特許第6694959号(P6694959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニラ・ダイナミクス・エイビイの特許一覧

<>
  • 特許6694959-タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定 図000002
  • 特許6694959-タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定 図000003
  • 特許6694959-タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定 図000004
  • 特許6694959-タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定 図000005
  • 特許6694959-タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定 図000006
  • 特許6694959-タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定 図000007
  • 特許6694959-タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694959
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】タイヤ剛性の推定および道路摩擦の推定
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/068 20120101AFI20200511BHJP
   B60T 8/172 20060101ALI20200511BHJP
   G01M 17/02 20060101ALI20200511BHJP
【FI】
   B60W40/068
   B60T8/172 B
   G01M17/02
【請求項の数】10
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-532123(P2018-532123)
(86)(22)【出願日】2016年12月16日
(65)【公表番号】特表2019-502592(P2019-502592A)
(43)【公表日】2019年1月31日
(86)【国際出願番号】EP2016002121
(87)【国際公開番号】WO2017102086
(87)【国際公開日】20170622
【審査請求日】2018年8月14日
(31)【優先権主張番号】102015016507.0
(32)【優先日】2015年12月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509260569
【氏名又は名称】ニラ・ダイナミクス・エイビイ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】スヴァンテソン,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ミュクレブスト,アンドレアス
【審査官】 増子 真
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−078843(JP,A)
【文献】 特開2013−180639(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0015906(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104354697(CN,A)
【文献】 独国特許出願公開第102007007282(DE,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0284006(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
G01M 17/00 − 17/10
B60T 7/12 − 8/1769
B60T 8/32 − 8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
滑り関連値(k1,k2)を提供するための少なくとも1つの車両センサを備える車両の車輪の、潜在的摩擦およびタイヤ剛性のうち、少なくとも1つを決定する方法であって、
