特許第6694723号(P6694723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694723
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】回収剤および回収方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/26 20060101AFI20200511BHJP
   C22B 3/30 20060101ALI20200511BHJP
   C22B 3/28 20060101ALI20200511BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20200511BHJP
   C22B 3/40 20060101ALI20200511BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20200511BHJP
   C22B 11/00 20060101ALI20200511BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20200511BHJP
   C22B 61/00 20060101ALI20200511BHJP
   C22B 7/00 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   C22B3/26
   C22B3/30
   C22B3/28
   C22B3/38
   C22B3/40
   B01D11/04 B
   C22B11/00 101
   C22B23/00 102
   C22B61/00
   !C22B7/00 A
   !C22B7/00 B
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-25083(P2016-25083)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2016-166408(P2016-166408A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-43802(P2015-43802)
(32)【優先日】2015年3月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】岸本 章
(72)【発明者】
【氏名】池本 沙希
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−021284(JP,A)
【文献】 特開昭60−013035(JP,A)
【文献】 特開2011−084783(JP,A)
【文献】 特開2013−136035(JP,A)
【文献】 特開2005−103534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物が溶解する水溶液から金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を回収する回収剤であって、
下限臨界溶液温度を有する液体としてのグリコールジアルキルエーテルを含有するとともに、
前記回収対象成分の捕捉剤を含有し、
前記捕捉剤がヒドロキシオキシム、リン酸エステル、ジアルキルカルビトール、トリアルキルアミン、第四級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種を含有するものである回収剤。
【請求項2】
前記グリコールジアルキルエーテルが化1に記載のものである請求項1に記載の回収剤。
[化1]
1O−(CH2−CH2−O)n−R2 ………(1)
(ただし、式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素または、炭素数1〜5のアルキル基または、炭素数1〜5のアルケニル基、nは1〜6の整数である)
【請求項3】
金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物が溶解する水溶液から金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を回収する回収方法であって、
前記回収対象化合物の溶解する水溶液に、下限臨界溶液温度を有する液体としてのグリコールジアルキルエーテルを含有する回収剤を添加し、均一な溶液を形成する混合工程と、
混合工程により得られた溶液を下限臨界溶液温度以上の温度に加熱する加熱工程と、
加熱工程により2相分離したグリコールジアルキルエーテル相を分離回収する回収工程と、
分離回収されたグリコールジアルキルエーテル相に還元剤を添加する還元処理工程とを順に行い、
得られたグリコールジアルキルエーテル相から前記回収対象成分を回収する回収方法。
【請求項4】
前記還元剤が、水素化ホウ素塩、ホスホン酸塩、次亜燐酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩から選ばれる無機化合物、ヒドラジン、エチレンジアミン、ウレア、チオウレア、ジメチルアミノボランから選ばれる窒素化合物類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドから選ばれるアルデヒド類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオールから選ばれるチオール類、ハイドロキノン、タンニン酸、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれる不飽和酸およびそれらのナトリウム塩、カリウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種以上化合物である請求項に記載の回収方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の回収方法に使用する回収剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物が溶解する水溶液から金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を回収する回収剤および回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金、白金等の貴金属を回収対象化合物として含む水溶液中からこれらの金属をを回収対象成分として分離する技術は、資源の回収・再利用の観点から極めて重要である。また、これら貴金属に限らず、希少資源としての金属または半金属を回収対象成分として分離する技術についても、資源の回収・再利用の観点から極めて重要と考えられている。
