特許第6694869号(P6694869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694869
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】袋織部を有する面ファスナー
(51)【国際特許分類】
   A44B 18/00 20060101AFI20200511BHJP
【FI】
   A44B18/00
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-505341(P2017-505341)
(86)(22)【出願日】2016年3月8日
(86)【国際出願番号】JP2016057078
(87)【国際公開番号】WO2016143766
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2018年11月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-49045(P2015-49045)
(32)【優先日】2015年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591017939
【氏名又は名称】クラレファスニング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】開高 敬義
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−339413(JP,A)
【文献】 特開2001−309805(JP,A)
【文献】 特開2014−027989(JP,A)
【文献】 特開2001−115357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸、緯糸および係合素子用糸から構成された基布の表面に該係合素子用糸からなる係合素子が形成されている面ファスナーであって、以下の構成1)〜4)を満足していることを特徴とする袋織部を有する面ファスナー。
1)基布が、表面側織部と裏面側織部の2層の織物からなる袋織部を有していること、
2)前記表面側織部を構成している緯糸と前記裏面側織部を構成している緯糸が繋がって前記袋織部を形成しているか、あるいは、前記袋織部以外の織部では単層織部を形成していた緯糸または経糸が前記表面側織部を構成している糸と前記裏面側織部を構成している糸に分かれて前記袋織部を形成していること、
3)前記袋織部の前記表面側織部の外側表面に係合素子が存在していること、
4)前記緯糸に熱融着性繊維が含まれており、前記係合素子用糸が熱融着性繊維により前記基布に固定されていること
5)前記袋織部が物品を挿入できる空間部を備えること。
【請求項2】
前記経糸、緯糸および係合素子用糸がともにポリエステル系繊維から形成されている請求項1に記載の面ファスナー。
【請求項3】
前記袋織部の経糸方向または緯糸方向の隣に単層織部が存在しており、そして前記袋織部と前記単層織部の面積比率が55:45〜98:2である請求項1または2に記載の面ファスナー。
【請求項4】
前記裏面側織部の外側表面または前記単層織部の片面もしくは両面に係合素子が存在している請求項1〜3のいずれかに記載の面ファスナー。
【請求項5】
前記袋織部に存在する係合素子がループ状係合素子もしくはフック状係合素子、またはループ状係合素子とフック状係合素子の両者である請求項1〜4のいずれかに記載の面ファスナー。
【請求項6】
前記袋織部に存在する係合素子がループ状係合素子もしくはフック状係合素子、またはループ状係合素子とフック状係合素子の両者である請求項1〜4のいずれかに記載の面ファスナー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、袋織部を有する面ファスナーに関する。詳細には、表面側織部と裏面側織部の2層の織物からなり、かつその外側表面に係合素子を有している袋織部を有している面ファスナーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面にフック状係合素子を有する織物と表面にループ状係合素子を有する織物は、係合素子を有する面を挟んで両織物を重ね合わせることにより、フック状係合素子とループ状係合素子が係合して両織物を係止一体化できることから面ファスナーとして広く一般的に用いられている。
【0003】
これら面ファスナーで棒状体や線状体の表面を覆う方法として、面ファスナーを棒状体や線状体に巻き付け、そして接着剤や粘着剤等により棒状体や線状体の表面に固定する方法や、面ファスナーの係合素子面を外側にして袋状に縫製し、そしてその袋状部に棒状体や線状体を挿入する方法が一般に用いられている。
【0004】
しかしながら、このような方法の場合には、面ファスナーを縫製する作業や接着剤や粘着剤により取り付ける作業、さらには面ファスナーを棒状体等の周囲に巻きつける作業等が必要となり、新たな工程や手間が必要となる。
【0005】
また、たとえば棒状体の表面を面ファスナーで覆い、面ファスナーの係合素子に塗布液を保持させてブラシとして使用する場合には、接着剤や粘着剤の成分が塗布液に溶け出す可能性があるため、液体に浸けるような用途のブラシには適さない。
【0006】
さらに面ファスナーの裏面に布帛を縫製や接着により袋状に取り付けた場合には、袋部が面ファスナーから剥離し易く、剥離が生じないように強固に縫製や接着するには、手間を要するとともに、強固な縫製や接着により、面ファスナーの有する柔軟性が大きく損なわれるという問題点も有している。
【0007】
また、電子部品等の物品を所定物表面に着脱自在な状態で取り付ける手段として、物品の表面に一方の面ファスナーを接着剤や粘着剤で取り付け、所定物表面にもう一方の面ファスナーを取り付け、面ファスナー同士を係合させる方法が一般に用いられている。しかしながら、物品の表面に面ファスナーを取り付けることができない場合や取り付けることにより物品の性能や品質が低下する場合には、この方法を用いることができず、この方法に代わる方法として、物品を面ファスナー付の袋に挿入し、そして所定物に取り付けた面ファスナーに係止する方法が用いられており、この方法の場合には、物品を収納できる袋を用意し、それに面ファスナーを縫製や接着剤により取り付けることが必要となり、新たな手間が必要となる。
【0008】
本発明者らは、このような手間を必要とせず、裏面に取り付けた袋織部が剥離するという問題を生じない技術について検討した結果、面ファスナーの製造段階で面ファスナーそのものに袋織部を設けることにより、上記した従来技術の問題点が解消できることを見出した。
