特許第6694713号(P6694713)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6694713(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの連続製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694713
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの連続製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/08 20060101AFI20200511BHJP
   C07C 67/287 20060101ALI20200511BHJP
   C07C 67/54 20060101ALI20200511BHJP
   C07C 69/14 20060101ALI20200511BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   C07C67/08
   C07C67/287
   C07C67/54
   C07C69/14
   !C07B61/00 300
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-546944(P2015-546944)
(86)(22)【出願日】2013年12月4日
(65)【公表番号】特表2015-537050(P2015-537050A)
(43)【公表日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】EP2013075489
(87)【国際公開番号】WO2014090650
(87)【国際公開日】20140619
【審査請求日】2016年12月2日
【審判番号】不服2018-13843(P2018-13843/J1)
【審判請求日】2018年10月18日
(31)【優先権主張番号】MI2012A002108
(32)【優先日】2012年12月11日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】504448162
【氏名又は名称】ブラッコ・イメージング・ソシエタ・ペル・アチオニ
【氏名又は名称原語表記】BRACCO IMAGING S.P.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィア・チェラジョーリ
(72)【発明者】
【氏名】ピエトロ・デログ
(72)【発明者】
【氏名】アルマンド・モルティラーロ
(72)【発明者】
【氏名】アルフォンソ・ナルデッリ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・スグアッセロ
(72)【発明者】
【氏名】ロザリオ・ヴェラルディ
(72)【発明者】
【氏名】カルロ・フェリーチェ・ヴィスカルディ
【合議体】
【審判長】 瀬良 聡機
【審判官】 天野 宏樹
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開平1−104085(JP,A)
【文献】 特開昭49−80035(JP,A)
【文献】 特開昭54−39041(JP,A)
【文献】 特開昭58−41841(JP,A)
【文献】 特開昭61−27996(JP,A)
【文献】 特開平6−329587(JP,A)
【文献】 特開2000−191591(JP,A)
【文献】 特表2004−517102(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0110974(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ
ステップa’)水の蒸留と、液相または蒸気相いずれかの酢酸ストリームで酢酸を導入することにより、25〜60重量%の乳酸の水溶液において水を酢酸で置換し酢酸中の乳酸溶液を得ること次いで
ステップa)酢酸中の乳酸を、不均一系酸触媒の存在下、無水酢酸でアセチル化すること、次いで
ステップb)酢酸を蒸留することにより(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を回収すること
を含んでなる、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の連続製造方法。
【請求項2】
前記不均一系酸触媒がブレンステッド酸及びルイス酸からなる群から選択される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
不均一系酸触媒が、スルホン酸樹脂、あるいはルイス酸である場合ゼオライト及びモンモリロナイトからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップb)で留去された酢酸が、ステップa’)の水を蒸留するカラムに供給される酢酸ストリームにリサイクルされる、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
酢酸蒸留が2ステップで行われる請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
塩化チオニル(SOCl)の存在下、連続モードで(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸から(S)−2−アセチルオキシプロピオニルクロリドへクロロ化することをさらに含んでなる、請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記クロロ化のプロセスが、SOCl2を凝縮しクロロ化リアクター内に送るための凝縮ユニットをそれぞれ備えた、少なくとも2連のリアクターにて行われる、請求項に記載の方法。
