特許第6694743号(P6694743)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6694743繊維シート製造装置及び繊維シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694743
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】繊維シート製造装置及び繊維シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/04 20120101AFI20200511BHJP
   D04H 3/12 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   D04H3/04
   D04H3/12
【請求項の数】8
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-66963(P2016-66963)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179638(P2017-179638A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 真悟
(72)【発明者】
【氏名】重松 雅人
(72)【発明者】
【氏名】小林 慧子
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−513611(JP,A)
【文献】 特開2008−255529(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/124984(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00−18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される長繊維のトウの搬送路に間隔をおいて配置され、前記トウの搬送方向に張力を与えて前記トウを開繊する複数対の開繊ロール対と、
前記複数対の開繊ロール対のうち前記搬送方向の最も下流側の開繊ロール対よりも前記下流側に配置され、前記開繊ロール対を通過した前記トウを気体で開繊する開繊装置と、
前記開繊装置の前記下流側に配置されて前記開繊装置を通過した前記トウの表面に、前記トウの繊維同士を結合させる液状のバインダを添着する添着装置と、を備え
前記添着装置は、前記開繊装置を通過した前記トウに対して外周部に局所的にバインダを添着する、繊維シート製造装置。
【請求項2】
前記開繊装置は、前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記搬送方向に前記気体を導入する気体導入部と、を有する、請求項1に記載の繊維シート製造装置。
【請求項3】
前記添着装置は、前記トウを通過させる内部空間が形成された筐体と、前記内部空間内に配置されて前記トウに向けて前記バインダを噴霧する少なくとも1つの噴霧部と、を有する、請求項1又は2に記載の繊維シート製造装置。
【請求項4】
前記噴霧部は、前記トウの上方及び下方の少なくともいずれか一方から前記トウに向けて前記バインダを噴霧する、請求項3に記載の繊維シート製造装置。
【請求項5】
搬送される長繊維のトウの搬送路に間隔をおいて配置された複数対の開繊ロール対を用いて、前記トウに前記トウの搬送方向に張力を与えて前記トウを開繊し、
前記複数対の開繊ロール対のうち前記搬送方向の最も下流側の開繊ロール対よりも前記下流側に配置された開繊装置を用いて、前記開繊ロール対を通過した前記トウを気体で開繊し、
前記開繊装置の前記下流側に配置された添着装置を用いて、前記開繊装置を通過した前記トウの表面に、前記トウの繊維同士を結合させる液状のバインダを添着することにより、前記トウに対して外周部に局所的にバインダを添着する、繊維シートの製造方法。
【請求項6】
前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記搬送方向に前記気体を導入する気体導入部とを有する前記開繊装置を用いて、前記トウを前記気体で開繊する、請求項5に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項7】
前記トウを通過させる内部空間が形成された筐体と、前記内部空間に配置されて前記トウに向けて前記バインダを噴霧する少なくとも1つの噴霧部とを有する前記添着装置を用いて、前記トウの前記表面に前記バインダを噴霧する、請求項5又は6に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項8】
