(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、食材への調味液の含浸を短時間で行うことができる調理器及び調理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る調理器は、食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽と、前記調理槽内を減圧する減圧手段と、前記調理槽内に空気を導入する大気導入手段と、
前記食材を昇温させる昇温手段と、前記大気導入手段
、前記減圧手段
及び前記昇温手段を制御する制御部と、を備えている。前記制御部は、
前記食材の温度が調理温度に到達するまでの間、前記調理槽内の減圧が継続されつつ前記食材の温度が前記調理温度に向かって上昇するように前記減圧手段及び前記昇温手段を制御する。前記制御部は、前記食材の温度が前記調理温度に到達した後、前記調理槽内の
復圧と
減圧
が繰り返
されるように前記減圧手段及び前記大気導入手段を制御する。上記調理器は、減圧及び復圧の繰り返し回数の設定が入力される入力部をさらに備えていてもよく、前記制御部は、前記調理槽内の減圧と復圧を予め設定された回数だけ繰り返すように前記減圧手段及び前記大気導入手段を制御してもよい。また上記調理器
において、前記制御部は、前記減圧手段による前記調理槽内の減圧を継続しつつ、前記大気導入手段による前記調理槽内への空気の流入及びその停止を切り替えることにより、前記調理槽内における復圧と減圧の繰り返しを行ってもよい。
【0007】
上記調理器によれば、含浸において調理槽内の減圧と復圧を繰り返すことにより、食材への調味液の含浸を短時間で行うことができる。
【0008】
上記調理器において、前記制御部は、前記調理槽内が所定の調理温度の飽和蒸気圧まで減圧されるように前記減圧手段を制御し、かつ前記減圧状態において前記調理槽が前記調理温度に維持されるように前記昇温手段を制御してもよい。
【0009】
上記調理器では、調理槽内が調理温度の飽和蒸気圧まで大気圧から減圧された状態において調理槽が当該調理温度に維持されることにより、低温の加熱調理においても調理液を沸騰させることができる。これにより、調理槽内において調理液の対流が促進され、食材への熱伝達が早くなる。また減圧下での加熱調理においては食材内部の熱伝導率が高くなるため、食材の中心温度を速やかにその表面温度に近づけることができる。その結果、調理時間をより短縮することができる。また、飽和蒸気を発生させることで調理槽内の温度分布を均一にすることができるため、食材の加熱ムラをより低減することができる。
【0010】
「調理液」とは、調味用の液体に加え、水などの調味用ではない液体も含む概念である。
【0011】
上記調理器は、前記調理槽の温度を検知する槽温度検知部をさらに備えていてもよい。前記制御部は、前記槽温度検知部により検知された温度が前記調理温度に維持されるように前記昇温手段を制御してもよい。
【0012】
本発明者らの鋭意研究の結果によると、調理槽内が調理温度の飽和蒸気圧まで減圧された状態で当該調理温度に維持された場合には、加熱開始から一定時間経過した安定状態であれば、調理槽の温度と、調理液の温度と、食材の温度とが略同じになる。そのため、温度検知が比較的容易な調理槽の温度を検知し、これを調理温度に維持することで、安定状態であれば食材の温度を直接検知しなくても調理槽の温度から食材の温度を推定することができる。
【0013】
上記調理器は、前記食材の温度を検知する食材温度検知部をさらに備えていてもよい。
【0014】
上記のように、飽和蒸気圧下においては調理槽と食材は一定時間経過後に略同じ調理温度で安定するが、調理温度に到達するまでの時間に差がある。このため、槽温度検知部のみを用いた場合には、調理温度に安定するまでの間は食材温度を正確に把握することが困難になる。これに対して、槽温度検知部とは別に食材温度検知部を設けることで、調理温度に安定する前でも食材温度を正確に把握することができる。
【0015】
上記調理器において、前記制御部は、前記食材温度検知部により検知された温度が前記調理温度に到達した時点で調理時間の計測を開始する時間計測部を含んでいてもよい。
【0016】
これにより、食材を調理温度に維持する時間をより正確に管理することができる。
【0017】
ここで、「食材温度検知部の検知温度が調理温度に到達する」とは、検知温度が調理温度と完全に一致する場合だけでなく、装置性能に起因した所定の誤差範囲内に収まる場合も含む。
【0018】
上記調理器において、前記減圧手段は、前記制御部により動作が制御され、前記調理槽内の空気を吸引することにより前記調理槽内を減圧する減圧ポンプを有していてもよい。前記制御部は、前記調理槽内が前記飽和蒸気圧まで減圧された後に前記減圧ポンプの動作を停止させ、かつ前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に達するように前記昇温手段を制御してもよい。
【0019】
上記構成によれば、調理槽が調理温度に達して沸騰が開始する前に減圧ポンプの動作を停止することにより、調理槽内の空気を吸引する際に減圧ポンプへ水分が吸入されることを防止することができる。そのため、減圧ポンプへの水分吸入を防止するためのトラップ機構を設ける必要がなくなるという利点がある。
【0020】
上記調理器は、前記食材の調理温度及び調理時間の設定値を入力可能な入力部をさらに備えていてもよい。
【0021】
上記構成によれば、設定された調理温度及び調理時間の条件で食材を確実に加熱調理することができる。
【0022】
本発明の他の局面に係る調理方法は、食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽において調理する調理方法である。この調理方
法は、
前記食材の温度が調理温度に到達するまでの間、前記調理槽内の空気を吸引することによる前記調理槽内の減圧
を継続しつつ、前記食材の温度が前記調理温度に向かって上昇するように前記調理槽を昇温させることと、前記食材の温度が前記調理温度に到達した後、前記調理槽内に空気を流入することによる前記調理槽内の復圧と
前記調理槽内の減圧を繰り返す
こと、とを含む。この調理方法では、調理槽内の減圧と復圧を繰り返すことにより、食材への調味液の含浸を短時間で行うことができる。上記調理方法において、減圧及び復圧の繰り返し回数を設定し、その後、予め設定された回数だけ前記調理槽内の減圧と復圧とを繰り返してもよい。また
前記調理槽内の空気の吸引を継続しつつ前記調理槽内への空気の流入及びその停止を切り替えることにより、前記調理槽内の
復圧と
減圧とを繰り返してもよい。
【0023】
上記調理方法は、前記食材の調理温度を設定するステップと、前記調理温度において前記食材を加熱調理するステップと、を備えていてもよい。前記加熱調理するステップでは、前記調理槽内が前記調理温度の飽和蒸気圧まで減圧された状態において前記調理槽が前記調理温度に維持されてもよい。