−第1の滑り関連値(k1)および第1のタイヤ剛性値(C1)に基づき、第1の摩擦関連値(μ1)を計算するステップと、
−前記第1の滑り関連値(k1)、前記計算した第1の摩擦関連値(μ1)、および第2の摩擦関連値(μ2)に基づき、第2のタイヤ剛性値(C2)を推定するステップと、
−前記推定した第2のタイヤ剛性値(C2)を、第3の摩擦関連値(μ3)を計算する基礎としてフィードバックするステップと
−前記第3の摩擦関連値に基づいて前記潜在的摩擦を決定するステップ、および/または、前記フィードバックされたタイヤ剛性値に基づいて前記タイヤ剛性を決定するステップとを
を備え
前記摩擦関連値は、
牽引力もしくは正規化牽引力、加えられた車輪トルク、使用した長手方向加速度もしくは横方向加速度、または両方の組合せ、使用したブレーキ圧、ABS制動中に使用した摩擦、牽引制御システム(TCS)が活動化されたときに使用した摩擦、または車両相互接続能力を介して利用可能なデータとして提供される現在の潜在的摩擦のうち、少なくとも1つを含み、
前記滑り関連値は、
滑り、牽引力に対する滑り曲線の傾き、および前記傾きの逆数のうち少なくとも1つを含む
方法。
【請求項2】
滑り関連値(k1,k2)を提供するための少なくとも1つの車両センサを備える車両の車輪の、潜在的摩擦およびタイヤ剛性のうち、少なくとも1つを決定する方法であって、
−第1の滑り関連値(k1)および第1の摩擦関連値(μ1)に基づき、第1のタイヤ剛性値(C1)を推定するステップと、
−前記第1の滑り関連値(k1)、前記推定した第1のタイヤ剛性値(C1)、および第2のタイヤ剛性値(C2)に基づき、第2の摩擦関連値(μ2)を計算するステップと、
−前記計算した第2の摩擦関連値(μ2)を、第3のタイヤ剛性値(C3)を計算する基礎としてフィードバックするステップと
−前記前記フィードバックされた摩擦関連値に基づいて前記潜在的摩擦を決定するステップ、および/または、前記第3のタイヤ剛性値に基づいて前記タイヤ剛性を決定するステップとを
を備え
前記摩擦関連値は、
牽引力もしくは正規化牽引力、加えられた車輪トルク、使用した長手方向加速度もしくは横方向加速度、または両方の組合せ、使用したブレーキ圧、ABS制動中に使用した摩擦、牽引制御システム(TCS)が活動化されたときに使用した摩擦、または車両相互接続能力を介して利用可能なデータとして提供される現在の潜在的摩擦のうち、少なくとも1つを含み、
前記滑り関連値は、
滑り、牽引力に対する滑り曲線の傾き、および前記傾きの逆数のうち少なくとも1つを含む
方法。
【請求項3】
−フィードフォワードループ/開ループで、剛性補正因子(ΔC)を推定するステップをさらに備え、前記第1のタイヤ剛性値(C1)はまた、前記剛性補正因子(ΔC)に基づく、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記剛性補正因子を推定する前記ステップは、
−タイヤの圧力、
−タイヤの温度、
−周囲温度、
−車軸高さ、
−サスペンション圧、
−サスペンション高さ
のうち少なくとも1つに基づく、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
推定する前記ステップはまた、
−ヒューマン・マシン・インタフェースを介して手作業で入力されたタイヤタイプ、
−ABS制動から推定した潜在的摩擦、
−TCS事象から推定した潜在的摩擦、
−車両相互接続能力から受信した、推定した潜在的摩擦、
−前記車輪に対する正規化牽引力、
−摩擦関連値、
−前記車輪に加えられたトルク、
−長手方向加速度、
−横方向加速度、
−ブレーキ圧、
−ヨーレート、
−車輪速度、
−車両速度、
−ハンドル角度、
−車輪角度、
−タイヤ圧、
−タイヤ温度、
−周囲温度、
−車軸高さ、
−サスペンション圧、
−サスペンション高さ、
−制御フラグレジスタ
のうち少なくとも1つに基づく、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
−前記第1の摩擦関連値および前記第2の摩擦関連値のうち少なくとも1つの不確実性を示す摩擦不確実性尺度を算出するステップ
をさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
−前記第1のタイヤ剛性値(C1)および前記第2のタイヤ剛性値(C2)のうち少なくとも1つの不確実性を示す剛性不確実性尺度を算出するステップ
をさらに備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
