特許第6694876号(P6694876)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6694876硫酸塩の使用、および成形機における成形により鋼部品を製造するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694876
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】硫酸塩の使用、および成形機における成形により鋼部品を製造するための方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 103/00 20060101AFI20200511BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20200511BHJP
   B21D 37/18 20060101ALI20200511BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20200511BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20200511BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20200511BHJP
   C10N 10/16 20060101ALN20200511BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20200511BHJP
   C10N 40/24 20060101ALN20200511BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20200511BHJP
   C10N 50/08 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
   C10M103/00 Z
   B21D22/20 A
   B21D37/18
   C09D1/00
   C10N10:06
   C10N10:04
   C10N10:16
   C10N30:06
   C10N40:24
   C10N50:02
   C10N50:08
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-513483(P2017-513483)
(86)(22)【出願日】2015年8月19日
(65)【公表番号】特表2017-534700(P2017-534700A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】EP2015069018
(87)【国際公開番号】WO2016037814
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2018年8月15日
(31)【優先権主張番号】14184415.9
(32)【優先日】2014年9月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
(73)【特許権者】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ロシュターク,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ティマ,クリスティアン
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2004/0255818(US,A1)
【文献】 英国特許出願公告第00739313(GB,A)
【文献】 ソ連国特許発明第01204283(SU,A)
【文献】 特開昭58−177450(JP,A)
【文献】 特開平10−141869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
B21D 22/20
B21D 37/18
C09D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形機における成形時の平鋼製品のトライボロジー特性を改善するためのコーティング材料としての2つの成分からなる水溶液の使用であってそのうちの一方の成分は、溶媒としての水であり、他方の成分は、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、および硫酸マグネシウムからなる群から選択される硫酸塩である、使用。
【請求項2】
前記硫酸塩が、硫酸アルミニウム(III)、硫酸アンモニウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、および硫酸マグネシウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記コーティング材料から生成された層が、水溶性であることを特徴とする、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
