特許第6694625号(P6694625)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社A−Tractionの特許一覧

<>
  • 特許6694625-受動関節装置 図000002
  • 特許6694625-受動関節装置 図000003
  • 特許6694625-受動関節装置 図000004
  • 特許6694625-受動関節装置 図000005
  • 特許6694625-受動関節装置 図000006
  • 特許6694625-受動関節装置 図000007
  • 特許6694625-受動関節装置 図000008
  • 特許6694625-受動関節装置 図000009
  • 特許6694625-受動関節装置 図000010
  • 特許6694625-受動関節装置 図000011
  • 特許6694625-受動関節装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6694625
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】受動関節装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20200511BHJP
   B25J 17/00 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   B25J19/00 D
   B25J17/00 F
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-220499(P2019-220499)
(22)【出願日】2019年12月5日
【審査請求日】2019年12月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515276808
【氏名又は名称】株式会社A−Traction
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100177390
【弁理士】
【氏名又は名称】大出 純哉
(72)【発明者】
【氏名】安藤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】粟野 啓太
【審査官】 貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−115906(JP,A)
【文献】 特表2004−520558(JP,A)
【文献】 特表2002−510137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
A61B 90/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側部材に対して、回転側部材を水平軸を中心として上下方向に回動可能に支持する受動関節装置であって、
前記水平軸を中心とする円筒面を有し、前記固定側部材に固定された円筒状のカム部材であって、前記円筒面に前記水平軸を中心として対称に配置され、前記水平軸に沿って斜めに形成された一対のカム面を有するカム部材と、
前記回転側部材に固定された前記水平軸の内部に前記水平軸に沿ってスライド可能に配置され、前記一対のカム面にそれぞれ接触する一対のカムフォロワを有する台座と、
前記回転側部材に固定された前記水平軸の内部に配置され、前記台座を前記水平軸に沿って前記固定側部材に向けて付勢するスプリングと、を備え、
前記スプリングの力により、前記一対のカムフォロワを前記一対のカム面に接触させるとともに、前記一対のカム面を押して、前記回転側部材に加わる重量による前記回転側部材の下方向への回動力を軽減するように、前記回転側部材に上方向への回動力を与えることを特徴とする受動関節装置。
【請求項2】
前記カムフォロワは、前記台座の両端に、前記台座に対して回転可能に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の受動関節装置。
【請求項3】
前記台座は、前記台座に回転可能に配置されたスライド用軸受けにより、前記水平軸に対してスライド可能に支持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の受動関節装置。
【請求項4】
前記カム面は、前記スプリングの変位と荷重の特性に応じた曲面に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の受動関節装置。
【請求項5】
前記固定側部材に一端が固定され、前記回転側部材に他端が固定された一対のケーブルをガイドするガイド部材をさらに備え、
前記ガイド部材は、前記水平軸に対して回転可能に配置されたパイプ状の部材と、該パイプ状の部材の外周面に互いに対向して形成され、前記一対のケーブルをそれぞれスライドさせてガイドする一対の、包絡線が円弧状に近い形状の部分とを有し、前記固定側部材と前記回転側部材との相対的な回動により前記一対のケーブルが互いに同じ方向に変位するにつれて、前記一対のケーブルをガイドしつつ、前記水平軸の回りに回転することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の受動関節装置。
