する。PDX
1が存在しない場合、膵臓は、腹側芽及び背側芽の形成を越えて発達しない。したがって
、PDX1の発現は、膵臓器官形成において重要な工程を印している。成熟した膵臓は、
他の細胞型の中でも、外分泌組織及び内分泌組織を含む。外分泌組織及び内分泌組織は、
膵臓内胚葉の分化によって生じる。
【0010】
D’Amourらは、高濃度のアクチビン及び低血清の存在下でのヒト胚性幹(ES)
細胞由来の胚体内胚葉の濃縮培地の生産を記述している(Nature Biotech
nol 2005,23:1534〜1541;米国特許第7,704,738号)。マ
ウスの腎臓被膜下でのこれらの細胞の移植は、内胚葉組織の特徴を有する、より成熟した
細胞への分化をもたらした(米国特許第7,704,738号)。ヒト胚性幹細胞由来の
胚体内胚葉細胞は、FGF−10及びレチノイン酸の添加後、PDX1陽性細胞に更に分
化することができる(米国特許公開第2005/0266554A1号)。免疫不全マウ
スの脂肪パッドにおけるこれらの膵臓前駆細胞のその後の移植は、3〜4ヶ月の成熟期の
後に、機能的膵内分泌細胞の形成をもたらした(米国特許第7,993,920号及び米
国特許第7,534,608号)。
【0011】
Fiskらは、ヒト胚性幹細胞からの膵島細胞の産生のためのシステムを報告している
(米国特許第7,033,831号)。この場合、分化経路は3つの段階に分割された。
ヒト胚性幹細胞は、最初に、酪酸ナトリウムとアクチビンAとの組み合わせを用いて内胚
葉に分化された(米国特許第7,326,572号)。次に細胞をノギンなどのBMPア
ンタゴニストと共に、EGF又はベータセルリンと組み合わせて培養して、PDX1陽性
細胞を生成した。最終分化は、ニコチンアミドにより誘発された。
【0012】
小分子阻害剤もまた、膵内分泌前駆細胞の誘導のために使用されている。例えば、TG
F−B受容体及びBMP受容体の小分子阻害剤(Development 2011,1
38:861〜871;Diabetes 2011,60:239〜247)は、有意
に膵内分泌細胞の数を増すために使用されている。加えて、小分子活性化剤もまた、胚体
内胚葉細胞又は膵臓前駆細胞を生成するために使用されている(Curr Opin C
ell Biol 2009,21:727〜732;Nature Chem Bio
l 2009,5:258〜265)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ヒト多能性幹細胞から膵臓細胞を産生するためのプロトコルの改善において、優れた研
究が行われてきたが、機能性内分泌細胞及び特定のベータ細胞をもたらすプロトコルを作
成する必要が依然として存在する。本出願では、エフリンリガンド及びスフィンゴシン−
1−リン酸塩のクラス又はスフィンゴシン受容体のアゴニストが内分泌細胞の生成を強化
し、内分泌ホルモン及び内分泌腺前駆細胞のクラスタリングを加速することを実証する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
一実施形態において、本発明は、エフリンA4又はエフリンA3を含む培地において膵
内胚葉細胞集団を培養することによって、インスリン及びNKX6.1の発現を増強する
方法に関する。いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞集団は、CDX2又はSOX
2を実質的に発現しない。いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞集団は、多能性細
胞の段階的分化によって取得される。いくつかの実施形態において、多能性細胞は、ヒト
胚性多能性細胞である。
【0015】
一実施形態において、本発明は、アクチビンA又はアクチビンCを含む培地において膵
内胚葉細胞を培養することによって、インスリン、グルカゴン、及びグレリンの発現を抑
制する一方、ソマトスタチンの発現を増強する方法に関する。いくつかの実施形態におい
て、アクチビンA又はアクチビンCで処理した膵内胚葉細胞集団は、アクチビンA又はア
クチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団としてより多くのソマトスタチンを発現す
る。いくつかの実施形態において、アクチビンA又はアクチビンCで処理した膵内胚葉細
胞集団におけるインスリンの発現は、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵
臓内胚葉細胞集団におけるインスリンの発現と比較して抑制される。いくつかの実施形態
において、アクチビンA又はアクチビンCで処理した膵臓内胚葉細胞集団におけるグルカ
ゴンの発現は、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけ
るグルカゴンの発現と比較して抑制される。いくつかの実施形態において、アクチビンA
又はアクチビンCで処理した膵内胚葉細胞集団におけるグレリンの発現は、アクチビンA
又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけるグレリンの発現と比較して
抑制される。いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞は、CDX2又はSOX2を実
質的に発現しない。いくつかの実施形態において、アクチビンA又はアクチビンCで処理
した膵内胚葉細胞は、多能性細胞の段階的分化によって取得される。いくつかの実施形態
において、膵臓内胚葉細胞の由来元である多能性細胞は、ヒト胚性多能性細胞である。
【0016】
一実施形態において、本発明は、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地において膵
内胚葉細胞を処理することによって、NKX6.1の発現を増強する方法を参照する。い
くつかの実施形態において、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理した膵内胚
葉細胞集団は、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理していない膵内胚葉細胞
と比較して、強化された量のNKX6.1を発現する。いくつかの実施形態において、セ
マフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理した膵内胚葉細胞におけるインスリン、グ
ルカゴン、及びグレリン等のホルモンの発現レベルは、セマフォリン3a又はエピゲンを
含む培地で処理していない膵内胚葉細胞と比較して、影響を受けない。いくつかの実施形
態において、膵内分泌細胞は、CDX2又はSOX2を実質的に発現しない。いくつかの
実施形態において、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理した膵内胚葉細胞は
、多能性細胞の段階的分化によって取得される。いくつかの実施形態において、膵内胚葉
細胞の由来元である多能性細胞は、ヒト胚性多能性細胞である。
【0017】
いくつかの実施形態において、本発明は、エフリンA4、エフリンA3、アクチビンA
、アクチビンC、セマフォリン3a、又はエピゲンを含む培地において膵内胚葉細胞を培
養することを含む、多能性細胞を分化する段階的な方法に関する。いくつかの実施形態に
おいて、膵内胚葉細胞は、エフリンA4又はエフリンA3を含む培地において培養される
。いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞は、アクチビンA又はアクチビンCを含む
培地において培養される。いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞は、セマフォリン
3a、又はエピゲンを含む培地において培養される。いくつかの実施形態において、膵内
胚葉細胞の由来元である多能性幹細胞は、ヒト胚性多能性幹細胞である。