【0009】
なお、袋織部を有する面ファスナーは公知であり(特許文献1)、同特許文献には、面ファスナーの両端の耳部、すなわち係合素子が存在していない細い両端部に面ファスナーの長さ方向に沿って細い袋織部を設け、この袋織部に硬い芯材を挿入することにより、面ファスナーの形状を固定できることが記載されている。
【0010】
確かに挿入する芯材が細い場合には、この特許文献1の技術を採用することは可能であるが、わずか数ミリしか幅のない面ファスナーの細い耳部に形成できる袋織部では自ずと挿入できる物品の大きさに限界があり、太い棒状体や幅のある物品は袋織部に挿入できない。さらに、この特許文献の技術では、袋織部に係合素子が存在していないことから、袋織部を直接面ファスナーに固定することができず、袋織部が取り付け面から浮き上がり、取り付け状態が不安定となり、使用形態が限定されることとなる。
【0011】
本発明は、特許文献1のように、袋織部の幅が狭いものに限定されることなく、袋織部の幅の狭いものから幅の広いものまで自由に製造でき、しかも、袋織部の表面にも係合素子が存在させることが可能な面ファスナーを提供することを目的とするものである。さらに袋織部が面ファスナーの裏面から剥離することがない袋織部を有する面ファスナーを提供することを目的とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開2010/137193号(0031〜0032段落、図9〜11)
【発明の概要】
【0013】
すなわち、本発明の一つの局面は、経糸、緯糸および係合素子用糸から構成された基布の表面に該係合素子用糸からなる係合素子が形成されている面ファスナーにおいて、以下の構成1)〜4)を満足していることを特徴とする袋織部を有する面ファスナーに関する。
1)基布が、表面側織部と裏面側織部の2層の織物からなる袋織部を有していること、
2)表面側織部を構成している緯糸と裏面側織部を構成している緯糸が繋がって袋織部を形成しているか、あるいは袋織部以外の織部では単層織部を形成していた緯糸または経糸が表面側織部を構成している糸と裏面側織部を構成している糸に分かれて袋織部を形成していること、
3)袋織部の表面側織部の外側表面に係合素子が存在していること、
4)緯糸に熱融着性繊維が含まれており、係合素子用糸が熱融着性繊維により基布に固定されていること。
【0014】
上記構成によれば、袋織部の幅が狭いものに限定されることなく、袋織部の幅の狭いものから幅の広いものまで自由に製造でき、しかも、袋織部の表面にも係合素子が存在させることが可能な面ファスナーを提供することができる。さらに袋織部が面ファスナーの裏面から剥離することがない袋織部を有する面ファスナーを提供することが可能となると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の袋織部を有する面ファスナーの一例を模式的に示した斜視図である。
図2図2は、本発明の袋織部を有する面ファスナーの他の一例を模式的に示した斜視図である。
図3図3は、本発明の袋織部を有する面ファスナーの他の一例を模式的に示した斜視図である。
図4図4は、本発明の袋織部を有する面ファスナーの他の一例を模式的に示した斜視図である。
図5図5は、本発明の袋織部を有する面ファスナーの他の一例を模式的に示した斜視図である。
図6図6は、本発明の袋織部を有する面ファスナーの他の一例を模式的に示した斜視図である。
図7図7は、実施例1で採用した袋織部の織組織図である。
図8図8は、実施例2で採用した袋織部の織組織図である。
図9図9は、実施例4で採用した単層織部の組織図である。
図10図10は、実施例1で採用した袋織部の緯糸の断面方向からみた経糸運動の模式図である。
図11図11は、実施例4で採用した単層織部の緯糸の断面方向からみた経糸運動の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に関する面ファスナーは、経糸、緯糸および係合素子用糸から構成された基布の表面に該係合素子用糸からなる係合素子が形成されている面ファスナーであって、以下の構成1)〜4)を満足していることを特徴とする袋織部を有する。
1)基布が、表面側織部と裏面側織部の2層の織物からなる袋織部を有していること、
2)表面側織部を構成している緯糸と裏面側織部を構成している緯糸が繋がって袋織部を形成しているか、あるいは袋織部以外の織部では単層織部を形成していた緯糸または経糸が表面側織部を構成している糸と裏面側織部を構成している糸に分かれて袋織部を形成していること、
3)袋織部の表面側織部の外側表面に係合素子が存在していること、
4)緯糸に熱融着性繊維が含まれており、係合素子用糸が熱融着性繊維により基布に固定されていること。
【0017】
本発明の面ファスナーでは、基布に、表面側織部と裏面側織部の2層の織物からなる袋織部が存在しており、表面側織部と裏面側織部では緯糸が繋がっているか、あるいは袋織部以外では表面側織部と裏面側織部を形成する緯糸または経糸が同一の単層織部を形成しており、そして袋織部の表面には係合素子が存在していることにより、袋織部の緯糸方向長さあるいは経糸方向長さを自由に選ぶことができる。その結果、袋織部に挿入する棒状体が太いもの、あるいは挿入する物品が幅を有する物である場合には袋織部の緯糸方向長さあるいは経糸方向長さを長くすることにより対応でき、さらに、経糸方向に袋織部は必要によりエンドレスとすることができることから、棒状体に取り付ける面ファスナーの長さも自由に選ぶことができる。
【0018】
すなわち、本発明の面ファスナーの袋織部を広げ、形成された空間部に棒状体や物品に挿入するだけで、棒状体や物品の表面を面ファスナーで覆うことが可能となる。よって、従来技術のように、棒状体の表面を面ファスナーで覆う、或いは物品の表面に面ファスナーを貼り付けるための手間が大きく軽減されるという利点がある。
【0019】
さらに、従来の織物基布からなる面ファスナーの場合には、基布面から係合素子が引き抜かれることを防止するために、基布の裏面に接着剤液(バックコート樹脂液)を塗布して、係合素子用糸を基布に固定する方法が用いられていた。この従来技術では、基布が袋織部となっており、かつ袋織部の外表面に係合素子を有している場合には、係合素子が引き抜かれることを防止するためには面ファスナーの製造工程途中で袋織部の内側の面に接着剤液を塗布する必要があるが、袋織部の内側の面に接着剤液を塗布することは実質的に不可能である。
【0020】