【請求項6】
前記固定側部材から前記回転側部材に動力を伝達する動力伝達機構をさらに備え、
前記動力伝達機構は、前記固定側部材に配置された回転駆動源と、該回転駆動源から回転力を伝達される、前記水平軸と同軸の回転軸と、該回転軸に配置されたウォームギヤと、該ウォームギヤに噛み合うウォームホイールと、該ウォームホイールに固定され、前記水平軸と垂直な軸の回りに回転する回転動作部材とを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の受動関節装置。
【請求項7】
前記回転側部材は、前記回転動作部材の回転をガイドする円弧状の摺動面を有することを特徴とする請求項6に記載の受動関節装置。
【請求項8】
前記固定側部材から前記回転側部材に動力を伝達する動力伝達機構をさらに備え、
前記動力伝達機構は、前記固定側部材に配置された回転駆動源と、該回転駆動源から回転力を伝達される、前記水平軸と同軸の第1の回転軸と、該第1の回転軸から回転力を伝達される第2の回転軸と、該第2の回転軸に配置されたウォームギヤと、該ウォームギヤに噛み合うウォームホイールと、該ウォームホイールに固定され、前記水平軸と垂直な軸の回りに回転する回転動作部材とを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の受動関節装置。
【請求項9】
前記第2の回転軸は、前記回転動作部材の回転軸が前記水平軸と直交するように、前記水平軸からオフセットされていることを特徴とする請求項8に記載の受動関節装置。
【請求項10】
前記回転側部材は、前記回転動作部材の回転をガイドする円弧状の摺動面を有することを特徴とする請求項8または9に記載の受動関節装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用ロボットなどにおけるアーム間を連結する受動関節装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
腹腔鏡手術は、一般に、臓器の切開、切除、縫合を行う医師(以下、「術者」という)と、内視鏡を保持する医師(以下、「スコピスト」という)と、術者の視野展開のため臓器の牽引や切開時の張力保持などを行う医師(以下、「助手」という)とによって行われる。腹腔鏡手術に用いられる手術支援装置(手術支援ロボットなどともいわれる)には、鉗子や内視鏡、電気メス等の術具の姿勢を1以上のロボットアームで制御することで、手術に必要な医師数を緩和しようとするものがある。
【0003】
従来の腹腔鏡手術に使用される手術支援装置は、術者、スコピスト、助手の3名分の動作を行うものと、内視鏡を1つのアームで保持するものとに大別できる。術者、スコピスト、助手の役割を果たすものはコンソール型の手術支援ロボットで、複数のロボットアームを患者の周辺や患者上部に配置するものが知られている。
【0004】
ロボットアームの機構として、大きく分けて、腹壁での回転中心を機構的に決めてしまうものと、特許文献1に開示されているような、ロボット自体に受動関節を持たせ、腹壁を支点として自由度を持って支えるものとの2つに分類できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018−175863号公報
【特許文献2】特開2011−115906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
受動関節を持つ機構では、その関節より先端側の自重が腹壁にかかるという問題があった。この腹壁にかかる重量を、カウンターウェイトによって補償するという方法もあるが、コンパクトにするためには非常に大きな質量が必要となり現実的ではない。このため、特許文献2に開示されているように、ばねによって自重補償を行う機構も提案されているが、このような機構では関節部の大きさが問題となる。
【0007】
また、受動関節を持つ場合、その関節より先端側に動力を伝達できない。そのため、特許文献1に開示されるように、受動関節より先端側にアクチュエータを取り付ける必要があった。