【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アニオン性官能基は、カルボキシレート基、アセチルアセトナート基、リン酸アニオン基及びスルホン酸アニオン基からなる群から選択される、請求項1に記載の固体電解質。
【背景技術】
【0002】
近年、電池容量が大きいリチウムイオン二次電池が注目され、研究が盛んに行われている。また、ナトリウムイオン二次電池やマグネシウムイオン二次電池も、リチウムイオン二次電池よりも電池容量に優れる二次電池として期待されている。このような二次電池の固体電解質として、種々の高分子固体電解質が提案されている。しかしながら、いずれの高分子電解質も、電解質に含まれるカチオンのイオン伝導度が低く、又、固体電解質の熱的安定性も十分とはいえない点で、更なる改良が必要であると考えられる。
【0003】
一方、本発明者は、有機/金属ハイブリッドポリマーに関する研究を行い、エレクトロクロミック材料(例えば、特許文献1、2)、蛍光材料(例えば、特許文献3)、プロトン伝導性ポリマーフィルム(例えば、特許文献4)の開発に貢献してきた。
【0004】
特許文献1には、電位を制御することによって容易に発色及び消色を制御可能、かつ加工可能な高分子材料として、ビスターピリジン誘導体と、金属イオンと、カウンターアニオンとを含む高分子材料が開示され、それをエレクトロクロミック素子に用いることが記載されている(要約)。
特許文献2には、エレクトロクロミック特性を有する高分子材料として、配位数4の金属及びビスフェナントロリン誘導体を含む有機/金属ハイブリッドポリマーが開示されている(特許請求の範囲)。
特許文献3には、簡単な処理で蛍光性を失わせ又は復活させることのできる高分子材料として、ビスターピリジン誘導体の配位子と、希土類金属イオンと、カウンターカチオンとを含む、有機/金属ハイブリッドポリマーが開示されている(要約、特許請求の範囲)。
特許文献4には、燃料電池や湿度センサーのプロトン交換膜として利用可能な高分子材料として、特定の金属イオンと、ビス(ターピリジル)ベンゼンとからなる有機/金属ハイブリッドポリマーのフィルムが開示されている(特許請求の範囲、明細書段落[0062])。
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2には、高分子材料が、いずれも、金属イオンの価数の変化によって発色・消色(又は脱色)を可能にするエレクトロクロミック特性を有することが記載されているにすぎず、用途として、表示素子などのエレクトロクロミック素子に適用可能であることが記載されているにすぎない。また、特許文献1及び2には、高分子材料が、カウンターアニオンを必須の構成要素として含むことが記載されていることから、高分子材料に含まれるビスターピリジン誘導体又はフェナントロリン誘導体と金属イオンとの錯体は必然的にカチオン性であって、アニオン性ではない。したがって、特許文献1及び2には、カウンターアニオンに代えて、カウンターカチオンを採用することについて何ら動機付けとなる記載はない。
また、特許文献3には、高分子材料である有機/金属ハイブリッドポリマーが、蛍光性の消失と復活を繰り返すことができるという独自の特性を有することが記載されているにすぎず、用途として、蛍光性を有する表示装置や記憶装置に適用可能であることが記載されているにすぎない。また、特許文献3には、高分子材料が、Na、K、HN(CH
3)
3などからなる群から選択されるカウンターカチオンを含むことが記載されているものの、専ら蛍光特性にのみ着目しており、高分子材料のイオン伝導性については記載も示唆もない。したがって、特許文献3には、蛍光体の用途から、イオン伝導性を利用した他の用途へと、高分子材料を改変することについて何ら動機付けとなる記載はない。
また、特許文献4には、高分子材料である有機/金属ハイブリッドポリマーが、高プロトン伝導性を有することが記載されているにすぎず、用途として、高感度な温度センサーや固体高分子型燃料電池のプロトン交換膜に適用可能であることが記載されているにすぎない。また、特許文献4には、アニオン性有機金属錯体とカウンターカチオンとの組み合わせについて記載も示唆もない。したがって、特許文献4には、温度センサーや燃料電池の用途から、カウンターカチオンによるイオン伝導性を利用した他の用途へと、高分子材料を改変することについて何ら動機付けとなる記載はない。
【0006】
このように特許文献1〜4に開示された高分子材料は、いずれもカチオンによるイオン伝導を利用するものではなく、カチオンのイオン伝導度が低いため、二次電池の固体電解質への利用には適していない。このことから、従来の有機/金属ハイブリッドポリマーの特性をより一層改良し、二次電池等のさらなる用途に好適に利用し得ることが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、カチオンによる高いイオン伝導度を有し、二次電池等の用途に利用可能な、新規な成分構成を有する有機/金属ハイブリッドポリマーを含む固体電解質及びその製造方法、並びにそれを用いた二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決する手段を鋭意検討した結果、アニオン性官能基及び3価の金属イオンを有するアニオン性有機/金属錯体と、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択されるカウンターカチオンとを有する有機/金属ハイブリッドポリマーを固体電解質に用いることにより、カチオンによる高いイオン伝導度を有する固体電解質が得られることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
【0010】
[1] 有機/金属ハイブリッドポリマーを含む固体電解質であって、
前記有機/金属ハイブリッドポリマーは、アニオン性有機/金属錯体と、カウンターカチオンとを含み、
前記アニオン性有機/金属錯体は、アニオン性官能基及び3価の金属イオンを有し、
前記カウンターカチオンは、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択される、
上記固体電解質。
[2] 前記アニオン性官能基は、カルボキシレート基、アセチルアセトナート基、リン酸アニオン基及びスルホン酸アニオン基からなる群から選択される、[1]に記載の固体電解質。
[3] 前記3価の金属イオンは、La
3+、Nd
3+、Eu
3+及びTb
3+からなる群から選択される、[1]又は[2]に記載の固体電解質。
[4] 前記アニオン性官能基は、前記3価の金属イオンに配位している、[1]〜[3]のいずれか一項に記載の固体電解質。
[5] 前記アニオン性有機/金属錯体は、前記アニオン性官能基を有するビスターピリジン誘導体又はビスフェナントロリン誘導体の配位子と前記3価の金属イオンとの錯体である、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の固体電解質。