【0024】
上記調理方法では、調理槽内が調理温度の飽和蒸気圧まで大気圧から減圧された状態において調理槽が調理温度に維持されることにより、低温の加熱調理においても調理液が沸騰した状態で食材を加熱調理することができる。これにより、調理槽内において調理液の対流が促進され、食材への熱伝達が早くなる。また減圧下での加熱調理においては食材内部の熱伝導率が高くなるため、食材の中心温度を速やかにその表面温度に近づけることができる。その結果、調理時間をより短縮することができる。また、調理液の対流によって調理槽内の温度分布を均一にすることができるため、加熱ムラをより低減することができる。
【0025】
上記調理方法において、前記加熱調理するステップでは、前記調理槽に設けられた槽温度検知部により検知される前記調理槽の温度が前記調理温度に維持されてもよい。
【0026】
上記の通り、調理槽内が調理温度の飽和蒸気圧まで減圧された状態で当該調理温度に維持された場合には、加熱開始から一定時間経過した安定状態であれば、調理槽の温度と、調理液の温度と、食材の温度とが略同じになる。そのため、槽温度検知部を用いて温度検知が比較的容易な調理槽の温度を監視し、これを調理温度に維持することで、安定状態であれば食材の温度を直接検知しなくても調理槽の温度から食材の温度を推定することができる。
【0027】
上記調理方法において、前記加熱調理するステップでは、前記食材の温度が前記調理温度に到達した時点から調理時間の計測が開始されてもよい。
【0028】
上記のように、飽和蒸気圧下においては調理槽と食材は一定時間経過後に略同じ調理温度で安定するが、調理温度に到達するまでの時間は調理槽の方がより短い。このため、調理槽が調理温度に到達した時点では食材は調理温度に到達しておらず、この時点で調理時間の計測を開始した場合には、食材を予め定められた調理時間だけ確実に調理することが困難になる。これに対して、食材温度が確実に調理温度に到達した時点で調理時間の計測を開始することにより、食材を予め定められた調理時間だけ確実に調理することができる。
【0029】
上記調理方法において、前記加熱調理するステップでは、減圧ポンプにより前記調理槽内の空気が吸引されることにより前記調理槽内が減圧されてもよい。また前記加熱調理するステップでは、前記調理槽内が前記飽和蒸気圧にまで減圧された後に前記減圧ポンプの動作が停止され、かつ前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に到達してもよい。
【0030】
上記方法によれば、調理槽が調理温度に到達して沸騰が開始する前に減圧ポンプの動作を停止することにより、調理槽内の空気を吸引する際に減圧ポンプへ水分が吸入されることを防止することができる。そのため、減圧ポンプへの水分吸入を防止するためのトラップ機構を準備する必要がなくなるという利点がある。
【0031】
上記調理方法は、前記加熱調理するステップの前に、前記食材の調理時間を設定するステップをさらに備えていてもよい。
【0032】
上記方法によれば、設定された調理時間の条件で食材を確実に加熱調理することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、食材への調味液の含浸を短時間で行うことができる調理器及び調理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態につき詳細に説明する。
【0036】
(実施形態1)
<調理器の構成>
まず、本発明の一実施形態である実施形態1に係る調理器1の構成について、
図1を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る調理器1の全体構成を示している。
【0037】
調理器1は、食材90を調理液91(水、調味液)に浸し、茹で又は煮込みなどの加熱調理を行う調理器である。調理器1は、調理槽10と、昇温手段20と、減圧手段30と、大気導入手段40と、槽温度検知部50と、制御部60と、を主に備えている。
【0038】
調理槽10は、食材90及び調理液91が収容される内部空間が形成され、かつ上方に開口部11Aが形成された槽本体11と、当該開口部11Aを覆うように槽本体11に対して開閉自在に取り付けられた蓋部12と、を有している。
【0039】
槽本体11は、底部14及び当該底部14から立設された側壁部15からなる鍋形状を有している。槽本体11には、食材90及び調理液91を収容可能な程度の深さの内部空間が形成されている。槽本体11は、熱伝導性が良いアルミニウムや銅などの金属材料を主材料として構成されている。また槽本体11は、底部14の外面(底面16)がフェライト系ステンレスなどの磁性金属からなる発熱体によって構成された多層鍋である。なお、槽本体11は、全体がアルミニウム又は銅により構成されたものでもよいし、全体がフェライト系ステンレスにより構成されたものでもよい。
【0040】
蓋部12は、ガラスやポリカーボネート材などの耐熱素材によって構成されている。槽本体11内に食材90及び調理液91を入れるときに蓋部12が開かれ、調理時には
図1に示すように開口部11A全体を覆うように蓋部12が閉じられる。
【0041】
調理槽10は、槽本体11と蓋部12との間の隙間をシールする蓋パッキン(図示しない)をさらに有していてもよい。この蓋パッキンは、シリコーン樹脂などの弾性部材によって構成されている。これにより、調理槽10の外から中への空気の流入が抑制され、調理槽10は密閉可能な構造となっている。なお、調理槽10は、蓋パッキンに限らず他の手段によって密閉可能な構造となっていてもよい。
【0042】
昇温手段20は、調理槽10を昇温させるためのものである。昇温手段20は、調理槽10の下方に配置される載置部21と、当該載置部21内に配置される加熱コイル22と、を有している。
【0043】
載置部21は、
図1に示すように調理槽10が載置される平坦な載置面21Aを含む。調理槽10は、載置部21に対して取り外し可能となっている。例えば、調理槽10は、食材90や調理液91を調理槽10内に入れる場合や槽内を洗浄する場合に載置部21から取り外される。
【0044】
加熱コイル22は、電流の供給により調理槽10における底部14近傍を電磁誘導加熱する。より具体的には、加熱コイル22は、電流の供給により発生した磁界によって調理槽10における上記発熱体又は槽本体11に渦電流を発生させ、当該渦電流により生じるジュール熱によって調理槽10の底部14近傍を昇温させる。なお、昇温手段20は、本実施形態のように誘導加熱方式により調理槽10を昇温させるものに限られず、例えば抵抗加熱方式など他の手段(ヒータ)によるものでもよい。
【0045】
減圧手段30は、調理槽10内の空気を吸引することにより調理槽10内を減圧するためのものである。減圧手段30は、減圧配管31と、圧力検知部32と、減圧用弁33と、減圧ポンプ34と、を有している。
【0046】
減圧配管31は、調理槽10内から吸引される空気が流れる流路を有している。減圧配管31は、
