(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記把持部の長軸方向に垂直な断面の少なくとも一部が前記締結具の径方向外方に凸となる向きに弧状に形成されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の医療用クリップ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、下記実施の形態に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施の形態によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、各図面において、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、明細書や他の図面を参照するものとする。また、図面における種々部材の寸法は、本発明の特徴の理解に資することを優先しているため、実際の寸法とは異なる場合がある。
【0020】
本発明において、医療用クリップとは内視鏡下での処置の際、臓器の病変部などの対象物を封止したり、把持して反対牽引(カウンタートラクション)、止血、縫合、マーキングのために対象物を摘まむ器具である。本明細書では医療用クリップを単に「クリップ」と記載することもある。
【0021】
本発明において、長軸方向とはクリップ本体の長軸方向を指し、長軸方向において近位側とは使用者の手元側の方向を指し、遠位側とは近位側の反対方向を指す。また、本発明において径方向とは締結具の径方向を指し、径方向において内方とは締結具の中心側に向かう方向を指し、外方とは締結具の放射方向を指す。クリップ本体の把持部材の幅とは、クリップ本体の平面視で長軸方向と垂直な方向の把持部材の長さを指す。
【0022】
図1は、本発明の医療用クリップの斜視図を表し、
図2は、本発明の医療用クリップの側面図を表し、
図3は、本発明に係るクリップ本体の平面図を表す。本発明の医療用クリップ1は、クリップ本体10と、締結具20と、を有する。
【0023】
クリップ本体10は、2つの把持部材11、12が互いに向かい合って配置されているものである。締結具20は、クリップ本体10の少なくとも一部を内包するものであり、筒状に形成される。
【0024】
クリップ1の閉操作は次のように行われる。まず、締結具20を開状態のクリップ本体10の近位側の外方を囲むように配置する。次いで、クリップ本体10の遠位側に締結具20を移動させる。締結具20が遠位側に移動するのに伴い、把持部材11、12には締結具20によって径方向の内方に向かう押力が負荷されて、把持部材11、12同士が接近するため、クリップ1が閉じられる。以下、締結具20とクリップ本体10の構成について具体的に説明する。
【0025】
締結具20は、クリップ本体10の少なくとも一部を内包するものであり、筒状に形成される。具体的には、締結具20は、クリップ本体10の長軸方向に移動可能にクリップ本体10の外方に配置される。
【0026】
クリップ本体10の長軸方向において、締結具20の長さは、閉状態のクリップ本体10の長さの4%〜30%であることが好ましい。具体的には、閉状態のクリップ本体10の長軸方向の長さは、例えば約12mmであることから、締結具20の長軸方向の長さは、例えば、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは1mm以上、また、好ましくは4mm以下、より好ましくは3mm以下に設定することができる。
【0027】
締結具20は、
図1に示すような単筒状部材や、線材をコイル状に巻回して形成された筒状部材(図示していない)を用いることができる。締結具20の形状は、例えば、円筒体や角筒体である。また、締結具20は周方向に閉じている形状でもよく、周方向に開いている形状であって例えば長軸方向に垂直な断面がC字形状をなしていてもよい。
【0028】