コンピュータプログラム製品であって、コンピューティング機器で実行されたときに、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法の前記ステップを行うように構成されたプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品。
【請求項9】
車両の車輪の、潜在的摩擦およびタイヤ剛性のうち、少なくとも1つを決定するための、処理ユニットを備える装置であって、前記処理ユニットは、
−第1の滑り関連値(k1)および第1のタイヤ剛性値(C1)に基づき、第1の摩擦関連値(μ1)を計算し、
−前記第1の滑り関連値(k1)、前記計算した第1の摩擦関連値(μ1)、および第2の摩擦関連値(μ2)に基づき、第2のタイヤ剛性値(C2)を推定し、
−前記推定した第2のタイヤ剛性値(C2)を、第3の摩擦関連値(μ3)を計算する基礎としてフィードバックし、
−前記第3の摩擦関連値に基づいて前記潜在的摩擦を決定し、および/または、前記フィードバックされたタイヤ剛性値に基づいて前記タイヤ剛性を決定する
ように構成され
前記摩擦関連値は、
牽引力もしくは正規化牽引力、加えられた車輪トルク、使用した長手方向加速度もしくは横方向加速度、または両方の組合せ、使用したブレーキ圧、ABS制動中に使用した摩擦、牽引制御システム(TCS)が活動化されたときに使用した摩擦、または車両相互接続能力を介して利用可能なデータとして提供される現在の潜在的摩擦のうち、少なくとも1つを含み、
前記滑り関連値は、
滑り、牽引力に対する滑り曲線の傾き、および前記傾きの逆数のうち少なくとも1つを含む
装置。
【請求項10】
車両の車輪の、潜在的摩擦およびタイヤ剛性のうち、少なくとも1つを決定するための、処理ユニットを備える装置であって、前記処理ユニットは、
−第1の滑り関連値(k1)および第1の摩擦関連値(μ1)に基づき、第1のタイヤ剛性値(C1)を推定し、
−前記第1の滑り関連値(k1)、前記推定した第1のタイヤ剛性値(C1)、および第2のタイヤ剛性値(C2)に基づき、第2の摩擦関連値(μ2)を計算し、
−前記計算した第2の摩擦関連値(μ2)を、第3のタイヤ剛性値(C3)を計算する基礎としてフィードバックし、
−前記前記フィードバックされた摩擦関連値に基づいて前記潜在的摩擦を決定し、および/または、前記第3のタイヤ剛性値に基づいて前記タイヤ剛性を決定する
ように構成され
前記摩擦関連値は、
牽引力もしくは正規化牽引力、加えられた車輪トルク、使用した長手方向加速度もしくは横方向加速度、または両方の組合せ、使用したブレーキ圧、ABS制動中に使用した摩擦、牽引制御システム(TCS)が活動化されたときに使用した摩擦、または車両相互接続能力を介して利用可能なデータとして提供される現在の潜在的摩擦のうち、少なくとも1つを含み、
前記滑り関連値は、
滑り、牽引力に対する滑り曲線の傾き、および前記傾きの逆数のうち少なくとも1つを含む
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般にタイヤと路面の間の摩擦を推定する分野、および車輪付車両でのタイヤ特性を推定する分野に関する。詳細には、本開示は、タイヤ剛性または道路摩擦を推定するための方法、システム、およびコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
道路摩擦は、たとえば、凍結した一筋の道路から、乾燥したまたは湿った一筋の道路まで、突然変わる場合がある。これらの変化は、運転者、および運転者の安全および快適さに重大な問題を提起する。技術的観点から、道路摩擦の信頼できる定量化は、アンチ・ロック・ブレーキ・システム(Anti−lock Braking System、ABS)などの車両制御システムを実装するために極めて重要である。たとえば、利用可能な潜在的摩擦の知識を使用して、ABS制動を行う必要がある場合に制動距離を最適化してもよい。追加でまたは代わりに、自律運転、適応走行制御、滑りやすい道路の検出、およびコネクテッド運転(connected driving)を含む、さまざまなシステムのうち1つまたは複数により摩擦を使用してもよい。
【0003】
道路摩擦を推定または計算するための公知の取り組み方法には、滑り、音、タイヤ接地面変形、道路の粗さ、および潤滑剤検出に基づく取り組み方法が含まれる。詳細には、滑りに基づく取り組み方法は、推定したタイヤ剛性を考慮することが多く、これは、推定精度を高めるのに役立つ場合がある。
【0004】
