(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の金属繊維不織布について詳細に説明するが、本発明の金属繊維不織布の実施形態はこれに限られるものではない。
【0021】
本発明の金属繊維不織布は、金属繊維のみから構成されていても良いし、金属繊維に加えて金属繊維以外のものを有していても良い。
金属繊維間が結着しているとは、金属繊維が物理的に固定されている状態を指し、金属繊維が物理的に固定されている部位を結着部という。結着部では、金属繊維同士が直接的に固定されていても良いし、金属繊維の一部同士が金属成分以外の成分を介して間接的に固定されていても良い。
図1は銅繊維を用いて作製した金属繊維不織布のSEM写真であり、参照番号1は銅繊維を示す。また、
図2は、
図1の拡大SEM写真であり、参照番号2は、銅繊維の結着部を示す。
【0022】
以下、本発明の金属繊維不織布をより詳細に説明する。
<1.金属繊維不織布を構成する材料>
金属繊維不織布を構成する前記金属繊維の具体例としては、特に限定されないが、ステンレス、鉄、銅、アルミニウム、青銅、黄銅、ニッケル、クロム、および金、白金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、およびオスミウム等の貴金属であっても良い。この中でも、銅繊維は、剛直性と塑性変形性とのバランスが適度であり、充分な均質性を有する金属繊維不織布を得やすいため好ましい。
【0023】
前記金属成分以外の成分としては、ポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)樹脂、ポリビニルアルコ−ル(PVA)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アラミド樹脂、ナイロン、アクリル系樹脂など、およびこれら樹脂からなる繊維状物を例示できる。
さらには、金属繊維に対して結着性および担持性を有する有機物等を結着部に使用することもできる。
【0024】
<2.金属繊維および金属繊維不織布の物性>
本発明で使用する金属繊維の平均繊維径は、不織布の均質性を損なわない範囲で任意に設定可能であるが、好ましくは1μm〜30μmであり、さらに好ましくは2μm〜20μmである。金属繊維の平均繊維径が1μm以上であれば、金属繊維の適度な剛直性が得られるため、不織布にする際にいわゆるダマが発生しにくい傾向がある。金属繊維の平均繊維径が30μm以下であれば、金属繊維の適度な可撓性が得られるため、繊維が適度に交絡しやすい傾向がある。
なお、金属繊維の平均繊維径は不織布とするのに支障がない範囲内において小さい方が金属繊維不織布の均質性を高め易くなるため好ましい。
また、本明細書における「平均繊維径」とは、顕微鏡で撮像された金属繊維不織布の長手方向に対する任意の垂直断面における、金属繊維の断面積を算出し(例えば、公知ソフトにて算出する。)、当該断面積と同一面積を有する円の直径を算出することにより導かれた面積径の平均値(例えば、20個の繊維の平均値)である。
【0025】
また、金属繊維の長手方向に垂直な断面形状は円形、楕円形、略四角形、不定形等いずれであっても良いが、好ましくは円形である。ここで円形断面とは、通常金属繊維不織布の生産を実施する上で受ける応力において、曲部を生じ易い程度の円断面形状であれば良いため、真円断面である必要はない。
円形断面の金属繊維は、例えば、角柱断面を有する繊維よりも、応力に対して曲がりが生じやすく、かつ応力を受ける箇所に対して、金属繊維の曲がり度合いに差が生じ難いため、曲がり度合いも均質化する傾向がある。
例えば後述する湿式法で金属繊維不織布を作製した場合、円形断面の金属繊維はスラリー攪拌羽根等との接触により、曲部を生じやすい。曲部を有する金属繊維同士が適度に交絡することで、金属繊維不織布の均質性を高めやすくなる傾向がある。
【0026】
本発明に係わる金属繊維の平均繊維長は、1mm〜10mmの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、3mm〜5mmの範囲である。なお、金属繊維の繊維長は不織布とするのに支障がない範囲内において短かい方が金属繊維不織布の均質性を高め易くなるため好ましい。
