(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6694972
(24)【登録日】2020年4月22日
(45)【発行日】2020年5月20日
(54)【発明の名称】自動車を突き進ませるための方法および装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/188 20120101AFI20200511BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20200511BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20200511BHJP
F02D 29/02 20060101ALN20200511BHJP
【FI】
B60W30/188
B60W40/107
B60T7/12 C
!F02D29/02 311A
【請求項の数】9
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2018-555943(P2018-555943)
(86)(22)【出願日】2017年3月10日
(65)【公表番号】特表2019-518643(P2019-518643A)
(43)【公表日】2019年7月4日
(86)【国際出願番号】EP2017055676
(87)【国際公開番号】WO2017186398
(87)【国際公開日】20171102
【審査請求日】2018年10月25日
(31)【優先権主張番号】102016207336.2
(32)【優先日】2016年4月29日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】エンドレス,マルクス
【審査官】
三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−067772(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0291166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 50/16
F02D 29/02
B60T 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
停止している自動車を突き進ませるための方法において、
運転者が操作部材によって自動車のための発進方向を予め設定し(101)、
時間的に連続する複数の、運転者に依存しない第1の強さを有する駆動力パルス(M)によって自動車の揺動運動を生ぜしめ(102)、
前記揺動運動の空間的な振幅を算出して、予め設定された閾値と比較し(104)、
自動車の前記揺動運動の前記空間的な振幅が前記閾値を上回ると、続いて、前記第1の強さよりも大きい第2の強さを有する、予め設定された前記発進方向に向けられた少なくとも1つの駆動力パルスによって、予め設定された前記発進方向で自動車の発進運動を生ぜしめる(105)、
停止している自動車を突き進ませるための方法。
【請求項2】
前記第1の強さの駆動力パルス(M)を予め設定された前記発進方向に向けることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
第1の強さの駆動力パルス(M)を、予め設定された発進方向に、および予め設定された発進方向とは逆方向に、交互に向くようにすることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記駆動力パルス(M)が作用する方向を、自動車のトランスミッションの制御によって予め設定することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項5】
自動車が間隔センサを有していて、予め設定された発進方向に抗する前記自動車の行程の振幅の振れを前記揺動運動中に、間隔センサによって検出された隣の対象物と自動車との衝突が行われないように、ブレーキ介入によって制限することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記自動車の前記振幅の振れを、前記対象物に対する最小間隔を下回らないように制限することを特徴とする、請求項5記載の方法。
【請求項7】
予め設定された長さの時間間隔の経過後に自動車が進んだ距離が予め設定された閾値を下回ったときに、前記第1の強さの駆動力パルス(M)の方向の逆転を行うことを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項8】
エンジントルクが加えられたにも拘わらず予め設定された長さの時間間隔中に自動車が動かないときに、前記第1の強さの駆動力パルス(M)の方向の逆転を行うことを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