米国特許出願第2015/0284006(A1)号明細書は、モデルに基づく剛性と実際の剛性の間の比較解析を開示し、開ループで摩擦関連因子を直接演繹する。
【0005】
しかしながら、開ループの取り組み方法は典型的には、たとえばRFIDタグから得られるタイヤ識別を信頼して、剛性を決定する。タイヤ特性は、たとえば、タイプ(冬タイヤ、夏タイヤ、超高性能タイヤ)、貯蔵条件(温度、圧力)、動作条件(温度、圧力、摩耗、荷重)、または年数の変化により引き起こされるさまざまな形で、タイヤの存続期間を通して、または動作中でさえ、変わる場合がある。開ループの取り組み方法は、典型的には動作中のタイヤ特性を信頼できるように較正することも、知ることもできない。さらに、開ループの取り組み方法は、典型的には不確実性の尺度を、すなわち、この取り組み方法による推定がどれだけ信頼できるかを出力しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第2015/0284006(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
詳細には上述の種類の、公知の取り組み方法の欠点を克服するために、本発明の目的は、閉ループで道路摩擦およびタイヤ剛性のうち少なくとも1つを推定するための解決策を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
車両の車輪の、潜在的摩擦およびタイヤ剛性のうち、少なくとも1つを決定するための方法、コンピュータプログラム製品、および装置について開示する。
【0009】
一般に、本発明は、滑り関連値を利用する。滑り関連値は、滑り、牽引力に対する滑り曲線の傾き、および前記傾きの逆数のうち少なくとも1つを含む。以下では、正規化牽引力に対する滑りを表示する任意の曲線を、「滑り曲線」と呼ぶ。
【0010】
滑り関連値は、車両に備わった少なくとも1つの車両センサにより、たとえば、車輪速度センサ、対地速度センサ、レーダ、光センサもしくは赤外線センサ、GPS、加速度計、角速度センサ、ハンドル角度センサもしくは個々の車輪の角度センサにより提供される。詳細には、滑り関連値を、時系列の形で提供してもよい。
【0011】
一般に、滑りを、車輪の回転速度と車両の長手方向速度の間の正規化した差分として規定してもよい。前輪駆動車両または後輪駆動車両では、非駆動車輪は、1つまたは複数の速度基準の役割を果たしてもよい。さらに、全輪駆動車両の滑りを決定するためのモデルは、当業者に公知である。本方法は、特定の方法またはモデルから得た滑り値に限定されない。
【0012】
一般に、本発明による方法は、第1の摩擦関連値を計算するステップと、第2のタイヤ剛性関連値を推定するステップと、第2のタイヤ剛性関連値をフィードバックするステップとを備える。
【0013】
第1の摩擦関連値を計算するステップは、第1の滑り関連値および第1のタイヤ剛性関連値に基づく。
【0014】
第2のタイヤ剛性関連値の推定は、第1の滑り関連値、計算した第1の摩擦関連値、および第2の摩擦関連値に基づく。第2の摩擦関連値は、牽引力もしくは正規化牽引力、加えられた車輪トルク、使用した長手方向加速度もしくは横方向加速度、または両方の組合せ、使用したブレーキ圧、ABS制動中に使用した摩擦、牽引制御システム(Traction Control System、TCS)が活動化されたときに使用した摩擦、または車両相互接続能力を介して利用可能なデータとして提供される現在の潜在的摩擦のうち、1つまたは複数を含んでもよい。用語「車両相互接続能力」は、車両間通信、または車両とインフラストラクチャとの間の通信などの、車両外部にある実体との任意の通信を包含するものと理解される。たとえば、車両相互接続能力を介して提供されるデータを使用することにより、車両相互接続能力は、較正されたタイヤモデルを1台の車両が有するのに十分なものであり、較正されたタイヤモデルの摩擦関連値を一群の車両のうち他の車両に(直接、またはサーバもしくはクラウドサービスなどの中間にある実体を介して)中継する。一群の車両のうち他の車両は、それらのタイヤモデルを、中継された摩擦関連値に基づき瞬時に較正してもよい。
【0015】
一般に、第2のタイヤ剛性関連値は、第3の摩擦関連値を計算する基礎としてフィードバックされる。以下では、用語「フィードバック」は、フィードバック出力が、後の時点で、詳細にはループの後の反復中に、計算または推定の入力として、または計算または推定の基礎となることが意図されることを意味することが理解される。後の時点での計算または推定は、本明細書で開示するような方法の一部を形成してもよい、または一部を形成しなくてもよい。