平均繊維長が1mm〜10mmの範囲であると、例えば、抄造によって本発明の金属繊維不織布を作製する場合に、いわゆる金属繊維のダマを生じにくく、金属繊維の分散の度合いを制御しやすくなると共に、金属繊維同士が適度に交絡するため、金属繊維不織布のハンドリング強度向上効果をも発揮しやすくなる。
なお、本明細書における「平均繊維長」とは、顕微鏡で20本を測定し、測定値を平均した値である。
【0027】
繊維長を調整するために、溶融紡糸法、引抜き法等で作製された長金属繊維を所望の繊維長にカットする場合、金属繊維1本1本を切断することは金属繊維の微細さからも現実的ではない。そこで長金属繊維を束ねて切断する方法を用いるが、その際長金属繊維の束を予め充分にほぐした後に切断することが好ましい。繊維間を充分にほぐすことで、切断時に金属繊維間の切断面同士が固着する現象(例えば、松葉状等)を抑制しやすくなる。これにより、不織布にする際、金属繊維1本1本が独立した挙動を取ることで、より均質性の高い金属繊維不織布を得易くなる。とりわけ、硬度の低い銅繊維等はこの手法を用いることが有効である。
【0028】
さらに、本発明に係わる金属繊維のアスペクト比は、33〜10,000であることが好ましく、150〜1,500がさらに好ましい。アスペクト比が33以上である場合には、いわゆるダマは生じにくいうえに金属繊維の適度な交絡が生じ易くなるため、金属繊維不織布の適度なハンドリング強度が保てる傾向がある。アスペクト比が10,000以下であれば、ハンドリング強度を充分に保てる上に、ダマが生じ難くなるため、金属繊維不織布の優れた均質性が得られる傾向がある。
【0029】
金属繊維不織布の厚みは、任意の厚さに調整可能であるが、例えば20μm〜5mmの範囲であることが好ましい。
なお、本明細書における「金属繊維不織布の厚み」とは、空気による端子落下方式の膜厚計(例えば、ミツトヨ社製:デジマチックインジケータID−C112X)で例えば、金属繊維不織布の任意の数測定点を測定した場合の平均値をいう。
【0030】
本発明の金属繊維不織布における繊維の占積率は、5〜50%の範囲が好ましく、15%〜40%がより好ましい。繊維の占積率が5%以上の場合には、繊維量が十分であるため適度な均質性が得られる。繊維の占積率が50%以下であれば、適度な均質性に加え、金属繊維不織布の所望の可撓性が得られる。
本明細書における「金属繊維不織布における繊維の占積率」とは、金属繊維不織布の体積に対して繊維が存在する部分の割合である。
単一金属繊維のみから金属繊維不織布が構成される場合、金属繊維不織布の坪量と厚み、及び金属繊維の真密度から以下の式により算出される。
占積率(%)=金属繊維不織布の坪量/(金属繊維不織布の厚み×金属繊維の真密度)×100
なお、金属繊維不織布が、他の金属繊維や金属繊維以外の繊維を含む場合には、組成比率を反映した真密度値を採用することで占積率を算出することができる。
【0031】
<3.金属繊維不織布の均質性>
本発明の金属繊維不織布は、1cm
2当たりのJIS Z8101(ISO 3534)に規定する坪量の変動係数(CV値)が10%以下である。坪量の変動係数の求め方は、例えば以下の方法による。
【0032】
1.計測対象の金属繊維不織布を1cm
2角に切断して、金属繊維不織布個片を得る。
2.前記各個片を高精度分析天秤(例えば、エー・アンド・アイ社製、商品名:BM−252)で秤量し、質量を求める。
3.個片が厳密な正方形ではない可能性を考慮して、平行する2辺の中央付近の距離を測定し、その測定値を縦長、横長とする。
4.前記縦長、横長から各個片の面積を算出する。
5.前記質量を、前記面積で割ることによって各個片の坪量を算出する。
6.全個片の坪量の標準偏差を平均値で割り、100を乗じて金属繊維不織布個片の坪量の変動係数(CV値)を算出する。
なお、個片数は例えば100個以上を測定することで変動係数の安定化がはかれる。また、計測対象の金属繊維不織布が1cm
2に満たない場合には、1cm
2に換算した値を変動係数(CV値)とすればよい。
【0033】
坪量は、単位面積当たりの重量を表す指標であることから、坪量の変動係数が一定値以下の低い値であることは、各個片の占積率、シート抵抗等についても安定した値であるといえる。すなわち、坪量の変動係数が10%以下であることは、金属繊維不織布に極端なダマや空隙が存在せず、繊維の占積率、シート抵抗等の値も充分に均質な不織布が得られていることを示しているといえる。
【0034】
上記種々のパラメータを適宜調整することで1cm