[6] 前記カウンターカチオンの伝導によるイオン伝導性を有する、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の固体電解質。
【0011】
[7] 前記有機/金属ハイブリッドポリマーは、一般式(I)、(II)及び(III)からなる群から選択される一般式で表される、[1]に記載の固体電解質。
【化1】
前記式(I)において、Mは前記3価の金属イオンを示し、Xは前記カウンターカチオンを示し、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
1〜R
4は、それぞれ独立に前記アニオン性官能基を示し、nは重合度を示す2以上の整数であり、
前記式(II)において、M
1〜M
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に前記3価の金属イオンを示し、Xは前記カウンターカチオンを示し、A
1〜A
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に前記アニオン性官能基を示し、n
1〜n
Nは、それぞれ独立に重合度を示す2以上の整数であり、
前記式(III)において、Mは前記3価の金属イオンを示し、Xは前記カウンターカチオンを示し、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのフェナントロリン基を直接接続するスペーサを示し、R
1及びR
2はそれぞれ独立に前記アニオン性官能基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示し、nは重合度を示す2以上の整数である。
【0012】
[8] 前記式(I)におけるR
1〜R
4の前記アニオン性官能基、及び、前記式(II)におけるR
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4Nの前記アニオン性官能基は、窒素原子の隣に位置する、[7]に記載の固体電解質。
【0013】
[9] 前記式(I)におけるAの前記スペーサ、及び、前記式(II)におけるA
1〜A
Nの前記スペーサは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される、[7]に記載の固体電解質。
【化2】
【0014】
[10] 前記式(III)におけるAの前記スペーサは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される、[7]に記載の固体電解質。
【化3】
【0015】
[11] 前記有機/金属錯体は、−1価に帯電している、[1]〜[10]のいずれか一項に記載の固体電解質。
[12] [1]〜[11]のいずれか一項に記載の固体電解質の製造方法であって、
酸性官能基を有する有機配位子と、3価の金属イオンの金属塩と、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択される金属の水酸化物とを、有機溶媒中で還流させるステップを含む、方法。
[13] 前記酸性官能基は、カルボキシル基、アセチルアセトン基、リン酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される、[12]に記載の方法。
[14] 前記有機配位子は、ビスターピリジン誘導体又はビスフェナントロリン誘導体である、[12]に記載の方法。
【0016】
[15] 前記有機配位子は、式(IV)又は式(V)のいずれかの一般式で表される、[12]に記載の方法。
【化4】
前記式(IV)において、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R’
1〜R’
4は、それぞれ独立に前記酸性官能基を示し、
前記式(V)において、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのフェナントロリン基を直接接続するスペーサを示し、R’
1及びR’
2はそれぞれ独立に前記酸性官能基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。
【0017】
[16] 前記式(IV)におけるAの前記スペーサは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される、[15]に記載の方法。
【化5】
【0018】
[17] 前記式(V)におけるAの前記スペーサは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される、[15]に記載の方法。
【化6】
【0019】
[18] 前記還流させるステップにおいて、前記有機配位子と、前記金属塩と、前記水酸化物とは、0.5〜1.5:0.5〜1.5:1〜10のモル比で混合される、[12]に記載の方法。
[19] 正極と、
Li、Na、K及びMgからなる群から選択される金属を含有する負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に位置する固体電解質層とを備える二次電池であって、
前記固体電解質層は、[1]〜11]のいずれか一項に記載の固体電解質からなり、
前記固体電解質における有機/金属ハイブリッドポリマーが有するカウンターカチオンの元素の種類は、前記負極活物質に含有される金属の元素の種類と同じである、二次電池。
[20] 前記正極と前記固体電解質層との間に正極用電解液、及び、前記負極と前記固体電解質層との間に負極用電解液をさらに備える、[19]に記載の二次電池。
【発明の効果】
【0020】
本発明による固体電解質は、アニオン性有機錯体とカウンターカチオンとを有する有機/金属ハイブリッドポリマーを含む。当該アニオン性有機/金属錯体はアニオン性官能基及び3価の金属イオンを有しているので、3価の金属イオンとアニオン性官能基との強い相互作用によって、カウンターカチオンは、ポリマー中のアニオン性官能基にトラップされにくく、その結果、ポリマー中を自由に移動することができる。このように、本発明の固体電解質は、カチオン伝導体として機能し、カチオンによる高いイオン伝導性を実現し得るため、電気的特性に優れた二次電池用の優れた固体電解質を提供することができる。
また、本発明による固体電解質は、有機/金属ハイブリッドポリマーを含有するため、耐熱性に優れた固体電解質を提供することができる。
このような固体電解質を用いることにより、電気的特性にも耐熱性にも優れた大容量かつ安全性の高い二次電池を提供し得る。
【0021】