本発明のクリップ1は、内視鏡の鉗子チャンネル内に挿入され、クリップ1の開閉の制御により病変等の対象物を把持する操作を行うクリップ装置(図示していない)に好ましく用いられる。クリップ装置は、例えば、外筒体と、外筒体内に配置されている内筒体と、内筒体内に配置されている線状物と、を有している。クリップ1は、内筒体の遠位側に配置されて線状物に接続されるが、締結具20の外径は、クリップ装置の内筒体の内径よりも大きいことが好ましい。これにより、線状物を近位側に引いた際に、締結具20の近位端と内筒体の遠位端が当接して、クリップ本体10のみが内筒体内に引き込まれる。その結果、締結具20がクリップ本体10の遠位側に移動し、クリップを閉状態にすることができる。
【0029】
締結具20は、金属材料や弾性材料から形成することができる。締結具20は、生体適合性を有する材料から形成されることが好ましく、例えば、SUS304、SUS631等のステンレス鋼やNi−Ti合金等から好ましく形成される。
【0030】
クリップ本体10は、病変等の対象物を把持する部材であり、2つの把持部材11、12が互いに向かい合って配置されて、少なくとも一部が締結具20に内包されている。具体的にはクリップ本体10は、一の把持部材11と、他の把持部材12が互いに向かい合って配置されている。
【0031】
把持部材11、12は、近位側から順に、基端部A、締結具20の径方向内方に凸となる湾曲部B、湾曲部Bの最小幅よりも広い幅広部C、対象物を把持する把持部Dが各々形成されている。詳細には、一の把持部材11には近位側から順に、基端部11A、湾曲部11B、幅広部11C、把持部11Dが形成され、他の把持部材12にも一の把持部材11と同様に、近位側から順に基端部12A、湾曲部12B、幅広部12C、把持部12Dが形成されている。2つの把持部材11、12は、互いに基端部11A、12Aで接続されている。
【0032】
把持部材11、12は、厚さが例えば0.1mm以上0.5mm以下の帯状部材から形成される。把持部材11、12は帯状部材を折り曲げる方法のほか、基端部A、湾曲部B、把持部Dに相当する帯状部材を個別に製造した後で、各部分を互いにレーザー溶接等によって接合する方法により形成することができる。
【0033】
図2に示すように、一の把持部材11と他の把持部材12をクリップ本体10の長軸に対称な形状に形成することができる。これにより、2つの把持部材11、12が互いに接近するタイミングが合いやすくなるため、対象物を把持しやすくなる。
【0034】
図2に示すように、長軸方向において、一の把持部材11と他の把持部材12を略同じ長さに形成することができる。2つの把持部材11、12の長さが略同じである場合には、2つの把持部材11、12は把持部Dの主に遠位端で互いに接近する。
【0035】
図示していないが、長軸方向において、一の把持部材11が他の把持部材12よりも長く形成されてもよい。2つの把持部材11、12の長さが異なる場合には、長く形成されている一の把持部材11の把持部D(11D)の遠位端だけでなく、当該把持部D(11D)の遠位端より近位側でも2つの把持部材11、12が接近しやすくなる。このため、クリップ本体10の長軸方向全体で対象物を把持することができる。
【0036】
把持部材11、12を含むクリップ本体10は、高弾性と生体適合性を有する材料から形成されることが好ましく、例えば、SUS304、SUS631等のステンレス鋼やNi−Ti合金等から好ましく形成される。なお、把持部材11、12と締結具20は、同じ材料から形成されていてもよく、異なる材料から形成されていてもよい。
【0037】
クリップ1の大きさは特に制限されないが、クリップ1は内視鏡の鉗子チャンネルを通って、或いは術後に排泄物と一緒に体外に排出する目的から、クリップ本体10の幅は一般的に0.3mm以上4mm以下の範囲に設定される。クリップ本体10の閉状態の長軸方向の長さは、一般的に5mm以上12mm以下の範囲に設定される。
【0038】
基端部Aは、クリップ本体10を近位側に移動させるための線状物(図示していない)が直接的または間接的に接続される部分であり、最も近位側に配置される。
【0039】
基端部Aの幅の大きさは特に制限されないが、基端部Aの最大幅は締結具20の内径よりも小さいことが好ましい。締結具20の内腔内へクリップ本体10を挿入するときに、締結具20が基端部Aに引っ掛かることなく、締結具20を長軸方向に移動させやすくなるからである。あるいは、基端部Aに配置された締結具20よりも近位側の基端部Aの幅は、締結具20の内径よりも大きくてもよい。締結具20が、クリップ本体10から近位端側へ脱落することを防ぐことができる。