【0018】
一実施形態において、本発明は、スフィンゴシン−1受容体アゴニストで膵内分泌細胞
を処理することによって、内分泌腺の発現を誘発する方法に関する。いくつかの実施形態
において、膵内分泌細胞を処理するために使用されるスフィンゴシン−1受容体アゴニス
トは、スフィンゴシン−1−リン酸塩(S1P)である。
【0019】
本発明の実施形態として、本発明の方法によって調製される方法、及び本発明の細胞を
使用する方法も意図される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】実施例1に記載のように分化したヒト胚幹細胞株H1の細胞において、インスリンの遺伝子の発現のリアルタイムPCR分析からのデータを示す。
図1B】実施例1に記載のように分化したヒト胚幹細胞株H1の細胞において、ソマトスタチンの遺伝子の発現のリアルタイムPCR分析からのデータを示す。
図1C】実施例1に記載のように分化したヒト胚幹細胞株H1の細胞において、グレリンの遺伝子の発現のリアルタイムPCR分析からのデータを示す。
図1D】実施例1に記載のように分化したヒト胚幹細胞株H1の細胞において、グルカゴンの遺伝子の発現のリアルタイムPCR分析からのデータを示す。
図1E】実施例1に記載のように分化したヒト胚幹細胞株H1の細胞において、PDX−1の遺伝子の発現のリアルタイムPCR分析からのデータを示す。
図1F】実施例1に記載のように分化したヒト胚幹細胞株H1の細胞において、NKX6.1の遺伝子の発現のリアルタイムPCR分析からのデータを示す。
図1G】実施例1に記載のように分化したヒト胚幹細胞株H1の細胞において、NGN3の遺伝子の発現のリアルタイムPCR分析からのデータを示す。
図2】インスリンに対して免疫染色した細胞の画像を示す。図2Aは対照、図2Bは50ng/mLのエフリンA3で処理した細胞、図2Cは、実施例2に記載のように、100ng/mLのエフリン−A3で処理した細胞を示す。
図3】インスリンに対して免疫染色した細胞の画像を示す。図3Aは対照、図3Bは50ng/mLのエフリン−A4で処理した細胞、図3Cは、実施例2に記載のように、100ng/mLのエフリン−A4で処理した細胞を示す。
図4】スフィンゴシン−1−リン酸塩(S1P)で処理した細胞のS6培養物を、1日目(図4A)、7日目(図4B)、及び10日目に2つの異なる拡大率(図4C及び図4D)で撮像した位相差画像を表す。これらの画像は、7日目に、内分泌細胞のクラスタリングの明確な証拠が存在したこと、10日目に、クラスターが膵内胚葉上皮の薄層によって相互に分離したことを示す。
図5】S1Pで処理し、Hb9(図5A)及びNKX6.1(図5B)に対して免疫染色した細胞、又はインスリン(図5C)及びHb9(図5D)に対して免疫染色した細胞の画像を示す。
図6図6A及び図6Bは、10μMのS1Pで処理し、ステージ6の開始後3日間培養した細胞の、異なる拡大率の位相差画像を表す。図6C及び図6Dは、NKX2.2に対して免疫染色した細胞の画像を表す。図6Cは対照細胞、図6DはS1Pで処理した細胞を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
開示を分かりやすくするため、限定を目的とすることなく、「発明を実施するための形
態」を本発明の特定の特徴、実施形態、又は用途を、説明又は例示する下記の小項目に分
割する。
【0022】
定義
幹細胞は、単一細胞レベルでの自己再生能及び分化能の両方によって定義される未分化
細胞である。幹細胞は、自己再生前駆細胞、非再生性前駆細胞、及び最終分化細胞を含む
子孫細胞を生成することができる。幹細胞はまた、複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚
葉)から様々な細胞系統の機能性細胞へとインビトロで分化する能力を特徴とする。幹細
胞は、移植後に複数の胚葉の組織を生じさせ、胚盤胞に注入後、実質的に(全てではない
としても)ほとんどの組織に寄与する。
【0023】
幹細胞は、発生能によって、(1)全胚及び胚体外細胞型を生じる能力を意味する全能
性、(2)全胚細胞型を生じる能力を意味する多能性、(3)細胞系の小集合を生じるが
、すべて特定の組織、器官、又は生理学的システム内で生じる能力を意味する複能性(例
えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己再生)、血液細胞に限定された寡能性前駆
細胞、並びに血液の通常の構成要素である全細胞型及び要素(例えば、血小板)を含む後
代を産生できる)、(4)複能性幹細胞と比較して、より限定された細胞系統の小集合を
生じる能力を意味する寡能性、並びに(5)1つの細胞系(例えば、精子形成幹細胞)を
生じる能力を意味する単能性に分類される。
【0024】
分化は、特殊化されていない(「コミットされていない」)又は比較的専門化されてい
ない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞などの特殊化された細胞の特徴を獲得するプロ
セスである。「分化した細胞」又は「分化誘導された細胞」とは、細胞の系統内でより特
殊化した(「コミットした」)位置にある細胞である。分化プロセスに適用された際の用
語「コミットした」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合への分化を続け
、かつ通常の環境下で異なる細胞型に分化したり、又は低分化細胞型に戻ったりすること
ができない地点まで、分化経路において進行した細胞を指す。「脱分化」は、細胞が細胞
系統内で比較的特殊化されて(又はコミットして)いない状況に戻るプロセスを指す。本
明細書で使用するとき、細胞系統は、細胞の遺伝、すなわちその細胞がどの細胞から来た
か、またどの細胞を生じ得るかを規定する。ある細胞の系統とは、所定の発生及び分化の
遺伝体系内にその細胞を位置付けるものである。系統特異的マーカーとは、対象とする系
統の細胞の表現型と特異的に関連した特徴を指し、コミットされていない細胞の、対象と
する系統への分化を評価するために使用することができる。
【0025】
本明細書で使用するとき、「マーカー」とは、対象とする細胞で差異的に発現される核
酸又はポリペプチド分子である。この文脈において、差異的な発現とは、未分化細胞と比
較して、陽性マーカーのレベルの増加、及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。マ
ーカー核酸又はポリペプチドの検出可能なレベルは、他の細胞と比較して対象とする細胞
において充分に高いか又は低いことから、当該技術分野において知られる各種の方法のい
ずれを用いても対象とする細胞を他の細胞から識別及び区別することが可能である。
【0026】
本明細書で使用するとき、細胞は、特異的マーカーが細胞内で検出されたとき、特異的
マーカー「について陽性」又は「陽性」である。同様に、細胞は、特異的マーカーが細胞
内で検出されないとき、特異的マーカー「について陰性」又は「陰性」である。
【0027】
本明細書で使用するとき、「細胞密度」及び「播種密度」は、本明細書において互換的
に使用され、固体又は半固体平面又は湾曲基質の単位面積あたりに播種された細胞の数を
指す。
【0028】
本明細書で使用するとき、「ステージ1」及び「S1」は、胚体内胚葉(DE)に特徴
的なマーカーを発現する細胞を同定するために互換的に使用される。
【0029】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸
管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を有する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、以下の
マーカーの少なくとも1つを発現する:HNF3β、GATA4、SOX17、CXCR