【0016】
第2のタイヤ剛性関連値は、推定した第1のタイヤ剛性に基づく。詳細には、第2のタイヤ剛性関連値は、それが基づく(推定した)タイヤ剛性と同一であってもよい、または同一ではなくてもよい。
【0017】
それに応じて、いくつかの実施形態では、本発明による方法のステップを、繰り返して、すなわち、閉ループで反復して行ってもよい。そのような場合、各反復で、第1および第2の値を第2および第3の値が置換するなどである。
【0018】
いくつかの実施形態では、摩擦関連値を計算するステップおよびタイヤ剛性関連値を推定するステップを、上記と比較して逆順で行ってもよい。そのような場合、本方法は、(i)第1の滑り関連値および第1の摩擦関連値に基づき第1のタイヤ剛性を推定するステップと、(ii)第1の滑り関連値、推定した第1のタイヤ剛性関連値、および第2の剛性関連値に基づき、第2の摩擦関連値を計算するステップと、(iii)計算した第2の摩擦関連値を、第3のタイヤ剛性を推定する基礎としてフィードバックするステップとを備える。
【0019】
いくつかの実施形態では、第3の摩擦関連値を、第2の滑り関連値およびフィードバックされた第2のタイヤ剛性関連値に基づき計算してもよい。
【0020】
いくつかの実施形態では、第3のタイヤ剛性関連値を、第2の滑り関連値およびフィードバックされた第2の摩擦関連値に基づき推定してもよい。
【0021】
好ましくは、第1の摩擦関連値および第2の摩擦関連値、または別の摩擦関連値のうち少なくとも1つの不確実性を示す摩擦不確実性尺度を算出してもよい。
【0022】
好ましくは、第1のタイヤ剛性関連値および第2のタイヤ剛性関連値、または別のタイヤ剛性関連値のうち少なくとも1つの不確実性を示す剛性不確実性尺度を算出してもよい。
【0023】
いくつかの実施形態では、剛性補正因子を、フィードフォワードループで推定してもよい。この場合、第1のタイヤ剛性関連値はまた、剛性補正因子に基づいてもよい。
【0024】
たとえば、剛性補正因子を推定するステップは、
−タイヤの圧力、
−タイヤの温度、
−周囲温度、
−車軸高さ、
−サスペンション圧、
−サスペンション高さ
のうち少なくとも1つに基づいてもよい。
【0025】
いくつかの実施形態では、推定するステップはまた、
−ヒューマン・マシン・インタフェースを介して手作業で入力されたタイヤタイプ、
−ABS制動から推定した潜在的摩擦、
−TCS事象から推定した潜在的摩擦、
−車両相互接続能力から受信した、推定した潜在的摩擦、
−車輪に対する正規化牽引力、
−摩擦関連値、
−車輪に加えられたトルク、
−長手方向加速度、
−横方向加速度、
−ブレーキ圧、
−ヨーレート、
−車輪速度、
−車両速度、
−ハンドル角度、
−車輪角度、
−タイヤ圧、
−タイヤ温度、
−周囲温度、
−車軸高さ、
−サスペンション圧、
−サスペンション高さ、
−制御フラグレジスタ
のうち少なくとも1つに基づいてもよい。
【0026】
制御フラグレジスタのフラグの例には、ESC制御が進行中であるか、ABS制動が進行中であるか、TCSが進行中であるか、制動が進行中であるか、ギアシフトが進行中であるか、クラッチペダルが使用中であるか、バックギアが使用中であるか、トレーラが接続されているか、または車速設定装置が使用中であるかどうかの指示が含まれる。
【0027】
さらに、コンピューティング機器で実行されたときに、開示する方法の1つのステップを行うように構成されたプログラムコードを含むコンピュータプログラム製品について開示する。
【0028】
最後に、処理ユニットを備える装置について開示する。処理ユニットは、本明細書で開示するような方法の1つのステップを遂行するように構成される。
【0029】
詳細には、処理ユニットは、第1の滑り関連値および第1のタイヤ剛性関連値に基づき、第1の摩擦関連値を計算し、第1の滑り関連値、計算した第1の摩擦関連値、および第2の摩擦関連値に基づき、第2のタイヤ剛性関連値を推定し、推定した第2のタイヤ剛性関連値を、第3の摩擦関連値を計算する基礎としてフィードバックするように構成されてもよい。
【0030】
代わりにまたは追加で、処理ユニットは、第1の滑り関連値および第1の摩擦関連値に基づき第1のタイヤ剛性関連値を推定し、第1の滑り関連値、推定した第1のタイヤ剛性関連値、および第2の剛性関連値に基づき、第2の摩擦関連値を計算し、計算した第2の摩擦関連値を、第3のタイヤ剛性値を推定する基礎としてフィードバックするように構成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】異なる潜在的摩擦を有するさまざまな路面に関する滑りの関数として、典型的(正規化)牽引力を表すグラフである。
