特許第6694711号(P6694711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6694711フェノール樹脂、フェノール樹脂の製造方法、ゴム組成物及びタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694711
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】フェノール樹脂、フェノール樹脂の製造方法、ゴム組成物及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08G 8/10 20060101AFI20200511BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20200511BHJP
   C08L 61/06 20060101ALI20200511BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   C08G8/10
   C08L21/00
   C08L61/06
   B60C1/00 B
   B60C1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-256734(P2015-256734)
(22)【出願日】2015年12月28日
(65)【公開番号】特開2017-119765(P2017-119765A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2018年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(73)【特許権者】
【識別番号】000165000
【氏名又は名称】群栄化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100193437
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 義和
(72)【発明者】
【氏名】笹原 雄一
(72)【発明者】
【氏名】八木 優紀
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 裕昭
【審査官】 三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−225721(JP,A)
【文献】 特開2008−050543(JP,A)
【文献】 特開平06−228255(JP,A)
【文献】 特開2001−089599(JP,A)
【文献】 米国特許第06269858(US,B1)
【文献】 特開2012−229330(JP,A)
【文献】 特開昭58−055146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 8/04− 59/62
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備え、
前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合が50〜65質量%であり、前記糖質類に由来する構造の占める割合が5〜15質量%であり、
植物由来率が61.0質量%以上であるフェノール樹脂の製造方法であって、
下記式(I)で表される植物由来フェノール類、その他のフェノール類、及び糖質類を、酸触媒存在下で反応させる第1反応工程と、
前記第1反応工程の後に、下記式(I)で表される植物由来フェノール類及びアルデヒド類を更に加えて、酸触媒存在下で反応させる第2反応工程と、を含むことを特徴とする、フェノール樹脂の製造方法。
【化1】
(式中、Rは、炭素数10〜25の直鎖又は分岐状の鎖式炭化水素基であり、Xは、水素原子又は水酸基であり、Yは、水素原子又はメチル基である。)
【請求項2】
請求項1に記載のフェノール樹脂の製造方法で製造されたフェノール樹脂、ゴム成分、及び硬化剤を用いることを特徴とする、ゴム組成物の製造方法。
【請求項3】
前記第2反応工程の後に、前記ゴム成分及び前記硬化剤を更に加えて混合する混合工程を更に含む、請求項2に記載のゴム組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のゴム組成物の製造方法で製造されたゴム組成物を用いることを特徴とする、タイヤの製造方法。
【請求項5】
前記ゴム組成物を生タイヤに成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた前記生タイヤを加硫する加硫工程と
を更に含む、請求項4に記載のタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂、フェノール樹脂の製造方法、ゴム組成物及びタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、合成樹脂はその優れた性質から、さまざまな分野に広く用いられている。一方で、合成樹脂のほとんどは化石資源である石油、石炭、天然ガスを原料としているため、資源枯渇や地球温暖化の観点より、脱化石資源の必要性が高まってきている。
また、近年、動植物由来のバイオマスを原料とした合成樹脂が検討され、ポリ乳酸を代表として実用化が進んできている。例えば、特許文献1では、植物由来の不飽和アルキルフェノールを原料として用い、糖質類と反応させることでバイオマスフェノール樹脂を製造する方法が開示されている。斯かる樹脂により、二酸化炭素排出抑制効果が高く、持続可能性の高い、環境調和型の製品開発が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−225721号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、環境との調和の観点から、植物由来の原料の割合をさらに高めることが望まれている。しかしながら、特許文献1に記載のバイオマスフェノール樹脂については、植物由来の不飽和アルキルフェノールの含有率を更に高めたバイオマスフェノール樹脂の製造を考えると、次の点で困難であることがわかった。第1に、植物由来の不飽和アルキルフェノールが多すぎると、植物由来の不飽和アルキルフェノールが糖質類と十分に相溶することができず、植物由来の不飽和アルキルフェノールがモノマーとして残るという問題点があった。第2に、植物由来の不飽和アルキルフェノールが多すぎると、糖質類どうしの縮合で形成される不溶物が樹脂中で生じるという問題点があった。第3に、植物由来の不飽和アルキルフェノールが多すぎると、得られる樹脂の軟化点が低下するため、樹脂がブロッキングしやすくなり作業性が劣る問題点があった。