【請求項8】
25〜60重量%の乳酸水溶液を出発物質とする(S)−2−アセチルオキシプロピオニルクロリドの製造方法であって、以下のステップ:
ステップa’)水の蒸留と、液相または蒸気相いずれかの酢酸ストリームで酢酸を導入することにより、該乳酸水溶液において水を酢酸で置換し酢酸中の乳酸溶液を得ること;次いで
ステップa)酢酸中の乳酸を、ブレンステッド酸及びルイス酸からなる群から選択される不均一系酸触媒の存在下、無水酢酸でアセチル化して、酢酸中の2−アセチルオキシプロピオン酸溶液を得ること;次いで
ステップb)酢酸および過剰の無水酢酸を蒸留することにより2−アセチルオキシプロピオン酸を単離すること;次いで
ステップc)(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を塩化チオニルでクロロ化して(S)−2−アセチルオキシプロピオニルクロリドを得ること;次いで
ステップd)(S)−2−アセチルオキシプロピオニルクロリドを蒸留により精製することを含んでなる方法。
【請求項9】
ブレンステッド酸が陽イオン固相マトリックスであり、ルイス酸がゼオライトまたはモンモリロナイトから選択される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
陽イオン固相マトリックスが酸の形態のスルホン酸樹脂である請求項に記載の方法。
【請求項11】
ステップb)の酢酸蒸留が少なくとも2ステップで行われる請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
蒸留された酢酸が、ステップa’)の乳酸水溶液中でリサイクルされる、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記クロロ化が、SOCl2を凝縮しクロロ化リアクター内に送るための凝縮ユニットをそれぞれ備えた少なくとも2連のリアクターにて行われる、請求項8〜12のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素化されたX線造影化合物の合成において重要な反応試薬の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
イオパミドール(N,N’-Bis[2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル]-5-[[(2S)-2-ヒドロキシ-1-オキソプロピル]-アミノ]-2,4,6-トリヨード-1,3-ベンゼンジカルボキサミド(構造式参照)は、X線による診断的研究において広く用いられている造影剤である(The Merck Index, XIII Ed., 2001, No. 5073)。
【化1】
【0003】
その合成については、1980年代から知られておりGB1472050に開示されている。それ以降、別の製造方法が開発されてきた。例えば、5−ニトロイソフタル酸を出発物質とし、例えば接触水素化により対応するアミノ誘導体に還元した後、ベンゼン環をヨウ素化し対応する2,4,6−トリヨウ素化誘導体を得る方法。この方法では、その後、例えば塩化チオニルの存在下で、対応する5−アミノ−2,4,6−トリヨードイソフタル酸のジクロリドに変換される(WO96/037458、WO96/037459、WO96/016927、WO96/036590参照)。
【0004】
5−アミノ−2,4,6−トリヨードイソフタル酸(I)のジクロリド及びその変異体からのイオパミドールの合成法(例えば、WO96/037460、US5,362,905、WO97/047590、WO98/24757、WO98/028259及びWO99/058494参照)は以下のとおりである:
【化2】
【0005】
(I)を、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの存在下、対応する式(II)の化合物に変換する。次いで、調製した式(II)の中間体化合物を2−アミノ−1,3−プロパンジオール(セリノール)の存在下で式(III)のアセチル−イオパミドールに変換する。最後に、式(III)の化合物を加水分解した後、得られた生成物を精製することによりイオパミドール(式(IV)の化合物)を単離することが可能である(European Pharmacopoeia 6.0 Ed. 01/2008: 1115).
【0006】
種々の製造法が開示されておりイオパミドールの製造に用いられているが、すべての合成に共通する重要な反応試薬の一つとなっているのが(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドであり、その純度は、最終製品に対する薬局方の要件を満たすのに極めて重要である。
【0007】
この試薬の調製は、例えばEP773925に開示されており、出発物質の乳酸ナトリウムを、酢酸中、HCl及び無水酢酸の存在下で反応後、得られた(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸中間体を塩化チオニルでクロロ化して、対応するクロリドが得られる。乳酸ナトリウムは、商業的に入手可能であるが極めて高価であり、当初は、塩酸ガスを添加してin situで乳酸に変換した後、アセチル化する必要があった。塩酸の添加は、機械的手段(通常は濾過)により除去する必要のある塩化ナトリウムの形成につながる。これらのステップの概略はEP2230227(先行技術の検討)に記載されている。
【0008】