前記噴霧部により、前記トウの上方及び下方の少なくともいずれか一方から前記トウに向けて前記バインダを噴霧する、請求項7に記載の繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シート製造装置及び繊維シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、紙おむつ等の吸収性物品や衛生用品等の繊維物品の材料として、セルロースアセテート等の長繊維のトウを開繊してなる繊維シートが用いられている。繊維シートは、例えば特許文献1に開示されるように、捲縮されてベール状に梱包されたトウを開繊して製造される。
【0003】
また、例えば特許文献2には、体液吸収体と、開繊されたトウの繊維シートからなる嵩高部材とを、表面シートと裏面シートとの間に介在させた吸収性物品が開示されている。また特許文献2には、開繊された嵩高のトウの繊維シートである吸収コアをクレープ紙で被覆して体液吸収体とし、この体液吸収体を表面シートと裏面シートとの間に介在させた生理用ナプキンも開示されている。
【0004】
このように繊維物品では、開繊されたトウの繊維シートを外装シートで被覆することにより、トウの繊維の柔らかな触感を維持したままで繊維シートの表面のトウの繊維同士がほどけるのを防止し、繊維シートの形態を保持することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−221960号公報
【特許文献2】特許第4279737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
繊維物品を製造する場合、トウの繊維の柔らかな触感を維持したままで、外装シートを用いなくても繊維シートの表面のトウの繊維同士がほどけるのを防止し、繊維シートの形態を保持できれば、繊維物品の製造コストの低減を図れると共に繊維物品の設計自由度を向上できるため望ましい。しかしながら、例えば、異なった状態の複数のトウを予め事前に用意し、各トウを繊維シートの所望する部分に配置することは困難である。
【0007】
そこで本発明は、トウの繊維の柔らかな触感を維持したままで、外装シートを用いなくても表面のトウの繊維同士がほどけるのを防止して形態を保持できる繊維シートを容易に製造可能にすることにより、繊維物品の製造効率と設計自由度とを向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る繊維シート製造装置は、搬送される長繊維のトウの搬送路に間隔をおいて配置され、前記トウの搬送方向に張力を与えて前記トウを開繊する複数対の開繊ロール対と、前記複数対の開繊ロール対のうち前記搬送方向の最も下流側の開繊ロール対よりも前記下流側に配置され、前記開繊ロール対を通過した前記トウを気体で開繊する開繊装置と、前記開繊装置の前記下流側に配置されて前記開繊装置を通過した前記トウの表面に、トウの繊維同士を結合させる液状のバインダを添着する添着装置と、を備える。
【0009】
上記構成によれば、搬送路で複数対の開繊ロール対のうち最も下流側の開繊ロール対よりも下流側に配置された開繊装置を用いて気体で開繊されたトウの表面に、トウの繊維同士を結合させる液状のバインダが添着されるので、開繊装置を用いて気体で開繊されて嵩高にされたトウの状態を保ちながら、トウの表面に局所的にバインダを効率よく添着できる。これにより、トウを開繊して搬送する一連の工程において、トウの内部でトウの繊維の柔らかな触感を維持したままで、トウの表面の繊維同士をバインダで結合させることができ、外装シートを用いなくても表面のトウの繊維同士がほどけるのを防止して形態を保持できる繊維シートを容易に製造することができる。
【0010】
また、トウの繊維の柔らかな触感を確保しながら繊維シートの形態を保持した繊維物品を製造するために、例えば、繊維の結合状態が異なる複数種類の繊維シートを個別に作製する工程と、これらの繊維シートを重ねる工程とを行う必要がない。よって、この繊維シートを用いて繊維物品を製造することにより、繊維物品の製造効率と設計自由度とを向上できる。
【0011】
前記開繊装置は、前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記搬送方向に前記気体を導入する気体導入部と、を有してもよい。
【0012】
これにより、開繊装置において、開繊室に向けて搬送方向に導入された気体を用いて、トウを開繊室の下流側に搬送しながら効率よく開繊できるので、開繊装置を通過したトウを開繊装置に導入される前に比べて嵩高にし易くすることができる。
【0013】
前記添着装置は、前記トウを通過させる内部空間が形成された筐体と、前記内部空間内に配置されて前記トウに向けて前記バインダを噴霧する少なくとも1つの噴霧部とを有してもよい。
【0014】
これにより、筐体の内部空間に配置した噴霧部を用いて、前記内部空間を通過するトウの表面にバインダを噴霧することで、トウの表面に一層効率よくバインダを添着でき、繊維シートの製造効率を向上できる。
【0015】
前記噴霧部は、前記トウの上方及び下方の少なくともいずれか一方から前記トウに向けて前記バインダを噴霧してもよい。
【0016】
これにより、トウのバインダが添着される表面の位置を上方及び下方の少なくともいずれか一方に設定でき、バインダにより処理されるトウの表面の位置を調整できるので、繊維シートの設計自由度を良好に向上できる。