また、本発明による固体電解質の製造方法は、酸性官能基を有する有機配位子と、3価の金属イオンの金属塩と、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択される金属の水酸化物とを還流させるステップを含むため、ワンポット合成が可能となり得る。その結果、製造プロセスが簡略化され、安価にかつ収率よく本発明の固体電解質を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明を実施する好ましい形態の一例について説明する。ただし、下記の実施形態は本発明を説明するための例示であり、本発明は下記の実施形態に何ら限定されるものではない。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0024】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の固体電解質及びその製造方法について詳述する。
【0025】
本発明の固体電解質は、アニオン性官能基及び3価の金属イオンを有するアニオン性有機/金属錯体と、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択されるカウンターカチオンとを有する有機/金属ハイブリッドポリマーを含有する。アニオン性官能基及び3価の金属イオンにより有機/金属錯体は、全体としてアニオン性を有する。さらに、3価の金属イオンとアニオン性官能基との相互作用が強いため(すなわち、アニオン性官能基に3価の金属イオンが強く配位しやすいため)、カウンターカチオンは、ポリマー中のアニオン性官能基にトラップされにくい。その結果、カウンターカチオンがポリマー中を自由に移動できるので、有機/金属ハイブリッドポリマーは、カチオンによる高いイオン伝導性を発揮し、固体電解質として機能し得る。
【0026】
好ましくは、アニオン性官能基は3価の金属イオンに配位している。これにより、有機/金属錯体は、全体としてアニオン性を有することができ、アニオン性官能基がカウンターカチオンをトラップすることはない。好ましくは、有機/金属錯体は、アニオン性官能基及び3価の金属イオンにより−1価に帯電している。これにより上述の3価のイオンをカウンターカチオンとすることができる。−1価となるアニオン性官能基と3価の金属イオンとの組み合わせには、特に制限はないが、4つの−1価のアニオン性官能基と、1つの3価の金属イオンとの組み合わせが好ましい。これにより、有機/金属錯体は−1価に帯電し、有機/金属ハイブリッドポリマーは上述のカウンターカチオンによって高いイオン伝導性を発揮するので、固体電解質として機能し得る。
【0027】
アニオン性官能基は、好ましくは、カルボキシレート基、アセチルアセトナート基、リン酸アニオン基及びスルホン酸アニオン基からなる群から選択される。これらのアニオン性官能基は、3価の金属イオンに強く配位するため、カウンターカチオンをトラップすることはない。中でも、合成の観点からカルボキシレート基が好ましい。
【0028】
3価の金属イオンとしては、酸素原子と高い親和性を有するランタノイド系金属イオンが挙げられる。特に、La
3+、Nd
3+、Eu
3+及びTb
3+からなる群から選択されることが好ましい。これらの金属イオンであれば、有機/金属錯体が形成され、アニオン性官能基と強く配位することができる。
【0029】
有機/金属錯体は、好ましくは、アニオン性官能基を有するビスターピリジン誘導体又はビスフェナントロリン誘導体の配位子と3価の金属イオンとの錯体である。これらの有機/金属錯体であれば、アニオン性官能基と3価の金属イオンとの相互作用が強いため、カウンターカチオンは、ポリマー中のアニオン性官能基にトラップされにくい。その結果、カウンターカチオンがポリマー中を自由に移動できるので、有機/金属ハイブリッドポリマーは、カチオンによる高いイオン伝導性を発揮し、固体電解質として機能し得る。
【0030】
本発明の固体電解質において、有機/金属ハイブリッドポリマーは、好ましくは、一般式(I)、(II)及び(III)からなる群から選択される一般式で表される。これらの一般式(I)〜(III)で表される有機/金属ハイブリッドポリマーは、カウンターカチオンの伝導によるイオン伝導性を示すイオン伝導体であり、優れた固体電解質となる。
【0032】
式(I)において、Mは3価の金属イオンを示し、XはLi
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択されるカウンターカチオンを示し、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
1〜R
4は、それぞれ独立にアニオン性官能基を示し、nは重合度を示す2以上の整数である。
【0033】
式(I)において、上述したように、Mは、酸素原子と高い親和性を有するランタノイド系金属イオンである3価の金属イオンであれば特に制限はないが、好ましくは、La
3+、Nd
3+、Eu
3+及びTb
3+からなる群から選択される。R
1〜R
4は、アニオン性官能基であれば特に制限はないが、好ましくは、カルボキシレート基、アセチルアセトナート基、リン酸アニオン基及びスルホン酸アニオン基からなる群から選択される。合成の観点からは、R
1〜R
4は同一であることが好ましいが、制限はない。
【0034】
式(II)において、M
1〜M
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に3価の金属イオンを示し、XはLi
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択されるカウンターカチオンを示し、A
1〜A
N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立に炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4N(Nは2以上の整数)は、それぞれ独立にアニオン性官能基を示し、n
1〜n
Nは、それぞれ独立に重合度を示す2以上の整数である。合成の観点からは、R
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4Nは、各Nにおいて同一であることが好ましいが、制限はない。
【0035】
式(II)において、Mは、酸素原子と高い親和性を有するランタノイド系金属イオンである3価の金属イオンであれば特に制限はないが、好ましくは、La
3+、Nd
3+、Eu
3+及びTb
3+からなる群から選択される。R
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4N(Nは2以上の整数)は、アニオン性官能基であれば特に制限はないが、好ましくは、カルボキシレート基、アセチルアセトナート基、リン酸アニオン基及びスルホン酸アニオン基からなる群から選択される。
【0036】
