特許第6694828号(P6694828)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694828
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】機械加工方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
   B25J 19/00 20060101AFI20200511BHJP
   B23Q 15/12 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   B25J19/00 D
   B23Q15/12
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-566509(P2016-566509)
(86)(22)【出願日】2015年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2015086221
(87)【国際公開番号】WO2016104700
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2018年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-265698(P2014-265698)
(32)【優先日】2014年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(72)【発明者】
【氏名】平嶋 淳史
(72)【発明者】
【氏名】河原 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 正道
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−135102(JP,A)
【文献】 特開昭60−249519(JP,A)
【文献】 特開平08−229715(JP,A)
【文献】 特開2012−202193(JP,A)
【文献】 特開平02−024014(JP,A)
【文献】 特開平10−113855(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
B23Q 15/12
B23B 39/16 − 39/24
B23B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工機構における複数箇所に設置した各機械加工装置を用いて金属製の加工対象物に対して機械加工を行う機械加工方法であって、
それぞれの機械加工装置が上記加工対象物に機械加工を行うときのスラスト力及びトルクの少なくとも一方を各機械加工装置について求め、
それぞれの上記機械加工装置が上記加工対象物に対して同時に機械加工を行うときの上記スラスト力及びトルクの少なくとも一方による加工反力を相殺するように制御装置によってそれぞれの上記機械加工装置の駆動を制御する、
ことを特徴とする機械加工方法。
【請求項2】
上記加工機構はロボットであり、上記各機械加工装置はロボットアームにおける複数箇所に設置される、請求項1に記載の機械加工方法。
【請求項3】
上記スラスト力及びトルクは、機械加工の種類に対応して設定した計算式、及び機械加工の種類に対応して行う検出試験の少なくとも一方により求め、上記制御装置による駆動制御は、各機械加工装置間でのスラスト力及びトルクの少なくとも一方が同等になる各機械加工装置の駆動条件を設定して行う、請求項1又は2に記載の機械加工方法。
【請求項4】
上記スラスト力及びトルクは、それぞれの機械加工装置に接続した検出装置の測定値から求め、上記制御装置による駆動制御は、各機械加工装置間でのスラスト力及びトルクの少なくとも一方が同等になる各機械加工装置の駆動条件を設定して行う、請求項1又は2に記載の機械加工方法。
【請求項5】
加工反力の相殺対象となる各機械加工装置に対する駆動制御は、上記機械加工装置間でスラスト力又はトルクが異なるときには、加工工具における単位時間当たりの進行距離を上記機械加工装置間で同じに設定して、加工工具における一回転当たりの送り距離を増す又は減じることで行う、請求項1から4のいずれかに記載の機械加工方法。
【請求項6】
加工反力を相殺する上記機械加工装置の駆動制御は、機械加工装置間において上記加工対象物に対するスラスト力及びトルクの少なくとも一方の作用方向を逆向きにして行う、請求項1から5のいずれかに記載の機械加工方法。
【請求項7】
上記機械加工は、ドリリング、バックボーリング、あるいはボーリングである、請求項1から6のいずれかに記載の機械加工方法。
【請求項8】
加工機構における複数箇所に設置される複数の機械加工装置を有し、これらの機械加工装置を用いて金属製の加工対象物に対して機械加工を行う機械加工システムであって、
それぞれの機械加工装置が上記加工対象物に対して同時に機械加工を行うときのスラスト力及びトルクの少なくとも一方による加工反力をそれぞれの機械加工装置間で相殺するようにそれぞれの上記機械加工装置の駆動を制御する制御装置を備え、
上記制御装置は、機械加工の種類に対応して設定した計算式、及び機械加工の種類に対応して行う検出試験の少なくとも一方により求めたスラスト力及びトルクの少なくとも一方に応じて加工反力を相殺する駆動条件を設定する条件設定部を有する、
ことを特徴とする機械加工システム。
【請求項9】
加工機構における複数箇所に設置される複数の機械加工装置を有し、これらの機械加工装置を用いて金属製の加工対象物に対して機械加工を行う機械加工システムであって、
それぞれの機械加工装置が上記加工対象物に対して同時に機械加工を行うときのスラスト力及びトルクの少なくとも一方による加工反力をそれぞれの機械加工装置間で相殺するようにそれぞれの上記機械加工装置の駆動を制御する制御装置と、
それぞれの機械加工装置に接続され、機械加工動作におけるスラスト力及びトルクを検出する検出装置と、を備え、
上記制御装置は、上記検出装置から得られたスラスト力及びトルクの少なくとも一方に応じて加工反力を相殺する駆動条件を設定する条件設定部を有する、
ことを特徴とする機械加工システム。
【請求項10】
上記加工機構はロボットであり、上記各機械加工装置はロボットアームにおける複数箇所に設置される、請求項8又は9に記載の機械加工システム。
【請求項11】
上記機械加工は、ドリリング、バックボーリング、あるいはボーリングである、請求項8から10のいずれかに記載の機械加工システム。
【請求項12】