これに対し、本発明のように緯糸に熱融着性繊維を用いて、この熱融着性繊維を面ファスナーの製造過程で溶融させて係合素子用糸を基布に固定する技術を用いると、従来技術のように、基布の裏面に接着剤液を塗布することができないことから係合素子用糸を基布に固定することができなかったという問題点、すなわち従来の面ファスナーでは、袋織部を有する面ファスナーを、面ファスナーの製造工程で一挙に製造するということができなかったという問題が解消できる。
【0021】
さらに従来の袋織部を有する面ファスナーでは、製造後の面ファスナーの裏面に新たな布帛を袋状に縫い付けたり、接着剤で袋状に貼り合わせたりしていたため、袋織部が面ファスナーから剥離し易いという問題点を有していた。しかし、本発明の面ファスナーでは、袋織部の表面側織部を構成する緯糸と裏面側織部を構成する緯糸が繋がっていたり、あるいは袋織部以外では単層織部を形成している場合には、袋織部を形成していた緯糸または経糸が該単層織部を形成しているため、袋織部が面ファスナーから剥離するという問題が生じない。
【0022】
しかも、従来の接着剤や縫製により袋織部を裏面に取り付けたものでは、接着剤や縫製により取り付けた箇所は、接着剤や縫い付けた布帛により硬くなり、面ファスナーの柔軟性を損なうこととなるが、本発明では、袋織部を面ファスナー裏面に取り付けるものでないことから、面ファスナーの有する柔軟性を損なうことがない。
【0023】
このように、本発明の面ファスナーは様々な利点を有する。
【0024】
以下、図面等を参照して本発明の面ファスナーおよびその好適な実施形態を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0025】
なお、図面における主な符号は以下を示す。1:袋織部を有する面ファスナー、2−1:袋織部表面側織部、2−2:袋織部裏面側織部、3:単層織部、4−1係合素子、4−2係合素子を有さない領域、5:緯糸方向、6:経糸方向、7−1:経糸1本分の列、7−2:経糸1本分の列、7−3:経糸1本分の列、7−4:経糸1本分の列、8:係合素子糸列、9:経糸または係合素子糸が緯糸より沈み込んだ部分、10:経糸が緯糸より浮き上がっている部分、11:係合素子糸緯糸より浮き上がっている部分、12:係合素子糸が表面側にループを形成している部分、13:係合素子糸が裏面側にループを形成している部分、14:緯糸。
【0026】
本実施形態の袋織部を有する面ファスナー(1)は、図1〜6に示すように、基布およびこの基布上に形成された係合素子からなり、そして基布には袋織部、場合によってはその緯糸方向隣あるいは経糸方向隣に単層織部(3)が存在しており、袋織部は表面側織部(2−1)と裏面側織部(2−2)からなる。
【0027】
係合素子は、図1〜6に示すように、袋織部表面側または袋織裏面側の外側面に存在しているが、係合素子はループ状係合素子であっても、フック状係合素子であっても、あるいはループ状係合素子とフック状係合素子が同一面上に混在していてもよい。また図2に示すように袋織部の表裏両面に係合素子が存在していてもよいし、袋織部の片面にループ状係合素子、反対側の面にフック状係合素子が存在していてもよい。さらに、単層織部の片面または両面にもフック状またはループ状係合素子が存在していてもよい。
【0028】
なお、図1〜6において、5は緯糸方向、6は経糸方向をそれぞれ意味している。さらに、図3に示すように、袋織部の緯糸方向隣にも単層織部が存在していてもよい。そしてこの単層織部の表面や裏面にも、フック状やループ状の係合素子が存在していてもよい。さらに、図4に示すように、織部の経糸方向隣にも単層織部が存在していてもよい。そしてさらに、図5に示すように、袋織部は間に単層織部を挟んで緯糸方向に複数列存在していても良く、図6に示すように表面の一部に係合素子が存在しない領域(4−2)が存在しているような袋織組織であっても良い。
【0029】
本実施形態の面ファスナーにおいて、前記袋織部と前記単層織部の面積比率は、55:45〜98:2であることが好ましい。面積比率がこのような範囲であれば、袋織部分に物品を挿入する際に、袋の口となる部分を広げやすい、また破断強度や引裂き強度と係合性を両立することが可能という利点がえら得る。あるいは、面ファスナーの縁に単層織部を上記範囲とすることで縁から破れにくく、縁の近傍にある係合素子が破損しにくくなる、さらには単層織部で縫製しやすいという利点が得られる。
【0030】
特に単層織部が図3のように経糸方向に平行に存在する場合、単層織部の経糸が緯糸を交差する回数(単層織部を形成する経糸/緯糸の打込(上下に交差する回数))は多い方が引裂き強力に優れることから、例えば4本以上が特に好ましい。単層織部の経糸が緯糸を交差する回数が少ない場合、袋織部の表面層と裏面層を手で引っ張ると簡単に裂けるが、経糸が緯糸を交差する回数が多くなると裂けにくくなる。
【0031】
本実施形態で言う表面側織部の外側表面とは、図1を用いて説明すると、袋織部の係合素子が存在している側の面である。裏面側織部の外側表面とは、図2を用いて説明すると、袋織部の裏面側(2−2)の係合素子が存在している面である。
【0032】
本実施形態において基布は基本的に、経糸、緯糸および係合素子用糸からなる。これらの主要糸のうち、緯糸には熱融着性繊維が含まれていることが本発明において必要である。この熱融着性繊維を、面ファスナーを製造する工程の途中において熱溶融させることにより係合素子用糸を基布に固定することができる。従来技術のように接着剤液を裏面に塗布して係合素子用糸を基布に固定する技術が採用できない袋織部を有する面ファスナーにおいて、熱融着性繊維を用いる本発明の技術が、係合素子用糸を固定する技術として極めて有用であることが理解できる。このことに関しては、緯糸について説明する箇所で詳細に説明する。
【0033】
本実施形態の面ファスナーに用いられる経糸、緯糸および係合素子用糸を構成する繊維としては、熱や吸水・吸湿により波打ち(面ファスナーの基布面が不規則に上下して、水平な面とならない状態)を生じない点から、さらに熱融着性に優れていることから、いずれも実質的にポリエステル系のポリマーから構成されているポリエステル系繊維が好ましい。
【0034】
従来から、織物を基布とする面ファスナーに関しては、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド系の繊維からなる糸が広く一般的に用いられている。しかし、ポリアミド系繊維の糸を用いた場合には、吸水・吸湿や熱により基布の形状が変化し、場合によっては、吸湿や吸水、熱処理により基布が波打ったりして形態が損なわれるという現象が生じる。その結果、面ファスナーを取り付けた製品の品質や高級感が損なわれるという問題点を有しており、また熱融着性にも劣り、さらに面ファスナーとして最も重要な係合力に関しても必ずしも高くないという問題点も有している。