コンピュータに請求項1から8のいずれか1項記載の方法を実施させるためのプログラムを記録した装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特許文献1によれば、自動式のまたは自動化されたトランスミッションを備えた車両を悪路から脱出させるための方法が公知であり、この場合、車両を悪路から脱出させる必要がある運転状況が検知されると、車両を悪路から脱出させるために、駆動車輪に加えられる、目標走行方向に作用する駆動トルクが、交互に上昇されかつ再び低下される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】独国特許出願公開第102010043250号明細書
【発明の概要】
【0003】
本発明は、停止している自動車を突き進ませるための若しくは悪路から脱出させるための又は発進させるための方法に関し、この方法において、
運転者が操作部材によって自動車のための発進方向を予め設定し、
時間的に連続する複数の、運転者に依存しない第1の強さを有する駆動力パルスによって自動車の揺動運動が生ぜしめられ、
往復運動の空間的な振幅が算出され、予め設定された閾値と比較され、
自動車の揺動運動の空間的な振幅が前記閾値を上回ると、続いて、第1の強さよりも大きい第2の強さを有する、予め設定された発進方向に向けられた少なくとも1つの駆動力パルスによって、予め設定された発進方向で自動車の発進運動が生ぜしめられる。
【0004】
これによって、特に凍結した、ぬかるんだまたは雪に覆われた困難な地面で動かなくなった若しくは固定された車両でも、このような車両を動かす可能性が運転者に提供される。この場合、突き進ませるとは、自動車をそれ自身の力で、摩擦係数に関して困難な発進状況から解放することであると解釈される。
【0005】
本発明の好適な実施態様は、第1の強さの駆動力パルスが予め設定された発進方向に向けられていることを特徴とする。
【0006】
本発明の好適な実施態様は、第1の強さの駆動力パルスが、予め設定された発進方向に、および予め設定された発進方向とは逆方向に、交互に向くようになっていることを特徴とする。これによって、車両の揺動運動が生ぜしめられる。
【0007】
本発明の好適な実施態様は、駆動力パルスの作用方向が、自動車のトランスミッションの制御によって予め設定されることを特徴とする。
【0008】
本発明の好適な実施態様は、自動車が間隔センサを有していて、予め設定された発進方向に抗する自動車の行程の振幅の振れが揺動運動中に、間隔センサによって検出された隣の対象物と自動車との衝突が行われないように、ブレーキ介入によって制限されることを特徴とする。この場合、多くの車両において既に内蔵されている間隔センサが用いられてもよい。
【0009】
本発明の好適な実施態様は、自動車の振幅の振れが、対象物に対する最小間隔を下回らないように制限されることを特徴とする。
【0010】
本発明の好適な実施態様は、予め設定された長さの時間間隔の経過後に自動車が進んだ距離が予め設定された閾値を下回ったときに、第1の強さの駆動力パルスの方向の逆転が行われることを特徴とする。
【0011】
本発明の好適な実施態様は、エンジントルクが加えられたにも拘わらず予め設定された長さの時間間隔中に自動車が動かないときに、駆動力パルスの方向の逆転が行われることを特徴とする。
【0012】
さらに本発明は、本発明による方法を実施するために構成された手段を含む装置を有している。この場合、この手段は、特に本発明による方法を実施するためのプログラムコードが記憶されたコントロールユニットである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】エンジントルクパルスの経時変化を示す図である。
【
図2】この方法の一実施形態の基本的な流れを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、自動車のための突き進み論理若しくは車両を悪路から脱出させる論理について記載していて、自動車がグラウンドコンディションに基づいて、トラクションスリップ制御装置を用いてもそれ以上動かすことができず、固定されたか若しくは動けない走行状況のために適している。このようなグラウンドコンディションは、例えば深い雪、氷またはぬかるみであってよい。エンジントルクパルスを意図的に加えることによって、および場合によってはクラッチに追加的な影響を加えることによって、自動車を最終的に所望に始動させる運動エネルギが車両に徐々に供給される。
【0016】
本発明は、とりわけ、フロント側およびリヤ側に間隔センサを有するオートマチック車両のために適している。
【0017】