図1に示すように一方の端部が蓋部12の上面に接続され、かつ調理槽10の内部と連通するように配置されている。
【0047】
圧力検知部32は、調理槽10内の圧力を検知するための圧力センサである。圧力検知部32は、
図1に示すように減圧配管31の途中に取り付けられている。
【0048】
圧力検知部32は、調理槽10内の圧力を検知可能であれば他の位置(蓋、鍋本体、バルブ等)に設けられていてもよい。
【0049】
減圧用弁33は、減圧配管31内における空気の流通と遮断とを切り替える制御弁である。減圧用弁33は、本実施形態のように圧力検知部32が減圧配管31に取り付けられた場合では、
図1に示すように圧力検知部32から見て調理槽10と反対側において減圧配管31に配置されている。
【0050】
減圧ポンプ34は、真空ポンプであって、減圧配管31を介して調理槽10内の空気を吸引することにより調理槽10内を減圧する。減圧ポンプ34は、本実施形態のように圧力検知部32が減圧配管31に取り付けられた場合では、
図1に示すように減圧用弁33から見て圧力検知部32と反対側において減圧配管31に配置されている。
【0051】
減圧手段30によれば、減圧用弁33を開いた状態で減圧ポンプ34を作動させることにより、減圧配管31を介して調理槽10内の空気を吸引し、調理槽10内を減圧することができる。
【0052】
大気導入手段40は、調理槽10内に空気を流入させることにより、減圧された調理槽10内を大気圧まで復圧させるためのものである。大気導入手段40は、大気導入配管41と、大気導入用弁42と、を有している。
【0053】
大気導入配管41は、調理槽10内へ供給される空気が流れる流路を有している。大気導入配管41は、
図1に示すように減圧配管31と並んで一方の端部が蓋部12の上面に接続され、かつ調理槽10の内部と連通するように配置されている。大気導入配管41は、少なくとも一部が減圧配管31と一体で併用される構成であってもよい。
【0054】
大気導入用弁42は、大気導入配管41内における空気の流通と遮断とを切り替える制御弁である。大気導入用弁42は、
図1に示すように大気導入配管41の途中に配置されている。
【0055】
大気導入手段40によれば、大気導入用弁42を開いた状態で大気導入配管41を介して調理槽10内に空気を流入させることで、減圧された調理槽10内を大気圧まで復圧させることができる。
【0056】
槽温度検知部50は、調理槽10の外面温度を検知する温度センサによって構成されている。槽温度検知部50は、
図1に示すように外側面13(外面)において底部14の近傍に取り付けられており、この部分の温度を検知する。槽温度検知部50としては、熱電対やサーミスタなどの温度センサを例示することができるが、これに限られない。
【0057】
槽温度検知部50は、本実施形態のように底部14近傍の外側面13に取り付けられる場合に限られないが、昇温手段20により主に昇温される部分に取り付けられることが好ましい。例えば、槽温度検知部50は、底面16(外面)に取り付けられ、この部分の温度を検知するものでもよい。また槽温度検知部50は、昇温手段20による加熱中に底面16と略同じ温度になる部分であれば、槽本体11において任意の位置に取り付けることができる。さらに、槽温度検知部50は、調理槽10の外面温度を検知するものに限定されず、調理槽10の内部に配置されて調理槽10の内面温度を検知するものでもよいし、調理槽10に埋め込まれて調理槽10の内部温度を検知するものでもよいし、調理槽10内の調理液91の温度を測定して槽温度として扱うものであってもよい。また槽温度検知部50は、単一の温度センサに限られず、複数の温度センサを含むものでもよい。
【0058】
制御部60は、昇温手段20、減圧手段30及び大気導入手段40の各々の動作を制御するコントローラである。
【0059】
制御部60は、加熱コイル22に電流を供給して調理槽10の底部14を電磁誘導加熱するように昇温手段20を制御する。制御部60は、槽温度検知部50と接続されており、当該槽温度検知部50による検知結果(調理槽10の外面温度の測定結果)が入力される。
【0060】
制御部60は、減圧用弁33及び減圧ポンプ34の各々と接続されている。制御部60は、減圧用弁33の開閉動作を制御し、かつ減圧ポンプ34の作動状態(オン/オフ)を制御する。制御部60は、圧力検知部32と接続され、当該圧力検知部32による検知結果(調理槽10内の圧力)が入力される。
【0061】
制御部60は、大気導入用弁42と接続されており、当該大気導入用弁42の開閉動作を制御する。
【0062】
上記調理器1は、入力部70をさらに備えている。入力部70は、食材90の種類や調理方法などに応じて調理温度及び調理時間の設定値をユーザにより入力可能な部分である。入力部70は、入力された上記設定値を制御部60へ送信する。
【0063】
制御部60は、上記設定値を記憶するための記憶部(図示しない)を有している。また制御部60は、設定された調理温度における飽和蒸気圧の値を算出するための演算部(図示しない)をさらに有し、その算出値を上記記憶部において記憶する。
【0064】
上記調理器1は、表示部80をさらに備えている。表示部80は、ディスプレイであって、制御部60に入力された調理槽10の外面温度や調理槽10内の圧力などの調理状態を表示する。
【0065】
<調理方法の手順>
次に、本発明の一実施形態に係る調理方法(減圧加熱モード)の手順について、
図1〜
図3を参照して説明する。この調理方法は、上記調理器1(
図1参照)を用いて行われ、食材90及び調理液91が収容される密閉可能な調理槽10において茹でや煮込みなどの加熱調理をする方法である。
図2は、上記調理方法の手順を示すフローチャートである。
図3は、上記調理方法における調理槽10の温度制御及び圧力制御の方式を示すタイミングチャートである。
図3において、(1)は槽温度検知部50により検知される調理槽10の外面温度の変化を示し、(2)は昇温手段20のオン/オフの切り替えを示し、(3)は圧力検知部32により検知される調理槽10内の圧力を示し、(4)は減圧ポンプ34のオン/オフの切り替えを示し、(5)は減圧用弁33の開閉状態を示し、(6)は大気導入用弁42の開閉状態を示している。また
図3において、横方向が時間の経過を示している。
【0066】
まず、食材90の調理温度を設定するステップが行われる(
図2:S1)。このステップS1では、食材90の種類や調理方法などに応じて調理温度T1が設定される。調理温度T1は、加熱調理中に食材90に含まれるタンパク質の熱変性を防ぐ観点から、100℃未満の低温(例えば60℃)に設定される。調理温度T1は、ユーザによって入力部70に入力された設定値に基づいて設定される。
【0067】
次に、食材90の調理時間を設定するステップが行われる(
図2:S2)。このステップS2では、同様に食材90の種類や調理方法などに応じて調理時間t0が設定される。調理時間t0は、同様にユーザによって入力部70に入力された設定値に基づいて設定される。