成形機において平鋼製品を成形することにより鋼部品を製造するための方法であって、
前記平鋼製品を提供するステップと、
2つの成分からなる水溶液として塗布されるコーティング材料であって、そのうちの一方の成分は、溶媒としての水であり、他方の成分は、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、および硫酸マグネシウムからなる群からの硫酸塩である、コーティング材料でコーティングすることにより、成形中に互いに接触する前記平鋼製品または成形に使用される前記成形機の表面の少なくとも1つの上に、トライボロジー的に活性な層を生成するステップと;
前記平鋼製品を前記成形ツール内に挿入するステップと;
前記成形機内に挿入された前記平鋼製品を成形して、前記部品を得るステップと
を含む方法。
【請求項5】
前記硫酸塩が、硫酸アルミニウム(III)、硫酸アンモニウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、および硫酸マグネシウムからなる群から選択されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記成形が、冷間成形として行われることを特徴とする、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
前記トライボロジー的に活性な層が、前記平鋼製品上に生成されることを特徴とする、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記溶媒が、蒸留水であることを特徴とする、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液中の前記トライボロジー的に活性な構成物質の量が、0.2〜1mol/l(SO2ーイオン濃度を基準とする)であることを特徴とする、請求項4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
コーティングされる前記平鋼製品上または前記成形ツールの表面上前記コーティング材料によって生成される前記活性な層が、5〜50mg/mのコーティング量で塗布されることを特徴とする、請求項4からのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記トライボロジー的に活性な層によるコーティング後の前記平鋼製品の摩擦係数が、0.15以下であることを特徴とする、請求項4から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記平鋼製品が、塗布された腐食防止制御コーティングを有すること、および前記トライボロジー的に活性な層が、前記腐食防止制御コーティングに塗布されることを特徴とする、請求項4から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記トライボロジー的に活性な層が、室温で塗布されることを特徴とする、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、および硫酸マグネシウムからなる群からの硫酸塩の使用に関する。
【0002】
同様に、本発明は、成形機において平鋼製品を成形することにより部品を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
部品を得るための成形において、成形される各平鋼製品は、成形機内に挿入され、次いで当該成形機により成形されて各部品が得られる。この成形は、冷間成形として、すなわち平鋼製品の各鋼の再結晶温度未満の温度での成形として、または熱間成形として、すなわち再結晶温度より上の操作温度での成形として実行され得る。
【0004】
この種の成形操作の1つの典型的な例は、成形される平鋼製品がパンチを用いてダイ内に圧縮される深絞りである。ここで、ダイおよびパンチの形状は、成形操作の結果として平鋼製品が受ける形態を決定付ける。
【0005】
任意の成形操作において、その都度、成形される製品と成形に使用される成形ツールとの間に相対的な動きが存在する。同時に、製品の表面と成形ツールの対応する表面との間に接触が存在する。ツールと成形される製品との間に発生するトライボロジー系は、成形される製品およびツールの物理的特性により、また成形される製品とツールとの間に存在する媒体により決定される。成形ツールと、成形ツールに接触する成形される製品との間の相対的な動きの結果、摩擦が生じる。
【0006】
特に、平鋼製品の成形において、成形の間、平鋼製品の材料が部分で異なるように変形され、したがって、変形中に平鋼製品の材料がまた局所的に異なる程度で流動するため、この摩擦は、局所的に大きく異なる可能性がある。したがって、特に、一般的に高い成形度が得られ、複雑な形状がモデル化される深絞りまたは同等の冷間成形操作による、複雑な形状の部品の製造において、静止摩擦および滑り摩擦が交互に生じ得る劇的に変化する摩擦条件が存在する。
【0007】