【0017】
本発明の一態様に係る繊維シートの製造方法では、搬送される長繊維のトウの搬送路に間隔をおいて配置された複数対の開繊ロール対を用いて、前記トウに前記トウの搬送方向に張力を与えて前記トウを開繊し、前記複数対の開繊ロール対のうち前記搬送方向の最も下流側の開繊ロール対よりも前記下流側に配置された開繊装置を用いて、前記開繊ロール対を通過した前記トウを気体で開繊し、前記開繊装置の前記下流側に配置された添着装置を用いて、前記開繊装置を通過した前記トウの表面に、トウの繊維同士を結合させる液状のバインダを添着する。
【0018】
前記トウが開繊される開繊室が内部に形成された筒状のノズル部と、前記開繊室に向けて前記搬送方向に前記気体を導入する気体導入部とを有する前記開繊装置を用いて、前記トウを前記気体で開繊してもよい。
【0019】
前記トウを通過させる内部空間が形成された筐体と、前記内部空間に配置されて前記トウに向けて前記バインダを噴霧する少なくとも1つの噴霧部とを有する前記添着装置を用いて、前記トウの前記表面に前記バインダを噴霧してもよい。
【0020】
前記噴霧部により、前記トウの上方及び下方の少なくともいずれか一方から前記トウに向けて前記バインダを噴霧してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、トウの繊維の柔らかな触感を維持したままで、外装シートを用いなくても表面のトウの繊維同士がほどけるのを防止して形態を保持できる繊維シートを容易に製造可能にすることにより、繊維物品の製造効率と設計自由度とを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態の繊維シート製造装置の全体図である。
図2図1の開繊装置と添着装置とのトウバンドの搬送方向と直交する方向から見た鉛直断面図である。
図3図1の添着装置の鉛直方向から見下ろした水平断面図である。
図4図1の添着装置を通過して得られる繊維シートの搬送方向から見た鉛直断面図である。
図5】第2実施形態の添着装置を通過して得られる繊維シートの搬送方向から見た鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、各実施形態について、各図を参照して説明する。以下に示す上流側と下流側とは、製造装置1の搬送路19におけるトウバンド60の搬送方向Pの上流側と下流側とを順に指す。
【0024】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る繊維シート製造装置1(以下、単に製造装置1と称する。)の全体図である。製造装置1は、トウバンド60の搬送路19の上流側から下流側に向けて、第1拡幅装置2、ガイド3、第2拡幅装置4、第1開繊ロール対5、第2開繊ロール対6、開繊装置7、及び、添着装置8を備える。
【0025】
第1拡幅装置2の下方には、梱包箱50が載置される。梱包箱50には、捲縮された長繊維のトウからなるベール状のトウバンド60が、折り畳まれて梱包されている。トウバンド60の繊維は、ここでは長繊維のセルロースアセテート繊維であるが、これ以外の繊維(例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、及びポリアミドのうちの少なくともいずれかの繊維)でもよい。一例として、製造装置1では、トウバンド60の幅方向が水平に保たれながら、トウバンド60が搬送方向Pに搬送される。
【0026】
第1拡幅装置2は、梱包箱50から上方に繰り出されるトウバンド60に向けて空気等の気体を吹き付け、トウバンド60を搬送方向Pと直交する一方向(ここではトウバンド60の幅方向)に拡幅する。ガイド3は、第1拡幅装置2を通過したトウバンド60を搬送路19に沿って第2拡幅装置4に案内する。第1拡幅装置2とガイド3とは、製造装置1の筐体から上方に延設された不図示のアーム(ブーム)にそれぞれ支持される。第2拡幅装置4は、第1拡幅装置2と同様の構成を有し、トウバンド60を前記一方向に拡幅する。第1拡幅装置2と第2拡幅装置4とは、バンディングジェット装置とも称する。
【0027】
第1開繊ロール対5は、一対のロール11、12を有する。第2開繊ロール対6は、一対のロール13、14を有する。第2開繊ロール対6は、一例として、第1開繊ロール対5の周速度よりも早い周速度で回転駆動される。第2拡幅装置4を通過したトウバンド60は、一対のロール11、12の間に挿通され、且つ、一対のロール13、14の間に挿通される。第1開繊ロール対5と第2開繊ロール対6とは、トウバンド60に搬送方向Pに張力を付与し、トウバンド60を少なくとも搬送方向Pに開繊(機械開繊)する。
【0028】
なお、第1開繊ロール対5の回転速度V1と第2開繊ロール対6の回転速度V2との回転速度比V2/V1は、適宜設定が可能であるが、一例として、1.0以上3.0以下の範囲の値が望ましく、1.1以上2.5以下の範囲の値がより望ましく、1.2以上2.0以下の範囲の値が一層望ましい。
【0029】