2当たりのJIS Z8101(ISO 3534)に規定する坪量の変動係数(CV値)を10%以下とすることができるが、特に金属繊維の平均繊維長および平均繊維径を調整することが重要である。
具体的には、金属繊維不織布を金属のみで形成する場合、平均繊維長が1mm〜10mm、好ましくは、3mm〜5mmであり、平均繊維径が1μm〜30μmであり、さらに好ましくは2μm〜20μmである金属繊維を用いることが好ましい。
【0035】
<4.金属繊維不織布の作製>
本発明の金属繊維不織布を得る方法としては、金属繊維または金属繊維を主体としたウェブを圧縮成形する乾式法や、金属繊維または金属繊維を主体とする原料を用いた湿式抄造法を採用できる。
【0036】
<4.1 乾式法>
乾式法により、本発明の金属繊維不織布を得る場合には、カード法、エアレイド法等により得られた金属繊維または金属繊維を主体とするウェブを圧縮成形する。この時、繊維同士を結着させるために繊維間にバインダーを含浸させてもよい。
かかるバインダーとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル系接着剤、エポキシ系接着剤、ウレタン系接着剤などの有機系バインダーの他に、コロイダルシリカ、水ガラス、ケイ酸ソーダなどの無機質接着剤を用いることができる。
なお、バインダーを含浸させる代わりに、繊維の表面に熱接着性樹脂を予め被覆しておき、金属繊維または金属繊維を主体とする集合体を積層した後に加圧・加熱圧縮しても良い。
【0037】
<4.2 湿式抄造法>
また、金属繊維等を水中に分散させて、これを抄き上げる湿式抄造法により本発明の金属繊維不織布を作製することもできる。
金属繊維不織布の製造方法としては、金属繊維等の繊維状物を水中分散等して抄造スラリーを作製する工程、抄造スラリーから湿体シートを得る抄造工程、湿体シートを脱水させる脱水工程、脱水後のシートを乾燥して、乾燥シートを得る乾燥工程、および乾燥シートを構成する金属繊維等を結着させる結着工程を少なくとも具備する。
なお、脱水工程と乾燥工程の間、乾燥工程と結着工程の間、結着工程後にシート状物をプレスするプレス工程を実施しても良い。
以下、工程ごとに説明する。
(スラリー作製工程)
例えば攪拌ミキサーを用いて金属繊維のスラリー、または金属繊維と金属繊維以外の繊維状物とを含有するスラリーを調製し、これに填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、定着剤等を適宜添加する。
上記金属繊維以外の繊維状物としては、ポリエチレン樹脂およびポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレ−ト(PET)樹脂、ポリビニルアルコ−ル(PVA)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アラミド樹脂、ナイロン、アクリル系樹脂等を挙げることができる。
これら樹脂の繊維状物は、加熱溶融により結着性を発揮するためスラリー中に添加することもできる。
しかしながら、焼結によって金属繊維間に結着部を設ける場合には、金属繊維間に有機繊維等の存在が無い方が、結着部を確実に設けやすいため好ましい。
【0038】
上記のように有機繊維等の存在無くして、金属繊維を抄造する場合、水と金属繊維との真密度差、金属繊維の過交絡により、いわゆるダマ等の凝集物を生じやすい。このため、増粘剤等を適宜使用することが好ましい。
また、攪拌ミキサー中のスラリーは、真密度の大きな金属繊維がミキサー底面に沈降しやすい傾向にある。このため、金属繊維比率が比較的安定した底面付近を除いたスラリーを抄造スラリーとして用いることが好ましい。
【0039】
特に抄造スラリー中の繊維を充分に分散させることにより、1cm
2当たりのJIS Z8101(ISO 3534)に規定する坪量の変動係数(CV値)を低く抑えることができる。繊維を充分に分散させるには、当該繊維の平均繊維長および平均繊維径の調整が重要である。
【0040】
(抄造工程)
次に前記スラリーを用いて、抄紙機にて湿式抄造する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種又は異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機などを用いることができる。
(脱水工程)
次に、抄紙後の湿紙を、脱水する。