【0040】
一方、締結具20が弾性材料から形成されている場合や、変形可能なコイル状の筒状部材から形成されている場合には、基端部Aの最大幅が締結具20の内径よりも大きくてもよい。締結具20を変形させることによって、締結具20を基端部Aの最大幅を有する区間を乗り越えて近位側に移動させることができる。
【0041】
基端部Aの幅は、基端部Aの長軸方向において同幅であることが好ましい。締結具20の内腔内へクリップ本体10を挿入するときに、締結具20が基端部Aに引っ掛かることなく、締結具20を長軸方向に移動させやすくなるからである。
【0042】
図1および
図2に示すように、2つの把持部材11、12が基端部Aの近位端で接続されていることが好ましい。このようなクリップ1は、クリップ本体10を長軸方向に移動させるための線状物を、把持部材11、12の基端部Aに直接接続する方法や、把持部材11、12の基端部Aに係合可能な接続部材を介して、クリップ本体10に上記線状物を間接的に接続する方法等によってクリップ本体10に接続されるクリップ装置に好適に使用される。
【0043】
図1および
図2では1枚の帯状部材が折り曲げられた結果、2つの把持部材11、12が基端部Aで一体形成されているが、この方法に限らず、ねじ、カシメ等による機械的固定、溶接、接着等によって2つの把持部材11、12を接続することができる。
【0044】
次に、
図4を用いて、
図1〜
図2に示したクリップ本体10とは基端部Aの近位端の形状が異なる構成例について説明する。
図4は、本発明に係るクリップ本体の側面図を表す。
図4に示すように、2つの把持部材11、12が基端部Aの遠位端部で接続されており、基端部Aの近位端で接続されていないことが好ましい。基端部Aの接続位置は適宜設定することができる。このようなクリップ1は、クリップ本体の基端部Aの近位端部に係合可能な接続部材(図示していない)を介して、クリップ本体10を長軸方向に移動させるための線状物をクリップ本体10に間接的に接続するクリップ装置に好適に使用される。
【0045】
2つの把持部材11、12が接続されていない基端部Aの近位端には、
図4に示すように向かい合う係合爪J(11J、12J)が設けられていてもよい。係合爪Jの大きさ、角度は、係合する接続部材(図示していない)に応じて適宜選択することができる。係合爪11J、12Jの各長さJLは、向かい合う2つの把持部材11、12の基端部Aの最大離隔距離ADmaxの半分以下の長さであることが好ましく、当該最大離隔距離ADmaxの1/4以上3/4以下の長さであってもよい。また、係合爪Jと、把持部材11、12の基端部Aのなす角θが鋭角であることが好ましい。図示していないが、2つの係合爪11J、12Jは、互いに接触していてもよい。
【0046】
図4に示すように、把持部材11、12の基端部Aの近位側での離隔距離を一定に保持して、クリップ本体10と上記接続部材の係合操作を行いやすくするために、一の把持部材11の基端部11Aと他の把持部材12の基端部12Aを接続する補強部材15が設けられていてもよい。クリップ本体10と接続部材の係合を阻害しないために、補強部材は基端部Aの遠位側に設けられることが好ましい。補強部材15は、把持部材11、12と同様の材料から形成されることが好ましく、その厚さも把持部材11、12と同様に設定することができる。補強部材15の取り付けには、ねじ、カシメ等による機械的固定、溶接、接着等の方法を用いることができる。
【0047】
湾曲部Bは、締結具20の径方向内方に凸となる部分である。
図1および
図2に示すように、把持部材11、12の湾曲部Bはクリップ本体10が閉じる方向に凸となるように形成されている。湾曲部Bは、把持部材11、12を撓みやすくするとともに、クリップ本体10の遠位側を径方向外方に拡げて対象物に対して把持位置を合わせやすくするために形成される。
【0048】
クリップ1の開閉度を適切にするために、湾曲部Bの曲率半径は、20mm以上であることが好ましく、25mm以上であることがより好ましく、30mm以上であることがさらに好ましく、また、80mm以下であることが好ましく、75mm以下であることがより好ましく、70mm以下であることがさらに好ましい。ここで湾曲部Bの曲率半径は、締結具20が把持部材11、12の基端部Aに配置されている状態、またはクリップ本体10から締結具20を取り外した状態での値とする。