上記機械加工装置は、上記機械加工を行う工具を取り付ける工具取付部を有し、この工具取付部は、上記加工対象物の仮止めを行うテンポラリーファスナーを装着する、請求項8から11のいずれかに記載の機械加工システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械加工方法及びシステムに関し、特に、ロボットを用いて加工対象物に対して機械加工を行うときに適用可能な機械加工方法、及び機械加工システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば薄肉管等の小型部材に対して切削等の機械加工を施す場合、工作機械に小型部材を保持すると共に、当該工作機械における切削工具等を用いて小型部材に対して機械加工が行われる(例えば特許文献1)。
【0003】
また、例えば航空機等の大型部材の多数箇所に対して、例えばリベット用穴開け等の機械加工を施す場合、従来から治具等を用いて人手により作業が行われている。しかしながら人手による作業のため、作業効率が悪く、高コストとなり、また作業者の姿勢が不安定になる場所では加工精度が低くなる、あるいは加工自体が困難になるという問題が生じる。また加工対象物が大型部材の場合に、上述の工作機械を用いようとすると、機械加工を行う工作機械自体も大型化し、設備コストが増大するという問題がある。
【0004】
一方近年では、作業者に代えてロボットを用いて機械加工を行うことも行われて来ている。ロボットを用いた場合、設置場所も比較的小さく、人手に比べて作業性が高く、大型部材に対しても数台のロボット配置で済むことから、比較的低コスト化が容易である。また人手に比べて作業姿勢の自由度が高く、加工精度の安定化を図ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−207281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらロボットは、フレーム構成の工作機械に比べるとロボットアームを用いることから剛性が小さい。よってロボットにおいて、ロボットアームの先端部分に機械加工装置を取り付けて、例えば切削、穴あけ加工等の荷重をかける作業を行うことは困難な場合が多い。したがって、機械加工を行うロボットは、機械加工時の負荷が小さくて済む樹脂材などの軟質材の加工対象物への加工に限られているのが現状である。
【0007】
よってロボットによる金属製加工対象物への機械加工は負荷が大きく、加工精度及び加工品質が低下するという問題がある。一般的に、固定された金属製加工対象物に対して例えば穴あけ加工を行う場合、穴が最初に開けられる、いわゆる食いつきの際、及び穴が貫通するときに、特にトルク変動が大きくなり、また、穴あけ加工時にはドリルの進行方向にスラスト力が生じる。よってこのような加工時において、加工装置における剛性が不十分な場合には、加工位置のずれ等が発生し、加工精度及び加工品質の低下を引き起こしてしまうという問題がある。ロボットを用いて、金属製加工対象物に対して機械加工、例えば穴あけ加工を行う場合、十分に満足な加工精度及び品質が得られる穴径は、現状、高々φ10mm程度である。一方、例えば航空機の場合には、φ20mm程度の穴をあける場合もある。
【0008】
また、ロボットにおける低剛性を補うため、治具を用いることも考えられる。しかしながら、治具の設置作業が必要となり、また加工場所の変更とともに新しい治具の作製も必要となる。よって、生産効率の低下及びコスト増を招いてしまう。
【0009】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたものであり、加工機構を用いて加工対象物への機械加工を可能にする、機械加工方法及び機械加工システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は以下のように構成する。
即ち、本発明の第1態様における機械加工方法は、加工機構における複数箇所に設置した各機械加工装置を用いて金属製の加工対象物に対して機械加工を行う機械加工方法であって、
それぞれの機械加工装置が上記加工対象物に機械加工を行うときのスラスト力及びトルクの少なくとも一方を各機械加工装置について求め、
それぞれの上記機械加工装置が上記加工対象物に対して同時に機械加工を行うときの上記スラスト力及びトルクの少なくとも一方による加工反力を相殺するように制御装置によってそれぞれの上記機械加工装置の駆動を制御する、
ことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2態様における機械加工システムは、加工機構における複数箇所に設置される複数の機械加工装置を有し、これらの機械加工装置を用いて金属製の加工対象物に対して機械加工を行う機械加工システムであって、
それぞれの機械加工装置が上記加工対象物に対して同時に機械加工を行うときのスラスト力及びトルクの少なくとも一方による加工反力をそれぞれの機械加工装置間で相殺するようにそれぞれの上記機械加工装置の駆動を制御する制御装置を備えたことを特徴とする。
【0012】
上述の機械加工方法及び機械加工システムによれば、制御装置によって、機械加工装置のスラスト力及びトルクの少なくとも一方による加工反力を相殺するようにそれぞれの機械加工装置の駆動が制御される。よって加工機構を用いて金属製の加工対象物に機械加工を行うときであっても、加工機構に作用する加工反力を従来に比べて低減することができ、加工精度及び加工品質の低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1態様における機械加工方法、及び第2態様における機械加工システムによれば、加工機構を用いて金属製加工対象物への機械加工が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1における機械加工システムの概略構成を示す図である。
図2】実施の形態2における機械加工システムの概略構成を示す図である。
図3A図1に示すA部の詳細を示す図である。
図3B図1に示す機械加工装置の変形例を示す図である。
図4A図2に示すB部の詳細を示す図である。
図4B図2に示す機械加工装置の変形例を示す図である。
図5図1及び図2に示す機械加工システムの変形例における概略構成を示す平面図である。
図6図1及び図2に示す機械加工システムの変形例における概略構成を示す平面図である。
図7図1及び図2に示す機械加工システムを用いて金属製加工対象物に対してドリリング及びバックボーリングの機械加工を行ったときの切削力の低減効果を示すグラフである。
図8図1及び図2に示す機械加工システムにて実行される機械加工方法の動作を説明するフローチャートである。
図9A】加工対象物の一例である航空機胴体の概略を示す斜視図である。
図9B図9Aに示す胴体の平面図である。
図10】実施の形態5における機械加工システムの概略構成を示す図であり、航空機胴体に対する機械加工システムの適用例の一つを示す図である。
図11】実施の形態5における機械加工システムの変形例を示す図である。
図12A】実施の形態5における機械加工システムのさらなる変形例を示す図である。
