特許第6694851号(P6694851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立GEニュークリア・エナジー株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000002
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000003
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000004
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000005
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000006
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000007
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000008
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000009
  • 特許6694851-渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694851
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/90 20060101AFI20200511BHJP
【FI】
   G01N27/90
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-95527(P2017-95527)
(22)【出願日】2017年5月12日
(65)【公開番号】特開2018-194309(P2018-194309A)
(43)【公開日】2018年12月6日
【審査請求日】2019年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 功
(72)【発明者】
【氏名】小池 正浩
【審査官】 小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−002632(JP,A)
【文献】 特開2009−019909(JP,A)
【文献】 特開2006−317194(JP,A)
【文献】 実開昭57−182163(JP,U)
【文献】 特公昭47−003518(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72 − G01N 27/90
G01R 33/00 − G01R 33/26
G01V 1/00 − G01V 99/00
G21C 17/00 − G21C 17/003
G21C 17/013
G21C 17/02
G21C 17/025
G21C 17/032 − G21C 17/10
G21C 17/108
G21C 17/12 − G21C 17/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の基板上に互いに離間して配置された励磁コイル及び検出コイルを有する探傷プローブを用いて、対象物を探傷する渦電流探傷方法であって、
前記探傷プローブを前記対象物の表面に倣うように曲げたときの曲げ信号を取得し、
前記探傷プローブの曲げを戻したときの曲げ戻し信号を取得し、
前記曲げ戻し信号の振幅と前記曲げ信号の振幅との差分である第1の差分が予め設定された第1の閾値以下であるか否かを判定するとともに、前記曲げ戻し信号の位相角及び前記曲げ信号の位相角のうちのいずれか一方を反転した角度と他方の角度との差分である第2の差分が予め設定された第2の閾値以下であるか否かを判定し、
前記第1の差分が前記第1の閾値以下で且つ前記第2の差分が前記第2の閾値以下である場合に、前記探傷プローブが健全であると判定し、前記第1の差分が前記第1の閾値を超えるか前記第2の差分が前記第2の閾値を超える場合に、前記探傷プローブが故障したと判定し、その判定結果を出力することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項2】
請求項1に記載の渦電流探傷方法において、
前記対象物の探傷前に、前記曲げ信号を取得し、
前記対象物の探傷後に、前記曲げ戻し信号を取得することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項3】
可撓性の基板上に互いに離間して配置された励磁コイル及び検出コイルを有する探傷プローブを用いて、対象物を探傷する渦電流探傷方法であって、
前記対象物の探傷前、前記探傷プローブを前記対象物の表面に倣うように曲げるとともに、前記探傷プローブを前記対象物の表面より離れた所定の位置から前記対象物の表面に移動させたときの曲げ・接近信号を取得し、