【0049】
図5を用いて、クリップ本体10の好ましい開き角度について説明する。
図5は本発明に係るクリップ本体の側面図を表す。クリップ本体10の開状態において、一の把持部材11の遠位端11Hとクリップ本体10の近位端Oを結ぶ直線L1と、他の把持部材12の遠位端12Hとクリップ本体10の近位端Oを結ぶ直線L2が、クリップ本体10の径方向内方でなす角度を開き角度αとする。大きな対象物を把持可能にするために、開き角度αが40度以上であることが好ましく、50度以上であることがより好ましく、60度以上であることがさらに好ましい。ここで、直線L1、L2を規定するための把持部材11、12の遠位端H(11H、12H)とは、後述する
図7に示すように把持部材11、12の遠位端が複数存在している場合にはクリップ本体10の径方向の最も外方側に位置している遠位端を意味し、クリップ本体10の近位端Oとは、クリップ本体10の近位端が複数存在している場合にはクリップ本体10の径方向の最も内方側に位置している近位端を意味する。
【0050】
幅広部Cは、幅が湾曲部Bの最小幅よりも広く形成されている部分である。把持部材11、12の幅広部Cでは、クリップ1の開閉方向と垂直な方向において把持部材11、12と締結具20が接触しやすくなるため、幅広部Cは把持部材11、12と締結具20の仮止めとしての機能を有している。
【0051】
幅広部Cの最大幅が、把持部Dの最大幅よりも小さいことが好ましい。これにより、把持部材11、12の屈曲部Eを乗り越えて遠位側に移動した締結具20が、把持部Dの遠位側に移動してクリップ本体10から締結具20が脱落することを抑止できる。具体的には、把持部Dの最大幅が、幅広部Cの最大幅の1.25倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましく、2.0倍以上であることがさらに好ましい。
【0052】
締結具20を仮止めしやすくするために、幅広部Cの最大幅は湾曲部Bの最小幅の1.5倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましい。幅広部Cが、締結具20の内径よりも大きい場合は、締結具20内で幅広部Cを変形させてもよい。
【0053】
また、対象物を把持しやすくするために、幅広部Cの幅は、締結具20の内径よりも小さくすることも好ましく、少なくとも締結具20の内径の70%以上の大きさであることが好ましく、95%以上の大きさであることがより好ましい。幅広部Cの幅を、締結具20の内径よりも小さくし、かつ締結具20の内径により近い大きさにすることにより、幅広部Cが締結具20内に引き込まれた際に、2つの把持部11、12がより接近した状態となり、対象物をより強く挟むことができる。2つの把持部材11、12の把持部Dの遠位端にそれぞれ後述する爪部が設けられており、爪部同士が噛み合うように形成されている場合には、幅広部Cの幅を締結具20の内径により近い大きさに代えることが好ましい。これにより、爪部同士が噛み合うときの2つの把持部材11、12の接近の状態を締結具20で保つことができる。
【0054】
長軸方向において、2つの把持部材11、12の幅広部Cが形成される位置が略同じであることが好ましい。一の把持部材11の幅広部Cが締結具20と接触するタイミングと、他の把持部材12の幅広部Cが締結具20と接触するタイミングを合わせることができるため、締結具20を仮止めしやすくなる。
【0055】
幅広部Cが、湾曲部Bに対して急激な形状の変化を伴って形成されると応力が集中することが懸念される。このため、把持部材11、12の平面視で、湾曲部Bのうち幅広部Cが存在していない区間の遠位端から幅広部Cの最大幅を有する部分に向かう外形線の曲率半径は0より大きいことが好ましい。
【0056】
図1および
図3に示すように、湾曲部Bが存在している区間と、幅広部Cが存在している区間が重なっていることが好ましい。また、クリップ本体10の製造を簡便にするために、幅広部Cが存在している区間以外の湾曲部Bは長軸方向で同幅であることが好ましい。
【0057】