このように、従来のバイオマスフェノール樹脂では、植物由来率を更に向上させることが困難であることがわかった。また、特許文献1に記載のバイオマスフェノール樹脂については、ゴム組成物に適用した際のゴム補強性の観点で、更に改善の余地があった。
【0005】
そこで、本発明は、軟化点が高くゴムの補強効果に優れた、高植物由来率のフェノール樹脂を提供することを目的とする。また、本発明は、本発明のフェノール樹脂を優れた反応効率で製造できる、フェノール樹脂の製造方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、加硫前には低粘度で加工性に優れ、加硫後には強度に優れたゴムとなる、ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた高性能なタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフェノール樹脂は、下記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備えることを特徴とする。
【化1】
(式中、Rは、炭素数10〜25の直鎖又は分岐状の鎖式炭化水素基であり、Xは、水素原子又は水酸基であり、Yは、水素原子又はメチル基である。)
本発明のフェノール樹脂によれば、軟化点が高くゴムの補強効果に優れたフェノール樹脂となる。
【0007】
本発明のフェノール樹脂は、前記フェノール樹脂のうち、前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合が50質量%以上であることが好ましい。
この構成によれば、フェノール樹脂の植物由来率が向上し、更にゴムとの相溶性及びゴムの補強効果が向上する。
【0008】
本発明のフェノール樹脂は、前記フェノール樹脂のうち、前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合が50〜65質量%であり、前記糖質類に由来する構造の占める割合が5〜15質量%であることが好ましい。
この構成によれば、フェノール樹脂の植物由来率がより向上し、更に高軟化点化を維持しつつ、ゴムとの相溶性及びゴムの補強効果を高度に両立できる。
【0009】
本発明のフェノール樹脂は、前記式(I)で表される植物由来フェノール類が、カシューナッツシェルリキッド(CNSL)、カシューナッツシェルリキッドの精製物(以下「精製カシューナッツシェルリキッド」ともいう)、カルダノール、カルドール、2−メチルカルドール及びアナカルド酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
この構成によれば、フェノール樹脂のゴムへの相溶性が向上しやすい。また、ゴム組成物に適用したときに、ゴム組成物の加工性及びゴムの強度を両立しやすくなる。
【0010】
本発明のフェノール樹脂は、前記糖質類が、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マルトース、イソマルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、ラフィノース、デキストリン、オリゴ糖、フラクタン、フラクトオリゴ糖、澱粉、粗澱粉、化工澱粉、アミロース、アミロペクチン及び廃棄糖蜜(澱粉かす)からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
この構成によれば、フェノール樹脂の軟化点を高く維持しやすい。また、ゴム組成物に適用したときに、未加硫ゴム組成物を軟化しやすい。
【0011】
本発明の、フェノール樹脂の製造方法は、
下記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備えるフェノール樹脂の製造方法であって、
下記式(I)で表される植物由来フェノール類、その他のフェノール類、及び糖質類を、酸触媒存在下で反応させる第1反応工程と、
前記第1反応工程の後に、下記式(I)で表される植物由来フェノール類及びアルデヒド類を更に加えて、酸触媒存在下で反応させる第2反応工程と、を含むことを特徴とする。
【化2】
(式中、Rは、炭素数10〜25の直鎖又は分岐状の鎖式炭化水素基であり、Xは、水素原子又は水酸基であり、Yは、水素原子又はメチル基である。)
本発明の、フェノール樹脂の製造方法によれば、本発明のフェノール樹脂を優れた反応効率で製造することができる。
【0012】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分、硬化剤、及び、本発明のフェノール樹脂を含むことを特徴とする。
本発明のゴム組成物によれば、加硫前には低粘度で加工性に優れ、加硫後には強度に優れたゴムとなる。
【0013】
本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、前記フェノール樹脂を5〜30質量部含むことが好ましい。
この構成によれば、加硫後のゴム組成物の強度がより向上する。
【0014】
本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、さらに、フィラー30〜100質量部、及び軟化剤0〜10質量部を含むことが好ましい。
この構成によれば、加硫後のゴム組成物の強度が特に向上する。
【0015】
本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を用いて作製されたことを特徴とする。