前記対象物の探傷後、前記探傷プローブを前記対象物の表面から前記所定の位置に移動させるとともに、前記探傷プローブの曲げを戻したときのリフトオフ・曲げ戻し信号を取得し、
前記曲げ・接近信号の振幅と前記リフトオフ・曲げ戻し信号の振幅との差分である第1の差分が予め設定された第1の閾値以下であるか否かを判定するとともに、前記曲げ・接近信号の位相角及び前記リフトオフ・曲げ戻し信号の位相角のうちのいずれか一方を反転した角度と他方の角度との差分である第2の差分が予め設定された第2の閾値以下であるか否かを判定し、
前記第1の差分が前記第1の閾値以下で且つ前記第2の差分が前記第2の閾値以下である場合に、前記探傷プローブが健全であると判定し、前記第1の差分が前記第1の閾値を超えるか前記第2の差分が前記第2の閾値を超える場合に、前記探傷プローブが故障したと判定し、その判定結果を出力することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項4】
請求項3に記載の渦電流探傷方法において、
前記対象物の探傷前に、前記曲げ・接近信号を取得し、
前記対象物の探傷後に、前記リフトオフ・曲げ戻し信号を取得することを特徴とする渦電流探傷方法。
【請求項5】
可撓性の基板上に互いに離間して配置された励磁コイル及び検出コイルを有する探傷プローブと、
前記探傷プローブを機械的に駆動するプローブ駆動装置と、
前記プローブ駆動装置を介して前記探傷プローブの駆動を制御するとともに、前記探傷プローブの探傷を制御する制御装置とを備えた渦電流探傷装置であって、
前記制御装置は、
前記探傷プローブを対象物の表面に倣うように曲げたときの曲げ信号を取得し、
前記探傷プローブの曲げを戻したときの曲げ戻し信号を取得し、
前記曲げ信号の振幅と前記曲げ戻し信号の振幅との差分である第1の差分が予め設定された第1の閾値以下であるか否かを判定するとともに、前記曲げ信号の位相角及び前記曲げ戻し信号の位相角のうちのいずれか一方を反転した角度と他方の角度との差分である第2の差分が予め設定された第2の閾値以下であるか否かを判定し、
前記第1の差分が前記第1の閾値以下で且つ前記第2の差分が前記第2の閾値以下である場合に、前記探傷プローブが健全であると判定し、前記第1の差分が前記第1の閾値を超えるか前記第2の差分が前記第2の閾値を超える場合に、前記探傷プローブが故障したと判定して、その判定結果を出力するように構成されたことを特徴とする渦電流探傷装置。
【請求項6】
可撓性の基板上に互いに離間して配置された励磁コイル及び検出コイルを有する探傷プローブと、
前記探傷プローブを機械的に駆動するプローブ駆動装置と、
前記プローブ駆動装置を介して前記探傷プローブの駆動を制御するとともに、前記探傷プローブの探傷を制御する制御装置とを備えた渦電流探傷装置であって、
前記制御装置は、
前記探傷プローブを対象物の表面に倣うように曲げるとともに、前記探傷プローブを前記対象物の表面より離れた所定の位置から前記対象物の表面に移動させたときの曲げ・接近信号を取得し、
前記探傷プローブを前記対象物の表面から前記所定の位置に移動させるとともに、前記探傷プローブの曲げを戻したときのリフトオフ・曲げ戻し信号を取得し、
前記曲げ・接近信号の振幅と前記リフトオフ・曲げ戻し信号の振幅との差分である第1の差分が予め設定された第1の閾値以下であるか否かを判定するとともに、前記曲げ・接近信号の位相角及び前記リフトオフ・曲げ戻し信号の位相角のうちのいずれか一方を反転した角度と他方の角度との差分である第2の差分が予め設定された第2の閾値以下であるか否かを判定し、
前記第1の差分が前記第1の閾値以下で且つ前記第2の差分が前記第2の閾値以下である場合に、前記探傷プローブが健全であると判定し、前記第1の差分が前記第1の閾値を超えるか前記第2の差分が前記第2の閾値を超える場合に、前記探傷プローブが故障したと判定し、その判定結果を出力するように構成されたことを特徴とする渦電流探傷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性の探傷プローブを用いた渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
渦電流探傷方法は、探傷プローブを対象物の表面上で走査して、対象物を探傷する方法であり、原子炉内構造物の検査などで採用されている。探傷プローブは、例えば、対象物の表面に追従させるための可撓性の基板と、この基板上に互いに離間された励磁コイル及び検出コイルを有している。そして、励磁コイルに交流電圧を印加して磁場を発生させ、対象物に渦電流を誘起する。対象物に欠陥(詳細には、例えば割れ等)があれば渦電流が変化するので、この渦電流の変化による磁束変化を検出コイルで検出する。
【0003】