そのため、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物が含まれている材料から分離回収するために、電気分解法、化学的変換法、イオン交換法、溶媒抽出法、吸着法またはこれらの組み合せなど多種多様の方法が提案されている。現状、効率的な金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分の回収方法として知られている溶媒抽出法では、例えば、代表的なものとして貴金属元素を含有する溶液をジブチルカルビトール等のキレート剤に接触させて溶液中の貴金属を前記キレート剤に吸着させ、貴金属を濃縮し、回収する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Asanoら、Journal of the Mining and Materials Processing Institute of Japan 123(8), 399-405, 2007-08-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、提案されている方法では、キレート剤が揮発性の高い有機溶媒であるため、環境性に良くない。また、大量の溶媒を用いることになるため、回収率が必ずしも良好とはいえず、環境問題としても好ましいものとはいえない。さらに、有機溶媒を効率良く回収するためには、溶媒の再生利用等のプロセスが必須となり、工程が複雑になるため、エネルギー的にも回収率が低いという問題がある。
また、他の回収対象成分を回収する場合についても溶媒の再生利用等のプロセスにより工程が複雑になる問題があり、このような工程の簡略化が大きな課題となっている。
【0005】
したがって、本発明は上記実状に鑑み、溶媒の再生利用等のプロセスを簡略化し、回収対象成分の回収率を高めることができる回収剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の回収剤の特徴構成は、
金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物が溶解する水溶液から金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を回収する回収剤として、
下限臨界溶液温度を有する液体としてのグリコールジアルキルエーテルを含有するとともに、
前記回収対象成分の捕捉剤を含有し、
前記捕捉剤がヒドロキシオキシム、リン酸エステル、ジアルキルカルビトール、トリアルキルアミン、第四級アンモニウム塩から選ばれる少なくとも一種を含有するものである
点にある。
【0007】
なお、金属とは、常温下で、原子の陽イオンどうしが自由電子を媒介として結合する金属結合となる元素をいい、1属元素から12属元素に属する元素および13属〜15属に属する元素のうちアルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、スズ、鉛、ビスマスを含む。この中で、貴金属とは、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムからなる安定性の高い金属を指すが、本発明においては、特に工業的に利用されるイオン化傾向の小さな金属として銅、水銀、を含めて貴金属と称するものとする。
また、半金属とは、元素の分類において金属と非金属の中間の性質を示す物質のことであり、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、セレン、ポロニウム、アスタチンが含まれる。
【0008】
また、グリコールジアルキルエーテルのような物質は、ある温度を境にそれより高い温度では分子内、或いは分子間の疎水結合が強まりポリマー鎖が凝集し、逆に、低い温度ではポリマー鎖が水分子を結合し水和する相転移挙動を示すが、この境界温度を下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution temperature, LCST)と呼ぶ。
【0009】
〔作用効果1〕
上記特徴構成において、グリコールジアルキルエーテルは、下限臨界溶液温度より低い温度域では水に均一溶解し、グリコールジアルキルエーテルが均一に溶解した水溶液(以下、「均一溶液」という。)を形成する。この均一溶液を昇温していくと臨界温度付近でグリコールジアルキルエーテルの急激な脱水和およびそれに伴う疎水性相互作用により水に不溶となり、相分離が起こる。その結果、グリコールジアルキルエーテル相と水相とに分離するという特徴を有している。また、グリコールジアルキルエーテルはオキシエチレン鎖を含有することから、たとえば金イオンや白金イオンのような貴金属イオンあるいは鉄イオンあるいは銅イオンのような金属イオン、さらには、ホウ素、ケイ素、ゲルマニウムのような半金属化合物と電気的に結合し、錯形成しやすいことを本発明者らは実験的に明らかにしている。
【0010】