本発明のタイヤによれば、高性能なタイヤとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、軟化点が高くゴムの補強効果に優れた、高植物由来率のフェノール樹脂を提供することができる。また、本発明によれば、本発明のフェノール樹脂を優れた反応効率で製造できる、フェノール樹脂の製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、加硫前には低粘度で加工性に優れ、加硫後には強度に優れたゴムとなる、ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた高性能なタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明を実施するための形態を例示する。
【0018】
(フェノール樹脂)
本発明のフェノール樹脂は、少なくとも、下記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備える。
【化3】
(式中、Rは、炭素数10〜25の直鎖又は分岐状の鎖式炭化水素基であり、Xは、水素原子又は水酸基であり、Yは、水素原子又はメチル基である。)
本発明のフェノール樹脂は、前記フェノール樹脂のうち、前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合が50質量%以上であることが好ましい。
本発明のフェノール樹脂は、前記フェノール樹脂のうち、前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合が50〜65質量%であり、前記糖質類に由来する構造の占める割合が5〜15質量%であることが好ましい。
本発明のフェノール樹脂によれば、軟化点が高くゴムの補強効果に優れたフェノール樹脂となる。
【0019】
本発明者らは、
上記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造が、植物由来率の向上に寄与すること、並びにフェノール樹脂のゴムに対する相溶性及びゴム補強効果を高めることを発見した。
また、上記その他のフェノール類に由来する構造が、式(I)で表される植物由来フェ
ノール類と、糖質類との相溶を促し、フェノール樹脂の均一な反応を可能にできることを発見した。
さらに、上記糖質類に由来する構造が、植物由来率の向上に寄与すること、並びに、フェノール樹脂の軟化点及び未加硫ゴム組成物の硬度に影響することを発見した。
そして、上記アルデヒド類に由来する構造が、フェノール樹脂の軟化点及びゴムの補強効果に影響することを発見した。
本発明者らは、式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造、及び糖質類に由来する構造を備えるフェノール樹脂とすることにより、軟化点が高くゴムの補強効果に優れた、高植物由来率のフェノール樹脂の発明を完成するに至った。
【0020】
上記式(I)中の上記鎖式炭化水素基Rは、炭素数10〜25の直鎖または分岐状の鎖式炭化水素基である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、不飽和結合(炭素−炭素二重結合、炭素−炭素三重結合)を有する鎖式炭化水素基;飽和の鎖式炭化水素基;又は飽和若しくは不飽和の鎖式炭化水素基であって炭素原子に結合する水素原子の何れかが水素原子以外の原子で置換されている鎖式炭化水素基;などが挙げられる。これらは、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。これらの中でも、炭素数が15の鎖式炭化水素基が好ましい。
上記Xは、水素原子又は水酸基である。これらは、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
上記Yは、水素原子又はメチル基である。これらは、1種単独でもよいし、2種以上であってもよい。
【0021】
<植物由来フェノール類>
上記植物由来フェノール類としては、上記式(I)で表される植物由来フェノール類である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カシューナッツシェルリキッド(CNSL)、カシューナッツシェルリキッドの精製物、カルダノール、カルドール(「カードル」ともいう)、2−メチルカルドール、アナカルド酸、などが挙げられる。これらは、単一の成分からなるものでも、2種以上の成分の混合物でもよい。
これらの中でも、カシューナッツシェルリキッド、カシューナッツシェルリキッドの精製物又はカルダノールは、フェノール樹脂をゴム組成物に適用する場合にゴムの補強効果を確保しやすい点で優れ、特に、カシューナッツシェルリキッドの精製物は入手しやすく反応性に優れる点で有利である。
フェノール樹脂が前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造を備えると、植物由来率が向上する。また、フェノール樹脂のゴムに対する相溶が向上すると共に、ゴム補強効果が向上する。
【0022】
<<カシューナッツシェルリキッド>>
上記カシューナッツシェルリキッドは、カシューナッツの殻から高濃度で得ることができる成分であり、カルダノールを含む複数のフェノールが含まれることが多い。前記カシューナッツシェルリキッドは、化石由来原料ではないため、持続可能性の高い原料といえ、また二酸化炭素排出抑制効果も高い。
カシューナッツシェルリキッドまたはその精製物としては、カシューナッツシェルリキッドまたはその精製物の全質量に対して、カルダノールの含有量が70〜100質量%であり、カルドールの含有量が0〜25質量%であり、メチルカルドールの含有量が0〜5%であり、カルダノールとカルドールとメチルカルドールとの合計量(有効成分量)が70質量%以上であるものが好ましい。
【0023】
<<カルダノール>>
上記カルダノールは、上記式(I)で表される植物由来フェノール類の1種であり、式中Rで表される鎖式炭化水素基の炭素数が15のフェノールである。
前記カルダノールとしては、上記式(I)の鎖式炭化水素基Rとして、
−(CH214CH3
−(CH27CH=CH(CH25CH3
−(CH27CH=CHCH2CH=CH(CH22CH3
−(CH27CH=CHCH2CH=CHCH=CHCH3、又は