また、製造装置1が備える開繊ロール対の数は、複数対であればよく、3対以上でもよい。また、一対のロール11、12のうち一方のロールと、一対のロール13、14のうち一方のロールとの少なくともいずれかには、トウバンド60を前記一方向に開繊するための溝部を周方向に螺旋状に形成してもよい。
【0030】
開繊装置7は、搬送路19で最も下流側に配置された開繊ロール対(ここでは開繊ロール対6)の下流側に設けられ、当該開繊ロール対を通過したトウバンド60を気体で開繊する。これにより開繊装置7は、開繊装置7を通過する前に比べて、トウバンド60を嵩高くなるように調整する。開繊装置7は、互いに組み合わされた外筒15及び内筒16を有する。
【0031】
添着装置8は、開繊装置7の下流側に配置され、開繊装置7を通過したトウバンド60の表面に液状のバインダ40(図2参照)を噴霧して、トウバンド60の表面にバインダ40を添着する。添着装置8は、搬送方向Pと前記一方向とに延びる筐体18を有する。トウバンド60を添着装置8に通過させることで、繊維シート61が得られる。
【0032】
なお、開繊装置7と添着装置8との間には、開繊装置7を通過したトウバンド60を引き取りながら添着装置8に向けて搬送することによりトウバンド60の成型を補助する引取ロール対や、搬送されるトウバンド60の幅方向の両端部と接触してトウバンド60の幅を調整することによりトウバンド60の成型を補助する成型ボックスを設けてもよい。
【0033】
ここで、第2開繊ロール対6は、前記引取ロール対の周速度よりも速い周速度で回転される。前記引取ロール対の回転速度V3と第2開繊ロール対6の回転速度V2との回転速度比V2/V3は、一例として、1.1以上3.0以下の範囲の値に設定される。
【0034】
バインダ40は、トウバンド60の繊維同士を結合させる。バインダ40としては、例えば、トウバンド60の繊維を溶解可能な各種可塑剤を利用できる。可塑剤としては、例えば、トリアセチン、トリエチレン、グリコールジアセテート、トリエチレングリコールジプロピオネート、ジブチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、クエン酸トリエチルエステル等のエステル系可塑剤を用いることができる。
【0035】
具体的に可塑剤は、トウバンド60の繊維の種類に応じて適宜選択できる。例えば、トウバンド60がセルロースエステル(セルロースアセテート等)やその他のセルロースエステル誘導体により構成されている場合には、可塑剤として、ポリオール又は多価アルコール{例えば、ジオール[例えば、アルカンジオール(エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のC2−6アルカンジオール等)、ポリアルキレングリコール(ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等のジ乃至テトラC2−4アルキレングリコール等)等]、3以上のヒドロキシル基を有するポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等のトリ乃至ヘキサアルカノール等)、ポリオールのオリゴマー[例えば、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリグリセリン等のアルカントリ乃至ヘキサオールの多量体(例えば、2〜4量体、好ましくは2〜3量体)等]等}の脂肪酸エステル、エステルオリゴマー(カプロラクトンオリゴマー等)等が例示できる。
【0036】
代表的なポリオールの脂肪酸エステルには、ポリオールの低級脂肪酸(例えば、酢酸等のC1−4アルカンカルボン酸)エステル[例えば、アルカントリオールモノ乃至トリアシレート(例えば、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のC3−6アルカントリオール−モノ乃至トリC1−4アシレート、好ましくはグリセリンモノ乃至トリC2−3アシレート)等のアルカントリ乃至ヘキサオールの低級脂肪酸エステル]、ポリオールオリゴマーの低級脂肪酸エステル[例えば、アルカントリオールのダイマーのモノ乃至テトラアシレート(例えば、ジグリセリンテトラアセテート等のジC3−6アルカントリオール−モノ乃至テトラC1−4アシレート等)等のポリオールのダイマー又はトリマーの低級脂肪酸エステル等]等が含まれる。これらのポリオールの脂肪酸エステルは、単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0037】
これらの可塑剤の中でも、セルロースエステル(特に、セルロースアセテート)により構成されたトウバンド60の繊維と組み合わせる可塑剤としては、トウバンド60の繊維に対する膨潤・溶解能力に優れる点で、アセチン類(例えば、ジアセチン、トリアセチン等のグリセリンジ乃至トリアセテート)等のポリオールの低級脂肪酸エステルが好ましく用いられる。特に、ポリオールの低級脂肪酸エステルの中でも、アミノ基を含む多糖類のアルデヒド類の吸着性能を向上させる機能においても優れるポリオールジ又はトリC1−4アシレート(特に、ジアセチン等のC3−6アルカントリオール−ジ又はトリC1−4アシレート)を可塑剤として最も好適に用いることができる。そのため、セルロースエステルにより構成されたトウバンド60の繊維と組み合わせる可塑剤としては、少なくともポリオールジ又はトリアシレート(特に、ジアセチン、トリアセチン等)により構成された可塑剤(特にアセチン類)を好適に使用してもよい。