【0035】
このような問題点を解消するためには、経糸や緯糸や係合素子用糸を構成する繊維として、主としてポリエステル系ポリマーからなる繊維を用いるのが好ましい。
【0036】
ポリエステル系ポリマーとは、エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルまたはブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルであり、主としてテレフタル酸とエチレングリコールからの縮合反応またはテレフタル酸とブタンジオールからの縮合反応により得られるポリエステルである。
【0037】
若干ならばテレフタル酸とエチレングリコール以外、またはテレフタル酸とブタンジオール以外の重合単位が付加されていてもよい。このような重合単位の代表例としては、イソフタル酸、スルホイソフタル酸ソーダ、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバチン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂肪族または脂環族ジカルボン酸、プロピレングリコール、ブタンジオール(エチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルの場合)、エチレングリコール(ブチレンテレフタレート単位を主体とするポリエステルの場合)、シクロヘキサンジメタノール等のジオール類、ヒドロキシ安息香酸、乳酸等のオキシカルボン酸、酢酸や安息香酸で代表されるモノカルボン酸等が挙げられる。更に、上記ポリエステルには、それ以外のポリマーが少量添加されていても良い。
【0038】
好ましくは、緯糸以外の糸、すなわち経糸と係合素子用糸は、ポリエチレンテレフタレートホモポリマーまたはポリブチレンテレフタレートホモポリマーから形成されていることが望ましい。いずれにしても、後述する緯糸を構成する繊維として好適な芯鞘型熱融着性繊維の鞘成分を融着させるための熱処理温度で溶融しない程度の、十分に高い融点を有している必要があり、特にポリエチレンテレフタレート系ポリエステルやポリブチレンテレフタレート系ポリエステルがこれら糸を構成する主成分であるのが好ましい。また、上記ポリエステル系繊維には、必要により、他の繊維が混綿や混繊、引き揃えられていてもよい。
【0039】
経糸としてはマルチフィラメント糸が好ましく、そして経糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、20〜40本のフィラメントからなるトータルデシテックスが50〜400デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に25〜35本のフィラメントからなるトータルデシテックスが120〜200デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0040】
緯糸に関してもマルチフィラメント糸が好ましい。緯糸を構成するマルチフィラメント糸は前記したようにポリエステル系のものが好ましく、その太さとしては、10〜40本のフィラメントからなるトータルデシテックスが50〜150デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に20〜30本のフィラメントからなるトータルデシテックスが80〜120デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0041】
そして、本実施形態の緯糸には熱融着性繊維が含まれている。熱融着性繊維の代表例として、鞘成分を熱融着成分とする芯鞘型の熱融着性繊維が挙げられる。緯糸が熱融着性繊維を含んでいることにより、係合素子用糸を基布に強固に固定することが可能となり、従来の面ファスナーのように係合素子用糸が基布から引き抜かれることを防ぐためにポリウレタン系やアクリル系のバックコート樹脂液(接着剤液)を面ファスナー基布裏面に塗布することが不要となる。
【0042】
前記したように、本実施形態の面ファスナーでは、袋織部が表面側織部と裏面側織部の2層構造となっており、係合素子を有する織部の反対側の面(すなわち袋織部の袋内側の面)に接着剤液を塗布することが実質的に不可能である。しかし、緯糸として熱融着糸を用いた場合には、従来のバックコート樹脂液を塗布する技術を採用することが不可能であったのが、熱融着性繊維を含む緯糸を用いることによりバックコート樹脂液を塗布することなく、係合素子用糸を基布に強固に固定することが可能となり、バックコート樹脂液を塗布する従来技術では得ることのできない、係合素子が存在している袋織部を有する面ファスナーが得られる。
【0043】
緯糸に代えて経糸に熱融着性繊維を用いることにより係合素子用糸を基布に固定することも可能であるが、係合素子用糸は経糸に平行に基布に打ち込まれることから、経糸は係合素子用糸と交差する箇所が緯糸に比べてはるかに少ない。したがって熱融着性繊維を経糸にのみ用いた場合には係合素子用糸が基布に強固に固定され難い。さらに経糸に熱融着性繊維を用いた場合には、面ファスナーを連続生産する上で、経糸方向に走行する基布に掛かる張力を一定に保つことが難しく、一定品質の面ファスナーを安定に連続生産することが困難となる場合が多い。
【0044】
上記した芯鞘型の熱融着性繊維としては、鞘成分を溶融させて係合素子用糸の根元を基布に強固に固定できるポリエステル系の樹脂からなるものが好ましく、例えば、芯成分は熱処理条件下では溶融しないが鞘成分は溶融する芯鞘型の断面を有するポリエステル系繊維が挙げられる。
【0045】
具体的には、ポリエチレンテレフタレートを芯成分とし、イソフタル酸やアジピン酸等で代表される共重合成分を多量に共重合、例えば15〜30モル%共重合することにより融点又は軟化点を大きく低下させた共重合ポリエチレンテレフタレートを鞘成分とする芯鞘型ポリエステル繊維が代表例として挙げられる。鞘成分の融点または軟化点としては100〜210℃であり、かつ経糸や芯成分や係合素子用糸を構成する繊維の融点より20〜150℃低いのが好ましい。芯鞘型熱融着性繊維の断面形状としては、同心芯鞘であっても、偏心芯鞘であっても、あるいは1芯芯鞘であっても、多芯芯鞘であってもよい。あるいは、芯成分が鞘成分により完全に覆われていない、あるいは単に並列しているだけのような形状でもよい。
【0046】
さらには、緯糸を構成する繊維中に占める芯鞘型熱融着性繊維の割合は、特に緯糸の全てが実質的に芯鞘型の熱融着性繊維で形成されている場合、つまり緯糸が芯鞘型の熱融着性のフィラメントからなるマルチフィラメント糸である場合には、係合素子用糸が強固に基布に固定されることとなるため好ましい。