図12B】実施の形態5における機械加工システムのさらなる変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施の形態である機械加工システム、及びこの機械加工システムにて実行される機械加工方法について、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同一又は同様の構成部分については同じ符号を付している。また、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け当業者の理解を容易にするため、既によく知られた事項の詳細説明及び実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、以下の説明及び添付図面の内容は、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0016】
また、以下の各実施の形態では、機械加工の例としてドリリング及びバックボーリング(ボーリング)を採るが、これらに限定するものではなく、その他の例えばフライス、エンドミル、リーマー、等の機械加工についても適用可能である。また、以下の各実施の形態は、これらの機械加工のいずれか一つのみを実行する場合についても適用可能である。
【0017】
また、以下の各実施の形態では、機械加工を行う加工対象物は、金属製の加工対象物を例に採るが、金属製に限定するものではない。即ち、既に説明したように、従来、ロボットを用いて機械加工を行う加工対象物は、機械加工時の負荷が小さくて済む樹脂材などの軟質材に限定されている。以下の各実施の形態では、このような軟質材よりも硬度が大きいつまり硬い加工素材が加工対象物に相当する。また、加工対象物としては、例えば板材、円筒形状部材、円柱形状部材、等、その形状に特に限定はない。
【0018】
実施の形態1.
実施の形態1における機械加工システムの構成について、まず図1図3A及び図5を参照して以下に説明する。
図1は、一例としての機械加工システム151の概略構成を示している。この機械加工システム151は、基本的構成部分として、加工機構の一例に相当するロボット110と、第1機械加工装置120と、第2機械加工装置130と、制御装置140とを有し、金属製の加工対象物10に対して例えば穴あけ(ドリリングと記す場合もある)、下穴があいている場合の穴の中ぐり(ボーリングと記す場合もある)あるいはバックボーリング等の機械加工動作の少なくとも一つを複数箇所に同時に実行可能な装置である。
以下には、機械加工システム151における上述の各構成部分について、順次説明を行う。
【0019】
ロボット110は、基本的に軸の構造で定義される機構であり、例えば、関節を多数配置したアーム型、あるいは並列にリンク機構を制御するパラレルリンク型のような多軸機械の加工機構が相当する。尚、2軸もしくは3軸の直交するスライド軸により構成される、いわゆる直交ロボットと呼ばれるものは含まない。また、ロボット以外の加工機構の例としては、例えば剛性の弱い小型の工作機械、あるいはリニアガイドで構成された電動アクチュエータを有する機械、等がある。
【0020】
第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130は、本実施の形態では図3Aに示すように、ロボット110における先端のアーム部分111において、加工対象物10に対して同側に並列して設置されている。このように、ロボット110は、アーム部分111に複数の機械加工装置を有する。また、図1に示すように、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130はそれぞれ、制御装置140に電気的に接続され、後述するように制御装置140によって駆動制御され、加工対象物10に対して複数の機械加工を同時に行う。ここで「同時」とは、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130による機械加工動作が同時に開始され、同時に進行し、同時に終了することを意味する。
【0021】
第1機械加工装置120は、本実施の形態では、加工対象物10に対して、詳しくは加工対象物10の長手方向に沿った側面に対して直角方向に穴あけつまりドリリングを行う装置であり、図3Aに示すように、駆動部121と加工工具122とを有する。駆動部121は、加工工具122の回転運動、及び加工対象物10の厚み方向10aと同方向に加工工具122を進退させる直線運動の両方の駆動を行う。駆動部121によって駆動される加工工具122の一例としての、本実施の形態ではドリルを例に採る。このような構成を有する第1機械加工装置120は、図3Aに示すように、駆動部121にて加工工具122(ドリル122と記す場合もある)を、例えば時計回り方向120aに回転させながら、加工対象物10の厚み方向10aと同方向に沿って穴をあける第1方向120bへドリル122を移動させる。
【0022】
第2機械加工装置130は、本実施の形態では、加工対象物10の長手方向に沿った側面に直角方向に予めあけられた下穴に対してバックボーリングを行う装置であり、図3Aに示すように、駆動部131と加工工具132とを有する。駆動部131は、加工工具132の回転運動、及び加工対象物10の厚み方向10aと同方向に加工工具132を進退させる直線運動の両方の駆動を行う。駆動部131によって駆動される加工工具132の一例として、本実施の形態ではバックボーリング工具を例に採る。このような構成を有する第2機械加工装置130は、図3Aに示すように、駆動部131にて加工工具132(バックボーリング工具132と記す場合もある)を、例えば反時計回り方向130aに回転させながら、厚み方向10aと同方向に沿って、上述の第1方向120bとは逆向きの第2方向130bへバックボーリング工具132を移動させる。
【0023】
第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130において、加工工具122及び加工工具132は、交換可能であり、サイズ及び種類を変更することができる。これにより穴径の変更等にも対応可能となる。この交換は、作業者によって行ってもよいし、図6を参照して後述するように工具交換装置163によって自動交換してもよい。
さらに、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の配置ピッチ112を変更することもできる。これにより、加工穴におけるピッチの変更にも対応可能となる。この配置ピッチ112の変更は、例えばアーム部分111において、予め複数の設置可能箇所を設けておいて作業者によって設置場所を変更してもよいし、図3Bを参照して後述するようにピッチ変更装置162によって自動的に行ってもよい。
【0024】
制御装置140は、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の駆動を制御する装置である。また、制御装置140がロボット110の動作制御をも併せて行ってもよい。制御装置140について、以下に詳しく説明する。