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、医療用のロボットなどに用いられる受動関節において、先端側の重量によりアームに加わる下方向への回動力を、関節の大型化を抑制しつつ軽減できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係わる受動関節装置は、固定側部材に対して、回転側部材を水平軸を中心として上下方向に回動可能に支持する受動関節装置であって、前記水平軸を中心とする円筒面を有し、前記固定側部材に固定された円筒状のカム部材であって、前記円筒面に前記水平軸を中心として対称に配置され、前記水平軸に沿って斜めに形成された一対のカム面を有するカム部材と、前記回転側部材に固定された前記水平軸の内部に前記水平軸に沿ってスライド可能に配置され、前記一対のカム面にそれぞれ接触する一対のカムフォロワを有する台座と、前記回転側部材に固定された前記水平軸の内部に配置され、前記台座を前記水平軸に沿って前記固定側部材に向けて付勢するスプリングと、を備え、前記スプリングの力により、前記一対のカムフォロワを前記一対のカム面に接触させるとともに、前記一対のカム面を押して、前記回転側部材に加わる重量による前記回転側部材の下方向への回動力を軽減するように、前記回転側部材に上方向への回動力を与えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、医療用のロボットなどに用いられる受動関節において、先端側の重量によりアームに加わる下方向への回動力を、関節の大型化を抑制しつつ軽減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係わる手術支援装置の構成を示す図である。
図2】一実施形態における自重補償機構の構成を示す図である。
図3】第2の受動関節を正面から見た図である。
図4】第2の受動関節にケーブルガイド部材を取り付けた状態を示す図である。
図5】ケーブルの取り回し方法の一例を示す図である。
図6】ケーブルのガイド部の変形例を示した図である。
図7】受動関節より先の部分に動力を伝達する機構の一例を示す図である。
図8】回転側部材の移動を案内する構造を示す図である。
図9】軸をオフセットさせた動力伝達機構を示す図である。
図10】術具の着脱機構の例を示す図である。
図11】ドレープの配置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を医療用の手術支援装置に適用した一実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係わる手術支援装置の構成を示す図である。
【0017】
本実施形態に係わる手術支援装置10は、患者の体腔11内に外套管13を通して挿入された術具やエンドエフェクタの姿勢を制御するロボットアーム12を有する。手術支援装置10は、術者が体腔11内に挿入して実際に手術に用いる術具14(以下、手持ち医療器具ともいう)の挿入角度及び挿入深度を計測する。そして、計測結果に応じて、術具14やエンドエフェクタ(以下、合わせてロボット医療器具ともいう)の姿勢を制御するためのロボットアーム12を制御するように構成されている。
【0018】
より具体的には、ロボットアーム12は、鉛直方向の回転軸16の回りに回動する第1アーム18と、第1アーム18を水平面内で矢印A方向に能動的に回動させる能動関節20と、第1アーム18の先端の鉛直方向の回転軸22の回りに回動する第2アーム24と、第2アーム24を水平面内で矢印B方向に能動的に回動させる能動関節26とを有する。さらにロボットアーム12は、第2アーム24の先端の鉛直方向の回転軸28の回りに回動する第3アーム30と、第3アーム30を水平面内で矢印C方向に能動的に回動させる能動関節32とを有する。
【0019】
第3アーム30の先端には、固定側部材34を鉛直方向の回転軸36の回りに矢印D方向に受動的に回動させる第1の受動関節37が配置されている。また、固定部材34の下端には、回転側部材38を水平方向の回転軸である水平軸(回動軸)40の回りに矢印E方向(上下方向)に受動的に回動させる(回動可能な)第2の受動関節42が配置されている。
【0020】
つまり、ロボットアーム30は、アクチュエータを持つ最低3軸の能動関節20,26,32と、最低2軸の第1及び第2の受動関節37,42を備え、第2の受動関節42よりも先端側に棒状の術具14を保持する。一般的には第1及び第2の受動関節37,42の軸は直交して1点で交わるが、直交していなくても、また1点で交わらなくても本実施形態の機構は実現可能である。
【0021】
なお、3軸の能動関節は、受動関節の位置と姿勢を一意に決められる機構であればどのような機構でもよく、図1に示される構成に限定されるものではない。各能動関節20,26,32および第1及び第2の受動関節37,42には、関節角を計測するエンコーダが配置されており、位置情報をフィードバックすることによりエンドエフェクタの位置姿勢を一意に決定することができる。
【0022】
ここで、一般的に、図1に示されるような構成においては、第2の受動関節42の水平軸40より遠位側には術具14等の質量があり、この質量により、腹壁15には下方向の力が加わってしまう。これは、患者への負担となる。これを防ぐために、本実施形態では、第2の受動関節42に自重補償機構100を設けている。
【0023】
以下、この自重補償機構100について説明する。図2は、本実施形態における自重補償機構100の構成を示す図である。
【0024】