特に、冷間成形の場合に生じる摩擦力は、成形操作の連続運転を中断し得、また成形されている特定の部品の不正確な成型をもたらすのに十分高くなり得る。同時に、不可避の摩擦が、著しいツールの磨耗をもたらす。
【0008】
この点に関して、腐食または他の環境の影響からの保護を提供する亜鉛系またはアルミニウム系保護コーティングが実際の平鋼製品に塗布されている平鋼製品が、特に重要であることが分かっている。
【0009】
成形中の摩擦により誘引される有害な効果を軽減するために、実際には、成形操作中に互いに接触する表面に潤滑剤が施される。好適なコーティング材料の使用により、成型ツールを保護することが可能であり、したがってツールの寿命を実質的に延長することが可能である。このために、潤滑剤は、成形される平鋼製品、および平鋼製品と接触するツールの表面の両方に塗布され得る。
【0010】
冷間成形用の潤滑剤として慣例的に使用されるのは、鉱物油をベースとした潤滑剤であり、これには、硫黄含有、リン含有または塩素含有アジュバント等、その潤滑効果を最適化するために様々な添加剤が添加され得る。成形技術におけるトライボロジーの詳細な説明は、Prof.Dr.−Ing.Fritz Klocke、Prof.em.Dr.−Ing.Dr.h.c.mult.Wilfried Konigによる、「Fertigungsverfahren」[製造プロセス]概要(第5版、2006、Springer−Verlag Berlin Heidelberg)の第4巻「Umformen」[成形]のセクション2.8に見られる。
【0011】
鉱物油または同様の炭化水素をベースとした冷間成形用のコーティング材料の例は、独国特許出願公開第10115696号に記載されている。これらのコーティング材料は、パラフィンもしくはナフテンベースの潤滑剤、または植物もしくは動物ベースのエステル油を含む。
【0012】
さらに、独国特許出願公開第102008016348号は、成形される特定の平鋼製品への塗布に意図され、鉱物油中のグラファイトをベースとした低摩擦コーティングを説明している。高い加工温度において、この低摩擦コーティングは、加工ツール間の金属の効果的な摺動を確実にすると言われている。
【0013】
独国特許出願公開第10007625号は、炭酸エステルをベースとしたコーティング材料を開示している。コーティング材料は、モノ−またはオリゴリン酸のモノエステルおよび/またはジエステル、トリグリセリド、ならびに脂肪酸メチルエステルの群から選択される1つまたは複数の成分を含む。これらの成分は、特に、鉱物油炭化水素または他の石油蒸留物の代替物として機能することが意図される。
【0014】
最後に、DE69906555T1(国際特許出願公開第00/15878号のドイツ語翻訳文)は、亜鉛めっき鋼板に水酸化硫酸亜鉛の層を塗布するための方法を説明している。層は、溶液の形態で平鋼製品に塗布され、溶液のpHは、12以上であるが、13未満である。溶液は、表面の陽極分極により、平鋼製品の亜鉛めっき表面に塗布される。このようにして生成された層は、「塩基性硫酸亜鉛」とも呼ばれる水酸化硫酸亜鉛からなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】独国特許出願公開第10115696号
【特許文献2】独国特許出願公開第102008016348号
【特許文献3】独国特許出願公開第10007625号
【特許文献4】DE69906555T1
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Prof.Dr.−Ing.Fritz Klocke、Prof.em.Dr.−Ing.Dr.h.c.mult.Wilfried Konigによる、「Fertigungsverfahren」[製造プロセス]概要(第5版、2006、Springer−Verlag Berlin Heidelberg)の第4巻「Umformen」[成形]のセクション2.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
先行技術の背景に対して、本発明の目的は、一方では、最少の潤滑剤必要量で平鋼製品の成形における最適なトライボロジー条件を可能にし、他方では、環境に対するその影響に関して異論のないコーティング材料を特定することであった。
【0018】
また、高い効率および最小化された環境負荷で冷間成形により平鋼製品から部品が製造され得る方法を特定することが意図された。
【課題を解決するための手段】
【0019】
コーティング材料に関して、この目的は、成形機における成形時の平鋼製品のトライボロジー特性を改善するためのコーティング材料としての、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、および硫酸マグネシウムからなる群から選択される硫酸塩の、請求項1に指定されるような使用により達成された。
【0020】
方法に関して上記で特定された目的の本発明による達成は、鋼部品の製造において請求項4に指定されるステップを行うことにある。
【0021】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に指定され、本発明の一般概念と共に以下で詳細に説明される。