図2】実施形態による方法の流れ図である。
図3】実施形態による方法の流れ図である。
図4】実施形態による方法の流れ図である。
図5】実施形態による方法の流れ図である。
図6】実施形態による方法の流れ図である。
図7】実施形態による装置のボックス図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上述のように、正規化牽引力に対する滑りを表示する任意の曲線を、「滑り曲線」と呼ぶ。潜在的摩擦は、滑り曲線の最大値として一般に規定され、路面、およびタイヤ特性、および動作条件(圧力、温度、垂直荷重、摩耗など)などの、さまざまな変数に依存する。
【0033】
図1は、路面に対する潜在的摩擦の依存性を示す。正規化牽引力と長手方向の滑りの間の関係について、3つの路面に関して、すなわち、氷、砂利、およびアスファルト上で例証する。表示するように、アスファルト上の潜在的摩擦は、一般に砂利よりも大きく、一方では、砂利上の潜在的摩擦は、氷上よりも大きい。本開示の残りの部分と同様に図1では、特に断りのない限り、すべての量および値(詳細には、滑り)は、長手方向を指すと理解される。滑り曲線を、原点の周囲にあるほぼ直線の部分を含む複数の領域に、たとえば、図1で滑りが−10%から+10%までに分割してもよい。
【0034】
以下では、用語「滑りの傾き」は、滑り曲線の直線部分の傾きを指すと理解される。滑りの傾きは、滑り関連値の好ましい例であり、したがって、本明細書に記載する方法で使用されてもよい。
【0035】
第1および第2の摩擦関連値を、上述のように、排他的ではないが具体的には、使用する摩擦の値として、すなわち、滑り曲線上の点の縦座標として具体化してもよい。
【0036】
滑りの傾きおよび使用する摩擦に基づき、現在の潜在的摩擦の少なくとも下方境界を推定するための複数の方法が、当業者に公知である。以下に記載する方法は、潜在的摩擦をより正確に、かつより信頼できるように決定するための手法を提供する。
【0037】
図2は、本発明による、車両の車輪の潜在的摩擦を決定する方法の一実施形態の流れ図を描く。
【0038】
方法20は、第1の滑り関連値、すなわち、第1の滑りの傾きk1、および第1のタイヤ剛性関連値C1を入力として使用する。第1の滑りの傾きk1を、滑り関連値を提供するための少なくとも1つの車両センサから得る。
【0039】
ステップ22で、方法20は、第1の滑りの傾きk1および第1のタイヤ剛性関連値C1に基づき、第1の摩擦関連値μ1を計算する。
μ1=f(C1,k1
式中、fは、たとえばブラッシュ・タイヤ・モデル(Brush tire model)などの、当業者に公知の、目的に合ったタイヤモデルであってもよい。
【0040】
さらに、第1の滑りの傾きk1および第2の摩擦関連値μ2に基づき、第2のタイヤ剛性C2を推定する(ステップ24)。
2=g(k1,μ2
【0041】
第2のタイヤ剛性C2は、フィードバックされる、すなわち、後の時点で計算への入力として使用される。フィードバックされたタイヤ剛性は、第3の摩擦関連値μ3を計算するための基礎として意図されてもよい。
【0042】
図示するように、ステップ22、24、および26を閉ループで行う。各反復で、第1および第2の値を第2および第3の値が置換するなどである。反復により、少なくとも1つの車両センサから滑りの傾き値の時系列を得て、適応モデルによる剛性推定値の決定を精緻なものにすることが可能になる。各反復で、最新の滑りの傾き値およびフィードバックされたタイヤ剛性推定値を使用して、より正確な摩擦値を計算する。その結果、本明細書で開示する適応モデルを使用して、潜在的摩擦の決定前または決定中に、現在の実際のタイヤ剛性およびその変化の影響を考慮することができる。
【0043】
いくつかの実施形態では、推定したタイヤ剛性に追加して、またはその代わりとして、第2の摩擦関連値をフィードバックする。
【0044】
図3は、方法の別の実施形態の流れ図である。方法30は、滑り関連値である第1の滑りの傾きを得るステップ(ステップ32)から始まる。この滑りの傾きに基づき、摩擦値を計算する(ステップ34)。タイヤ剛性を推定し(ステップ36)、そこでは、推定には、得た滑りの傾きおよび第2の摩擦関連値を基礎として使用する。
【0045】
新しい(第2の)滑りの傾き値を得ると(ステップ38)、方法30は、新しい滑りの傾きに少なくとも基づき、計算した摩擦および/またはタイヤ剛性推定値を更新するステップ(ステップ39)に進む。換言すれば、すでに推定したタイヤ剛性を、フィードバック方式でこの計算への入力として使用する。