制御装置140は、本実施の形態では上述の、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130が加工対象物10に対して同時に機械加工を行うときの切削負荷としてのスラスト力及びトルクの少なくとも一方、本実施形態では両方、の絶対値の合計を同一又は略同一にして、スラスト力及びトルクの少なくとも一方、本実施形態では両方、による加工反力を第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130間で相殺するように、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130のそれぞれの駆動を制御する装置である。
【0025】
本実施の形態では、加工対象物10に対して、制御装置140は、上述のように第1機械加工装置120に対しては、ドリル122を時計回り方向120aに回転させるとともに第1方向120bへ移動させ、また、第2機械加工装置130に対しては、バックボーリング工具132を反時計回り方向130aに回転させるとともに、第1方向120bとは逆向きの第2方向130bへ移動させている。このような制御動作により、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の各機械加工動作によってロボット110のロボットアームに作用する各反力は、互いに相殺可能になる。
【0026】
このような制御装置140は、例えば図1に示すように機能的には、条件設定部141と記憶部142とを有する。記憶部142は、例えばドリリング及びバックボーリング等の機械加工の種類に対応して設定されたスラスト力及びトルクの値を格納する。このようなスラスト力及びトルクの設定は、後述するような計算式、及び機械加工の種類に対応して行う検出試験の少なくとも一方により求める。条件設定部141は、スラスト力及びトルクを計算式を用いて求める場合も含めて、格納したスラスト力及びトルクに応じて加工反力を相殺可能とする、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の駆動条件を設定する。
【0027】
このような制御装置140は、実際にはコンピュータを用いて実現され、条件設定部141は上述の機能に対応するソフトウェア、及びこれを実行するためのCPU(中央演算処理装置)等のハードウェアから構成される。
【0028】
このような制御装置140において実行する、上述の各機械加工装置120,130に対する駆動条件の設定に関して、以下に詳しく説明する。
まず、駆動条件設定に必要となる上述のスラスト力及びトルクについて説明する。
第1機械加工装置120にて実行するドリル加工における反力について、ドリル加工では、主にスラスト力及びトルクが反力として作用する。ドリルの径方向(X、Y方向)においても力は発生するが、スラスト力及びトルクに比べると極小さく、無視可能である。
第2機械加工装置130にて実行するようなバックボーリング及びボーリング加工における反力についても、ドリリング加工と同様に、主にスラスト力及びトルクが反力として作用する。したがって、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130における機械加工にて考慮すべき切削負荷としては、スラスト力及びトルクとなる。
【0029】
但し、バックボーリング及びボーリング加工では、加工工具132の1回転あたりの送り距離、及び単位時間あたりの切削体積がドリル加工と同じであっても、ドリル加工の場合よりもスラスト力は低くなる。これは、ドリル加工では加工工具122の中心部分が最もスラスト力を発生させるが、バックボーリング工具132などにおける外周部分ではスラスト力が低いためである。
【0030】
次に、第1機械加工装置120におけるドリル加工の切削条件と加工反力との関係について説明する。
ドリル加工の経験則として、一例として以下のような計算式が存在する。但し、実際にはドリルの形状(シンニング及び先端角)、回転軸の振れ、加工素材の状態(材質、硬度等)などによって変化するため、目安程度として扱える。また、計算式自体も文献によって種々なものが存在する。
【0031】
M.C.Show & C.J.Oxford の式
【0032】
また、第2機械加工装置130におけるバックボーリング(ボーリング)加工の切削条件と加工反力との関係について説明する。
ボーリング加工及びバックボーリング加工に関しては、相対的に見ると旋削の内径旋削と同じ切削形態であるため、一例として以下の計算式が成り立つものと考える。尚、比切削抵抗Ks(MPa)は、加工素材と1回転あたりの送りf(mm/rev)によって変化する定数であり、文献には推定値が記載されている。尚、正確な数値は、切削試験によって実際に反力を計測するのが好ましい。切削抵抗F(N)は、主分力Ft(N)、背分力Fn(N)、送り分力Ff(N)の合力であり、スラスト力は旋削の送り分力Ffに相当する。主分力Ft(N)、背分力Fn(N)、送り分力Ff(N)の比率は、工具及び刃先の形状などによって変化することから、予め切削試験による計測が好ましい。
【0033】
【0034】
上述の内容を前提として、加工反力の相殺方法について説明する。
制御装置140は、上述の式を参考にして、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130におけるスラスト力とトルクの少なくとも一方、本実施形態では両方、の絶対値の合計が同一又は略同一になる条件を設定し、この条件に従い第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130を駆動することで、加工反力を相殺する。尚、上述したように、上述の式は目安値を求めるものであることから、確認のため、あるいはさらに精度向上のため、実際に実施する機械加工による検出試験を行い得られた測定値を用いてもよい。これらの式及び測定値は、制御装置140の記憶部142に格納することができる。
【0035】
加工反力の相殺方法について詳しく説明する。上述の式の通り、スラスト力に影響する因子は、1回転あたりの送りf(mm/rev)と工具の削り代(ドリルであれば工具直径d(mm)、ボーリング及びバックボーリングであれば切込深さt(mm))である。
よって、スラスト力が同一で、かつ加工時間を同一にするためには、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の両者における主軸の送り(mm/min)を同じにし、かつ、以下の手順を実施する。これらの手順の内、「方法A」の動作は、機能的に制御装置140における条件設定部141にて実行される。
【0036】
1.スラスト力が異なる場合
・方法A