【0047】
緯糸を構成する繊維が芯鞘断面形状ではなく、繊維断面の全てが熱融着性のポリマーで形成されている場合には、溶けて再度固まった熱融着性ポリマーは脆く割れ易くなり、縫製した場合等は縫糸部分から基布が裂け易くなる。したがって、熱融着性繊維は、熱融着されない樹脂を含んでいることが好ましく、芯鞘の断面形状を有していることが好ましい。そして、芯成分と鞘成分の重量比率は20:80〜80:20の範囲、特に40:60〜60:40の範囲が好ましい。
【0048】
次に係合素子用糸としては、係合素子がフック状係合素子である場合には、軽い力ではフック形状が伸展されない、いわゆるフック形状保持性と剛直性が求められ、そのために太い合成繊維製のモノフィラメント糸が用いられる。糸として好ましくは、フック形状保持性に優れたポリエチレンテレフタレート系ポリエステルまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから形成され、かつ上記熱融着性繊維を熱融着させる際の温度では溶融しないポリエステルからなるモノフィラメント糸が用いられる。
【0049】
このようなポリエチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルからなるフック状係合素子用モノフィラメント糸の太さとしては、直径0.14〜0.25mmのものが十分な係合力を得られる点で好ましく、より好ましくは直径0.16〜0.22mmのものである。そして、係合力を高めるために、該モノフィラメントの断面形状を、三角や四角等の多角形で代表される異形断面形状であってもよい。
【0050】
係合素子がループ状係合素子である場合にも、フック状係合素子と同様にポリエチレンテレフタレート系ポリエステルまたはポリブチレンテレフタレート系ポリエステルから構成され、かつ上記熱融着性繊維を熱融着させる際の温度では溶融しないポリエステルからなるマルチフィラメント糸が好ましい。特にポリブチレンテレフタレートからなるマルチフィラメントの場合には、ループがバラけ易く、かつループが倒れ難いことから好ましい。ループ状係合素子用糸を構成するマルチフィラメント糸の太さとしては、5〜12本のフィラメントからなるトータルデシテックスが150〜400デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましく、特に6〜9本のフィラメントからなるトータルデシテックスが200〜300デシテックスであるマルチフィラメント糸が好ましい。
【0051】
以上に述べた経糸、緯糸および係合素子用糸から、上記したような袋織部を有する面ファスナーが形成される。
【0052】
なお、本発明には、上述したような経糸、緯糸および係合素子用糸から、上記したような袋織部を有する面ファスナーを形成する製造方法も包含される。
【0053】
すなわち、本発明の面ファスナーの製造方法は、経糸、緯糸および係合素子用糸から構成された基布の表面に該係合素子用糸からなる係合素子が形成されている面ファスナーの製造方法であって、基布に、表面側織部と裏面側織部の2層の織物からなる袋織部を設けること、袋織部を、表面側織部を構成している緯糸と裏面側織部を構成している緯糸が繋げて形成すること、または、袋織部以外の織部では単層織部を形成していた緯糸または経糸が表面側織部を構成している糸と裏面側織部を構成している糸に分けて形成すること、袋織部の表面側織部の外側表面に係合素子を設けること、並びに、係合素子用糸を緯糸に含まれた熱融着性繊維により基布に固定すること、を含む。各工程については、後述の通り、従来の装置を用いて実施可能である。
【0054】
本実施形態で規定するような、係合素子を有する袋織部を有する面ファスナー、場合によりその緯糸方向あるいは経糸方向の隣に存在している単層織部からなる面ファスナーは、経糸用の綜絖枠の往復運動を電気信号によって制御された装置、いわゆる電子ドビー装置を用いることにより容易に製造される。
【0055】
すなわち、綜絖枠の往復運動を電気信号によって制御することで、袋織部と単層織部が繰り返し存在している織物が形成される。あるいは表面側織部に挿入した緯糸が折り返して挿入点に戻ってきた際に続いてその点で折り返して裏面側織部の緯糸として挿入することにより表面側織部を構成している緯糸と裏面側織部を構成している緯糸が繋がっているようにすることができる。この緯糸挿入を緯糸方向両端から行うことにより袋織部が形成される。なお、同一層で帰っていく緯度の折り返し部は絡み糸により止めてもよい。
【0056】
通常面ファスナーを織成する場合、係合素子糸および経糸を配置し、そして係合素子糸および経糸が上下運動をするごとに、その上下に分けられた係合素子糸および経糸の間に緯糸を挿入されることを繰り返すことで織物になる。そして、本実施形態では、係合素子糸および経糸の上下運動の規則性の組合せにより、緯糸および経糸は上下2層に分けられた袋織になったり、単層織となったりする。
【0057】
なお、上下2層に分けられた織物の場合であっても、上記したように1本のつながった緯糸で上下2層が構成されていることにより、織成された織物の緯糸方向の両端がつながり表面側織部と裏面側織部からなる袋織部が形成される。
【0058】
本実施形態おいて、袋織部と単層織部が繰り返し存在させる場合は、1周期の組織に要する緯糸を打ち込む回数が100回以上になる場合がある。一般的なカムドビー装置やチェーンカードドビー装置では、数十回の緯糸打ち込み周期が物理的限界であるため、100回以上の緯糸打ち込み周期の組織では電子ドビー装置が有効になる。
【0059】
この際、経糸に平行に打ち込まれる係合素子用糸は上層のみ、下層のみ、あるいは上下両層に含まれるように分けられる。係合素子用糸が上層のみの場合には、表面層織部のみに係合素子を有する面ファスナーが得られ、下層のみの場合には裏面側織部のみに係合素子を有する面ファスナーが得られ、上下2層に分けられた場合には、表面側織部と裏面側織部の両方に係合素子を有する面ファスナーが得られる。また、ループ状係合素子用糸が上層のみに、そしてフック状係合素子用糸が下層のみの場合には、表面側織部にループ状係合素子を有し、裏面側織部にフック状係合素子を有する面ファスナーが得られる。
【0060】
袋織部は、表面側織部と裏面側織部の経糸密度は、合計で40〜90本/cmが好ましく、また表面側織部の経糸本数と裏面側織部の経糸本数の比は1:3〜3:1が好ましい。表面側織部の緯糸密度は14〜24本/cm、裏面側織部の緯糸密度は14〜24本/cmが好ましく、表面側織部の緯糸本数と裏面側織部の緯糸本数の合計本数は、単層織部の緯糸本数と通常同一である。