【0022】
本発明の理解によれば、「平鋼製品」という用語は、その長さがその厚さよりもはるかに大きい全ての圧延製品を包含する。それらは、鋼ストリップおよび板を含み、またそれらから得られるブランクおよびビレットも含む。
【0023】
本発明による冷間成形用の平鋼製品は、特に、いわゆる薄板を包含し、これは、4mm未満、より具体的には0.4〜3.5mm、典型的には0.5〜3mmの厚さを有する板であり、これが冷間圧延または熱間圧延状態で成形されて部品を得ることができる。典型的には冷間成形用の薄板として想定される問題の種類の平鋼製品の概要は、DIN EN 10130(コーティングされていない薄板)およびDIN EN 10346(腐食防止コーティングを備える薄板)により提供される。ここで、例は、材料番号1.0226、1.0350、1.0355、1.0306、1.0322、1.0853を有する成形用軟鋼を含む。
【0024】
驚くべきことに、平鋼製品用のコーティング材料としての本発明に従って想定される硫酸塩は、平鋼製品の成形中のトライボロジー条件の大幅な改善をもたらすことが分かった。したがって、コーティング材料としての使用のための本発明に従って選択される硫酸塩により、冒頭において示された種類の従来の潤滑剤で達成された特性に匹敵する潤滑特性を達成することが可能である。この効果は、原則として、成形が冷間成形または熱間成形として行われるか否かとは無関係である。コーティング材料として本発明に従って使用される硫酸塩は、平鋼製品の冷間成形において特に効果的であることが分かる。
【0025】
同時に、成形中の摩擦条件を改善するためのコーティング材料として本発明に従って使用される硫酸塩は、高い環境適合性が知られており、問題の平鋼製品に容易に塗布することができる。
【0026】
水に対するその溶解度のために、本発明に従って使用される硫酸塩はまた、変形後に、その都度成形操作後に得られた鋼部品から再び容易に除去することができる。鋼部品上に残留するコーティングの残渣は、成形後、鋼部品の継続する加工において、慣例的に通過する操作に対してせいぜい僅かな干渉しか引き起こさない。
【0027】
実用に特に好適な本発明による特定の硫酸塩コーティング材料は、硫酸アルミニウム(III)、硫酸アンモニウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、および硫酸マグネシウムからなる群からの硫酸塩である。
【0028】
最終的に、硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、および硫酸マグネシウムからなる群からの硫酸塩の、本発明により提案されるような使用により、最適な加工特性および使用特性を有し、また低コストで十分な量で容易に提供され得るコーティング材料が利用可能である。
【0029】
したがって、成形機において平鋼製品を成形することにより鋼部品を製造するための本発明の方法は、
平鋼製品を提供するステップと、
硫酸アルミニウム、硫酸アンモニウム、硫酸鉄、および硫酸マグネシウムからなる群からのコーティング材料でコーティングすることにより、成形中に互いに接触する平鋼製品または成形に使用される成形機の表面の少なくとも1つの上に、トライボロジー的に活性な層を生成するステップと;
平鋼製品を成形ツール内に挿入するステップと;
成形機内に挿入された平鋼製品を成形して、部品を得るステップとを含む。
【0030】
その塗布の容易性のために、本発明の種類の方法におけるコーティング材料としての使用のための本発明に従って想定される硫酸塩は、成形される平鋼部品が成形時に接触する各ツールの表面のコーティングに好適である。したがって、本発明に従って使用される硫酸塩は、噴霧、はけ塗りまたはこれらの目的において実際に既に知られている別の様式で、成形ツールの重要表面に水溶液として塗布され得る。
【0031】
本発明の工業用途において、問題の平鋼製品がその製造の間にコーティング材料でコーティングされれば、特に有利であることが分かる。その場合、コーティングされる平鋼製品の表面に対する本発明に従って使用される硫酸塩の塗布の容易性および容易な接着は、特に有益である。ここで、潤滑剤としての使用のための本発明により提案される硫酸塩はまた、問題の種類の平鋼製品への有機または無機層の塗布に慣例的に利用可能な種類の従来のコーティング機器を使用して、成形される特定の平鋼製品に塗布され得る。コーティング材料としての各硫酸塩は、適宜ディッピング、噴霧、コーティング、またははけ塗りにより平鋼製品に塗布され得る。
【0032】
平鋼製品の変形中の摩擦状態を改善するためのコーティング材料として本発明に従って使用される硫酸塩の塗布は、これらの硫酸塩が、コーティングされる特定表面を容易に濡らし、したがって特別な対策を全く必要とせずに均一な層を形成することから、特に容易となる。特に、各水溶液が特定の加熱に供される必要がない。その代わりに、本発明による使用に意図される硫酸塩を含む水溶液は、室温で塗布され得る。
【0033】