第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の内、スラスト力が高い方の回転数(rpm)を上げ、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130における主軸の送り(mm/min)を同じにした状態で、1回転あたりの送りf(mm/rev)を下げる。
もしくは、スラスト力が低い方の回転数(rpm)を下げ、主軸の送り(mm/min)を同じにした状態で、1回転あたりの送りf(mm/rev)を上げる。
・方法B
第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の内、スラスト力が高い方の削り代(mm)を小さくし、スラスト力が低い方の削り代(mm)を大きくする。
・方法C
加工工具122,132の形状などを変更する。例えば、(ア)ドリル122の先端角を小さくあるいは大きくして、スラスト力を下げるあるいは上げる、(イ)加工工具122,132のすくい角を大きくあるいは小さくして、切削抵抗を下げるあるいは上げる。
【0037】
2.トルクが異なる場合
・方法A
第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の内、トルクが高い方の回転数(rpm)を上げ、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130における主軸の送り(mm/min)を同じにした状態で、1回転あたりの送りf(mm/rev)を下げる。
もしくは、トルクが低い方の回転数(rpm)を下げ、主軸の送り(mm/min)を同じにした状態で、1回転あたりの送りf(mm/rev)を上げる。
・方法B
第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の内、トルクが高い方の削り代(mm)を小さくし、低い方の削り代(mm)を大きくする。
・方法C
加工工具122,132の形状などを変更する。
【0038】
以上説明したように機能する制御装置140の制御動作を第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130に対して行った場合における、ロボットアーム先端のアーム部分111でのスラスト力の測定結果の一例を図7に示す。図7において、「125」は第1機械加工装置120によるドリリング加工によるスラスト力の測定値を示し、「135」は第2機械加工装置130によるバックボーリング加工によるスラスト力の測定値を示す。よって、各スラスト力125,135の合力145は、ほぼゼロになっている。
【0039】
以上説明した構成による機械加工システム151が実行する機械加工動作について説明する。
ここでは、制御装置140の記憶部142は、予め、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130に関する情報を格納している。この情報としては、例えば上述の各式に含まれるそれぞれのファクターのデータ、あるいは、例えば、加工対象物10の材質毎に、加工工具122、132の各サイズにおけるスラスト力及びトルクの値、等のデータである。
また、機械加工される加工対象物10は、ロボット110とは別に固定されている。
【0040】
図8におけるステップS1において、まず、制御装置140は、ロボットアーム先端のアーム部分111に装着されている第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130に関するスラスト力及びトルクを記憶部142から抽出する。あるいはまた、試験結果等によって得られた加工条件(回転数(rpm)、送り速度(mm/min)、又は移動量(mm))を作業者が制御装置140に入力することもできる。
次に、ステップS2にて、抽出あるいは入力によって得られたスラスト力及びトルクによる加工反力を相殺するように、制御装置140は、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の駆動条件を設定して、駆動制御を行う。
第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130は、この駆動制御に従い加工対象物10に対して機械加工を同時に実行していく。
【0041】
また、機械加工作業では、図5に示すように、例えば作業方向に沿って延在する移動路165に複数台の機械加工システム151を可動に設置し、各機械加工システム151を移動路165に沿って移動させながら行うこともできる。ここで機械加工システム151の移動は、自走式でも移動装置166によるものでもよい。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態の機械加工システム151によれば、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130による各機械加工では、加工対象物10に対する加工工具122、132の回転方向が互いに逆向きであり、かつ加工工具122、132の移動方向も互いに逆向きであり、さらに、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の駆動制御が行われる。このような制御動作によれば、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の各機械加工動作によりロボット110のロボットアームに作用する各反力は、互いに相殺可能になる。
【0043】
したがって、例えば金属製の加工対象物10に対しても、剛性の小さいロボット110を用いて機械加工を行うことが可能となり、さらにこの機械加工を高い位置精度及び高い機械加工品質にて実行可能となる。よって、ロボットにおける低剛性を補うための治具は不要であり、生産効率の向上及びコスト低減を図ることも可能になる。また、例えば金属製の加工対象物10に対して従来では不可能であったサイズでの機械加工、例えばφ10mmを超えるサイズの穴あけ加工、も可能となる。また、ロボット110によって機械加工が可能になることから、機械加工姿勢の自由度が高く設置面積も小さい。その結果、例えば航空機等の大型の加工対象物10に対して低コストで加工が可能である。本機械加工システム151では、ロボットアームへの反力を相殺させるため、加工対象物10に対して複数の機械加工を同時に行う必要がある。よって、例えば、同径の穴を多数個あける等の機械加工を要する加工対象物、例えば航空機、に対して、本機械加工システム151は、特に有効である。
【0044】
本実施の形態では上述のように、ロボットアームには2台の機械加工装置120、130を装着した場合を例に採ったが、機械加工装置の台数は複数であればよく、台数に限定はない。上述の説明から明らかなように、機械加工装置によるスラスト力及びトルクによる加工反力が相殺されれば複数台数に限定はない。また本実施の形態では、一つのドリル122と一つのバックボーリング工具132とによる機械加工であるが、加工反力が相殺されるならば、加工種類における加工工具の数は異なってもよい。