【0061】
係合素子用糸は、織物中に経糸と平行に存在しつつ、組織の途中で基布面から立ち上がり、フック面ファスナーの場合にはループを形成しつつ経糸を1〜3本飛び越えて経糸間にもぐり込むような織組織で、一方、ループ型面ファスナーの場合には経糸を跨ぐことなくループを形成し、経糸にほぼ平行に存在している織組織が、さらにフック・ループ混在面ファスナーの場合にはこれら両者をともに満足するような織組織が、フック状係合素子用ループの片足側部を効率的に切断でき、かつ係合素子用糸が基布に強固に固定され、さらにフック状係合素子とループ状係合素子が係合し易いことから好ましい。
【0062】
フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の打ち込み本数は、それぞれ、経糸20本に対し3〜7本程度が好ましい。フック状係合素子とループ状係合素子が同一面上に混在している面ファスナーの場合には、フック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の合計で経糸20本に対して5〜9本が好ましく、そしてフック状係合素子用モノフィラメント糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸の本数比が1:1〜1:3の範囲が好ましい。
【0063】
そして、単層織り部を有する場合には、袋織部の緯糸方向端部あるいは経糸方向端部において、表面側織部を構成していた緯糸と裏面側織部を形成していた緯糸が、あるいは表面側織部を構成していた経糸と裏面側織部を形成していた経糸が再度合体され、その状態で経糸あるいは緯糸が打ち込まれ単層織部となる。そして、必要により(例えば袋織部の幅によって)、この単層織部と袋織部が緯糸方向あるいは経糸方向に繰り返される。このように本実施形態の面ファスナーでは、袋織部の表面側織部と裏面側織部を構成する緯糸または経糸とその隣に存在している単層織部を構成している緯糸または経糸が共通であること、あるいは袋織部の表面側織部と裏面側織部を構成している緯糸が繋がっていることから、従来の袋織部を有する面ファスナーのように、袋織部が面ファスナーから剥離し易いという問題を生じない。なお、袋織部の表面側織部と裏面側織部をより剥離しにくくさせたい場合は、太い緯糸を用いたり、強い緯糸を用いたり、あるいは緯糸の打ち込み密度本数を多くするのが効果的である。
【0064】
特に、図4に示すように、経糸方向にも単層織部が形成されていることにより、袋織部に底部あるいは蓋部を形成することとなり、棒状体に袋織部を被せることができたり、あるいは袋織部をポケット状の収納部とすることができる。例えばICチップをこの収納部に収納して、面ファスナーを物品や衣服に取り付けた面ファスナーと係合させることより、商品管理や人の管理ができる。
【0065】
このように織られた面ファスナー用織物は、次に緯糸の熱融着性繊維を熱溶融させるために加熱される。この際に、熱融着性繊維のみが熱溶融する温度、好ましくは160〜210℃の温度が用いられる。なお、袋織部の表面側織部と裏面側織部においても、経糸と溶融した融着糸は、織られて挟み込まれ接触している経糸にのみへの点接着に近いため、緯糸を熱融着させる際に、袋織部の表面側織部と裏面側織部が熱融着により両織部が接着されて単層となることがない。
【0066】
そして、係合素子がフック状係合素子である場合には、フック状係合素子用ループの片足を切断してフック状係合素子とする。片足切断は、通常のバリカン状の切断機が用いられる。
【0067】
本実施形態の面ファスナーにおいて、係合素子が存在している部分の係合素子密度としては15〜30本/cm2が好ましい。また係合素子の高さとしては、1.3〜3.0mmの範囲が好ましい。
【0068】
本実施形態において、袋織部の表面側織部に係合素子が存在していることが必要であり、これにより取り付け対象物に安定的に強固に係止することができる。さらに単層織部や裏面側織部にも係合素子を存在させたり、または係合素子をフック状係合素子、ループ状係合素子、もしくはフック状係合素子とループ状係合素子の両方とする等の変更を行ったりすることにより新たな利用用途が色々と広がることとなる。
【0069】
本実施形態の袋織部を有する面ファスナーの該袋織部に棒状体や紐状体を挿入することにより、棒状体や紐状体の周囲に面ファスナーを固定することが容易にできることとなる。このような、棒状体や紐状体は、もう一方の面ファスナーを固定したシートや板状物や布帛に取り付けることができ、例えば立看板や間仕切り、テント拡張材等として使用できる。また袋織部に電線等を挿入し、壁面等にもう一方の面ファスナーを取り付けると電線固定具として使用できる。
【0070】
さらに前記したように、袋織部にICチップ等の電子部品を挿入固定することにより、商品管理や人管理等にも活用できる。また本実施形態の袋織部を有する面ファスナーは、袋織部に柄を差し込むことにより、各種ブラシや刷毛としても使用できる。また、傘の骨部に本実施形態の袋織部を有する面ファスナーを取り付け、もう一方の面ファスナーを傘の生地に取り付けることにより、好みにより色や柄を変えることが可能な傘としても使用できる。
【0071】
さらに、工事現場の足場を覆う養生シートの固定等にも使用できる。さらに袋織部に保温剤や冷却剤等を挿入し、容器や人体に取り付けることもできる。
【0072】
本明細書は、上述したように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
【0073】
すなわち、本発明の一つの局面は、経糸、緯糸および係合素子用糸から構成された基布の表面に該係合素子用糸からなる係合素子が形成されている面ファスナーにおいて、以下の構成1)〜4)を満足していることを特徴とする袋織部を有する面ファスナーに関する。
1)基布が、表面側織部と裏面側織部の2層の織物からなる袋織部を有していること、
2)表面側織部を構成している緯糸と裏面側織部を構成している緯糸が繋がって袋織部を形成しているか、あるいは袋織部以外の織部では単層織部を形成していた緯糸または経糸が表面側織部を構成している糸と裏面側織部を構成している糸に分かれて袋織部を形成していること、
3)袋織部の表面側織部の外側表面に係合素子が存在していること、
4)緯糸に熱融着性繊維が含まれており、係合素子用糸が熱融着性繊維により基布に固定されていること。
【0074】