式(I)におけるAのスペーサ、及び、式(II)におけるA
1〜A
Nのスペーサは、好ましくは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される。これらのスペーサであれば、有機/金属ハイブリッドポリマーが確実に得られる。
【0038】
式(III)において、Mは3価の金属イオンを示し、XはLi
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択されるカウンターカチオンを示し、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのフェナントロリン基を直接接続するスペーサを示し、R
1及びR
2はそれぞれ独立にアニオン性官能基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示し、nは重合度を示す2以上の整数である。なお、式(III)において、R
1及びR
2のアニオン性官能基は、3価の金属イオンとの配位との観点から、窒素原子の隣に位置することが好ましいが、3価の金属イオンと配位する限りそのほかの位置に結合していてもよい。
【0039】
式(III)において、上述したように、Mは、酸素原子と高い親和性を有するランタノイド系金属イオンである3価の金属イオンであれば特に制限はないが、好ましくは、La
3+、Nd
3+、Eu
3+及びTb
3+からなる群から選択される。R
1及びR
2は、アニオン性官能基であれば特に制限はないが、好ましくは、カルボキシレート基、アセチルアセトナート基、リン酸アニオン基及びスルホン酸アニオン基からなる群から選択される。
【0040】
式(III)におけるAのスペーサは、好ましくは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される。これらのスペーサであれば、有機/金属ハイブリッドポリマーが確実に得られる。
【0042】
また、式(III)において、R
3及びR
4は、それぞれ、好ましくは、次式で示される水素原子又は置換基からなる群から選択される。
【0044】
ここで、式(I)におけるR
1〜R
4のアニオン性官能基、式(II)におけるR
11〜R
1N、R
21〜R
2N、R
31〜R
3N、R
41〜R
4Nのアニオン性官能基、及び、式(III)におけるR
1及びR
2のアニオン性官能基は、窒素原子の隣に位置する。これにより、アニオン性官能基と3価の金属イオンとが配位し、アニオン性有機/金属錯体となるので、カウンターカチオンがアニオン性官能基にトラップされることはない。
【0045】
次に、本発明の固体電解質の例示的な製造方法を説明する。
本発明の固体電解質の製造方法は、酸性官能基を有する有機配位子と、3価の金属イオンの金属塩と、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択される金属の水酸化物とを、有機溶媒中で還流させるステップを含む。このように本発明の製造方法によれば、単に原料を混合し、反応させればよいので、ワンポット合成が可能である。これにより、製造プロセスが簡略化され、安価にかつ収率よく本発明の固体電解質を製造できる。
【0046】
酸性官能基は、好ましくは、カルボキシル基、アセチルアセトン基、リン酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される。これらの酸性官能基は、上述したアニオン性官能基となり、金属イオンの金属塩における3価の金属イオンに強く配位し、上述した金属/有機錯体となる。中でも、合成の観点からカルボキシル基が好ましい。
【0047】
有機配位子は、好ましくは、ビスターピリジン誘導体又はビスフェナントロリン誘導体の配位子である。これらの有機配位子であれば、酸性官能基がアニオン性官能基となり、3価の金属イオンと錯形成し、上述した金属/有機錯体となる。
【0048】
有機配位子は、好ましくは、次式で表される式(IV)又は式(V)のいずれかの一般式で表される有機配位子である。それぞれの有機配位子を用いた場合に進行する反応の一例、すなわち、本発明の製造工程の一例を、それぞれ
図1、
図2に示す。
【0050】
式(IV)において、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのターピリジン基を直接接続するスペーサを示し、R’
1〜R’
4は、それぞれ独立に酸性官能基を示す。上述したように、R’
1〜R’
4は酸性官能基であれば特に制限はないが、好ましくは、カルボキシル基、アセチルアセトン基、リン酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される。
【0051】
式(V)において、Aは、炭素原子及び水素原子を含むスペーサ又は2つのフェナントロリン基を直接接続するスペーサを示し、R’
1及びR’
2はそれぞれ独立に酸性官能基を示し、R
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を示す。上述したように、R’
1及びR’
2は酸性官能基であれば特に制限はないが、好ましくは、カルボキシル基、アセチルアセトン基、リン酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される。R
3及びR
4は、例示的には、次式で表される水素原子又は置換基からなる群から選択される。
【0053】
式(IV)におけるAのスペーサは、好ましくは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される。これらのスペーサであれば、3価の金属イオンと錯形成し、上述した金属/有機錯体となる。
【0055】
式(V)におけるAのスペーサは、好ましくは、次式に示されるスペーサからなる群から選択される。これらのスペーサであれば、3価の金属イオンと錯形成し、上述した金属/有機錯体となる。
【0057】
金属塩は、好ましくは、3価の金属イオンの硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩及び塩化物からなる群から選択される。これらの金属塩であれば、反応が促進し、金属/有機錯体となる。また、3価の金属イオンは、La
3+、Nd
3+、Eu
3+及びTb
3+からなる群から選択される。これらの金属イオンであれば、有機/金属錯体が形成され、酸性官能基から得られるアニオン性官能基と強く配位することができる。
【0058】
なお、
図1において、異なるR’
1〜R’
4である酸性官能基及び/又はスペーサAを満たす式(IV)で示される2以上の有機配位子、及び/又は、異なるMである2以上の金属塩を用いることにより、上述の式(II)で表される有機/金属ハイブリッドポリマーを含有する固体電解質が得られることは言うまでもなく、目的とする有機/金属ハイブリッドポリマーに応じて当業者であれば容易に設計できる。