【0038】
特に、可塑剤は、少なくともポリオールジアシレート(特に、ジアセチンC3−6アルカントリオール−ジC1−4アシレート)により構成してもよく、例えば、ジアセチンとトリアセチンとにより構成してもよい。
【0039】
なお、可塑剤としてトリアセチンを用いる場合、用いるトリアセチンによっては、ジアセチン、モノアセチンを含む場合がある。通常、工業的なトリアセチンは、不純物としてジアセチンやモノアセチンを含んでいる。ポリオールジC1−4アシレート(特に、ジアセチン)を少なくとも含む可塑剤において、ポリオールジC1−4アシレート(特に、ジアセチン)の含有量は、可塑剤(特にアセチン類)全体の1重量%以上(例えば、2〜100重量%程度)、好ましくは3〜80重量%以上、さらに好ましくは5〜60重量%(例えば、8〜40重量%)程度であってもよい。なお、ジアセチンを主成分(例えば、ジアセチン単独、またはジアセチンを主成分とするジアセチンとトリアセチンの混合物等)として可塑剤を構成することにより、アルデヒド類の吸着性を効率よく高めることができる。また、ジアセチンと他のアセチン類(特にトリアセチン)とを組み合わせることにより、アルデヒド類の吸着性能を高めつつ、分散液の粘性を適度に高めることができる。このようなポリオールの低級脂肪酸エステル(特に、ジアセチン、トリアセチン、これらの混合物等)は、セルロースエステルの可塑化能力に優れるだけでなく、多糖類のアミノ基の水素結合を緩和する能力を有しているため、アルデヒド類(特にホルムアルデヒド)の選択除去性を高めることができ、しかも安全性が高く、繊維シート61が、たばこフィルター等の人体に関連した用途に用いられる場合であっても好適に使用できる。また、可塑剤は、単独でもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。
【0040】
なお、可塑剤は、通常、液体状(室温で液体状)であってもよい。また、可塑剤の沸点は、可塑剤を含む液の態様により異なるが、可塑剤の成分がトウバンド60の繊維に残存するものであれば、可塑剤の沸点は、100℃以上(例えば、130℃以上550℃以下程度の範囲)の値から選択できる。可塑剤の沸点は、例えば、150℃以上500℃以下の範囲の値、好ましくは200℃以上450℃以下の範囲の値、さらに好ましくは220℃以上400℃°以下の範囲の値(例えば、250℃以上380℃以下の範囲の値)程度である。また、可塑剤の成分がトウバンド60の繊維に残存しないものであれば、例えば、比較的低い沸点(例えば、沸点100℃未満)の可塑剤を用いることができる。
【0041】
上記の通り、トウバンド60の繊維がセルロースアセテート繊維の場合には、可塑剤として、トリアセチンや酢酸セルロース等を含む溶液を用いることができる。このような可塑剤を用いることで、トウバンド60の繊維同士を結合させられると共に、可塑剤が揮発することにより、繊維シート61中に可塑剤が残留するのを防止できる。これにより、繊維シート61の安全性を高めることができる。特に、トリアセチンは、食品添加物としても用いられる物質であるため、トリアセチンを可塑剤として用いることで、繊維シート61の安全性をさらに向上させることができる。
【0042】
なお、バインダ40としては、トウバンド60の繊維同士を接着して結合させる接着剤を用いてもよい。これらの接着剤については、各種の接着剤を任意に使用することができる。
【0043】
図2は、図1の開繊装置7と添着装置8との搬送方向Pと直交する方向から見た鉛直断面図である。図3は、図1の添着装置8の鉛直方向から見下ろした水平断面図である。
【0044】
図2及び3に示すように、開繊装置7の外筒15は、本体部15aとノズル部15bとを有する。本体部15aは、搬送方向Pに延びる筒状に形成され、気体が流通する内部空間20を有する。ノズル部15bは、本体部15aの下流端部から下流側に延びる筒状(ここでは円筒状)に形成され、内部に開繊室21を有する。開繊室21は、気体によりトウバンド60を搬送方向Pに搬送しながら開繊するために用いられる。本体部15aの側面には、気体を内部空間20に導入する気体導入部15cが設けられる。気体導入部15cには、内部空間20と連通する開口15dが設けられる。開口15dは、不図示のコンプレッサに接続され、開口15dを通じて、外部から内部空間20に向けて気体が導入される。気体は、一例として空気であり、トウバンド60を搬送方向Pに搬送すると共に開繊するために用いられる。本体部15aの上流端部には、開口15eが設けられる。開口15eには、内筒16が挿入される。なお、ノズル部15bの流路断面は、一例として円形であるが、完全な円形でなくてもよく、楕円形でもよい。或いは、ノズル部15bの流路断面は、矩形状でもよいし、多角形状でもよい。
【0045】