このグリコールジアルキルエーテルは、溶媒として機能するとともに、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物のイオンに配位して錯体を形成し、上記均一溶液から相分離が起きる際、回収対象化合物のイオンが錯体として捕捉された状態でグリコールジアルキルエーテル相に移動するため、金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分のイオンを水相からグリコールジアルキルエーテル相に分離することができる。すなわち、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物のイオンが含まれている水相にグリコールジアルキルエーテルを混合すると、低温にて水相に含まれる金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分のイオンがグリコールジアルキルエーテルに捕捉された状態の均一溶液を形成する。この均一溶液を加熱して、下限臨界溶液温度を超える温度にすると、グリコールジアルキルエーテルは、水相から分離してグリコールジアルキルエーテル相を形成する。そのため、大量の有機溶媒でグリコールジアルキルエーテルを抽出しなくとも、グリコールジアルキルエーテルを水相から分離回収することができるようになる。ここで、分離回収されたグリコールジアルキルエーテルには回収対象成分が錯形成により溶解した状態となっているから、この回収対象成分を再度グリコールジアルキルエーテルから脱離させることによって、回収することができる。
【0011】
なお、グリコールジアルキルエーテルとしては、下限臨界溶液温度を有するものであれば特に制限されない。
【0012】
また、グリコールジアルキルエーテルは、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物に対して高い錯形成能力を発揮するため、水溶液中の金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分のほとんどをグリコールジアルキルエーテル相中に移動させることができ、回収対象成分の高い回収率を実現することができる。
【0013】
したがって、温度変化のみで、水相とグリコールジアルキルエーテル相との混合分離を行え、溶媒の再生利用等のプロセスを簡略化することができるので、有機溶媒の使用量を抑制して効率よく回収対象成分を回収することができ、回収対象成分の回収率を高めることができる。
【0015】
また、回収対象化合物に対して錯形成し、その回収対象化合物を、有機溶媒を含む相に移動させることのできる物質として、種々の捕捉剤が知られている。このような捕捉剤は、回収対象化合物に結合した状態で、水相よりもグリコールジアルキルエーテル相に移行する傾向が高い。そのため、グリコールジアルキルエーテルのみでは、水とグリコールジアルキルエーテルとの均一溶液中に含まれる回収対象成分のすべてを回収しきれないというような場合であっても、捕捉剤がグリコールジアルキルエーテルで回収しきれなかった回収対象成分のイオンに結合し錯形成して、回収対象成分のイオンをグリコールジアルキルエーテル相に移行させる役割を果たすため、さらに回収対象成分の回収率を高めるのに寄与する。
【0017】
また、捕捉剤としては、回収対象化合物のイオンに配位可能なヘテロ原子を有し、ヘテロ原子の配位した回収対象化合物のイオンを包囲するアルキル基を有する化合物が有効に用いられ、回収対象化合物のイオンを安定的にグリコールジアルキルエーテル相に移行することができる。このような化合物としては、ジアルキルカルビトール、トリアルキルアミンが例示される。
【0018】
上記構成において捕捉剤としては、回収対象成分として銅を回収する目的では、ジアルキルカルビトール、トリアルキルアミンから選ばれる少なくとも一種を含有するものが用いられ、また、回収対象成分として鉄やニッケルを回収する目的では、ヒドロキシオキシム系化合物を含有するものが用いられ、回収対象成分として銀やクロムを回収する目的では、リン酸エステル系化合物を含有するものが用いられ、さらに、回収対象成分として半金属のケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、セレン、ポロニウム、アスタチンおよびこれらの酸化物等の化合に津のイオンを回収する目的では、アミン化合物またはアンモニウム化合物を含有するものがより好適に用いられる。
【0019】
〔構成
また、上記構成において、グリコールジアルキルエーテルとしては、化1に示すものが有効に利用できる。
【0020】
[化1]
1O−(CH2−CH2−O)n−R2 ………(1)
(ただし、式(1)中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素または、炭素数1〜5の
アルキル基または、炭素数1〜5のアルケニル基、nは1〜6の整数である)
【0021】
〔作用効果
上記構成によると、グリコールジアルキルエーテルとしては、回収対象化合物に配位可能な酸素原子を少なくとも複数有するとともに、配位した回収対象化合物のイオンを包囲するアルキル基を複数有するので、溶媒として機能しながら、回収対象成分を捕捉する機能を発揮することができるものとなる。そのため、安定的に回収対象化合物のイオンをグリコールジアルキルエーテル相に移行させることができ、効率的に回収対象成分を回収するのに役立てられる。
【0022】
これらの中でもトリエチレングリコールブチルメチルエーテル(式(1)中、n=3、R1=メチル基、R2=ブチル基)は、40℃付近に下限臨界溶液温度を示すため、室温で前記混合工程を行う際、回収対象化合物のイオンとして、金イオンまたは白金イオンを含有する酸性水溶液に加えると、均一に酸性水溶液に溶解する。これにより、回収対象化合物のイオンとしての金イオンまたは白金イオンとの電気的な結合が効率良く行えるので、好ましい。
なお、上記式(1)を構成単位とするグリコールジアルキルエーテルのうち、例えば、エチレングリコールt−ブチルエーテル(式(1)中、n=1、R1=H基、R2=t−ブチル基)は30℃付近に下限臨界溶液温度を示す。
【0023】
〔構成
また、上記目的を達成するための本発明の回収方法の特徴構成は、
金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物が溶解する水溶液から金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を回収する回収方法であって、
前記回収対象化合物の溶解する水溶液に、下限臨界溶液温度を有する液体としてのグリコールジアルキルエーテルを含有する回収剤を添加し、均一な溶液を形成する混合工程と、
混合工程により得られた溶液を下限臨界溶液温度以上の温度に加熱する加熱工程と、