先行技術文献には、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の合成やそのクロロ化について別法が幾つか開示されている。例えば、Zhang J. et al. Fine and Specialty Chemicals, 2011, 6:26-29には、乳酸を出発物質とし、アセチル化剤としてアセチルクロリドを用いた、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの製造が開示されている。その収率は低く工業的規模の開発はできない。
【0009】
WO2012/155676には、トルエン中で乳酸(85%)から、酢酸と、触媒として硫酸の存在下、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を合成することが開示されており、この反応は還流温度で数時間を要する。
【0010】
US2,299,595には、乳酸(純粋なまたは80%水溶液)から、無水酢酸と酢酸の存在下、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を合成するための幾つかの方法が記載されている。これらの方法では、HClまたはHSO等の酸触媒を用い、および/または有機溶媒を反応物に加えて水を除去する場合でも、反応試薬が大過剰で用いられる。方法によって収率は異なるが、80%を超えることはない。
【0011】
US2004/0110974には、HSOを用い酢酸中の85%乳酸から(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を連続モードで合成することが記載されている。
しかしながら、アセチルクロリドまたは無水酢酸等のアセチル化剤の非存在下では、高い温度が必要となり、ダイマーや重合副生成物の形成を引き起こす。
【0012】
したがって、これらの方法の多くはむしろ不効率であり大量の試薬の廃棄を伴う。実際、出発物質に存在する水が最小限度の量であっても反応の効率は大きく下がる。さらに、先行技術文献のいずれにも、過剰の反応試薬を最初の反応にリサイクルすることは記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、乳酸の水溶液を出発物質とし、酢酸中、無水酢酸でアセチル化反応を行う、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の連続製造方法に関する。さらに、本発明は、ヨウ素化されたX線造影剤の製造における使用のための、高品質の(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドを得るためのアセチルオキシプロピオン酸のクロロ化とその精製を含んでなる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
乳酸は水溶液として工業的規模で一般に入手可能(通常、50%または88−90%濃度にて販売)であるので、酢酸中の最終の乳酸溶液を得るためには、本発明の方法のフェーズa’)に従い水を留去し酢酸で置換しなければならない。このステップにより得られる乳酸の最終濃度は10〜80重量%であり、より好ましくは20〜60重量%である。
【0015】
ステップa)では、酢酸中の乳酸を無水酢酸でアセチル化し、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の反応混合物を得、そこから酢酸及び残留した無水酢酸をステップb)に従い留去して(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を得る。
【0016】
本方法では、乳酸のアセチル化を、好ましくは酸性触媒の存在下で、さらに好ましくは、ブレンステッド酸及びルイス酸からなる群から選択される不均一系触媒の存在下で行う。酸の形態のスルホン酸樹脂、ゼオライト及びモンモリロナイトからなる群から選択される酸性触媒が特に好ましい。
【0017】
好ましい実施形態では、ステップb)の酢酸の蒸留は2段階で行われる。
【0018】
本方法は、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの製造のために用いられ、塩化チオニルの存在下での2−アセチルオキシプロピオン酸の連続的クロロ化およびその蒸留を含んでなる。塩化チオニルを用いるクロロ化は、少なくとも2、好ましくは3つの異なる/独立したリアクターで行われ、個々のリアクターはそれぞれ、凝縮ユニットと、クロロ化反応を行うリアクターへの凝縮液再循環システムとを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】合成反応のスキーム。
図2】クロロ化反応。
図3】連続製造プロセス。ステップa’)−a)−b)−c)−d)を含んでなる実施形態のスキーム。
図4】連続製造プロセス。水の蒸留およびアセチル化を同じリアクターで行う実施形態のスキーム。
図5】連続製造プロセス。好ましいリサイクルを行う実施形態のスキーム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、乳酸の水溶液を出発物質とし、酢酸中、無水酢酸でアセチル化反応を行う、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の連続製造方法に関する。
【0021】
ここで、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸は、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの製造のための出発物質であり、イオパミドール製造のための極めて重要な中間体化合物である。薬局方の要件に準拠したイオパミドールを製造するためには、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドを高い純度と適切な品質で製造しなければならない。
【0022】
本発明の連続製造方法は、以下のステップを含んでなる:
a’)市販の乳酸水溶液と酢酸のストリームを蒸留カラムに供給することにより行われる、乳酸溶液における水の酢酸での置換;
a)酢酸中、乳酸が無水酢酸の存在下でアセチル化されて(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸が得られる、リアクター内で行われる乳酸のアセチル化;
b)(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を得るための、a)で得られた、酢酸中に(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を含んでなる溶液からの酢酸の蒸留。また、この蒸留により過剰の無水酢酸が除去される。
【0023】
無水酢酸による乳酸のアセチル化は、これまで、均一系触媒により試みられており(US2,399,595等)、乳酸のアセチル化ダイマーがかなりの量で形成し、収率が低く、この製法は工業化の見地から興味深いものではなかった。この問題を回避するため、乳酸ナトリウムが出発物質として用いられた。乳酸ナトリウムの使用でダイマー化は最小限に抑えられるものの、相当量の酢酸ナトリウムが形成する。HClの添加(例えば、EP773925参照)により、機械的手段(一般的には濾過)により除かなければならないNaClの沈殿が形成し、この副生成物は廃棄物として処分しなければならない。
【0024】
アセチル化反応が酢酸中の乳酸で行われる本発明の方法では、従来技術の欠点が回避される。工業的スケールのプロセスでは、商業グレードの乳酸(即ち水溶液として)を用い、使用前に連続的におよびin situで水を酢酸で置換することによって達成される。
【0025】
これにより、アセチル化反応a)で水溶液中の乳酸を使用すること(乳酸水溶液に無水酢酸を直接加えた場合、反応試薬の過剰な消費を伴い、プロセス全体が工業的見地からみて魅力に乏しいものとなり、便利とは言えない)は回避される。
【0026】
したがって、種々の濃度で入手可能な商業的な乳酸溶液(例えば30、50%または88〜90%の乳酸溶液)から水を除去することが非常に望ましい。上記のとおり、この製造方法では、水を留去し酢酸を導入して、本方法のステップa’)の、乳酸濃度が10〜80重量%、好ましくは40〜60重量%の最終の酢酸中の乳酸溶液を得る。好ましくは、商業的な乳酸溶液(図3,[1])は25〜60%、好ましくは約50%の濃度で用いられる。
【0027】
ステップa’)における水の置換は、好ましくは、乳酸が水溶液中で連続的に供給され、液相または蒸気相いずれかの酢酸ストリーム(図3[2])が底部から連続的に供給される、蒸留カラムでの蒸留によって行う。水または水と酢酸の混合物はカラムヘッド産物として除去され(図3[3])、酢酸溶液中の乳酸は最終産物として底部で得られる。
【0028】
蒸留カラムは、蒸留プレートまたは充填材を有しており、好ましくは、ベース部には液相または蒸気相いずれかの無水酢酸が、ヘッドには乳酸水溶液が供給される。プレート数8〜30からなるカラムは、ほぼ確実に乳酸から水を分離する。
【0029】
蒸留は、好ましくは減圧下で行い、残圧は10〜400mbar、より好ましくは200〜100mbarである。より低い圧も可能であるが、より大きな直径を有する、つまりより高価な、カラムを用いる必要がある。
【0030】
ステップa)のアセチル化反応は、酢酸溶液中の乳酸を、そして無水酢酸[5]をリアクターに供給することにより行い、無水酢酸は例えば1mol%〜40mol%のややモル過剰(乳酸:無水酢酸のモル比の範囲1:1.01〜1:1.40)が好ましい。
【0031】
反応は、好ましくは20℃〜120℃、さらに好ましくは30℃〜60℃、の温度で行う。
【0032】
アセチル化反応は、酸触媒、より好ましくは不均一相の触媒(本明細書では「不均一系触媒」ともいう)の存在下で行い、触媒は、アセチル化リアクターベッドに導入および固定化することができ、触媒を取り出す操作が要らずリサイクルすることができる。
【0033】
不均一系のまたは固相触媒は、陽イオン交換基が固相(即ち、アセチル化反応の過酷な条件で不活性な、ポリマー状または網状いずれかのマトリックス)に結合している固相の触媒を意図する。
【0034】
不均一相の好ましい酸触媒は、ブレンステッド酸またはルイス酸である。特に第1のタイプのうち、カチオン樹脂が好ましく、さらに酸の形態のスルホン酸樹脂がより好ましい(例えば、最も好ましいAmberlyst(登録商標)15 Dry)。ゼオライトやモンモリロナイトは、不均一系酸触媒の第2のタイプに属する(例えば、Montmorillonit K10及びNafion(登録商標)、Montmorillonit NR 50)。Amberlyst(登録商標)15 Dryタイプの樹脂は、無水形態で商業的に入手可能なため好ましい。乾燥形態の網状タイプのマトリックスを有する他の強力なカチオン樹脂を用いて同等の結果を得ることができる。
【0035】
アセチル化リアクターは様々なタイプのリアクターから選択することができる。一実施形態によれば、リアクターはプラグフロー型である。不均一系触媒を用いる場合、固定床タイプのものが好ましい。不活性な充填材、例えばラッシングリング(Rashig rings)またはガラスビーズ等もまた、触媒とともにこのタイプのリアクターに好ましく使用して触媒容量と熱交換面とのバランスをとることができる。
【0036】
別の実施形態によれば、反応混合物を不均一系触媒を含む1以上のベッド上を循環させるループシステムで反応を行う。
【0037】
好ましい実施形態によれば、リアクターは2連のリアクターからなり、第1のリアクターは不均一系触媒床を循環するループリアクターであり、第2のリアクターは固定樹脂床を有するプラグフローリアクターであり、ここで乳酸から(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸への変換が完結する。