受動関節42に配置される自重補償機構100は図2に示すように、主として固定側部材102、水平軸軸受104、円筒カム部材106、水平軸40、水平軸固定部材108、一対のカムフォロワ110、一対のスライド用軸受け112、スプリング台座114、スプリング116、そして回転側部材118を備えて構成されている。円筒状の円筒カム部材106の円筒面には、水平軸40を中心として対称となるように、一対の円筒カム面106aが形成されている。一対のカムフォロワが接触する円筒カム面106aは、水平軸40の方向に沿って斜めとなるように形成されている。水平軸40は、回転側部材118に対しては固定され、固定側部材102に対しては水平軸軸受104と水平軸固定部材108とにより、相対的に回転可能に支持されている。なお、後に示すケーブルガイドはこの図には含まれていない。
【0025】
図2に示したように、一対のカムフォロワ110、一対のスライド用軸受112は水平軸40を中心に対称に取り付けられており、これらが両端に取り付けられているスプリング台座114には、固定側部材102に向けてスプリング116の付勢力が加わる。スライド用軸受け112は、スプリング台座114及びカムフォロワ110とは独立して回転可能な軸受けであり、水平軸40のスライド面40aを転動する。すなわち、カムフォロワ110、スプリング台座114、スライド用軸受け112は水平軸40の回転に追従して、スプリング116の付勢力に抗する円筒カム面106aからの拘束力を受け、水平軸40に沿って移動する(スライド可能)とともに、回転側部材118は、水平軸40を中心に上方向に回動させる力を受けることとなる。言い換えると、回転側部材118は、その先端部の自重により矢印G方向の回転モーメントを受けるが、スプリング116の付勢力により、円筒カム面106aに接触したカムフォロワ110は、円筒カム面106aから矢印F方向の反力を受ける。そのため、回転側部材118には、矢印H方向の回転モーメントが生じ、回転側部材118の自重による回転モーメントが軽減される、あるいは相殺される。
【0026】
ここで、本実施形態では、円筒カム面106aは、水平軸40を中心に対称となるように配置されているため、カムフォロワ110に加わる力も軸に対して対称となり、スプリング台座114を精密にスライドさせるための直動ガイドは必要ない。
【0027】
図3は、第2の受動関節42を正面から見た図である。カムフォロワ110は、スプリング116の力によって円筒カム面106aに押し付けられている。そのため、円筒カム面106aの傾きによってスプリング116の力が水平軸40回りの上方向に回転させるモーメントに変換される。これにより、すでに説明したように、水平軸40より遠位側の重量による回転側部材118の下方向への回動力を軽減することが可能となる。そのため、手術中の患者への負担が軽減される。
【0028】
なお、一般的にはスプリング116には変位と荷重が比例関係にある特性の線形スプリングを用いるが、カム面106aのカム曲線を適切に設計すれば、定荷重、非線形等の特性のスプリングでも同様の効果を得ることが可能となる。
【0029】
次に、本実施形態におけるケーブルの通し方について説明する。
【0030】
ロボット等の駆動装置では、その関節内にケーブルを通すことが多いが、本実施形態では、第2の受動関節42内に自重補償機構100を有するため、水平軸40の内部が機構部品で占められ、ケーブル等を通すことができない。そこで、本実施形態の構成における、ケーブルに対する負荷をなるべく小さくするような取り回し方法について以下説明する。
【0031】
図4は、本実施形態における第2の受動関節42にケーブルガイド部材202を取り付けた状態を示す図である。
【0032】
ケーブルガイド部材202は、図2における水平軸40、固定側部材102、回転側部材118のいずれにも影響を受けず、水平軸40と同軸で自由に回転可能なパイプ状の部材である。また、ケーブルガイド部材202の外周面には、図4に示すように、円弧状部分を有するガイド部A204およびガイド部B206が配置されている。ケーブルはこれらガイド部A204、ガイド部B206の円弧状の表面204a,206aを滑るように移動する。ここで、図4においては、ガイド部A204、ガイド部B206は形状が異なるが、他の部品をよけるための工夫であり、ケーブルをガイドする面さえあればどのような形でも同様の機能を果たすことができる。
【0033】
図5は、ケーブルの取り回し方法の一例を示す図である。なお、ここで示す手法は電気的なケーブルだけでなく、流体チューブや光ファイバ等のケーブル状のものであれば同様に扱うことが可能である。ケーブルA210、ケーブルB212は、ケーブルガイド部材202の周囲を3次元的に屈曲しながら配置され、ケーブルガイド部材202との間で相対的な移動が起きる。
【0034】
図5(a)、5(b)は、水平軸40がある角度のときのケーブルA210、ケーブルB212およびケーブルガイド202の状態を示す図である。ケーブルA210とケーブルB212の2種類が存在するが、一方だけを遠位側に配線されるケーブルとし、もう一方を機械的なワイヤとしてもよい。
【0035】
各ケーブルの一端及び他端は、固定側部材102および回転側部材118にケーブル固定部材214によって固定されており、軸に巻き付けられるようにしてケーブルガイド部材202の領域に入る。なお、図示の関係上、ケーブルA210について固定側部材102のケーブル固定部材214が描かれていないが、ケーブルB212と同様に固定側部材102に固定されている。