内筒16は、トウバンド導入部16aとトウ流通部16bとを有する。トウバンド導入部16aは、漏斗状に形成され、上流側から下流側に向けて内径が縮径されている。トウバンド導入部16aには、外部から開繊室21に向けてトウバンド60が導入される。トウ流通部16bは、トウバンド導入部16aの下流端部から下流側に延びる筒状に形成され、内部にトウバンド60が流通する流通空間22を有する。トウ流通部16bの下流側に位置する先端部16cは、上流側から下流側に向けて先細りとなるテーパー状に形成されている。トウバンド導入部16aの前部とトウ流通部16bとは、本体部15aの開口15eから本体部15aの内部空間20に挿入されている。
【0046】
先端部16cの外周面と対向する本体部15aの内周面は、先端部16cの外周面と離隔した状態を保ちながら、上流側から下流側に向けて縮径されている。これにより、先端部16cの外周面と本体部15aの内周面との間には、ジェット流路23が設けられている。ジェット流路23は、環状断面を有し、気体導入部15cから内部空間20に導入された気体を開繊室21に向けて搬送方向Pにジェット状に噴出させる。
【0047】
開繊装置7では、トウバンド60が、トウバンド導入部16aから流通空間22を流通して開繊室21に搬送されると共に、気体導入部15cから導入された気体が、ジェット流路23を流通して開繊室21の流路断面の全周の位置から搬送方向Pに開繊室21内に噴出され、トウバンド60と混合される。開繊室21において、トウバンド60は、ジェット状の気体(ここではエアージェット)によって搬送方向Pに搬送されると共に繊維同士を絡ませながら開繊される。これにより、開繊装置7を通過したトウバンド60は、開繊装置7を通過する前に比べて嵩高となる。
【0048】
添着装置8の筐体18には、内部空間18cが形成されている。筐体18は、上流側に入口18aを有し、下流側に出口18bを有する。入口18aと出口18bとは、開繊装置7で嵩高に膨らむように開繊されたトウバンド60が、その状態が維持されたまま通過可能なサイズに形成されている。
【0049】
添着装置8は、内部空間18cに配置されてトウバンド60に向けて液体のバインダ40を噴霧する少なくとも1つの噴霧部を有する。具体的に添着装置8は、筐体18の内部空間18cに設けられた一対の噴霧部35、36を有する。噴霧部35は、内部空間18cの上方において、鉛直方向下方にノズル口35aを向けて配置されている。噴霧部36は、内部空間18cの下方において、鉛直方向上方にノズル口36aを向けて配置されている。ノズル口35a、36aは、筐体18の内部空間18cにおいて、前記一方向に延びている。これにより、一例として、噴霧部35、36は、搬送されるトウバンド60の表面に向けて、前記一方向に一様にバインダ40を噴霧する。噴霧部35、36は、鉛直方向にトウバンド60を挟んで対向する位置に設けられている。噴霧部35、36は、チューブ37、38と接続されている。噴霧部35、36には、添着装置8の外部からチューブ37、38を介してバインダ40が供給される。
【0050】
筐体18の内部空間18cには、筐体18の上部から下方に向けて延びる案内部材18dと、筐体18の下部から上方に向けて延びる案内部材18eとが設けられている。案内部材18d、18eは、搬送されるトウバンド60を入口18aから出口18bに向けて案内すると共に、噴霧部35、36がトウバンドの表面にバインダ40を噴霧するときのトウバンド60の姿勢を安定させる。筐体18の下部には、噴霧部35、36から噴霧されたバインダ40の一部を排出するダクト部39が設けられている。
【0051】
添着装置8では、トウバンド60にバインダ40を噴霧する際のトウバンド60の嵩、密度、搬送速度、及びバインダ40の噴霧量等の設定を調節することにより、トウバンド60の表面から比較的浅い所定の深さまでの部分(以下、単にトウバンドの外周部という。)にバインダ40を添着させることができる。トウバンドの外周部の厚み寸法は、適宜設定が可能であるが、例えば、トウバンド60の幅寸法の1/5以下の範囲の値が望ましく、1/10以下の範囲の値がより望ましく、1/20以下の範囲の値が一層望ましい。
【0052】
なお、筐体18の噴霧部35、36が設けられる位置は、筐体18の搬送方向Pに互いにずれた位置であってもよい。また、噴霧部35、36からトウバンド60の表面にバインダ40を噴霧する噴霧方法は、限定されない。例えば、添着装置8の搬送方向Pと直交する方向から見た鉛直断面において、噴霧部35、36からトウバンド60に向けてバインダ40を扇状に拡散させて噴霧してもよいし、噴霧部35、36のトウバンド60の幅方向の複数の位置からトウバンド60に向けてバインダ40を噴霧してもよい。また、噴霧部35、36は、鉛直方向と交差する方向にバインダ40をトウバンド60の表面に噴霧してもよい。
【0053】
また、噴霧部35、36は必須ではなく、省略してもよい。添着装置8がトウバンド60にバインダ40を添着する方法は限定されない。例えば、添着装置8は、噴霧部35、36の代りに、トウバンド60にバインダ40を添着するための回転ブラシ、回転ロール、又は回転ディスクの少なくともいずれかを有していてもよい。