4、ケルベロス、OTX2、グースコイド、C−Kit、CD99、及びMIXL1。
【0030】
本明細書で使用するとき、「腸管」は、以下のマーカーのうちの少なくとも一つを発現
する胚体内胚葉に由来する細胞を指す:HNF3β、HNF1β、又はHNF4α。腸管
細胞は、肺、肝臓、膵臓、胃、腸などの全ての内胚葉臓器を生じさせ得る。
【0031】
本明細書で使用するとき、原腸管に特徴的なマーカーを発現する細胞を特定する「ステ
ージ2」及び「S2」は互換的に使用される。
【0032】
「前腸内胚葉」とは、食道、肺、胃、肝臓、膵臓、胆嚢、十二指腸の一部を生じさせる
内胚葉細胞を指す。
【0033】
「後方前腸」は、後方胃、膵臓、肝臓、及び十二指腸の一部を生じさせることができる
内胚葉細胞を指す。
【0034】
「中腸内胚葉」は、腸、十二指腸の一部、虫垂、及び上行結腸を生じさせることができ
る内胚葉細胞を指す。
【0035】
「後腸内胚葉」は、横行結腸の遠位3分の1、下行結腸、S状結腸、及び直腸を生じさ
せることができる内胚葉細胞を指す。
【0036】
「ステージ3」及び「S3」の双方は、前腸内胚葉に特徴的なマーカーを発現する細胞
を特定するために互換的に使用される。「前腸系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」
は、本明細書で使用するとき、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:
PDX−1、FOXA2、CDX2、SOX2、及びHNF4α。
【0037】
「ステージ4」及び「S4」は、膵臓前腸前駆細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞
を特定するために互換的に使用される。本明細書で使用するとき、「膵臓前腸前駆細胞系
統に特徴的なマーカーを発現する細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する
細胞を指す:PDX−1、NKX6.1、HNF6、FOXA2、PTF1a、Prox
1、及びHNF4α。
【0038】
本明細書で使用するとき、「ステージ5」及び「S5」は、膵臓内胚葉及び膵内分泌前
駆細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞を特定するために互換的に使用される。本明細
書で使用するとき、「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」は、以下のマ
ーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:PDX1、NKX6.1、HNF1β、
PTF1α、HNF6、HNF4α、SOX9、HB9、又はPROX1。膵臓内胚葉系
統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、CDX2又はSOX2を実質的に発現しない。
【0039】
「膵内分泌細胞」、又は「膵臓ホルモン発現細胞」、又は「膵臓内分泌系統に特徴的な
マーカーを発現する細胞」、又は「ステージ6細胞」、又は「S6細胞」は、本明細書に
おいて互換的に使用され、以下のホルモンの少なくとも1つを発現することが可能な細胞
を指す:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、グレリン、及び膵臓ポリペプチド。
【0040】
「膵臓インスリン陽性細胞」は、インスリン、HB9、NKX2.2、及びNKX6.
1を発現する細胞の内分泌腺集団を指す。
【0041】
「膵内分泌前駆細胞(precursor cell)」又は「膵内分泌前駆細胞(progenitor cell
)」は、細胞を発現する膵臓ホルモンになり得る膵臓内胚葉細胞を指す。そのような細胞
は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現し得る:NGN3、NKX2.2、Neur
oD、ISL−1、Pax4、Pax6、又はARX。
【0042】
本明細書では、「d1」、「d1」、及び「1日目」、「d2」、「d2」、及び「2
日目」、「d3」、「d3」及び「3日目」等は互換的に使用される。これらの数字の組
み合わせは、本願の段階的分化プロトコル中の異なるステージにおけるインキュベーショ
ンの特定の日を指す。
【0043】
「グルコース」及び「D−グルコース」は、本明細書で互換的に使用され、天然に一般
に見出される糖、デキストロースを指す。
【0044】
膵内分泌前駆細胞において発現されるタンパク質及びそれをコードする遺伝子を特定す
る「NeuroD」及び「NeuroD1」は、本明細書で互換的に使用される。
【0045】
「LDN」及び「LDN−193189」は本明細書で互換的に使用され、米国カリフ
ォルニア州のStemgentから入手可能なBMP受容体阻害剤を示す。
【0046】
多能性幹細胞の単離、増殖及び培養
多能性幹細胞は、段階特異的胚抗原(SSEA)3及び4、並びにTra−1−60及
びTra−1−81と呼ばれる抗体を使用して検出可能なマーカーのうちの1つ以上を発
現することができる(Thomsonら、1998、Science 282:1145
〜1147)。インビトロでの多能性幹細胞の分化は、SSEA−4、Tra−1−60
、及びTra−1−81の発現の消失をもたらす。未分化多能性幹細胞は、一般にアルカ
リホスファターゼ活性を有し、これは、製造業者(米国カリフォルニア州のVector
Laboratories)により説明されているように、細胞を4%パラホルムアル
デヒドで固定した後、基質としてVector Redを使用して現像することにより検
出することができる。未分化の多能性幹細胞はまた、RT−PCRにより検出されるよう
に、一般にOCT4及びTERTも発現する。
【0047】
増殖させた多能性幹細胞の別の望ましい表現型は、3つの胚葉のすべて、すなわち、内
胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の細胞に分化する能力である。幹細胞の多能性は、例えば
、細胞をSCIDマウスに注入し、4%パラホルムアルデヒドを使用して、形成された奇
形腫を固定した後、それらを3つの胚葉からの細胞型の痕跡に関して組織学的に検査する
ことにより確認することができる。代替的に、多能性は、胚様体を形成し、この胚様体を
3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより決定することができる
【0048】
増殖させた多能性幹細胞株は、標準的なGバンド法を使用し、対応する霊長類種の発表
されている核型と比較することで、核型を決定することができる。細胞は「正常な核型」
を有することが望ましく、「正常な核型」とは、細胞が正倍数体であり、ヒト染色体がす
べて揃っておりかつ目立った変化のないことを意味する。多能性細胞は、種々のフィーダ
ー層を用いて培養中に、又はマトリックスタンパク質コート容器を用いることによって、
簡単に増殖しうる。あるいは、mTeSR(登録商標)1培地(カナダ国バンクーバーの
StemCell Technologies)のような明確な培地との組み合わせで、
化学的に明確な表面を、細胞の常用増殖のために使用してよい。多能性細胞は、酵素的、
機械的、又はEDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)のような種々のカルシウムキレー
ターの利用を用いて、培養プレートから簡単に取り除くことができる。あるいは、多能性
細胞を、任意のマトリックスタンパク質又はフィーダー層がない状態で、懸濁液中で増殖
させてよい。
【0049】
多能性幹細胞の供給源
使用が可能な多能性幹細胞の種類としては、妊娠期間中の任意の時期(必ずしもではな
いが、通常は妊娠約10〜12週よりも前)に採取した前胚性組織(例えば胚盤胞など)
、胚性組織、又は胎児組織などの、妊娠後に形成される組織に由来する多能性細胞の樹立