【0036】
ここで、図5(a)、(b)の状態から図5(c)、(d)の状態になるように水平軸40の回転角度が変化した場合を考える。固定側部材102、回転側部材118の両方の領域ではケーブルとの相対的な摺動はなく、単純な巻き付き動作だけである。一方、ケーブルガイド部材202の領域では、いずれのケーブルもケーブルガイド部材202に対して相対的に摺動する。マーク210a,210bの位置で示したように、ケーブルA210とケーブルB212はそれぞれ反対方向に移動する。また、このとき、ケーブルガイド部材202は、ケーブルB212によって引っ張られるため、水平軸40の回りに回転し、固定側部材102から見たときの位置は変化している。
【0037】
次に、図5(c)、(d)の状態から図5(a)、(b)の状態になるように水平軸40の回転角度が変化した場合を考える。このときには、ケーブルA210がケーブルガイド部材202を引っ張るような動作をするため、ケーブルガイド部材202は反対方向に回転し、図5の(a)、(b)の状態に戻る。このように、配線するためのケーブルを、ケーブルガイド部材202を駆動することにも使うことにより、ケーブルに対して無理のない曲率半径を保ちながらケーブル長を変えることなく関節部を通過させることが可能となる。
【0038】
ここで示した例では、ケーブルA210およびケーブルB212を対向させるように配置することにより、ケーブルガイド部材202を反対方向に駆動させているが、同様の効果をもたらすのであればこの方法に限定されるものではない。例えば、ケーブルガイド部材に常に一定方向にモーメントがかかるようなねじりばねを設ける方法や、水平軸の角度に連動するギアなどによってケーブルガイド部材を駆動する方法等も考えられる。このような方法をとれば、ケーブルA210またはケーブルB212のどちらかの経路だけでも同様の挙動をさせることが可能である。
【0039】
なお、上記の説明では、ガイド部A204及びガイド部B206のガイド面を円弧状と記載したが、本発明は円弧状の形状に限定されるものではない。例えば、円弧状といっても真円である必要はないし、また、図6(a)に示すように、円弧状に近い形状の多角形状や、図6(b)に示すようにピンやボールなどを円弧状に近い形状に並べた形状など、包絡線が円弧状に近い形状となるようにガイド部を構成してもよい。
【0040】
次に、受動関節42よりも先の部分に動力を伝達する方法について説明する。背景技術の欄では、受動関節を持つ場合、その関節より先端側に動力を伝達できないため、受動関節より先端側にアクチュエータを取り付ける必要があることについて記載した。しかし、単純な動作であれば、受動関節より先にアクチュエータを設けずに、機械的に動力を伝達した方が簡便である場合がある。ここではその機構について説明する。
【0041】
図7は、受動関節より先の部分に動力を伝達する機構の一例を示す図である。第1の受動関節37と第2の受動関節42は、アクチュエータを持たない受動的な関節であるため、固定側部材34は、鉛直方向の回転軸(垂直軸)36の回りに自由に回転でき、回転側部材38は、水平軸40の回りに自由に回転できる。一般的には、水平軸40と垂直軸36は直交して1点で交わるが、必ずしもその必要はない。
【0042】
図7において、モータなどからなる回転駆動源302の回転力はプーリ304とベルト306を通してウォーム軸308に伝達される。ここで、ウォーム軸308と水平軸40は同軸となっており、且つそれぞれの軸は独立に回転が可能である。ウォーム軸308がウォーム軸受309により支持されて回転すると、ウォームギヤ310を介してウォームホイール312に動力が伝達される。これにより、被駆動体である回転動作部材314が、紙面に垂直な回転軸316の回りに回転される。回転動作部材314には、術具14が搭載されている。
【0043】
なお、図7では、ウォームホイール312は1周分ではなく、一部分のみに歯がある状態である。回転駆動部材314を1回転させたければ、ウォームホイール312を全周に設け、回転角に制限があってよければ、図7のように一部分に設けるだけでもよい。
【0044】
ここで、回転動作部材314は、曲面状に拘束されて移動しなければならない。これを可能にする構造の例を図8に示す。
【0045】
図8では、回転側部材38に形成された溝322の中をベアリング等の転がり軸受324が移動することにより、回転動作部材314が曲面状に拘束されながら移動することが可能である。ただし、転がり軸受324だけでは全ての方向を受けることができないため、回転側部材38の側面326とRガイド面(摺動面)328では摺動によって回転動作部材314を移動可能に支持する。
【0046】
図7に戻り、回転駆動源302で発生した動力はプーリ304、ベルト306、ウォームギヤ310を介してウォームホイール312に伝達され、回転動作部材314が回転駆動される。この時にウォームホイール312がロックした状態、または負荷が非常に大きい状態では、ウォーム軸308を回転させるトルクは水平軸40を回転させるトルクとなってしまう。しかし、ウォームギアによる減速比は一般的に非常に大きいので、水平軸を回転させるトルクが発生したとしても軽微である。