【0068】
次に、設定された調理温度T1及び調理時間t0で食材90を加熱調理するステップが行われる(
図2:S3)。このステップS3では、以下に説明するように調理槽10内の圧力及び調理槽10の温度が調整されつつ食材90が加熱調理される。
【0069】
まず、上記調理槽10内の圧力調整について説明する。制御部60により減圧ポンプ34がオン状態とされ、かつ減圧用弁33が開かれる(
図2:S31,
図3:t1)。この際、大気導入用弁42は閉じられている。これにより、調理槽10内の空気が減圧配管31を介して減圧ポンプ34により吸引され、調理槽10内が減圧される。
【0070】
調理槽10内が大気圧P0から調理温度T1の飽和蒸気圧P1にまで減圧されると(
図2:S33,
図3:t2)、制御部60により減圧ポンプ34の動作が停止され、かつ減圧用弁33が閉じられる(
図2:S34)。一方、大気導入用弁42は、閉じた状態を維持する。これにより、調理槽10内は、調理温度T1の飽和蒸気圧P1にまで減圧された状態で維持される。
【0071】
次に、上記調理槽10の温度調整について説明する。まず、制御部60により昇温手段20がオン状態にされる(
図2:S32,
図3:t1)。これにより、調理槽10の底部14側が加熱コイル22により電磁誘導加熱され、調理槽10の外面温度が初期温度T0から調理温度T1に向かって上昇する。ここで、
図3に示すように、調理槽10の外面温度が調理温度T1に到達する前に調理槽10内の圧力は飽和蒸気圧P1に到達し、減圧ポンプ34の動作が停止される。
【0072】
その後、調理槽10内が飽和蒸気圧P1まで減圧された状態でさらに加熱され、調理槽10の外面温度は調理温度T1に到達する(
図2:S35,
図3:t3)。ここで、調理槽10内が飽和蒸気圧P1まで減圧された状態では、槽内の熱伝達が早くなるため、調理槽10の外面温度と、調理液91の温度と、食材90の温度とが略同じになる。そのため、調理槽10の外面温度が調理温度T1に到達した時点において、調理液91も調理温度T1と略同じ温度に到達する。また、調理槽10内が飽和蒸気圧P1まで減圧されているため低温の状態で調理液91が沸騰し、低温沸騰状態で食材90の加熱調理が行われる。
【0073】
加熱調理中においては、調理槽10内が飽和蒸気圧P1まで減圧された状態が維持され、かつ調理槽10の外面温度が調理温度T1に維持される。具体的には、
図3に示すように、制御部60によって昇温手段20のオン/オフが繰り返されることにより、調理槽10の外面温度が調理温度T1に維持される。このようにして、飽和蒸気圧P1及び調理温度T1の条件で調理時間t0に亘って食材90が加熱調理される(
図2:S36)。
【0074】
次に、調理槽10内を大気開放するステップが行われる(
図2:S4)。このステップS4では、調理時間t0の経過後、制御部60により昇温手段20がオフ状態とされ、かつ大気導入用弁42が開かれる。これにより、大気導入配管41を介して調理槽10内に空気が流入し、調理槽10内が大気圧P0まで復圧される。以上のようにして、ステップS1〜S4が順に実行されることにより、本実施形態に係る調理方法が完了する。
【0075】
<作用効果>
次に、上記調理器1及び調理方法による作用効果について説明する。
【0076】
上記調理器1は、食材90及び調理液91が収容される調理槽10と、調理槽10を昇温させる昇温手段20と、調理槽10内を減圧する減圧手段30と、制御部60と、を備えている。制御部60は、調理槽10内が調理温度T1の飽和蒸気圧P1まで減圧されるように減圧手段30を制御し、かつ当該減圧状態において調理槽10が調理温度T1に維持されるように昇温手段20を制御する。
【0077】
上記調理方法は、食材90の調理温度T1を設定するステップS1と、調理温度T1において食材90を加熱調理するステップS3と、を備えている。加熱調理するステップS3では、調理槽10内が調理温度T1の飽和蒸気圧P1まで減圧された状態において調理槽10が調理温度T1に維持される。
【0078】
上記調理器1及び調理方法によれば、調理槽10内が調理温度T1の飽和蒸気圧P1まで減圧された状態において調理槽10が調理温度T1に維持されることにより、大気圧下の場合とは異なり、95℃以下の低温の加熱調理においても調理液91を沸騰させることができる。これにより、調理槽10内において調理液91の対流が促進され、食材90への熱伝達が早くなる。また減圧下での加熱調理においては食材90内の熱伝導率が高くなるため、食材90の中心温度を速やかにその表面温度に近づけることができる。その結果、調理時間をより短縮することができる。また低温で加熱調理することで、食材90に含まれるタンパク質の熱変性や栄養素の破壊を防止することができる。
【0079】
上記調理器1は、調理槽10の外面温度を検知する槽温度検知部50を備えている。制御部60は、槽温度検知部50により検知された温度(調理槽10の外面温度)が調理温度T1に維持されるように昇温手段20を制御する。
【0080】
調理槽10内が調理温度T1の飽和蒸気圧P1まで減圧された状態で調理温度T1に維持された場合には、加熱開始から一定時間経過した安定状態であれば、調理槽10の温度と、調理液91の温度と、食材90の温度とが略同じになる。そのため、温度検知が比較的容易な調理槽10の外面温度を検知し、これを調理温度T1に維持することで、安定状態であれば食材90の温度を直接検知しなくても調理槽の温度から食材の温度を推定することができる。
【0081】
また調理温度T1を超えないように温度が維持されることで、茹で調理や煮物調理など、食材90が調理槽10の表面に直接接触するときでも、食材90が調理温度T1を超えて過剰に加熱されることを防止することができる。
【0082】
上記調理器1において、減圧手段30は、調理槽10内の空気を吸引することにより調理槽10内を減圧する減圧ポンプ34を有している。制御部60は、
図3に示すように、調理槽10内が飽和蒸気圧P1まで減圧された後に減圧ポンプ34の動作を停止させ、かつ当該停止後に調理槽10が調理温度T1に達するように昇温手段20を制御する。
【0083】
これにより、調理槽10が調理温度T1に達して沸騰が開始する前に減圧ポンプ34の動作を停止することで、調理槽10内の空気を吸引する際に減圧ポンプ34への水分の吸入を防止することができる。そのため、減圧ポンプ34への水分吸入を防止するためのトラップ機構を設ける必要がなくなるという利点がある。なお、上記トラップ機構は省略されずに減圧ポンプ34の直前に設けられてもよい。
【0084】
<変形例>
上記実施形態では、調理槽10が調理温度T1に到達する前に減圧ポンプ34を停止する場合について説明したが、これに限られない。調理槽10が調理温度T1に到達した後に減圧ポンプ34が停止されてもよいし(減圧ポンプ34の停止前に調理温度T1に到達)、調理温度T1に到達すると同時に減圧ポンプ34が停止されてもよい。すなわち、調理槽10が目標温度に到達するタイミングと調理槽10内が目標圧力に到達するタイミングの前後は特に限定されず、どちらのタイミングが先でもよいし、同時であってもよい。