株が含まれる。非限定的な例は、ヒト胚性幹細胞(hESCs)又はヒト胚生殖細胞の樹
立株であり、例えば、ヒト胚性幹細胞株H1、H7、及びH9(米国ウィスコンシン州M
adisonのWiCell Research Institute)などである。フ
ィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である
。また、OCT4、NANOG、Sox2、KLF4、及びZFP42等の多数の多能性
に関係する転写因子の強制発現を用いて、成体体細胞から誘導することができる誘導性多
能性細胞(IPS)又は再プログラム化された多能性細胞も好適である(Annu Re
v Genomics Hum Genet,2011,12:165〜185)。本発
明の方法に使用されるヒト胚性幹細胞は、Thomsonらによって記述されたように調
製してもよい(米国特許第5,843,780号;Science,1998,282:
1145〜1147;Curr Top Dev Biol 1998,38:133〜
165;Proc Natl Acad Sci U.S.A.1995,92:784
4〜7848)。
【0050】
多能性幹細胞からの、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞の形成
多能性幹細胞の特徴は当業者に周知であり、多能性幹細胞の更なる特徴は、継続して同
定されている。多能性幹細胞のマーカーとして、例えば、以下のもの、すなわち、ABC
G2、cripto、FOXD3、CONNEXIN43、CONNEXIN45、OC
T4、SOX2、NANOG、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SS
EA−4、Tra 1−60、Tra 1−81の1つ以上の発現が挙げられる。
【0051】
本発明で用いるのに好適な多能性幹細胞としては、例えば、ヒト胚性幹細胞株H9(N
IHコード:WA09)、ヒト胚性幹細胞株H1(NIHコード:WA01)、ヒト胚性
幹細胞株H7(NIHコード:WA07)、及びヒト胚性幹細胞株SA002(Cell
artis,Sweden)が挙げられる。多能性細胞に特徴的な以下のマーカー、すな
わち、ABCG2、cripto、CD9、FOXD3、CONNEXIN43、CON
NEXIN45、OCT4、SOX2、NANOG、hTERT、UTF1、ZFP42
、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、及びTra 1−81のうちのすく
なくとも1つを発現する細胞も本発明で用いるのに好適である。
【0052】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーは、SOX17、GATA4、HNF3β、GSC、
CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FG
F4、CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6
、CXCR4、C−Kit、CD99、及びOTX2からなる群から選択される。胚体内
胚葉系に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1つを発現している細胞は本発明での使用
に好適である。本発明の一態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細
胞は、原始線条前駆細胞である。別の態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現
している細胞は、中内胚葉細胞である。別の態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカー
を発現している細胞は、胚体内胚葉細胞である。
【0053】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、PDX1、NKX6.1、HNF1β、PTF1
α、HNF6、HNF4α、SOX9、HB9、及びPROX1からなる群から選択され
る。膵臓内胚葉系に特徴的なこれらのマーカーのうちの少なくとも1つを発現する細胞が
本発明における使用に適している。本発明の一態様では、膵臓内胚葉系統に特徴的なマー
カーを発現する細胞は、膵臓内胚葉細胞であり、PDX−1及びNKX6.1の発現はC
DX2及びSOX2の発現より実質的に高い。
【0054】
膵内分泌系統に特徴的なマーカーは、NGN3、NEUROD、ISL1、PDX1、
NKX6.1、PAX4、ARX、NKX2.2、及びPAX6からなる群から選択され
る。一実施形態では、膵内分泌細胞は、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマ
トスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することができる。本
発明で使用するに好適なものは、膵内分泌系の特徴を示すマーカーを少なくとも1つ発現
する細胞である。本発明の一態様において、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現してい
る細胞は、膵内分泌細胞である。膵内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。
あるいは、膵内分泌細胞は膵臓ホルモン分泌細胞であってもよい。
【0055】
本発明の膵内分泌細胞は、細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞である。細胞系
統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、PDX1、並びに以下の転写因子、すなわち、
NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF3β、MAFA、PAX
4、及びPAX6のうちの少なくとも1つを発現する。本発明の一態様において、細胞系
統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、細胞である。
【0056】
一実施形態において、本発明は、エフリンA4又はエフリンA3を含む培地においてス
テージ5の集団を培養することによって、インスリン及びNKX6.1の発現を増強する
方法に関する。いくつかの実施形態において、インスリン及びNKX6.1の発現は、こ
の細胞集団において、未処理細胞集団におけるインスリン及びNKX6.1の発現の少な
くとも2倍に増強される。いくつかの実施形態において、ステージ5細胞集団は、CDX
2又はSOX2を実質的に発現しない。いくつかの実施形態において、ステージ5細胞集
団は、多能性細胞の段階的分化によって取得される。いくつかの実施形態において、多能
性細胞は、ヒト胚性多能性細胞である。
【0057】
一実施形態において、本発明は、アクチビンA又はアクチビンCを含む培地においてス
テージ5細胞を培養することによって、インスリン、グルカゴン、及びグレリンの発現を
抑制する一方、ソマトスタチンの発現を増強する方法に関する。いくつかの実施形態にお
いて、処理した細胞集団は、未処理培養の少なくとも2倍のソマトスタチンを発現する。
いくつかの実施形態において、インスリンの発現は、未処理培養におけるインスリンの発
現の約半分に抑制される。いくつかの実施形態において、グルカゴンの発現は、未処理培
養におけるグルカゴンの発現の約10分の1に抑制される。いくつかの実施形態において
、グレリンの発現は、未処理培養におけるグレリンの発現の約3分の1に抑制される。い
くつかの実施形態において、ステージ5細胞は、CDX2又はSOX2を実質的に発現し
ない。いくつかの実施形態において、ステージ5細胞は、多能性細胞の段階的分化によっ