−(CH27CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH2
を有するフェノール、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0024】
<その他のフェノール類>
上記その他のフェノール類は、ヒドロキシ基を持つ有機化合物であって上記式(I)で表される植物由来フェノール類以外のフェノールのことである。前記その他のフェノール類としては、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ヒドロキノン、ピロガロール、フロログルシノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、アルキルフェノール類、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記アルキルフェノール類としては、上記式(I)で表される植物由来フェノール類以外のアルキルフェノールである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エチルフェノール、プロピルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、セカンダリーブチルフェノール、ターシャリーブチルフェノール、アミルフェノール、ターシャリーアミルフェノール、ヘキシルフェノール、へプチルフェノール、オクチルフェノール、ターシャリーオクチルフェノール、ノニルフェノール、ターシャリーノニルフェノール、アリルフェノール、ウルシオール、などが挙げられる。
これらの中でも、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFは、反応性が高い点、入手が容易である点で好ましい。
その他のフェノール類は、式(I)で表される植物由来フェノール類と糖質類との相溶を促すため、式(I)で表されるフェノールと糖質類とを均一に反応させることができる。したがって、フェノール樹脂の重合時にその他のフェノール類を用いることにより、式(I)で表されるフェノールと糖質類とが均一に反応するため、糖質類どうしの縮合で形成される不溶物が樹脂中で生じるのを防ぐことができる。
【0025】
<糖質類>
上記糖質類としては、例えば、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、マルトース、イソマルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース、ラフィノース、デキストリン、オリゴ糖、フラクタン、フラクトオリゴ糖、澱粉、粗澱粉、化工澱粉、アミロース、アミロペクチン、廃棄糖蜜(澱粉かす)、などが挙げられる。これらは1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
これらの中でも、グルコース、フルクトース、マルトース、スクロース、マルトトリオース、オリゴ糖、澱粉、粗澱粉、化工澱粉又はこれらの混合物は、安価で入手しやすい点で好ましい。
フェノール樹脂が糖質類に由来する構造を備えると、植物由来率が向上する。また、フェノール樹脂の軟化点が高く維持されると共に、未加硫ゴム組成物が軟化して加工性が向上する。
【0026】
<アルデヒド類>
上記アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、グリオキザール、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド、フルフラールなどが挙げられる。これらは1種単独でもよいし、2種以上でもよい。
これらの中でも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドは、経済性、フェノールとの反応性の観点で好ましい。
フェノール樹脂がアルデヒド類に由来する構造を備えると、フェノール樹脂の軟化点が高く維持されると共に、ゴム補強効果が向上する。
【0027】
<植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合>
上記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記フェノール樹脂のうち、50質量%以上が好ましく、50〜65質量%がより好ましく、50〜60質量%が特に好ましい。
前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合が、50質量%以上であると、フェノール樹脂の植物由来率が高くなる。また、フェノール樹脂のゴムへの相溶が向上しやすい。さらに、鎖式炭化水素基Rの不飽和結合が、加硫時にゴム成分と架橋されるため、ゴム補強効果も向上しやすい。前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合が、上記より好ましい範囲及び特に好ましい範囲であると、上記に加えて、軟化点とのバランスを得やすい点で有利である。
【0028】
上記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合は、例えば、下記式により求めることができる。
式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合(質量%)={(フェノール樹脂の製造に用いた式(I)で表される植物由来フェノール類の配合量(質量)の合計)/(得られたフェノール樹脂の質量)}×100
【0029】
<糖質類に由来する構造の占める割合>
上記糖質類に由来する構造の占める割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、上記フェノール樹脂のうち、5質量%以上が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。
前記糖質類に由来する構造の占める割合が、5質量%以上であると、フェノール樹脂の植物由来率を高くできる。また、軟化点を高く維持しやすく、未加硫ゴムの加工性が向上しやすい。前記糖質類に由来する構造の占める割合が、上記より好ましい範囲であると、上記に加えて、ゴムとの相溶性とのバランスを得やすい点で有利である。