幅広部Cが存在している区間以外では、湾曲部Bの幅は締結具20の内径よりも小さいことが好ましい。締結具20の内腔内へクリップ本体10を挿入するときに、締結具20は幅広部Cが存在していない区間で湾曲部Bに引っ掛かることなく、締結具20を長軸方向に移動させやすくなるからである。
【0058】
把持部Dは、対象物を直接把持する部分であり、幅広部Cよりも遠位側に配置される。
【0059】
締結具20の内径が、把持部Dの最大幅よりも小さいことが好ましい。把持部材11、12の屈曲部Eを乗り越えて遠位側に移動した締結具20は、少なくとも把持部Dの最大幅を有している部分と当接するため、締結具20が把持部Dの遠位側に移動してクリップ本体10から脱落することを抑止できる。
【0060】
対象物を確実に把持するために、
図3に示すように、クリップ本体10の把持部材11、12の把持部Dの最大幅が、基端部Aの最小幅よりも広く形成されていることが好ましい。把持部Dの最大幅は、基端部Aの最小幅の1.5倍以上であることが好ましく、2.0倍以上であることがより好ましく、3.0倍以上であることがさらに好ましい。
【0061】
把持部材11、12の把持部Dの剛性を高めるためには、把持部Dの長軸方向に垂直な断面の少なくとも一部が径方向外方に凸となる向きに弧状に形成されていることが好ましい。例えば、把持部Dの少なくとも一部が半円筒状に形成されていることが好ましい。
【0062】
長軸方向に垂直な断面で弧状に形成された部分の把持部Dの曲率半径は、クリップ装置の内筒体の内側の形状や鉗子チャンネル内の形状に合わせて設定することができる。
【0063】
把持部Dの遠位端には爪部Gが形成されていることが好ましい。把持部Dによって対象物を把持する際に爪部Gが対象物に食い込みやすくなるため、対象物を確実に把持することができる。爪部Gを対象物に食い込みやすくして把持の安定性をさらに高めるためには、爪部Gが歯型状に形成されていてもよい。また、クリップ1の閉状態で一の把持部材11の爪部11Gと他の把持部材12の爪部12Gが噛み合うように歯型が形成されていてもよい。なお、
図1乃至
図4では爪部Gはそれぞれ三角歯状に形成されているが、歯型の形状は四角形等の多角形や台形であってもよい。
【0064】
把持部Dの遠位端には曲面が形成されていることが好ましい。具体的には、把持部Dの遠位端が径方向外方に凸となるように丸まって形成されていることが好ましい。このように、把持部Dの遠位端に曲面が形成されていれば、爪部Gを長軸方向と垂直な方向から対象物に当接させることができるため、爪部Gが対象物に一層食い込みやすくなる。開状態のクリップ本体10の側面視において、クリップ本体10の把持部には極大部Mが形成されていることが好ましい。開状態のクリップ本体10において、爪部Gは極大部Mよりも遠位側に設けられていることが好ましい。把持部Dには以下に説明する角度で曲面が形成されていてもよい。極大部Mの径方向の最も外方側に位置する点を極大点Meとする。
図2に示すように、開状態のクリップ本体10の長軸方向と平行であって極大点Meを通る直線をL3とする。また、開状態におけるクリップ本体10の把持部材11、12の遠位端H(11H、12H)と、把持部材11、12の極大点Me(11Me、12Me)をそれぞれ通る直線をL4とする。このとき、特に病変等の対象物の縫縮に対しては、把持部材における直線L3とL4とのなす角度γ(γ
1、γ
2)が20度以上50度以下であることが好ましい。この場合、クリップ1を閉じる際に爪部Gが対象物に一層食い込みやすくなる。
図2ではγ
1、γ
2はいずれも約30度に設定されている。また、出血した血管を封止する場合には、直線L3とL4とのなす角度γ(γ
1、γ
2)が−10度以上15度未満であることが好ましい。この場合、粘膜に対して爪部Gを垂直に押し当てることができるため、爪部Gを対象物に一層食い込ませた状態でクリップを閉じることができる。
図7に示すように、把持部材の遠位端が複数存在している場合、直線L4を規定するための把持部材11、12の遠位端H(11H、12H)はクリップ本体10の径方向の最も外方側に位置している遠位端を意味している。
図7ではγ
1、γ
2はいずれも約−3.5度に設定されている。なお、一の把持部材11の角度γ(γ
1)から他の把持部材12の角度γ(γ
2)を減じた角度差の絶対値は、例えば0度以上5度以下にすることができる。