て取得される。いくつかの実施形態において、多能性細胞は、ヒト胚性多能性細胞である
【0058】
一実施形態において、本発明は、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地においてス
テージ5細胞を処理することによって、NKX6.1の発現を増強する方法を参照する。
いくつかの実施形態において、処理した細胞集団は、処理していない培養の少なくとも2
倍のNKX6.1を発現する。いくつかの実施形態において、処理した培養におけるホル
モンの発現レベルは、未処置培養と比較して影響を受けない。いくつかの実施形態におい
て、ステージ5細胞は、CDX2又はSOX2を実質的に発現しない。いくつかの実施形
態において、ステージ5細胞は、多能性細胞の段階的分化によって取得される。いくつか
の実施形態において、多能性細胞は、ヒト胚性多能性細胞である。
【0059】
いくつかの実施形態において、本発明は、エフリンA4、エフリンA3、アクチビンA
、アクチビンC、セマフォリン3a、又はエピゲンを含む培地においてステージ5細胞を
培養することを含む、多能性細胞を分化する段階的な方法に関する。いくつかの実施形態
において、ステージ5細胞は、エフリンA4又はエフリンA3を含む培地において培養さ
れる。いくつかの実施形態において、ステージ5細胞は、アクチビンA又はアクチビンC
を含む培地において培養される。いくつかの実施形態において、ステージ5細胞は、セマ
フォリン3a、又はエピゲンを含む培地において培養される。いくつかの実施形態におい
て、多能性細胞は、ヒト胚性多能性幹細胞である。
【0060】
一実施形態において、本発明は、エフリンリガンドを用いて膵内胚葉細胞を培養するこ
とを含む、インスリン発現を誘導する方法に関する。いくつかの実施形態において、エフ
リンリガンドは、エフリンA3及びエフリンA4から選択される。いくつかの実施形態に
おいて、エフリンリガンドを用いて膵内胚葉細胞を培養することによって、インスリン及
びNKX6.1の発現を増強する。いくつかの実施形態において、エフリンリガンドを用
いて膵内胚葉細胞を培養することは、膵内胚葉細胞におけるインスリン及びNKX6.1
の発現を、未処理の膵内胚葉細胞におけるインスリン及びNKX6.1の発現の少なくと
も2倍に増強する。いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞は、CDX2又はSOX
2を実質的に発現しない。いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞は、多能性幹細胞
の段階的分化によって取得される。いくつかの実施形態において、本発明の方法において
使用される多能性幹細胞は、ヒト胚性多能性幹細胞である。
【0061】
一実施形態において、本発明は、本発明の方法によって調製される、インスリン及びN
K6.1を発現する細胞に関する。
【0062】
一実施形態において、本発明は、スフィンゴシン−1受容体アゴニストを用いて膵内胚
葉細胞を培養することを含む、内分泌腺クラスター形成を誘発するための方法に関する。
いくつかの実施形態において、膵内胚葉細胞は、多能性幹細胞の段階的分化によって取得
される。いくつかの実施形態において、多能性細胞は、ヒト胚性多能性幹細胞である。
【0063】
本明細書の全体を通じて引用した刊行物は、その全体を参照により本明細書に組み込む
ものとする。本発明を以下の実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例に
より限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
(実施例1)
インスリン発現の強力な誘発因子としてのエフリンA4の確認
本実施例は、ヒトES細胞の分化から膵内胚葉/内分泌培養の産出に関する多様なタン
パクの役割を理解するために実施された。
【0065】
ヒト胚性幹細胞株H1(hESC H1、継代40)の細胞は、10μMのY2763
2(ロック阻害剤、カタログ番号Y0503、米国ミズーリ州セントルイスのSigma
Aldrich)を補充したmTeSR(登録商標)1培地(カナダ国バンクーバーのS
temCell Technologies)において、MATRIGEL(商標)(1
:30希釈;米国ニュージャージー州のBD Biosciences)で被覆された皿
上に、1×105細胞/cm2で、単一細胞として播種した。播種の48時間後に、培養物
を、不完全なPBS(Mg又はCaを含まないリン酸緩衝生理食塩水)中で洗浄した。培
養物は、以下のように膵内胚葉/内分泌系に分化した:
a)ステージ1(胚体内胚葉(DE)−3日):細胞は、ステージ1培地(0.1%の
無脂肪酸BSA(カタログ番号68700,米国アイオワ州アンケニーのProlian
t)、0.0012g/mLの重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187、米国ミズー
リ州セントルイスのSigmaAldrich)、1X GlutaMax(商標)(I
nvitrogen、カタログ番号35050−079)、4.5mMのD−グルコース
(SigmaAldrich、カタログ番号G8769)、100ng/mLのGDF8
(米国ミネソタ州ミネアポリスのR&D Systems)及び1μMのMCX化合物(
GSK3B阻害剤、14−Prop−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,2
3,27−へプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]へ
プタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナ
エン−16−オン、米国特許出願公開第2010−0015711号;参照によりその全
体を本明細書に組み入れる)を補充したMCDB−131培地(カタログ番号10372
−019、米国カリフォルニア州カールスバッドのInvitrogen)において1日
間培養した。次いで、細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA、0.0012g/mLの重炭
酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5mMのD−グルコース、100
ng/mLのGDF8、及び0.1μMのMCX化合物を補充したMCDB−131倍地
でもう1日培養した。次いで、細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA、0.0012g/m
Lの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5mMのD−グルコース
、及び100ng/mLのGDF8を補充したMCDB−131倍地でもう1日培養し、
次いで、
b)ステージ2(前駆腸管−2日):細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA、0.001
2g/mLの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5mMのD−グ
ルコース、0.25mMのアスコルビン酸(米国ミズーリ州セントルイスのSigma)
、及び25ng/mLのFGF7(米国ミネソタ州ミネアポリスのR & D Syst
ems)を補充したMCDB−131培地で2日間処理し、次いで、
c)ステージ3(前腸−2日):細胞は、1日目は、ITS−Xの1:200希釈(I
nvitrogen)、4.5mMのGlucose、1X GlutaMax(商標)
、0.0017g/mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのS
ANT−1(米国ミズーリ州セントルイスのSigma)、10ng/mLのアクチビン