本発明によるコーティング材料として使用される硫酸塩の塗布は、それらが水溶液の形態で塗布される場合、特に容易である。その後の乾燥操作の後、平鋼部品は、高密度の均一に分布した薄い硫酸塩層を有し、これは、成形操作、特に冷間成形操作中の最適な変形特性を確実とする。
【0034】
これに関して、例えば、本発明に従って使用されるコーティング材料による特定のコーティング操作においてコーティングされる特定表面の効果的な被覆を確実とするための特定のpHを設定するために、先行技術において必要となる種類の添加剤が必要ではないことが分かる。したがって、水溶液が2つの成分からなり、その一方の成分が溶媒としての水であり、他方の成分がトライボロジー的に活性な構成物質としての各硫酸塩であれば十分であることが分かった。ここで、蒸留水が溶媒として使用される場合、これは、外来イオンによりコーティングの機能が妨害され得ないという利点を有する。
【0035】
その都度コーティングされる平鋼製品または成形ツールの表面への、本発明の目的のための十分に厚く高密度のトライボロジー的に活性なコーティングは、水溶液中のトライボロジー的に活性な硫酸塩構成物質の量が、0.2〜1mol/l(SO2−イオン濃度を基準とする)である場合に得られ、水溶液中の本発明に従って提供される硫酸塩構成物質の量が0.4〜0.7mol/l(SO2−イオン濃度を基準とする)である場合、実際に操作上信頼性のある様式で、極めて効果的なコーティングが生成される。
【0036】
本発明によるコーティング材料として提供される硫酸塩の混合物はまた、本発明の様式で平鋼製品に塗布され得る。
【0037】
本発明による使用に提供される硫酸塩コーティング材料の、プラント条件下での信頼性のある効果を確実とするために、コーティングされる平鋼製品上または成形ツールの表面上に各コーティング材料から形成される層は、5〜50mg/mのコーティング量で塗布され得る。コーティング量が10〜30mg/mである場合に、最適な効果が生じる。
【0038】
本発明による使用に意図されるコーティング材料の各表面上での最適な接着を確実とするために、関連表面は、コーティング材料が塗布される前にアルカリ洗浄に供されてもよい。
【0039】
トライボロジー特性を改善するために本発明に従って提供される硫酸塩の塗布は、それぞれコーティングされた表面の摩擦係数を大幅に向上させる。例えば、本発明による使用に提供される硫酸塩から形成された層により、それぞれコーティングされた表面の摩擦係数は、規則的に≦0.15に低減される。
【0040】
これは、特に、平鋼製品が、亜鉛をベースとした保護コーティングを用いたコーティングにより、特に溶融めっきにより腐食防止処理されている場合に達成される。このZn系コーティングは従来、各鋼基板に、純亜鉛層として、Mg、AlまたはSiの割合を含む亜鉛合金層として、例えば電気分解により、または溶融めっきにより塗布することが可能であった。また、平鋼製品が、冷間または熱間成形時のその成形特性を改善するために、本発明の様式でAl系コーティングでコーティングされることも可能である。
【0041】
この目的のために、潜在的に環境に有害な構成物質、複雑な塗布方法等の従来の材料の欠点を受け入れる必要なく、本発明の様式で選択されるコーティング材料により形成されるコーティングは、このように、トライボロジー特性を改善するために慣例的に使用される従来の材料からなるコーティングの摩擦特性に確実に相当する摩擦特性を達成する。
【0042】
以下において、実施例により本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】ストリップ深絞り試験中の硫酸アンモニウム層でコーティングされた亜鉛めっき薄板の表面の摩擦係数の進展を、各接触圧力に対してプロットした図である。
図2】ストリップ深絞り試験中の未処理亜鉛めっき薄板の表面の摩擦係数の進展を、各接触圧力に対してプロットした図である。
図3】ストリップ深絞り試験中の硫酸鉄(II)層でコーティングされた亜鉛めっき薄板の表面の摩擦係数の進展を、各接触圧力に対してプロットした図である。
図4】ストリップ深絞り試験中の硫酸アルミニウム層でコーティングされた亜鉛めっき薄板の表面の摩擦係数の進展を、各接触圧力に対してプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
図において再現された摩擦係数プロファイルは、例えばFritz KlockeおよびWilfried Konigによる「Fertigungsverfahren 4」[製造方法4]概要(Springer−Verlag Berlin Heidelberg、2006(ISBN−13 978−3−540−23650−4))の第5版、第4巻のセクション2.8.7.4において説明されているストリップ深絞り試験において決定された。
【実施例】
【0045】
[実施例1]
Znコーティングを備える薄板ストリップの形態の従来の平鋼製品に、トライボロジー的に活性な硫酸アンモニウム層を塗布した。
【0046】
これは、水溶液を調製することにより行われたが、90gの硫酸アンモニウム((NHSO)を1lの水(蒸留)に溶解し、90g/lの硫酸アンモニウム含量の水溶液を得た。得られた溶液の固有pHは、5.3であった。