【0030】
上記糖質類に由来する構造の占める割合は、例えば、下記式により求めることができる。
糖質類に由来する構造の占める割合(質量%)={(フェノール樹脂の製造に用いた糖質類の配合量(質量))/(得られたフェノール樹脂の質量)}×100×(補正係数A)
フェノール樹脂の製造に際して、糖質類から生じる水は除去される。上記式中の、(補正係数A)は糖質類のうち樹脂に取り込まれない水成分の質量を除くための補正係数である。補正係数Aは、糖質のDE(還元当量)により変化する。補正係数A=90/単位構成糖分子量で示される。単位構成糖分子量とは、糖質類を構成する糖の単位あたりの分子量を示す。単位構成糖分子量=0.18×DE+162である。糖質類の組成によりDEが求められるため、単位構成糖分子量も自ずと導かれる。
【0031】
<植物由来率>
フェノール樹脂の植物由来率(質量%)は、例えば、下記式により求めることができる。
フェノール樹脂の植物由来率(質量%)=式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合(質量%)+糖質類に由来する構造の占める割合(質量%)
また、フェノール樹脂の植物由来率(質量%)は、同位体炭素C14の含有量を追跡すること(C14法)により測定することもできる。
【0032】
<軟化点>
本発明のフェノール樹脂の軟化点は、60℃〜140℃が好ましく、65℃〜120℃がさらに好ましい。軟化点が60℃以上であればブロッキングしにくく、140℃以下であればゴムへの混練性に優れる。
【0033】
(フェノール樹脂の製造方法)
本発明の、フェノール樹脂の製造方法は、下記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備えるフェノール樹脂の製造方法であって、少なくとも、第1反応工程及び第2反応工程を含み、必要に応じてその他の工程を含む。
【化4】
(式中、Rは、炭素数10〜25の直鎖又は分岐状の鎖式炭化水素基であり、Xは、水素原子又は水酸基であり、Yは、水素原子又はメチル基である。)
本発明の、フェノール樹脂の製造方法により、前記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備える、本発明のフェノール樹脂を優れた反応効率で製造することができる。
【0034】
本発明者らは、上記式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造、その他のフェノール類に由来する構造、アルデヒド類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備える、本発明のフェノール樹脂を製造するに際し、植物由来フェノール類に対して、糖質類又はアルデヒド類を反応させたところ、糖質類は、アルデヒド類に比べて植物由来フェノール類に対する反応性が低いことを発見した。そのため、植物由来フェノール類に対して、アルデヒド類と糖質類とを同時に反応させると、アルデヒド類が優先して反応し糖質類が残った。残った糖質類は、アルデヒド類と植物由来フェノール類とが重合した成分に対して相溶が低いため、重縮合反応に取り込まれにくくなった。そこで、植物由来フェノール類と糖質類とを先に反応させておき、後からアルデヒド類を反応系に加えることで、植物由来フェノール類に対して、糖質類及びアルデヒド類の両者を効率よく反応させることができることを見出した。
また、本発明者らは、植物由来フェノール類と糖質類とが共存する系に、その他のフェノール類が存在していると、糖質類と植物由来フェノール類との相溶性が促進され、糖質類と植物由来フェノール類との反応効率が高まることを見出した。
さらに、本発明者らは、植物由来フェノール類は、糖質類との相溶性は低いが、糖質類と植物由来フェノール類との縮合物に対しては相溶性が高いことに着目し、重縮合反応の途中で植物由来フェノール類を追加することで、植物由来フェノール類の含有率を高めることができることを見出した。
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、その他のフェノール類の存在下で、植物由来フェノール類と糖質類とを縮合重合させておき、後から植物由来フェノール類及びアルデヒド類を反応系に加えることにより、本発明のフェノール樹脂を効率良く製造することができる本発明を完成するに至った。
【0035】
<第1反応工程>
上記第1反応工程は、上記式(I)で表される植物由来フェノール類、その他のフェノール類、及び糖質類を、酸触媒存在下で反応させる工程である。
【0036】
<<酸触媒>>
上記酸触媒は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記酸触媒としては、例えば、通常のフェノール樹脂の合成に用いられる、硫酸、塩酸、リン酸などの無機酸類、シュウ酸、酢酸、クエン酸、酒石酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸類、酢酸亜鉛、ホウ酸亜鉛等の有機酸塩類、などが挙げられる。これらは1種単独でもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、硫酸は、安価に入手できる点で有利である。
【0037】
上記酸触媒の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フェノール類及び糖質類の合計を100質量%とした際に、0.1〜50質量%であることが好ましく、0.2〜10質量%であることがより好ましい。酸触媒の使用量が0.1質量%以上であれば、充分に反応させることができ、50質量%以下であれば酸分解やゲル化を回避できる。
【0038】
上記第1反応工程の反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜200℃が好ましく、120〜160℃がより好ましい。反応温度が50℃以上であれば充分に反応させることができ、200℃以下であると樹脂の分解を回避できる。