非特許文献1は、原子炉内構造物の検査終了時に(但し、長時間連続して検査を行う場合は、検査中断時も)、対比試験片の人工きずに対して得られたリサージュ波形を用いて、基準感度と位相角を確認することを定めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「原子力発電所用機器における渦電流探傷試験指針」、社団法人日本電気協会、JEAG4217-2010、p.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、探傷プローブは、変形していないときに(言い換えれば、負荷がかからないときに)正常であるものの、変形したときに(言い換えれば、負荷がかかるときに)コイルの断線などの異常が発生する可能性がある。しかし、このような探傷プローブの変形時の異常は、探傷プローブの外観や探傷データから発見することが困難である。何故なら、仮に探傷データがゼロであっても、対象物の欠陥が存在しないためなのか、あるいは、コイルが断線したためなのかを判断することができないからである。
【0006】
本発明の目的は、探傷プローブの変形時の異常を発見する渦電流探傷方法及び渦電流探傷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、代表的な本発明は、可撓性の基板上に互いに離間して配置された励磁コイル及び検出コイルを有する探傷プローブを用いて、対象物を探傷する渦電流探傷方法であって、前記探傷プローブを前記対象物の表面に倣うように曲げたときの曲げ信号を取得し、前記探傷プローブの曲げを戻したときの曲げ戻し信号を取得し、前記曲げ戻し信号の振幅と前記曲げ信号の振幅との差分である第1の差分が予め設定された第1の閾値以下であるか否かを判定するとともに、前記曲げ戻し信号の位相角及び前記曲げ信号の位相角のうちのいずれか一方を反転した角度と他方の角度との差分である第2の差分が予め設定された第2の閾値以下であるか否かを判定し、前記第1の差分が前記第1の閾値以下で且つ前記第2の差分が前記第2の閾値以下である場合に、前記探傷プローブが健全であると判定し、前記第1の差分が前記第1の閾値を超えるか前記第2の差分が前記第2の閾値を超える場合に、前記探傷プローブが故障したと判定し、その判定結果を出力する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、探傷プローブの変形時の異常を発見することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態における渦電流探傷装置の構成を表すブロック図である。
図2】本発明の第1の実施形態における探傷プローブの構造を表す上面図及び側面図である。
図3】本発明の第1の実施形態におけるプローブ駆動装置の変形機構の構造を表す図である。
図4】本発明の第1の実施形態における渦電流探傷方法を説明するための概略図である。
図5】本発明の第1の実施形態における制御装置の処理内容を表すフローチャートである。
図6】本発明の第1の実施形態における曲げ信号のリサージュ波形と曲げ戻し信号のリサージュ波形を表す図である。
図7】本発明の第2の実施形態における制御装置の処理内容を表すフローチャートである。
図8】本発明の第2の実施形態における曲げ・接近信号のリサージュ波形とリフトオフ・曲げ戻し信号のリサージュ波形を表す図である。
図9】本発明の一変形例における探傷プローブの構造を表す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0011】
図1は、本実施形態における渦電流探傷装置の構成を表すブロック図である。図2(a)は、本実施形態における探傷プローブの構造を表す上面図であり、図2(b)は、側面図である。図3は、本実施形態におけるプローブ駆動装置の変形機構の構造を表す側面図である。
【0012】
本実施形態の渦電流探傷装置は、探傷プローブ1と、探傷プローブ1を機械的に駆動するプローブ駆動装置2と、プローブ駆動装置2を介して探傷プローブ1の駆動を制御するとともに、探傷プローブ1の探傷を制御する制御装置3とを備えている。探傷プローブ1は、可撓性の基板4と、基板4上に配置された1つの励磁コイル5Aと、基板4上に励磁コイル5Aに対して離間するように配置された1つの検出コイル5Bとを有している。
【0013】
プローブ駆動装置2は、例えば、探傷プローブ1を変形させるための変形機構6と、探傷プローブ1を変形機構6と共に移動させるための移動機構(図示せず)とを有している。変形機構6は、例えば、移動機構によって移動する支持具7と、支持具7と探傷プローブ1の長手方向(言い換えれば、励磁コイル5Aと検出コイル5Bの配列方向)の中央部の間で連結された伸縮アクチュエータ8Aと、支持具7と探傷プローブ1の長手方向の一方側端部の間で連結された伸縮アクチュエータ8Bと、支持具7と探傷プローブ1の長手方向の他方側端部の間で連結された伸縮アクチュエータ8Cとで構成されている。そして、伸縮アクチュエータ8A,8B,8Cの長さを調整することにより、探傷プローブ1を対象物9の表面(後述の図4参照)に倣うように曲げさせることが可能である。