【0038】
反応a)は発熱反応であり、リアクターの形状は、特に、副反応を回避し不純物の生成を制限し反応収率を最適にするために不可欠な温度管理が効果的になされるように、熱交換を最適にする必要がある。
【0039】
好ましい実施形態では、アセチル化は、限定されたリアクターサイズで、上記の温度条件にて滞留時間1時間未満で行う。
【0040】
即ち、水の蒸留およびアセチル反応の滞留時間を限定し放熱能力を最適化することは、どちらも本発明の方法の工業化にとって非常に重要な側面である。
【0041】
乳酸を出発物質とする(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の合成は、一見非常に単純にみえるが、乳酸は潜在的な反応性官能基を2つ有しているため、実用的な観点からすれば非常に複雑になる。大規模で且つ高品質規格の(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドを得るためには、事前に水を除去すること(ステップa’)とアセチル化反応(ステップa)の両方が重要である。事実、収率を大きく低下させ、除去しなければならない副生成物をもたらす乳酸重合が同時に起こる可能性は、重大な経済的負担と環境への負担をもたらすので、回避しなければならない。
【0042】
従来技術においては、原料としての乳酸ナトリウムの使用は水の蒸留を回避し、副生成物の形成が制限されるため、乳酸ナトリウム合成は工業的用途に適したものであった。しかしながら、上述のとおり、反応副生成物として形成する塩化ナトリウムを除去する必要があった。このさらなる操作は、濾過によって行われるが、少量でも水を含有する乳酸溶液を用いバッチ法で乳酸を直接アセチル化する欠点に比べれば、好ましいものであった。
【0043】
ここに、本発明の連続製造法によって、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の製造のための乳酸の水溶液の使用に関連する欠点が大きく改善されることが見出された。事実、有利なことに、本発明の連続製造法では、蒸留リボイラーにおける乳酸滞留時間並びに次の反応時間を最小限にすることにより、オリゴマー形成が大きく減少し、ほぼ定量的収率で得ることが可能である。これにより、アセチル化反応における出発物質として乳酸の使用が工業的に実現可能になる。
【0044】
特に、連続製造法のステップa’)は、バッチ法と比較して以下の利点を有する:
・水と酢酸との分離効率が高く、結果として逆流が減少する;
・酢酸溶液中の乳酸が制御された水分量、好ましくは3%未満、さらに好ましくは1%未満、で得られ、次のアセチル化反応での無水酢酸の消費が減少する;
・リボイラーでの乳酸滞留時間が短く(30分未満、好ましくはおよそ15分)オリゴマー形成を最小限にする;
・滞留時間が短いため、理にかなった小さいサイズのカラムで、バッチ法で必要な条件と比較して、高い蒸留温度と弱い減圧条件を用いることが可能である。
【0045】
さらに、以下の理由により、乳酸の使用は乳酸ナトリウムに対して有利である:
i)乳酸ナトリウムよりも非常に安価に商業的に入手できる;
ii)上記のとおり、機械的手段により反応物から除去すべき塩化ナトリウムの形成が回避される。
【0046】
有利なことに、本発明の製造方法は、従来の工業的方法で達成される最終製品と同程度の純度で得られ、現在の欧州薬局方下でのイオパミドール製造に適している。さらに、連続製造方法によりさらなる利点がもたらされる。例えば、反応試薬の少なくとも幾つかを循環および/または再利用することが可能である。特に、水の蒸留/置換を行うステップa’)において、図5に開示された好ましい一実施形態によれば、蒸気または液体の酢酸([II])が、新たに用意した酢酸ではなく、乳酸アセチル化の後、ステップb)で行われる酢酸蒸留からのものが供給される。既に記載したように無水酢酸による乳酸のアセチル化は酢酸溶液中で行われ、副生成物として酢酸を生じ、a’)に循環させるためにb)の蒸留後のこの副生成物を回収することが可能である。
【0047】
好ましい実施形態に対応するステップa)において、不均一相の酸触媒の存在下では、反応は速く変換時間は30分より短い。この反応は、触媒の非存在下でも高い温度とより長い時間(例えば70〜100℃で2時間以上)で起こるが、酸触媒の添加により反応は30分未満、好ましくは約25分で完結し、低い温度(30〜60℃、より好ましくは35〜55℃)での操作が可能である。上述のとおり、均一系酸触媒をこの反応に用いることも可能である。有用な触媒のうち、硫酸や過塩素酸等の強酸が挙げられるが、蒸留ステップの前に除去する必要がある。したがって、これは実施可能な実施形態ではあるが、さらなるステップ(即ち、中和および濾過によるさらなる塩の除去)が必要なため、従来の方法よりも利点は少ない。
【0048】
アセチル化反応a)は、図4に示した別の実施形態に従って(即ちa’)の水を蒸留している間に)実行することもできる。
【0049】
これは、蒸留カラムに商業的な乳酸水溶液を供給し、底部で無水酢酸ストリームまたは酢酸と無水酢酸の混合物[2]をリボイラーに供給することによって達成される。この場合の無水酢酸と乳酸の好ましいモル比は、1.01:1〜1.4:1である。無水酢酸フラックスには、溶媒として、酢酸を無水酢酸に対し0.2:1〜5:1の重量比で含むことができる。
【0050】
この実施形態によれば、酢酸中の(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸(図4)は、蒸留リボイラー内に直接生成する。この別法の利点は、アセチル化反応により生じた発熱を、水を蒸発させることに活用することで、水の除去と乳酸のアセチル化の両方をひとつの装置を用いて行うことが可能であることである。