前記第1反応工程の反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5〜20時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば高い収率で樹脂を得ることができ、20時間以下であれば生産性の低下を回避できる。
【0039】
<第2反応工程>
上記第2反応工程は、式(I)で表される植物由来フェノール類及びアルデヒド類を更に加えて、酸触媒存在下で反応させる工程である。
【0040】
上記第2反応工程の反応温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50〜200℃が好ましく、120〜160℃がより好ましい。反応温度が50℃以上であれば充分に反応させることができ、200℃以下ならば樹脂の分解を回避できる。
前記第2反応工程の反応時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5〜20時間が好ましく、1〜3時間がより好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば高い収率で樹脂を得ることができ、20時間以下であれば生産性の低下を回避できる。
【0041】
<その他の工程>
本発明の、フェノール樹脂の製造方法に含まれ得るその他の工程としては、例えば、酸触媒由来の酸を中和する中和工程、フェノール樹脂から水や未反応モノマーを留去する除去工程、などが挙げられる。
【0042】
(ゴム組成物)
本発明のゴム組成物は、少なくとも、ゴム成分、硬化剤、及び本発明のフェノール樹脂を含み、必要に応じてその他の成分を含む。
本発明のゴム組成物は、前記ゴム成分100質量部に対して、さらに、フィラー30〜100質量部、及び軟化剤0〜10質量部を含むことが好ましい。
【0043】
本発明のゴム組成物は、本発明のフェノール樹脂を含むことによって、加硫前には低粘度で加工性に優れ、ゴム強度が向上したゴム組成物となる。
いかなる理論にも拘泥するものではないが、本発明の未加硫ゴム組成物の加工性が向上するメカニズムとしては、糖質類由来の水酸基がゴム組成物中で滑剤として作用することで、未加硫ゴム組成物が軟化することが考えられる。
【0044】
<ゴム成分>
上記ゴム成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、天然ゴムは、ゴム組成物の植物由来原料の割合を高めることができる点で好ましい。
【0045】
上記ゴム組成物におけるゴム成分とフェノール樹脂との配合比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記フェノール樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量としては、5〜30質量部が好ましく、10〜30質量部がより好ましい。
前記フェノール樹脂の含有量が、5質量部以上であると、ゴムの硬度が向上するとともに高貯蔵弾性率化が良好となり、30質量部以下であると、未加硫ゴム組成物の加工性がより向上する。前記フェノール樹脂の含有量が、上記より好ましい範囲であると、同様の観点で優れる。
【0046】
<硬化剤>
上記硬化剤は、フェノール樹脂を硬化させるためのものであり、その種類については、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。前記硬化剤としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ベンジルアミン、ベンゾオキサジン、アゾメチン、レゾール型フェノール樹脂、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、ヘキサメチレンテトラミンは、フェノール樹脂及びゴム組成物の硬化効率が優れる点で好ましい。
【0047】
上記ゴム組成物におけるフェノール樹脂と硬化剤との配合比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記硬化剤のフェノール樹脂100質量部に対する含有量としては、1〜60質量部が好ましく、3〜50質量部がより好ましい。
前記硬化剤の含有量が、1質量部以上であるとフェノール樹脂及びゴムの硬化効率が優れ、60質量部以下であると、未反応の硬化剤が残存することを回避できる。前記フェノール樹脂含有量が、上記より好ましい範囲であると、同様の観点で優れる。
【0048】
<その他の成分>
上記ゴム組成物に必要に応じて含まれ得るその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フィラー、脂肪酸金属塩、軟化剤、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、可塑剤、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
【0049】
<<フィラー>>
上記フィラーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、クレー、マイカ、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、カーボンブラック、シリカは、ゴムの硬度を高くすることができる点で好ましい。
上記ゴム組成物におけるゴム成分とフィラーとの配合比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記フィラーのゴム成分100質量部に対する含有量としては、30〜100質量部が好ましく、50〜70質量部がより好ましい。
前記フィラーの含有量が、30質量部以上であると、ゴムの硬度を高くすることができ、100質量部以下であると、流動性が得られやすくなる。前記フィラーの含有量が、上記より好ましい範囲であると、同様の観点で優れる。
【0050】
<<軟化剤>>
上記軟化剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナフテン系プロセスオイル、パラフィン系プロセスオイル等のプロセスオイル、などが挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。