【0047】
また、一般的には、回転動作部材314には鉗子や内視鏡といった長いシャフト形状の術具14が搭載されており、外套管13によって支えられている。このため水平軸40に軽微なトルクが発生しても回転動作部材314が水平軸40のまわりに回転することはない。水平軸40の受動回転に影響を与えない程度の摩擦力発生機構(ブレーキやダンパ)を付加することでも解決可能である。
【0048】
なお、図7に示した機構では、水平軸40と回転動作部材314の回転軸316が交わっていないが、図9に示したように、第2のベルト332によって軸をオフセットさせれば、垂直軸36と、水平軸40と、回転軸316を1点で交わらせることが可能である。
【0049】
また、上記の例では、回転駆動源302からベルト306により動力を伝達するように説明したが、ギアや類似の伝達機構を介してもよい。
【0050】
次に、回転動作部材314に、術具14を着脱する機構について説明する。
【0051】
一般的に受動関節より遠位側には術具(手術器具)が取り付けられ、その器具は交換のために頻繁に取り外しされることが多い。ここでは、上記で説明した回転動作部材314に対して術具14の着脱を可能とする機構について説明する。
【0052】
図10は、術具14の着脱機構の例を示す図である。図9に示すように、回転動作部材314には固定用突起342が設けられ、その固定用突起342と勘合するように、固定用アダプタ344が取り付けられる。取り付けは固定ネジ345などを用いるが、固定方法はこれに限るものではない。
【0053】
固定用アダプタ344には、医療器具アダプタ346が着脱自在に装着される。医療器具アダプタ346は、固定用アダプタ344に術具14を取り付けるためのアダプタであり、取り付けたい術具14の形状に合わせていくつかの種類を持つことができる。固定用アダプタ344には、不図示のバネで付勢された固定爪348が配置されており、医療器具アダプタ346は、この固定爪348に係止されて、固定用アダプタ344に装着される。また、解除レバー350を押すことにより、医療器具アダプタ346を、固定用アダプタ344から取り外すことができる。
【0054】
次に、図11は、ドレープの配置を示す図である。一般的に、ロボットは洗浄や滅菌が不可能であるため、ドレープと呼ばれる袋状の覆い352を被せて清潔部と非清潔部を分離する。本実施形態では、図11に示すように、覆い352の一部に穴を設けて固定用突起342を露出させ、固定用アダプタ344を取り付ける。
【0055】
固定用突起342は非清潔部のため、可能な限り露出しないようにしなければならない。本実施形態の構造では、固定用アダプタ344を取り外さなくとも医療器具アダプタを取り外すことができるため、露出している非清潔部に触ることなく、機器の着脱が可能となる。
【0056】
以上説明したように、上記の実施形態によれば、受動関節にばねによる自重補償機構を設けることにより、先端側の重量により回転側部材に加わる下方向への回動力を、関節の大型化を抑制しつつ軽減することが可能となる。
【0057】
また、第2の受動関節に、水平軸の回りに回転自在で円弧状のケーブルガイド面を有するパイプ状のケーブルガイド部材を配置することにより、受動関節に自重補償機構を設けた場合でも、ケーブルに負担をかけることなくケーブルの引き回しを行うことができる。
【0058】
さらに、受動関節に、上記で説明したような動力伝達機構を設けることにより、簡単な構成で、受動関節よりも先の部分に動力を伝達することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
10:手術支援装置、14:術具、20,26,32:能動関節、37:第1の受動関節、40:水平軸、42:第2の受動関節、100:自重補償機構、202:ケーブルガイド部材、302:回転駆動源、314:回転動作部材
【要約】      (修正有)
【課題】先端側の重量によりアームに加わる下方向への回動力を、関節の大型化を抑制しつつ軽減できる医療用のロボットなどに用いられる受動関節を提供する。
【解決手段】固定側部材102に対して、回転側部材118を水平軸40を中心として上下方向に回動可能に支持する受動関節42であって、水平軸を中心とする円筒面を有し、固定側部材に固定された円筒状のカム部材106であって、円筒面に水平軸を中心として対称に配置され、水平軸に沿って斜めに形成された一対のカム面を有するカム部材と、回転側部材に固定された水平軸の内部に水平軸に沿ってスライド可能に配置され、一対のカム面にそれぞれ接触する一対のカムフォロワ110を有する台座と、回転側部材に固定された水平軸の内部に配置され、台座を水平軸に沿って固定側部材に向けて付勢するスプリング116と、を備える。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11