【0046】
図4は、一実施形態による方法の流れ図である。描いた実施形態は、一般に図2の実施形態に類似する。さらに、図4の実施形態は、摩擦関連値の不確実性を示す摩擦不確実性尺度を算出するステップを備える。
【0047】
推定したタイヤ剛性C、および滑り関連値の共分散σk2に基づき、摩擦不確実性尺度σμを算出する(ステップ48)。
σμ=h(C,σk2、σ補正2,T)
【0048】
滑り関連値が、滑りの傾きである場合、滑り関連値の共分散は、滑りの傾きを推定するために使用するカルマンフィルタにより提供されてもよい。不確実性尺度およびその時間的進展により、適応タイヤモデルが一定の所望のレベルの信頼度にいつ到達したかを評価することが可能になる。さらに、フィードバックを十分な回数反復したことを意味する、タイヤモデルを適切に適合させるまでは、推定した潜在的摩擦σμを信頼することができない。したがって、σ補正2は、フィードバックループで任意のモデル適合が行われるまでは、大きい値を有する。モデルを適合させたとき、σ補正2は、品質、およびフィードバック反復の回数に応じて小さい値またはゼロ値を有する。一定のレベルまたは信頼度に到達した場合だけ、決定した摩擦を、さらに処理するために1つまたは複数の他のシステムに、たとえば、ABSシステムに引き渡してもよい。さらに、不確実性はまた、周囲温度、タイヤ空洞温度、およびインナーライナ温度のうち少なくとも1つなどの温度Tの関数であってもよい。たとえば、タイヤ剛性は、水の氷点近くで非常に温度に依存する場合がある。この温度依存性は、異なるタイプのタイヤ(夏、冬、オールシーズン、超高性能など)に関して変わる場合がある。
【0049】
図5は、一実施形態による方法の流れ図である。描いた実施形態は、一般に図2の実施形態に類似する。しかしながら、図2の実施形態と比較すると、タイヤ剛性を推定するステップおよび摩擦関連値を計算するステップの順序は、逆である。最初に、得た滑り関連値および摩擦関連値に基づき、タイヤ剛性を推定する(ステップ52)。次に、推定したタイヤ剛性および得た滑り関連値に基づき、第2の摩擦関連値を計算する(ステップ54)。第2の摩擦関連値をフィードバックするステップ(ステップ56)は、図2の場合に似ている。フィードバックされた第2のタイヤ剛性関連値は、第3のタイヤ剛性を推定する基礎として意図されてもよい。
【0050】
図6は、本発明による方法の一実施形態の流れ図を描く。描いた実施形態は、図2の実施形態に概して類似する。
【0051】
さらに、図6の実施形態は、第1のタイヤ剛性C1を推定する際に剛性補正因子ΔCを考慮するステップを備える(ステップ64)。
【0052】
剛性補正因子ΔCを、フィードフォワードで推定する。詳細には、剛性補正因子は、タイヤの圧力、タイヤの温度、周囲温度、車軸高さ、サスペンション圧、またはサスペンション高さなどの、周囲またはタイヤの条件を考慮するステップのために役立つ場合がある。
【0053】
例示のために、タイヤ剛性は、とりわけ、たとえば周囲温度の関数であることが想起される。タイヤ剛性は、周囲温度が低下し、水の氷点に近づくにつれ高まる。この事実を考慮すると、たとえば基準温度に対する温度差に応じて、タイヤ剛性推定中に、剛性補正因子を追加してもよい。同様に、追加の例として、タイヤ剛性はまた、同じく長手方向の剛性を変更する圧力および垂直荷重の関数である。
【0054】
推定した剛性補正因子は、乗法的因子であっても、加法的因子であってもよい。
【0055】
図7は、いくつかの実施形態による装置のボックス図である。装置70は、処理ユニット72を備える。処理ユニット72は、第1の滑り関連値および第1のタイヤ剛性関連値に基づき、第1の摩擦関連値を計算し、第1の滑り関連値、計算した第1の摩擦関連値、および第2の摩擦関連値に基づき、第2のタイヤ剛性関連値を推定し、推定した第2のタイヤ剛性関連値を、第3の摩擦関連値を計算する基礎としてフィードバックするように構成される。
【0056】
滑り関連値は、車両センサ74により提供される。いくつかの実施形態では、装置70は、車両センサ74を備えてもよい。
【0057】
いくつかの実施形態では、装置は、車両間通信、または車両とインフラストラクチャとの間の通信などの、車両外部にある実体との通信に適合された相互接続能力インタフェース(図示せず)をさらに備えてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7