【0085】
上記実施形態において、調理槽10内の圧力を一定に保つために、減圧又は大気導入による圧力調整を行うものであってもよい。また、調理槽10内の圧力が飽和蒸気圧P1に到達した後一定に保持される場合に限られず、加熱調理ステップに移行した後でも調理槽10内の圧力調整が行われてもよい。
【0086】
上記実施形態では、一つの調理温度T1が設定され、これが維持される加熱調理について説明したが、これに限られない。複数の調理温度が設定され、各調理温度が段階的に維持される加熱調理が行われてもよい。この場合には、各調理温度における飽和蒸気圧になるように調理槽10内の圧力が調整される。
【0087】
(実施形態2)
次に、本発明の他の実施形態である実施形態2について説明する。実施形態2に係る調理器2は、基本的には上記実施形態1に係る調理器1と同様の構成を有している。しかし、実施形態2に係る調理器2は、調理槽10の構成において上記実施形態1に係る調理器1と異なっている。
【0088】
図4に示すように、実施形態2に係る調理器2は、上記実施形態1に係る調理器1と同様に、食材90及び調理液91が収容される密閉可能な調理槽10を備えている。ここで、調理器2は、調理槽10内において底部14から所定の高さに配置される多孔質板92を備えている。調理槽10の内壁面には、多孔質板92の端部を支持する支持部11Bが設けられている。
【0089】
食材90は、多孔質板92上に並べて設置される。調理液91は、
図4に示すように液面が多孔質板92よりも下方に位置するように収容される。
【0090】
上記調理器2では、昇温手段20により調理槽10を昇温させることにより調理液91(水)を蒸発させ、その蒸気(図中破線矢印)によって食材90の蒸し調理を行うことができる。ここで、上記実施形態1と同様に調理槽10内が飽和蒸気圧P1まで減圧された状態で調理温度T1に維持されることにより、飽和蒸気により食材90を加熱することができる。そのため、調理槽10内の温度分布が均一になり、食材90の加熱ムラをより低減することができる。
【0091】
<変形例>
上記実施形態において、食材90に蒸気を当てることで加熱調理可能であればよく、多孔質板92及び支持部11Bが設けられる場合に限定されない。例えば、調理槽10の底部14から所定の高さに位置する支持板(多孔質の板に限られない)及び当該支持板から下方に延びる脚部を備えた食材支持部(台座)が調理槽10の底部14上に配置され、当該支持板上に食材90が配置されてもよい。そして、調理液91は、当該支持板よりも液面が下方に位置するように調理槽10内に収容されてもよい。この場合には、上記実施形態のように調理槽10の内壁面に支持部11Bを設けることなく、食材90を底部14から所定の高さに配置し、蒸し調理を行うことができる。
【0092】
上記実施形態(又は変形例)において、
図4に示す構成の調理器2により蒸し調理を行う場合に限定されず、上記実施形態1のように茹で又は煮込みなどの加熱調理が行われてもよい。この場合、調理液91は、液面が多孔質板92(又は支持板)よりも上方に位置するように(食材90が調理液91に浸されるように)調理槽10内に収容される。このように、茹で又は煮込みなどの加熱調理は、上記実施形態1のように食材90が調理槽10の底部14上に配置される場合(
図1)に限られず、
図4に示すように底部14から所定の高さに位置する多孔質板92(又は支持板)上に食材90が配置されてもよい。
【0093】
(実施形態3)
次に、本発明のさらに他の実施形態である実施形態3について説明する。実施形態3に係る調理器3は、基本的には上記実施形態1に係る調理器1と同様の構成を備えている。しかし、実施形態3に係る調理器3は、食材90の温度を検知する食材温度検知部51をさらに備える点で異なっている。
【0094】
<調理器の構成>
図5に示すように、調理器3は、直方体形状や円筒形状の筐体からなる本体ハウジング81と、本体ハウジング81の底面上に載置された本体部82と、本体部82内に配置された調理槽10と、昇温手段20と、減圧手段30と、大気導入手段40と、槽温度検知部53と、食材温度検知部51と、制御部88と、を主に備えている。
【0095】
本体ハウジング81は、調理器3の外装部分を構成しており、本体部82や調理槽10等の調理器3の各構成部材を内部に収容する。本体ハウジング81は、ステンレスやアルミニウム等の錆が発生しない金属により構成されていてもよいし、ポリプロピレン等の100℃以上の耐熱性を有する樹脂により構成されていてもよい。
【0096】
本体部82には、調理槽10の外形状に適合した形状の凹部が設けられており、当該凹部において調理槽10を設置可能となっている。本体部82は、調理槽10を外部に対して断熱するように取り囲む断熱部82Aと、本体ハウジング81の底面上に載置される載置部82Bと、を有する。断熱部82Aはポリプロピレン等の100℃以上の耐熱性を有する樹脂により構成されていてもよいし、載置部82Bはステンレスやアルミニウム等の錆が発生しない金属により構成されていてもよい。
【0097】
調理槽10は、食材90及び調理液91を収容可能な鍋形状を有する槽本体11及び蓋部12を有し、本体部82に設けられた凹部に配置されている。食材90の設置時や清掃時には、調理槽10は本体部82から取り外し可能となっている。槽本体11は、熱伝導性に優れたアルミニウムや銅などを主材料として構成されており、その外面に発熱体11Cが接合されている。発熱体11Cは、フェライト系ステンレスなどの磁性金属板により構成されており、槽本体11の形状に沿った形状を有する。発熱体11Cは、後述するように調理槽10を昇温させる昇温手段20の一部を構成する。
【0098】
蓋部12は、ガラス等の120℃以上の耐熱性を有する透明な樹脂材料によって構成されており、蓋パッキン83を挟んで槽本体11の上端に配置されている。蓋パッキン83は、シリコーン等の弾性部材により構成されており、槽本体11の上端面及び蓋部12の下面に対して気密に接触している。これにより、調理槽10が密閉可能な構造となっており、槽内外における空気の流通が遮断されている。なお、調理槽10には、内部11Aの圧力を検知する不図示の圧力検知部が設けられている。
【0099】
昇温手段20は、調理槽10を昇温させるものであり、発熱体11Cと、複数の加熱コイル84と、を有する。加熱コイル84は、断熱部82Aの内部に配置されており、槽本体11の底部外面に接合された発熱体11Cと接触している。この加熱コイル84に高周波電流を流すことで電磁誘導作用により発熱体11Cが発熱し、その結果調理槽10を昇温させることができる。また加熱コイル84は、槽本体11の側部外面に接合された発熱体11Cと接触するように配置されてもよい。また昇温手段20は、誘導加熱方式により調理槽10を昇温させるものに限定されず、抵抗加熱方式のヒータ等の他の加熱手段でもよい。