−A(R & D Systems)、1μMレチノイン酸(RA、Sigma)、25
ng/mLのFGF7、0.25mMのアスコルビン酸、200nMのTPB(PKC賦
活体;カタログ番号565740;米国ニュージャージー州ギブスタウンのEMD Ch
emicals)、10μMのフォルスコリン(FSK、Sigma)、及び100nM
のLDN(BMP受容体阻害剤;カタログ番号04−0019;米国カリフォルニア州サ
ンディエゴのStemgent)を補充したMCDB−131培地で処理した。2日目、
細胞は、ITS−Xの1:200希釈、4.5mMのグルコース、1X GlutaMa
x(商標)、0.0017g/mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.2
5μMのSANT−1、10ng/mLのアクチビンA、1μMのRA、25ng/mL
のFGF7、0.25mMのアスコルビン酸、200nMのTPB、10μMのフォルス
コリン、及び10nMのLDNを補充したMCDB−131倍地で処理し、次いで、
d)ステージ4(膵臓前腸前駆細胞−2日):細胞は、ITS−Xの1:200希釈、
4.5mMのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0015g/mLの重
炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、50nMのRA
、50μMのLDN−193189、10μMのフォルスコリン、0.25mMのアスコ
ルビン酸、及び100nMのTPBを補充したMCDB−131倍地で2日間処理し、次
いで、
e)ステージ5(膵内胚葉/内分泌−3日):ステージ4細胞は、ITS−Xの1:2
00希釈、20mMのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0015g/
mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、50n
MのRA、10μMのフォルスコリン、0.25mMのアスコルビン酸を補充し、2〜3
日目のみ、100nMのALk5阻害剤SD−208(Molecular Pharm
acology 2007,72:152〜161に開示される)を添加したMCDB−
131培地で3日間処理した。
【0066】
ステージ5の1日目に、以下の表Iに列挙された因子が培地内に混合され、S5(ステ
ージ5の3日目)が完了した後、関連の膵内胚葉/内分泌遺伝子のPCR分析のためにm
RNAが収集された。対照として、培養物は、上記に列挙したS5培地のみで処理された
。トータルRNAは、RNeasy Mini Kit(米国カリフォルニア州バレンシ
アのQiagen)を用いて抽出し、製造元の指示に従ってHigh Capacity
cDNA Reverse Transcription Kit(米国カリフォルニ
ア州フォスターシティのApplied Biosystems)を使用して逆転写した
。cDNAは、カスタムのTaqman Arrays(Applied Biosys
tems)に予め充填されたTaqman Universal Master Mix
及びTaqman Gene Expression Assaysを使用して増幅した
。データは、Sequence Detection Software(Applie
d Biosystems)を使用して解析し、ΔΔCtメソッドを使用して、未分化ヒ
ト胚性幹(hES)細胞に正規化した。全てのプライマーは、Applied Bios
ystemsから購入された。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
図1A図1Gは、実施例1に記載のように、表Iに列挙されたインスリン(図1A
、ソマトスタチン(図1B)、グレリン(図1C)、グルカゴン(図1D)、PDX−1
図1E)、NKX6.1(図1F)、及びNGN3(図1G)の因子の存在下において
、ステージ5に分化されたヒト胚性幹細胞株H1の細胞内の以下の遺伝子の発現のリアル
タイムPCR分析からのデータを表す。
【0070】
図1に示されるように、エフリン−A4は、対照培養(図1F)に比較すると、NKX
6.1及びインスリンのmRNA発現を増強する一方、PDX−1(図1E)及びNGN
3発現(図1G)に関して最小限の影響を示す。アクチビン−A及びアクチビン−C等の
因子は、ソマトスタチン(図1B)の発現を有意に増強する一方、インスリン(図1A
、グルカゴン(図1D)、及びグレリン(図1C)の発現を抑制した。更に、セマフォリ
ン3a及びエピゲン等の因子は、NKX6.1の発現を増強する一方、未処理培養に比較
すると、ホルモンの発現に影響を与えなかった。図1において、対照培養の異なるマーカ
ーの発現の平均レベルは、グラフ上で破線によって示される。
【0071】
(実施例2)
S5でのインスリン発現に関するエフリンの影響の検証
この実施例は、実施例1において特定された該当点の検定を説明する。具体的には、プ
ロトコルのS5でのエフリン−A3又はエフリン−A4の添加の影響を以下に列挙する。
【0072】
ヒト胚性幹細胞株H1(hESC H1、継代40)の細胞は、10μMのY2763
2が補充されたmTeSR(登録商標)1培地において、MATRIGEL(商標)(1
:30希釈;米国ニュージャージー州のBD Biosciences)で被覆された皿
上に、1×105細胞/cm2で、単一細胞として播種した。播種の48時間後に、培養物
を、不完全なPBS(Mg又はCaを含まないリン酸緩衝生理食塩水)中で洗浄した。培
養物は、以下のように膵内胚葉/内分泌系統に分化した:
a)ステージ1(胚体内胚葉(DE)−3日):細胞は、ステージ1の培地(上記の実
施例1を参照)で1日間培養した。次いで、細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA、0.0
012g/mLの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5mMのD
−グルコース、100ng/mLのGDF8、及び0.1μMのMCX化合物を補充した
MCDB−131倍地でもう1日培養した。次いで、細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA
、0.0012g/mLの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5
mMのD−グルコース、及び100ng/mLのGDF8を補充したMCDB−131倍
地でもう1日培養し、次いで、
b)ステージ2(前駆腸管−2日):細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA、0.001
2g/mLの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5mMのD−グ
ルコース、0.25mMのアスコルビン酸(米国ミズーリ州のSigma)、及び25n
g/mLのFGF7(米国ミネソタ州のR & D Systems)を補充したMCD
B−131培地で2日間処理し、次いで、
c)ステージ3(前腸−2日):細胞は、1日目、1:200希釈のITS−X(米国
カリフォルニア州のInvitrogen)、4.5mMのグルコース、1X Glut
aMax(商標)、0.0017g/mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、
0.25μMのSANT−1(米国ミズーリ州のSigma)、10ng/mLのアクチ
ビン−A(米国ミネソタ州のR & D Systems)、1μMのレチノイン酸(米
国ミズーリ州のSigma)、25ng/mLのFGF7、0.25mMのアスコルビン
酸、200nMのTPB(PKC賦活体、カタログ番号565740、米国ニュージャー
ジー州ギブスタウンのEMD Chemicals)、10μMのフォルスコリン、及び