【0051】
アセチル化反応の別の実施形態のそれぞれに従って得られた、酢酸中の(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の溶液を、ステップb)にしたがって蒸留して酢酸及び残存する無水酢酸を留去し、好ましくステップa’)において再利用し、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸(図3:[8];図5:XI)がカラムの底部で得られ、次のクロロ化反応に用いられる。
【0052】
ステップb)での酢酸及び無水酢酸の蒸留は、次のクロロ化で塩化チオニルの消費を伴い、そして最も重要なことには最終製品の精製の際に除去しなければならない酸性副生成物の形成を伴う、副生成物であるアセチルクロリドの生成を回避する。
【0053】
図5に示された好ましい実施形態によれば、蒸留は、続く2つのステップで行われる:第1は、アセチル化リアクターからのエフルエント([VI]、図3では[6]または図4では[4])を、減圧した第1の蒸留カラム(100mbar未満)に送る。このカラム内で酢酸及び無水酢酸は蒸留によって除去されるとともに、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の濃縮溶液が底部に得られる;この濃縮溶液は依然として酢酸及び無水酢酸をいくらか含んでいる。したがって、さらなる蒸留ステップ(図5、最終蒸留)を行って酢酸及び無水酢酸をさらに減らすことが好ましい。
【0054】
この実施形態によれば、第1の蒸留ステップは、例えば70〜90℃(通常80℃、20mbar)の温度の蒸留カラムで、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸における酢酸の残存量が15%、好ましくは10%より低くなるまで行う。
【0055】
第2の蒸留ステップは、例えば、高い温度、例えば100〜130℃、30mbar未満(好ましくは120℃、20mbar)の攪拌リアクターまたは薄膜蒸発器にて行い、酢酸の残存量を3%未満、好ましくは2%未満にする。第2の蒸留ステップで得られた蒸気は第1ステップでリサイクルし、蒸留分に含まれる(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を回収することができる。
【0056】
但し、酢酸の蒸留は、適当なリボイラーを取り付けた滞留時間の短いカラムを用いることにより(例えば、流下膜式蒸発器)、例えば図3に開示するように、1ステップで連続的に行うこともできる。
【0057】
上記のとおり、液相または蒸気相いずれかの酢酸を最終的に蒸発させることにより得られた酢酸及び無水酢酸(図5[X])を回収およびリサイクルし、第1ステップ(a’)のカラムに供給する、即ち乳酸水溶液の水を酢酸で置換する、ことが可能である。従って、このようなリサイクル手順の実行は、図5のステップVIからXIに示すような本連続製造法のステップa’)−a)−b)の好ましい実施形態である。
【0058】
b)での蒸留により酢酸及び無水酢酸が除去された(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸は、次に
c)塩化チオニルによるクロロ化を受けて対応するクロリドを生じ;
d)(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの精製、好ましくは蒸留による精製を行う。
【0059】
従って、本連続製造法は好ましくはステップ:a’)、a)、b)、c)、d)を含んでなり、ヨウ素化された造影剤、特にイオパミドール、の合成において用いられる、高純度の(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドの工業的製造に適している。
【0060】
好ましい実施形態によれば、クロロ化反応c)は、凝縮ユニットと独立のガス出口をそれぞれ備えた少なくとも2連のCSTRリアクター(連続撹拌タンクリアクター)内で行われ、各ユニットで凝縮された塩化チオニルを最初のリアクターに戻してリサイクルを可能にし、これによりプラントのすべてのセクションで塩化チオニル濃度を適切にすることが可能である。
【0061】
特に好ましい実施形態によれば、ステップc)では、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の変換率は、滞留時間が3時間未満で、80%超、好ましくは90%超、さらにより好ましくは95%超である。これは、凝縮ユニットと、塩化チオニルを最初のクロロ化リアクターでリサイクルする独立したガス出口とを備えた、2連、さらにより好ましくは少なくとも3、4、5または6連のCSTRのクロロ化リアクターの使用によって達成される。
【0062】
また、クロロ化反応c)によって、塩酸および無水硫酸(SO及びHCl、図2参照)が副生成物として生じ、気体の状態でリアクターに存在する(図3[10])。さらに、塩化チオニルは、蒸気を発生し、上記のとおり1以上の凝縮ユニットにより回収される。実際には、塩酸と無水硫酸は廃棄されるが、塩化チオニルは回収・再凝縮され、最初の装置でリサイクルされる(図5、チオニルの凝縮)。
【0063】
好ましい実施形態では、クロロ化リアクターと次の蒸留カラムからの酸性の気体は、現地の法規に従い、排出する前に、塩酸、無水硫酸、アセチルクロリド及び残存し得る塩化チオニルを処理して量を減らす(図5、ステップXIII、XXI、XXIII)。
【0064】
この態様によれば、連続方式での、特にCSTRカスケードによる、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸のクロロ化反応は、特に、少なくとも2つの理由で、バッチ法と比べて有利である:酸性の気体の発生が一定の流速で起こり、安定した条件下でカットダウンシステムの作動が可能でありプロセスにとって明らかに有利であり;さらに非常に危険な塩化チオニルを、有意に拡散または損失することなしに、回収しリサイクルすることが可能である(図5、凝縮)。