【0100】
減圧手段30は、調理槽10内を減圧するものであり、減圧ポンプ85と、減圧用弁87Aと、減圧配管87Bと、を有する。減圧ポンプ85は、本体ハウジング81内において底面側の隅部に配置されている。減圧用弁87Aは、減圧ポンプ85の上側に位置する支持板85A上に載置されている。減圧配管87Bは、蓋部12を厚み方向に貫通する減圧ポート87と連通するように、一端部が固定部材87Cにより蓋部12の上面に固定されている。また図示は省略するが、減圧配管87Bの他端部には減圧ポンプ85が接続されており、減圧配管87Bの途中には減圧用弁87Aが設けられている。これにより、減圧用弁87Aを開いた状態で減圧ポンプ85を動作させることで、減圧配管87Bを介して調理槽10内の空気を吸引し、調理槽10内を大気圧未満にまで減圧することができる。
【0101】
大気導入手段40は、調理槽10内に空気を導入するものであり、大気導入用弁86Aと、大気導入用配管86Bと、を有する。大気導入用弁86Aは、支持板85A上において減圧用弁87Aと並んで配置されている。大気導入用配管86Bは、蓋部12を厚み方向に貫通する大気導入ポート86と連通するように、一端部が固定部材86Cにより蓋部12の上面に固定されている。また大気導入配管86Bの途中には、大気導入用弁86Aが設けられている。調理槽10内が減圧状態にあるときに大気導入用弁86Aを開くことにより、大気導入配管86Bを介して調理槽10内に空気を流入させ、調理槽10内を大気圧まで復圧させることができる。
【0102】
槽温度検知部53は、調理槽10の外面温度を検知する温度センサによって構成されている。槽温度検知部53は、熱電対やサーミスタ等であり、加熱コイル84の近傍において槽本体11の底部外面に接触するように配置されている。より具体的には、加熱コイル84は、発熱体11Cに形成された孔に挿入されることで、槽本体11の底部外面に接触している。これにより、加熱コイル84によって主に昇温される槽本体11の底部の温度を検知することができる。加熱調理中においては、槽温度検知部53により検知される槽本体11の外面温度が設定された調理温度に維持されるように昇温手段20が制御される。
【0103】
また槽温度検知部53は、槽本体11の底部外面に接触する場合に限定されず、側部外面に接触するように配置されてもよい。また槽温度検知部53は、槽本体11の外面温度を検知する構成にも限定されず、槽本体11の底部内面又は側部内面に接触するように槽本体11の内部11Aに配置され、槽本体11の内面温度を検知可能な構成としてもよい。また槽温度検知部53は、槽本体11に埋め込まれ、槽本体11の内部温度を検知可能な構成としてもよい。
【0104】
食材温度検知部51は、食材90の温度を検知する温度センサによって構成されている。食材温度検知部51は、先端部51Aにおいて食材90の温度を検知するセンサ部が設けられた棒状のセンサであり、蓋部12を厚み方向に貫通する挿入孔52を通じて槽本体11の内部11Aに挿入されている。食材温度検知部51における先端部51Aと反対側の後端部51Bは、蓋部12の上面よりも上側に位置しており、保持部材52Aにより保持されている。保持部材52Aは、先端部51Aが槽本体11の底面から所定の高さ位置となるように食材温度検知部51を保持する。また保持部材52Aにより保持された状態で食材温度検知部51を上下に移動させることにより、先端部51Aの高さ位置を調整することもできる。また保持部材52Aは、挿入孔52の径よりも大きい幅を有し、挿入孔52を塞ぐように蓋部12の上面に配置されている。これにより、挿入孔52を通じて槽本体11の内部11Aに外気が流入するのを防ぐことができる。
【0105】
先端部51Aは、食材90表面に突き刺すことができる程度に尖った形状を有する。
図5に示すように、先端部51Aを食材90の中心まで突き刺すことにより、食材90の中心温度(芯温)を検知することができる。加熱調理中においては、食材温度検知部51により検知された食材90の芯温が、設定された調理温度に到達した時点で調理時間の計測が開始される。また先端部51Aは屈曲可能な構造となっており、これにより槽本体11の内部11Aにおける先端部51Aの位置を微調整することができる。
【0106】
食材温度検知部51は、食材90の中心温度を検知する場合に限定されず、先端部51Aを食材90表面に接触させることにより、食材90の表面温度を検知してもよい。また先端部51Aを食材90に接触させずに調理液91に浸漬させることで調理液91の温度を検知してもよいし、先端部51Aを調理液91の液面よりも上側に位置させることで調理液91の蒸気温度を検知してもよい。また本実施形態では、先端部51Aを食材90に直接接触させて食材90の温度を検知する場合について説明したが、食材温度検知部51は非接触式の温度センサによって構成されていてもよい。
【0107】
制御部88は、昇温手段20、減圧手段30及び大気導入手段40の各々の動作を制御するコントローラである。
図6に示すように、制御部88は、動作制御部88Aと、時間計測部88Bと、入力部88Cと、表示部88Dと、警告発生部88Eと、を有する。また制御部88は、槽温度検知部53及び食材温度検知部51の各々により検知された温度が入力されるように構成されている。
【0108】
動作制御部88Aは、CPUにおいて各機器の動作を制御するための一機能であり、プログラムされた各種シーケンス制御を実行するように各機器の動作を制御する。具体的には、動作制御部88Aは、加熱コイル84及び減圧ポンプ85のオン/オフを切り替えるように制御し、また減圧用弁87A及び大気導入用弁86Aの開閉を切り替えるように制御する。時間計測部88Bは、タイマーであって、食材温度検知部51により検知された温度が設定された調理温度に到達した時点で調理時間の計測を開始する。入力部88Cは、ユーザが調理器3の各種操作を行うための操作ボタン等であり、食材90の調理温度、調理時間、調理モードなどを入力することができる。表示部88Dは、ディスプレイであって、調理中において槽温度検知部53及び食材温度検知部51により検知される調理槽10及び食材90の温度、圧力検知部(不図示)により検知される調理槽10内の圧力、及び時間計測部88Bにより計測される調理時間を表示する。警告発生部88Eは、アラーム音を鳴らす部分であって、時間計測部88Bにおいて調理時間が経過した時にアラームを鳴らすことにより、調理時間の経過をユーザに知らせる。
【0109】
<調理方法の手順>
次に、本発明の実施形態3に係る調理方法(減圧加熱モード)の手順について、
図7のタイミングチャートを参照して説明する。
図7において、(1)は食材温度検知部51により検知される食材90の芯温の変化を示し、(2)は減圧用弁87Aの開閉状態を示し、(3)は大気導入用弁86Aの開閉状態を示し、(4)は減圧ポンプ85のオン/オフの切り替えを示し、(5)は加熱コイル84への通電のオン/オフの切り替えを示している。また