【0045】
また、本実施の形態では上述のように、機械加工装置120、130のそれぞれがスラスト力及びトルクを発生する場合を例に採り、制御装置140は、スラスト力及びトルクの両方を相殺するように、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130に対して制御動作を行った。しかしながら、例えば、加工においてトルクが影響を及ぼさない程に小さい場合には、相殺対象としてスラスト力のみを考慮すればよい。よって、スラスト力のみ、あるいはトルクのみを相殺するようにしてもよい。したがって制御装置140は、スラスト力及びトルクの少なくとも一方を相殺するように、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130に対して制御動作を行えばよい。また、一方がスラスト力で他方がトルクであるような、スラスト力とトルクとの組み合わせを相殺するように、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130に対して制御動作を行ってもよい。尚、これらの点は、以下の各実施形態に対しても適用される。
【0046】
実施の形態2.
上述の実施の形態1では、第2機械加工装置130としてバックボーリング工具132を設けた装置を例に採り、加工対象物10の片側に第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130を配置した構成を例に採った。
これに対して、本実施の形態2では、図2及び図4Aに示すように、機械加工システム152は、加工対象物10を間に挟み、加工対象物10の片側に第1機械加工装置120を、対向側に第2機械加工装置130を配置し、両機械加工装置120,130共にドリリングを行う場合の構成である。本実施の形態2の機械加工システム152におけるその他の構成は、上述の実施の形態1における機械加工システム151に同じである。
【0047】
このように構成される実施の形態2の機械加工システム152においても、実施の形態1の機械加工システム151と同じ効果を得ることができる。即ち、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の各機械加工では、加工対象物10に対する加工工具122の回転方向が互いに逆向きであり、かつ加工工具122の移動方向も互いに逆向きであり、さらに、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の駆動制御が制御装置140により行われる。よって、各機械加工動作によるロボットアームに作用する各反力は、互いに相殺されることになる。したがって、例えば、金属製の加工対象物10に対しても、ロボット110を用いて機械加工を行うことが可能となる。また、例えば金属製の加工対象物10に対して従来では不可能であったサイズでの機械加工も可能となる。
【0048】
また、実施の形態1において説明した変形例についても、実施の形態2の機械加工システム152に適用可能である。例えば、本実施の形態2では、加工対象物10を間に挟み、その両側に一対の第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130を配置しているが、この配置に限定されるものではない。即ち、機械加工装置によるスラスト力及びトルクによる加工反力が相殺されるように、例えば、加工対象物10の片側に1台、対向側に2台のように1:1以外の構成にて機械加工装置を配置してもよい。
【0049】
実施の形態3.
上述の実施の形態1及び実施の形態2では、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130におけるスラスト力及びトルクは、機械加工の種類に対応して設定した計算式、及び機械加工の種類に対応して行う検出試験の少なくとも一方により求めた。
これに対して本実施の形態3では、図3B及び図4Bに示す機械加工システム153及び機械加工システム154のように、スラスト力及びトルクを検出する検出装置161を第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130のそれぞれに設置した構成を採る。尚、図3Bに示す機械加工システム153は、図1に示す機械加工システム151の構成に対応した構成を有し、図4Bに示す機械加工システム154は、図2に示す機械加工システム152の構成に対応した構成を有する。ここで検出装置161は、スラスト力及びトルクの両方を検出可能な形態であってもよいし、それぞれ別々に検出する形態でもよい。あるいはまた、スラスト力及びトルクのいずれか一方のみを検出するように構成してもよい。
このような検出装置161は、制御装置140に電気的に接続される。
【0050】
さらにまた、図3Bに示す機械加工システム153及び図4Bに示す機械加工システム154では、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の配置ピッチ112を機械的に変更するためのピッチ変更装置162を設けることもできる。このようなピッチ変更装置162は、制御装置140に電気的に接続される。
図3B及び図4Bでは、検出装置161及びピッチ変更装置162の両方を有する構成を示しているが、いずれか一方のみを設けた構成を採ってもよい。
尚、本実施の形態3の機械加工システム153及び機械加工システム154における検出装置161及びピッチ変更装置162以外の構成は、実施の形態1の機械加工システム151及び実施の形態2の機械加工システム152における構成にそれぞれ同じである。
【0051】
このように構成される実施の形態3の機械加工システム153,154においても、実施の形態1、2の機械加工システム151、152と同じ効果を得ることができ、さらに機械加工システム153,154は、実施の形態1、2の機械加工システム151、152に比べて下記の利点を有する。即ち、本実施の形態3による構成によれば、制御装置140は、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130のそれぞれにおけるスラスト力及びトルクを予め格納しなくてもよく、検出装置161の測定値から直接に、あるいは上述した計算式を参照して、スラスト力及びトルクを求めることができる。そして求めたスラスト力及びトルクに応じて第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の駆動制御を行うことができる。
【0052】
また、実施の形態1、2において説明した変形例は、実施の形態3の機械加工システム153,154にも適用可能である。
【0053】
実施の形態4.