【0065】
最終産物である(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドを、クロロ化反応c)の最後で得られた混合物(図3[11]及び図5XIV)から単離し、好ましくは、2ステップで行う蒸留(ステップd)によって精製する。したがって、低沸点不純物[12]を最初に除去した後、2−アセチルオキシプロピオン酸および(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドのオリゴマー等の高沸点不純物[14]を除去する(図5ステップXV及びXVII)。
【0066】
2回目の蒸留後に得られる生成物の詳細は以下のとおりであり、現行の欧州薬局方の要件に従って、in vivoでの診断に用いられるヨウ素化された造影剤の合成に適している。

【表1】
【0067】
工業プラント(生産量>80kg/h、好ましくは>100kg/h、500kg/hまで)で実施される、本発明の連続反応サイクルステップa’)−d)は、典型的には、全体の収率が90%を超え、大規模な製造に適している。
【0068】
実験の項および図面は本明細書の一部を構成し、限定を意図するものではない。
【0069】
具体的には、図1はステップa)−c)の反応を示す。
【0070】
図2は塩化チオニル(SOCl)との反応で形成される副生成物(無水硫酸SOおよび塩酸HCl)を示す。
【0071】
図3は、精製された形態のイオパミドールの製造に適した(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸クロリドが得られる、ステップa’)−d)を含んでなる全プロセスを示し、ステップa’)−d)による連続製造プロセスの具体例を示す。
【0072】
図4および図5は、好ましい実施形態を示す。具体的には、図4は、上記プロセスの変法であり、アセチル化がステップa’)の水の蒸留の間に行われる。図5では、好ましいリサイクルについても示されている。好ましい実施形態例に従う、場合により再循環される、ストリームはローマ数字で表す。この図は図4の態様の変法を示すものではないが、使用することができる。
【実施例】
【0073】
実験の項
実施例1.酢酸中の乳酸溶液調製
30穴のパーフォレイテドプレートを取り付けた直径5cmのOldershaw蒸留カラムのヘッドから数えて最初のプレートに、市販の乳酸水溶液(乳酸モノマー46.5%及び乳酸ダイマー3.2%)を供給し、カラムの底部に酢酸のストリームを供給した。供給流速はそれぞれ1040mL/h及び550mL/hであり、カラムヘッド圧は50Torrであり、還流比は1とした。
留分の流速は550mL/hであった。ヘッド産物は水と痕跡量の酢酸のみを含み、一方、カラムの底部で得られた生成物の組成は以下のとおりであった。
【表2】
【0074】
実施例2:乳酸のアセチル化
a.均一系触媒
酢酸中の乳酸溶液(乳酸51.1%及びオリゴマー5.9%、オリゴマー/乳酸比=0.11)を容量2.6L、直径2cmの管状リアクターに供給した。リアクターに恒温ジャケット(thermostatic jacket)を取り付けた。リアクター内の液温を57℃に維持した。溶液を、硫酸を含む無水酢酸のストリームと共に、無水酢酸及び乳酸のモル比が1.3/1になるような流速でリアクター内に供給した。反応混合物中の硫酸濃度は0.5重量%とした。リアクター内の滞留時間を89分であり、変換率(%)は(Table 2)に示されるとおりであった。リアクターからの流出液は、2L容のリボイラーを有し、8mbarで運転するエバポレーター内に連続的に送られ、酢酸の大部分が蒸留によって除去される。リボイラーの温度は95℃であった。アセチル化リアクター及びエバポレーター(底部)の出口でのストリーム組成は、それぞれ以下のとおりであった。
【表3】
アセチル化リアクター出口でのアセチル化されたオリゴマー/アセチルオキシプロピオン酸の比は0.17であり、エバポレーター出口では0.38に増大した。
【0075】
b.不均一系触媒
酢酸中の乳酸溶液(乳酸56.4%及びオリゴマー6%、オリゴマー/乳酸比0.11)を60gのAmberlist(登録商標)15スルホン酸樹脂(スルホン酸基4.7meq/gの酸の形態)を含む直径4cmの管状リアクターに供給した。リアクターに恒温ジャケットを取り付けた。溶液を、硫酸を含む無水酢酸のストリームと共に、無水酢酸及び乳酸のモル比が1.38/1になるような流速でリアクター内に供給した。リアクターにおける空間速度は29.8(g/h)/g樹脂であった。リアクター内の液温は47℃であった。リアクターからの流出液は、2L容のリボイラーを有し、10mbarで運転するエバポレーター内に連続的に送られ、酢酸の大部分を分離した。リボイラーの温度は84℃であった。酢酸及び残留した無水酢酸は、エバポレーターヘッドにて蒸留分と共に除かれ、一方、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸と重い化合物はリボイラーの出口から回収した。アセチル化リアクター及びエバポレーター(底部)の出口のストリームの組成(%)は以下のとおりであった。
【表4】
アセチル化リアクターの出口およびエバポレーター(底部)の出口でのアセチル化されたオリゴマー/アセチルオキシプロピオン酸の比は、それぞれ0.10及び0.09であった。