【0014】
制御装置3は、プローブ制御部10、データ処理部11、記憶部12、入力部13、及び表示部14を有している。プローブ制御部10は、プローブ駆動装置2を介して探傷プローブ1の変形及び移動を制御するようになっている。また、プローブ制御部10は、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加する。
【0015】
データ処理部11は、探傷プローブ1の検出コイル5Bからの検出信号に対し所定のデータ処理を行う。詳細には、例えば、検出コイル5Bからの検出信号を増幅し、基準位相と同じ成分(X成分)Vxと90度異なる成分(Y成分)Vyに分解し、それらを縦軸及び横軸にプロットしてリサージュ波形を作成し、そのリサージュ波形を用いて振幅Z及び位相角θを演算するようになっている(下記の式(1)及び式(2)参照)。
Z=(Vx+Vy1/2 ・・・(1)
θ=tan−1(Vy/Vx) ・・・(2)
【0016】
記憶部12は、データ処理部11で得られたデータ(詳細には、例えば、X成分及びY成分、リサージュ波形、又は振幅及び位相角など)を記憶し、表示部14は、データ処理部11で得られたデータを表示するようになっている。入力部13は、例えばキーボードやマウス等で構成され、設定値や条件等を入力するようになっている。
【0017】
ここで、本実施形態の大きな特徴として、制御装置3は、対象物9の探傷前に曲げ信号を取得し、対象物9の探傷後に曲げ戻し信号を取得し、曲げ信号と曲げ戻し信号を用いて探傷プローブ1の故障診断を行い、その診断結果を出力するようになっている。このような探傷プローブ1の故障診断を含む、本実施形態の渦電流探傷方法を、図4図5図6(a)、及び図6(b)を用いて説明する。
【0018】
図4は、本実施形態における渦電流探傷方法を説明するための概略図である。図5は、本実施形態における制御装置の処理内容を表すフローチャートである。図6(a)は、本実施形態における曲げ信号のリサージュ波形を表す図であり、図6(b)は、本実施形態における曲げ戻し信号のリサージュ波形を表す図である。
【0019】
本実施形態の渦電流探傷方法では、対象物9の探傷前、探傷プローブ1は、対象物9の表面から離れた所定の待機位置に位置し、平坦状態となっている。図5のステップS101にて、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の変形機構6を制御して、図4中矢印Eで示すように、探傷プローブ1を平坦状態から対象物9の表面に倣うように曲げさせる。これと同時に、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加する。探傷プローブ1の変形に伴い、励磁コイル5Aと検出コイル5Bの位置関係が変化するので、これを起因とした曲げ信号が生じる。
【0020】
ステップS102にて、制御装置3のデータ処理部11は、検出コイル5Bの検出信号から曲げ信号を取得する。ステップS103に進み、制御装置3のデータ処理部11は、図6(a)で示すような曲げ信号のリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて曲げ信号の振幅ZA及び位相角θAを演算し、記憶部12に記憶させる。
【0021】
その後、ステップS104に進み、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の移動機構を制御して、図4中矢印Fで示すように、探傷プローブ1を所定の待機位置から対象物9の表面に移動させる。
【0022】
そして、ステップS105に進み、対象物9の探傷を行う。詳細には、制御装置3のプローブ制御部10は、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加しつつ、探傷プローブ1を対象物9の表面上で走査する。制御装置3のデータ処理部11は、検出コイル5Bの検出信号からリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて振幅及び位相角を演算し、表示部14に表示させる。検査者は、表示部14に表示されたリサージュ波形等から、対象物9の欠陥の有無を判断する。
【0023】
そして、対象物9の探傷後、ステップS106にて、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の移動機構を制御して、図4中矢印Gで示すように、探傷プローブ1を対象物9の表面から所定の待機位置に移動させる。
【0024】
その後、ステップS107に進み、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の変形機構6を制御して、図4中矢印Hで示すように、探傷プローブ1を対象物9の曲げ状態から平坦状態に戻す。これと同時に、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加する。探傷プローブ1の変形に伴い、励磁コイル5Aと検出コイル5Bの位置関係が変化するので、これを起因とした曲げ戻し信号が生じる。