脱水時には、脱水の水流量(脱水量)を抄造網の面内、幅方向等で均一化することが好ましい。水流量を一定にすることで、脱水時の乱流等が抑えられ、金属繊維が抄造網へ沈降する速度が均一化されるため、均質性の高い金属繊維不織布を得易くなる。脱水時の水流量を一定にするためには、抄造網下の水流の障害となる可能性のある構造物を排除すればよい。
【0041】
(乾燥工程)
脱水後、エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いて乾燥する。このような工程を経て金属繊維を含有するシートを得ることができる。
【0042】
(結着工程)
次に、シート中の金属繊維同士を結着させる。結着方法としては、金属繊維不織布を焼結する方法、化学エッチングにより結着する方法、レーザー溶着する方法、IH加熱を利用して結着する方法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法等を用いることができる。このような方法の中でも、結着が確実に行われることで、金属繊維間が固定され、例えば坪量の変動係数(CV値)が容易に安定するため、金属繊維不織布を焼結する方法が好適に用いられる。
【0043】
金属繊維不織布を焼結させるには、真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含むことが好ましい。焼結工程を経た金属繊維不織布は有機物が焼失しており、金属繊維のみからなる不織布であっても、金属繊維同士の接点が結着することで、均質性が安定した金属繊維不織布を得やすくなる効果を奏する。
【0044】
上記工程を経て金属繊維不織布を得ることができる。
なお、上記工程以外に、下記工程を採用することもできる。
(繊維交絡処理工程)
抄造工程後の抄造網上の水分を含んだ湿体シートを形成している金属繊維または金属繊維を主体とした繊維を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を施してもよい。
ここで、繊維交絡処理工程としては、湿体シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程が好ましい。具体的には、シートの流れ方向に対して直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って金属繊維または金属繊維を主体とする繊維同士を交絡させることが可能である。前記工程を経た後、湿体シートは、乾燥工程を経て巻取り等される。
【0045】
(プレス工程)
上述したように、プレス工程は、脱水工程と乾燥工程の間、乾燥工程と結着工程の間、および/または結着工程後に実施することができる。特に、結着工程後にプレス工程を実施することによって、その後の繊維交絡処理工程に於いて金属繊維間に結着部を設けやすい。これにより、金属繊維不織布の均質性をさらに向上させることができるため好ましい。
また、プレスは加熱下で実施しても、非加熱下で実施しても良い。しかしながら、金属繊維不織布が加熱溶融する有機繊維等を含んでいる場合には、その溶融開始温度以上での加熱が有効である。
金属繊維不織布が金属繊維のみで構成される場合には、加圧のみでも良い。圧力は、金属繊維不織布の厚みを考慮して適宜設定すれば良いが、例えば厚み170μm程度の金属繊維不織布の場合、線圧300kg/cm未満、好ましくは250kg/cm未満で実施することで、金属繊維不織布に均質性を与え易くなるため好ましい。また、このプレス工程により、金属繊維不織布における金属繊維の占積率を調整することもできる。
【0046】
また、プレス(加圧)工程は、結着工程を経て焼結された金属繊維不織布に実施することもできる。焼結工程後の金属繊維不織布にプレス工程を施すことでさらに均質性を高めることができる。
繊維がランダムに交絡した金属繊維不織布は、厚み方向に圧縮されることで厚み方向だけではなく、面方向にも繊維のシフトが生じる。これにより、焼結時には空隙だった場所にも金属繊維が配置しやすくなる効果が期待でき、その状態は金属繊維の有する塑性変形特性によって維持される。
プレス(加圧)時の圧力は、金属繊維不織布の厚みを考慮して適宜設定すれば良い。このようにして作製される金属繊維焼結不織布の抵抗値は、金属繊維の種類、厚み、密度等により任意に調整可能であるが、銅繊維を焼結させて得られたシート状の金属繊維不織布の抵抗値は、例えば1.3mΩ/□程度である。