【0059】
有機溶媒には、特に制限がないが、溶出力を制御するため混合溶媒が好ましい。例示的には、クロロホルムとメタノールとの混合溶媒、ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒、アセトンと酢酸エチルと水と酢酸との混合溶媒、トルエンと酢酸エチルと(必要に応じてさらに酢酸と)の混合溶媒がある。
【0060】
上述の還流させるステップにおいて、還流に先立って、有機配位子と、金属塩と、水酸化物とは、好ましくは、0.5〜1.5:0.5〜1.5:1〜10のモル比で混合される。このモル比を満たすように原料を混合すれば、上述の有機/金属ハイブリッドポリマーが得られる。有機配位子と、金属塩と、水酸化物とは、好ましくは、0.5〜1.5:0.5〜1.5:2〜6のモル比で混合される。これにより確実に反応が進む。有機配位子と、金属塩と、水酸化物とは、さらに好ましくは、0.75〜1.25:0.75〜1.25:3〜5のモル比で混合される。
【0061】
原料の反応条件には還流させれば特に制限はないが、好ましくは、不活性ガス雰囲気中、1時間以上40時間以下の時間、還流させる。不活性ガスは、具体的には、窒素や、アルゴン、ヘリウム、ネオンといった希ガスである。反応時間が1時間未満の場合、原料が十分に反応しない場合がある。反応時間が40時間を超えてもそれ以上反応が進まないため非効率である。
【0062】
還流後、溶媒を除去し、生成物をクロロホルム、メタノール、ヘキサン等により洗浄し、未反応の原料を除去すれば、本発明の固体電解質を得ることができる。
【0063】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の固体電解質を用いた二次電池及びその製造方法について詳述する。
【0064】
図3は、本発明の固体電解質を用いた二次電池を示す模式図である。
【0065】
本発明の二次電池300は、正極310と、Li、Na、K及びMgからなる群から選択される金属元素を含有する負極活物質を有する負極320と、正極310と負極320との間に位置する固体電解質層330とを備える。ここで、固体電解質層330は、実施の形態1で説明した固体電解質からなるため、説明を省略する。なお、本発明の二次電池300においては、固体電解質におけるカウンターカチオンの種類は、負極活物質に含有される金属元素の種類と同じとなるように設定されている。
【0066】
正極310には、既存の二次電池の正極として使用される材料を適用できる。例示的には、正極310は、正極活物質と必要に応じて導電剤と必要に応じて結着剤とを含有する正極材からなる。
【0067】
正極活物質は、例示的には、硫黄、遷移金属の硫化物、M
nMo
6X
8(MはLi、Sn、Pb、Fe、Cu及びAgからなる群から選択される1種、XはS、Se及びTeからなる群から選択される1種、nは任意の整数)に代表されるカルコゲナイド系化合物、バナジウム酸化物等の遷移金属酸化物、マグネシウム複合酸化物などである。正極活物質として、銅、銀、鉄、ニッケル、金等の金属材料であってもよい。この場合、後述する
図4に示す本発明の固体電解質と電解液とを組み合わせた際に特に有利である。
【0068】
導電剤は、例示的には、黒鉛、アセチレンブラック(登録商標)、カーボンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、カーボンウィスカ、ニードルコークス、カーボンナノファイバ、銅やニッケル等の金属、又は、これらの混合物である。
【0069】
結着剤は必須ではないが、正極活物質と導電剤とを接着する機能を有し、例示的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッカビニリデン(PVdF)、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム等がある。
【0070】
負極320は、Li、Na、K及びMgからなる群から選択される金属元素を含有する負極活物質を有する。負極活物質は、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択される金属イオンを吸蔵・放出可能な材料であるが、例示的には、Li、Na、K及びMgからなる群から選択される金属元素単体又はそれを用いた合金である。例えば、選択される金属がLi又はMgである場合、Li又はMgの合金としては、アルミニウム、シリコン、ガリウム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、マンガン等とLi又はMgとの合金がある。これらの合金は、Li又はMgを吸蔵・放出可能である。負極320は、例示的には、上述の負極活物質と必要に応じて導電剤と必要に応じて結着剤とを含有する負極材からなる。導電剤及び結着剤は、正極310において説明したものを参照されたい。
【0071】
本発明の二次電池300は、次のようにして製造される。アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、導電性高分子、導電性ガラスなどの任意の集電体の表面に、上述した正極材に溶剤を添加したペーストを塗布し、溶剤を乾燥除去し、正極310が形成される。正極310と同様にして、集電体上に上述した負極320が形成される。次いで、実施の形態1で説明した本発明の固体電解質を溶剤に分散させ、正極310又は負極320のいずれか一方に塗布し、溶媒を乾燥除去することによって、固体電解質層330が形成される。このようにして形成された固体電解質層330を形成した正極310/負極320に、負極320/正極310を貼り合わせれば、本発明の二次電池300が得られる。なお、
図3の二次電池300の全体が容器(図示せず)に収容されていてもよい。
【0072】
溶剤は、正極材、負極材及び固体電解質を分散させることができる任意の溶剤であるが、例示的には、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、酢酸メチル等がある。
【0073】
ペーストの塗布方法に特に制限はないが、スピンコーディング、ディップ、スクリーン印刷、スプレー、ローラコーティングなどがあり、集電体の形状に合わせて適宜採用されてもよい。
【0074】
本発明の二次電池300によれば、固体電解質層330として本発明の固体電解質を用いるので、全固体二次電池として機能するだけでなく、カチオンによるイオン伝導性に優れるので、早い電池の作動に寄与するとともに、高いエネルギー密度及び出力密度を達成できる。また、本発明による固体電解質は高温においても化学的に安定であるので、二次電池300全体として熱的安定性に優れる。
【0075】
図4は、本発明の固体電解質を用いた別の二次電池を示す模式図である。