図7において、横方向が時間の経過を示している。
【0110】
まず、ユーザにより食材90の調理温度T及び調理時間t0が入力部88Cに入力される。調理温度Tは、55〜95℃の範囲内(例えば60℃)に設定される。また調理時間t0は、0〜199分の範囲内で設定される。
【0111】
待機状態(
図7:t1〜t2)では、大気導入用弁86Aが開くと共に減圧用弁87Aが閉じており、減圧ポンプ85及び加熱コイル84がいずれもオフ状態となっている。そして、動作制御部88Aにより減圧ポンプ85及び加熱コイル84がオン状態にされると共に、減圧用弁87Aが開かれかつ大気導入用弁86Aが閉じられる(
図7:t2)。これにより、調理槽10内の空気が減圧ポンプ85により吸引されて調理槽10内が減圧されると共に、調理槽10が昇温されることで食材90の温度が上昇する。そして、調理槽10内が大気圧から調理温度Tの飽和蒸気圧+3%の圧力にまで到達すると(
図7:t3)、動作制御部88Aにより減圧用弁87Aが閉じられる。そして、一定時間経過した後に減圧ポンプ85がオフ状態とされる(
図7;t4)。このように、減圧用弁87Aを閉じた後も一定時間減圧ポンプ85を動作させることで、減圧ポンプ85を保護することができる。
【0112】
次に、食材90の芯温(食材温度検知部51の検知値)が調理温度Tの−2℃の温度にまで到達すると(
図7:t5)、時間計測部88Bにおいて調理時間t0の計測が開始される。この時、食材90の芯温よりも調理液91の温度の方がより上昇速度が大きいため、調理液91の温度は既に調理温度Tにまで到達している。また調理槽10内は飽和蒸気圧近傍まで減圧されているため、調理液91が沸騰し、低温沸騰状態で食材90が加熱調理される。加熱調理中においては、上記実施形態1と同様に、槽温度検知部53により検知される調理槽10の外面温度が調理温度Tに維持されるように、加熱コイル84への通電量が調整される。
【0113】
そして、計測開始から調理時間t0が経過すると(
図7:t6)、警告発生部88Eにおいてアラームが鳴り、加熱コイル84への通電が停止される。そして、調理槽10内の減圧状態が保持されたまま自動で保存工程に移行する。その後、調理者が調理終了キーを押下することにより大気導入用弁86Aが開かれ、調理槽10内が大気圧まで復圧する(
図7:t7)。このように、調理終了キーが押下されたタイミングで大気開放することにより、調理者が調理終了に気付かなかった場合に調理槽10内を減圧状態に保持することができ、食材90及び調理液91が空気に触れるのを防止できる。以上のような手順で実施形態3に係る調理方法(減圧加熱モード)が完了する。
【0114】
<作用効果>
次に、上記実施形態3に係る調理器3及び調理方法による作用効果について説明する。
図8は、食材の芯温センサが用いられない常圧下での加熱調理における温度の時間変化を示したグラフである。
図9は、食材の芯温センサを用いた常圧下での加熱調理における温度の時間変化を示したグラフである。
図10は、上記実施形態3に係る調理器3を用いた飽和蒸気圧下での加熱調理における温度の時間変化を示したグラフである。
図8〜10のグラフ中、「T1」の曲線は調理槽の温度の時間変化を示し、「T2」の曲線は食材の中心温度の時間変化を示し、「T3」の曲線は調理液の温度の時間変化を示し、「T4」の曲線は食材の表面温度の時間変化を示している。なお、
図8では、食材の中心温度及び表面温度はいずれも測定されないため、グラフ中に「T2,T4」で示した線は温度推定値を示している。また「T2」の線としては、調理終了の時点で食材の中心温度が目標加熱温度に到達していない場合(T2’)、及び調理終了の時点で食材の中心温度が目標加熱温度を超えて過加熱になっている場合(T2’’)の2本が示されている。
【0115】
まず、食材の芯温センサが用いられない常圧下での加熱調理では、
図8のグラフに示される通り、食材の温度上昇時間を短縮するために、調理槽の温度T1が食材の目標加熱温度よりも高い温度になるように加熱される。また調理時間の計測は、加熱開始と同時に開始される。この場合、所定の調理時間が経過した時点において食材の中心温度T2が目標加熱温度に到達しているか否かを確認することができず、食材を目標加熱温度において所定の調理時間だけ確実に調理することができない。
【0116】
次に、食材の芯温センサを用いた常圧下での加熱調理では、
図9のグラフに示される通り、上記の場合と同様に調理槽の温度T1が食材の目標加熱温度よりも高い温度になるように加熱される。そして、食材の中心温度T2が目標加熱温度に到達した時点で調理時間の計測を開始することで、食材を目標加熱温度において所定の調理時間だけ確実に調理することができる。しかし、この場合には、食材の表面温度T4が目標加熱温度よりも高くなり、過加熱状態となってしまう。
【0117】
これに対して、上記実施形態3に係る調理器3を用いた飽和蒸気圧下での加熱調理においては、常圧下よりも食材の温度上昇速度が大きくなると共に、食材の表面から中心までの熱伝導率が大きくなるため、調理槽を食材の目標加熱温度よりも高い温度になるように加熱する必要がない。また
図10のグラフに示される通り、各温度T1〜T4は、一定時間経過後に同じ調理温度で安定する。そのため、常圧下のように食材が過加熱状態になることを防止できる。
【0118】
また
図10のグラフに示される通り、各温度T1〜T4が目標加熱温度に到達するまでの時間はそれぞれ異なっている。具体的には、目標加熱温度までの到達時間はT1が最も短く、次にT3が短く、その次にT4が短く、最も長いのはT2となる。そのため、T1が目標加熱温度に到達した時点では食材の中心温度T2は目標加熱温度に到達しておらず、この時点で調理時間の計測を開始すると、食材を目標加熱温度において所定の調理時間だけ確実に加熱調理することができない。これに対して、上記調理器3では、食材温度検知部51を設けることで食材の中心温度を直接測定し、この中心温度が目標加熱温度に到達した時点で調理時間の計測を開始することで、食材を目標加熱温度に維持する時間をより正確に管理することができる。
【0119】
(実施形態4)
次に、本発明のさらに他の実施形態である実施形態4について説明する。実施形態4に係る調理器は、上記実施形態3で説明したように飽和蒸気圧下において低温で加熱調理する減圧加熱モードだけでなく、制御部88によって減圧手段30及び大気導入手段40を制御することにより、調理槽10内の減圧と復圧を繰り返す含浸濃縮モードをさらに実行可能となっている。
【0120】
図11は、含浸濃縮モードにおけるタイミングチャートを示している。
図11において、(1)は食材温度検知部51により検知される食材90の芯温の変化を示し、(2)は減圧用弁87Aの開閉状態を示し、(3)は大気導入用弁86Aの開閉状態を示し、(4)は減圧ポンプ85のオン/オフの切り替えを示し、(5)は加熱コイル84への通電のオン/オフの切り替えを示している。また
図11において、横方向が時間の経過を示している。
【0121】
