特許第6694890号(P6694890)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6694890散乱線グリッド、層板及び層板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694890
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】散乱線グリッド、層板及び層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 1/02 20060101AFI20200511BHJP
   G01T 7/00 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   G21K1/02 G
   G01T7/00 B
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-538614(P2017-538614)
(86)(22)【出願日】2016年1月22日
(65)【公表番号】特表2018-508765(P2018-508765A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】AT2016000004
(87)【国際公開番号】WO2016118989
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2017年11月6日
(31)【優先権主張番号】GM18/2015
(32)【優先日】2015年1月27日
(33)【優先権主張国】AT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】グラッツ、ヴォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ケストラー、ハインリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ターベルニッヒ、ベルンハルト
【審査官】 大門 清
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0163553(US,A1)
【文献】 特開2008−168110(JP,A)
【文献】 特開2009−050654(JP,A)
【文献】 特開2004−198794(JP,A)
【文献】 特開2002−174696(JP,A)
【文献】 特開2001−238879(JP,A)
【文献】 特開2012−122840(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0272505(US,A1)
【文献】 米国特許第05721761(US,A)
【文献】 英国特許出願公開第01522036(GB,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0222581(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101934607(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0084072(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 1/02、1/06、1/10
G21K 3/00
G01T 7/00
G01N 23/041
G02B 5/18
A61B 6/00−6/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
散乱線グリッド(10)で使用するためのX線又はガンマ線を吸収する層板(16;20;30)であって、モリブデンをベースにした材料から成る箔状サブストレート(21;31)とタングステンをベースにした材料から成る少なくとも1つのコーティング層(22;32、33)とを有する層構造で構成された層板であって、前記箔状サブストレート(21;31)の片面が、タングステンをベースにした材料から成る前記少なくとも1つのコーティング層(22;32、33)でコーティングされているか又は前記箔状サブストレート(21;31)の両面が、それぞれ、タングステンをベースにした材料から成る前記少なくとも1つのコーティング層(22;32、33)でコーティングされていることを特徴とする層板
【請求項2】
前記層板(16;20;30)の厚さが10μmから60μmであることを特徴とする、請求項に記載の層板。
【請求項3】