上述の実施の形態1から実施の形態3では、ロボットアーム先端のアーム部分111に設けた第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の少なくとも一方における加工工具の交換は、作業者が行う。
これに対して、図6に示す実施の形態4における機械加工システム155では、複数の機械加工装置を有し機械的に機械加工装置を交換する、つまり加工工具を交換する、工具交換装置163をアーム部分111に2台設けている。図6は、図1に示す機械加工システム151に対応した構成を示すが、図2に示す機械加工システム152に対応した構成を採ることも可能である。
本実施の形態4の機械加工システム155における工具交換装置163以外の構成は、実施の形態1の機械加工システム151及び実施の形態2の機械加工システム152における構成にそれぞれ同じである。よって工具交換装置163に設けられた機械加工装置120,130は、制御装置140と電気的に接続され、制御装置140によって上述した駆動制御がなされる。
【0054】
本実施の形態4における工具交換装置163は、回転体163aの周囲に機械加工装置を配置し、回転体163aを矢印方向に回転させることで、加工対象物10に対する機械加工装置つまり加工工具の交換を行う。
【0055】
図6では、1台の工具交換装置163には、2つの機械加工装置つまり第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130を設けた構成を示すが、3台以上の機械加工装置を設けてもよく、また、各機械加工装置における加工工具の種類が同じでも異なってもよい。尚、加工工具が同種である場合にはサイズが異なる。また、各工具交換装置163における機械加工装置の設置台数が異なってもよい。
【0056】
このように構成される実施の形態4の機械加工システム155は、実施の形態1、2の機械加工システム151、152と同じ効果を得ることができ、さらに、実施の形態1、2の機械加工システム151、152に比べて、工具交換装置163によって人手によらず自動的に工具交換が可能であり、作業効率の向上及び製造コストの低減という効果を得ることができる。
【0057】
実施の形態5.
本実施の形態5では、上述の実施の形態1〜4を実施する加工対象物10が航空機の胴体である場合を例に採り、幾つかの実施例について説明を行う。
【0058】
図9A及び図9Bに示すように、航空機の胴体20は、概略、フレーム21、縦通材22、及び外皮23の部材から構成される。フレーム21は、胴体20の周方向に延在する部材であり、縦通材22は、胴体20の長手方向に沿って延在し各フレーム21を連接する部材であり、外皮23は、胴体20の外表面を形成する部材でありフレーム21及び縦通材22にリベットによって固定される。よって、フレーム21、縦通材22、及び外皮23が上述の加工対象物10の一例に相当し、実施の形態1〜4において説明した各種の機械加工システム151〜155を利用することができる。
【0059】
胴体20を形成するために、フレーム21、縦通材22及び外皮23には、リベット用の貫通穴を形成する必要があり、この貫通穴は、縦、横に同列で連続して規定間隔で配置される。また、貫通穴であることから、胴体20の表側、裏側のいずれからも加工を行うことができる。よって、胴体20は、上述の機械加工システム151〜155の利用に非常に適した加工対象物10である。
【0060】
図10は、実施の形態5における、胴体20に対する機械加工システムの適用例の一つを示している。具体的には、実施の形態1で説明した機械加工システム151を2台用いて、実施の形態2で説明したように、胴体20を表裏側から挟むように各ロボット110が配置されている。ここでは、第1機械加工装置120がドリリングを、第2機械加工装置130がバックボーリングを行う。尚、図10では2台のロボット110を示すが、3台以上であってもよい。また、機械加工システム151に限らず、機械加工システム152〜155を使用してもよい。
【0061】
図10に示すように、胴体20の左側に位置する機械加工システム151Lの第1及び第2の機械加工装置120、130は、同方向に工具を回転させ、胴体20の右側に位置する機械加工システム151Rの第1及び第2の機械加工装置120、130も、同方向に工具を回転させている。しかしながら、左側の機械加工システム151Lと右側の機械加工システム151Rとでは、互いに回転方向を異ならせている。
このように、左側、右側の各機械加工システム151L、151Rにて加工位置あるいは加工方法を工夫することで、各実施の形態1〜4で説明したように、胴体20に作用するモーメントを相殺することができる。
【0062】
尚、隣接する貫通穴同士のピッチは、1台のロボット110のアーム部分111に設置された第1機械加工装置120と第2機械加工装置130との配置ピッチ112に一致しない場合もある。このような場合、例えば、規定ピッチにて、左から右へ番号1,2,3,4,5,…の順で貫通穴を開けていくとき、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の配置ピッチ112に対応して、まず、1番及び4番の穴を開け、次に、アーム部分111を貫通穴の規定ピッチ分、移動させて、2番及び5番の穴を開ける、以下同様、という方法を採ることができる。
【0063】
また、加工対象物10が航空機の胴体20である場合、実施の形態5の変形例として、図11に示すような形態を採ることもできる。
即ち、胴体20は、円筒形状であり、直径が例えば6m程度である。一方、このように曲率を有する胴体20の表面に対して、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の加工工具の主軸を可能な限り垂直に配向する必要がある。