加熱工程により2相分離したグリコールジアルキルエーテル相を分離回収する回収工程と、
分離回収されたグリコールジアルキルエーテル相に還元剤を添加する還元処理工程とを順に行い、
得られたグリコールジアルキルエーテル相から前記回収対象成分を回収する点にある。
【0024】
〔作用効果
上記構成によると、混合工程を行うことにより、回収対象化合物の溶解する水溶液に、グリコールジアルキルエーテルが均一に溶解して、水溶液中の回収対象化合物のイオンに対してグリコールジアルキルエーテルが錯形成する。
【0025】
次に加熱工程を行うと、均一溶液が2相に分離して、水相とグリコールジアルキルエーテル相とを形成する。この時、回収対象化合物のイオンはグリコールジアルキルエーテルに捕捉されており、回収対象化合物のイオンを捕捉したグリコールジアルキルエーテルは、グリコールジアルキルエーテル相に移行することから、回収対象成分が水相から分離されることになる。また、加熱により2相分離するから有機溶媒等を用いることなく回収対象成分をグリコールジアルキルエーテル相に移行することができ、効率よく分離することができる。
【0026】
回収工程では、加熱工程で得られたグリコールジアルキルエーテル相は明確に2相分離
するのでグリコールジアルキルエーテル相のみを容易に分離回収することができる。
【0027】
グリコールジアルキルエーテル相に分離回収された回収対象化合物のイオンは、そのままでは再利用することができないので、還元剤を添加する還元処理工程により、回収対象成分の金属や半金属として析出させることができる。すなわち、金属イオンや半金属イオンとしてグリコールジアルキルエーテルに捕捉されていた回収対象化合物のイオンを、金属や半金属に還元することにより、回収対象成分としてグリコールジアルキルエーテルと分離させて回収できるので、回収のためのプロセスを簡略なものにできる。回収された回収対象成分は、精製、再加工することにより再利用することができる。
【0028】
例えば、金、白金はほぼ100%リサイクルされているが、そのリサイクル過程におい
て、環境に与える負荷を軽減し、回収対象成分としての金、白金等の貴金属を効率良く回収できる。
【0029】
なお、グリコールジアルキルエーテルの化学構造的な特徴としてオキシエチレン鎖を繰
り返す構造が挙げられ、オキシエチレン鎖を構成するオキシエチレンのユニット数や、オ
キシエチレン鎖の末端アルキル基の種類を変えることにより下限臨界溶液温度を変化させ
ることができる。
グリコールジアルキルエーテルの下限臨界溶液温度は、作業性を考慮して20〜100
℃、好ましくは40℃〜100℃の範囲にあるものが作業性良く使用できる。
【0030】
〔構成
上記構成において、前記還元剤が、水素化ホウ素塩、ホスホン酸塩、次亜燐酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩から選ばれる無機化合物、ヒドラジン、エチレンジアミン、ウレア、チオウレア、ジメチルアミノボランから選ばれる窒素化合物類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドから選ばれるアルデヒド類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオールから選ばれるチオール類、ハイドロキノン、タンニン酸、クエン酸、アスコルビン酸から選ばれる不飽和酸およびそれらのナトリウム塩、カリウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種以上を主成分とする化合物を用いることができる。
〔作用効果4〕
上記還元剤は、グリコールジアルキルエーテルに結合した回収対象化合物のイオンを金属や半金属にまで還元するための還元能力を有しており、イオンとしてグリコールジアルキルエーテルに捕捉されていた回収対象化合物を、金属や半金属にまで還元することにより回収させるのに利用することができる。また、これらは、汎用的な還元剤として市場に流通しているものであり、安価かつ取り扱い容易なものであるので、回収方法を実施するうえで、低コストで貴金属を回収できることとなるので好ましい。
【0031】
〔構成5〕
また、本発明の回収剤の特徴構成は、上記の構成を備えた回収方法に使用する点にある。
〔作用効果
上記回収剤を使用することで、上記回収方法を行うことができる。


【発明の効果】
【0032】
したがって、金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を簡略なプロセスで回収できるようになり、回収率を高めることができた。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の回収剤を用いた回収方法の実施形態を説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0034】
本発明の実施形態にかかる回収方法は、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物の溶解する水溶液に、本発明の実施形態にかかる回収剤である、下限臨界溶液温度を有する液体としてのグリコールジアルキルエーテルを主成分とする回収剤を添加し、均一な溶液を形成する混合工程と、
混合工程により得られた溶液を下限臨界溶液温度以上の温度に加熱する加熱工程と、
加熱工程により2相分離したグリコールジアルキルエーテル相を分離回収する回収工程と、
分離回収されたグリコールジアルキルエーテル相に還元剤を添加する還元処理工程とを順に行い、
得られたグリコールジアルキルエーテル相から金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を回収するものである。
【0035】
(混合工程)
金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物の溶解する水溶液は、例えば、宝飾品、電子基板、産業用触媒等を適度な大きさに粉砕し、王水、硫酸、塩酸、硝酸等の酸溶液に溶解して得られる。特に回収される回収対象成分としては、希少性、用途の多様性から、金、白金等の貴金属を対象とすることが好ましいが、その他の回収対象成分を含むものであっても構わない。得られた水溶液には、1mol/L以下、好ましくは1×10-2mol/L以下の濃度で回収対象成分を含有していることが望ましい。