【0076】
図4に示す二次電池400は、正極310と固体電解質層330との間に正極用電解液410と、負極320と固体電解質層330との間に負極用電解液420とをさらに備える以外は、
図3に示す二次電池300と同じである。このように本発明の固体電解質からなる固体電解質層330に加えて、正極用電解液410及び負極用電解液420をさらに備えることにより、固体電解質層330は、セパレータとして機能するだけでなく、カチオンのイオン伝導度をさらに向上させることができるので、好ましい。
【0077】
正極用電解液410は、水溶性電解液、有機電解液、イオン液体又はこれらの組み合わせである。水溶性電解液は、正極310の正極活物質を構成する金属元素のイオンとイオン交換することによって、負極320の負極活物質を構成する金属元素のイオンを生成する電解質を含有することが好ましい。例示的には、水溶性電解液は、負極活物質を構成するLi、Na、K及びMgからなる群から選択される金属元素の硝酸塩、塩化物、硫酸塩、炭酸塩、これらの組み合わせ等の水溶液である。
【0078】
イオン液体もまた、負極活物質を構成するLi、Na、K及びMgからなる群から選択される金属元素の塩を溶解したイオン液体が好ましい。例示的には、イオン液体は、EMI−TFSI(1−エチル−3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)、EMI−BF4(1−エチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート)、TMPA−TFSI(トリメチルプロピルアンモニウム−ビストリフルオロメチルスルフォニルイミド)、PP13(N−メチル−N−プロピルピペリジニウム)等である。なお、金属元素の塩は、例えば、選択される金属元素がLiである場合、LiPF
6、LiAsF
6、LiClO
4等であり、選択される金属元素がMgである場合、Mg(PF
6)
2、Mg(AsF
6)
2、Mg(ClO
4)
2等がある。
【0079】
有機電解液もまた、負極活物質を構成するLi、Na、K及びMgからなる群から選択される金属元素の塩を溶解した有機溶媒が好ましい。例示的には、有機溶媒は、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、フルオロエチルメチルカーボネート(FEMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ビニレンカーボネート(VC)、アセトニトリル(AN)等がある。金属元素の塩は、上述したとおりである。
【0080】
負極用電解液420は、正極用電解液410と同様に、水溶性電解液、有機電解液、イオン液体又はこれらの組み合わせである。同様の電解液を使用できるので、説明を省略する。なお、正極用電解液410と負極用電解液420とは必ずしも異なるように選択する必要はなく、同じであってもよいが、固体電解質層のイオン伝導度を向上させる目的で種々の組み合わせが採用される。
【0081】
なお、
図4の二次電池400は、例示的には次のように製造される。
図3の二次電池300と同様の手順にて、正極310及び負極320を形成後、所定用容器(図示せず)内に配置し、フィルム状に加工した固体電解質層330を正極310と負極320との間に配置する。その後、正極310と固体電解質層330との間に正極用電解液410を、負極320と固体電解質層330との間に負極用電解液420を充填すればよい。
【0082】
図3又は
図4に示す二次電池300/400は、1つのセルのみを示すが、必要な電圧及び容量を有するよう複数のセルを直列又は並列に接続してもよい。また、二次電池300/400の形状に、特に制限はないが、コイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型などがある。
【0083】
図3及び
図4を参照して、Li
+、Na
+、K
+又はMg
2+をキャリアとする二次電池を説明してきたが、本発明の電池はこれに限らない。例えば、本発明の固体電解質を空気電池に用いてもよい。このような空気電池は、酸素を正極活物質とする正極と、Li、Na、K及びMgからなる群から選択される金属を含有する負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に位置する本発明の固体電解質層とを備え、蓄電デバイスとしても機能する。
【0084】
本発明の固体電解質は、Li
+、Na
+、K
+又はMg
2+のカチオンを伝導するので、このようなカチオンによるイオン伝導を利用した、イオン濃度センサーのような電気化学デバイスに採用されてもよい。
【0085】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0086】
[参考例]
実施例に先立って、式(IV)において、R’
1〜R’
4がカルボキシル基であり、Aが次式で表される有機配位子L1を合成した。合成手順を説明する。
【0087】
【化15】
【0088】
図5は、有機配位子L1を合成するスキームを示す図である。
【0089】
まず、F.S.HanらのOrg.Lett.,2007,9,559〜562に記載のプロシージャにしたがって、化合物5(和光純薬工業製)から化合物6を経て、化合物7を得た。次いで、T.SatoらのChem.Commun.,2012,48,4947〜4949に記載のプロシージャにしたがって、化合物7から化合物1(ジエチル−4’−(4−ブロモフェニル)−2,2’:6’,2”−ターピリジン−6,6”−ジカルボキシレート)を得た。
【0090】
化合物1(350mg、0.65mmol)と、化合物2(2,2’−(9,9−ジオクチル―9H−フルオレン−2,7−ジイル)ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン)、Sigma−Aldrich製、185mg、0.30mmol)と、炭酸カリウム(和光純薬工業製、140mg、0.9mmol)と、Pd(PPh
3)
4(34mg、0.033mmol)と、ジメチルスルホキシド(DMSO、関東化学工業製、50mL)とを、100mLの2首丸底フラスコに添加、混合した。
【0091】
フラスコを窒素ガスで15分間パージした。約1時間の凍結脱気を繰り返し行った後、フラスコ内の混合溶液を、窒素雰囲気中、100℃で24時間攪拌し、反応させた。反応後、100℃、減圧下で溶媒を除去した。反応混合物を室温まで冷却し、クロロホルム(和光純薬工業製、100mL)添加した。次いで、反応混合物から触媒を濾過によって除去し、クロロホルムで全体を洗浄した。濾液を脱イオン水で洗浄し、有機層を分離し、硫酸ナトリウムで乾燥させた。これを濾過し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、溶離剤としてクロロホルム/ヘキサン=50:50)により精製した。
