(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ウィック挿入工程後、前記作動流体導入工程の前に、前記コンテナに挿入された前記ウィックを焼結させて前記コンテナに固定する焼結工程を有する、ことを特徴とする請求項5に記載のヒートパイプの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係るヒートパイプ及びその製造方法を、図面を参照しながら説明する。図面において、説明の便宜上、いくつかの部分が拡大され又は省略されている。また、図面に表されている各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
図1は、一実施形態に係るヒートパイプ1の平面図である。
図2は、
図1に示すヒートパイプ1の矢視A−A断面図である。
ヒートパイプ1は、作動流体の潜熱を利用する熱輸送素子である。このヒートパイプ1は、作動流体が内部に封入されたコンテナ10と、コンテナ10の内部に設けられたウィック20と、を備える。
【0015】
作動流体は、周知の相変化物質からなる熱輸送媒体であって、コンテナ10内で液相と気相とに相変化する。例えば、作動流体として、水(純水)やアルコールやアンモニア等を採用できる。なお、作動流体について、液相の場合を「液体」、気相の場合を「蒸気」と記載して説明することがある。また、液相と気相とを特に区別しない場合には作動流体と記載して説明することがある。なお、本実施形態のような薄型のヒートパイプ1においては、作動流体として、水を採用することが好ましい。
【0016】
コンテナ10は、
図1に示すように、一端部11と他端部12が閉塞された、気密性のある中空容器である。互いに離れた箇所の間で熱輸送を行う用途に供されるヒートパイプ1にあっては、中空の管(パイプ)がコンテナ10に使用される。コンテナ10は、その内部と外部との間で熱を伝達する必要があるため、熱伝導率の高い素材で構成されていることが好ましく、例えば銅管、アルミニウム管、ステンレス管などの金属管で構成されていることが好ましい。
【0017】
コンテナ10は、
図2に示すように、幅方向(
図2における紙面左右方向)の寸法が、厚み方向(
図2における紙面上下方向)の寸法よりも大きい扁平状に形成されている。コンテナ10の断面形状は、互いに平行な一対の平面部13と、それらの両端を接続する一対の曲面部14と、を有する長円形となっている。なお、曲面部14は、半円形に限らず、半楕円形、その他の湾曲凸形状などであってよい。
【0018】
ウィック20は、コンテナ10の幅方向の中央部に固定されている。また、ウィック20は、コンテナ10の一対の平面部13に接触している。ウィック20と一対の曲面部14との間には隙間が形成されており、それらの隙間が作動流体の蒸気流路30となっている。このウィック20は、
図1に示すように、コンテナ10の長手方向に延在しており、一端部11及び他端部12のいずれか一方側で蒸発し、他方側で凝縮した作動流体を、再び一方側に還流させる。
【0019】
図3は、一実施形態に係るウィック20の外観図である。
図4は、一実施形態に係るウィック20を構成する編組体21の模式図である。
ウィック20は、繊維210を筒状に編んだ編組体21と、繊維220を線状に束ねた線状束22と、を有する。本実施形態の編組体21は、
図3に示すように、繊維210を束ねた繊維束211を筒状に編むことで形成されている。なお、繊維束211として束ねられた繊維210は、撚られていない。
【0020】
繊維210としては、例えば、銅、アルミニウム、ステンレスなどの金属線や、カーボンファイバー、ガラス繊維などの非金属線を採用することができる。なお、金属線は、熱伝導率が高いため、繊維210として好適に採用し得る。なお、繊維210は、コンテナ10の内部に封入される作動流体との関係で濡れ性が優れているものを選択することが好ましい。本実施形態の繊維210は、例えば、直径が0.03mm程度の銅線を使用しており、それが数本束ねられて繊維束211となっている。
【0021】
線状束22は、
図3に示すように、繊維210よりも太い繊維220を線状(ストレート)に束ねることで形成されている。なお、線状束22として束ねられた繊維220は、撚られていない。繊維220としては、上述した繊維210と同様の材料を好適に採用し得る。本実施形態の繊維220は、例えば、直径が0.05mm程度の銅線を使用しており、それが数十本束ねられて線状束22となっている。