【0036】
まず混合工程として、回収対象化合物の溶解する水溶液としてたとえば金または白金がイオンを含有する酸性水溶液に下限臨界溶液温度を有するグリコールジアルキルエーテルを含有する回収剤を添加する。たとえば、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルを用いた場合、下限臨界溶液温度が40℃付近であるので、40℃以下において混合することにより互いに溶解して均一な溶液を形成する。上記水溶液に添加されるグリコールジアルキルエーテルは、下限臨界溶液温度を有するものであれば特に制限されない。また、グリコールジアルキルエーテルはオキシエチレン鎖を含有することから、特に金イオンおよび白金イオンと電気的に結合しやすい特徴も有する。
【0037】
ここで回収剤に含有させるグリコールジアルキルエーテルの量は、使用するグリコールジアルキルエーテルの種類や水溶液中に含まれている金および白金イオンの濃度により異なる場合があり、一概にはいえないが、少ないと金または白金を回収するグリコールジアルキルエーテル量が少なくなるため良くなく、逆に多すぎると金または白金の回収効率は良くなるが、必要以上にグリコールジアルキルエーテルを要するため経済的な理由で良くない。
【0038】
回収剤としては、グリコールジアルキルエーテルはそのまま使用するだけでなく、別の捕捉剤をあらかじめ混合させておいたものも使用できる。例えば、酸性水溶液に溶解しない既知の疎水性の金または白金に結合可能な捕捉剤は、グリコールジアルキルエーテルに溶解するものが多いので、これらの捕捉剤をグリコールジアルキルエーテルに溶解させておくと、グリコールジアルキルエーテルのみを用いた場合よりも回収対象成分の回収効率を向上させる場合がある。捕捉剤として、例えば、ジブチルカルビトール、トリオクチルアミン等がある。なお、回収対象成分として銅を回収する目的では、ジアルキルカルビトール、トリアルキルアミンから選ばれる少なくとも一種を含有するものが用いられ、また、回収対象成分として鉄やニッケルを回収する目的では、ヒドロキシオキシム系化合物を含有するものが用いられ、回収対象成分として銀やクロムを回収する目的では、リン酸エステル系化合物を含有するものが用いられ、さらに、回収対象成分として半金属のケイ素、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、セレン、ポロニウム、アスタチンおよびこれらの酸化物等の化合に津のイオンを回収する目的では、アミン化合物またはアンモニウム化合物を含有するものがより好適に用いられる。
【0039】
回収剤としては、酸性水溶液に対して体積比率で同量程度用いると、取り扱い容易で作業性が高いので好ましいが、具体的には回収剤に含まれるグリコールジアルキルエーテルを酸性水溶液に対して5体積%〜100体積%程度混合することができる。例えば、金または白金の濃度が1×10-2mol/Lの酸性水溶液に含有させる場合、回収剤中に含まれるグリコールジアルキルエーテルの量は、酸性水溶液の体積に対して10%以上、好ましくは25%以上である。
【0040】
(加熱工程)
次に、混合工程により得られた均一溶液を下限臨界溶液温度以上の温度に加熱する。
すなわち、均一溶液を昇温していくと下限臨界温度付近でグリコールジアルキルエーテルの急激な脱水和およびそれに伴う疎水性相互作用による相分離が起こり、その結果、グリコールジアルキルエーテルが水溶液に不溶となる。たとえば、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルを用いた場合、下限臨界溶液温度が40℃付近であるので、たとえば50℃以上に加熱することにより均一溶液は2相分離して水相とグリコールジアルキルエーテル相とに2相分離する。
ここで取り出したグリコールジアルキルエーテル相には、元々酸性水溶液に溶解していた金イオン、白金イオン等の回収対象化合物のイオンが含まれており、酸性水溶液中の金イオン、白金イオン等の回収対象成分を回収できている。
【0041】
(回収工程)
回収工程では、加熱工程により2相分離したグリコールジアルキルエーテル相を分離回収する。50℃で2相分離した各相は、50℃を維持した状態で静置し、上相として得られるグリコールジアルキルエーテル相を分液回収することができる。
【0042】
(還元処理工程)
次に、分離回収されたグリコールジアルキルエーテル相に還元剤を添加する還元処理工程を行う。すなわち、グリコールジアルキルエーテル相に既知の還元剤を加えると金、白金等の回収対象成分は析出するので、ろ過等で回収できることになる。
【0043】
ここで用いる還元剤としては、還元作用を有する物質として知られているものであれば特に制限されないが、例えば、水素化ホウ素塩、ホスホン酸塩、次亜燐酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、亜二チオン酸塩等の無機化合物、ヒドラジン、エチレンジアミン、ウレア、チオウレア、ジメチルアミノボラン等の各種アミン、ジアミン類およびイミン類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等の各種アルデヒド類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール等の各種チオール類等の有機化合物、その他、ハイドロキノン、タンニン酸、クエン酸、アスコルビン酸およびそれらのナトリウム塩、カリウム塩等の還元作用を有する化合物等が挙げられる。中でもクエン酸、アスコルビン酸は、食品添加物として知られており、安全で安価のものであるため、好ましい。
【0044】
(実施例1)金の回収試験
金イオンを含む酸性水溶液として、テトラクロロ金酸四水和物(HAuCl4・4H2O、和光純薬)0.9295g(2.257mmol)を精製水に溶解させ、50.00mL(45.14mM)とした。これをそれぞれ1Nの塩酸で希釈して、10.0mM、1.00mM、0.500mM、0.100mM、酸性水溶液(以下、「基準液」という。)を調製した。