上記ゴム組成物におけるゴム成分と軟化剤との配合比率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記軟化剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、0〜10質量部が好ましい。軟化剤は実質的に含んでいなくてもよい。
【0051】
(タイヤ)
本発明のタイヤは、少なくとも、本発明のゴム組成物を用いて作製される。
本発明のタイヤによれば、高性能なタイヤとなる。
【0052】
本発明のタイヤは、本発明のゴム組成物を、サイドウォール、サイド補強層、又はビードフィラーなどに用いて、通常のタイヤの製造方法によって製造される。すなわち、本発明のゴム組成物は、未加硫の段階で各部材に加工され、タイヤ成形機上で通常の方法により貼り付け成形され、生タイヤが成形される。この生タイヤを加硫機中で加熱加圧して、タイヤが得られる。
このようにして得られた本発明のタイヤは、植物由来の原料の割合を向上させたものとなる。
【0053】
本発明のフェノール樹脂及び本発明のゴム組成物は、配合物を、バンバリーミキサー、ロール、ニーダー等、ゴム組成物の一般的な混合方法で混合することにより、製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例になんら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更可能である。
【0055】
(実施例1〜8、比較例1〜8)
【0056】
<フェノール樹脂(樹脂1〜8)の製造>
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量1Lの三口フラスコに、その他のフェノール類としてのフェノール(A)、上記式(I)で表される植物由来フェノール類としての精製カシューナッツシェルリキッド(第1)(B)、糖質類(液糖及び粉末状の糖のいずれも固形分(C)と水分(D)を含む。)、酸触媒としての濃硫酸(E)、を表1に記載の配合量(質量部)で配合して、配合物Xを調製した(第1反応工程)。
次いで、配合物Xを、加熱により生成する水を除きながら155℃まで加熱した。155℃で2時間攪拌した後、冷却し、上記式(I)で表される植物由来フェノール類としての精製カシューナッツシェルリキッド(第2)(F)、アルデヒド類としての50%ホルムアルデヒド(G、H)を、表1に記載の配合量(質量部)で添加して、約100℃まで昇温して2時間還流反応を行なった(第2反応工程)。
その後、水酸化カルシウム(I)を、表1の配合量(質量部)で添加して、中和した。180℃まで昇温し、常圧及び減圧にて、水と共に、未反応のフェノールを表1のフェノール量(J)留去し、表1の樹脂量(K)のフェノール樹脂を得た。
【0057】
なお、前記精製カシューナッツシェルリキッド(第1)(B)及び精製カシューナッツシェルリキッド(第2)(F)として、Golden Cashew Products Pvt.社製、商品名:カルダノールを用いた。該精製カシューナッツシェルリキッドは、カルダノールの含有量が90.44%であり、カルドールの含有量が4.02%であり、メチルカルドールの含有量が1.04%であり、カルダノール、カルドール、メチルカルドールの合計が95.5%であった。
また、表1、2に示す糖質類1〜3についての糖質構成割合(質量%)を表3に示す。なお、糖質類1として、群栄化学工業社製のKM−55(DE:50、補正係数A:90/171)を用い、糖質類2として、群栄化学工業社製のHF−95(DE:100、補正係数A:90/180)を用い、糖質類3として、松谷化学工業株式会社の松谷 さくら2(化工澱粉、DE=0、補正係数A:90/162)を用いた。
【0058】
<樹脂9>
フェノール、植物由来フェノール類及びホルムアルデヒドを重合して得られたノボラック型フェノール樹脂として、PR−NR−1(住友ベークライト社製)を用いた。樹脂9は、糖質類に由来する構造を備えない樹脂である。
【0059】
<樹脂10>
フェノール、及びホルムアルデヒドを重合して得られたノボラック型フェノール樹脂として、PSK−2320(群栄化学工業社製)を用いた。樹脂10は、式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備えない樹脂である。
【0060】
<樹脂11>
フェノール、及びホルムアルデヒドを重合して得られたノボラック型フェノール樹脂として、PR−50731(住友ベークライト社製)を用いた。樹脂11は、式(I)で表される植物由来フェノール類に由来する構造及び糖質類に由来する構造を備えない樹脂である。
【0061】
<樹脂12の製造>
上記樹脂1〜8の製造方法と同様にして、表1に記載の配合量(質量部)で樹脂12を製造した。樹脂12の製造は、上記樹脂1〜8の製造方法の第2反応工程において、配合物Xに、精製カシューナッツシェルリキッド(第2)(F)、及び50%ホルムアルデヒド(G、H)を添加することを行わない点で、上記樹脂1〜8の製造方法と異なる。樹脂12は、アルデヒド類に由来する構造を備えない樹脂である。
【0062】
<樹脂13の製造>
上記樹脂1〜8の製造方法と同様にして、表1に記載の配合量(質量部)で樹脂13を製造した。樹脂13の製造は、上記樹脂1〜8の製造方法の第2反応工程において、配合物Xに、50%ホルムアルデヒド(G、H)を添加することを行わない点で、上記樹脂1〜8の製造方法と異なる。樹脂13は、アルデヒド類に由来する構造を備えない樹脂であり、室温でペースト状の軟化点が低い樹脂となった。
【0063】
<樹脂14の製造>
上記樹脂1〜8の製造方法と同様にして、表1に記載の配合量(質量部)で樹脂14を製造した。樹脂14の製造は、上記樹脂1〜8の製造方法の第2反応工程において、配合物Xに、精製カシューナッツシェルリキッド(第2)(F)を添加することを行わない点で、上記樹脂1〜8の製造方法と異なる。樹脂14の製造方法では、最終反応物中に不溶物が発生したため、本発明のフェノール樹脂を製造できなかった。
【0064】
<樹脂15の製造>
温度計、攪拌装置、冷却管を備えた内容量1Lの三口フラスコに、表2中のA〜Hの成分を表2中の配合量(質量部)で配合して、配合物Yを調製した。