前記サブストレート材料のX線又はガンマ線に対する吸収係数が、前記少なくともつのコーティング層の材料のそれよりも小さいことを特徴とする、請求項1又は2に記載の層板。
【請求項4】
X線又はガンマ線用の散乱線グリッド(10)であって、交互に配置された第1および第2層板(16、20、30;17)で構成された積層体から成る散乱線グリッドにおいて、前記第1層板(16;20;30)が請求項1からのいずれか1項による層板で構成され、前記第2層板(17)が実質的にX線又はガンマ線を透過する材料で作られている散乱線グリッド。
【請求項5】
請求項1からのいずれか1項に記載のX線又はガンマ線を吸収する層板の製造方法であって、次のステップを有する方法:
・モリブデンをベースにした材料から箔を作るステップ
・前記箔を、タングステンをベースにした材料で、ロール−ロール式のコーティング設備を用いて、コーティングするステップ、及び
・前記箔を細片に切断するステップ。
【請求項6】
前記箔のコーティングが物理蒸着法、化学蒸着法、熱溶射法または溶融塩電解法で行われることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
被着された前記コーティング層の厚さが5μmから50μmであることを特徴とする、請求項またはに記載の方法。
【請求項8】
前記箔の厚さが5μmから30μmであることを特徴とする、請求項からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
モリブデンをベースにした金属材料から成る箔状サブストレートとタングステンをベースにした金属材料から成る少なくとも1つのコーティング層とを有する箔を、請求項1からのいずれか1項によるX線又はガンマ線を吸収する層板として、散乱線グリッドにおいて使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、散乱線グリッドで使用するためのX線ないしガンマ線を吸収する層板、この層板の製造方法、および、散乱線グリッドに関する。
【背景技術】
【0002】
散乱線除去用グリッド(英語;anti-scatter grid)はX線、ガンマ線または粒子線による画像生成法において、例えば、X線を用いた画像生成でのX線技術において、または、ガンマ線カメラ使用時の放射線診断において、使用される。その際、この散乱線除去用グリッドは、線検出器(例;X線フィルム、気体および固体検出器)の前に設置され、或る特定の空間方向の線(一次線)のみが検出器に到達し、この検出器への散乱線の入射は妨げられるように作用する。散乱線は検査対象物において不可避的に、特に、線源(例えば、X線源)から出発して検査対象物を透過する一次線の散乱により、発生する。この一次線が1つの優先方向に配向されているのに対し、散乱線は方向性を持たず、任意の方向で検出システムに向いている。散乱線は雑音源であり、撮像のコントラストを著しく劣化するので、望ましくない。高画質を得るためには、散乱線除去用グリッドは、散乱線に関しては高い吸収性能を、一次線に関しては高い透過性能を有する必要があり、一次線のシェーディング(Abschattung)を避けねばならない。
【0003】
散乱線除去用グリッドは、規則的な間隔で配置されて、相応する線を吸収する複数のストラクチャーで構成されており、これらのストラクチャーは所望の一次線の方向に向けてアラインメントされており、これらのストラクチャー間に一次線ができるだけ弱められずに透過するための複数の透過チャネルまたは透過スリットが設けられている。
【0004】
従来技術において、異なる使用目的に適合された様々な散乱線除去用グリッドの実施形態が知られている。例えばX線コンピュータートモグラフィー装置では好適に次のような散乱線除去用グリッドが使用されている。すなわち、線を吸収するストラクチャーがタングステン板、または、タングステンと重金属の合金の板から成る小板形状に作られており、これらが互いに特定の間隔に配置されている。線を吸収する小板間の透過領域はオープンであり、安定化のためにこれらの小板の厚さは通常約80から100μmである。この小板の厚さに起因して一次線の不利なシェーディング効果が生じ、これにより、画像生成のためにより強いX線照射が必要になる。
【0005】