100nMのLDN(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019、Stemge
nt)を補充したMCDB−131培地で処理した。2日目、細胞は、ITS−Xの1:
200希釈、4.5mMのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0017
g/mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、1
0ng/mLのアクチビン−A、1μMのRA、25ng/mLのFGF7、0.25m
Mのアスコルビン酸、200nMのTPB、10μMのフォルスコリン、及び10nMの
LDNを補充したMCDB−131倍地で処理し、次いで、
d)ステージ4(膵臓前腸前駆細胞−2日):細胞は、ITS−Xの1:200希釈、
4.5mMのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0015g/mLの重
炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、50nMのRA
、50μMのLDN−193189、10μMのフォルスコリン、0.25mMのアスコ
ルビン酸、及び100nMのTPBを補充したMCDB−131倍地で2日間処理し、次
いで、
e)ステージ5(膵内胚葉/内分泌−3日):ステージ4細胞は、ITS−Xの1:2
00希釈;4.5mMグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0015g/
mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、50n
MのRA、10μMのフォルスコリン、0.25mMのアスコルビン酸、100nMのA
Lk5阻害剤(2〜3日目のみ)(SD−208、Molecular Pharmac
ology 2007,72:152〜161に開示)、及び+/−0〜100ng/m
Lのエフリン−A3又はエフリン−A4(米国ミネソタ州のR & D systems
)を補充したMCDB−131培地で3日間処理した。
【0073】
ステージ5の終了時、対照及びエフリン処理の培養物は、(米国マサチューセッツ州ケ
ンブリッジのMilliporeからのモルモットアンチインスリン抗体を使用して)イ
ンスリンタンパク質発現に対して固定染色された。図2は、インスリンに対して免疫染色
した細胞の画像を表す。図2Aは対照細胞、図2Bは50ng/mLのエフリンA3で処
理した細胞、図2Cは、100ng/mLのエフリンA3で処理した細胞を示す。図3
、インスリンに対して免疫染色した細胞の画像を表す。図3Aは対照細胞、図3Bは50
ng/mLのエフリンA4で処理した細胞、図3Cは、100ng/mLのエフリンA4
で処理した細胞を示す。これらのデータは、実施例1のデータと一致して、ステージ5で
のエフリン−A3及びエフリン−A4両方の添加が、インスリンのタンパク質発現を有意
に増強したことを示す。
【0074】
(実施例3)
S6でのスフィンゴシン−1−リン酸塩の添加は、内分泌ホルモンを含む細胞クラスタ
ー形成を大幅に加速
この実施例では、ステージ6での内分泌腺クラスター形成の進行、及び内分泌腺リッチ
クラスターの形成の加速化におけるスフィンゴシン−1−リン酸塩の影響を説明する。
【0075】
ヒト胚性幹細胞株H1(hESC H1、継代40)の細胞は、10μMのY2763
2を補充したmTeSR(登録商標)1培地(カナダ国バンクーバーのStemCell
Technologies)において、MATRIGEL(商標)(1:30希釈;米
国ニュージャージー州のBD Biosciences)で被覆された皿上に、1×10
5細胞/cm2で、単一細胞として播種した。播種の48時間後に、培養物を、不完全なP
BS(Mg又はCaを含まないリン酸緩衝生理食塩水)中で洗浄した。培養物は、以下の
ように膵内胚葉/内分泌系統に分化した:
a)ステージ1(胚体内胚葉(DE)−3日):細胞は、ステージ1の培地(上記の実
施例1を参照)で1日間培養された。次いで、細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA、0.
0012g/mLの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5mMの
D−グルコース、100ng/mLのGDF8、及び0.1μMのMCX化合物を補充し
たMCDB−131倍地でもう1日培養した。次いで、細胞は、0.1%の無脂肪酸BS
A、0.0012g/mLの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.
5mMのD−グルコース、及び100ng/mLのGDF8を補充したMCDB−131
倍地でもう1日培養し、次いで、
b)ステージ2(前駆腸管−2日):細胞は、0.1%の無脂肪酸BSA、0.001
2g/mLの重炭酸ナトリウム、1X GlutaMax(商標)、4.5mMのD−グ
ルコース、0.25mMのアスコルビン酸(米国ミズーリ州のSigma)及び25ng
/mLのFGF7(米国ミネソタ州のR & D Systems)を補充したMCDB
−131培地で2日間処理し、次いで、
c)ステージ3(前腸−2日):細胞は、1日目、ITS−Xの1:200希釈(米国
カリフォルニア州のInvitrogen)、4.5mMのグルコース、1X Glut
aMax(商標)、0.0017g/mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、
0.25μMのSANT−1(米国ミズーリ州のSigma)、10ng/mLのアクチ
ビン−A(米国ミネソタ州のR & D Systems)、1μMのレチノイン酸(米
国ミズーリ州のSigma)、25ng/mLのFGF7、0.25mMのアスコルビン
酸、200nMのTPB(PKC賦活体、カタログ番号565740、米国ニュージャー
ジー州ギブスタウンのEMD Chemicals)、10μMのフォルスコリン(FS
K、米国ミズーリ州のSigma)、及び100nMのLDN(BMP受容体阻害剤、カ
タログ番号04−0019、米国カリフォルニア州のStemgent)を補充したMC
DB−131培地で処理した。2日目、細胞は、ITS−Xの1:200希釈、4.5m
Mのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0017g/mLの重炭酸ナト
リウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、10ng/mLのアクチ
ビン−A、1μMのRA、25ng/mLのFGF7、0.25mMのアスコルビン酸、
200nMのTPB、及び10nMのLDNを補充したMCDB−131倍地で処理し、
次いで、
d)ステージ4(膵臓前腸前駆細胞−2日):細胞は、ITS−Xの1:200希釈、
4.5mMのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0015g/mLの重
炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、50nMのRA
、50μMのLDN−193189、10μMのフォルスコリン、0.25mMのアスコ
ルビン酸、2ng/mLのFGF7、1ng/mLのAA、及び100nMのTPBを補
充したMCDB−131倍地で2日間処理し、次いで、
e)ステージ5(膵内胚葉/内分泌−3日):ステージ4細胞は、ITS−Xの1:2
00希釈、15mMのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0015g/
mLの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、50n