【0065】
屈曲部Eは、把持部材11、12の幅広部Cが存在している区間に、締結具20の径方向外方に凸となるように形成される部分である。本発明では、クリップ本体10の把持部材11、12に屈曲部Eが形成されているため、締結具20が近位側から遠位側に移動して屈曲部Eを乗り越えるときに把持部材11、12と締結具20が接触し、把持部材11、12は締結具20の内側面からクリップ1の閉方向に押力を受ける。したがって、本発明のクリップ1は、締結具20が把持部材11、12の幅広部Cの屈曲部Eより近位側に配置されているときには、幅広部Cの働きによりクリップ1を閉状態に近づけつつ、締結具20を長軸方向に移動させて把持位置や閉じ角度を調整することができるものである。
【0066】
屈曲部Eは、最も簡便には帯状部材から形成されている把持部材11、12を所望の屈曲角度(詳細は後述する)で折り曲げることによって形成される。また、屈曲部Eは、屈曲部Eよりも近位側に配置される部材と、屈曲部Eよりも遠位側に配置される部材を個別に製造した後、レーザー溶接等の方法によってこれら2つの部材を所望の屈曲角度を保持した状態で接合することにより形成されていてもよい。以下では、把持部材11、12を折り曲げて屈曲部Eが形成される例を挙げて、屈曲角度について説明する。
【0067】
図5を用いて、屈曲部Eの屈曲角度について説明する。
図5に示すように、クリップ本体10の側面視で、屈曲部Eよりも近位側に存在している湾曲部Bと、屈曲部Eよりも遠位側に存在している幅広部Cとが、径方向内方でなす屈曲角度βが鈍角であることが好ましい。これにより、術者の把持部D付近の視野を広く確保して対象物を把持しやすくすることと、締結具20が屈曲部Eと接触した後は締結具20を近位側に戻りにくくして確実にクリップ1を閉状態にすることの両方が達成される。
【0068】
術者の把持部D付近の視野を広く確保して対象物を把持しやすくするために、上記屈曲角度βは、120度以上であることが好ましく、125度以上であることがより好ましく、130度以上であることがさらに好ましい。また、締結具20が屈曲部Eと接触した後は締結具20を近位側に戻りにくくして確実にクリップを閉状態にするために、上記屈曲角度βは、175度以下であることが好ましく、170度以下であることがより好ましく、165度以下であることがさらに好ましい。
【0069】
図5に示すように、一の把持部材11の屈曲角度β(β
1)から他の把持部材12の屈曲角度β(β
2)を減じた角度差の絶対値が0度以上5度以下であることが好ましい。これにより、一の把持部材11と他の把持部材12が互いに接近するタイミングを合わせやすくなる。
【0070】
クリップ本体10の長軸方向において、幅広部Cを遠位領域、近位領域、遠位領域と近位領域の間の中央領域に三等分割したときに、屈曲部Eが幅広部Cの遠位領域または中央領域に形成されていることが好ましい。クリップ1を閉状態に近づけつつ、把持位置や閉じ角度を調整可能な区間を長くすることができる。把持位置や閉じ角度を調整可能な区間をさらに長くするためには、屈曲部Eは幅広部Cの遠位領域に形成されることが好ましい。
【0071】
締結具20の内径が把持部Dの最大幅よりも小さく、把持部Dの近位端から屈曲部Eまでの長さが、締結具20の長軸方向の長さよりも短いことが好ましい。締結具20が把持部Dの近位端に当接すると、締結具20が屈曲部Eと接触した状態でクリップ本体10が閉じられるため、確実に対象物を把持することができる。
【0072】
図1および
図3に示すように、把持部Dと幅広部Cの間に、幅広部Cよりも幅が狭い幅狭部F(11F、12F)が形成されていることが好ましい。これにより、一層小さい力で対象物を把持することができる。これは、締結具20の遠位端が屈曲部Eを有する幅広部Cを超えて把持部Dに接近する際に、幅狭部Fがあると、クリップ本体10の長軸方向において、締結具20と接する区間が短くなるためである。
【0073】
クリップ1の長軸方向において締結具20の長さが、幅狭部Fの長さより短い場合は、把持部材11、12の屈曲部Eを乗り越えて遠位側に移動した締結具20は、幅狭部Fが存在している区間に配置されやすくなる。このため、締結具20は長軸方向に移動しにくくなり、クリップ1の閉状態が安定して維持される。幅狭部Fの最大幅は、例えば湾曲部Bの最小幅以下や基端部Aの最小幅以下に設定することができる。