実施例2a及び実施例2bの結果の比較は、反応後に取り除かない均一系触媒の存在は、エバポレーターリボイラーにおいて、ある程度の(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸のダイマー化を引き起したことを示している。また、アセチル化リアクター内部に維持される不均一系触媒では、リアクター出口での混合物は、触媒を含まず、エバポレーターに適用されるような比較的高い温度でも安定である。したがって、不均一系触媒を用いることによって、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を、アセチル化及びそれに続く蒸留ステップの合計を考慮すると定量的収率で得ることができる。
【0076】
実施例3:アセチルオキシプロピオン酸のクロロ化
3.1.3リアクターおよび1凝縮ユニットでの製造
実施例1に記載の、エバポレーターの底部から得られた(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を、塩化チオニルと共に、還流凝縮ユニットを備えた連続撹拌リアクター、及び反応ガスが第1の撹拌リアクターの凝縮ユニットに送られる水平に連結された2連の管状リアクター(PFR1及びPFR2)から構成される一連のリアクターに供給した。
各凝縮ユニットからの凝縮液はすべて第一の撹拌リアクターに再び送られる。この3つのリアクターの有効体積はそれぞれ586、1380及び1480mLであり、合計で3446mLであった。
アセチルオキシプロピオン酸溶液は、この酸自身の他に2重量%の酢酸、6重量%のアセチル化されたダイマー及び約2%の他の生成物を含有していた。522.8g/hのアセチルオキシプロピオン酸の流速に対応して、この溶液の第1リアクターへの供給流速は524.7g/hであった。また、第1リアクター内へ塩化チオニルを522.8g/hの流速で供給した。塩化チオニルとアセチルオキシプロピオン酸の供給モル比は1.24moles/moleであり、塩化チオニルと反応性カルボキシル基合計のモル比は1.14moles/moleであった。
入口条件(inlet condition)を参照し、塩化チオニルの密度を考慮に入れると、全体の持続時間は4.1時間であった。
定常状態に達したとき、3つのリアクターの温度は、それぞれ76.4℃、76.7℃及び71.9℃であった。
各リアクターの出口から2つの試薬の残留濃度を測定して得られた結果は以下のとおりである。
【表5】
このように、1つの凝縮ユニットで持続時間4時間での変換が完全でないことは注目に値する。
【0077】
3.2.個々に凝縮ユニットを備えた3リアクターでの製造
それぞれ別々に凝縮ユニットを備えた3連の撹拌連続リアクターに、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を塩化チオニルと共に供給した。各凝縮ユニットからの凝縮液はすべて第1の撹拌リアクターに再び送られる。この3つのリアクターの有効体積はそれぞれ40、38及び44mLであり、合計で122mLであった。
この実験での(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸溶液の力価は98%であった。第1リアクターへの溶液の供給流速は30.4g/hであった。塩化チオニルは、第1リアクターへ28.7g/hの流速で供給した。塩化チオニルとアセチルオキシプロピオン酸との供給モル比は、1.05moles/moleであった。
入口条件を参照し、塩化チオニルの密度を考慮に入れると、全体の持続時間は4.0時間であった。
定常状態に達したとき、3つのリアクターの温度は、それぞれ85℃、88℃及び85℃であった。
各リアクターの出口で測定して得られた組成は以下のとおりである。
【表6】
このように、このリアクターの設定では、実施例3.1と同じ4時間の持続時間で、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸の変換がほぼ完結した(HPLCにより測定)。

3.3.個々に凝縮ユニットを備えた6リアクターでの製造
それぞれ別々に1つの還流凝縮ユニットを備え、ほぼ同体積の6連の連続リアクターに、(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸を塩化チオニルと共に供給した。各凝縮ユニットからの凝縮液はすべて第1の撹拌リアクターに再び送られる。この6つのリアクターの体積は合計で4389mLであった。
この実験での(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸溶液の力価は92%であった。第1リアクターへの溶液の供給流速は839g/hであった。また、塩化チオニルは、第1リアクターへ998g/hの流速で供給した。塩化チオニルとアセチルオキシプロピオン酸との供給モル比は、1.26moles/moleであった。
入口条件を参照し、塩化チオニルの密度を考慮に入れると、全体の持続時間は3.03時間であった。
定常状態に達したとき、第1のリアクターの温度は59℃、第2のリアクターの温度は66℃、そして第4のリアクターの温度は74℃であった。
各リアクターの出口で測定して得られた組成は以下のとおりである。
【表7】
これらの結果は、連結数6のリアクターでは、持続時間がわずか3時間で(S)−2−アセチルオキシプロピオン酸がほぼ完全に変換されることを示している。
【0078】
実施例4:粗製(S)−2−アセチルオキシプロピオニルクロリドの精留
3.1での製造で得られたクロロ化粗製物を、25穴のパーフォレイテドプレートを備えた第1のOldershaw連続蒸留カラム(直径1インチ)の13番目のプレートに送り(ヘッド圧30Torr)、軽い生成物である塩化アセチルと塩化チオニルをヘッドから除去し、リボイラーから揮発性の生成物を含まない(S)−2−アセチルオキシプロピオニルクロリドを得た。リボイラーからの生成物を、25穴のパーフォレイテドプレートを備えた第2の連続蒸留カラム(直径1インチ)のヘッドから数えて20番目のプレートに供給し、ヘッドから生成物を力価99%で分離した。
図1
図2
図3
図4
図5