【0092】
得られた生成物(白色粉末、0.295g、49.8%)を重クロロホルムに溶解させ、核磁気共鳴(NMR分光法)を用いて同定した。用いた装置は、FT−NMR装置(JEOL AL 300/BZ、JEOL製)であった。同定結果を示す。
1H NMR(300MHz、CDCl
3、298K、TMS):δ8.96(s,4H)、8.88(d,4H)、8.27(m,4H)、8.10(m,8H)、7.92(m,6H)、7.75(m,4H)、4.58(q,8H)、2.14(m,4H)、1.70(t,6H)、1.54(m,24H)、1.32(b,24H)、0.99(t,6H)
13C NMR(75MHz、CDCl
3、298K、TMS):δ167.1、158.2、157.0、153.7、152.0、149.8、144.0、142.1、141.5、138.5、130.5、129.0、128.5、127.3、127.0、126.0、125.9、125.0、124.3、123.1、122.5、122.1、121.0、120.5、65.2、63.5、61.9、57.1、32.8、31.9、31.0、27.2、25.8、17.0、15.1、13.5
【0093】
レーザイオン飛行時間型質量分析装置(MALDI TOF−MS、AXIMA CFR、Shimadzu/Kratos製)を用いて高分解能質量分析及び組成分析を行った。同定結果を示す。
MALDI−TOF−MS:1293.42[M+H](C
83H
84N
6O
8理論値:1292.64)
以上より、得られた生成物が
図5の化合物3であることを確認した。
【0094】
次に、化合物3(100mg、0.077mmol)をテトラヒドロフラン(THF、和光純薬工業製)と脱イオン水との混合溶媒(v/v=9:1)に溶解させた。この混合溶液(10mL)に水酸化ナトリウム(和光純薬工業製、12.0mg、0.308mmol)を添加し、16時間還流させた。得られた反応混合物を室温まで冷却し、2Mの塩酸(和光純薬工業製)で酸性化した。減圧下でTHFを除去した。次いで、濾過を行い、残留する塩を脱イオン水で数回洗浄した。さらに、残渣を、ヘキサン(和光純薬工業製)、クロロホルム、メタノール(和光純薬工業製)の混合溶媒で洗浄し、精製し、減圧下で乾燥させ、生成物を得た。
【0095】
得られた生成物(黄色固体、85mg、95.0%)を、同様に、NMR及びMALDI−TOF−MSによって同定した。
1H NMR(300MHz、CDCl
3、298K、TMS):δ8.99(s,4H)、8.88(d,4H)、8.18(m,8H)、8.04(m, 10H)、7.90(s,2H)、7.89(d,2H)、2.17(broad,4H)、1.02(broad,24H)、0.69(t,6H)
MALDI−TOF−MS:1180.47[M](C
75H
68N
6O
8理論値:1180.51)
【0096】
さらに、得られた生成物について、フーリエ変換還赤外分光光度計(UV−2550、島津製作所製)を用いて、赤外吸収スペクトルを測定した。同定結果を示す。
FT−IR(KBr、cm
−1):3388(ブロードピーク)、2924、2851、1607、1571、1548、1449、1416、1380、1268、1246、1180、1080、1012、952、919、887、819、788、731、700、652、601、560、526、490、455、421、401
以上より、得られた生成物が
図5の化合物L1であることを確認した。
【0097】
[例1]
例1は、式(I)において、MがEu
3+であり、R
1〜R
4がカルボキシレート基であり、Aが次式で表され、カウンターカチオンがNa
+である有機/金属ハイブリッドポリマーからなる固体電解質P1(
図6)を製造した。
【0098】
【化16】
【0099】
図7に示すように、酸性官能基を有する有機配位子として参考例で合成したL1(20mg、0.0168mmol)と、3価の金属イオンの金属塩としてEu(NO
3)
3・5H
2O(Sigma−Aldrich製、6.8mg、0.0168mmol)と、金属の水酸化物としてNaOH(和光純薬工業製、2.68mg、0.0672mmol)とを、有機溶媒としてメタノールとクロロホルムとの混合溶媒(v/v=1:1、20mL)中で、窒素雰囲気中、60℃で24時間還流させた。反応混合物を室温まで冷却し、有機溶媒を減圧下で除去し、生成物を得た。生成物を、クロロホルム、メタノール及びヘキサンの混合溶媒で洗浄し、未反応の有機配位子及び金属塩を除去した。さらに、減圧下で生成物を一晩乾燥させ、黄色の固体粉末を得た(87.0%)。
【0100】
得られた生成物について、参考例と同様に、赤外吸収スペクトルを測定した。生成物の重量平均分子量Mwを、SEC−viscometry−RALLS(サイズ排除クロマトグラフィ−粘土測定−直角レーザ光散乱)システムを用いて測定した。なお、システムは、液体クロマトグラフィ、ポンプ、溶媒脱気装置、屈折率検出器、カラムオーブン及びViscotek270デュアル検出器を備えた(溶離液:DMSO、速度:1mLmin
−1、カラム温度:27℃、ポリマー濃度:1.0mgmL
−1、注入容量:20mL、標準試料:ポリエチレンオキシドPEO−19K)。
【0101】
FT−IR(KBr、cm
−1):3362(ブロードピーク)、2953、2923、2852、1611、1574、1453、1419、1382、1268、1247、1177、1122、1083、1016、928、889、847、819、786、732、704、652、624
重量平均分子量(Mw)=4.3×10
4Da
このことから得られた生成物は、有機/金属ハイブリッドポリマーP1であることが示された。
【0102】
得られた生成物の発光スペクトルを、分光蛍光光度計(島津製作所製、RF−5300PC)を用いて測定した。測定用の試料は、生成物(5μL)をメタノール/クロロホルム(v/v=1:1)とDMSOとの混合溶媒に溶解し、室温にて測定した。結果を
図8に示す。
【0103】
生成物の伝導度(導電率)をインピーダンス法により測定した。得られた生成物を厚さ0.01〜0.03cm、直径1cmのペレットとなるよう圧粉成形し、これを測定用の試料に用いた。測定には、Solartron1296誘電体インターフェースに接続したSolartron1260インピーダンスゲイン/フェースアナライザを用いた。試料をサンプルホルダ(Tokyo Industries製、SH−2Z)の2つの電極間にセットし、湿度−温度調節器(Espec製、SH−221)内に配置した。試料を、種々の温度(25℃、35℃、45℃、55℃、65℃、75℃)、種々の相対湿度(95%、80%、70%、50%、30%)のそれぞれの条件に2時間〜3時間維持した後、Solartron1260によって1Hz〜30MHzの周波数範囲における試料の抵抗率を測定し、伝導度を求めた。結果を