【0022】
図2に示すように、線状束22は、編組体21の内周面21aによって囲まれた空洞部212に配置されている。空洞部212には、作動流体の液体流路31(第1の液体流路)が形成されている。空洞部212の厚みt5は、線状束22が配置されることで、作動流体の液体を移動させる毛細管力を発揮できる大きさになっている。空洞部212の厚みt5は、例えば、0.09mm程度のものであり、本実施形態では、繊維220の直径の1.5〜2.5倍程度の大きさとなっている。また、編組体21の肉厚t4は、空洞部212の厚みt5と同程度の大きさとなっている。
【0023】
コンテナ10の内部空間の厚みt3は、空洞部212を有する編組体21を収容できる大きさとなっている。また、コンテナ10の肉厚t2は、編組体21の肉厚t4よりも小さく、例えば、繊維220の直径の1.5〜2.5倍程度の大きさとなっている。ヒートパイプ1の全体の厚みt1は、コンテナ10の肉厚t2とその内部空間の厚みt3を加算した大きさとなっており、本実施形態では、例えば、0.5mm程度となっている。
【0024】
編組体21は、コンテナ10の内壁面10aに接触する外周面21bを有する。コンテナ10の内壁面10aは、グルーブ等の凹凸がなく、平滑に形成されている。編組体21の外周面21bとコンテナ10の内壁面10aとの間には、作動流体の第2の液体流路32が形成されている。本実施形態の編組体21は、一対の平面部13のそれぞれに接触しているため、それぞれの接触部に、第2の液体流路32が形成されている。この第2の液体流路32は、
図3に示す繊維束211と繊維束211との交差によって形成される隙間(溝)によって形成されるものである。
【0025】
また、編組体21の内部の繊維210間には、
図2に示すように、作動流体の第3の液体流路33が形成されている。なお、第3の液体流路33は、繊維210間の隙間であるため、繊維束211間の隙間である第2の液体流路32よりも空間が小さい。このため、第2の液体流路32の方が、第3の液体流路33よりも液体の搬送能力は大きい。また、第2の液体流路32は、繊維束211がコンテナ10の内壁面10aに接触しているため、その接触部が液体の流れの抵抗となる。このため、空洞部212である第1の液体流路31の方が、第2の液体流路32よりも液体の搬送能力は大きい。
【0026】
編組体21の繊維210(繊維束211)は、
図4に示すように、作動流体の液体の流動方向に対して鋭角の角度αで編まれている。本実施形態の液体の流動方向は、編組体21の中心線Lに沿う長手方向である。角度αが大きいと、繊維210(繊維束211)の隙間を通って移動する液体が長手方向に移動し難くなる(液体の流れの抵抗が大きくなる)ため、角度αは0度に近い方が好ましい。しかしながら、角度αが0度になると編組体21を形成できないため、角度αは、5〜20度の範囲で設定されている。
【0027】
次に、上記構成のヒートパイプ1の製造方法について説明する。
図5は、一実施形態に係るヒートパイプ1の製造方法のフローチャートである。
図6は、一実施形態に係るヒートパイプ1の製造方法のウィック挿入工程S2を説明する説明図である。
本手法では、
図5に示すように、ウィックプレス工程S1、ウィック挿入工程S2、焼結工程S3、作動流体導入工程S4、コンテナ封止工程S5、コンテナプレス工程S6を経て、ヒートパイプ1を製造する。
【0028】
ウィックプレス工程S1は、ウィック20を扁平状にプレスする工程である。
この工程では、先ず、数十本の繊維220を束ね、線状束22を形成する。次に、数本の繊維210を束ね、繊維束211を形成する。次に、線状束22及び繊維束211を、編組機にセットする。編組機は、線状束22の外周側に、十数本の繊維束211を編んで筒状の編組体21を形成するためのものであり、その原理的な構成は従来知られている通りである。編組機によって筒状に編まれた編組体21は線状束22の外周に案内される。次に、上記構成の編組体21と線状束22とを所定の長さに切断し、このウィック20をプレス機にかけて扁平状にプレスする。
【0029】
ウィック挿入工程S2は、扁平状になったウィック20をコンテナ10の内部に挿入する工程である。