【0054】
図4は、図1の添着装置8を通過して得られる繊維シート61の搬送方向Pから見た鉛直断面図である。繊維シート61は、一例として、幅方向を長軸方向とし、厚み方向を短軸方向とする略楕円状の断面形状を有する。製造装置1では、全ての開繊ロール対(ここでは開繊ロール対5、6)による開繊が行われた後に開繊装置7を用いて気体で開繊されて嵩高に膨らんだトウバンド60の状態を維持しつつ、添着装置8を用いてトウバンド60の表面にバインダ40を噴霧したことにより、トウバンド60の断面全体にバインダ40が浸透するのが防止され、トウバンド60に対して外周部61aに局所的にバインダ40を添着させることができる。これにより、繊維シート61の外周部61aには、バインダ40によりトウの繊維同士が結合してなる複数の繊維結合部61bが形成されている。繊維結合部61bは、ここでは一例として、繊維シート61の周方向の全体に形成されている。繊維シート61の中央部61cは、繊維シート61の周方向の全体で繊維結合部61bに覆われている。
【0055】
外周部61aに繊維結合部61bを形成したことにより、外周部61aでは、繊維の移動が規制されている。従って、繊維シート61をクレープ紙等の不織布からなる外装シートにより被覆しなくても、繊維シート61の形態が良好に保持される。
【0056】
また、繊維結合部61bに覆われた中央部61cには、移動が規制されていない繊維が豊富に残留しているため、繊維シート61では、中央部61cの繊維によるふんわりとした柔らかな触感が維持されている。これにより繊維シート61は、高いクッション性を有している。
【0057】
以上に説明したように、製造装置1では、開繊装置7を用いて気体で開繊されて嵩高にされたトウバンド60の状態を保ちながら、トウバンド60の外周部61aに局所的にバインダ40を効率よく添着できる。これにより、トウバンド60を開繊して搬送する一連の工程において、トウバンド60の内部でトウバンド60の繊維の柔らかな触感を維持したままで、トウバンド60の表面の繊維同士をバインダ40で結合させることができるので、例えば、クレープ紙等の不織布からなる外装シートを用いなくても表面のトウバンド60の繊維同士がほどけるのを防止して形態を保持できる繊維シート61を容易に製造することができる。なお、ここで言う「繊維同士がほどける」とは、繊維シート61の1本以上の繊維が、繊維シート61の表面から離間又は脱落することを指す。
【0058】
また、トウバンド60の繊維の柔らかな触感を確保しながら繊維シート61の形態を保持した繊維物品を製造するために、例えば、繊維の結合状態が異なる複数種類の繊維シートを個別に作製する工程と、これらの繊維シートを重ねる工程とを行う必要がない。従って、繊維物品の製造効率と設計自由度とを向上できる。以下、第2実施形態について、第1実施形態との差異を中心に説明する。
【0059】
(第2実施形態)
図5は、第2実施形態の添着装置8を通過して得られる繊維シート161の搬送方向Pから見た鉛直断面図である。第2実施形態では、添着装置8において、噴霧部36を使用せず、噴霧部35のみを用いてトウバンド60の表面にバインダ40を噴霧する。図5に示すように、これにより、外周部61aの上部と幅方向両側部とに繊維結合部61bが形成され、下部には繊維結合部61bが形成されていない繊維シート161が製造される。繊維シート161の下部は、例えば、図示しないシート部材により支持される。
【0060】
なお、添着装置8において、噴霧部35を使用せず、噴霧部36のみを用いて、トウバンド60の表面にバインダ40を噴霧してもよい。この場合、外周部61aの下部と幅方向両側部とに繊維結合部61bが形成され、上部には繊維結合部61bが形成されていない繊維シート161が製造される。
【0061】
このように、トウバンド60の上方及び下方の少なくともいずれか一方からトウバンド60に向けてバインダ40を噴霧することにより、トウバンド60のバインダ40が添着される表面の位置を上方及び下方の少なくともいずれか一方に設定でき、バインダ40により処理されるトウバンド60の表面の位置を調整できる。よって、これにより製造された繊維シート161を用いて繊維物品を製造することで、繊維物品の設計自由度を良好に向上できる。
【0062】
また、添着装置8では、トウバンド60の表面のトウバンド60の幅方向に偏在する位置にバインダ40を噴霧してもよいし、トウバンド60の表面のトウバンド60の幅方向及び搬送方向Pに離散した複数の位置にバインダ40を噴霧してもよい。
【0063】
このように、トウバンド60の表面の一部領域のみにバインダ40を噴霧することで、繊維シート161の表面の所望の位置に繊維結合部61bを形成できる。よって、繊維シート161を用いて繊維物品を製造することで、繊維物品の設計自由度を更に高めることができる。これにより、例えば、クレープ紙等の不織布からなる外装シートで繊維シート161の一部以上を被覆しなくても、トウバンド60のバインダ40が添着された部分において、トウバンド60の表面の繊維同士がほどけるのを防止できる。また、繊維シート161を用いることで、例えば、吸収性物品の嵩高部材や生理用ナプキンの吸収コア等のように繊維物品に追加的に使用される部材を、前記外装シートを用いなくても製造することができる。