【0047】
(金属繊維不織布の用途)
次に、本発明に係る金属繊維不織布の用途について説明する。
本発明の金属繊維不織布は、用いる金属の種類等により、幅広い用途に使用することができる。例えばステンレス繊維を使用した全音響透過材としてマイクロホンの風防や、電磁波抑制等を目的とした電子回路基板に用いる電磁波ノイズ対策部材、半導体の発熱対策として半導体チップ接合用の半田中に用いる銅繊維不織布伝熱材等を挙げることができる。しかしながら、これら以外にも、建材、車両、航空機、船舶等の放熱、加熱、電磁波対策用途等に幅広く使用することができる。
【0048】
以下、実施例および比較例を用いて、本発明の金属繊維不織布をより詳細に説明する。
なお、実施例6〜8は参考例である。
(実施例1)
直径が18.5μm、平均繊維長が10mm、断面形状が略円環状の銅繊維を水中で分散し、増粘剤を適宜添加して抄造スラリーとした。次いでこの抄造スラリーのミキサー底部に位置する銅繊維濃度の高い部分を取り除いた抄造スラリーを得た。得られた抄造スラリー、坪量300g/m
2を抄造網上に投入し、脱水・乾燥を経て銅繊維不織布を得た。
その後、得られた銅繊維不織布を、常温で線圧80kg/cmでプレスした後、水素ガス75%、窒素ガス25%の雰囲気中で1,020℃、40分間加熱して銅繊維間を部分的に焼結させて、実施例1の銅繊維不織布を得た。得られた銅繊維不織布の厚みは310μmであった。
次に、得られた銅繊維不織布を24cm×18cmに裁断し、
図3のマッピング図の点線部で1cm
2に裁断し、1〜24、A〜S(Iを除く)で区画される計432個の個片4を得た。この個片4の質量と、面積の測定値から、各個片4の坪量等を算出した。全個片4の標準偏差と平均値から算出した坪量の変動係数は、9.1であり、銅繊維の平均占積率は11.0%であった。
【0049】
(実施例2)
銅繊維の平均繊維長を5mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み303μm、平均占積率12.7%の実施例2の銅繊維不織布個片を得た。実施例1と同様の方法で算出した坪量の変動係数は8.8であった。
【0050】
(実施例3)
銅繊維の平均繊維長を3mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、厚み229μm、平均占積率10.3%の実施例3の銅繊維不織布個片を得た。実施例1と同様の方法で算出した坪量の変動係数は5.2であった。
【0051】
(実施例4)
抄造スラリーのミキサー底部の銅繊維濃度の高い部分を取り除かず、焼結後に厚み方向に240kg/cmの荷重でプレスしたこと以外は、実施例2と同様にして、厚み102μm、平均占積率34.5%の実施例4の銅繊維不織布個片を得た。実施例1と同様の方法で算出した坪量の変動係数は5.8であった。
【0052】
(実施例5)
長銅繊維束を切断する前に、各繊維を充分にほぐし、脱水時に、抄造網下の水流の障害となる可能性のある構造物を排除し、脱水時の乱流を抑制した状態で抄造したこと以外は、実施例4と同様にして、厚み101μm、平均占積率33.5%の実施例6の銅繊維不織布個片を得た。実施例1と同様の方法で算出した坪量の変動係数は3.9であった。
【0053】
(比較例1)
長繊維をほぐさずに束ねて切断した繊維の直径が18.5μm、平均繊維長が10mm、断面形状が略円環状の銅繊維を水中に分散し、増粘剤を適宜添加して抄造スラリーとした。この抄造スラリーを用いて、坪量300g/m
2を目安に抄き網上に投入し、脱水・乾燥して、比較例1の銅繊維不織布を得た。その後、同不織布を、常温で線圧80kg/cmでプレス後、水素ガス75%、窒素ガス25%の雰囲気中で1020℃、40分間加熱して金属繊維間を焼結させて、比較例1の銅繊維不織布を得た。得られた銅繊維不織布の厚さは284μmであった。実施例1と同様の方法で算出した坪量の変動係数は17.2、平均占積率は11.9%であった。
【0054】
(実施例6)
繊維の直径が2μm、平均繊維長が3mm、断面形状が不定形のステンレス繊維と、PVA繊維(商品名:フィブリボンドVPB105、クラレ社製)とを、重量比98:2の割合で水中で分散し、増粘剤を適宜添加して抄造スラリーとした。この抄造スラリーのミキサー底部のステンレス繊維濃度の高い部分を取り除いた抄造スラリーを用いて、坪量50g/m