【0025】
ステップS108にて、制御装置3のデータ処理部11は、検出コイル5Bの検出信号から曲げ戻し信号を取得する。ステップS109に進み、制御装置3のデータ処理部11は、図6(b)で示すような曲げ戻し信号のリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて曲げ戻し信号の振幅ZB及び位相角θBを演算し、記憶部12に記憶させる。
【0026】
そして、ステップS110に進み、制御装置3のデータ処理部11は、曲げ戻し信号の振幅ZBと曲げ信号の振幅ZAとの差分|ZB−ZA|が予め設定された閾値ΔZ以下であるか否かを判定する。差分|ZB−ZA|が閾値ΔZ以下である場合は、ステップS110の判定が満たされ、ステップS111に移る。ステップS111では、曲げ戻し信号の位相角を180度反転した角度(θB−180)と曲げ信号の位相角θAとの差分|(θB−180)−θA|が予め設定された閾値Δθ以下であるか否かを判定する。差分|(θB−180)−θA|が閾値Δθ以下である場合は、ステップS111の判定が満たされ、ステップS112に移る。ステップS112では、制御装置3のデータ処理部11は、探傷プローブ1が健全であると判定する。このとき、判定結果を出力してもよい。具体的には、例えば、探傷プローブ1が健全である旨のメッセージ又はマーク等を表示部14で表示してもよい。
【0027】
一方、ステップS110にて差分|ZB−ZA|が閾値ΔZを超える場合は、その判定が満たされず、ステップS113に移る。あるいは、ステップS111にて差分|(θB−180)−θA|が閾値Δθを超える場合は、その判定が満たされず、ステップS113に移る。ステップS113では、制御装置3のデータ処理部11は、探傷プローブ1が故障であると判定し、その判定結果を出力する。具体的には、例えば、探傷プローブ1が故障である旨のメッセージ又はマーク等を表示部14で表示する。
【0028】
以上のように本実施形態においては、曲げ信号と曲げ戻し信号を用いて、探傷プローブ1の変形時の異常を発見することができる。また、対象物9の探傷前に曲げ信号を取得し、対象物9の探傷後に曲げ戻し信号を取得するので、対象物9の検査作業に支障をきたすことなく、探傷プローブ1の故障を早期に発見することができる。そのため、検査の後戻り作業を低減することができる。また、検査結果の信頼性を高めることができる。
【0029】
なお、第1の実施形態においては、対象物9の探傷前に曲げ信号を取得し、対象物9の探傷後に曲げ戻し信号を取得する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、対象物9の探傷前に曲げ信号と曲げ戻し信号を取得してもよいし、あるいは、対象物9の探傷後に曲げ戻し信号と曲げ信号を取得してもよい。
【0030】
また、第1の実施形態において、ステップS111では、曲げ戻し信号の位相角を180度反転した角度(θB−180)と曲げ信号の位相角θAとの差分|(θB−180)−θA|が予め設定された閾値Δθ以下であるか否かを判定する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、曲げ戻し信号の位相角θBと曲げ信号の位相角θAを180度反転した角度(θA+180)との差分|(θB−(θA+180)|が予め設定された閾値Δθ以下であるか否かを判定しても、実質的に同じである。
【0031】
また、第1の実施形態においては、探傷プローブ1を平坦状態から曲げたときの曲げ信号と、探傷プローブ1を曲げ状態から平坦状態に戻したときの曲げ戻し信号を取得する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、例えば、プローブ駆動装置2によって探傷プローブ1を第1の曲げ状態から第2の曲げ状態に曲げたときの曲げ信号と、プローブ駆動装置2によって探傷プローブ1を第2の曲げ状態から第1の曲げ状態に戻したときの曲げ戻し信号を取得してもよい。さらに、例えば、探傷プローブ1を対象物9の表面に押し当てることによって探傷プローブ1を第1の曲げ状態から第2の曲げ状態に曲げたときの曲げ信号と、探傷プローブ1を対象物9の表面から離すことによって探傷プローブ1を第2の曲げ状態から第1の曲げ状態に戻したときの曲げ戻し信号を取得してもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0032】
本発明の第2の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態と同等の部分は同一の符号を付し、適宜、説明を省略する。
【0033】