【0045】
(1−1)金濃度と回収率
室温で前記基準液10.0mLに40℃に下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルとして、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬)を10.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
【0046】
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれの金濃度を吸光度法(測定波長:314nm)およびICP発光分析法により定量し金の回収率および残存率を求めた。
尚、本発明の各実施例における回収率とは、前述の混合工程で得られた均一液体中に含まれている金(回収対象化合物)の量に対して、回収工程で得られたグリコールジアルキルエーテル相に含まれている金(回収対象成分)の量の割合であり、また、残存率とは、前述の混合工程で得られた均一液体中に含まれている金(回収対象化合物)の量に対して、回収工程で得られた水相に含まれている金(回収対象成分)の量の割合である。
【0047】
(1−2)回収剤使用量と金の回収率
また、テトラクロロ金酸四水和物濃度10mMの基準液に固定し、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルの量を変えて(1−1)同様に金の回収試験を行った。
【0048】
これらの結果を表1および表2に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
表1は基準液中の金濃度に対して、水相に残存している金の割合(残存率)とグリコールジアルキルエーテル相に回収された金の割合(回収率)を示したものである。残存率と回収率を足し合わせると理論上マスバランスから100%となるが、実験結果もそれに近い値となっている。いずれも100%近い回収率が得られており、下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルを用いると高い効率で金を回収できることが分かった。
【0052】
また、表2より10mMの金濃度基準液10mLに対して、高い(95%以上)回収率を得るのに必要なグリコールジアルキルエーテルの量は2mL以上であることも分かった。
【0053】
(実施例2)白金の回収試験
白金イオンを含む酸性水溶液として、ヘキサクロロ白金酸水和物(H2PtCl6・H2O)0.9834g(1.899mmol)を精製水に溶解させ、50.00mL(38.00mM)とした。これをそれぞれ1Nの塩酸で希釈して、10.0mM、1.00mM、0.100mM、0.0100mMの基準液を調製した。
【0054】
(2−1)白金濃度と回収率
室温で上記基準液10.0mLに40℃に下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルとして、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬)を10.0mLを加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
【0055】
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれの白金濃度を吸光度法(測定波長:262nm)およびICP発光分析法により定量した。
【0056】
(2−2)回収剤使用量と白金の回収率
また、ヘキサクロロ白金酸水和物濃度10mMの基準液に固定し、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルの量を変えて(2−1)同様に白金の回収試験を行った。
【0057】
これらの結果を表3および表4に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
表3は基準液中の白金濃度に対して、水相に残存している白金の割合(残存率)とグリコールジアルキルエーテル相に回収された白金の割合(回収率)を示したものである。残存率と回収率を足し合わせると理論上マスバランスから100%となるが、実験結果もそれに近い値となっている。いずれも100%近い回収率が得られており、下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルを用いると高い効率で白金を回収できることが分かった。
【0061】
また、表4より10mMの白金濃度基準液10mLに対して、高い(測定上100%)回収率を得るのに必要なグリコールジアルキルエーテルの量は2.5mLで充分であることも分かった。
【0062】
(実施例3)金/鉄混合水溶液における金の選択回収試験
テトラクロロ金酸四水和物(HAuCl4・4H2O、和光純薬)および塩化鉄(III)(和光純薬)を同じ1N の塩酸で希釈して、金および鉄がそれぞれ10.0mMの金/鉄混合水溶液を調製した。
【0063】
室温で前記混合水溶液10.0mLに40℃に下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルとして、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬)を10.0mLを加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
【0064】
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれの金および鉄濃度をICP発光分析法により定量した。
【0065】
結果を表5に示す。
【表5】
【0066】
表5は混合水溶液中の金および鉄濃度に対して、水相に残存している金または鉄それぞれの割合(残存率)とグリコールジアルキルエーテル相に回収された金または鉄それぞれの割合(回収率)を示したものである。残存率と回収率を足し合わせると理論上マスバランスから100%となるが、実験結果もそれに近い値となっている。これより金については100%近い回収率が得られているのに対して、鉄は殆ど抽出されていないことが分かった。これより下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルを用いると高い選択率で金を回収できることが分かった。