このような構成により、袋織部の幅が狭いものに限定されることなく、袋織部の幅の狭いものから幅の広いものまで自由に製造でき、しかも、袋織部の表面にも係合素子が存在させることが可能な面ファスナーを提供することができる。さらに袋織部が面ファスナーの裏面から剥離することがない袋織部を有する面ファスナーを提供することが可能となると考えられる。
【0075】
上記の面ファスナーにおいて、経糸、緯糸および係合素子用糸がともにポリエステル系繊維から形成されていることが好ましい。熱や吸水・吸湿により波打ち(面ファスナーの基布面が不規則に上下して、水平な面とならない状態)を生じないことや、さらに熱融着性に優れているという観点からである。
【0076】
また、上記の面ファスナーにおいて、袋織部の経糸方向または緯糸方向の隣に単層織部が存在しており、前記袋織部と前記単層織部の面積比率が55:45〜98:2であることが好ましい。それにより、袋織部分に物品を挿入する際に袋部の間口が広げやすい、また破断強度や引裂き強度と係合性を両立することが可能という利点がある。あるいは、面ファスナーの縁に単層織部を上記範囲とすることで縁から破れにくく、縁の近傍にある係合素子が破損しにくくなる、さらには単層織部で縫製しやすいといった利点がある。
【0077】
さらに、上記の面ファスナーにおいて、裏面側織部の外側表面または単層織部の片面もしくは両面に係合素子が存在していることが好ましい。それにより、係合素子部が存在する面積が大きくなり、袋織部に物品が挿入された状態でも面ファスナーとして機能するといった利点がある。
【0078】
また、上記の面ファスナーにおいて、袋織部に存在する係合素子がループ状係合素子もしくはフック状係合素子、またはループ状係合素子とフック状係合素子の両者であることが望ましい。それにより、袋織部を有する面ファスナーの係合相手となる面ファスナーを選ぶ必要がないといった利点がある。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明を説明する。なお、実施例中の係合強力はJIS L 3416により測定し、ループ状係合素子の場合には、係合相手となるフック状面ファスナーとして、クラレファスニング社製のフック面ファスナーを使用し、フック状面ファスナーの場合には、係合相手となるループ状面ファスナーとして、クラレファスニング社製のループ面ファスナーを使用して測定した。
【0080】
(実施例1)
面ファスナーの基布を構成する経糸、緯糸およびループ状係合素子用マルチフィラメント糸として次の糸を用意した。
【0081】
[経糸]
・融点260℃のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント糸
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:167dtexで30本
【0082】
[緯糸(芯鞘型複合繊維からなるマルチフィラメント系熱融着糸)]
・芯成分:ポリエチレンテレフタレート(融点:260℃)
・鞘成分:イソフタル酸25モル%共重合ポリエチレンテレフタレート
(軟化点:190℃)
・芯鞘比率(重量比): 70:30
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:116dtexで24本
[ループ状係合素子用マルチフィラメント糸]
・ポリブチレンテレフタレート繊維(融点:220℃)
・トータルデシテックスおよびフィラメント本数:265dtexで7本
【0083】
上記3種の糸を用い、織機として電子ドビー織機を使用し、袋織部として図7に示す織組織を用いて、袋織部を有する面ファスナーを製造した。緯糸の密度は、袋織部の表面側織部と裏面側織部でともに32本/cmであり、経糸の密度は、袋織部の表面側織部と裏面側織部でともに65本/cmであった。
【0084】
袋織部では、緯糸は表面側織部に1回打ち込まれた後、次に同一の糸が裏面側織部に打ち込まれることで、表面側織部と裏面側織部に別れて織成されることになるが、緯糸はつながった糸であるため、面ファスナーの左右両耳となる部分ではつながることになるため、織られた面ファスナーは筒状となっている。なお、織条件において表面側織部と裏面側織部の打ち込み本数を設定する場合は、表面側織部の平織りと裏面側織部の平織りに分けて交互に緯糸を打ち込むため、一般的に用いられる平織組織と比べると2倍に近い設計にした。
そしてループ状係合素子用糸は経糸と平行に織り込まれ、本数は経糸4本に1本の割合で袋織部となる箇所に並列させ、表面側織部のみにループ状係合素子を形成した。
【0085】
そして、袋織部の表面側織部にはループ状係合素子が素子密度40個/cm2の密度で存在しており、ループ状係合素子の基布面(すなわち表面側織部表面)からの高さは2.5mmであった。なお、ループ状係合素子は、面ファスナー用織物を織り上げた後で、緯糸の鞘成分のみが溶融する200℃に加熱処理することによりループ状係合素子用糸を織物に固定した。得られた面ファスナーのせん断係合強力は8N/cm2、剥離係合強力は1N/cmであり、面ファスナーとして、優れたものであった。
【0086】
なお、本実施例では、織成、加熱処理、そして最後の巻取りまでを一つに連なった装置を用いて実施した。
【0087】
得られた面ファスナーは、袋織部の表面側織部にループ状係合素子が存在しており、袋織部の表面側織部と裏面側織部を構成する緯糸がつながっていることから、袋織部の裏面側織部が面ファスナーから剥離するということは全くなかった。そして、袋織部の表面側織部と裏面側織部はいずれも布帛の有する柔軟性を有しており、フック面ファスナーの表面形状に自由に沿うことのできるものであった。
【0088】
この面ファスナーの袋織部の内側に電線コードを挿入して、壁面に取り付けたフック面ファスナーと該ループ状係合素子と係合させることにより、電線コードを壁面に固定した。取り付けられた電線コードは、取り外しが必要なときには、面ファスナーをフック面ファスナーから剥がすことにより、自由に取り外すことができた。
【0089】
また得られた袋織部を有する面ファスナーの袋織部にICチップを挿入し、袋部の入口と出口を熱融着により閉じることにより、ICチップ内臓面ファスナーを作製した。このICチップ内臓面ファスナーを、ダンボール箱の外側に取り付けたフック面ファスナーに係止することにより、ダンボール箱に固定し、ICチップに記憶させた情報を管理することによりダンボール箱の管理が容易となった。
【0090】
(実施例2)
上記実施例1において、裏面側織部にもループ状係合素子が存在するように、裏面側織部用織組織として図8に示す組織を使用し、それ以外は実施例1と同様にして、袋織部の表面側織部と裏面側織部の両面にループ状係合素子を有する袋織部を有する面ファスナーを製造した。
【0091】