本実施形態の制御装置3は、対象物9の探傷前に曲げ・接近信号を取得し、対象物9の探傷後にリフトオフ・曲げ戻し信号を取得し、曲げ・接近信号とリフトオフ・曲げ戻し信号を用いて探傷プローブ1の故障診断を行い、その診断結果を出力するようになっている。このような探傷プローブ1の故障診断を含む、本実施形態の渦電流探傷方法を、上述の図4と共に、図7図8(a)、及び図8(b)を用いて説明する。
【0034】
図7は、本実施形態における制御装置の処理内容を表すフローチャートである。図8(a)は、本実施形態における曲げ・接近信号のリサージュ波形図であり、図8(b)は、本実施形態におけるリフトオフ・曲げ戻し信号のリサージュ波形図である。
【0035】
本実施形態の渦電流探傷方法では、対象物9の探傷前、探傷プローブ1は、対象物9の表面から離れた所定の待機位置に位置し、平坦状態となっている。図7のステップS201にて、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の変形機構6を制御して、図4中矢印Eで示すように、探傷プローブ1を平坦状態から対象物9の表面に倣うように曲げさせる。これと同時に、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加する。探傷プローブ1の変形に伴い、励磁コイル5Aと検出コイル5Bの位置関係が変化するので、これを起因とした曲げ信号が生じる。
【0036】
その後、ステップS202に進み、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の移動機構を制御して、図4中矢印Fで示すように、探傷プローブ1を所定の待機位置から対象物9の表面に移動させる。これと同時に、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加する。探傷プローブ1の移動に伴い、探傷プローブ1と対象物9の表面との距離が変化するので、これを起因とした接近信号が生じる。
【0037】
ステップS203にて、制御装置3のデータ処理部11は、検出コイル5Bの検出信号から、上述した曲げ信号及び接近信号からなる曲げ・接近信号を取得する。ステップS204に進み、制御装置3のデータ処理部11は、図8(a)で示すような曲げ・接近信号のリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて曲げ・接近信号の振幅ZC及び位相角θCを演算し、記憶部12に記憶させる。
【0038】
そして、ステップS205に進み、対象物9の探傷を行う。詳細には、制御装置3のプローブ制御部10は、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加しつつ、探傷プローブ1を対象物9の表面上で走査する。制御装置3のデータ処理部11は、検出コイル5Bの検出信号からリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いて振幅及び位相角を演算し、表示部14に表示させる。検査者は、表示部14に表示されたリサージュ波形等から、対象物9の欠陥の有無を判断する。
【0039】
そして、対象物9の探傷後、ステップS206にて、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の移動機構を制御して、図4中矢印Gで示すように、探傷プローブ1を対象物9の表面から所定の待機位置に移動させる。これと同時に、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加する。探傷プローブ1の移動に伴い、探傷プローブ1と対象物9の表面との距離が変化するので、これを起因としたリフトオフ信号が生じる。
【0040】
その後、ステップS207に進み、制御装置3のプローブ制御部10は、プローブ駆動装置2の変形機構6を制御して、図4中矢印Hで示すように、探傷プローブ1を対象物9の曲げ状態から平坦状態に戻す。これと同時に、探傷プローブ1の励磁コイル5Aに交流電圧を印加する。探傷プローブ1の変形に伴い、励磁コイル5Aと検出コイル5Bの位置関係が変化するので、これを起因とした曲げ戻し信号が生じる。
【0041】
ステップS208にて、制御装置3のデータ処理部11は、検出コイル5Bの検出信号から、上述したリフトオフ信号及び曲げ戻し信号からなるリフトオフ・曲げ戻し信号を取得する。ステップS209に進み、制御装置3のデータ処理部11は、図8(b)で示すようなリフトオフ・曲げ戻し信号のリサージュ波形を作成し、このリサージュ波形を用いてリフトオフ・曲げ戻し信号の振幅ZD及び位相角θDを演算し、記憶部12に記憶させる。
【0042】