よって、図11に示すように、ロボット110のアーム部分111に対して、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130を規定角度に設置可能とする傾斜機構115を設けてもよい。
【0064】
尚、上述程度の直径を有する胴体20に対して貫通穴同士のピッチは、高々5cm程度である。第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の配置ピッチ112が貫通穴ピッチの数倍になる場合でも、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の傾斜角度は、曲率の無い加工対象物10に対する場合と殆ど変わりはない。よって、実施の形態1〜4で説明した「加工反力の相殺」動作が適用可能である。
【0065】
さらにまた、加工対象物10が航空機の胴体20である場合、実施の形態5のさらなる変形例として、図12A及び図12B(総称して、図12と記す場合もある)に示すような形態を採ることもできる。尚、この形態では、ロボット110のアーム部分111に設置された第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の配置を利用するという観点が主なものであり、加工反力の相殺を利用するという観点は低い。
【0066】
胴体20に開けた貫通穴24に対して外皮23をリベット止めするとき、テンポラリーファスナー25を用いる場合もある。テンポラリーファスナー25は、部材同士の仮止めを行う部品であり、例えば、複数のフレーム21及び縦通材22と外皮23とを仮止めする、あるいはまた複数の外皮23同士をフレーム21等に仮止めするために用いる部品である。テンポラリーファスナー25は、図12Aに示すように、貫通穴24に挿入され、ファスナー用工具の回転によって、テンポラリーファスナー25の変位部25aの拡径及び縮径がなされ、貫通穴24への固定及び固定解除が可能な部品である。
【0067】
一方、加工工具の交換を行うため、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130は、図12に示すように、工具取付部117を有している。よって、工具取付部117に対して、ファスナー用工具を取り付けることができる。あるいはまた、第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130に代えて、ロボット110のアーム部分111にファスナー用工具を取り付けてもよい。いずれの構成においても、第1機械加工装置120等によって、テンポラリーファスナー25が回転され、固定されてフレーム21及び縦通材22と外皮23との仮止めが行われる。さらに、仮止め終了後には、テンポラリーファスナー25が再度回転され、固定が解除され貫通穴24から除去される。
【0068】
テンポラリーファスナー25を用いる形態においては、さらにまた、ロボット110のアーム部分111に設置された第1機械加工装置120及び第2機械加工装置130の配置を利用することで、図12Bに示すような形態を採ることも可能になる。
即ち、ロボット110のアーム部分111に設置された一方の第2機械加工装置130にテンポラリーファスナー25を取り付けて、他方の第1機械加工装置120には加工工具122としてドリルを取り付ける。まず、第2機械加工装置130によって、貫通穴24にテンポラリーファスナー25を挿入し、回転させ、外皮23とフレーム21等との固定を行う。貫通穴24に固定されたテンポラリーファスナー25を第2機械加工装置130に連結させた状態のまま、第1機械加工装置120にて胴体20に対してドリリングを行う。
【0069】
このように、テンポラリーファスナー25を固定した後、第2機械加工装置130にて保持したままとすることで、低剛性のロボットアームにおける第1機械加工装置120にて機械加工を行う際に、ロボット110の変位を抑制さらには防止することができる。よって、他の機械加工箇所における位置精度、さらに加工精度を向上させることが可能となる。このように第2機械加工装置130にて保持されたテンポラリーファスナー25は、他の機械加工箇所に対する基準箇所とすることができる。
【0070】
このように、実施の形態1〜4におけるロボット110を利用して、テンポラリーファスナー25を使用することも可能となる。
【0071】
以上説明した各実施の形態を組み合わせた構成を採ることも可能であり、また、異なる実施の形態に示される構成部分同士を組み合わせることも可能である。
【0072】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【0073】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
又、2014年12月26日に出願された、日本国特許出願No.特願2014−265698号の明細書、図面、特許請求の範囲、及び要約書の開示内容の全ては、参考として本明細書中に編入されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、加工対象物に対して機械加工を行うときに適用可能な機械加工方法、及び機械加工システムに適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10…加工対象物、
110…ロボット、120…第1機械加工装置、122…加工工具、
130…第2機械加工装置、132…加工工具、140…制御装置、
141…条件設定部、151〜155…機械加工システム、
161…検出装置、162…ピッチ変更装置、163…工具交換装置。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12A
図12B