【0064】
(確認実験)
バインダ40に可塑剤(トリアセチン)を用い、製造装置1により、トウバンド60に対するバインダ40の添着量が異なる複数の繊維シート61を実施例1〜6として作製した。また、トウバンド60にバインダ40を添着しない以外は実施例1〜6と同様の製造条件で、製造装置1により繊維シートを比較例1として作製した。また、開繊装置7を用いずに開繊ロール対5、6のみで開繊し、且つ、トウバンド60に対するバインダ40の添着量を8重量%以上81重量%以下の範囲の複数の値に設定した以外は実施例1〜6と同様の製造条件で、製造装置1により複数の繊維シートを比較例2として作製した。
【0065】
実施例1〜6、比較例1、及び比較例2の各繊維シートについて、手で触った感触及び目視により、表面の繊維同士の結合状態と、厚み及び柔らかな触感(ふんわり感)とを評価した。また、実施例1〜6と比較例2との各繊維シートを作製する際に添着装置8によりトウバンド60にバインダ40を添加して12時間以上経過した後、繊維シート61の表面にバインダ40の溶解作用により生じた溶解部分の孔の有無と孔数とを目視で確認した。これらの結果を表1に示す。表1中のバインダ40の添着量(重量%)は、添着装置8によりバインダ40が添着されたトウバンド60におけるバインダ40の添着量(重量%)を示している。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示すように、比較例1の繊維シートは、開繊ロール対5、6及び開繊装置7によりトウバンド60を開繊したことで、厚み及びふんわり感が非常に良好であるが、トウバンド60にバインダ40を添着しなかったために表面の繊維の結合状態が弱く、繊維同士が容易にほどけることが分かった。
【0068】
また、比較例2の各繊維シートは、開繊装置7によりトウバンド60を開繊しなかったことで、厚み及びふんわり感が優れないことが分かった。また、比較例2の各繊維シートは、ある程度の添着量のバインダ40をトウバンド60に添着したことで、表面の繊維の結合状態は強いが、トウバンド60に対するバインダ40の添着量が増大するほど溶解部分の孔数も増大することが分かった。このため、比較例2の複数の繊維シートは、全体としては溶解部分の孔数がやや多かった。
【0069】
実施例1〜6の各繊維シート61は、厚み及びふんわり感が非常に良好、もしくはほぼ良好であることが分かった。また、実施例1〜6の各繊維シート61は、実施例1〜6におけるトウバンド60に対するバインダ40の添着量の範囲では、トウバンド60に対するバインダ40の添着量が増大するほど表面の繊維の結合状態が強くなり、繊維同士が強固に結合されることが分かった。また、実施例1〜6の各繊維シート61の表面にバインダ40の溶解作用により生じる溶解部分の孔数は、トウバンド60に対するバインダ40の添着量が少ないほど抑制されることが分かった。
【0070】
これにより、実験を行った範囲において、繊維シート61の表面における溶解部分の不要な発生を抑制しながら、繊維シート61の厚み及びふんわり感を良好に確保するためには、トウバンド60に対するバインダ40の添着量を2重量%以上30重量%の範囲の値に設定することが望ましく、5重量%以上15重量%以下の範囲の値に設定することがより望ましく、5重量%以上10重量%以下の範囲の値に設定することが一層望ましいと考えられる。
【0071】
上記実験の結果から、トウバンド60に対するバインダ40の添着量は、繊維シート61の表面の繊維同士を不要な溶解部分が発生するのを防止しながら適切に結合させると共に、繊維シート61の厚み及びふんわり感を良好に確保できる範囲の値に設定することが望ましいと言うことができる。
【0072】
本発明は、上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その構成及び方法を変更、追加、又は削除できる。上記各実施形態は、互いに任意に組み合わせてもよい。上記各実施形態で製造した繊維シートの表面には、別の繊維シートや、別の繊維物品を重ねて配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように本発明によれば、トウの繊維の柔らかな触感を維持したままで、外装シートを用いなくても表面のトウの繊維同士がほどけるのを防止して形態を保持できる繊維シートを容易に製造可能にすることにより、繊維物品の製造効率と設計自由度とを向上できる優れた効果を有する。従って、この効果の意義を発揮できる繊維シート製造装置及び繊維シートの製造方法として、広く適用すると有益である。
【符号の説明】
【0074】
P 搬送方向
1 繊維シート製造装置
5、6 開繊ロール対
7 開繊装置
8 添着装置
15b ノズル部
15c 気体導入部
18 筐体
18c 内部空間
19 搬送路
21 開繊室
35、36 噴霧部
40 バインダ
60 トウバンド(トウ)
160、161 繊維シート
図1
図2
図3
図4
図5