そして、ステップS210に進み、制御装置3のデータ処理部11は、リフトオフ・曲げ戻し信号の振幅ZDと曲げ・接近信号の振幅ZCとの差分|ZD−ZC|が予め設定された閾値ΔZ以下であるか否かを判定する。差分|ZD−ZC|が閾値ΔZ以下である場合は、ステップS210の判定が満たされ、ステップS211に移る。ステップS211では、リフトオフ・曲げ戻し信号の位相角を180度反転した角度(θD−180)と曲げ・接近信号の位相角θCとの差分|(θD−180)−θC|が予め設定された閾値Δθ以下であるか否かを判定する。差分|(θD−180)−θC|が閾値Δθ以下である場合は、ステップS211の判定が満たされ、ステップS212に移る。ステップS212では、制御装置3のデータ処理部11は、探傷プローブ1が健全であると判定する。このとき、判定結果を出力してもよい。具体的には、例えば、探傷プローブ1が健全である旨のメッセージ又はマーク等を表示部14で表示してもよい。
【0043】
一方、ステップS210にて差分|ZD−ZC|が閾値ΔZを超える場合は、その判定が満たされず、ステップS213に移る。あるいは、ステップS211にて差分|(θD−180)−θC|が閾値Δθを超える場合は、その判定が満たされず、ステップS213に移る。ステップS213では、制御装置3のデータ処理部11は、探傷プローブ1が故障であると判定し、その判定結果を出力する。具体的には、例えば、探傷プローブ1が故障である旨のメッセージ又はマーク等を表示部14で表示する。
【0044】
以上のように本実施形態においては、曲げ・接近信号とリフトオフ・曲げ戻し信号を用いて、探傷プローブ1の変形時の異常を発見することができる。また、対象物9の探傷前に曲げ・接近信号を取得し、対象物9の探傷後にリフトオフ・曲げ戻し信号を取得するので、対象物9の検査作業に支障をきたすことなく、探傷プローブ1の故障を早期に発見することができる。そのため、検査の後戻り作業を低減することができる。また、検査結果の信頼性を高めることができる。
【0045】
なお、第2の実施形態においては、対象物9の探傷前に曲げ・接近信号を取得し、対象物9の探傷後にリフトオフ・曲げ戻し信号を取得する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、対象物9の探傷前に曲げ・接近信号とリフトオフ・曲げ戻し信号を取得してもよいし、あるいは、対象物9の探傷後にリフトオフ・曲げ戻し信号と曲げ・接近信号を取得してもよい。
【0046】
なお、第2の実施形態においては、探傷プローブ1の変形と移動を異なるタイミングで行う場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、探傷プローブ1の変形と移動を同時に行ってもよい。さらに、例えば、探傷プローブ1を対象物9の表面に押し当てることによって、探傷プローブ1を第1の曲げ状態から第2の曲げ状態に曲げたときの曲げ・接近信号を取得し、探傷プローブ1を対象物9の表面から離すことによって、探傷プローブ1を第2の曲げ状態から第1の曲げ状態に戻したときのリフトオフ・曲げ戻し信号を取得してもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0047】
また、第2の実施形態において、ステップS211では、リフトオフ・曲げ戻し信号の位相角を180度反転した角度(θD−180)と曲げ・接近信号の位相角θCとの差分|(θD−180)−θC|が予め設定された閾値Δθ以下であるか否かを判定する場合を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、リフトオフ・曲げ戻し信号の位相角θDと曲げ・接近信号の位相角θCを180度反転した角度(θC+180)との差分|(θD−(θC+180)|が予め設定された閾値Δθ以下であるか否かを判定しても、実質的に同じである。
【0048】
また、第1及び第2の実施形態において、探傷プローブ1は、1つの励磁コイル5Aと1つの検出コイル5Bを有する場合(言い換えれば、2つのコイルを有する場合)を例にとって説明したが、これに限られず、本発明の趣旨及び技術思想を逸脱しない範囲内で変形が可能である。すなわち、探傷プローブは、少なくとも1つの励磁コイルと少なくとも1つの検出コイルを有していればよく、3つ以上のコイルを有していてもよい。具体的には、図9で示す一変形例のように、探傷プローブ1Aは、千鳥配置又は格子配置された多数のコイル5を有しており、制御装置3によって励磁コイルと検出コイルの組み合わせが選択されるものであってもよい。このような変形例では、励磁コイルと検出コイルの組み合わせ毎に、曲げ信号及び曲げ戻し信号(あるいは、曲げ・接近信号及びリフトオフ・曲げ戻し信号)を取得して判定すればよい。これにより、励磁コイルと検出コイルの組み合わせ毎に異常を発見することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 探傷プローブ
2 プローブ駆動装置
3 制御装置
4 基板
5A 励磁コイル
5B 検出コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9