【0067】
(実施例4)白金/鉄混合水溶液における白金の選択回収試験
ヘキサクロロ白金酸水和物(H2PtCl6・H2O、和光純薬)および塩化鉄(III)(和光純薬)を同じ1Nの塩酸で希釈して、白金および鉄がそれぞれ10.0mMの白金/鉄混合水溶液を調製した。
【0068】
室温で上記基準液10.0mLに40℃に下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルとして、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬)を10.0mLを加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
【0069】
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれの白金および鉄濃度をICP発光分析法により定量した。
【0070】
結果を表6に示す。
【表6】
【0071】
表6は混合水溶液中の白金および鉄濃度に対して、水相に残存している白金または鉄それぞれの割合(残存率)とグリコールジアルキルエーテル相に回収された白金または鉄それぞれの割合(回収率)を示したものである。残存率と回収率を足し合わせると理論上マスバランスから100%となるが、実験結果もそれに近い値となっている。これより白金については100%近い回収率が得られているのに対して、鉄は殆ど抽出されていないことが分かった。これより下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルを用いると高い選択率で白金を回収できることが分かった。
【0072】
(実施例5)還元処理工程
実施例1、2における回収工程で回収されたグリコールジアルキルエーテル相に還元剤としてクエン酸を添加する還元処理工程を行った。
【0073】
具体的には、還元剤としてクエン酸を用いる場合、回収工程でグリコールジアルキルエーテルの相を取り出した後、室温にて金または白金の濃度と同じまたはそれ以上のクエン酸水溶液をグリコールジアルキルエーテルの相の容積と同量程度を加えた。
すると、グリコールジアルキルエーテル相とクエン酸水溶液は混合して均一溶液を形成するとともに、グリコールジアルキルエーテル相に抽出されていた金イオンまたは白金イオンはクエン酸により還元され、金または白金として析出した。
その後、析出した金または白金をガラスフィルターで沈殿ろ過することにより、金または白金を回収したところグリコールジアルキルエーテル相に移行した金イオンまたは白金イオンの99.9%以上を回収することができた。
【0074】
ろ液を50℃に加温すると、クエン酸水溶液相とグリコールジアルキルエーテル相に分離し、グリコールジアルキルエーテル相のみを分液して取り出すことでグリコールジアルキルエーテルは、金または白金を抽出するための回収剤として繰り返し使用できる。
【0075】
(実施例6)捕捉剤(金)
実施例1における回収剤を、金と選択的に結合する性質を有する捕捉剤を含有してなるものに変更して、同様に金の回収試験を行った。
具体的には捕捉剤としてジアルキルカルビトールを10%含有するトリエチレングリコールブチルメチルエーテルを回収剤として使用し、実施例1と同様に金の回収試験を行った。
【0076】
その結果、回収剤を1mL用いた場合でも金の回収率は99.9%を超え、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルを単独で用いる場合よりも高い金の回収率を実現できるようになった。
【0077】
(実施例7)捕捉剤(白金)
実施例2における回収剤を、白金と選択的に結合する性質を有する捕捉剤を含有してなるものに変更して、同様に金の回収試験を行った。
具体的には捕捉剤としてトリアルキルアミンを10%含有するトリエチレングリコールブチルメチルエーテルを回収剤として使用し、実施例2と同様に白金の回収試験を行った。
【0078】
その結果、回収剤を1mL用いた場合でも白金の回収率は99.9%を超え、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルを単独で用いる場合よりも高い白金の回収率を実現できるようになった。
【0079】
(実施例8)ニッケルの回収試験
ニッケルイオンを含む酸性水溶液として、硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬)0.1gを1Nの塩酸で希釈して、50.00mlとした。
この酸溶液に40℃に下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルとして、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬)を50.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
【0080】
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれのニッケル濃度をICP発光分析法により定量しニッケルの回収率および残存率を求めた。
結果は、ニッケルの回収率は55%、残存率は45%であった。
【0081】
(実施例9)ニッケルの回収試験
ニッケルイオンを含む酸性水溶液として、硝酸ニッケル(II)六水和物(和光純薬)0.1gを1Nの塩酸で希釈して、50.00mlとした。
この酸溶液に金属捕捉剤として5−ノニルサリチルアルドキシム(サイテックインダストリー社)商品名:Acorga M5640)を0.1gを含むグリコールジアルキルエーテル(トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬))を50.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれのニッケル濃度をICP発光分析法により定量しニッケルの回収率および残存率を求めた。