【0074】
図6、
図7は、それぞれ本発明に係るクリップ本体のさらに他の態様を示す背面図と側面図を表す。
図6に示すように幅狭部は形成されていなくてもよい。幅狭部の幅を幅広部Cの幅に対して差が0または差を小さくすることにより、クリップ本体10の把持部Dの強度が向上する。これにより、より硬い粘膜を把持することができる。
【0075】
図1〜
図3、
図5のように、2つの把持部材11、12がクリップ1の基端部Aで一体形成されている場合、2つの把持部材11、12が、湾曲部Bの近位端部で当接していることが好ましい。一の把持部材11の湾曲部11Bの近位端部と、他の把持部材12の湾曲部12Bの近位端部が当接している。これにより、クリップ本体10の遠位端での開度を調整でき、使用時においてもその開度を維持することができる。一の把持部材11と他の把持部材12が湾曲部Bの近位端部で当接しないクリップと比較して、把持部Dの遠位端での開度を大きくすることができるため、対象物を把持部Dの遠位側だけでなく把持部D全体で把持しやすくなる。
図4および
図7では2つの把持部材11、12が、湾曲部B付近で補強部材15によって連結されている。この場合、把持部Dの遠位端での開度が過度に大きくなることを抑制するために、
図4に示すように2つの把持部材11、12が湾曲部Bの近位端部で当接していてもよい。他方、把持部Dの遠位端での開度を大きくするためには、
図7に示すように2つの把持部材11、12が湾曲部Bの近位端部で当接していないことが好ましい。
【0076】
補強部材15は、
図4に示すように把持部材11、12の幅方向の中央部に設けられていてもよい。一方、把持部材同士の接続作業を容易にしてクリップの生産性を高めるために、
図6〜
図7に示すように補強部材15は把持部材11、12の幅方向の一方端部に設けられていてもよい。図示していないが、把持部材11、12同士を強固に接続するために、補強部材15は把持部材の幅方向の一方端部と他方端部の両方に設けられていてもよい。ここで、把持部材の幅方向の中央部とは、把持部材の基端部Aを幅方向に三分割したときの中央部分である。
【0077】
長軸方向の把持部Dの長さを確保するためには、一の把持部材11の湾曲部11Bの近位端が、他の把持部材12の湾曲部12Bの近位端と当接していることが好ましい。
【0078】
対象物の把持を容易にすべく、把持部材11、12を変形させやすくするために、把持部材11、12、特に湾曲部B、幅広部C、把持部Dの区間には開口部(図示していない)が形成されていてもよい。より好ましくは、開口部は把持部材11、12の把持部Dに形成される。開口部の形状は特に制限されないが、例えば、開口部の長径の方向をクリップ本体10の長軸方向に合わせることができる。
【0079】
開口部の大きさは特に制限されるものではないが、例えば、開口部の長さは、把持部Dの長軸方向の最大長の30%以上80%以下に設定することができ、開口部の最大幅は、把持部Dの最大幅の10%以上80%以下に設定することができる。
【0080】
把持部材11、12の強度を高めるために、把持部材11、12に凸条や凹条(いずれも図示していない)のエンボスが形成されていてもよい。把持部材11、12の少なくとも把持部Dに凸条や凹条が形成されていることが好ましく、把持部材11、12の把持部Dおよび湾曲部Bに凸条や凹条が形成されていることがより好ましい。
【0081】
凸条や凹条は、把持部材11、12に一体的に形成されてもよく、別部材を付加することにより形成されていてもよい。凸条や凹条が一体的に形成される場合、把持部材11、12の一方主面から見た凸条が、他方主面から見ると凹条となるように形成されていてもよい。凸条や凹条は、把持部材11、12の長軸方向に沿って設けられることが好ましい。凸条や凹条の大きさは、上記開口部の大きさと同様に設定することができる。
【0082】
本願は、2015年10月23日に出願された日本国特許出願第2015−209355号に基づく優先権の利益を主張するものである。2015年10月23日に出願された日本国特許出願第2015−209355号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。