【0047】
このように構成された水溶液を、鉄鋼産業で一般的である「Chemcoater」を用いて、事前にアルカリ洗浄に供された薄板平鋼製品に室温で塗布した。
【0048】
「Chemcoater」は、亜鉛めっき品質平鋼への水溶液の形態での塗布のための、鉄鋼産業において化学物質を塗布するために使用されるプラント機器である。そのようなコーティング機は、特に、その後のニスもしくはフィルムコーティングのために、または腐食制御を改善するために、各平鋼製品を前処理するように機能する水溶性媒体を塗布するために使用される。これによって、異なる処理化学薬品が、コーティングされる特定の平鋼製品にローラにより塗布され得る。コーティングが施された平鋼製品は、その後、コーティングが乾燥される炉を通って移動する。
【0049】
硫酸アンモニウム溶液を塗布する際に設定されたパラメータを、表1に報告する。
【0050】
冷間成形機の冷間成形ツール(パンチ/ダイ)における冷間成形(深絞り)時の特性を決定付ける、接触圧縮に対する摩擦係数の進展を決定するために、硫酸アンモニウム層でコーティングされ、PL3802−39Sの名称で入手可能な良好な成形特性を有する従来のバリウム不含チキソトロピック腐食防止剤である従来の油で追加的に潤滑された(潤滑は、1.5g/mの付加量で行われる)、得られた平鋼製品の試料を、ストリップ深絞り試験に供した。この試験において、試料に対して100MPaまでの接触圧力で作用する、材料番号1.2379を有する鋼からなる2つのコーティングされていない制動ジョーの間に、試料を室温で配置した。測定距離は、60mm/minの試験速度で500mm/minであった。ツールと試料表面との間の接触面積は、600mであった。この試験の結果を図1に示す。
【0051】
比較のために、同じ平鋼製品の未処理試料を、以前に調査された試料と同じ条件下で同様にストリップ深絞り試験に供した。この場合に決定された接触圧力に対する摩擦係数のプロファイルを、図2に報告する。ここで再現されたプロファイルは、未処理試料の基板表面が、非常に早い段階で既に「スティックスリップ」効果を示すことを示している。ツールへの損傷を回避するために実験を中断したため、図2に示すプロットは途切れている。このスティックスリップ効果は、静止摩擦が滑り摩擦より大きい場合に生じる現象である。この場合、減衰様式で結合された表面部品は、極めて急速な一連の粘着、固定、分離、および滑りを起こす。摩擦相手が潤滑剤により分離するとすぐに、この効果は消失する。ここで、本発明に従って選択された硫酸塩は、図2図1、または以下で説明される図3および4との比較により実証されるように、特に効果的であることが分かる。
【0052】
[実施例2]
同様にZnコーティングを備える薄板ストリップの形態の従来の平鋼製品に、トライボロジー的に活性な硫酸鉄(II)層を塗布した。
【0053】
この目的のために、189gの硫酸鉄(II)(FeSO)を、1lの完全に脱塩した水に溶解し、189g/lの硫酸鉄含量の水溶液を得た。得られた溶液の固有pHは、2.2であった。
【0054】
実験1の場合のように、既に上述したコーティング機を使用して、事前にアルカリ洗浄に供された平鋼製品に水溶液を室温で塗布した。この場合の塗布パラメータも、表1に報告する。
【0055】
硫酸鉄(II)の層が施された平鋼製品の試料を、同様に既に上で説明した条件下でストリップ深絞り試験に供した。この試験の結果を図3に示す。実験1において調査した硫酸アンモニウム層とちょうど同じように、硫酸鉄(II)層は、比較的高い接触圧力で0.15未満の摩擦係数を確実に達成することが明らかである。
【0056】
[実施例3]
同様にZnコーティングを備える薄板ストリップの形態の従来の平鋼製品に、トライボロジー的に活性な硫酸アルミニウム層を塗布した。
【0057】
この目的のために、240gの硫酸アルミニウム(Al(SO)を、1lの完全に脱塩した水に溶解し、240g/lの硫酸アルミニウム含量の水溶液を得た。得られた溶液の固有pHは、2.1であった。
【0058】
この場合も同様に、既に上述したコーティング機を使用して、事前にアルカリ洗浄に供された平鋼製品に水溶液を室温で塗布した。この場合の塗布パラメータも、表1に報告する。表中、「ディップロールおよび塗布ロールの設定」という表示は、ディップロールと塗布ロールとの間に存在する搾り出しギャップが、加工された平鋼製品の厚さよりも小さい度合いを示している。同時に、「PMT」は、「ピーク金属温度」を指す。
【0059】
硫酸アルミニウム層でコーティングされた得られた平鋼製品の試料を、同じくストリップ深絞り試験に供した。この試験の結果を図4に示す。ここでもまた同様に、ちょうど実験1において調査された硫酸アンモニウム層および実験2において調査された鉄(II)層の場合のように、硫酸アルミニウム層は、比較的高い接触圧力で0.15未満の摩擦係数を確実に達成することが確認された。
【0060】
したがって、本発明による使用に提案される硫酸塩からなるトライボロジー的に活性な層は、例えばZnSOからなる従来のコーティングと同じ効果を達成する。
【0061】
【表1】
図1
図2
図3
図4