まず、ユーザにより調理温度T、減圧時間t0、及び減圧−復圧の繰り返し回数などの条件が入力部88Cに入力される。調理温度Tは0〜60℃の範囲内に設定され、減圧時間t0は2〜20分の範囲内に設定され、繰り返し回数は1〜20回に設定される。
【0122】
待機状態(
図11:t1〜t2)では、減圧用弁87Aが閉じると共に大気導入用弁86Aが開いており、減圧ポンプ85及び加熱コイル84が共にオフ状態となっている。
【0123】
次に、減圧工程(
図11:t2〜t3)に移行する。この減圧工程では、動作制御部88Aにより減圧ポンプ85及び加熱コイル84への通電がオン状態にされると共に、減圧用弁87Aが開かれかつ大気導入用弁86Aが閉じられる。これにより、調理槽10内の空気が減圧ポンプ85により吸引されて調理槽10内が減圧されると共に、調理槽10が昇温されることで食材90温度が上昇する。この減圧工程は、予め入力された減圧時間t0だけ継続される。また食材90の温度が調理温度Tに到達した後は、
図11に示すように加熱コイル84への通電のオン/オフを繰り返すことにより調理温度Tが維持される。
【0124】
次に、復圧工程(
図11:t3〜t4)に移行する。この復圧工程では、動作制御部88Aにより大気導入用弁86Aが開かれる。これにより、大気導入ポート86から調理槽10内に空気が流入し、調理槽10内の圧力が上昇する。この復圧工程は、減圧工程よりも短い時間だけ実施され、例えば1分間実施される。
【0125】
そして、上記減圧工程及び復圧工程が予め設定された回数だけ繰り返される。これにより、食材90における空気の出入りが繰り返され、その過程で調理液91が短時間で食材90内に含浸する。その後、減圧工程と復圧工程の繰り返しが設定回数だけ完了すると、大気導入弁86Aを開いた状態で減圧用弁87Aが閉じられ、減圧ポンプ85及び加熱コイル84がオフ状態とされる(
図11:t4)。以上のようにして含浸・濃縮モードが完了する。またこのモードは、食材90の含浸だけでなく乾燥にも用いることができ、食材90を短時間で乾燥させることができる。
【0126】
(その他実施形態)
次に、本発明のその他実施形態について説明する。
【0127】
上記実施形態3において、減圧加熱モード及び含浸濃縮モードに加えて、手動調理モードを実行可能となっていてもよい。手動調理モードにおいては、減圧加熱モードや含浸濃縮モードのようなシーケンス制御は行われず、減圧オン、減圧オフ及び減圧解除などの各操作をユーザが手動で行うことができる。
【0128】
上記実施形態3において、食材温度検知部51による検知温度に基づいて調理時間t0の計測開始のタイミングを制御する場合に限定されず、槽温度検知部53による検知温度に基づいて調理時間t0の計測開始のタイミングを制御してもよい。この場合、食材温度検知部51は、食材90や調理槽10内の温度をモニターする手段として用いることができる。このモニター値は、調理器3に設けられた表示部88Dに表示させてもよいし、別の装置に設けられた表示部に表示させてもよい。
【0129】
上記実施形態3において、食材温度検知部51を省略し、槽温度検知部53により調理槽10の温度のみを検知してもよい。この場合、調理槽10の温度が設定された調理温度Tに維持されるように加熱コイル84への通電量を制御し、かつ調理槽10の温度が調理温度Tに到達した時点で時間計測部88Bによる調理時間t0の計測を開始する。また加熱コイル84への通電開始時に時間計測部88Bによる調理時間t0の計測を開始してもよい。また調理槽10の温度を直接測定するのではなく、調理液91の温度を検知して上記制御を行う構成としてもよい。
【0130】
また上記実施形態3において、槽温度検知部53を省略し、食材温度検知部51のみの構成としてもよい。
図10のグラフに示されるように、調理槽10の温度T1と調理液91の温度T3は、安定時には略同じになる。このため、食材温度検知部51によって調理液91の温度を検知し、この調理液91の温度が調理温度Tに維持されるように加熱コイル84への通電量を制御することにより、槽温度検知部53を用いた場合と同様の加熱制御が可能になる。
【0131】
また上記実施形態3において、槽温度検知部53及び食材温度検知部51を共に槽本体11の内部11Aに配置し、槽温度検知部53により調理液91の温度を検知すると共に食材温度検知部51により食材90の中心温度を検知してもよい。そして、調理液91の温度に基づいて加熱コイル84への通電量を制御すると共に、食材90の中心温度に基づいて調理時間t0の計測開始のタイミングを制御してもよい。
【0132】
また上記実施形態1,2において、食材温度検知部をさらに設けてもよい。また上記実施形態1,2において、減圧加熱モードに加えて、含浸濃縮モード及び手動調理モードが実行可能となっていてもよい。
【0133】
(実験例)
食材及び調味液を調理槽内に入れて加熱したときの、食材、調味液及び調理槽の各温度変化を測定する実験を行った。食材としては、鶏むね肉を用いた。調理槽内を大気圧(約101kPa)から減圧した状態において調理槽を昇温させることで食材及び調味液を加熱した。温度測定は、食材(中心部及び表面)、調味液ならびに調理槽の外側面について、温度計を用いて行った。温度測定は、食材を調味液に浸した時点から開始した。また比較例として、大気圧下において加熱したときの温度測定も行った。
【0134】
図12は、食材(中心部及び表面)、調味液ならびに調理槽の外側面の各々における温度の時間変化を示している。
図12のグラフ中、横軸は経過時間(分)を示し、縦軸は温度(℃)を示している。また
図12のグラフ中、(A)は減圧下での調理槽の外側面の温度変化を示し、(B)は減圧下での食材表面の温度変化を示し、(C)は減圧下での食材中心の温度変化を示し、(D)は減圧下での調味液の温度変化を示している。また
図12のグラフ中、(a)は大気圧下での調理槽の外側面の温度変化を示し、(b)は大気圧下での調味液の温度変化を示し、(c)は大気圧下での食材中心の温度変化を示し、(d)は大気圧下での食材表面の温度変化を示している。
【0135】
表1は、減圧下及び大気圧下の各々について、食材中心の温度が目的の温度に到達するまでの時間、合計の調理時間、食材の中心温度と表面温度との差の最大値、最小値及び平均値をそれぞれ示している。
【0137】
図12から明らかなように、減圧下での食材温度(B,C)は、大気圧下での食材温度(c,d)に比べて、目標の設定温度付近に到達するまでの時間がより短かった。具体的には、表1に示すように、食材の中心温度が目的の温度に到達するまでの時間が大気圧下では34分であったのに対し、減圧下では6分であった。また減圧下では大気圧下に比べて、食材の中心温度と表面温度との差(最大値、最小値及び平均値のいずれも)が小さくなった。
【0138】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲により示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。