この工程では、先ず、脱脂などの洗浄を行った丸パイプを用意し、これを所定の長さに切断してコンテナ10とする。編組体21を銅線によって構成した場合には、コンテナ10として銅パイプを使用することが好ましい。次に、このコンテナ10の内部に、
図6に示すように、固定具40を用いてウィック20を挿入する。固定具40は、外周面の一部をフラットに切り欠いた切欠部41を有し、ウィック20は半円弧形状に湾曲させた状態でコンテナ10に挿入される。
【0030】
焼結工程S3は、コンテナ10に挿入されたウィック20を焼結させてコンテナ10に固定する工程である。
この工程では、
図6に示すように、ウィック20を挿入したコンテナ10をほぼ水平に維持したまま加熱炉(図示せず)に送って加熱する。その加熱温度は、コンテナ10及びウィック20が銅製の場合、1000℃程度であり、こうすることによりウィック20がコンテナ10の内壁面10aに焼結されて固定される。
【0031】
作動流体導入工程S4は、ウィック20が挿入されたコンテナ10に作動流体を導入する工程である。
この工程では、先ず、上記のコンテナ10を加熱炉から取り出して冷却する。次に、コンテナ10に挿入された固定具40を取り出し、
図1に示すコンテナ10のボトム側の他端部12にスェージング加工を施すとともに、その端部を溶接して密閉する。いわゆるボトムスェージング加工およびボトム溶接を行う。また、コンテナ10のトップ側の一端部11にスェージング加工すなわちトップスェージング加工を行う。そして、トップスェージング加工により絞られたコンテナ10の一端部11から作動流体を導入する。
【0032】
コンテナ封止工程S5は、作動流体が導入されたコンテナ10を封止する工程である。
この工程では、作動流体の導入するために開口していたコンテナ10の一端部11を圧潰した後、溶接して密閉する。いわゆるトップ溶接を行う。なお、コンテナ10の一端部11から作動流体を導入する場合、コンテナ10から空気などの非凝縮性ガスを脱気する必要があり、したがって注液は、真空脱気の後に作動流体を注入する方法、余分な量の作動流体を注入した後、これを沸騰させて非凝縮性ガスを追い出す方法など、従来知られている方法で行えばよい。
【0033】
コンテナプレス工程S6は、封止されたコンテナ10を扁平状にプレスする工程である。
この工程では、作動流体が封入された丸パイプ型のコンテナ10をその半径方向に押し潰して扁平状にする。コンテナ10をその半径方向に押し潰して扁平化すると、半円弧形状に湾曲させた状態で挿入されたウィック20が、
図2に示す扁平状になる。
以上により、上記構成のヒートパイプ1を製造することができる。
【0034】
次に、ヒートパイプ1の動作(作用)について説明する。
図1に示すように、コンテナ10の一端部11と他端部12との間に温度差が生じたとき、高温部(例えば、一端部11)では作動流体が加熱されて蒸発し、コンテナ10の内部圧力も上昇する。高温部で生じた作動流体の蒸気は、温度及び圧力の低い低温部(他端部12)に向けて移動し、高温部の熱が、蒸気の潜熱として、低温部に輸送される。低温部において、作動流体の蒸気は、放熱により凝縮する。蒸気のすなわち気相の作動流体の蒸気流路30は、
図2に示すように、ウィック20(編組体21)の周囲に確保される。
【0035】
低温部で凝縮した作動流体は、ウィック20に浸透して、作動流体の蒸発が生じる箇所、すなわち高温部に向けて移動する。詳しくは、ウィック20に浸透した液体の一部は、編組体21の内周面21aによって囲まれた空洞部212に浸透し、空洞部212に形成された液体流路31を通って、高温部に向けて移動する。このように、本実施形態では、編組体21の内部空間に液体流路31が形成されており、液体流路31と蒸気流路30とが隔てられているため、液体が蒸気によって低温部に押し流されることがない。このため、ヒートパイプ1の熱輸送能力が良好になる。
【0036】
また、ウィック20は、繊維210を筒状に編んだ編組体21であるため、扁平状にプレスしてもウィック20の断面における繊維210の分布が不均一になり難い。また、編組体21の空洞部212には、線状束22が配置されているため、この線状束22がスペーサーとしての役割を果たし、ウィック20の内部に、液体流路31となる空洞部212を良好に形成することができ、ヒートパイプ1の熱輸送能力のばらつきを抑制することができる。また、線状束22は、編組体21の繊維210よりも太い繊維220を線状に束ねたものであるため、繊維210間の隙間よりも大きな隙間を形成でき、良好な液体の搬送能力が得られる。