さらに、X線のデジタル画像生成においては、層構造の散乱線除去用グリッドが知られており、これらは、X線を強く吸収する鉛のような材料から成る複数の薄い細片(Lamellen:層板)とX線を透過させる例えば紙のような材料から成る薄い細片とが交互に積層されて形成されている。この種の層構造の散乱線除去用グリッドが特許文献1に開示されている。ここでは、線を透過させる例えば紙製の複数の層板が、薄い鉛箔間のスペーサ(英語:Spacer)として機能しており、これらの鉛箔は一般的には約20から50μmの膜厚を有し、一次線の方向に向けて平行にアラインメントされている。複数のスペーサ層板を使用することにより、線を吸収する鉛の層板は比較的薄く作ることができるが、製造技術上の理由から鉛箔の最小厚さは約15から30μmが限界であり、これによって、一次線も部分的に遮蔽される。鉛を使用することの特に大きな欠点は鉛使用自身がもたらす潜在的な環境リスクである。したがって産業界には環境保護上の理由から、鉛に代わる解決法への大きな要求がある。
【0006】
特許文献2は散乱線除去用グリッドを開示しており、この場合には、線透過性ポリマー材料からステレオリソグラフィ法(光造形法)で作られた格子状の基体が線吸収性の金属層でコーティングされる。付加的な製造ステップで、この散乱線除去用グリッドの端部のこの金属層をエッチング除去しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第1280165B1号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第20030081731号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、散乱線除去用グリッド用のX線及び/又はガンマ線を吸収する層板、線吸収層板の製造方法、および、X線及び/又はガンマ線を遮蔽するための散乱線除去用グリッドを提供することにあり、この場合、鉛の使用は避け、さらに、一次線のシェーディングはできるだけ小さくされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は請求項1に記載の層板により解決される。本発明の好適な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0010】
本発明によれば、この層板は層構造を有しており、この層構造では、少なくとも1つの重金属をベースにした金属材料から成る箔状のサブストレートが、錫、アンチモン、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム、プラチナ、金またはビスマスのグループの少なくとも1つの金属をベースにした材料から成る少なくとも1つのコーティング層でコーティングされている。この場合、コーティング層の材料は箔状のサブストレートの材料とは異なっている。この層板は線吸収性を有し、散乱線除去用グリッドで使用する際には、線透過性の層板と交互に積層されている。
【0011】
金属をベースにした材料とは、純金属、または、少なくとも50重量%の当該金属から成る金属合金を指す。特にこの合金は少なくとも90重量%の当該金属から成る。合金の場合には、前記材料は当該金属の他に、他の複数の金属、または、例えば酸化物のような非金属の微量の添加物、及び/又は、ドーパントをも含有している。
【0012】
1つまたは複数のコーティング層に対する箔状サブストレートとして、重金属またはその合金から成る複数の支持箔が使用される。ここで、重金属とは密度が>5g/cmの金属を意味する(鉛を除く)。サブストレート材料としては特に、材料体積を基準にして、良好な線吸収特性を有する重金属またはその合金、すなわち、高密度で原子番号の大きい重金属またはその合金が適しており、材料選定に際しては、箔状サブストレートの材料コストおよび製造コストならびにコーティング材料との適合性についても考慮すべきである。経済性および線吸収特性を考慮すると、箔状サブストレートとしては、鉄(鋼)、ニッケル、銅もしくはモリブデン、または、錫が好適であることが判った。コストを問題としない場合には、モリブデンの線吸収特性が良好なので、モリブデンをベースにした材料から成る支持箔が好適である。
【0013】
貴金属であるイリジウム、プラチナおよび金と並んで特に、コーティング層で使用される高融点金属であるタンタル、タングステンおよびレニウムは高密度で原子番号が大きく、X線ないしガンマ線に対して、材料体積を基準にすると、高い吸収係数を有する。
【0014】
すなわち、この層板は層状の構造を有しており、1つまたは複数のコーティング層が好適に箔状サブストレートの面状の広がり全体にわたって広がっている。特許文献2では線透過性材料から成る基体に線を透過しない層が被着されるが、本発明ではこれとは異なり、実質的に線を透過しないサブストレートにコーティングされる。