次いで、加熱により生成する水を除きながら、配合物Yを155℃まで加熱した。155℃を保ったまま、2時間攪拌しようとしたところ、高粘度相と低粘度相に相分離し攪拌ができなくなったため、反応を中止した。
樹脂15の製造では、表2中のA〜Hの成分を一括で反応させている点で上記樹脂1〜8の製造方法とは異なる。
【0065】
<樹脂16の製造>
上記樹脂1〜8の製造方法と同様にして、表2に記載の配合量(質量部)で樹脂16を製造した。樹脂16の製造は、上記樹脂1〜8の製造方法の第1反応工程において、精製カシューナッツシェルリキッド(第1)(B)を配合しない点で、上記樹脂1〜8の製造方法と異なる。樹脂16の製造方法では、第2反応行程中に高粘度相と低粘度相に相分離し攪拌ができなくなったため、反応を中止した。
【0066】
<ゴム組成物の製造>
表4及び5に示すゴム配合1〜3の何れかの配合割合により、ゴム組成物を調製した。具体的には、ゴム配合1〜3の何れかの配合割合で各成分を配合して、加硫前の未加硫ゴム組成物を調製した。さらに、該未加硫ゴム組成物を145℃で30分加硫して、加硫後のゴム組成物(加硫ゴム)を得た。
【0067】
<評価>
得られた樹脂について、フェノール樹脂中の各成分の構成成分比(質量%)、植物由来率(質量%)、及び軟化点(℃)を、下記方法で測定した。測定結果を表1、2に示す。
未加硫ゴム組成物については、130℃粘度を、下記方法で測定し、加硫後のゴム組成物(加硫ゴム)については、硬さ(ショアA)を、下記方法で測定した。測定結果を表1、2に示す。
【0068】
<<フェノール樹脂中の各成分に由来する構造の占める割合(質量%)>>
フェノール樹脂中の各成分に由来する構造の占める割合(質量%)を、下記式(ア)〜(オ)に従って算出した。
(1)植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合
植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合(質量%)={(精製カシューナッツシェルリキッド(第1)(B)+精製カシューナッツシェルリキッド(第2)(F))/得られた樹脂量(K)}×100・・・(ア)
(2)糖質類に由来する構造の占める割合
糖質類に由来する構造の占める割合(質量%)={糖質類の固形分(C)/(得られた樹脂量(K)}×100×(補正係数A)・・・(イ)
(3)その他のフェノール類に由来する構造の占める割合
その他のフェノール類に由来する構造の占める割合(質量%)={(フェノール(A)−留去したフェノール量(J))/(得られた樹脂量(K))}×100・・・(ウ)
(4)中和塩の占める割合
中和塩の占める割合(質量%)={濃硫酸(E)/得られた樹脂量(K)}×100×(136/98)・・・(エ)
硫酸(分子量98)と水酸化カルシウムとが反応すると、中和塩として硫酸カルシウム(分子量136)が生成され、硫酸カルシウムはフェノール樹脂中に含まれるため、上記式中では、硫酸の分子量を中和塩の分子量に補正をするために、(136/98)を用いた。
(5)アルデヒド類に由来する構造の占める割合
アルデヒド類に由来する構造の占める割合(質量%)=100−((ア)〜(エ)の値の合計値)・・・(オ)
【0069】
<<植物由来率>>
フェノール樹脂の植物由来率(質量%)は、下記式(カ)に従って算出した。
フェノール樹脂の植物由来率(質量%)=植物由来フェノール類に由来する構造の占める割合(質量%)+糖質類に由来する構造の占める割合(質量%)・・・(カ)
【0070】
<<軟化点>>
得られた樹脂の軟化点は、JIS K 2207 6.4(1996)の環球法に従って測定した。
【0071】
<<130℃粘度指数>>
未加硫ゴム組成物の130℃粘度指数は、未加硫粘弾性装置「RPA2000(ALPHA TECHNOLOGIES社製)を用いて動的貯蔵(せん断)弾性係数G’を測定して求めた。樹脂11の動的貯蔵(せん断)弾性係数G’の結果を100としたときの指数として、各樹脂の130℃粘度指数を表1、2に結果を示す。未加硫ゴム組成物は、ゴム配合1、ゴム配合2のいずれかの配合で作製されているが、何れも樹脂11の指数(100)を基準にして比較できる。指数は、低いほど粘度が低く、ゴム組成物の加工性に優れていることを示す。
【0072】
<<硬さ(ショアA)>>
加硫後のゴム組成物の硬さ(ショアA)は、加硫後のゴム組成物をデュロメーター(テクロック社製、商品名:タイプAデュロメーターGS−719G)を用いて測定した。ショアAは、数値が高いほど硬度が高いことを示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
【0076】
【表4】
【0077】
【表5】
*1:フェノール樹脂は、上記の樹脂1〜樹脂12のいずれかである。
*2:カーボンブラックFEF:旭#65(旭カーボン社製)
*3:ダイアナプロセスオイルNS(出光興産社製)
*4:ノクラック6C:N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業社製)
*5:ノクセラーDM−P:ジベンゾチアジルジスルフィド(大内新興化学工業社製)
*6:ノクセラーCZ−G:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業社製)
*7:カーボンブラックN330:ショウブラックN330(キャボジットジャパン社製)
*8:サンノック:パラフィンワックス(大内新興化学工業社製)
*9:ノクセラーNS−P:N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業社製)
*10:ダイアナプロセスオイルNH70−S(出光興産社製)
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、軟化点が高くゴムの補強効果に優れた、高植物由来率のフェノール樹脂を提供することができる。また、本発明によれば、本発明のフェノール樹脂を優れた反応効率で製造できる、フェノール樹脂の製造方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、加硫前には低粘度で加工性に優れ、加硫後には強度に優れたゴムとなる、ゴム組成物、及び該ゴム組成物を用いた高性能なタイヤを提供することができる。