結果は、ニッケルの回収率は95%、残存率は5.0%であった。
分離したグリコールジアルキルエーテル相に1Nのアスコルビン酸水溶液を10g加え、室温で10分間撹拌した。(還元処理工程)。この状態で褐色の沈殿物として、ニッケルが還元析出され、濾過により、ニッケルを分離した。
【0082】
すなわち、実施例8と実施例9との比較により金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物は金属捕捉剤により回収率を向上させられることが確認でき、また、回収対象化合物の混合溶液から特定の回収対象成分を選択的に取り出す場合にも捕捉剤が有効に働くものと考えられる。なお、複数の金属が溶解する混合溶液(たとえば上述の実施例3,4)においては、選択的に抽出したい回収対象成分に対して選択的に作用する回収対象成分用の捕捉剤を用いることにより、より一層所望の金属を選択的に回収することができるようになる。また、選択性の低い金属(たとえば上述の実施例3,4における鉄等)についても、有効に働く金属捕捉剤により回収対象成分として回収することが可能である。また、選択性の低い金属は、より選択されやすい他の金属化合物及び半金属化合物が共存しない溶液(たとえば単純な鉄溶液)からは、下限臨界溶液温度を有する液体としてのグリコールジアルキルエーテルを主成分とする回収剤により回収され得るものと考えられる。
【0083】
(実施例10)クロムの回収試験
クロムイオンを含む酸性水溶液として、硝酸クロム(III)九水和物(和光純薬)0.1gを1Nの塩酸で希釈して、50.00mLとした。
この酸溶液に40℃に下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルとして、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬)を50.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれのクロム濃度をICP発光分析法により定量しクロムの回収率および残存率を求めた。
結果は、クロムの回収率は75%、残存率は25%であった。
【0084】
(実施例11)クロムの回収試験
クロムイオンを含む酸性水溶液として、硝酸クロム(III)九水和物(和光純薬)0.1gを1Nの塩酸で希釈して、50.00mLとした。
この酸溶液に捕捉剤としてトリエチルホスフェート(大八木化学)を0.1gを含むグリコールジアルキルエーテル(トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬))を50.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれのクロム濃度をICP発光分析法により定量しクロムの回収率および残存率を求めた。ここで回収率と残存率は、実施例1で定義したとおりである。
結果は、クロムの回収率は95%、残存率は5.0%であった。
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれのクロム濃度をICP発光分析法により定量しクロムの回収率および残存率を求めた。
結果は、クロムの回収率は98%、残存率は2.0%であった。
【0085】
(実施例12)銀の回収試験
銀イオンを含む酸性水溶液として、塩化銀(和光純薬)0.1gを1Nの塩酸で希釈して、50.00mLとした。
この酸溶液に40℃に下限臨界溶液温度を持つグリコールジアルキルエーテルとして、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬)を50.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれの銀濃度をICP発光分析法により定量し銀の回収率および残存率を求めた。ここで回収率と残存率は、実施例1で定義した通りである。
結果は、銀の回収率は72%、残存率は28%であった。
【0086】
(実施例13)銀の回収試験
銀イオンを含む酸性水溶液として、塩化銀(和光純薬)0.1gを1Nの塩酸で希釈して、50.00mlとした。
この酸溶液に金属捕捉剤としてトリエチルホスフェート(大八木化学)を0.1gを含むグリコールジアルキルエーテル(トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬))を50.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれの銀濃度をICP発光分析法により定量し銀の回収率および残存率を求めた。
結果は、銀の回収率は99%、残存率は1.0%であった。
分離したグリコールジアルキルエーテル相に1Nのアスコルビン酸水溶液を10g加え、室温で10分間撹拌した。(還元処理工程)。この状態で黒色の沈殿物として、銀が還元析出され、濾過により、銀を分離した。
【0087】
(実施例14)シリカの回収試験
シリカを含む水溶液として、メタケイ酸ナトリウム(キシダ化学)0.02365gを純水で希釈して、50.00mLとした後、硝酸(キシダ化学)を用いてpH7.0−8.0に調整した。
この溶液に半金属捕捉剤としてジアリルジメチルアンモニウムクロライドを1.75mLおよびグリコールジアルキルエーテル(トリエチレングリコールブチルメチルエーテル(和光純薬))を50.0mL加えた(混合工程)。この状態で均一液体となった。
10分間攪拌後、温浴で50℃に加温し(加熱工程)、水相とグリコールジアルキルエーテル相に分離させた(回収工程)。
分離した各相をそれぞれピペットで吸出し、それぞれのシリカ濃度(イオン状シリカ濃度)をモリブテン青比色分析法により定量しシリカの残存率を求めた。
結果は、シリカの残存率は30%以下であり、シリカはグリコールジアルキルエーテル相に70%回収された。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によると、金属化合物及び半金属化合物から選ばれる少なくとも一種の回収対象化合物が溶解する水溶液から金属成分及び半金属成分から選ばれる少なくとも一種の回収対象成分を簡略なプロセスで回収できるので、廃回路基板等からの金回収などに利用することができる。