従ってこの層板は線吸収性能が高いという点で優れている。というのは、この層板の箔状のサブストレートもコーティング層も線の遮蔽に寄与するからである。高い線吸収係数を有するサブストレート材料および高い線吸収係数を有するコーティング材料を選ぶことにより、要求された散乱線吸収において、非常に薄い厚さの層板を実現することができ、これによって、一次線の望ましくない吸収を低く抑えることができる。
【0015】
機械的には変形しにくいがコーティング法により皮膜を付けることができる、特にタングステンのような線吸収係数の大きい金属を、層状の構造により使用することができると好適である。タングステンはX線およびガンマ線に対して、材料体積を基準にすると、鉛よりも明確に大きい線吸収性能を有するが、経済的に有利な方法では、散乱線除去用グリッドで必要とされる約15から30μmの厚さの箔テープに圧延することができない。従って、タングステンはこの層板用の特に好適なコーティング材料である。
【0016】
好適な1実施形態では、サブストレート材料の(材料体積を基準にした)X線ないしガンマ線吸収係数が1つ又は複数のコーティング材料の吸収係数よりも小さい。層板と層の構成に対するこの材料組合せは、経済的な観点からは、比較的小さい線吸収係数を有する例えば鋼、ニッケルまたは銅から成る低コストの支持箔をサブストレートとして使用する場合に、有利である。この層板のより大きい実効線吸収を得るために、前記の低コストな支持箔が、より大きい吸収性能を有するコーティング材料、例えばタングステンのような高融点金属でコーティングされる。
【0017】
この箔状サブストレートは片面を少なくとも1つのコーティング層でコーティングすることができる。片面コーティングは特に、1つのプロセスステップでサブストレートの片面だけがコーティングされる、物理蒸着法(PVD,英語:physical vapour deposition)、化学蒸着法(CVD,英語:chemical vapour deposition)、熱溶射法またはスラリープロセスのようなコーティング法において適している。PVDは、非常に密な層を堆積することができるので、特に有利である。
【0018】
好適な1実施形態では、前記箔状サブストレートの両面も少なくとも1つのコーティング層でコーティングすることができる。両面がコーティングされる実施形態では、箔状サブストレートの両方の側面に少なくとも1つのコーティング層が被着される。このケースでは、層板の構成は少なくとも3つの層から成り、その中央の層は箔状サブストレートである。両面がコーティングされた箔状サブストレートは、高温溶融塩電解法を用いた例えば溶融槽における例えばメッキ法により作ることができる。このサブストレートの両方の側面のコーティング層が同一の材料で構成されていると好適である。このように両面がコーティングされたサブストレートは、温度変化時にサブストレート材料とコーティング材料との熱膨張係数の差により生じる層板の曲がりが低減される、というメリットを有する。
【0019】
好適な1実施形態によれば、前記層板の厚さは10μmから60μmであり、特に15μmから30μmである。この厚さでは、コーティングされた箔は層板の機械的な製造プロセスに対して十分な自己安定性を有する。コーティング材料としてタングステンまたはタングステン合金が使用される場合には、タングステンの線吸収係数が大きいのでこの層板を特に薄くすることができる。この層板をできるだけ薄くすることは、一次線の不都合な遮蔽効果およびシェーディング効果に関して、非常に望ましい。
【0020】
この層板に対する特に好適な1実施形態は、モリブデンをベースにした材料から成る箔状サブストレートを備えた層構成であり、このサブストレートがタングステンをベースにした材料で片面または両面コーティングされている。タングステンをベースにした材料は、純タングステン、または、少なくとも50重量%、特に90重量%以下のタングステンから成るタングステン合金を意味する。タングステン合金の場合には、これは他の複数の金属、例えばレニウムを含有する。同様にモリブデンをベースにした材料は、純モリブデン、または、少なくとも50重量%、特に少なくとも90重量%のモリブデンを含有するモリブデン合金を意味し、場合によっては、他の複数の金属、ないし、微量の非金属添加物及び/又はドーパントを含有している。
【0021】