MのRA、10μMのフォルスコリン、0.25mMのアスコルビン酸、及び1ng/m
LのFGF7、2〜3日目のみ100nMのALK5阻害剤SD208を添加して補充し
たMCDB−131培地で3日間処理し、次いで、
f)ステージ6(膵内胚葉−3〜10日):ステージ5細胞を、ITS−Xの1:20
0希釈、15mMのグルコース、1X GlutaMax(商標)、0.0015g/m
Lの重炭酸ナトリウム、2%の無脂肪酸BSA、0.25μMのSANT−1、50nM
のRA、0.25mMのアスコルビン酸を補充したMCDB−131倍地で3〜10日間
処理した。一部の培養物は、10μMのスフィンゴシン−1−リン酸塩(米国ミズーリ州
のSigma)を3日間添加した。
【0076】
図4A図4Dは、スフィンゴシン−1−リン酸塩(S1P)で処理し、1日目(図4
A)、7日目(図4B)、及び10日目に2つの異なる拡大率(図4C及び図4D)で撮
像した細胞のS6培養の位相差画像を表す。画像は、7日目に、内分泌細胞のクラスタリ
ングの明確な証拠が存在すること、10日目に、クラスターが膵内胚葉上皮の薄層によっ
て相互に分離したことを示す。
【0077】
図5A図5Dは、Hb9(図5A)及びNKX6.1(図5B)に対して免疫染色、
又はインスリン(図5C)及びHb9(図5D)に対して免疫染色した細胞の画像を表す
図5A及び図5Bは、内分泌腺クラスタリングではHb9が濃縮した一方、クラスター
周囲の膵臓上皮ではNKX6.1が濃縮したことを示す。Hb9が濃縮したクラスター内
の細胞の一部は、NKX6.1にも陽性であった。図5C及び図5Dに示されるように、
クラスターではインスリン及びHb9が濃縮した。この形態的変化は、NKX6.1+P
DX−1+リッチ上皮が内分泌腺クラスターを生じさせる膵臓の発達と密接に類似する。
それぞれの実例において、1対の画像は、同じ視野の細胞で異なるフィルターを使用して
取得された。
【0078】
図6A及び図6Bは、10μMのスフィンゴシン−1−リン酸塩(S1P)で処理し、
ステージ6の開始後3日間培養した細胞の、異なる拡大率の位相差画像を表す。これらの
画像は、ステージ6の開始後3日間だけで、内分泌腺クラスターが発現したことを示す。
これは、対照培養のクラスター形成よりも約7日間早い。
【0079】
図6C及び図6Dは、対照細胞(図6C)、及びS1Pで処理し、NKX2.2に対して免疫染色した細胞(図6D)を表す。S1Pで処理した培養において、内分泌クラスターでは、NKX2.2+細胞が培養全体で均一に分布された対照培養(図6D)と比較して、NKX2.2+細胞でも濃縮(図6C)した。

上記の開示によって提供される発明の例として、以下のものが挙げられる。
[1] エフリンリガンドを用いて膵内胚葉細胞を培養することを含む、ホルモン発現細胞におけるインスリン発現を誘発する方法。
[2] 前記エフリンリガンドを用いて前記膵内胚葉細胞を培養することが、NKX6.1の発現も強化する、[2]に記載の方法。
[3] エフリンリガンドを用いて前記膵内胚葉細胞を培養することが、非処理の膵内胚葉細胞におけるインスリン及びNKX6.1の発現と比較して、前記膵内胚葉細胞におけるインスリン及びNKX6.1の発現を強化する、[2]に記載の方法。
[4] 前記膵内胚葉細胞が、CDX2又はSOX2を実質的に発現しない[3]に記載の方法。
[5] 前記膵内胚葉細胞が、ほぼ約10%未満のCDX2又はSOX2を発現する、[4]に記載の方法。
[6] 前記エフリンリガンドが、エフリンA3又はエフリンA4である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の方法。
[7] 前記膵内胚葉細胞が、多能性幹細胞の段階的分化によって取得される、[6]に記載の方法。
[8] 前記多能性幹細胞が、ヒト胚性多能性幹細胞である、[7]に記載の方法。
[9] 請求項1の方法によって調製されたインスリン及びNKX6.1発現細胞。
[10] エフリンリガンドを用いて膵内胚葉細胞を培養することによって調製された細胞集団であって、前記細胞集団が、エフリンリガンドで処理していない膵内胚葉細胞と比較して、強化されたインスリン及びNKX6.1を発現する、細胞集団。
[11] 前記エフリンリガンドが、エフリンA3又はエフリンA4である、[10]に記載の細胞集団。
[12] アクチビンA又はアクチビンCを含む培地において膵内胚葉細胞を培養することを含む、ホルモン発現細胞における成長ホルモン分泌抑制ホルモンの発現を増強する方法。
[13] インスリン、グルカゴン、及びグレリンの発現が抑制される、[12]に記載の方法。
[14] アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団が、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団より多くの成長ホルモン分泌抑制ホルモンを発現する、[12]に記載の方法。
[15] インスリンの前記発現が、アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団において、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけるインスリンの前記発現と比較して抑制される、[14]に記載の方法。
[16] グルカゴンの前記発現が、アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団において、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけるグルカゴンの前記発現と比較して抑制される、[12]に記載の方法。
[17] グレリンの前記発現が、アクチビンA又はアクチビンCで処理した前記膵内胚葉細胞集団において、アクチビンA又はアクチビンCで処理していない膵内胚葉細胞集団におけるグレリンの前記発現と比較して抑制される、[12]に記載の方法。
[18] 前記膵内胚葉細胞が、CDX2又はSOX2を実質的に発現しない、[12]〜[18]のいずれか1項に記載の方法。
[19] アクチビンA又はアクチビンCで処理された前記膵内胚葉細胞が、多能性細胞の段階的分化によって取得される、[18]に記載の方法。
[20] 前記膵内胚葉細胞の由来元である前記多能性細胞が、ヒト胚性多能性細胞である、[19]に記載の方法。
[21] セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地において膵内胚葉細胞を処理することによって、NKX6.1の発現を増強する方法。
[22] セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理した前記膵内胚葉細胞集団が、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理されていない膵内胚葉細胞に比較して強化された量のNKX6.1を発現する、[21]に記載の方法。
[23] インスリン、グルカゴン、及びグレリンの発現レベルが、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理した膵内胚葉細胞において、セマフォリン3a又はエピゲンを含む培地で処理していない膵内胚葉細胞に比較して影響を受けない、[21]に記載の方法。
[24] スフィンゴシン−1受容体アゴニストを用いて膵内分泌細胞を培養することを含む、内分泌クラスターの形成を誘導するための方法。
[25] 膵内分泌細胞を処理するために使用された前記スフィンゴシン−1受容体アゴニストが、スフィンゴシン−1−リン酸塩(S1P)である、[24]に記載の方法。
[26] 前記膵内分泌細胞が、多能性幹細胞の段階的分化によって取得される、[24]に記載の方法。
[27] 前記多能性幹細胞が、ヒト胚性多能性幹細胞である、[26]に記載の方法。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図2
図3
図4
図5
図6