得られた袋織部を有する面ファスナーは、袋織部の表面側織部と裏面側織部を構成する緯糸が1つにつながっていることから、袋織部の裏面側織部が面ファスナーから剥離するということは全くなかった。さらに、袋織部が存在していることにより、面ファスナーの柔軟性が損なわれているということもなかった。
【0092】
この袋織部を有する面ファスナーを緯糸方向に切断し、筒状の空間部を有する面ファスナーを得た。筒状空間部に柄を挿入して、衣服用のエチケットブラシとして使用したところ、衣服に付着した繊維屑や埃等が簡単に落とせるものであった。
【0093】
(実施例3)
上記実施例1において、ループ状係合素子用糸を下記のフック状係合素子用糸に置き換え、織り組織もフック状係合素子形成部分で経糸を2本、図7において符号7−2と7−3の経糸を跨ぐように織り、そして熱処理後にフック状係合素子用ループの片脚を切断する以外は実施例1と同様にして、袋織部の表面側織部にフック状係合素子を有している袋織部を有する面ファスナーを製造した。
フック状係合素子用糸:ポリエチレンテレフタレート繊維(融点:260℃)
繊度:390デシテックス(直径:0.19mm)
【0094】
得られた袋織部を有する面ファスナーは、袋織部の表面側織部と裏面側織部を構成する緯糸が1つにつながっていることから、袋織部の裏面側織部が面ファスナーから剥離するということは全くなかった。さらに、袋織部が存在していることにより、面ファスナーの柔軟性が損なわれているということもなかった。
【0095】
得られた面ファスナーのせん断係合強力は8N/cm2、剥離係合強力は1N/cmであり、極めて優れたものであった。得られた袋織部を有する面ファスナーを緯糸方向に切断し、筒状の空間部を有する面ファスナーを得た。
【0096】
この筒状の空間部に金属製の支柱を挿入し、この金属性の支柱を複数本床面に直立させ、ループ面ファスナーを端部に取り付けたベルトをパーティションベルトして用い、前記金属性支柱の面ファスナーに係合させることにより支柱間にベルトを掛けたところ、多少ベルトに力がかかっても係合が外れることなく、また支柱間距離を自由に変更できる、極めて使い勝手のよいパーティションであった。
【0097】
(実施例4)
上記実施例1において、経糸方向に図9に示す組織を用いた単層織部を経糸方向に組み合わせて形成した。くわしくは、経糸方向長さ5cmの上記実施例1袋織部と、経糸方向長さ6mmの単層織部が、経糸方向に繰り返して存在するように形成し、そして緯糸方向にも、巾5cmの上記実施例1袋織部と、耳部となるようループ状係合素子糸を抜いた巾6mmの図9に示す組織を用いた単層織部を並列に並ぶよう形成した。図7図9における組織の違いは、経糸が緯糸より浮き上がっている部分と緯糸より沈み込んだ部分の配列が緯糸1本分ずれていることにある。
【0098】
図7においては、符号7−1の経糸列は緯糸より沈み込んだ符号9の部分が3回連続して緯糸を打ち込んだのち、経糸が緯糸より浮き上がった符号10の部分が緯糸1回分打ち込まれている。そしてその右隣にある符号7−2の経糸列では、経糸が緯糸より浮き上がった符号10の部分が3回連続して緯糸を打ち込んだのち、経糸が緯糸より沈み込んだ符号9の部分が緯糸1回分打ち込まれている。そして図7にあるように、例えば符号9が3回分連続して緯糸を打ち込む1本目に、その隣となる経糸の符号9となる部分がかさなることで、経糸方向列からみても緯糸方向列からみても、経糸が緯糸に対して上下1対3に分かれることになる。そして図10にあるように、緯糸より浮き上がる経糸と緯糸より沈み込む経糸の本数の割合が1対3と3対1を交互に繰り返すことで、符号7−1の経糸列と符号7−4の経糸列が裏面側織部となる下の層の平織り部分を形成し、符号7−2の経糸列と符号7−3の経糸列が表面側織部となる上の層の平織り部分を形成することになり、上下2層に分かれた平織り組織となる。そして、つながった緯糸が織成された織物の巾方向の両端で折り返されるため筒状となる袋織組織となる。
【0099】
また、図9に示すような、符号9となる部分または符号10となる部分が緯糸の打ち込み3回連続分の2本目の隣に重なると、図11にあるように経糸が上下2対2に分かれる組織になる。そして経糸が上下2対2に分かれる組織では上下2層に分かれた平織りにはならないため、袋織にはならずに厚めの単層織物となる。しかしながら、経糸1列のみの組織をみた場合、例えば符号7−1または7−4の経糸は、沈み込んだ部分が3回連続して緯糸を打ち込んだのち、経糸が緯糸より浮き上がった部分が緯糸1回分打ち込まれているなど、袋織組織に近いため、緯糸の打ち込み密度本数は袋織と変わらない本数が可能である。
【0100】
したがって実施例4においては、経糸方向長さ5cm分は図7に示す組織を用い、経糸長さ方向6mm分は図9に示す組織を用いることで、袋織部の経糸方向長さ5cm毎に、経糸方向長さ6mmの単層織部を形成し、そして緯糸方向にも、巾5cm分は図7に示す組織を用い、巾6mm分は図9に示す組織を用いることで巾5cmの袋織部と、耳部となるようループ状係合素子糸を抜いた巾6mmの単層織部を並列に並ぶよう形成し、袋織部と単層織部を組み合わせた面ファスナーを形成した。
【0101】
この袋織部を有している面ファスナーは、袋織部が存在していることにより面ファスナーの柔軟性が損なわれているということはなく、袋織部の表面側織部と裏面側織部を構成する緯糸とその隣に存在している単層織部を構成している緯糸が共通であることから、袋織部の裏面側織部が面ファスナーから剥離するということは全くなかった。そして、袋織部と単層織部の緯糸打込密度がほとんど変わらないため、巾方向に袋織部と単層織部が並列しても、緯糸密度差による耳部が波打ったような外観の変形はほとんどみられなかった。
【0102】
この面ファスナーの袋織部の経糸方向中間部を切断して、さらに経糸方向の単層織部の経糸方向中間部で切断することにより、開口部を有するポケット状の面ファスナーを製造した。このポケット状面ファスナーを壁面に固定したフック面ファスナーに取り付けることにより、壁面収納具として使用できた。
【0103】
この出願は、2015年3月12日に出願された日本国特許出願特願2015−49045を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0104】
本発明を表現するために、前述において図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、面ファスナーの技術分野において、広範な産業上の利用可能性を有する。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11