【0037】
また、本実施形態のように、ウィック20をコンテナ10に挿入する前に、予めウィック20を扁平状にプレスすることで、空洞部212の厚みt5を管理できるため、毛細管力が発揮し易くなる。また、本実施形態のように、焼結工程S3を経る場合、繊維210,220同士が固着するため、その後、コンテナ10と一緒に扁平状にプレスする場合よりも、予めウィック20のみをプレスしておいた方が、空洞部212の厚みt5を管理し易くなる。
【0038】
ウィック20に浸透した液体の残部は、編組体21の外周面21bとコンテナ10の内壁面10aとの間に形成された第2の液体流路32と、編組体21の繊維210間に形成された作動流体の第3の液体流路33と、を通って、高温部に向けて移動する。このように、ヒートパイプ1には、作動流体の液体流路が3通りあるため、コンテナ10の内壁面10aにグルーブ(溝)を形成できない薄型のヒートパイプ1であっても、液体の搬送能力を十分に確保できる。また、第2の液体流路32及び第3の液体流路33は、
図4に示すように、繊維210(繊維束211)が作動流体の液体の流動方向に対して小さい角度αで編まれているため、液体の流れの抵抗が小さく、良好な液体の搬送能力が得られる。
【0039】
このように、上述の本実施形態によれば、作動流体が内部に封入された扁平状のコンテナ10と、コンテナ10の内部に設けられたウィック20と、を備え、ウィック20は、繊維210を筒状に編んだ編組体21と、繊維210よりも太い繊維220を線状に束ねた線状束22と、を有し、線状束22は、編組体21の内周面21aによって囲まれた空洞部212に配置されており、編組体21の周囲に、作動流体の蒸気流路30が形成され、空洞部212に、作動流体の液体流路31が形成されているヒートパイプ1を採用することによって、薄くても良好な熱輸送能力を得ることができる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態を記載し説明してきたが、これらは本発明の例示的なものであり、限定するものとして考慮されるべきではないことを理解すべきである。追加、省略、置換、およびその他の変更は、本発明の範囲から逸脱することなく行うことができる。従って、本発明は、前述の説明によって限定されていると見なされるべきではなく、特許請求の範囲によって制限されている。
【0041】
例えば、コンテナ10及びウィック20の断面形状は任意である。
図2に示すコンテナ10及びウィック20の断面形状は長円形状であるが、例えば、四角形、その他の多角形、楕円形などであってもよい。
また、コンテナ10の長手方向の形状も任意であり、所定の形状に湾曲又は屈曲したコンテナ10であってもよい。
【0042】
さらに、コンテナ10の構成は特に限定されず、継ぎ目なしで筒状に成形加工されたパイプ(チューブ)に限らず、板状、箱状、溝状等、各種の形状の部材を1又は2以上の組み合わせにより構成することが可能である。薄型化されたコンテナ10の厚さの例示としては、例えば0.3〜2.0mmが挙げられる。
【0043】
また、例えば、ウィック20を構成する繊維210,220の本数、断面形状、寸法等は、適宜選択することが可能である。
また、コンテナ10に収容されるウィック20の個数は、1でも2以上でもよい。
【0044】
また、例えば、編組体21及び線状束22は、高温部から低温部に亘って配置されることが好ましいが、編組体21が部分的に、例えば高温部のみに配置される構成であってもよい。
【0045】
また、
図2に示すヒートパイプ1は、扁平形状のコンテナ10における幅方向の中央部にウィック20が配置されているが、ウィック20はコンテナ10の幅方向の片側の端部に配置されていても、コンテナ10の幅方向の両端部に配置されていてもよい。
【0046】
また、本実施形態のヒートパイプ(熱輸送素子)の用途は特に限定されないが、例示として、スマートフォン、タブレット型端末、携帯電話、パーソナルコンピュータ、サーバー、コピー機、ゲーム機、複合機、プロジェクター、電子機器、燃料電池、人工衛星等が挙げられる。