運転者は、操作部材を用いて自動車の所望の発進方向若しくは目標方向を定める。衝突を避けるために、車両に設けられた間隔センサを介して、車両の運動は制限され得る。万一車両がアクティブな若しくは運転者に依存しない操舵介入の可能性を有している場合には、本発明は、駐車スペースから自動的に車庫出しするためにも用いることができる。車線変更支援システムを用いて、交通の流れに車両を合流させることさえも可能である。
【0018】
突き進み機能若しくは車両を悪路から脱出させる機能の作動若しくは起動は、例えばスイッチを用いて行われてよい。しかしながら、アクセルペダルの操作にも関わらず、所定の長さの時間間隔の経過後に自動車の前進運動が行われない場合、この機能を自動的に作動させることも考えられる。
【0019】
前記機能の中断または不許可は、隣の車両に対する間隔が小さすぎることが検知されるかまたは車両が前後方向で著しく傾き過ぎた道路上にある場合に行われる。後者の場合、車両は、大きすぎる傾斜および小さすぎる摩擦係数において不都合な形式で要求方向とは逆方向に動くであろう。
【0020】
本発明の一実施例では、
図1に示されているように、車両停止状態で、まずエンジントルクパルス若しくは駆動トルクパルス若しくは駆動力パルスMが駆動車輪に加えられる。
図1には、横座標方向に時間tが示されていて、縦座標方向に駆動力の強さMが示されている。これらのパルスは、中断基準が満たされるかまたは自動車の僅かな運動が行われるまで、加えられる。このような運動の存在は、例えば非駆動車輪のホイール回転数測定を介して、または停止している隣の対象物若しくは車両に対する間隔測定を介しても行うことができる。
【0021】
運動分析または周波数分析によって、駆動トルクパルスの最適な時点および最適な長さが算出され得る。
【0022】
駆動トルクパルスの大きさ若しくは強さは、算出された摩擦係数に依存して選択され得る。電動機またはオートマチックトランスミッションによる車両の駆動時に、車輪は、短時間でも要求方向に抗して駆動され得る。この運動分析は
図3に示されている。
図3には、窪地300並びに車両車輪301が連続する3つの異なる時点t1,t2,t3で示されている。車両車輪301は、窪地300から図平面で見て左方向に脱出しようとしている図示していない車両に所属している。時点t1までに、車両は左方向に窪地の左縁部まで移動し、次いで時点t1で車輪機能停止が行われる、つまり車輪は空転する。自動車はそれ以上前進運動しなくなる。従って、逆方向に向けられた駆動力パルスが自動車に加えられ、車両は時点t2までに後退方向に移動し、新たな車輪機能停止が行われる。逆方向に向けられた駆動力パルスを加える代わりに、車両が時点t2で逆転ポイントに達し次いで再び前進方向に進むまで、車両にロールバックを許容してもよい。駆動力パルスを加えるための時点は、時間的な間隔を用いてまたは逆転ポイントに対する空間的な間隔を用いて、並びに例えば摩擦係数、車輪速度および既存の無駄時間等の別のパラメータを用いて算出される。この場合、無駄時間は、駆動力パルス要求から車輪に駆動力パルスが作用するまで経過する時間間隔を考慮する。このことはつまり、エンジントルク要求若しくは駆動力パルス要求が、所望の方向に抗する車両の運動中に既にアウトプットされ、従ってトルクは所望の方向への運動時に提供されるということである。このために、例えば、最大駆動トルクが理想的な形式で作用するべき時点が規定されてよい。これは、時点t3で矢印302によって示されたポイントであってよい。車輪機能停止を非常に短時間だけ行うかまたはまったく行わないようにするために、駆動力パルスの始端ランプおよび終端ランプを適合させることも有効である。
【0023】
車両が十分な運動エネルギを有すると直ちに、より長くより高い最終的なエンジントルク要求によって車両を要求方向に移動させることができる。
【0024】
車両の検出された運動時、または運転者によって予め設定された非常に小さいアクセルペダルストロークにおいて、機能が作動停止され、エンジントルクに関する運転者要求が切換えられる。
【0025】
図2には、この方法の一実施形態の基本的な流れが示されている。ブロック100におけるスタート後に、ブロック101で運転者によって操作部材を用いて自動車のための発進方向が予め設定される。次いで、ブロック102で、運転者に依存しない1つまたは複数の時間的に連続した、第1の強さを有する駆動力パルスが発生する。次いで、ブロック103で、駆動力パルスによって生ぜしめられた揺動運動の空間的な振幅が閾値を上回るかどうかについて問い合わせられる。閾値を越えていなければ、ブロック102に戻る。閾値を越えていれば、次いでブロック104で、予め設定された発進方向に向けられた、第1の強さよりも大きい第2の強さを有する少なくとも1つの駆動力パルスによって、予め設定された発進方向で自動車の発進運動が生ぜしめられる。ブロック105でこの方法は終了する。
【符号の説明】
【0026】
100,101,102,103,104,105 ブロック
300 窪地
301 車両車輪
302 矢印
M エンジントルクパルス、駆動トルクパルス、駆動力パルス