この層板を作るためには、モリブデンの薄い金属箔が約10μmから25μmの厚さに圧延され、コーティングプロセスの前に、必要に応じ、さらに電気化学的に前処理され、または、酸洗いによりコーティングのために調整される。この金属箔はPVDコーティング設備で、特にロール−ロール式のコーティング設備で、タングステンでコーティングされる。このタングステン層の厚さは好適には5から25μmであり、特には5から15μmである。この層板の出発材料は、コイルに巻くことができる金属箔テープとして作ることができる。モリブデンとタングステンの材料組合せは特に好適である。というのは、支持材料であるモリブデンもX線ないしガンマ線を効果的に吸収し、その結果、線を強く吸収するタングステン層と組み合わせて、材料体積を基準にすると、非常に有効な線遮蔽を実現できるからである。同一の線吸収性能を達成するために、モリブデンとタングステンの組合せから成る散乱線除去用グリッド層板は、材料体積を基準にすると、鉛層板よりも線吸収が大きいので、より薄い寸法にすることができる。層板の厚さがより薄いので、望ましくない一次線吸収は(散乱線吸収が同じ場合)より少ない。さらに、タングステン層はモリブデン箔への付着性が高いという点で優れている。一般的に、この両方の金属、すなわち、モリブデンとタングステンの物理的および化学的特性は非常に似ており、例えば、これらの熱膨張係数はほゞ同じである。熱膨張係数が類似していることにより、例えば、コーティングプロセスで生じる熱負荷時での温度に起因する応力ないし曲がり、これは熱膨張係数が異なる複数の金属から成るバイメタルで現れる応力ないし曲がりを防ぐことができる。さらに、モリブデン材料とタングステン材料のこの箔状の結合は、鉛箔よりも大きい剛性および強度を有し、これにより、鉛層板よりも大きい自己安定性が得られる。
【0022】
本発明の課題はさらに、請求項9による製造方法により解決される。X線及び/又はガンマ線を吸収する層板を作るために、本方法の第1ステップにおいて、少なくとも1つの重金属をベースにした金属材料から成る薄い箔が、圧延などの公知の変形方法により作られる。この層板の出発点として特に、鉄、ニッケル、銅、モリブデンまたは錫をベースにした箔を使用することができる。この箔の厚さは一般的には5μmから30μmであり、好適には10μmから25μmである。この箔は次に、錫、アンチモン、タンタル、タングステン、レニウム、インジウム、プラチナ、金またはビスマスのグループの少なくとも1つの金属をベースにした金属材料でコーティングされる。このコーティング材料は上述の箔の材料とは異なる。これらのコーティング材料は、線吸収係数が高いという点で優れている。厚さが5μmから50μmの、特に5μmから20μmのコーティング層が被着されると好適である。コーティング法としては、当業者に公知の次の方法が対象になる。例えば、物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)、熱溶射法、スラリープロセス、または、高温溶融塩電解法のようなメッキ法である。被着層の層厚が約20μmより大きい場合には、蒸着法よりもメッキ法が有利である。この箔はコーティングプロセスの前に、オプション的に、中間ステップにおいてコーティング工程のために(酸洗い、ないし、電気化学的な調整により)準備することができる。このようにして得られたコーティングされた金属箔はコイル状に巻くことができ、その製造工程において散乱線除去用グリッド用に使用することができ、そこで相応の細片状に切断される。この製造方法により、本発明による層板に関する上述したメリットが得られる。
【0023】
散乱線除去用グリッドに関する課題は請求項8により解決される。本発明による前記層板が散乱線の吸収に寄与し、X線ないしガンマ線を透過する材料から成るいわゆるスペーサ層板(英語:Spacer)と交互に公知の方法で組み合わせられて散乱線除去用グリッドが作られる。この場合、コイルとして存在しているコーティングされた金属箔テープ(通常は、長さが50m以上で、幅が数cmの範囲、例えば約3から5cm)が適切な切断装置で細片に予備切断される。この細片は通常、用途と製造プロセスに応じて、長さが約15から20cmで、幅が約3cmである。これらの複数の線吸収層板が複数の細片状のスペーサ層板(例えば、紙、繊維質複合材、または、プラスチック、例えば、ポリエチレン、ポリスチロールもしくはポリプロピレンで構成されている)と交互に積層されて1つの積層体が形成される。この場合、個々の層板の配列に際しては、収束点(線源)へ向けての必要な焦点アラインメントを考慮しなければならない。個々の層板を有するこの積層体は例えばエポキシ樹脂のような適切な接着剤で接着され、加熱下で固定され、次に切断されて個々の散乱線除去用グリッドが形成される。しかし、前記層板の積層体が接着剤なしで、圧縮のみで相応の枠内に保持されるような実施形態も可能である。本発明による散乱線除去用グリッドは、この散乱線除去用グリッドに入射する線の1次元コリメートが実現されるので、1次元散乱線除去用グリッドとも呼ばれる。
【0024】