2を目安に抄造網上に投入し、脱水・乾燥を経てステンレス繊維不織布を得た。その後、同不織布を、常温で線圧80kg/cmでプレス後、水素ガス75%、窒素ガス25%の雰囲気中で1,120℃、60分間加熱してステンレス繊維間を部分的に焼結させて、実施例6のステンレス繊維不織布を得た。得られたステンレス繊維不織布の厚みは152μmであった。
次に、得られたステンレス繊維不織布を24cm×18cmに裁断し、
図3のマッピング図の点線部で1cm
2に裁断し、1〜24、A〜S(Iを除く)で区画される計432個の個片を得た。この個片の質量と、面積の測定値から、各個片の坪量等を算出した。全個片の標準偏差と平均値から算出した坪量の変動係数は、2.3、ステンレス繊維の平均占積率は4.0%であった。
【0055】
(実施例7)
ステンレス繊維の平均繊維径を8μmとしたこと以外は、実施例6と同様にして、厚み85μm、平均占積率7.8%の実施例7のステンレス繊維不織布個片を得た。実施例6と同様の方法で算出した坪量の変動係数は3.7であった。
【0056】
(実施例8)
焼結後に厚み方向に240kg/cmの荷重でプレスを実施し、坪量300g/m
2を目安としたこと以外は、実施例7と同様にして、厚み111μm、平均占積率33.7%の実施例8のステンレス繊維不織布個片を得た。実施例6と同様の方法で算出した坪量の変動係数は7.1であった。
【0057】
(シート厚の測定)
実施例、比較例で得られた銅繊維不織布を24cm×18cmに裁断したサンプルの厚みは、ミツトヨ製デジマチックインジケータID−C112Xを用いて、直径15mmの測定端子にて測定した。得られた不織布の厚さを9箇所で測定し、その平均値を厚みとした。
【0058】
(個片の寸法の測定)
実施例、比較例で得られた計432個の銅繊維不織布個片の寸法は、最小読取値0.05mmのノギスを使用して以下の要領で測定した。個片が厳密な正方形ではない可能性を考慮して、平行する2辺の中央付近の距離を前記ノギスで測定し、その測定値を縦長、横長とし、縦長と横長から各個片の面積を算出した。
【0059】
(個片の質量の測定)
実施例、比較例で得られた計432個の銅繊維不織布個片の質量は、高精度分析天秤(エー・アンド・アイ社製、商品名:BM−252)で秤量した。
【0060】
(個片の坪量変動係数)
実施例、比較例で得られた計432個の銅繊維不織布個片の坪量の変動係数は、前記面積と質量から各個片の坪量を算出し、計432点の標準偏差を平均値で割ることで算出した。
【0061】
(平均占積率)
実施例、比較例で得られた銅繊維不織布個片の占積率は以下の通り算出した。
占積率(%)=銅繊維不織布の坪量/(銅繊維不織布の厚さ×銅繊維の真密度)×100
計432点の算術平均を、占積率の平均値とした。
【0062】
表1に算出データ一覧、表2に金属繊維の物性を示す。
【0065】
(シート抵抗値)
図6に示す個片抵抗測定要領にて、各個片の電圧と電流を測定し、下記数1からvan der Pauw法により、シート抵抗値を算出した。なお、
図6中、参照番号4は、銅繊維不織布個片を示す。
電源:PA250−0.25A(KENWOOD社製)
電圧計:KEITHLEY DMM7510 7 1/2 DIGIT MULTIMETER(Tektronix社製)
【0067】
この測定方法によって算出された実施例2の銅繊維不織布個片のシート抵抗値の変動係数は12.2、同じく比較例1の銅繊維不織布個片の変動係数は23.8であった。
【0068】
図4は、実施例3の銅繊維不織布の均質性を確認するために背面に光源を配置して、撮影した写真である。
図5に示す比較例1の銅繊維不織布の写真と比較すると、著しいダマ3の存在は確認できず、均質性が格段に向上していることが判る。また、この目視の結果は、変動係数(CV値)の違いとして現れている。
【0069】
実施例1〜5の銅繊維不織布、実施例6〜8のステンレス繊維不織布は、坪量の変動係数が10以下であり、各個片の均質性が高かったが、坪量の変動係数が17.2である比較例1の銅繊維不織布は、
図5に示す写真からも判るように、ダマ3の銅繊維が密集している箇所が散見された。
【0070】
以上、実施例で得られた金属繊維不織布は、工業的に充分な面積で生産された後に、極めて小面積形態に加工されたとしても、品質誤差の極めて小さな個片を得ることができるし、比較的大きな面積で使用されたとしても面内バラツキを小さく抑えることができるものである。