図11〜
図16及び表1〜表2に示す。
【0104】
[例2]
例2は、カウンターカチオンがK
+である以外は例1と同じである有機/金属ハイブリッドポリマーからなる固体電解質P2(
図6)を製造した。
図7に示すように、L1(16mg、0.0135mmol)と、Eu(NO
3)
3・5H
2O(5.8mg、0.0135mmol)と、KOH(和光純薬工業製、3.02mg、0.054mmol)とを、有機溶媒としてメタノールとクロロホルムとの混合溶媒(v/v=1:1、15mL)中で、窒素雰囲気中、60℃で24時間還流させた。以降の手順は、例1と同様であるため省略する。このようにして、黄色の固体粉末を得た(85.0%)。
【0105】
例1と同様に、得られた生成物について、赤外吸収スペクトル及び発光スペクトルを測定した。
FT−IR(KBr、cm
−1):3365(ブロードピーク)、2954、2923、2853、1612、1574、1452、1419、1382、1268、1249、1176、1120、1084、1016、929、889、845、820、786、733、702、653、626
重量平均分子量(Mw)=4.0×10
4Da
このことから得られた生成物は、有機/金属ハイブリッドポリマーP2であることが示された。
【0106】
例1と同様に、種々の温度及び相対湿度下において、生成物の伝導度を測定した。結果を
図11〜
図15、
図17及び表1〜表2に示す。
【0107】
[例3]
例3は、カウンターカチオンがMg
2+である以外は例1と同じである有機/金属ハイブリッドポリマーからなる固体電解質P3(
図6)を製造した。
図7に示すように、L1(17mg、0.0144mmol)と、Eu(NO
3)
3・5H
2O(6.1mg、0.0144mmol)と、Mg(OH)
2(Sigma−Aldrich製、3.3mg、0.0576mmol)とを、有機溶媒としてメタノールとクロロホルムとの混合溶媒(v/v=1:1、15mL)中で、窒素雰囲気中、60℃で24時間還流させた。以降の手順は、例1と同様であるため省略する。このようにして、黄色の固体粉末を得た(90.0%)。
【0108】
例1と同様に、得られた生成物について、赤外吸収スペクトル及び発光スペクトルを測定した。
FT−IR(KBr、cm
−1):3364(ブロードピーク)、2955、2923、2851、1615、1571、1453、1419、1382、1268、1249、1176、1122、1084、1016、928、888、845、819、786、733、702、652、624
重量平均分子量(Mw)=4.1×10
4Da
このことから得られた生成物は、有機/金属ハイブリッドポリマーP3であることが示された。
【0109】
例1と同様に、種々の温度及び相対湿度下において、生成物の伝導度を測定した。結果を
図11〜
図15及び表1〜表2に示す。
【0110】
簡単のため、例1〜3による固体電解質P1〜P3の一般式及び、その製造スキームを、それぞれ
図6及び
図7にまとめて示す。
【0111】
また、例1〜3による固体電解質P1〜P3の発光スペクトルを、それぞれ
図8〜
図10に示す。
【0112】
図8〜
図10には、L1の発光スペクトルも併せて示す。いずれの発光スペクトルも、各試料を波長370nmで励起した際の発光スペクトルである。
図8〜
図10によれば、L1は、約475nmに発光ピークを有する青色発光することが分かる。一方、P1〜P3は、いずれも、波長370nmで励起すると全体として白色の発光を示し、その発光スペクトルは、610〜620nmにおける発光ピーク波長、及び、約500nmにおける発光ピーク波長の2つの発光ピーク波長を示した。610〜620nmにおける発光ピーク波長は、Eu
3+のf−f遷移による発光に基づき、約500nmにおける発光ピーク波長は、L1による発光に基づく。このことから、P1〜P3は、いずれも、L1とEu
3+とが錯形成されていることが示された。
【0113】
さらに、P1〜P3の約500nmにおける発光ピーク波長は、いずれも、L1のそれに比べて、レッドシフトしている。このことは、L1におけるカルボキシル基が、P1〜P3において脱プロトン化され、カルボキシレート基になったためである。このことから、P1〜P3は、いずれも、L1とEu
3+とが錯形成されており、さらに、カルボキシレート基がEu
3+に配位していることが示された。
【0114】
温度25℃で、相対湿度RHを95%、80%、70%、50%、30%とした場合の、例1〜3による固体電解質P1〜P3のナイキストプロットを、それぞれ
図11〜
図15に示す。
【0115】
図13〜
図15によれば、いずれの固体電解質P1〜P3のナイキストプロットも、単一の半円状円弧を示しており、固体電解質P1〜P3がカチオンによるイオン伝導性を有することを示す。このことから、固体電解質P1〜P3を構成する有機/金属ハイブリッドポリマーにおいて、カウンターカチオンが伝導に寄与し、カルボキシレート基がEu
3+に配位した金属/有機錯体は−1価に帯電していることが示された。特に、相対湿度が高いほど、円弧はきれいになり、伝導度が向上していることが示された。
【0116】
実際に、伝導率σを次式にしたがって算出したところ、表1に示すようになった。
σ(Scm
−1)=(1/R)×(I/A)
ここで、Rは、ナイキストプロットから求めた抵抗値であり、Iは試料の厚さであり、Aは試料の断面積である。
【0117】
【表1】
【0118】
相対湿度RH(95%又は70%)における、例1による固体電解質P1のアレニウスプロットを
図16に、例2による固体電解質P2のアレニウスプロットを
図17に、それぞれ示す。
【0119】
図16及び
図17によれば、固体電解質P1及びP2ともに、温度の上昇とともに、イオン伝導度も上昇することが分かった。図示しないが、例3による固体電解質P3も同様のアレニウスプロットを示した。また、アレニウスプロットを直線近似した傾き(図中のSlopeの値)からカチオンのイオン伝導の活性化エネルギーを算出した。結果を表2に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
固体電解質P1〜P3の活性化エネルギーは、いずれも、0.6eVよりも小さく、特に、相対湿度が高いほどその値は小さくなり、カチオンが伝導しやすくなることが分かった。
【0122】
以上より、本発明による固体電解質は、アニオン性官能基及び3価の金属イオンを有するアニオン性有機/金属錯体と、Li
+、Na
+、K
+及びMg
2+からなる群から選択されるカウンターカチオンとを有する有機/金属ハイブリッドポリマーを含み、カウンターカチオンによるイオン伝導性を有するので、二次電池、空気電池、あるいは、固体電解質を利用した各種電気化学デバイスに適用できることが示された。