本発明を以下、図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】X線装置で使用時の散乱線除去用グリッドの模式的断面図
図2】本発明の第1実施形態におけるX線吸収層板の3次元図
図3】本発明の第2実施形態におけるX線吸収層板の3次元図
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1にはX線装置における散乱線除去用グリッド(10)が模式的に示されている。X線源(11)で発生したX線(一次線)(12)が検査対象(13)、例えば人体に入射し、これと相互作用をおこし、その結果、散乱線(14)が生じる。検査対象を透過したX線は、一次線も、方向性のない散乱線も、次に、線方向においてX線検出器(15)の前に配置された散乱線除去用グリッド(10)に入射する。このX線検出器(15)が入射するX線の強度分布を検出する。
この散乱線除去用グリッド(10)(図1では、複数の細片状層板の縦方向に対して垂直な面における断面で示されている)は多数のテープ状層板を有し、この場合、複数のX線吸収層板(16)と複数のX線透過層板(17)が交互に配置されている。これらの層板(16、17)は入射一次線に対してほゞ垂直な面において、および、層板の縦方向において(この縦方向は図示された断面に対して垂直である)ほゞ平行に配置されている。これらの層板(16、17)は好適には、図1に示されているように、X線源(11)の焦点に向けてアラインメントされている。すなわち、これらの層板(16、17)は互いに正確に平行ではなく、非常に小さい角度で互いに傾けられている。この場合、散乱線除去用グリッドのほゞ中心点の層板は散乱線除去用グリッドの面に対して垂直であり、他の層板は中心点から離れるにつれて傾きが大きくなっている。この散乱線除去用グリッド(10)はこの散乱線除去用グリッドに斜めに入射する散乱線を吸収し、X線源方向からのX線を線を透過させる層板の領域において透過させる。この散乱線除去用グリッド(10)は図1では平らな実施形態で示されているが、湾曲した実施形態、特に円筒面の一部の形状での実施形態も可能である。
【0027】
図2図3には様々な実施形態のX線を吸収する層板(16;20;30)が示されている。これらのX線吸収層板(16;20;30)は箔状サブストレート(21;31)を有する層構造で構成されており、前記箔状サブストレートは、錫、アンチモン、タンタル、タングステン、レニウム、イリジウム、プラチナ、金またはビスマスのようなX線を強く吸収する材料から成る少なくとも1つのコーティング層(22;32;33)でコーティングされている。前記サブストレート(21;31)の材料としては重金属、特に、鉄、ニッケル、銅、モリブデンまたは亜鉛のような良好な線吸収係数を有する重金属が選ばれ、この場合、このサブストレートの材料はコーティング層の材料とは異なっている。通常、コーティング層の材料は、体積を基準にすると、箔状のサブストレートよりも大きいX線吸収係数を有する。サブストレート(21;31)およびコーティング層(22;32;33)の厚さは、選ばれた材料に依存して、この層板の所望の吸収特性が得られるように寸法が決められる。図2はX線吸収層板(20)の1実施形態を示し、この場合、箔状のサブストレート(21)の片面がコーティング層(22)でコーティングされている。図3の実施形態では、箔状のサブストレート(31)の両面がそれぞれコーティング層(32、33)でコーティングされている。両面がコーティングされた層板は、求められている吸収性能を得るために比較的厚いコーティング層が必要となる場合に好適である。というのは、PVDのような気相堆積法では、層が厚くなるにつれて高品質の層を付けるのが困難になるからである。図2および図3から判るように、これら両方の実施形態では、コーティング層がサブストレートの面状の広がり全体にわたって広がっている。これにより、散乱線の有効な遮蔽が得られる。コーティング層(22;32,33)がサブストレート(21;31)よりもX線を強く吸収するような実施形態では、層板の組み立て状態においてX線源に面したサブストレートの側辺(24;34)ないしX線源から遠いサブストレートの側辺(25;35)が、X線を強く吸収するコーティング材料によりコーティングされずに、オープン状態のままになっていると好適である。これにより、これらの部分で層板に到達する一次線の望ましくない吸収を幾分低減することができる。
【符号の説明】
【0028】
10 散乱線グリッド
11 X線源
12 一次線
13 検査対象
14 散乱線
15 X線検査器
16、20、30 吸収層板
17 透過層板
21、31 サブストレート
22、32、33 コーティング層
24、25、34、35 側辺
図1
図2
図3